シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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舞台呪いの子を創作仲間と一緒に観てきました。
最高だった!!!!!!


31.星も浮かれるこんな夜に

 

「ヴォルデモートが一度に使える杖の数を百とする」

 

 ザッ、ザッ、ザッ──。

 シェリー、ベガ、ダンテ、ゴドリック……四人の魔法使いが囲むようにヴォルデモートの周りを歩く。

 四人は等間隔に離れ、北、西、東、南──と、どう足掻いても死角が生じる間合いを取る。

 

「四人散らばれば一人当たりの本数は二十五本……

 それでも俺達にとっちゃキツい数字だが……

 俺の不死鳥の焔があれば話が変わってくる」

 

 その陣形を悠々と見つめるヴォルデモートの瞳に浮かぶのは余裕ではなく──克己心。

 貴様等を経験値(踏み台)にしてやるぞ、という、野心の現れ。

 アレンやダンブルドアの存在が、ヴォルデモートに奇妙な向上心を与えているのは確かだった。

 

「回復しながら相手と戦えるのが、俺らの強みよ」

 

──誰からともなく、 引き鉄を引いた(魔力を込めた)

 

 

 

「フリペンド!!」

「悪霊の炎!!」

英雄の槍(ロンゴミニアド)!!」

涅槃(ニルバナ)!!」

 

 

 

 四者四様の魔法の発射。

 通常であれば致命の一撃になるそれも、ヴォルデモートは対応してみせる。

 一人当たり杖を二十五本担当する、そう表現したが、そう単純な話じゃない。『ヴォルデモートが完全に指揮下に置いた杖が二十五本』なのだ。

 

「所詮はにわか仕込みのコンビネーション……」

 

──連携なら、ヴォルデモートのが上!

 帝王が文字通り手中に置いた宇宙の中から放たれる幾多もの流星群(魔法弾)。それは独特の軌跡を描き、星座を作る。

 

(やばい、避け……れないっ!?)

「ぐうっ──があああああっ!!」

 

 灼熱の痛みが追いつく前に、弾幕を掻い潜る。

 魔弾群は一見すると乱雑に放たれているように見えるものの、その実、完璧に計算され尽くしている。

 弾丸を躱そうと思っても、必ず他の弾丸が死角から迫っている上に、無理矢理直進しようとすれば魔力が弾けて動きを止められる。

 

(魔弾の威力、向き、速さ、タイミング……それら全てを完全に調整しているんだ!

 組み合わせは無限大、その中から一番効果的なものを奴は瞬時に判断している……!!)

 

 ヴォルデモートがパワープレイではなく、テクニカルに立ち回るようになったのは進歩といえば進歩か。そのぶん奴を追い詰めているということ。

 

(……追い詰めてるのか?私達はこれで合ってるのか?

 まるで海面を殴っているような……何かを根本的に間違えているような嫌な感覚がある……!)

 

──ヴォルデモートは、削れているのか?

 果たして十分の一ほども魔力を失ったのか?

 止むことのない魔法の雨は、帝王の力が未だ健在であることを如実に示している。

 このままではいけない。

 足りていない──何かが。

 何かが違う。何かが駄目だ。

 何かが……。

 

「……っ!?ダンテ!!」

「ちいっ……!!」

 

 星々が紡ぎ上げた魔法のラインが、ダンテの左肘から下をザクリと切断する。さしものダンテもこの魔法の数に耐えられなかったか……。

──いや、違う。

 ダンテが空間を削り取って、シェリーへ向かっていた攻撃を自分の引き寄せたのだ。いくら不死鳥の炎で再生が効くとはいえ……これでは……!

 

「何を不安そうな顔してやがる、シェリーよ」

 

 しかしダンテの表情は至って平静だった。

 焦りも、驕りも、していない。

 シェリーを庇ったのは情が湧いたからではなく、彼女を庇ったというのも語弊がある。帝王の警戒を解いて攻撃に転じるため──全て予定通り。

 

「『涅槃・窮(ニーグルム)』付与!

 そして輪廻(サンサラ)の連続発動!!」

(……!?)

 

 切り取られた腕に薄っすらと涅槃を張り、その状態でブラックホールを生成。すると、知覚不可能な速度と有り得ない軌道で、ヴォルデモートの方へと飛んでいく。

 帝王は突如として飛来した腕にギョッとして──更にその顔を驚愕に歪ませる。

 

霞染月(シルフ)!」

 

 ダンテの腕目掛けて姿現しをするゴドリック。

 既に必殺の剣は振られていた。これ以上ない不意打ちはしかし、ヴォルデモートの周りに漂っていた自動迎撃の術式によって防がれる。

 

(ああっ、惜しい!)

「対策されていましたか……少し攻め方を変える必要がありますね」

 

 ゴドリックとダンテによる最良のコンビネーションではあったが、首を落とすには至らない。

 歯噛みする彼等に追い討ちをかけるように、ヴォルデモートは今を生きる者達から血脈の鼓動を、生命の息吹を信念の讃歌を奪い取り、絶対零度の時に置き去る。

 悲嘆の世界の、時計の針は動かない。

 

「神託の庭!!」

「時間簒奪!!」

 

 唯一の対抗策であるベガは、その魔法の発生を見逃してはいなかった。独特な魔力の揺らぎを見るや否や、彼もまた魔法を発動していた。

 天才が天才たる所以である。

 息をつく間もない大激戦。

 シェリーはもう、ついて行くので精一杯だ。

 

(ちょっと攻防のレベルが高すぎない……!?)

(ここは情報を共有する時間が必要だな)

 

 

 

「『フロース・オーキデウス、花畑よ』」

 

 

 

 そんなシェリーの動揺を斟酌するように、ゴドリックは一面に花畑を作り出した。

 赤、青、黄──色とりどりの花々が咲き乱れて風に揺られる様はとても美しく、心を穏やかにさせる。ここが戦場の只中であることを忘れさせるくらいに。

 というか、景色がまるで一変して──。童話の世界に迷い込んだかのような、美しき場所へといつの間にか足を踏み入れていた。

 ヴォルデモート卿の姿はなく、いるのは戦いを共にした四人だけ。心地良い春風が吹いていた。

 

「目眩しの術を使いました。今の間に、帝王の情報を整理しておきましょう」

 

 一流のプロスポーツ選手は試合中のミスやプレッシャーから立ち直ったり、精神を切り替えるために予め決めておいたルーチンワークを実践することで、感情をコントロールして試合に臨む。

 ゴドリックが作り出した結界は、その感情の切り替えを行うためのものだ。結界内で疲労を回復したり、魔力を回復したりはできない。相手から攻撃されない代わりに、こちらも大したことはできなくなる。

 言ってしまえば『戦闘中にひと息つく魔法』でしかないのだが……そのひと息が必要だと、判断したのだ。

 

「ここでの一時間は外の一秒にも満たない。僕は敵の情報を整理したい時、味方に作戦を伝えたい時、辛い戦いの時……。この結界をしばしば使っていました。

 ……どうしました、シェリーさん?」

「え?あー、ええと……。

 私の友達が、花の魔法を使っていたから。何だか懐かしくなっちゃって。……魔法って本来、こんなふうに、もっと楽しくて素敵なものの筈、なのにね……」

(ローズと、ブルーか……)

「…………」

「……その意見には賛成です。だが今は、感傷に浸る時ではない。分かりますね?」

「はい!作戦会議をするんだよね?」

 

 花畑の中心に、白いテラス席が聳えている。

 シェリー達が円卓を囲うように腰掛けると、ゴドリックが話を切り出した。

 

「まず、確認したいのですが……彼は分霊箱や紅い力を使っているようですが、どうも僕の知っているそれとは少しずつ違うようです。

 魔法の詳細について、知っている人がいれば教えていただけませんか」

「奴は分霊箱と紅い力を組み合わせて使ってる。自分の魂を他の人間に分け与え、ついでに魂が引き裂かれたぶん魔力が増すって仕組みだ」

「なるほど……今はそういう魔法ができているのか。では他の魂を殺すのが先ですね。魂を分け与えられた者はどこに……?」

「……………」

「あー……」

「……ここだよ、ゴドリック」

「えっ」

 

 ゴドリックは目を見開いた。

 シェリーはどう返事をしたものか迷って、とても微妙な顔を浮かべる。そう……シェリーを殺さないとヴォルデモートは殺せない。そもそもそういう話だった。

 

「……それはつまり、君を殺さなければ彼は死なない、という認識で良いのでしょうか」

「チッ……それは──…」

「いや、多分それはないよ。ええと……上手く説明できないんだけど、さっき私は死の呪文を受けたんだよね」

「あ!?」

「許されざる呪文を……?」

「……続けて」

「う、うん。とにかく死の呪文を受けて、一時は本当に死んじゃってたみたい。だけどその……なんか……なんか生きてたんだよね!あとその、魂?が二つ!あったみたいでさ、私の中に!それで私じゃない方のシェリーが死んでしまって……それはすごく悲しかったけど、私は生きることを選択して、生きることになったの!

 それでその時に、私の中にあったヴォルデモートの成分的なやつも消えて、なんか……生き返った!だから、多分、大丈夫……的なやつかなって思ったりしてる!」

 

 

 

 ……伝わっただろうか?

 

 

 

「……なるほど、そういうわけか。分霊箱がヒトに……ましてやホムンクルスに宿るなんざ、世界中探してもこいつくらいだ。肉体の拒絶反応……或いは、ヴォルデモート本人が死の呪文を行使したから……」

「可能性はあるな。術者本人がその機能を停止した際に起こるバグのようなもの……肉体の損傷なく、綺麗に魂だけが死んだってところか」

「興味深い事例ですね。仮死状態からの復活……本人の意識が作用して魂にアプローチできるのなら、理論化すれば医療魔法の発展に繋がるかもしれませんよ」

「…‥多分そんな感じ!」

 

 頭の良い人ってすごい。

 

「……いや待て待て待て。じゃあなんだ、傲慢も嫉妬も強欲も色欲も暴食も怠惰も倒して……憤怒も消えたんなら、今、ヴォルデモートはストックゼロの筈だろ!?致命傷を受ければ死んじまう状態の筈だ!それが、どうしてピンピン生きてやがる!」

「……魔力核を分離しているのか?」

「ええ。おそらくですが、彼は核を破壊しなければ倒せないタイプの敵です」

「核?……」

 

 あ、とシェリーは声を出す。

 ペティグリュー戦……あの時も、ペティグリューは自分の核に当たる部分を近くに隠していた。

 核。ゴーレムや魔導人形の心臓部に該当する、魔力の供給部分。そこさえ破壊すれば奴は倒せる!

 

「フゥン……しかし気になるのは核の場所だ。奴の体内にはそれらしき反応はなかったし、これだけ多くの魔法使いがいて相手の核の位置が分からないなんざ、有り得べからざること。

 体内ではなく、体外……どこか離れたところに核を隠していると予想するぜ。それこそ分霊箱のようにな」

「えーと……ちょっと質問いい?」

「どうぞ」

 

 シェリーはおずおずと手を挙げる。

 正直言って、あまり彼等の話にはついて行けてはいないのだが、大雑把でも話の筋は理解しておく必要があると思ったのだ。

 

「分霊箱を作るのと、核を分けるのと……。その二つは具体的にどう違うの?

 あと、分霊箱を七回と言わず、十回とか二十回とか、細かく分けていけば……それだけストックが増えて死ににくくなってお得なんじゃないの?」

「一つずつ答えるぞ。

 分霊箱は魂を切り分けて、予備を増やす魔法。核を分けるっていうのは、この場合だと今ある魂を全部どこか離れたところに隠してるってことだ。

 それと分霊箱は七回切り分けたって認識でまず間違いない筈……七っていうのは魔術的に重要な意味合いを持つからな」

 

 ヴォルデモートがこれ以上残機を増やしている可能性はこれまで三年間の調査や議論からしてもほぼ確実というのがベガの意見だ。

 そこはベガが肖像画として描かれたダンブルドアと何度も話し合い共有した部分である。倒しても倒してもまた復活したらたまったものじゃない。

 今まで戦っていたヴォルデモートは、魂のない抜け殻のようなもので、今シェリー達はその幻影相手に戦わされている……とのこと。

 

「……いや、でも、うーん……。

 それってさ、『分霊箱で死ににくい存在になったヴォルデモートが、その上更に核をどうこうすることで、より死ににくくなった』ってこと?

 いくら死にたくないからって……ちょっとやり過ぎな気もするんだけど。それに核を分けるっていうのも、多分すごく難しいことなんでしょ。そんなに簡単に分けたり保存したりできるもの……?野菜じゃないんだから」

「相手は魔導の王、何でもアリなんじゃないのか?」

「…………いや、逆か……?」

 

 ベガはダンブルドアやアレンの戦いから、ヴォルデモートの言動から、疑心と疑念を抱き始める。

 

「あいつ、ダンブルドアとアレンから特大の呪いを貰ってる筈なんだ。そのせいで紅い力も不調をきたして、殺せば殺すほど強くなる力も失ってるみたいでよ。ああして今戦えてること自体、奇跡に近い筈だ。

 そこまで追い詰められて、何か特殊な対処法を考えないといけなくて、その結果核を移動させた……という風に考えられねえかな」

「核を切り離したのを前提とするなら、そうですね」

「それによ、ヴォルデモートは死の秘宝をモチーフにした魔法を使ってる。

 ニワトコを参考にした虚の震天は杖を大量に生み出す魔法……蘇りの石を参考にした神託の庭は魂の叫びを聞かせて時間を止める魔法……

 じゃあ透明マントを参考にした魔法で、自身の弱点を隠してる……って推理は、強ち的外れでもねえような気はするな」

 

 推論は信憑性を増していく。

 が、ダンテは敢えて冷静に議論に水をかける。それが必要なことだと理解しているからだ。

 

「話が堂々巡りしてるぞ。奴の体から核が分離してると仮定して、じゃあその核は何処にありますか、って問題点は解決してねえだろ」

「……それはそうなんだけどよ!」

「一つ、気になっていることがあります。彼は先程から何回か自身に癒しの魔法をかけているのですが、どうも回復の仕方に違和感があった。

 どれも『上の方から回復している』んです」

 

「これまで何度か攻撃を喰らわせて、傷を負わせましたが……それらは全て、必ず高いところにある傷の方から治っていく。

 腕を切り落とした時もそうです。ベガ君、君が不死鳥の炎で腕を回復しようと思ったら、どんなふうに回復しますか?」

「回復……っつーより腕を『生やす』って感じだな。傷口からトカゲみてーに生えてくるイメージだ。骨を作り血管を作り皮膚を作る。回復の方法は多種多様あれど、大体どれも同じじゃねえの」

「いえ。帝王の場合、外側の皮膚から血管を作り、骨ができて……というプロセスでした。腕が生えるといった風ではなかったんです」

「えっと……目には見えない癒しの魔法が、ヴォルデモートの頭上から雨みたいに降り注いでる……って感じかな???」

「そう!良い例えです。帝王の杖先から魔法が出ているのではなく、君の言う通り、彼の頭上から降り注いでいるようでした」

「それはつまり──」

「核がヴォルデモートの頭上に存在し、そこから魔力を送っている……だから上からしか回復できない……」

 

 推理と呼べるほど、確実なものではない。

 状況証拠から一番それらしいものとなったツギハギの結論でしかない。が……シェリーは真実に限りなく近付いていっている感覚を味わっていた。

 なにせ、探偵役は最高峰の魔法使いが三人。

 シェリー一人では絶対に辿り着けなかった……そして彼等が一人だけでも辿り着けなかった推論の先に、自分達は立っている。

 

「──ヴォルデモートの核は奴の上空に隠されていて、それを破壊しないと倒せない、か。成程な。

 時間がかかっちまったが、フゥン。タネさえ分かればいくらでもやりようはあるな」

「それじゃあ……!」

 

 

 

 

 

「──三人寄れば文殊の知恵、四人寄れば何とやらか」

 

 花が枯れる。

 死の大地へと荒れ果てる。

 一切合切を燃やし尽くす業火を携え、魔王は狂瀾怒濤の覇道を作り上げる。

 

(結界が破壊されたか……!)

 

 水平線にまで広がっていた花の世界にヒビが入り、汚濁に塗れた邪気がたちどころに広がった。

 闇の帝王、ヴォルデモートがやって来たのだ。

 即座に戦闘態勢に入り、杖を構える四人。その頃にはもう、彼等は星降る夜の下にある、天空に座す暗黒魔城への屋上へと引き戻されていた。

 

「俺様の弱点くらいは分かったかな?」

「もうバッチリだよ。すぐ殺してやるから待ってろ」

「ふん……強がりを」

 

 傲慢に嗤うヴォルデモートだが、シェリー達の瞳の奥に、闘志に紛れた希望が宿っていることに気付く。

 どうやらベガ達も、まったくの打算なしに言っているわけではないのか……?と認識を改めた。

 

「その目……破れかぶれの馬鹿どもとは違う……俺様を倒せる算段があるって感じだな……核を分離しているのはバレたかな」

(……!?何で自分の弱点をバラすような真似……)

「貴様等が気付かんのなら、話す気はなかったさ。だがその魔法の知識と洞察力に敬意を表して、解答くらいはしてやろうと思ってな」

 

 どこまでも不遜なるヴォルデモートの弁は、神経を逆撫でするのに十分すぎるほどの効果を帯びていた。

 

「……フフフフ、苛立つかね?それとも不可解か?さんざっぱら四人で悩んで考えて、ようやく結論に至ったというのに、何故こいつはこうもべらべらと自分が不利になる情報を喋っているのか……と。

 それはな、事象の再確認。『ヴォルデモート卿は絶対に負けない』という事実を確認することで、戦いに安心感と満足感を得たいという心のゆとりから来るものだ。

 ポーカーで最高に良い役が揃った時、確実に勝てると分かっていても何度か確認したくなるよな?それと同じことなのだよ」

 

 ……事実として、核の場所がどこにあるかは、それはシェリー達には分からない。

 先程から感知の幅や精度を広げているが、彼女達は未だそれらしいものを見つけられていない。何かを隠した痕跡さえも。

 魂なんていう絶対に壊されたくないものは、絶対に見つからないところに隠すのも大事だが……それ以上に絶対に壊されないようにする方がよっぽど大事だ。その筈なのに、見つかりさえしないとは……。

 

 

 

「フフフ……ハハハ……何やら必死こいてそれらしいものを探しているようだが……滑稽だな。

 そもそもとして尺度が違う。

 俺様の魔力核……その位置は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高度一〇〇キロメートル以上……」

 

「つまり──宇宙空間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは……」

 

 文字通り桁が違う。

 話のスケールに追い付けず、呆然とソラを見上げる。

 綺麗な……美しき流星が飛び交って銀河を彩る。

 遥か彼方の光を灯すブルーオーシャン……その星々の中に、ヴォルデモートの心臓部、核が存在する。

 

「……宇宙に……」

 

 話は恐ろしくシンプルで、恐ろしく非現実的。

 地上に視線を戻したシェリーは、縋るようにベガやダンテやゴドリックを見やる。……瞳に浮かんでいた筈の希望の焔は、急速に勢いを消し始めていた。

 

「……どうやって……?」

 

 シェリーには分からない。

 宇宙にまで届く魔法なんて知らない。

 これまでにも何度か、魔法の射程距離について考えたことはある。しかしそれは拳銃やライフルの弾はどこまで届くか、というような話であって、宇宙まで攻撃が届く……とかいう、荒唐無稽な話などではない。

 それは他の三人も同じで……。

 

「……その話が本当だとしたら。お前、ヴォルデモートさんよ、どうやって宇宙まで核を移動させたんだよ?それこそ荒唐無稽すぎて笑えるわ」

「心配するな、滅茶苦茶しんどかった。およそ三年ほど大した魔法も使えなかったくらいにだ。それだけの魔力と反動があって、ようやく宇宙空間に俺様の核を浮かべさせることに成功した」

「……そうまでして、何故……」

「アレンとダンブルドアの最後っ屁が面倒でな?割れんばかりの痛みと苦しみが俺様を襲い、限りなく死に近付けさせた。死神の鎌が首元を撫でているようだった。

 だから最後の神器──『界域の剱』の効果で核の場所を不明瞭にすることで、奴等の呪いは行き場を失ってしまった……しかしそれでも、問題は起きた」

 

 間違いなく最強であった者達への賛美か、或いはかつての苦労を思い出しているのか。

 ヴォルデモートは顔を僅かに歪ませつつ、語る。

 

「奴等の呪いは、このヴォルデモート卿という存在をこの世から消し去るまで消えることはないらしい。核の場所が分からないなら俺様を──髪の毛の一本、魔力の残穢、ほんの僅かな残り香すら自動的に追跡して、永遠に呪い続ける……そんな魔法だったんだよ」

 

「冗談じゃない。そんな苦労を背負い込みたくて俺様は帝王になったんじゃない。どうしたものかと考えて、俺様は核を死ぬ気で……本当に死ぬ気で宇宙空間まで飛ばしたのだ。思い付きではない、綿密な準備と計算と様々な魔法道具を利用して漸く成し遂げたことだ」

 

「俺様の核は今も宇宙空間を漂い……そしてその姿を隠している。呪いに感知されるかされないか、ギリギリの塩梅でな。結果として、連中の呪いも宇宙空間にある俺様の核の周りを漂っている状態だよ」

 

 帝王はそれで色々なものを失った。

 金も、時間も、労力も、魔力も、力も──…。

 そのせいで表立って動くことはできなかったし、与えている筈だった被害も小規模なものになった。不死鳥の騎士団に準備の期間を与えてしまった。

 それでも伝説に名を刻む二人の英雄を殺したという事実と、不安を煽る裏工作とで、世界を混乱に招き入れたのは間違いないのだが……。

 

「それもここまで。貴様等を倒して、俺様という恐怖をより確かなものとする。人々はヴォルデモート卿の名を聞けば、恐れ、慄き、恐怖という鎖で支配される。頭を垂れてつくばい、そして命を乞うのだよ。

 俺様は恐怖を与えない。ヴォルデモート卿こそが、恐怖そのものなのだから」

 

 じっとりと、首筋に滲む脂汗。

 不安に取り憑かれた者どもを嘲笑うように。

 ヴォルデモートの赤い両眼がギラリと光り、蛇のように縦に裂けたその口から、シューシューと不気味な笑い声が漏れていた。

 

「……チッ……核を壊して完全消滅じゃなくて、封印するしか方法はなくなっちまったようだな……」

「……どのくらい難しいかな、それ」

「さあな、考えたくもねえ。俺達は魔力も、時間も、限られてる。対してヴォルデモートはほとんど不死身……常に万全の状態で戦えるんだからな」

 

 例え不死鳥の焔があろうとも……果たしてどこまで食いついていけるのだろうか……。

 果てがない。仮初のゴールラインは、確かな倦怠と焦りを生んでいた。

 

「クク……当てが外れたな?」

 

 闇の帝王は、高らかに宣言する。

 それは自らに絶対的自信を持っているからこその、破滅の言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「核を破壊する方法は存在しない!!!」

 

 

 

 瞬間──世界から全ての音が失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが呆然としていた。

 シェリーも、ベガも、ダンテも、ゴドリックも……そしてヴォルデモートでさえも、その現象が何であるかを説明できないでいた。

 

 それは、一条の流星だった。

 ソラに向かって真っ直ぐ飛ぶ、蒼く輝く流れ星。

 

 秒速11.2キロ──それは地球の引力と重力から解放され、星の海を渡るためのスピードだった。天を穿つほどに高く巨大な光の柱が、その速度を物語る。

 森羅万象、遍く物理法則を突破して、光り輝く雄大な魔力が、真っ直ぐにソラを翔ける。

 

 夢でも見ているかのようだった。

 雲も、星も、空も飛び越えて、遠く遠く、遥か彼方。

 

 次元の壁など取っ払って、見えない壁は無視をして。

 乗組員はいたずら小僧がたったの一人。はち切れんばかりの夢と希望とちょいとばかしのロマンを積んで、星間旅行へと洒落込んだ。

 音さえも追いつけやしない、楽しい楽しい、愉快で素敵な宇宙への片道切符を切って、空へ、宙へ、宇宙へ!

 

 

 

「──アルビレオ?」

 

 

 

 何となしに、ベガは呟いていた。

 思えば何かがおかしかった。アルビレオがどのタイミングでやってきてかはよく分からないが、ポルターガイストは物に取り憑く霊のようなもの。取り憑く物のない空中では移動のしようがない筈なのだ。

 

 『空飛ぶ乗り物』でもない限り、何もない空中を自由気ままに飛ぶなんて芸当、できはしない。

 

「お前……それに乗ってきたのか!?」

 

 興奮が心臓を動かした。

 童心が理性の底ではしゃいでいた。

 

 

 

 

 

 アレは、マグル世界において──…

──ロケットと呼ばれているものだ。

 

「核だか何だかが宇宙にあるなら、簡単なことよ……」

 

 一人の男の、二十年越しの夢を叶えに行く。

 題してギャラクティカ浪漫飛行。

 流星の嵐を突き破る、痛快な旅の始まりだ。

 

 

 

 

 

「ロケットを飛ばす!!!」

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