シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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タイトル詐欺。


32.スリザリンのロケット

 

 ヴォルデモートの弱点──核は、宇宙空間の只中という規格外の場所に存在する。

 帝王が核を打ち上げるにあたって、様々な準備と時間と労力と資金を注ぎ込まなければならなかった。今から不死鳥の騎士団達が宇宙に何か届けるとしたら、圧倒的に時間も設備も不足している。

 

 そもそも、発想のスケールで負けている。魔法は杖から出るもの。手の届く範囲で魔法が使えれば別に困りはしない。宇宙空間を想定とした魔法など、作ろうとすら思わないから、存在しない。

 

 では──科学者なら?

 

 できないこと、未知なことをずっと追い求めて法則性を模索する科学の徒。そんなマグルかぶれの大馬鹿野郎なら真っ先に考える科学技術の粋を、彼が、あのデネヴが作らずにいられようか。

 

(この宙舟はこの時のために……)

 

 作らない筈がない。

 デネヴは世界中のあらゆる金属や魔法界由来の鉱物を活かして、宇宙に飛ばす用の小型ロケットを開発した。

 だが所詮は個人制作のモデルロケット。『魔法由来のものでロケットを再現する』という点では凄いが、純粋な『ロケットとしての性能』ではそこそこ止まりだ。

 

 おそらくは成層圏にすら辿り着けず、上空で壊れてしまうだろう。宇宙空間に行くにはエネルギーも設備も技術も足りていない。彼に仲間はいなかった。

 

「ならば儂らがそれらを補おう」

「宇宙……ロケット、ですか。やはり天でなく、私達の地の方が動いていたのですね……成程、興味深い」

 

 燃料は無限のエネルギーを持つ真域を。

 外装にはロウェナの魔導合金を搭載して。

 二人の天才による軌道計算とフォローを受ければ、小型だろうが安物だろうが星の海を翔んでいける。

 

「とはいえ、儂がフルパワーで魔力を解き放てば、あまりの威力の反動に耐えきれずにこの仮初の肉体は崩壊し、戦いからリタイアしてしまうじゃろう。

 そして真域の魔法を使ったとしても、宇宙へは一方通行の片道切符。君は二度と地球に戻ることはできんし、エネルギーに巻き込まれたら君は消滅するかも。

 おお、こいつは失敗できんわい」

「ひゃははははァ!ジジイに姉ちゃん、あんたらもデネヴの馬鹿げた研究に乗っかるクチか!イカれてるぜ!上手くいくかどうかも分からん物事に、ゲラゲラ笑いながら首を突っ込むんだからなァ!」

「魔法なんて普通に生活していれば最低限制御できれば問題ありません。それ以上を求めるというのだから、歴史に名を残す魔法使いなんて馬鹿しかいませんよ」

 

 

 

「魔法はまず幻想(フェイク)ありき。

 現実を荒唐無稽な子供の夢に差し替える作業を、ただ魔法と呼んでいるだけです」

 

 

 

 役者は揃った。

 サラザールは真域の魔法を使い、暗黒魔城全体を包み込む魔法障壁の一部分を破壊する。

 魔法障壁は壊しても壊してもすぐさま再生してしまうのだが、取り敢えず、サラザールと小型ロケットが通れるだけの穴さえ開ければ大丈夫だ。

 

「おお……すげェ威力だな。これなら宇宙へ行くエネルギーとしては十分そうだなオッサン!」

「がっはっは!まだまだこんなもんじゃないぞい。見ておれ、我が真域の随をお見せしよう!」

 

 のそり、と──。

 サラザール・スリザリンは夜の空を歩き出す。

 比喩ではない。どういう理屈かは知らないが、二メートルに達しようかという大男は、空の上さえも我が城だと言わんばかりの不遜さで、空中を『歩行』していた。

 

 いや、それはもう問題ではないのだろう。今から為すは千年越しの大偉業にして、二十年越しの悲願である。

 どれほど雄大で、偉大で、強大な力があろうとも、彼等は地図には残らない。世界に於いては極小の点にも劣る卑小な者ども。身に余るほどの大望を、全霊持って尽くすのだ。

 ならばもう、理屈など踏み倒していくべきだ。挑む相手は那由多の彼方のその先で、大口開けて待っている。

 

 ロウェナによる軌道の計算は済んだ。

 彼女が並行してロケットに施していた外装は、究極の魔法金属『メタリカ』。柔軟なる剛毅は魔道の極み。至上の金属がソラへの旅を歓待した。

 サラザールは空中に『浮遊』させたロケットの下に潜り込んで、構える。合図も覚悟も聞く暇なく、禿げた老人は蹴りの体勢に入っていた。

 これといった感慨の欠片もなく、面白そうというだけの理由で。生前にさえないほどの魔力出力、ひと呼吸するうちに肺は焼け死に、仮初の身体は崩壊した。

 

「宇宙の彼方へ飛んで行け!

 世界を見て来いポルターガイストォ!

──ドッカーン!!」

 

 瞬間的魔力大爆発。

 特大の花火が打ち上がり──それを満足そうに見届けて、時代の亡霊は在るべき場所へ戻って行く。

 サラザール・スリザリンは、歴史の海に沈み行く心のまにまに漂って、ただ空を見る。

 

「ああ、綺麗じゃ」

 

 それだけ言い残して、あっという間に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァー──っハッハッハ!

 

 言葉とは裏腹に身体が震えているのに気付く。

 雲を裂き、闇を裂き、彼方の空を追いやって、ピーブスは見事に宇宙空間に飛び込んだ。

 宇宙というのは不可思議な感覚だった。虚無のキャンパスに、光のインクが撒かれていて、怖いものなしのピーブスの思考回路が麻痺し始める。

 何もかもから切り離された場所のようでいて、何もかもに縛られているようなじれったさは、まだ、宇宙空間のスケールの大きさに脳味噌が追いついていないから。

 

「──あれだ」

 

 ロケットの先端から直線の光が伸びていき、ある一点で静止する。光が指し示す方向へ遊泳すると、奇妙なオブジェが浮遊しているのに気が付いた。

 それは巨大な時計の形をしていた。いつだかデネヴやジェームズ達と見たビッグベン時計塔を思わせる文字盤に様々な魔術文字の羅列が施されており、内部機構の一つと思われる歯車が飛び出していた。

 

「アレがあの小僧の魔法道具……」

 

 『界域の剱』──高度な幻術魔法を使うことで、己が存在を不確かにし、あらゆる干渉を断つ神器。

 神器発動中は周りの次元が歪み、全ての認識が過ぎ去りしものとなる。流れる時は忘れ去られ、過ぎ行く過去を誰も思い出せない。

 要は認識されなくなる神器だ。強力無比な呪いであっても、呪う相手が分からなければ意味がない。かつては認識をズラして致命傷を避ける……といった使い方をしていたが、現在、その全エネルギーをダンブルドアとアレンの呪いに割いている。

 

「おお、あのデケェ時計みてえのが闇の小僧の弱点とやらか!確かに隠しようもねえくれえの禍々しい魔力が渦巻いてやがる!

 そしてその周りをぐるぐるしてんのが、闇の小僧にかけられた呪いってわけだ!こっちもこっちでビリビリ来るねえ!」

 

 偉大な魔法使い二人による置き土産、魔力の塊。

 二つの呪いは真域の火焔を宿した不死鳥と、真域の砂塵で構築された古代の竜骨の形をしていた。

 術者の宿願、或いは怨念をぶつけるべく、界域の剱の周りを所在なさげに彷徨っている。

 

 『この近くに呪う対象がいるけれども、正確な位置が分からない』という状態なのだ。時計の針に当たる部分が剣のような形をしており、認識を歪めている。

 だがそれは呪いに限った話。

 ピーブスという本来いる筈のないイレギュラーに対しての対策など持ち合わせてはいない!

 

「いいねえ、壊し甲斐がありそうなオモチャだぜ!」

 

 心の奥底に染み付く瑣末な戦慄はあれど、神の頂にありし力がその手の中にある限り、必勝に迷いはない。サラザールから借り受けた真域の風と水が、猛り馳せる暴威の化身となって今まさに、彗星の如く放たれる。

 猛然と激流を迸らせる膨大な魔力から織り成される威力は想像の比ではなく、立ち消えた音の中で、彼方の星まで届かんほどの真一文字の傷痕を刻む。

 

 しかし蛇王から借り受けた力を持ってしても、帝王の喉元に喰らいつくのが精一杯で、喉笛を噛み千切るには至らない。あと一歩のところで届かない。

 

「クソッ壊れねェ……ヒビが入るだけで……!

 いや違う!俺自身の問題だ!俺がこの魔力の反動にビビっちまって本来の力が引き出せてねえ!

 これほどのエネルギー……俺自身も吹き飛ばしかねないほどのパワーに、セーブをかけちまってるんだ!」

 

 人の身に余る神の御業を、二つ以上使おうというのが土台無理な話。サラザールも生前は特別な禁術で肉体を調整していた上に、真域以外の魔法が使えなくなるという極大のデメリットを抱えていた。

 ただのポルターガイストであるピーブスが使えばどうなるか考えるべくもない。理を曲げる神の魔法が不生不死の霊体に、死という矛盾を刻ませる。

 怖いものなしのピーブスに、躊躇いの影が忍び寄る。

 

 無理もあるまい。ピーブスはそういう生まれ方をした思念体なのだ。

 モラトリアムの化身、元はホグワーツの悪戯小僧達の思念が形となったものだ。青春は終わるもので、いつかは消えゆく儚い命。

 

「ハハッハァー」

 

 だが、ポルターガイストは不敵に笑う。

 

「魔法使いの皆々様におかれましては!

 今宵ご案内するのは満点の星の宝箱!

 夜空に輝く一等星も、ご立派な星座もくれてやる!

 俺はピーブス!たとえわずか一瞬でも、誰よりも輝く流星を──我が友と青春に捧げよう!」

 

 粉砕一身、爆烈壊骨。

 トリガーを全力で引きさえすれば、あとは十分。

 闇空に誰よりも輝ける閃光を放って──全ては無の彼方へと消え去った。

 

 ピーブスがどうなったかを知る術はない。

 ただ彼の為した結果は煌々と輝いていて、飛び散った破片の中からヴォルデモートの魂の核が現れる。

 肉体と魂は引かれ合い──ヴォルデモートの魂が在るべき肉体へと帰還する。二つの特大の呪いを連れて。

 

 

 

「ベガ、俺達に代わってあの男をてこずらせてやれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届いた、のか……!?」

 

 ヴォルデモートの肉体は、遥か宇宙にある筈の魂の異常を確かに感じ取っていた。

 魔法界に宇宙へ行くという発想はない。ケンタウルスは星を詠んで未来を占い、純血思想の者達は偉大なる星座やギリシャ神話にあやかって名前をつける。

 星とは偉大な天の光で、道標なのだ。

 

 だから、星に本気で手を伸ばそうというのはマグルの発想なのだ。それを、この魔法界で……、魔法使いの決戦の場でロケットなどと。マグルの科学の産物が逆転の一手になっているなどと……!

 

「マジでどうなってんだ……何で都合良くそんなものがあるんだ!!」

 

 焦燥するヴォルデモートと同じく、それぞれがそれぞれの反応を見せる。

 

(本当に何が起きたの!?本当に何!?ヴォルデモートも何かすごい困ってる感じだし!)

 シェリーは普通に困惑して。

 

(アルビレオ……何かよく分からん奴だったがおもしれーことしてくれるじゃねえか……!)

 無意識のうちに敬礼を取り。

 

(さっきのロケットを打ち上げたのはサラザールか……あの蛇ジジイ、相変わらず無茶苦茶しやがる……しかしあれだけの魔力を使ったとしたら……)

 ダンテは推論を立てて。

 

(……ということはもうサラは消滅したか……彼の全力に仮初の身体が耐えられるわけもない……しかし、実に素晴らしい戦果を上げてくれましたね……)

 ゴドは親友に賞賛の声を上げて。

 

──そして魂が在るべき肉体に帰還する。

 上空から恐るべき速度で飛来した光がヴォルデモートへと直撃する。雷にでも打たれたかのようだった。

 僅かな時間、ヴォルデモートに膨大な力が溢れて。

 しかし直後に、それを塗り潰さんばかりの勢いで二つの厄災が彼の身に降り注いだ。

 不死鳥と恐竜──ヴォルデモートの弱点は逃すまいと宇宙空間から追いかけてきた。四年前のあの敗北に意味を持たせるために、彼等は罪に塗れても止まらない。

 

「がああああああ……ッ!!!」

 

 帝王の血管という血管に呪いが行き渡り、陶器のように白い肌に紋様が浮かんでいく。ダンブルドアの灼熱の業火が災禍を焦がし、アレンの原初の暴竜が地獄よりも苛烈な辛苦を贈る。

 

 不死身の筈の肉体に、弱点と呪いが戻る。

 

 たまらず、吠える。奴等は屍人だ。越えたはず。だのにどうして邪魔をする?

 

「前の時代の賢人、前の戦争の英雄!

 お前達は死んだ筈だ!殺した筈だ!!

 いつまでも付き纏ってきやがって!!」

 

 子鹿のようにふらふらの足取り。

 状況は飲み込めないが、事態は噛み締めた。

 畳み掛けるなら今しかないと。

 

「今だ!皆さん構えて!攻撃のチャンスです!」

「きさっ……貴様等ふざけるなよ!!!ふざけるなよ馬鹿どもがァアア!!!

 センスも技量も魔力量も全て劣るがらくたの分際で自分のことを天才だと思っている馬鹿が、ちょっと弱みを見せたくらいで調子付きやがって!何が『今だ』だ、そんな瞬間をやるものか!!!」

 

 

 

「──神託の庭!!」

 

 

 

 怨恨の呪厄の産声は、金切り声よりも酷い音。

 暗黒の颶風が吹き荒び、前進するシェリー達の道を阻んでいた。身動きが取れない。前に進めない。後退さえも許されない。

 あれは生物の時間を止める要素を少なくして、実態のある恐怖として生み出したバージョン……物理的暴力を伴う吸魂鬼そのものだ。

 心の闇が、己の弱さが、白昼の元に晒される。

 『怖いもの』と聞いて人が考え得る漠然としたイメージが現実に現れ、世界を侵蝕しているのだ。

 

(怖い……!)

 

 シェリーの剥き出しの魂は、うるさいくらいに恐怖を告げていた。ボガートとか吸魂鬼とかみぞの鏡とか、そういう人間の弱さにつけ込むものの集大成を相手にしているようだった。

 どうなった──ベガやゴド、ダンテは無事なのか。

 それすら意識する余裕がないほどに、恐怖は思考の中心に我が物顔で鎮座する。

 

 『死にたくない』

 『死ぬのが怖い』

 『まだ生きていたい』

 

 まことの恐怖を思い出したシェリーにとって、その風は想像以上に苛烈に感じられた。今まで辛うじて耐えていた理由がなくなったのだ、無理もあるまい。

 

(今まで感じてた恐怖とは比べ物にならない……

 あのヴォルデモートの作り出す魔法ってのもあるけど、私が本気で死にたくないと思ってるからだ……

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!!!しっかりしろ!!!)

 

 ならば知っている筈だ。

 弱さとの向き合い方も。

 あの日、組分け帽子を選んだ時から、知っている!

 

(私は勇敢なる獅子の路を選んだんだ!)

 

 

 

「僕は強さというのは二種類あると思います」

 

 赤毛の男が立っていた。

 黒い暴風の中にあって、理想を体現した騎士だけが、その在り方を損なわなかった。

 勇猛の獅子、ゴドリック・グリフィンドール。

 彼は何があろうと、立ち止まりはしない。

 

「どんな卑怯な手段でも使い、時には逃げ、姑息な真似をしてでも勝ちに行く、合理的な獣の強さ。

 尊厳はなくとも、まず負けはない」

 

「もう一つは、どんな相手にも逃げずに立ち向かい、己が心の道理に従う、非合理で勇敢な人の強さ。

 時として勝てずとも、信念は守れる」

 

「強い相手からは逃げるのが利口だ……それが自然界の掟であり、賢い生き方でしょう。

 ですが僕は、人の強さに魅せられた。

 君達は立ち向かえますか、目の前の暴威に」

 

 

 

「そうですか──ならば、応えましょう」

 

 

 

「我が名はゴドリック・グリフィンドール!

 勇猛の獅子の名を冠した騎士である!

 髪が、肌が、魔法の有無が、流れる血の色さえもが違おうとも、我等の命の価値は同じである!奪う命の価値もまた同様である!

 我が剣が、悠久の彼方の勇者達と共に在ること、まこと望外の幸福である!ならばその幸運に敬意を払い、全霊を以て応えるとしよう……名乗るが良い!

 叫べ魂の名を、汝が信念の形を!

 未来に吼えろ、夜明けを拓け!

 現れよ、我が身を護り守護する者よ……」

 

 

 

 

 

「「「エクスペクト・パトローナム!!!」」」

 

 

 

 

 

 鹿が、獅子が、黒山羊が。

 暗黒の地へと揃い立つ。

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