シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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ハリー誕生日おめでとー!!なんとか間に合った!!!


33.交差する魔力

 

 国獣とは、その国家を代表する動物のことを指す。

 

 例えばマサチューセッツの銅貨のモチーフにされ、強さや勇気、自由のシンボルとして親しまれているアメリカの白頭鷲などは国獣にぴったりだし、中国では龍やジャイアントパンダのような親しみのある動物が指定されていたりする。

 

 その選定基準は様々だが、どの国においても国獣は特別な存在感を持つ生き物なのだ。

 

 わけてもイギリスの国獣は数多い。

 中でも有名なのは……北アイルランドのシカ、ウェールズのドラゴン、イングランドのライオンだろうか。

 奇しくもこの世紀の魔法頂上決戦という場において、イギリスの守護を担う動物達が揃い踏みしていた。

 

 

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 

 

 ヴォルデモートの生み出した黒い暴風雨。

 心の恐怖が嵐のように吹き荒れる魔法。

 ……今更、恐怖なんかに負けてはいられない。怖いのは脚を止めて死んでしまうこと。脚がすくんで立ち止まる暇などありはしない。

 

(確信がある……倒せる……今ならヴォルデモートを殺すことができる……!!迷うな……!!)

 

 苦楽を共にした杖は、御身を主君に尽くすべく。

 雷鳴よりも暴力的な魔力を灯す。

 限界の境界上を──焼き尽くしながら走り行く。

 

「なるほど……相手の精神に作用して黒い嵐を作る魔法ってわけか!要は吸魂鬼を大量に作ってるようなもの、これなら守護霊の呪文で相殺できる!」

「問題は数だよ!尋常じゃない勢いの嵐……このままだと魔力量でゴリ押される!」

「致し方ありません、嵐にかかりきりになって皆さんのサポートはできなくなりますが……僕の守護霊で迎え打ちます!」

「それは駄目だ、お前の高速の姿現しは絶対に要る!こいつらの足止めなら俺がやるぜ」

 

 ベガがずい、と前に出ると、黒山羊の守護霊は姿を変えて悪魔へと変貌する。

 悪魔は身体に蒼い悪霊の炎を纏い……火焔は勢いを増して踊り狂い始める!

 

「炎が、竜の形に……!」

「これはまるでベラトリックスの──…」

「御名答!これから世代最強を担おうってんだ、たかだか世界一の火炎魔法使いの魔法くらいコピーできなくてどうするよ!」

 

 現れる十三体の火焔の竜。

 それぞれが守護悪霊の指示に従い、火を吹いて嵐に風穴を開けていく。イギリスのドラゴン伝説は有名だ、古来より城の地下で宝を守る悪しき化物として、マグルの寝物語の中ですら語られる存在だ。

 

 しかし一方で、イギリス軍が竜の軍旗を掲げたり、ラグビーの国際チームがドラゴンに例えられていたりと、威厳のある雄大な存在として見られているのも事実。

 シカ、ライオンに続くイギリスの国獣は、イギリス魔法界に仇なす脅威を許しはしない!

 

「『俺にできねえことなんざねえんだよ』、だ!サポートは俺がやる!美味しいとこは譲ってやるよ!!」

「恩に着ます、ベガ君……っと、これを」

 

 ゴドリックはベガの背中に触れると、杖を振って何やら唱える。すると、たちまちベガの身体から紅い火花が弾けて、活力が漲ってくる。中枢神経が整い、オイルマッサージを受けた後のような開放感だ。

 

「身体が軽い……!何した?」

「なんてことはない、ちょっとしたまじないです。あまり長持ちはしませんが、まあ、気休めくらいにはなるでしょう」

「何かよく分からんがありがとよ!」

 

──今かけた魔法は、紅い力である。

 ゴド製の紅い力は他者に付与し、魔力を分け与えることができる。生前は敵から魔力を奪い、こうして味方に付与して戦力を底上げしていたのだ。

 が、説明すると面倒臭いことになりそうなのでゴドリックは黙っておいた。空気の読めるイケメン。

 

「さっきからのヴォルデモートの動き……僕やダンテの即死攻撃を警戒しています。僕達の動きを常に把握していなければならない、という状態です」

「こうなると不意の飛び道具が活きてくる……少しずつではあるが、『他の駒』への警戒が薄くなってきてる」

「シェリー、お前は何も考えずに突っ込むだけでいい。俺達が道を切り拓く。ヴォルデモートにお前のありったけをぶつけてやれ」

「うん!うん?ええ!?わ、私が!?」

「お前だからだよ!お前なら信頼して任せられる。あの野郎に吠え面かかせてやれ!」

「……、はい!」

 

 さあ行くぞというところで、ダンテは僅かに体勢を崩した。ダンテだけが守護霊を出さず、一瞬だがほぼ無防備で攻撃を喰らってしまった。その影響だろうか……。

 

「……ぐっ……」

「ダンテ、大丈夫ですか?動けますか」

「ッ、問題ねえ……」

「……君、いつの間に守護霊の呪文が使えなくなったんです?まったく……」

「チッ、うるせえな。さっきから人のことをネチネチネチネチと……姑じゃねえんだからさあ!」

 

 守護霊の呪文は確かに修得難易度の高い魔法だが、それを差し引いても死喰い人の多くが使うことができないという特徴がある。

 それも当然だろう……自身の行動に対して、迷いなく正義だと言える者にしか守護霊は現れない。スネイプやアンブリッジという恥知らずの例外もいるが、どんな悪人であれ大抵は『自分の行動は悪である』とどこかで思っているものだ。

 ダンテもその例に漏れず、守護霊を使うことをほとんど諦めている。

 

「君の行動が正しいかどうか、考えてる暇はない。

 できないならいい。できることをするまで……そうでしょう?今までも、これからも」

「……ああ、それも分かってる。俺に指図するな!」

「よし!さあ、僕の手を取って、シェリーさん!」

「はい!」

(来るか……!ゴドリック・グリフィンドールの超高速の姿現しが……!)

 

 シェリーがゴドリックの手に触れる……

 …‥それより前に、ヴォルデモートは攻撃を放ち……

 しかしそれより前に、シェリーとゴドリックは瞬間移動を終えていた。

 

(な……っ!?)

 

 予め仕込んでおいた自動迎撃システムがシェリーとゴドリックを攻撃するが、また二人は消える。

 消えて、隠れて、瞬間移動して……高火力の二人が、縦横無尽に戦場を駆け巡る。

 

(この速さ……そうか……ダンテか……!!)

 

 予めダンテが空間を削ることで、瞬間移動のスピードを更に高めているのだ。

 ダンテとゴドリック、『最速の魔法使い』と『次速の魔法使い』によるコンビネーションが、ヴォルデモートのリズムを狂わせていく。

 雀蜂のように飛び回り、隙あらば攻撃をするヒットアンドアウェイの戦法。シンプルだからこそ、崩しようがない。追いつけない……!三者三様の速さで攻める。

 

「シェリー!紅い力で強化された動体視力なら俺達の不意の瞬間移動にもついて来れる筈だ!俺達がサポートするから自分で考えて動いてみろ!!」

「はい!!」

 

 ゴドリックの下から離れると、魔弾の中を掻い潜るように走り回って魔弾を放っていく。攻撃を喰らいそうになれば、ゴドリックやダンテがカバーしてくれる。

 姿現しを主軸にした戦いのハリー戦、高速で動き回るペティグリュー戦、これまでの戦闘経験が、確かな糧となって支えてくれている……!!

 

「分かってるな!?シェリー!止まって、走る!」

「はい!止まって、走る!」

(ダンテさんの教え通りに……もっと正確に、無駄がないように……構え方はスネイプ先生のを参考に……

 ……すごい、すごい!さっきから走り回ってるのに、まだ息が上がってない!)

 

 あくまでシェリーが教わったのは数十分にも満たない僅かな時間。いわば付け焼き刃だが、付けられた刃は極めて優れたものだ。

 降り注ぐ星の雨も、放たれる弾丸も、関係はない。

 誠心こそが、魂の疾走!

 

「この雌豚が……!!出来損ないの分際で一丁前に調子をこきやがって!!」

「その豚に翻弄されてるのはお前だヴォルデモート!あと豚さんに失礼でしょ取り消して!!」

 

 シェリーの魔弾、グリフィンドールの剣、ダンテの消滅魔弾という『攻』の要素。

 シェリーの紅い力、ゴドリックの紅い力と姿現し、ダンテの空間跳躍という『速』の要素。

 そこにベガの不死鳥の炎という『守』の要素が加われば、面白いくらいに効果は覿面だ。

 四人の力の相乗作用、迸るほどに強い!

 

「だが……!この作戦はお前が穴だ、ベガ!」

「……!!」

 

 ヴォルデモートの放つ闇がベガへと向かい、全てを喰らい尽くしながら蹂躙せんとやって来る。

 防御姿勢を取って弾くけれども、後方支援に回っていたベガが分断されるのはまずい。ベガが孤立する……!

 

(ベガは死なないからその点は大丈夫だけど、彼に仕事をさせないようにしているのか……!)

「この高速戦闘に貴様だけがついて来れてないのだ、ベガよ!本来スピードタイプではないとはいえ、それは今大きな欠点として作用している!攻・防・速のうち、防の部分を削ってやるぞ!」

 

「オイオイヴォルデモート帝王陛下ァ〜〜!

 そいつは考えが浅いんじゃねえのォ〜〜!?」

 

 ヴォルデモートが攻撃したベガの影が、揺らめいて残像となって消える。蜃気楼……空気の温度差で光が屈折して、実際の姿とは違って見えるというもの。

 至極単純なトリックだが、蜃気楼が真に隠していたのはベガの姿ではない。もう一体の悪魔の存在だ。

 

「しゅ……守護霊が二体……!?」

「別におかしなことはねえ!そこのゴドは守護霊の呪文でライオンの群れを呼び出せるし、ネロの奴も場面に応じて守護霊を使い分けてた!

 それにテメェ自身、魂を切ったり離したりしてんじゃねえかよ……俺も似たようなことができるんじゃねえかと、そう思ったまでよ!」

 

 この土壇場に来て、ベガの魔法のセンスが右肩上がりに上昇してきている……時間と経験が彼を強くする!

 『守護霊の呪文』『悪霊の炎』『不死鳥の炎』これらを全て同時に操る技量に収まらず、更に高めていくセンスが彼にはある。

 

(……ふふ、なんと頼もしい……僕の守護霊は質より量を重視した獅子の軍隊。一匹一匹はそこまで強くない。

 しかし彼の守護霊は量より質、一体だけで一騎当千の力を持つ悪魔だ。僕にはアレはできないなあ……)

(ムカつくぜ……お前達の感性が……その若さが……。あんなに生き生きと魔法を楽しんでやがる。あのメンタルが俺には足りなかった……)

(すごい……今私には、最強の味方が三人もついてくれているんだ……!)

 

「──お前らァ!あんまグズグズしてんな!こっちはただ足止めだけで終わる気はねえんだよ!!」

「な……!?」

 

 ベガは守護悪霊達をシェリー達の下へ向かわせて、前線に加える。シェリー、ダンテ、ゴドリックの三人を相手取らなければならなかったヴォルデモートだが、ここに来て更に増援が加わった。

 今のベガは、自分と然程変わらない強さの分身を複数体同時に使役し、何も問題ないということだ……!

 

「流石にちょいとばかり脳に負担はかかるが、今の俺には最高のサポート役がついてるからなあ!駒をどう動かすかはあんたらに任せるぜ、ゴド、ダンテ!」

「ええ、任されました、ベガ君!」

「フゥン、ガキが生意気な……脚引っ張ったら承知しねえぞ小僧!」

「ごッ……五対一!」

「俺だけが置いていかれる訳にはいかねえだろ?その程度の浅知恵じゃ魔法の王様はクビだバァカ!」

「この……ガキどもが……!」

 

 焦りと苛立ちが目に見えるようだった。

 ヴォルデモートの帝王としての仮面は剥がれ、卑小で愚かな男の姿が浮き彫りになっていく。こうしている間にも絶え間なくダンブルドアとアレンの遺した呪いが肉体と精神を蝕んでいるのだ。

 全身の毛穴に針を刺されたような……そんな最悪の状態なのだ、ヴォルデモートは。

 追い詰めている。

 肉薄している。

 勝利に向かって走っているという確信が、胸の内に躍動を与えている。光が導いてくれている。

 

(たぶんこの機会を逃せば、ヴォルデモートを倒せる日はもう二度と来ない。アレンが……ダンブルドア先生が遺してくれた呪いが、多少なりともヴォルデモートに影響を与えているんだ)

「10を11にするんだ……私にできることを……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間にしてそれは五分にも満たなかったろう。

 しかし、彼らにとってその五分は濃密に過ぎた。

 何十、何百もの魔弾が飛び交い、数えるのも億劫になるほどの攻防が積み重なって。

 

「フリペンド!」

(あ──来た)

 

 それはシェリーの、戦闘者としての勘だった。

 たぶん、なんとなく、いける。具体性のないふわふわとした直感だったが──胸の内に広がる、この色彩。

 

 

 

 シェリーは勝利のビジョンを想像した。

 

 

 

 そこに向かう方程式が、後から後からやって来る。

 

(──シリウス・フリペンド)

 

 シェリーは通常の射撃呪文を放った後、速度特化の無言呪文を同じ軌道上に放った。

 『遅いが威力のある弾』の後に『速いが威力はない弾』が放たれることで、だいたい同じくらいの威力の弾がぶつかることになる。

 一射目の魔弾に、二射目の魔弾が追い付く。

 

 同質の魔力同士がぶつかり合う現象──いわば魔力のクリティカルヒット。通常狙って出せる現象ではないが、紅い力による早撃ちがそれを可能にする。

 魔弾同士がぶつかり合うのは、丁度ヴォルデモートの左肩の上だ。ダンテの言っていたことが確かならば、分厚い魔力障壁すらも突破できる。

 これまで放ってきた魔弾の数が、今のシェリーに感覚をもたらしていた。文字通りの百戦錬磨──!

 

「……っ!」

 

 魔弾がぶつかり合う直前、ヴォルデモートの杖が魔弾を叩き落とす。絶好のタイミングが潰される。

 ダンテと共に組み上げた必殺技が不発に終わったことで、シェリーの動きは硬直してしまった。元より、魔弾を二連発で放つ隙の大きい技だ。

 ヴォルデモートの紅瞳は、シェリーを捉えている。

 

 

 

「不死鳥の炎ごと!削り切ってくれるわ!!」

 勝利のビジョンは──…

 

 

 

(彼女の攻撃は届かなかったか……!)

(外したか、シェリーの奴……仕方ない)

 

 ダンテとゴドリックは、彼女のことはよく知らない。

 優秀な魔女ではあるものの、良くも悪くもそこまで。それ以上の認識をしていなかったし、それ以上の認識になるべくもなかった。

 だから仕方ないと割り切った。

 彼女をメインに戦うのが一番良かったのだが……それができないのなら、他の手を考えるまで。そうやって思考を切り替えていた。

 

(──シェリー)

 

 だがベガは違う。

 ベガはシェリーを知っている。

 シェリーの諦めの悪さを知っている。

 

(──お前の力は、こんなもんじゃねえよな?)

 

 杖が灼けるような音。

 紅い色は、鮮烈に輝いて。

 緋色の弾丸が螺旋を描く。

 

 シェリー・ポッターは、ここからが強い(怖い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──紅い力の更なる解放」

 勝利のビジョンは未だ、健在。

 

 

 

 放つ弾丸の先──虚無の空間へと跳躍。

 数多くの魔弾を習得してきたシェリーの、初めての空間系の魔法である。

 自身を弾丸のように見立てて、発射する。魔弾が届く距離なら一瞬で移動でき、魔弾の速さによっては本来の姿現しよりも早く飛ぶことができる。

 

 シェリーは姿現しを使うことができない。

 時間が不足していたのもあるし、そもそも彼女は独学で魔法を学んだりできるほど器用ではない。これまでも魔弾のバリエーションを増やしたりするくらいしかしてこなかった。

 

 そこにきてこの空間移動の魔法。

 それはヴォルデモートにとって青天の霹靂であり──

 

「フリペンド──…」

 

 シェリーにとっての、最良のタイミングである。

 

 

 

「──クロス!!」

 

 

 

 交差衝撃。

 二つの魔力が絶妙な度合いでぶつかり合うことで生じる瞬間的局所魔力爆発。本来の魔法の、何倍もの威力を伴って、魔力は弾け、炸裂する。

 ソラに刻まれる十字の傷が、その威力を物語る。

 大気が揺れて、雲は震撼する。

 

「がッ………は……」

 

 ヴォルデモートの左腕が、落ちる。

 他でもない、シェリーの魔法によって……!

 第三神器を破壊した今、もうその腕を治すことはできない。文字通りの致命の一撃だった。

 噴き出した血が、奴の湧き上がる怒りを象徴しているなのようだった。

 

「──殺す」

 

 彼の怒りを言葉で言い表すことは不可能。

 故のシンプルな宣告だったが、むべなるかな、殺意に身体がついて行かない。

 がくん、と、張り詰めていた緊張の糸が千切れ、足元が覚束なくなる。帝王の覇気は確かに衰えていた。

 

「かはっ……はぁ、はぁ」

「シェリー、無事か!」

「うん、だ、だい、じ、はっ、あ〜〜っ、はっ」

「まずは息を整えとけ。良くやった、大金星だぜ」

 

 シェリーもシェリーで、見るからに疲労が溜まっている酷い有様だ。身体の末端に乳酸が溜まり、骨がまるで鉛のように重たい。

 『フリペンド・クロス』、二つ以上のフリペンドをぶつけることで通常の倍以上の威力を生む必殺技。最初はフリペンドを二連射する形で使う予定だったが、『紅い力の更なる解放』の瞬間移動を使って角度をつけることで克服したわけだ。

 しかし慣れていなかったのもあるだろうが、威力に比例してその衝撃も凄まじい。反動で腕が痺れてしまい、手の感覚が曖昧だ。

 

「皆んなは?」

「ゴドとダンテ、それぞれダメージは負っちゃいるが、まあ問題はねえ。治せる怪我だ。少ししたらまた攻めに転じるぞ!」

「うん!」

 

 より色濃く、明確になっていく勝利のビジョン。

 痺れていた腕が感覚を取り戻し始める。握る拳が熱を伝えている。高揚が心臓で跳ねている!

 

「…………」

「おうおうどうしたヴォルデモート陛下!さっきから黙りこくりやがって、降参かァ!?声が小さくて聞こえねえなあ!!」

「…………」

 

 ヴォルデモートの、冷めた目。

 勝負を諦めたわけではなく、勝負そのものへの意義を見出せなくなったような、氷のような目。

 

「……!?何とか言ってみろ!!今のお前は首筋に縄のかかった囚人も同じ!勝つのは私達だ!!」

「俺様を追い詰めたつもりか。俺様の命を獲るまでに、果たしてどれほどの時間がかかるというのか」

「どれほどか分からなくても構わない!何時間だろうが付き合ってやる!皆んなが傷つき命を使ってここまで私達を送り届けてくれて訪れた好機を、絶対に逃してなんかやるものか!!」

「何度でも立ち上がってくるか……その心に偽りはないようだな。いずれはその牙を我が心臓に突き立てる」

 

 

 

「逆に言えば──今すぐ俺様を殺す算段はないわけだ」

 

 

 

「……?」

「何を余裕こいてやがる……追い詰められているのはお前の方だぜ、ヴォルデモート」

「『追い詰めている』こと自体に意味がなかったら?」

 

 ヴォルデモートの言葉に首を傾げる。言っている意味がまるで理解できない。……適当なことを言ってこちらを混乱させようとしているのか?

 

「この暗黒魔城は現在、北海の中心に浮かんでいる。基本的に姿現しは使えないので、敵も味方もすぐには攻め込めん位置だ。シェリーの会得した瞬間移動も、そこなゴドリックの妖精式姿現しも……速度こそ大したものだが、長距離を移動できるような代物ではないだろう。ましてや単純距離で九〇〇キロ、個人の魔法でどうこうできるものではない」

「……だからなに?話が見えないんだけど」

「もし俺様の部下に今、ロンドンに攻め込めと命令したらどうなると思う?」

 

 一瞬、狼狽するけれども……。

 すぐにその困惑は呆れへと変わる。

 まるで人質を取った犯人のような言い草だ。そこまで追い詰められているということか……?

 

「もう沢山人死にが出てんだ、今ここでお前を殺すことに代わりはねえよ。そもそも……死喰い人のほとんどはこの城の中にいるだろうがよお」

「そうだな……では……死喰い人ではなく、爆弾でも仕掛けていたらどうなると思うよ」

「それこそ有り得ねえだろ。そんな奥の手があるならとうの昔に起動してる筈だ!さっきから何をグダグダとくっちゃべっていやがる!」

「起動できない理由があったとしたら?」

「何を──、」

 

 

 

 ぼん、と、何かが弾ける音。

 視界の端っこの方で水柱が立っているのを見た。

 何だ──?何が起こった?という疑問の答えは、とうに出ている。極めて強力な爆弾が海上で炸裂して、分厚い煙が上がっているのだ。

 警鐘を鳴らすかのように狼煙を上げる海上の残骸には見覚えがあった。

 

「夜の騎士バスが……!?」

「──あそこにはスタンが!!」

 

 心臓をひやりとした細指で撫で上げられるよりも、怜悧で恐ろしい出来事だった。あそこには魔法戦士達の凱旋を待つスタン・シャンパイクらが乗っていた筈。金属と魔鋼が悲鳴を上げてぐにゃりと形を変えて、海の中へと沈んでいくのが見えた。

 同時に、最悪のシナリオが頭の中に紡がれる。もしもアレと同じものが、ロンドン中に仕掛けられていたら。

 

「同じもの?なまっちょろいことを言うな。──今の爆弾より威力も、範囲も、殺傷能力も高いやつをロンドン中に仕込んでいる」

 

 勝利のビジョンは、まだ──…

 

 気付けば、肩で息をしていた。空白の脳味噌に詰め込まれる情報が、まるで現実味を帯びていなかった。ヴォルデモートの語る仕草はゆったりと余裕を帯びているのに、まるで追いつかない。目の前の出来事に理解が追いついていかないのだ。

 

「計77の爆弾……それらは俺様の魔力を帯びていて、分類としては罠魔法という括りになる。

 さて、復習しようか?魔力同士がぶつかり合うと起こる現象……何倍もの威力になって弾け、消滅することを果たして何と言ったか?」

「……魔力の……クリティカルヒット……」

「……爆発は連鎖する。魔力がぶつかり合えば、更なる被害が起きる。爆弾が一斉に爆発した後……ほんの一瞬の間をおいて、さらなる規模の魔力爆発が起こる」

「ふざけるな!そんなことさせるか!!」

「なあ、お二人さん」

 

 

 

 

 

「カウントダウンはもう、始まってるんだよ」

 

 

 

 

 

 旋毛から脚の先まで痺れるようだった。

 目を見開いて、血管に緊張が走っていた。

 

「あと二〇分もしないうちに、どデカい花火が打ち上がるだろうよ。何百万もの人間が死ぬ……馬鹿なマグルどもに恐怖と混乱を与えるには十分な数だ」

「………そのためにそんなことを………?」

「それもあるがな。俺様も馬鹿じゃない。オスカーじゃないんだ、快楽より優先することがあるのでな。なあ、シェリー、シェリー、シェリー。紅い力がどういう性質なのか何か忘れたわけではあるまい……?」

 

 

 

 紅い力は、殺せば殺すほど強くなる──…

 

 

 

「……ま、さか。そのために……爆弾を……」

「あくまでサブプランの予定だったがな。宇宙にあった神器を貴様等が壊したことで、俺様の身体には忌まわしい呪いと、弱点が戻ってきたわけだが……

 ……戻ってきたのはそれだけではなかった。殺せば殺すほど強まる力も、戻ってきた」

「…………」

「別に貴様等の判断は間違っちゃいない。

 アレンとダンブルドアが犠牲にならなければ、もっと早い段階で爆発が起こるなり、俺様が強くなるなりしていただろう。

 しかし貴様等が俺様を殺すためには、神器を壊す必要があった。その選択で多くの人間が死ぬことになろうともだ……」

 

 動揺が──支配する。

 

「そんなもの……そんなもの、お前を倒して……今からでも爆弾の解除に向かえば……」

「──それが無理だということは、シェリー、お前も分かっているだろう。この状況を何とかできそうな実力者は軒並みこの城に呼んだのだから……」

 

 脳が、理解を拒んでいた。

 

「俺様はいわば足止めだ。今から何をしようと無駄だ。封印しようが殺そうが……あと少しでやってくる紅い力のエネルギーによって、完全回復できるだろう」

 

 意味のない言葉をつぶやく。

 

「そんなこと……嘘に決まってるだろ……」

「嘘かどうかは、すぐ分かる……」

 

 

 

 勝利のビジョンは──

 

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