シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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19.ベガvsヴォルデモート

 

「まだ終わってない」

「──そんな事言われたって……僕は……」

 

 ドラコは、ボロボロの言葉を垂れ流す。古雑巾のようにしわくちゃになった男は、蹲って涙で目を焦がした。

 

「……生まれた時からずっと一緒だったんだよ……コルダが赤ん坊の頃から……ずっと……一緒で……」

 

 

 

『だぁぶ、だぁ、きゃはっ』

 

 

 

「僕が覚悟として掲げてたものは……言い訳だった!現実から目を背けるための……!!僕は戦いたくなんかなかったのに……彼女を戦わせたくなんかなかったのに!僕は僕を騙した!!彼女の理想であるために!!」

 

 喉から出る音に嗚咽が混ざる。

 こわばった心臓は、どうしようもなく痛みを訴える。

 

「誇り高かったから戦ってたんじゃないんだ。所詮、格好つけたかったからなんだ。コルダがいなくなったら、僕はもう、英雄になりたかっただけの、ただの、狡いだけの男なんだ」

「……そうだね」

 

 意外にもエミルは肯定を返した。

 彼自身、クリシュナの死後にチャリタリの兄貴分として振る舞っていたからなのか。どうもドラコに対して、自己嫌悪にも近い感覚を味わっていた。

 

「僕達は闇祓いです。君はこの戦いが終わればその任を解かれるんでしょう。けど、少なくとも今は闇祓いだ。

 コルダも、チャリタリも、ハヤトもだ。……動けない彼等に代わって杖を振るうのが、今の僕達にできるチームワークなんです。唯一のね。かっこつけるべき時間(とき)はまだ続いている。立て」

「……僕はもう……無理だ、やれない」

「コルダは君のことを自慢の兄だといつも言っていた。鼻高々に、うるさいくらいにだ」

 

「で、君は“誰”だ?」

 

「…………」

「卑怯で狡猾な自分(きみ)。人に尊敬される自分(きみ)

 どちらも正しく君だけど、せめてどちらも笑える選択にしなよ」

 

 息を吐いて、振り向く。

 ……グレイバックが連れてきた部下達が、所在なさげに立っていた。確か、コルダに守られていた筈だが。

 

──ああ、守ってもらったはいいけど、ここから逃げる術はなくて途方に暮れてんのか。

 本音を言うと……このままジッとされてると殴ってしまいそうなので、さっさと消えて欲しいというのがエミルの考えだった。

 

「お、俺達……は、どうすれば……」

「自分で考えたら?僕はアレンさんみたいに『騙す方が悪い』なんてことは思いませんよ。騙される奴が悪い」

 

 エミルはダンブルドアではない。大いなる善だとか、そんな大層なもののために戦えない。今しがた、命に代えても守ろうとしていた人も去った。残っているのは義務感だけ。それでも歩みは止まらない。

 ダンブルドアではないので、遥か先を見据えることもできないし、人一人分のちっぽけな力しか使えない。

 

(ちっぽけなんだよ。ちっぽけな人間なんだ。

 ちっぽけなことを、一人分しかできないんだ)

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 吹き上る焦燥は心地良い。

 ピリつく感覚が緊張を生む。

 両者の感覚は最大まで高まり、そして昂る。

 

 ヴォルデモートとベガ・レストレンジは、互いに強大で大いなる魔力(ちから)を振るっていた。

 

──彼我には如何ともし難い差が存在する。

 大きくはない。薄氷のように、何か一つ要素があればひっくり返る程度の差だ。

 けれど『それ』は確かに存在する。

 

「まだ踊れるだろ!?ベガよォ!!!!」

「舐めてんじゃねえ、クソ野郎が!!!!」

 

 数十、数百では済まない量に展開された魔杖。

 攻撃のためのものから、防御、陽動まで、使い手の指揮により千変万化に形を変える、最も完成された魔法。

 それが虚の震天。

 ヴォルデモートは宇宙を踏み付け、支配する。

 

 対するベガは未来視を使わない通常の反射神経に依る回避行動で、その悉くを躱し、すり抜けていく。どうしても喰らう傷を真域の炎でカバーして、悪魔は神を引き摺り下ろさんと怨嗟を振り撒く。

 

──あいつは、殺した。シェリーを。

 

 息を吐く暇もない。その瞬間にやられる。それが両者における共通認識。

 天上に座す暗黒魔城よりもさらに高く、数百メートル上空へと打ち上げられるベガ。宙には流星群が降り注いでおり、両者の鮮烈な戦いに華を添えていた。

 

(アレン!!あんたの技、使わせてもらうぜ……)

「『メテオリーテース、隕石よ』」

 

 ソラより呼び寄せる高密度の岩石結晶。

 破壊の化身の規模は、今はまだアレンに及ばない。

 

(つってもこっから先は俺のアドリブだがなぁ!!)

「『悪霊の炎』よ!!嫌悪に塗れて潰れ死ね!!」

 

 ならば、自身の得意分野で勝負するだけだ。火焔でコーティングされた一撃が闇夜を食い破る。これはまさしく蒼い太陽……いや、堕ちる蒼月!

 純然たる質量兵器が、破壊を伴って──!

 

「さあ、どうするかな……なぁベガ、その隕石をどうしてやればお前は満足(絶望)するんだ?教えてくれよ」

「戯け事言いやがって。

 その余裕ヅラ引っ剥がして色男に変えてやる!」

「第一神器『虚の震天』」

 

 百本の杖による一斉掃射。対人において、これほど単純な暴力もないだろう。しかし今のベガは人の形をした化物と認識した方がいい。

 ならば怪物用の戦闘仕様に変更するまでだ。

 杖を束ね、一瞬の残響を煌めかせる。虚の哀哭、一時的な魔力の制限解除だ。優れた魔法使い達の戦いで散らされた火花に指向性を持たせ、ひとところにぶつける理論的至上の魔力の武器。

 

「換装──『虚の哀哭』」

「来たか……!」

 

 ソラを震わせる波濤の大魔術が、全てを奪い更の空間へと変貌させる。嘆きに暮れて闇が彷徨う!

 

「お前の真域の回復量、実にグッドだな。

 封印系の魔法は属性魔法相手だと分が悪い。生半可な封印では拘束ごと燃えてしまうだろう。

 しかし例えば肉体を九割くらい吹っ飛ばしてやれば、回復には時間がかかるんじゃないか?そうなれば俺様の勝ちじゃないか?」

「やってみろよ」

 

 炸裂する轟音。

 破壊されるステージ。

 最上階の天の大地は崩落し、戦いの場は城内部へと切り替わる。飛び散る火炎流星と共に、二人は着地した。

 

(あれが──ダンブルドアを貫いた『世界を終わらせる刃』!グリンデルバルドの廻天の劔に似てるな。あれは斬撃で重力を反転させてたが、こっちは剣に合わせて重力が捻じ曲がってるって感じだ……。

 間違いない、今の世界の中心はヴォルデモート。空間の生き死にはあいつの差配一つ!この世の全ては奴を基軸に回っている!!)

「さあてどうするかな……お前も無策で俺様に挑んできてる訳じゃないだろ?対策の一つ二つある筈だ。虚の哀哭に関しては『未来視』かな」

 

──うだうだと、よく喋るなこの野郎。

 

「アレン以降、楽しいんだよ戦いが。やっぱさあ、戦いは魔法使いの総決算って感じがあってさあ。近い実力の魔法使いと戦うのは、刺激を受けるしアガるよな。

 なあ──貴様は何を見せてくれるんだ?」

 

 ゾクゾクとした表情。美男子の顔が戦の愉悦に酔いしれて、三日月状に裂けた唇が、その高揚を物語る。

 

「その点ダンブルドアは惜しかったな。あいつは最後まで戦いと呼べるものを忌んでいた。ダメだよな?あんな輩が自己を使い捨てるなんて。

 愛と正義がダメって訳じゃあない。

 愛の中に自分を入れやがらねえから!」

「……驚いたよ……

 ……テメェごときが愛を語る日が来るなんてな」

戦う理由(ポリシー)なんて何でもいいんだよ。ペティグリューみたいな奴もいるしな。理由で自分を追い詰められるのが最悪なんだ。……お前もだぞ、ベガ?」

「あ゛?」

 

 びきり、ベガの血管が浮き上がる。

 

「仲間を守るために強くなるってそりゃあ、仲間の有無で強さが変わるってことだろう。たかだかシェリーが死んだだけだろう?強さの理由を他人に委ねるな」

「たかだか、だと」

 

 熱でベガの髪が浮き上がる。火炎の暴君が顕現し、怒りを露わに薙ぎ払う。弾丸のようなスピードで火炎を躱すヴォルデモート。その時にはもう、ベガは続く第二撃を振るっていた。

 火炎の巨腕が、ぽっかり開いた空間の中を、押し潰さんと踊り狂う。子供が砂遊びで作った城を気紛れで壊すかのように、打算も計画も打ち捨てた。

 炎。それは無垢の化身。ただそこにあるだけで延焼を与える純然たる暴力の現し身。

 

「テメェの理屈は一切合切がクソだ。お前が殺さなきゃいいだけだろうが。カスみてえな都合ばっか言いつけ腐りやがって!馬鹿が!!

 シェリーやセドリック達をぶっ殺したからここに俺がいんだろうがこのボゲ!!!何様が言ってんだ頭腐ってんのか!?ああ!?」

 

 火焔──それは吹き荒ぶ嵐よりも荒れ狂い、一切の万象と共に灰燼に消え行く。撒き散らされる火炎の火花をしかしヴォルデモートは徒花へと変え行く。

 空間の掌握──魔力による力場が発生し、ひずみ、ベガを立っていられなくする。重力が流転する!虚の哀哭を手中に収めるヴォルデモートがひとたびそれを振るうだけで、空間が捻じ曲がるのだ。

 

 時間にして約三十秒。

 しかしその中には数多の攻防が凝縮されていた。刹那にも満たぬ技の読み合い、魔法の見極め。心理戦も含めればそれはお互いにとって膨大な刻の積み重ねだった。

 

──そしてできた“隙”。

 ヴォルデモートとの攻防の最中、ほんの僅かにできた攻撃のタイミング。それはか細く不確かで、せいぜい、十が十五になった程度の差しかなかった。

 事実、どう見積もっても、たいした攻撃はできそうにないし、最悪、カウンターを貰うかもしれない。普通であれば敢えて見逃す攻防の隙間だ。

 

「関係ねぇ」

 

 ヴォルデモートに構っている時間が惜しい。

 早く、シェリーの側にいきたい。

 彼女には、まだ、何も──。

 

 

 

 ベガの火炎がヴォルデモートを焼き、

 ヴォルデモートの掌がベガに触れた。

 

 一見すれば、ベガが致命打を与えたように見える光景だが……致命の一撃を与えたのは、ヴォルデモートも同じだった。

 

「──第二神器『神託の庭』!!」

 

 

 

 生物の時間を停止させる、究極の時間魔法が発動。

 動画を停止したかのように。ベガからは音も、光も、全ての動きと知覚が失われてしまっていた。

 それが『時間を止める』という大魔法なのだ。

 

「──────」

 

 ベガの時間が止まる。

 彼の肉体が時の歩みを忘れてしまったのだ。たなびく髪も、黒い法衣も、風に吹かれても全くはためかずにそこで止まっている。

 

 アレン達との戦いで欠点を把握したヴォルデモートはその改良に勤しんだ。強大な魔法にはデメリットを支払う必要がある。それは変えられない。要は『どんな払い方をするか』の問題だった。

 これはヴォルデモートが殺してきた死者の声を聞かせて相手の時間を停止させる、というものだが……前回は死者の中にリリーがいたことで、スネイプに付け入る隙を与えてしまった。だから、今回は関係のない死者を自動で選択して浴びせるものに。

 かつ『相手に直接触れる』という条件のもと、半永久的に時間の檻に閉じ込めることを可能とした。当然、時間停止中に魔力も練れるし、範囲を犠牲にしたことで発動が早いので未来視も意味を成さない。

 

「お前のせいだぞ?ベガ。お前が俺様の誘いを受けず、強者としての在り方をしないから。だから、死ぬ。何も守れずに。こんな風にな」

「──────」

 

 反論することすらできず、反撃の機会すら与えられることもなく。ベガの眼前には、知覚すらできないヴォルデモートの杖が迫っていき──…

 

 

 

「…………何で動けるんだよマジで」

 

 呆れながら大きい溜息をつくヴォルデモート。

 その視線の先にあるのは、動きが止まって然るべき筈の『守護悪霊』の姿だった。

 本体のベガの魔力が止まっているのだから、当然、ベガの操る守護霊なども止まる筈。しかしこの守護悪霊はめらめらと燃え盛りながら、明らかにヴォルデモートを睨みつけている。

 

 これはどういうことか。

 答えは簡単。『ベガの時間が停止した後、自動的に魔法が発動した』だけのこと。守護悪霊はベガによる傑作魔法、その性能はただの傀儡や式神とは一線を画す。

 

「そんなこと……できるのか?ははっ」

 

 ベガの使う守護悪霊は、ベガの主導権を離れた際、自動で主人を守るようプログラミングされていた。……果たして世界にどれだけそんな所業をできる人間がいるだろうか。

 守護悪霊の細く長い指が鳴った。

 『時間簒奪』が発動する。

 

「──ハァッ!!!!」

 

 ベガの攻撃が再開され、ヴォルデモートに重たい一撃を喰らわせた。ベガは魔力の流れ方から『時間簒奪』が発動して、停止した時間が再開したのだと理解した。

 ヴォルデモートは勢いのままに着地すると、目の前の男の脅威に舌打ちする。自分にも届き得るその潜在能力の高さと、それを引き出してきた戦闘経験の数。悪手を踏んでも尚、全く問題としない豪胆さ。

 

「まったくふざけた男だ。俺様の第二神器だぞ!そうも易々と破られては立つ背がない!」

「…………」

 

──そして、それらを活かす生来のセンスを、ヴォルデモートは思い知ることになる。

 

「妙だな。思ってた程じゃない」

 

 片眉が上がるヴォルデモートとは対照的に、ベガは、戦い始めてから初めての笑みを浮かべていた。

 本来笑みとは、獰猛なものである。

 

「『紅い力』なんてモノがあるんだ。放置すればする程お前は強くなっていって、今や手のつけられない怪物と化してるモンだと思ってた。実際俺も、その想定で色々作戦を考えてた。

 でもなんか……今でも最強なのは間違いはねえんだろうけどよ。違和感、みてえなのがあるっていうか。魔力量も、思ってたよりは少なそうだし?」

 

 であれば今のベガは──獣、そのもの。

 

 

 

 

 

「──お前さ。紅い力の機能が壊れたか何かで、ダームストラングの時から全然強くなってねえだろ?」

 

 

 

 

 

「…………当たりだよ。小癪だな」

 

 ベガのブルーライトカットの眼に、獰猛な色が宿る。

 

「疑問だったんだよなァ。ダンブルドアとアレンがいてお前を傷つけるだけで終わる筈がねえんだよ。治ってねえんだろ?あの時受けた傷がよ!!だからお前はこの数年、ただ傷を癒やすしかできなかった!!」

 

 ダンブルドアの太陽をも焼く絶滅の槍、『ハスタム・エクスティンクティ』。

 アレンが今際の際に放った『守護神の呪文』。

 これらはどちらも、真域由来の無限のエネルギー。

 彼等の死後も残り続ける、神の呪いである。

 

「俺の先輩方が残して下さった魔法が生きてる……

 それがお前の喉元に、今も噛み付いてんだ!!」

「……チィ」

 

 だとするなら──これ以上のない戦果。ヴォルデモートですら治せない、やり過ごすしかない呪い。

 彼等が明確に遺してくれた『付け入る隙』だ。

 

(待ってろよシェリー……皆んな……

 死に動揺するのも、悼むのも、全ては闇がなくなった世界になってからだ)

 

 さぁ、後は──この闇をどう切り裂こうか。

 

 

 

「──あン!?」

「──はあ!?」

 

 

 

 ベガも、ヴォルデモートにとっても。それは未知の魔力だった。

 城の最上階に取り付けられた尖塔が、両者目掛けて飛来する。共に大きく距離を取り、灰燼立ち込める城の中で様子を伺った。

 

──誰の攻撃だ?

 

 図らずも二人の間に共通の疑問が生じる。

 その魔力は闇の魔法使いのように禍々しくはなかったけれども、かといって闇祓い達のような高潔さは一切感じられなかった。

 知らない魔力、知らない現象。

 そして──尖塔を動かした存在を、目視した。

 

 

 

 

 

 

「誰だ貴様は」

「ピィイイイイイイイブス!!!!!!!!!」




ヴォルはこの数年で一ミリも魔力が伸びてないです。
幹部達にも影響を及ぼしてるかもしれません。
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