シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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37.ヴォルデモート Ⅰ

 奇しくも魔法界とマグル界が、共通の目的のもと轍を重ねるという歴史上稀に見る異常事態。その引き鉄を引いたのは皮肉にも、魔法界の忌み子たるヴォルデモート卿の手によってだった。

 マグルと魔法使いの負の遺産たる彼が、二つの世界を繋げる契機になった……その事実が度し難い理不尽となり降り注いでいる。

 

「貴様等は……何故こうも諦めが悪い……!」

「──死にたくないから……」

 

 無意識のうちに、ヴォルデモートの問いにシェリーは答えていた。自分でもびっくりするくらい自然に出てきた言葉だった。

 

「理屈じゃないんだ。どれだけ人生に絶望したって、死んでしまった方が楽になったって。人は誰だって死にたくないんだ。そういうものなんだよ」

 

 心が整理された者にとって、死は次の大いなる冒険にすぎないのだと、かつてダンブルドアは説いた。

 けれど実際のところ、人々が死を前に心を整理することは難しく、シェリーだって今ようやく死ぬのが怖いと自覚したうちのひとりで、整理なんてついていない。

 

「──だから、尊いんだ。素晴らしいんだ! 死という訳の分からないものに立ち向かっていける人達は……。

 名前も分からない人々が立ち上がってる。こんなに勇気を貰えることはない」

 

 今まで散っていった人達。

 彼等は誰も死にたくなんてなかった筈だ。それなのに力を貸してくれた彼等の行動は、何より賞賛されるべき勇気ある働きだった。

 

「彼等の働きに報いるために、万が一にも爆発なんてさせやしない……爆弾は魔力で動くんでしょう? ならタイムリミットまでに貴方を殺せば不発になる!」

「…………何だその目は」

 

──そんな綺麗な言葉を吐くシェリーのことが、ヴォルデモートには受け入れ難い。

 

「貴様……憎しみはどうしたんだ……憤怒は………」

 

 彼女の心は凪いでいる。怒りとか憎しみとか善とか悪とか行き過ぎて、

 

「俺様が憎くないのか………?」

「少し前までは……そう、思ってたんだけど……」

 

 ヴォルデモートは、もう、怖い存在ではない。

 負の感情をぶつける相手ですらない。

 ただの、敵。

 行く手を阻む路傍の石ころと同じだ。他の障害より大きくて邪魔というだけ……。人は通行止めの看板に悪態をつくことはあっても、憎しみを向けたり、怒りをぶつけたり、ましてや人生を左右されることはない。

 

 ヴォルデモートはシェリーの生きる目的にも死ぬ目的にも成り得ない。あれだけのことをされたのに。

 

 

 

「…………………ッ!」

 

 

 

 それが帝王に言いようのない怒りを生んだ。

 殺す。とにかく、殺す。

 シェリーも、邪魔立てする人間も、全て殺す! 闇の帝王は殺戮の術式を刻んで魔力を練った。

 

「──があッ!?」

 

 そしてその瞬間、ヴォルデモートはよろめく。

 文字通り血反吐を吐き、喉笛が鳴り。何が起こったのか分からない様子で、心臓に手を当てた。

 

「この魔力……貴様いったい何をした……!」

「大層なことは何も。ちょっとした手品ですよ」

 

 ヴォルデモートの視線の先には、なおも臨戦態勢を取るゴドリックの姿があった。

 

 派手で目立つルビーの剣をこれ見よがしに片手で構えつつ、空いたもう片方の手には杖を握る、ゴドリック独自の戦闘スタイル。この構え方には彼が幾度もの戦争で培った経験が活かされている。

 例えば器用に剣と杖を持ち替えてリーチの長さを誤認させたり、攻撃の手数を増やしたりするのだが、視線誘導の役割も兼ねており、戦闘中であってもその目立つ剣を相手がつい目で追ってしまうのだ。

 相手が剣に注目している間に、杖の方で様々な『悪巧み』を仕掛けるのがゴドリック流。

 

 つまり……ヴォルデモートが爆弾について長々と話している間に罠を仕掛けていたのだ。

 

「魔眼持ちの貴方に気付かれないように仕込むのは骨が折れましたが、ダンテの娘さんやシェリーさんの挑発で意識が逸れた隙を狙いました」

(私達が話してる隙にそんなことを……)

(父さん知ってるんだこの人)

「それでも大した効果の罠というわけではなく、パフが考案した肉体の新陳代謝や魔力の流れを活性化させる特殊な魔法の種子に過ぎません。

 しかし──呪いを受けている貴方にとって、その種子は血管に激痛を走らせ骨を腐らせる毒に等しい」

 

 ダンブルドアとアレンの呪いに加え、ゴドリックの仕掛けによって降り掛かる激痛のほどは計り知れない。

 

「彼はもう立っているだけでやっとの状態の筈です。おそらくは魔力も上手く練れないのではないですか?体力も残りわずかと言ったところ」

「……俺様は、膝は……つかん……!」

「凄い精神力ですね……類稀なる魔術の才といい、真に優れた人材であったことは確か。出会った時にはもう闇に堕ちていたことが残念でなりません」

 

 魔法界は腐敗するべくして腐敗している。

 寿命がマグルよりも長い以上、どうやったって老人ばかりが権力の座について、その席は中々空かない。子供は大人を理解できないものだが、大人が若さを忘れてしまうことは罪である。

 そういう魔法界の歪みが、ヴォルデモートを作り出してしまったのだ。

 

(……何か一つ間違えていれば、あそこに立っていたのは俺の方だったかもしれねえ)

 

 どれだけ異なる道を行こうとも……。

 ベガはヴォルデモートのことが、他人事のように思えないところがあった。年に一回のペースで顔を合わせるのだから親戚のおじさんと同じ頻度で会っているのだ。

 おまけに毎度毎度こちらを悩ませてくるし、嫌でも人となりを理解してくるというもの。

 

(こいつを倒して終わりじゃない。たまたまトム・リドルという男が規格外の才能を持ってたってだけで、次のヴォルデモートが生まれないようにしねえと、何の意味もねえんだ……)

 

 ベガはヴォルデモートに同情しない。

 同情しないが、理解をしようとしていた。

 

「……ああ、どいつもこいつも! 傲慢にも俺様のことを分かったつもりでいやがる!

 ヴォルデモート卿の名は恐怖の象徴! 恐怖を理解することなどできない。理解できないから恐怖なのだ!」

「…………何を……!?」

 

 シェリーも、ベガも、ゴドリックも、リラも。

 全員がヴォルデモートの動きを警戒していた。

 警戒していて尚出遅れたのは、死に体のヴォルデモートの魔力が突如として膨れ上がったからだ。予備動作もなく未来視にも映っていなかった!

 

「一体何を──暗っ!?」

 

 ほとんどが黒系の素材で出来ており、薄暗い雰囲気の暗黒魔城だが、きちんと戦いやすいように光は通るようになっている。全てが黒一色の空間では日常生活もままならないだろう。

 だが、たちまち城から全ての光と色が奪われる。仮にも城であったものが、黒いだけの空飛ぶ塊になる。

 立体感のない黒いオブジェクトの上に立っているかのような感覚だ。確かにそこに立っている筈なのに、金縛りに遭ったかのように足がすくんでしまう。

 

 ふつう人間は狭く圧迫感のある空間には不安や息苦しさを感じるものだ。そこが見知った部屋であるとか、住み慣れた場所であればともかく、訳も分からず狭い部屋に閉じ込められたりすれば恐ろしいだろう。

 おまけに黒色というのは人間が恐怖を感じやすい色だという話もあり、シェリーは動きを止めてしまった。

 

「──何が起きて……

 ヴォルデモートに魔力が流れてる……!?」

 

 ヴォルデモートが暗黒魔城内の様子をつぶさに観察できたのは、彼の魔力が城全体に薄っすらと流れて情報が脳内に送られる仕組みになっているからだ。

 

「その魔力を利用して、城にいる魔法使い達から魔力を吸い取っているのか……!?」

 

 その証拠に、現在体を構築している要素のほとんどを魔力が占めているゴドリックが、がくんと大きく体制を崩した。ベガがすかさず不死鳥の炎をゴドリックに使わなければ、もっと酷いことになっていただろう。

 

 

 

「魔力ヲ──寄越セ──」

 

 

 

 ヴォルデモートはそう言って。

 光さえ通さぬ漆黒のペンキを被ったような、黒いどろどろの姿へと変わり果てて、形を維持するのも難しくなったのか、ボロボロに崩れて床に飲み込まれて消える。

 息をするのは静寂のみ。

 もうヴォルデモートの気配は感じられないが──嫌な確信だけはある。まだ終わりではない。ヴォルデモートの魔力が、淡々と蠢動を始めていた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「全テハ──俺様ノモノ──」

 

 

 

 

 

「なっ、なんだこいつ!?」

「全然こっちの魔法が効かねえぞ!」

 

 闇の帝王改め、黒いどろどろは、城の各地に現れて不気味に言葉を発する。

 それが少しずつ大きくなっていき、全てを喰らわんと世界を跋扈していく。世界にインクの染みが広がっていくような、おどろおどろしい不気味な現象。

 

「クソ、こっちに来んな──うわああああっ!?」

「おいっ、大丈夫か!?」

「黒いのに近付くな! 一度捕まったら最後、底なし沼みたいに呑み込まれる!」

 

 どろどろは自身の侵蝕した空間から魔力と生命力を吸い尽くす厄介な性質を持っていた。

 元々悪趣味な装飾ばかりの城だったが、それらも覆い尽くすようにして広がり、奪っていく。明らかに自然現象の類ではない、悪意に塗れた黒いナニカ。

 魔法が効かない──どころか魔法を吸収して肥大してますます膨れ上がっていく!

 

「ハァ、ハァ……舐めた真似しやがって……これも死喰い人どもの策略か何かか? こんなやつにやられても仕方ねえぞ! 俺が食い止める! お前らはさっさと立たねえか!」

 

 ようやく体力が回復してきたアバーフォースが、息を荒げながらも渾身の力を振り絞って魔法を放つ。

 白く光る壁が騎士団員と黒いどろどろを分つようにして現れ、僅かながらも侵略を遅らせる。

 

「アバさん……! 俺達はアバさんのサポートだ! 手傷を負った者は無理せずに逃げろ!」

「……この黒いの……もしかして……」

「どうした、アバさん?」

「何でもねえ。……俺も傷が深い、長くは保たん。力入れろ……っ!」

 

 

 

 

 

「──寄越セ──寄越セ──」

 

 

 

 

 

「ゴドの奴、適当な仕事してくれるわね……!」

 

 舌打ちを挟みつつ、古代魔術による分厚い魔法壁が輩の侵入を阻む。下手な防弾ガラスよりも強度と耐久性に優れた障壁の前には、どんな攻撃も通用しない。

 

「モールス作戦は中止だ、ハーマイオニー! 多分もう伝えたい事柄は伝えられた! 僕達は例のあの人を倒した後もこの城が無事に不時着できるように、管制塔の制御を──…」

「危ない、ロン!」

「うおおおおっ!? びっくりした!!」

 

 とはいえ、その黒いナニカは空間など関係ない。

 部屋の中に埃が舞うのと同じで、前触れもなく何処にでも現れて汚していく。

 仮にも魔法使いの精鋭達が揃ってこの不可思議な現象に二の足を踏んでいるのは、生物とも非生物ともつかないこのどろどろが、この世界の常識の挙動をしていなかったからである。

 

「────! ゴミ情報が多すぎる……」

 

 ロウェナ・レイブンクローの魔眼は、あらゆる魔力的要素を解析して理解するというもの。

 彼女の瞳に写るどろどろは、あまりに多種多様な生物の成分や器官で溢れており、この世の全ての生き物を集めて圧縮したような……悍ましいものだった。

 

(基本的な生命活動を行うだけで、空気を汚し、他者から魔力を奪う、公害物質のような生命体……。もしこんなものが城から出て一般市民を襲ったら……)

 

「チッ……本当に面倒なこと……!」

 

 

 

 

 

「奪エ 奪エ」

 

「寄越セ 寄越セ」

 

「オソレ ニクシミ クルシミ ヒガミ」

 

「恐怖ガ オレサマノ シモベ」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「…………何だありゃあ……」

 

 ベガの指摘はもっともである。

 黒いどろどろがひとところに集まったかと思えば、明らかに生態系の理から大きく外れた姿へと変貌した。

 現れたのはヴォルデモート。だがその姿は、先程までとは大きく異なっていた。

 分霊箱の影響を受けた、恐ろしい蛇面……。

 

「……あれが、ヴォルデモート……!?」

 

 そしてしかも、顔から下も人間のそれではない。

 実体の見えぬ肉体に、細く伸びた手脚、黒い魔力のような何かが渦巻いて……全体がよじれ、歪み、ねじ曲がって、異様で恐ろしい姿に変わっていく。

 皮膚の内側で魔力と血流が逆方向に流れ、骨と腱と関節が滅茶苦茶な方向に飛び出した。両の瞳はぐりんぐりんと裏返った。

 

 細枝のようにすらりと伸びていた手脚はこれでもかというほどに変色し膨張し、大蛇のようにのたうつ。

 肩甲骨の周辺が大きく抉れるようにごつごつと瘤のように膨れ上がり、やがてそれは巨大な翼となった。まるで黒いコウモリの翼だった。

 心臓の鼓動と共に、骨という骨ががらんがらんと鳴り響く。嵐の夜に身を捩らせる枯木のような不快な哄笑が、悪魔の口から壊れた蛇口のように迸った。

 

 ……果たしてそれを人間と定義して良いものか。

 

 それはまるで、お伽噺の魔王だった。あるいは、悪夢の世界から這い出た怪物だった。生物でも霊魂でもない、別次元の存在へと成ったのだ。

 

 

 

「ピーターやハリーの時と同じ……」

「ベラトリックスの時もこんなんだったな……」

 

 人間以外にも、魔法を使う生物はいる。

 例えば屋敷しもべ妖精は魔法の素養を持つし、ボガートは高度な開心術の使い手だ。

 正確には魔法とは少し違うが、吸魂鬼や不死鳥、セストラルなどは魔法に近しい能力を持っている。

 

「魔法とは何も魔法族の専売特許じゃない。より強力な魔法を使うには、人間の肉体が枷となる場合もある。おそらく帝王は今……攻撃魔法に特化した肉体に変わったのでしょう」

「逆に言えば、それくらい追い詰められてるってことだろうよ。もうひと踏ん張り……ぐッ、ごほっ!?」

「がはっ、げほ……こ、これは……」

「二人とも、どうしたの!?」

 

 ベガとゴドリックは、口に手を当てて苦しそうに咳をして……手にべっちょりとこびりついた血反吐に、思わず目を丸くした。

 シェリーとリラは何ともないが、何やら空気が澱んでいるのを感じる。

 

「人間が繁栄のために河川や森を汚すように……帝王が息をするだけで空気中から魔力を奪っているのか? 自身のエネルギーを補うために……!」

 

 

 

 

 

 

 

そのとおりだ あかじしのおうよ

 

 

 

 

 

 化物は、到底理解できる言語を喋っていなかった。

 そのことに、化物自身驚いていた。

 

「? ……?? あれ、耳に何か詰まったかな……」

「いや、お前の耳は正常だぜ、リラ。俺も今、変な風に聞こえた」

「口はあるようだが、人間の舌ではないのか?」

「え? 確かにちょっと変な感じだったけど、皆んなヴォルデモートの言ってることが分からないの?」

 

 シェリーの困惑。彼女だけが、ヴォルデモートの言葉を理解できる……そういう場面に既視感を抱いたベガは記憶を辿り、一つの答えを導き出した。

 

「……蛇語(パーセルタング)、か?」

「あっ、言われてみれば、そんな感じかも……」

「人間とは全く異なる構造に変わったことで、逆に人間の言葉で発音できなくなったってことか。強さの行き着く果てがあんな化物とは、ああはなりたくねえな」

 

……ふふふ ははは おまえだけが よりにもよっておまえだけが おれさまのことをりかいできるとは

ひにくなものだ

あのときすてたはずのおまえが いま かべとなってたちふさがっている

 

「シェリー、あいつはなんて……?」

「よっぽど私のことが気に入らないみたい。特に意味のあることは喋ってないよ。それよりも、あいつの使う呪文を皆んなが聞き取れないのはまずい……」

 

 

 

 

 

「いや──我が君のお言葉を賜ることができない方がよほど問題さね!」

 

 地獄の怨嗟が聞こえてきたかのようだった。突如として現れた女は、ぼろぼろの黒衣を引き摺って、憎しみと復讐心を混ぜ合わせた濁った黒い瞳を向けていた。

 

「ベ、ベラトリックス!?」

「あいつ、嘘だろ!? さっき確かに火だるまになりながら城の外に放り出された筈だろ! 海に落ちたところも見た……あれで生きてたのかよ!?」

「……はははは! 地獄の底から蘇ったのさ! それよりも我が君、そのお姿は一体どうされたのです? 随分と人相もお変わりになられているようですが」

 

いきていたか べらとりっくす

 おまえはじつによく やくにたってくれる

 

「シェリー・ポッタァー! 翻訳しな!」

「え、う、うん……いい?」

「まあ良いんじゃね……?」

「ええと、貴方が元気で嬉しいって」

「ハーッハッハッ! 感謝の極みで御座います!」

「良かったね……元気そうで……」

 

このからだは あかいちからのさらなるかいほう

 おれさまがさいきょうであるために

 ひとのみをすてて てにいれたすがた

 しゅういのまりょくをくらい わがものとする

 じきにこのしろは あんこくにそまる

 

「……! 推測は当たってたみたい。周囲から魔力を吸い尽くして自分の力に変える……って……」

「素晴らしいです、我が君! 然らばこの逆徒どもから魔力を吸い尽くし、忌まわしき反乱分子どもを根絶やしに致しましょう!」

「わあ、すごいこと言ってますよあの人……」

 

いま おれさまのちからは はかいにすべてのちからをそそいでいる こまかなまりょくそうさはすてて じぶんのきょうかを さいゆうせんしている きさまをいやすすべを いまはもたぬ ゆるせよ……

 

「ヴォルデモートは攻撃に全ての力を注いだ形態……他人への癒しの魔法も使えないんだって」

「おお……我が君のために戦えないこと、残念極まりありません。しかしながら、この者達を倒した後、魔力が戻った後でならば、いくらでも貴方様のために殺してみせましょうとも!」

「好き勝手言いやがって」

「黙りなベガ! ……我が君、この者達への処罰はなるべく時間をかけて行うのがよろしいかと。じわりじわりと嬲り殺しにすることで、貴方様の怒りもいずれ晴れましょうや」

 

「………………きさま……」

ほんとうに べらとりっくすか……?

なぜおれさまのまりょくで くるしむそぶりをみせない……?

 

 

 

「……え? 何を言って……

 うわあ!? 何してるの!?!?」

「くっ……! わ、我が君! 何故私を!?」

 

 化物は、長い翼をギロチンのようにベラトリックスの脳天へと振り下ろす。彼女は間一髪でそれを躱すものの、その表情は困惑に染まっていた。

 

「わ、私めが何か差し出がましいことをしてしまいましたでしょうか? 貴方様の方針に口を出してしまったことをお怒りになられておられるのですか?」

 

「……きさま、れいのよろいは だれにつくらせたものだ?

 

「??? えーと、『例の鎧は誰に作らせたものだ』って聞いてるけど……」

「……鎧、ですか……?」

「────!」

 

 ヴォルデモートから発せられた質問に、ベラトリックスは言い淀む。その僅かな沈黙が、ヴォルデモートと、それからベガに一つの確信を抱かせた。

 

やはりきさま べらとりっくすではないな!

「『貴様はベラトリックスではない』……ええっ!?」

 

 今度は殺す気なのだろう、ヴォルデモートの眼前の空間から黒い魔弾が放たれる。大地を捻じ切り、空間を歪ませる一撃に、ベラトリックスはただ回避に徹するより他になかった。

 

「我が君! おやめください、我が君! ……全然やめる気配ないし。くっそー、バレちゃったかー。もう少し情報引き出すつもりだったのになー」

「貴方は……トンクス!?」

「ん! シェリー、さっきぶり! 他の皆んなも! 約一名なんかよく知らないお兄さんがいるけど、味方ってことでいいんだよね?」

「ええ、ゴドリックです。よろしく」

 

 ベラトリックスが自分に薬品をかけると、黒かった髪はたちまち派手なピンク色へと染まり、青白い肌は健康的な明るい色へと変わった。

 

「七変化と即席ポリジュースがあれば、まあそれっぽく見えるっしょ? こんな変装、普段のあいつなら簡単に見破ってた筈だし……やっぱ力のほとんどを攻撃に充ててるっぽいね」

「……ハハッ、値千金の情報だぜ!」

 

……べらとりっくす……

 きさままで……きさままで おれさまのまえからきえていなくなるのか!

 

「……ヴォルデモート? 貴方、何を言って……」

 

 ヴォルデモートは大きな翅をはためかせた。夜明け前の漆黒の空を、不吉で禍々しい黒の風切り羽が切り裂いていく。

 闇を統べる暴君は、空の上に君臨した。

 

ぜんいん みなごろしだ(全員 皆殺シダ)

 

 瞬間。

 凄まじいまでの緑の閃光が吹き荒び、空飛ぶ鉄の城はその巨体を大きく傾かせた。

 この攻撃がきっかけで、暗黒魔城は墜落する。

 




金曜日さんの作ったフォント使わせていただきましたー!
ルビやらフォントの入力で文字数が増えてる。けど多分本編の内容自体はそんなに書いてない罠。
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