シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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30.心に宿す紅の誓い

 

「……治った」

 

 ベガは首を鳴らし、体を伸ばした。

 想像より早い回復に自分でも驚いていた。不死鳥の炎は遠隔でも回復でき、一度に複数人の人間を癒しながら戦うことができる。

 実際にベガは、傷ついた仲間を遠隔で治しながらヴォルデモートと戦う……という状況だった。

 

(……治療にはもう少し時間がかかると思ってたが……治療が得意な連中が、上手いこと連携取ってくれたみてえだな)

 

 

 

 

 

「そこの二十代男性は頭部裂傷と左腕上部に呪い火傷が発生、そっちの三十代女性の腹部には咬傷火傷裂傷、貫通創もあるパフね。そっちは私がつくパフ。

 チョウ!向こうの患者は頼んでいいパフか?」

「あ──は──はい!」

「気張るパフよ!絶対にこれ以上死者を出すな!」

 

 

 

 

 

 ……誰かは分からないが。

 ともあれ、もう回復に気を遣う必要はない……!

 

「戦線復帰しねえと。あの赤髪の兄ちゃん一人には任せておけねえしな」

 

 っていうか素性もよく知らない闇祓いに時間稼ぎを任せるとか、疲れていたにせよ情けない発想だった。

 立ち上がったところで、足下からにゅっ!と半透明の影が姿を現した。

 

「アルビレオ!お前こんなとこでどうした」

「さっきの赤髪の小僧に頼まれたんだよ、霊体になって罠の位置を探って欲しいって!クソッ、俺様としたことがまんまと奴の口車に乗せられちまった……」

「そいつはご苦労だったな。で……あったのか?」

「いや、それらしいモノはなかった。色んな場所を念入りに探したから間違いない筈だ。ついでにすれ違うガキどもを驚かせてやったぜ」

「何やってんだ……いや、ありがとう。十分だ、お前はもう帰れ」

「ハァ!?何を言って……」

「お前が何者かは知らねえが、これ以上魔法使いの事情に巻き込む訳にはいかねえよ。好きなことを好きなようにやりたいってスタンスなんだろ?この戦いに参加すれば、好きなことすらできなくなるかもだ」

「…………」

 

──あいつそっくりのことを言いやがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺という存在は自然の一部に過ぎない。人間が土や大気を汚してその因果で自分達が滅びようとも、それは地球からすればちっぽけなことで、大きな大自然の車輪の一つに過ぎないのだと思う』

 

『このケンタウロスもそうだろう。ここで彼が死ぬことや生きることに意味はないのかもしれない。彼を救ったとしても何も変わらないと思う』

 

『では何故俺がこうして癒しの魔法をかけているのか。答えは簡単だ。俺がそうしたいと思ったからだ。自分の理論が間違っていないのだと確認するためであり、言うなれば俺のエゴだ』

 

 

 

 

 

(……俺の望み(エゴ)ね。何だっけか。

 俺は何をしたかったんだっけか。

 デカいことをやれば気も晴れると思ったが……別にこの城を乗っ取ったり、ムカつく奴をぶっ飛ばしたところでなァ……)

 

「何だよ急に黙って……じゃあ、俺はもう行くからな。さっさと逃げろよ、アルビレオ。またな!」

 

 ベガはピーブスを置いて、ヴォルデモートとゴドと名乗る青年の所へと向かう。

 彼一人に任せてはおけない、すぐにでも参戦してヴォルデモートに休む暇を与えてはならない。そう判断してひた走り──…

 

「!おっと」

 

 地面を突き破って何者かが現れるのを視認する。

 魔法使いの頂点に座する者達の魔法にも耐え得る黒い城が、アイスクリームを掬うみたいにくり抜かれ、その穴から二人の男女が現れたのだ。

 

「……!?お前は……」

「フゥン、ベガか……丁度良い」

 

 男は、ダンテ・ダームストラング。

 ならず者のような風体をしているけれども、雰囲気には品格が伴っており、ダンディズムと荒々しさが奇妙に共存した色気を纏っていた。

 この男の空間魔法……手中に全てを飲み込む闇の渦を生み出し、そのエネルギーを反転させ、全てを拒絶する魔力へと変えて攻撃する……という魔法で床を丸くくり抜いてみせたのだろう。防御不可能の魔法だ。

 

「何でテメェがここに……!ヴォルデモートに協力するつもりか!」

「……シェリー」

「ま、待ってベガ!訳は後で話すけど、一応この人は今は味方だから!」

(交渉する時に“一応”とか“今は”とか、不確定な言葉をつけんなっつの。後々の心象が悪くなる……)

 

 焦るベガの前に現れたもう一人の人物。

 それはシェリーだった。

 

「…………」

 

 ぴたりと口を閉じるベガ。

 それは状況を判断しようと思ってのことか……その沈黙に、シェリーは慌てて言葉を積み重ねていく。

 

「だ、だから、えーと。信頼して欲しいっていうか。この人も悪いこといっぱいしたけど、ネロやリラのことが心配で、未来を守るために……」

(……マズイな。こいつが俺を味方にするメリットより、俺に対する不信感が上回ったら終わりだ……ここは謝罪から入り、深く頭を下げて少しでも心象を良くして……)

「シェリー」

 

 ベガはふらりと幽鬼のように近付いて。

 

 

 

──強く、シェリーを抱きしめた。

 

 

 

「生きてた………生きてる………」

 

 強く、強く、彼女の体温を感じるように。彼女の鼓動を聞くようにして、ベガは彼女を抱き止める。

 アルビレオから聞いていたとはいえ、死んでしまっていた筈のシェリーが、どういうわけか生きていた。

 その事実を確かめるように……シェリーを抱いた。

 

「………………シェリー」

「……ごめんね、ベガ」

 

 涙こそ流さなかったけれども、ベガは今までにないくらい幼い表情でシェリーを見る。

 その様子に、シェリーはそっと、慈しむように、ベガの頭を撫でる。

 間違いなどない。

 今こうして抱きしめている彼女が、紛れもなく生きているのだと実感する。

 

「……じゃあオジサン向こう行ってるから……後は若いお二人で……」

 

 シェリーを強く掴んでいたベガはばっ、とふとしたタイミングで顔を上げると、彼女の頬を強くつねった。

 

「ひゃあっ!?な、なにを」

「お前なぁ……!いっつもいつも突っ走りやがって!心配するこっちの身にもなれってんだ馬鹿!」

「い、いふぁいいふぁい、やめふぇ〜〜」

「大体お前は昔っからそうだ!人の話は聞かない上に自己完結してるからタチが悪い!発情期の猪でももう少し落ち着きがある!無茶するなら無茶するって言ってから無茶しやがれ!」

「わふぁった、わふぁったからはなひて!」

「死ぬ時も死にますって言ってから死ね!」

「いてて……そ、それはむりでしょ!?」

 

 ベガが指を離す。

 赤く腫れた頬をさすると、シェリーは涙目になった。

 

「死んだかと思っただろ……!!」

「……ごめんなさい」

 

 ぐうの音も出ない。

 ただただ申し訳なさそうに項垂れるシェリーに、しかしベガは怒りを収めると、今度は優しく問い掛ける。

 

「……何ともねえんだな?」

「うん」

「ならいいや……いや、俺も悪い。敵の本拠地に来てんだから『そういうこと』が起こっても仕方ねえのに……覚悟ができてなかった……」

「慣れなくていいよこんなの。……ところでベガ、今の状況は?」

「ああ、それは…………ああ!!そういや何でダンテなんかといんだよ!?死んだってアレ嘘の報告か!?」

「う、嘘じゃないよ!一回死んだけど生き返ったの!」

 

 言い争うシェリーとベガだったが、程なくして聞こえてきた戦闘音に一瞬で頭を切り替えて、向かう。

 走った先には……派手な魔法で一帯を破壊しながら飛翔するヴォルデモートの姿。そして帝王の周囲を流れる一陣の風があった。

 

「何だありゃ……!?」

(……あれは……)

 

 シェリーはその黒い風の正体を知っていた。

 ダンテ・ダームストラング……彼が空間魔法を使い、高速で飛び回っているのだ。

 理屈は単純。『全てを拒絶する魔力』を体の周りに薄く展開し、少し動くだけでも空間が歪み、瞬間移動をしてしまう状態にした上で『全てを飲み込む黒渦』を発生させて自分を移動させる。

 空間を歪ませる力と引っ張る力。

 最短経路を創り出し、最高速で移動する。言ってしまえばそれだけだ。それだけ、なのだが……!

 

「速すぎる」

 

 ダンテの強さは精神状態に大きく左右される。

 彼は誰よりも強くなる、という大望を掲げており、実際にそれを狙えるだけの潜在能力は秘めているが……非常に悩ましいことに、彼は求道者ではない。

 自分の強さを誇示し、証明しようとする悪癖。

 それがあったから彼は創設者やダンブルドアの次元まで行けなかった。最高速で動けば、一瞬で勝敗は決してしまう。先に消滅させるか、相手にカウンターを決められるか……。そんな勝敗のつき方はダンテの主義とは反するのだ。

 

(しかし……驕りを捨てればダンテは最強になる)

 

 疾風怒濤(ダームストラング)のダンテ。

 嵐と衝動の男。

──『世界最速の魔法使い』。

 その称号は、千年の間、一度も揺らいだことはない。

 

「貴様……!!そんな力があったんならフラメルの時に本気出しとけ!!」

「黙れ!青二歳が!!」

 

 シェリーはその刹那の攻防の連鎖に、ただ驚くことしかできなかった。何故って……ダンテは確かに速いが、まだトップスピードではないのが分かったからだ。

 様々な事情を加味しても、ダンテならもう一段階は速く動ける……それをしないのには当然、理由がある。

 

(私に見せてくれているんだ、お手本を……ヴォルデモートとの戦い方を……!!)

 

 ……身体を動かしている訳じゃない。

 なのに、何故こうも──疲れるものだろうか。脳が活性するものだろうか?視界から伝わる情報が、立体的に膨らんでいくようだった。

 

(真っ白だったパズルに色が塗られていくような……!

 あんな風にすれば良かったんだ……!!)

「……!?」

 

 ヴォルデモートがダンテを弾き飛ばして距離を取ったところで……シェリーを捕捉する。

 殺した筈の女の存在を理解する。

 驚愕。苛立ち。不可解なものを見る目をして……

 

「……まあいいか……」

 

 すぐに興味が失せてしまった。

 死者が蘇るのももう見飽きてしまったし、ましてシェリーなど取るに足らない小物。ゴドリックやダンテの後ではただの娘に過ぎない。

 舐めてかかっている訳じゃないが……それでもこの面子じゃあ大した駒じゃない。そう思っている。

 

(見下される分には構わない……)

「シェリー!見えたか?」

「はい」

「…………」

 

 ダンテはひと息つくと、シェリーの隣に降り立つ。

 ある程度の信頼を置いている彼女とは裏腹に、ベガは複雑そうな……ともすれば敵意をダンテに向けた。

 

「……一応言っとくぞオッサン。今は協力的でも、お前が俺達の仲間に面倒をかけて、余計な手間を増やして、間接的とはいえ罪もない人達の被害を増長させた事実に変わりはねえ。信用されるなんて考えるなよ」

「……わかってる」

「それに関しては、僕も同意見です」

「誰!?」

「そこのお嬢さん(レディ)はお初にお目に掛かります。我が名はゴドリック、故あってこの戦いに馳せ参じた者です」

 

 現れたのは赤髪の青年……ゴドリック。

 彼もまた千年前から蘇った英傑なのだが、いかんせんシェリーはおろかベガもその正体を知らない。

 唯一、ダンテは複雑そうな顔をゴドリックに向けて。

 ゴドリックは冷たい怒りの籠った矢のような視線を、ダンテに向けていた。

 

「何だ知り合いか?あんたら」

「昔、少しありましてね……走る方向が違うとも、向かう先は同じ同志だと思っていたのですが……。

 我が親友(サラザール)の名を貶め、身につけた力と知恵で魔法界を荒らし回った愚か者に成り果てた。もはや言葉で何を説いても無駄でしょう。僕から彼に言うべきことはもう何もありません」

「…………」

 

(テメェも大概だがな……)

 

 ベガは訝しげな視線でゴドリックを見やる。

 当たり前と言えば当たり前だが……、この男を信じていい理由が、今のところグリフィンドールの剣を使えることくらいしかない。

 

(邪気こそ感じられねえが……まあ、ヴォルデモートを倒す“まで”は頼りにさせてもらおう。

 倒した“あと”は、知らねえがな……)

 

 ポリジュース薬を飲んだ敵が味方のフリをして近付いてくる例などいくらでもある。

 そういう類ではなさそうだが、ベガは、あの騒がしいポルターガイストの方がよっぽど信用できた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……え、え〜っと」

 

 なんか……空気が重い。

 ベガもゴドリックもダンテもそれぞれが別方向を向いてしまっている。気まずい。今までほとんど喋ったことない知り合いと同席してしまった時みたいだ。

 ギスギスしていたたまれなかったので、ダンテにちょいと小声で話しかけた。

 

「わ……悪いことをしたら謝って、仲直りした方がいいと思うよ……」

「……うるさい」

 

 にべもなかった。

 しかし──これでも、現状考え得る最高戦力であることに変わりはないのだ。

 ベガ・レストレンジ。

 ゴドリック・グリフィンドール。

 ダンテ・ダームストラング。

 そしてシェリー・ポッター。

 合縁奇縁、何の因果か、戦う理由と気概の揃った実力者の四人はホグワーツという縁で結ばれていた。

 

「──相手が貴様等で良かったよ。ダンテもゴドリックも過去の亡霊。墓を作る手間が省けるだろう?」

「テメェこそ!前の魔法大戦じゃ誰も墓作ってくれなくて寂しかったんじゃねえか?」

「そういう台詞は一回でも俺様を殺してから言って欲しいもんだな、ベガ!」

「よく言うぜ、見下してたシェリーもまともに殺せねえくせによ。何が起きたか知らんがこいつは生きてるぜ。あんなに自信満々に死体掲げてたのに、恥ずかしくて間抜けでみっともねえなあ!このバカ!」

「ラッキーが続いたのが余程嬉しいと見える。シェリー程度が生き返ったのがそんなに嬉しいか?そんなに俺様と戦うのが怖いのか!」

「見送りは多い方がいいだろ?友達が沢山いて良かったなあ!これで寂しくないでちゅね〜(笑)」

「ほざけ。俺様に二度殺されるんだ、泣いて感謝して然るべきだな!」

「おいおい遠慮すんなよ、泣きべそヅラはテメェの方が億倍似合ってるぜ!」

「貴様も顔面をその銀髪に似合う青白い顔に変えたらどうだ?そうしたら笑い泣きの一つもするかもなァ!」

 

(……盛り上がりすぎでは……)

 

 ベガとヴォルデモートの槍玉に挙げられて、シェリーがちょっとむず痒い思いをしていると、ぼそりとゴドリックが耳打ち。

 

「……先程から気になっていたのですが。かの帝王はどうも先程から君に対して不可解な態度を取っています。いやに辛辣というか……。何か、因縁でもおありで?」

「え?……い、いや。縁なら沢山あるけれど……あいつは私が無様を晒してるのを見て嗤ってるだけだよ」

「無様?……」

「私は昔、本当に馬鹿で、取り返しのつかない罪を犯してしまって……そのことをあいつは嗤ってるんだ。馬鹿で無知でどうしようもない、惨めな私を」

 

 少し後ろ暗い声で言うシェリー。

 そんな彼女を見て「ふむ」とゴドリックは顎に手をやり考える。その顔は、戦闘の展開を思案する戦術家のそれから、子供を導く教育者の様相に変わっていた。

 

「まず“罪”の定義が僕と君で違うようですが……まあいいでしょう。君がどういう経緯でどんなことをしたかを僕は知らないので、偉そうなことは言えません。

 しかし、これだけは言える」

 

 自分にいやに似た髪と魔力をした男は、しかし黄金のような気高い誇りを胸に、語る。

 

「人は間違いを犯すもの。犯した後に、どんな行動をするかで価値は変わってくるものです。たとえ嗤われて蔑まれようとも、自分が信じる道を歩めるのなら……それは幸せなことだ。

 良いじゃないですか、間違えたって……前に進む意思さえ捨てなければ……希望はある」

 

──間違いを犯さぬ人などいない。

 まして魔法界は、生まれつきマグルを超越し、個として優れた能力を有する者達の巣窟。

 秀でた力に溺れたり、つまらない思い上がりのせいでかけがえのない大切なものを手から溢してしまう。ダンブルドアも……スネイプも……。

 だからこそゴドリックの言葉が心で理解できた。

 そしてそれは、ベガとダンテも……。

 

(……ありがとう、ゴドリックさん)

 

 奇しくも──例え間違えようとも、自分の信じる道を歩むことを示しているのは、シェリーの父親だ。

 ジェームズ……彼は若者の特権の上に生き、感性が青いまま自由を謳歌した。勿論その生き方は楽しくもあるけれど……時としてリリーのような公正さを持つ者からは嫌われてしまう。

 だからジェームズは、澄み渡る空の下の肖像に背を向けて、己の在り方について考え直し、進んだのだ。

 

 

 

 

 

──じゃあ、私は、どうなんだ?

 

 

 

 

 

 爆発的な憤怒の奔流が、血管を通して肉体の隅々まで行き渡る。感じるのは自戒、後悔。そして追憶に対する憤りだ。

 

(情けない……!情けない、情けない……!!

 “私”はどうなんだ!?

 “私”は黙ってるままか!?

 

──いい加減にしろ、私。

 どこまでも後ろ向きな自分に腹が立つ。

 誰かに促される形でしか、意思表示できないのか!?

 

 

 

「ヴォルデモートォォオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 気付けば叫んでいた。

 脳髄の奥から出た本音は、濾過されることなくヴォルデモートにぶつけられた。

 

「私を舐めるな、ヴォルデモート!!私がここにいるのは私の自由意志によるものだ!!貴方との因縁とか、正義とか未来とか平和とか……!皆んなのためだとか、仲間のためだとか、何とか、かんとか!

 もうそういうんじゃない!私は私のために戦うんだ!私がそうしたいからそうするんだ!!」

 

 吹き荒れる魔力。

 その中心に彼女はいる。

 坩堝の中で、魂が叫んでいる。

 

「魔法界のこととかそんなの知らない!学校辞めたからそんなに詳しくない!英雄とか……そういうのも向いてない!別に生き残った女の子じゃなかったし、そもそも人違いだったし!宿命とかもそんなにない!」

 

 

 

「でも……私の大事な人が、魔法界には沢山いる!傷つけるな!私の人生に、お前が不要(邪魔)だ!!」

 

 

 

 紅い女の宣誓に、漆黒の帝王は、怒りを孕んだ視線で返した。“障害”としてシェリーを見た事実に、言いようのない屈辱を覚えた。

 

「……貴様ァ……!!」

(俺様ともあろう者が……何を思い出して……!)

 

 瞬間、脳裏にフラッシュバックする母の肖像(記憶)

 ヴォルデモートには、シェリーが……自分を必要としなかった母親とダブって見えた。

 揺らがぬ筈の信念と、不動の筈の信条に、ほんの不確定要素が混じり出す。目の前の小娘が、地を引く熱が、王の気勢を削ぎ落とす。

 

「へっ……言うじゃねえか、シェリー」

「ううん、まだまだ、これからだよ」

「あ?」

 

──分かっている。言葉でなら何とでも言えるなんてことくらい。呪文(スペル)を唱えて魔法が使えるなら苦労しない。

 シェリーは何もかも嘘っぱちだ。出自も嘘。死にたいと言ってたのも嘘。殺す覚悟も嘘だった。

 シェリーが信念を貫けたことなんて殆どない。

 いつも絶望に折られてしまっているのだから。

 

「だから何かせめて……たったひとつ。自分の言葉を一個くらい最後まで貫き通してみたいんだ」

「……シェリー!シェリー、シェリー!

 ぎゃははははっ!最高だ!ははははっ!」

「この虚勢を真実に……無茶に中身を持たしてやる!

 勝負だ!!ヴォルデモート!!!」

 

 真っ直ぐじゃない。言い訳ばかりで、その歩みは誇れたもんじゃないけれど、必ず前に進んでやる。

 信念ってやつを、心に灯して……!!




そういやマーカス・フリントが留年したみたいな話を前にしたと思いますが、聞いた話によると原作者が数字が苦手でよく間違えるらしく勘違いだったみたいです。良かったねマーカス。
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