シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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25.殺戮の天秤 Ⅰ

 

 ホグワーツ創設者。

 数々の偉業を成し遂げてきた伝説の魔法使い。その中でも魔法界に最も影響を与えたものを敢えて一つ挙げるとすれば、それはホグワーツの創設だろう。

 それまで市井に隠れ潜み、バラバラだった魔法使い達が一堂に会する場を作る。魔力の制御もままならない子供達を集めて、それぞれの適正に合わせたカリキュラムを組み、正しい方向へ導く。

 それは魔法界における革命だ。ホグワーツ魔法学校のシステムが、各国に伝播していったのだ。

 

 各分野における魔法の頂点、超越せし者達。 

 その彼等が、こうして今、力を振るっている。

 

「──── 霞初月(シルフ)

 

 凄まじい勢いでナギニの頸が刈り取られていく。

 胴体と亡き別れ、微塵に斬られ、生命活動を完全に停止させていく。

 嵐が吹き荒んでいるようだ。目で追えない。ハッとしてそちらを見れば、全てを終わらせた自称ゴドリック・グリフィンドールが埃を払っていた。

 

「何が起きたの……!?」

(……いや……僕にはかろうじて分かった。目で追えた訳じゃないが、何をしたかは分かる……。

 単純だ。蛇どもを凄まじい速さで斬っただけだ。移動方法にタネがある感じか……?)

「あれ、君、勘付きました?参ったな……一撃必殺が僕のモットーなのに」

 

 ゴドリックは頬をかくと、先程までネビルが握っていた紅い剣を払い、ネビルへと向き直った。

 

「剣、貸してくれて感謝しますよ」

「……そっちが、僕達が何か言う前に取ったんだろ」

「威勢の良い子だ」

 

 ゴドリックの口角が僅かに上がった……気がした。

 底知れないものを感じる。ものの十数秒であれだけ苦戦した大蛇を仕留めてみせたのだ。それも、大した消耗もしていないように思える。ドラコは、その様子を見て一つの仮説を導き出す。

 

(……僕はグレイバックの速さやハヤトの居合術で目が慣れたから分かったけど……直線移動じゃない、色んなところに出たり消えたりする瞬間移動に見えた。

 姿現し……なんだろうけど、魔力を練る動作に一秒もかけてないってことになる。訓練された闇祓いでもあんな動きはできないぞ……!?)

 

──そして問題なのは。

(こいつがその気になれば僕達を全員殺せるってことだ)

「待て待て、ワシらは味方じゃぞい!」

 

 ドラコの警戒を悟ったか、スリザリン(仮)は静止せんとばたばたと手を振った。

 

「色々あって復活したんじゃってー!」

「そんな一言で済ませていい話じゃないが!!??」

 

 そりゃそうだ。

 が、ハッフルパフ(仮)は興味なさげに耳をかく。

 

「そういうのいいから。さっさと患者のところに案内するパフ。重篤患者がいたらどーする」

「怪しい奴を怪我人のところに連れてける訳ないだろ!

 ネビル、ルーナ、チョウ!用心しろ、例のあの人の策略かもしれないぞ!」

「え……いや……うーん。そんな感じじゃないと思うけどね……チョウは、ええと、そこのハッフルパフ様(?)に怪我を治してもらった訳だし」

「君は良い人そうだからって理由で信じるのか!?例えば道端で、親切そうな人が『君、この壺を買わないかい?今だけ特別にこれを一つ買うごとに……』とか言ったら絶対に詐欺だろ!僕は詳しいんだ!」

「すっごい実感こもってる」

 

 ノクターン横丁で痛い目に遭ったり遭わなかったり、やっぱり遭ったりした苦い経験がドラコにはある。

 父上、あの時の失敗はこのためにあったのですね。

 ドラコは胸中で亡き父に感謝を捧げた。

 

「治してもらって何だけど、私も同感。

 無条件に『一緒に頑張ろう』とは言えない」

「……んー。私は信じたいけど、『疑う理由』と『信じたい理由』の釣り合いが取れてないモン。そこの折り合いをつけたいかな」

 

 ルーナらしい理由だった。彼女は架空の魔法生物を未だに信じているとされるが、そこには彼女なりの考えと信じたい理由というものが存在する。

 その理由付けをしたい、とのことだった。

「僕達の方から提示できる証拠はありません。

 と言うより、今の僕達が何を提示したところでそれは証拠ではなくなる。そうですね?」

「っ、あ、ああ。そうだよ!」

「何じゃい、蛇語の披露の機会かと思ったのに。

 シューシュー!」

(!パーセルタング……シェリーやトム・リドルのと同じだった……)

 

 ただの与太話ではない実感が宿る。

 蛇語使いは極めて稀だが、この中で唯一ドラコは二人以上の蛇語使いと遭遇し、そしてそのイントネーションを直に聴いている。

 付け加えるように、ゴドリックは手を前に出すと、

 

「強いて言うならこれが証拠ですかね」

 

 と……紅い刀身を四人に見せた。

 

「ドラコ」

「……ああ、分かってる。こいつらがその気なら、僕達はとっくに死んでる」

「それもだけど、あの剣に僕達は助けられてきた。仕組みもよく理解しないままに、だ。助けてくれるのが人間に変わったからといって……」

「……態度が変わるのはおかしい、か?」

 

──一番怖いのは、例えば自分達を利用して何か企んでいたりすることだが……。

 

「結論は出ましたか」

「まだ僕の中では出てないよ。あんたらの話を聞く気になっただけだ。天秤がプラスに傾いただけ……マイナスの方の皿にも色々乗っかってることを忘れるな」

「結構」

 

 では、今の状況について軽く説明しましょうか。と、ゴドリックは緩やかに言う。どうも調子が狂うが……、それが何故か分かった。

 

 ホグワーツっぽいのだ、どことなく。

 

 居心地が良すぎる。どこか騒がしくも雰囲気が和み、無条件に安心してしまう。これまで戦い続きで疲れていた脳と身体に、彼等の穏やかな口調が覿面に効く。

 

 かつてのあの楽しかった日々を思い出し、それを無理矢理封印する。いけない、呑まれては。そんなネビルの杞憂をよそにゴドリックは語り始める。

 

「……僕達ホグワーツ創設者は、それぞれ自分達の魂を剣に封じ込めて、後世の人間が闇の魔法使いに滅ぼされることのないよう力添えをしてきたんです。

 戦いが終われば消えること、敵が闇に堕ちた人間であること、寮の精神を受け継いだ正しき心の資質を秘めていること……などの制限をかけて、ようやく達成できる代物ですが」

「私の場合は寮の精神についての制限が緩くなっているパフがね。生前は誰でも受け入れていたパフから」

 

 成程と、チョウとドラコは納得する。

 忍耐の精神は誰よりも強いが、どこか歪んでいたチャリタリに、正しき資質を持っていたのだろうが、既に死去しているセドリック。

 それぞれ特殊なケースではあるが、ハッフルパフの寮の精神を考えればまあ、理解はできる。

 

「今回の場合はさらに特殊……四本の剣が勢揃いし、互いに共鳴して魂の輪郭が強まった。加えてあの大蛇の死体。あれらが生贄になって受肉を果たしたわけです」

 

 曰く、材料さえあれば擬似的に生き返り、生徒達の助けになれるようプログラムされてあるのだとか。

 全ては世の安寧のため……怒涛の魔法界の未来をより良いものにするために、邪を斬り払うために。彼等はその魂を遺産の中に封じ込めたのだ。

 

(分霊箱みたいなものか……あれもトム・リドルの魂と容れ物が揃って、受肉したパターンだ)

 

「とは言っても、やはり一度死んだ魂。拒絶反応が出ているパフから、復活していられるのはせいぜい数時間が限度パフね。魔力も全盛期の半分もないパフし」

「逆に言えば、その数時間だけなら貴様等の助けになれるというわけぞい。悪い話じゃなかろう?」

「…………。分かった。よろしくお願いします」

「ちょっと、ネビル!?……いや、言いたいことは分かるけどさあ……!」

 

 戦力は削れている、何でも利用すべき……その理論は分かるが、躊躇いはするだろう。

 しかしネビルは見てしまった。

 シェリーとアバーフォースが、ズタボロになって目の前に放り投げられるのを、この目で。

 

「──? よくよく感知してみれば……

 僕達の知るものとは随分と様変わりしているけれど、この魔力、もしかして紅い力?」

「おお、ビリビリ強いのが伝わると思ったらそれか!派手にやっとるわい」

 

 いつの間にやら周囲の状況を探っていたらしいゴドリックが驚いたような声を出した。

 

「知ってたのか。まあ、元々は古代から伝わる魔法らしいし、知っててもおかしくないか……」

「……そうですね。

 生前の僕達に匹敵する極めて大きな魔力が二つ、上の方にありますね。片方は敵勢力でしょうか?禍々しい魔力……もう片方は澄み切っている。不死鳥のようだ。もう一つ変なのもありますが……」

(例のあの人(ヴォルデモート)とベガか)

「急かすようですが、戦況は刻々と変化している。僕達を戦場に行かせてください」

「〜〜っ、ああ、分かったよ!勝手にしろよ!」

「ドラコまで!?」

「仕方ないだろ、それに──…」

 

 ドラコはチョウとルーナに耳打ちするように近付く。

 

(──もし仮にこいつらが悪人だとして、例のあの人と共倒れしてくれれば楽だろ?)

(うっわ卑怯……最低)

(よくそんなこと考えつくね?)

(うるさい。とにかくそれでいいだろッ)

 

 それと、これも大声では言えないけれど。

 少しワクワクしている。ホグワーツ創設者といえば、かつて憧れて誇りに抱いていた偉人たちだ。

 彼等がどんな活躍を見せてくれるのか……その興奮が全くないわけではなかった。

 

「よォし、話は纏ったようだのォ!不謹慎ではあるが、久方ぶりの戦場は滾るものがあるわい!」

「ようやく患者の所へ行けるパフか……道中、どんな敵にどんな傷を負わされたか教えるパフよ」

「此度もまた、大きな戦になる……正しきホグワーツの資質を持つ者達へ、この剣を捧げましょう」

 

 

 

 

 

「──待ちなさい」

 

 

 

 

 

 冷や水をかけられたようだった。

 高まっていく熱気が、一気に現実に引き戻された。

 

(ロウェナ・レイブンクロー……!)

 

 他三人の、強大ではあったが安心するような……ダンブルドアのような雄大な雰囲気とはまるで違う。無表情で冷徹で、どこか不気味。

 ネビルは何となく彼女が苦手だった。例えるならスネイプやムーディーのような異質な空気を、更に煮詰めたような気味の悪さを感じていたからだ。

 

「ゴドリック。二時の方向、角度七十五。

 五〇〇ヤード先にも紅い力の反応があります。

 他にもいくつか紅い力の魔力残滓があるのが気になりますが……ひとまず“生きている紅い力の持ち主”が一人この城にいます。おそらく女性かと」

「僕は道具なしではそこまで精密に分かりませんが……成程、確かに。反応がありますね」

「…………!?」

 

 ネビルは瞠目する。

 『紅い力を持つ女が一人生きている』という情報は流石に聞き逃せない。ベラトリックスは城の外に吹き飛ばしたから該当しないとなると……、

 つまり……シェリーが生きている……!?

 

(そうか……不死鳥の炎が効いたんだな……ベガ!)

 

 ネビルは彼女の生存を悟り、ロウェナ達がシェリーを敵だと勘違いする前に真実を告げようとして。

 

「…………いや……この魔力は」

「ええ。ダンテのものでございます。千年前にかけた封印が解けてしまったのですね。封印の守護を命じておりましたが、一族が滅びたか、役目を放棄したか……。

 ともあれ、ダンテが復活し、紅い力の持ち主と行動を共にしております」

「…………!」

「……ハァー……またダンテパフか……」

「あやつも懲りないのォ……」

「──ダンテ?ダンテ・ダームストラングか!?」

 

 有り得ない。ダンテは二週間ほど前にシェリー達が倒したはず……とも言い切れない。死んだ筈の人間が保険をかけておいて蘇るケースを、今、目の当たりにしている真っ最中だ。

 

「今一度復活したのならば、女諸共殺すまで」

「……!ちょ、ちょっと待った!多分その女は僕達の仲間だ!紅い力を使えるだけの、僕達の友達なんだ」

「友達……?なら何故ダンテと一緒に……」

「たまたま一緒にいるだけだと思う!そういう酷い目に遭うことが多い奴なんだ!」

「何パフ?そいつ……」

「詳しく話を聞かせてもらっても──」

 

 

 

 

 

「──関係ありません。闇の力を振るう者は殺すまで」

 

 

 

 

 

 身勝手な暴論に絶句する。ロウェナ・レイブンクローは聞く耳を持たない。さっさと結論を出して、そして行動に移してしまっていた。

 全身を総毛立たせる、嫌というほど伝わる殺気。

 無表情でも分かる剣幕……彼女は本気だ……!

 

「なっ……ま、待って、シェリーは……」

「成程、シェリーと言うのですね。

 情報提供感謝します」

 

 ロウェナのヒールの音が、いやに響いていた。

 

「ダンテとシェリーを殺します」

 




◯ゴドリック・グリフィンドール
穏やかな物腰の青年。口調は丁寧で穏やかだが雄大な心の持ち主。元騎士団長で誇り高く、仲間思いで情に熱い。誰でも使えるコスパの良い魔法を多く編み出しており、最も戦いに特化している。

◯ヘルガ・ハッフルパフ
可愛らしい少女。数々の医療危機を救った鉄の乙女。人の強さを信じており、例え才能がなくとも忍耐強さは誰でも身につけられる最も強い武器だと豪語する。治癒魔法のスペシャリスト。医神。

◯ロウェナ・レイブンクロー
気品ある淑女。ストイックで完璧主義な反面、かなりのスパルタ。友情や愛情を理解しているが重んじてはおらず、ただの馴れ合いやぬるま湯を嫌う。ただし本質的に愛情深い女性。最も作った術が多い。無敗の女。

◯サラザール・スリザリン
豪快な禿頭の老人。好々爺だが時として手段を選ばない危険人物。強大な力を持つ魔法使い故に、人とはズレた価値観を持つ。禁術を多くその身に宿す。最も強く、そして最も悪知恵が回る。
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