シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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40.ヴォルデモート Ⅳ

 

「お父さん……?」

「シェリー、シェリー! 僕の愛娘シェリー! ああそうさ、父さんだ! 随分背が伸びたなぁ、リリーよりも頭ひとつ高い! ははっ、こんなに綺麗なレディに育ってくれて感無量だよ!」

 

 ジェームズ・ポッターは、少年らしいあどけなさが残る悪戯っぽい笑みをにかっと浮かべる。……死んでいる筈なのに、とても活き活きと。

 事実死んではいるのだろう、ゴーストのように蒼白い姿でふわりと宙に浮かんでいた。

 

「さ、僕の姫(マイハニー)。足元にお気をつけて。お手をお貸ししますよ」

「貴方の惚れた女は、誰かに守ってもらわなければいけないようなか弱い存在じゃないって、貴方が一番よく分かっているでしょう?」

「惚れた女の前だからこそ格好つけたいものさ。名誉挽回の機会とあれば、尚更ね。奇しくもあの夜と似たシチュエーションだろう?」

 

 現れた新たな女性の声に振り向くと、そこには、自分とまったく同じ顔の女性が空の上に浮かんでいた。シェリーと並べたら姉妹と間違われること請け合いだろう。

 

「ハァイ、シェリー。……ほんっと、大きくなったわよねぇ。母さん誇らしいわ」

「お母さん……」

 

 年齢はだいたい一緒で、シェリーの方が背が高い筈なのに、リリーの方が何だか大人びて見える。容姿だけではなく……なんというかその立ち姿というか、話し方というか。そういったものがずっともっと綺麗だ。

 

 どうしたものだろう、どうしようもないくらいに泣きそうになる。あんなに……何度も何度も夢見た理想のヒーローが二人、助けに来てくれた。

 ……いや。本当の父と母では、ない。

 シェリーは、ホムンクルスだ。

 

「あ……お父さ……あ、いや、……ジェームズさん、リリーさん……その……」

「おい おい おい!

 なーに余所余所しい態度取っちゃってんだい?君は僕の娘なんだから『お父さん』って呼んでくれないと困っちゃうぜ」

「え、あ……お、お父さん」

「ねえシェリー、私は? ねえねえ」

「お、お母さん」

「は〜いお母さんですよ〜♡」

「リリーったら浮かれてら。シェリーはもう赤ん坊じゃないんだぜ?」

 

 きゃいきゃいとシェリーの頭を撫でるリリーの姿には微笑ましいものがあったが、そんな光景もまるで不気味なものを見るかのように、ヴォルデモートは異形の顔面を歪みに歪めた。

 

「……有り得ん……どうやって!?」

「君の大嫌いな愛の力ってやつかな。……お? 僕達にもそのシューシュー声が聞こえるぞ。シェリーの魔力が作用して蛇語を聞き取れるようになったか? 魔法も使えるみたいだ。

 ……おいおい何だよその間抜け面は。僕が知ってる蛇面の時からちったあ威厳がついたかと思えば、性根は変わってないらしい」

「間抜け面……クク……俺様がそんな顔を?

 ハハハ……ハハハハハハ!」

 

 ヴォルデモートは哄笑を上げる。

 怒るでもなく嘆くでもなく、感情が一周して可笑しくて堪らないと言わんばかりに、笑う。

 

「そうだなァ……していたのだろうよ。あんまり可笑しなことが起こるのでな、笑うしかないわ。

 またお得意の奇跡とやらか? イレギュラーばかり起こしおって……だが、まあ、良い」

 

 何度目かも分からぬ激昂を抑え、帝王は冷静にかぶりを振った。

 

「元よりこの姿になった時から、俺様も覚悟を決めている……この姿は変身ではなく変態。一度変われば二度と元には戻れぬ身の上……」

 

 一度変わってしまえば、全てが崩れ去る。

 きっと、誰からも愛されなくなってしまう。

 

「だが敗北()よりは、遥かに良い!

 この戦いより後、味わえる食事がなくとも、言の葉を交わし合う相手がいなくとも……もはや構うことはない!

 シェリー、貴様さえいなければな!」

 

 満ちる宵闇の王が轡を鳴らすことない。

 あるのは蹂躙のみ──!

 虚ろで残虐な闇の鼓動を、僅か数十メートル先でシェリーは感じ取った。

 

「修行僧かよ。そんなんじゃモテないぜ?」

 

 しかし(キング)に楯突く愚か者(ジョーカー)はいた。

 いたずら好きの悪童(トリックスター)がけらけらと笑う。

 

「ところでさァヴォルデモート殿。人生最後の日に何を食べたいか考えたことはあるかい?」

「あると思うか? 俺様の人生は終わらない」

「そうかい、残念! 君にもご馳走してあげようと思ってね! 君の大っ嫌いな愛の力を! 嫌いな食べ物を仕込むのは、初歩も初歩の悪戯だろ!?」

「貴様もせいぜい噛み締めろ──愛とやらを!」

 

 再度、ヴォルデモートは攻撃に転じる。

 当たれば終わりの破壊の弾。空間がヒリつき、呼吸する分の空気さえ持っていかれそうになる。

 雷光一閃。

 翡翠の咆哮が曇天を突く。

 

 

 

「がッ……!?」

 

 

 

 しかし──着弾したと思った瞬間、ヴォルデモートの翅が焼け焦げる。ティッシュでも破いたみたいにぼろぼろだ。この破壊痕……『位置の入れ替え』という現象が起こった……?

 

「おっと失礼、前菜はあんたの魔法だったな。嘘をついて騙すのも、初歩の悪戯だぜ!」

「この俺様を謀るとは……痴れ者めが……! よほど灸を据えられたいと見えるな!」

「あだ名が好きなのか? なら僕も君に、ヴォルデモートより良いのをつけてやる。地獄で名乗れ。『僕の名前は負け犬です』

「よく回る舌だ、切り裂いてくれる!」

 

 騎士(ゴド)悪魔(ベガ)簒奪者(ダンテ)

 三者三様の最強の賓客が帝王を饗した。

 そして最後に招かれた(ゲスト)は、王。

 悪戯の王様(トリッキング・キング)──ジェームズ・ポッター!

 

「俺様も新しく知見を得たよ……どうやら死んでも性格は治らんらしい! ならばもう一度地獄の淵に叩き込むまで!

──貴様達が奇跡を起こすなら、その奇跡を塗り潰す絶望になってやろう! 舐めるなよ──俺様は闇の帝王! ヴォルデモートだぞ!!」

「王様だって? なら見せてやる、一世二代の逆転劇ってやつを! 革命(Revolution)だ!」

 

「シェリー、仲間を待つ必要はないわ。貴方を助けるための魔力を感じる……ここで決めてしまいなさい! 大丈夫、貴方ならできるわ」

「お母さん……!」

「そうよ、だって、貴方には私達がついてる。最強無敵の愛という力は、どんな魔法にだって負けやしないわよ! そうでしょう?」

「はい──お母さん、勝ちます、絶対に!」

 

 シェリーが獰猛に笑うのと反対に、ヴォルデモートの眉間には強烈な皺が刻まれていく。帝王の黒い翅はもう元に戻っていた。ヴォルデモートは大きく翅を振るうと、翅先から雷撃を発生させた。

 

「何っ……でもありだな! この馬鹿!」

「シェリー! 絶対に攻撃に当たったら駄目よ!」

「分かってる!」

 

 暗黒魔城の更に上──ヴォルデモートを中心に乱気流が湧き上がり、砕けた瓦礫が空に浮く。

 その瓦礫の上をシェリーは走り、飛び移り、時として転がり回り……攻撃の隙を伺う。

 

「大丈夫、足場はある。落ち着いて」

「必ずその時が来る。気張れよ、シェリー!」

 

 そのシェリーを守るようにして、最愛の二人が彼女の周りを飛び回る。彼等が勇気をくれる。心臓に熱を与えてくれる。くたくたになった筈の身体が羽根のように軽い。こんなのは、初めてだ!

 

「アアアァァァアアアアアア…………」

 

 シェリーの喜びに水を差すようにして、ヴォルデモートが叫びともつかない唸り声を上げた。

 稲光と、劫火が、眼前で爆ぜる。

 それはヴォルデモートの『ひと呼吸(いき)』。

 瞬間、視界が白ばむ。これより起こる大惨劇を予兆するかのように。宇宙の法則を軋ませて解き放たれた魔力の束は、そもそも誰を狙ったものというわけではなかった。

 

「──来るぞ!」

 

 颶風の唸りを上げて、息を吐く。

 天が叫び、地が嘆く。

 撃ち墜とすは敵に収まらず──世界そのものに奈落を拓き、虚無の彼方に放り去る。

 

ボンバーダ(爆破せよ)!」

 

 空間を拠り所としていた万物──空気、塵、瓦礫や石ころの一つに至るまで、更に散り散りになって消えていく。

 あの魔力に触れてしまえば、二、三回は死ぬという確信がある。

 全てを無に帰す闇の中、たった一つ、黒く揺蕩うヴォルデモートの姿が君臨する。

 

「そうれ、逃げろ、逃げろ! 力無き羽虫ども!」

 

 ヴォルデモートが嘲笑う。魔力の余波で、砕けた瓦礫がシェリーの頭上へと降り注いでいく。それは終わった星が堕ちていく様に似ていた。

 

「貴様らには何もできない。ここで指を咥えて、俺様の魔法の餌食となるがいい! ああ、それとも神に祈るか? さすれば楽に死ねるだろう!」

 

 浮いていた瓦礫に火煙がついて墜落し、飴細工が如く溶けていく。直撃を免れたシェリーでさえも無事では済まない。熱波が身を焦がしていく。

 まるでこの世の終わりのような光景。

 今のヴォルデモートならば、世界中を敵に回したとて勝てるのではないかと、錯覚するほどの。

 

「次元が違いすぎる」

 

 力の差に絶望した訳ではなかったが、それでもシェリーが思わずポツリと呟いてしまうほど、今のヴォルデモートの魔法は常軌を逸している。

 魔法の天才が、相応の努力と経験を積み、魔法界の頂点に君臨するほどの力を身につけて……その上で自身の全てを擲って得た力。

 シェリー一人では、絶対に勝てやしない。

 

「はっ、はははは……やっべえ!

 見たか、シェリー? 今の攻撃!

 僕達今からあれを倒すんだぜ? 最高だ!」

「父さん、いくよ!」

「ああ、ついていこう!」

 

 だがシェリーは一人ではなかった。

 ぽう、と青白い光が杖先に灯る。

 不安はない。この人達と一緒なら、どんな困難も跳ね除けられる気がした。ベガ達とはまた違う、言いようのない安心があった。

 思えばジェームズはいつだって、誰かを笑わせるのが大好きなラフメイカー。最高の時間を過ごすためにやってきた男なのだ!

 

「エクスペクト・パトローナム! 守護霊弾!」

 

 銀色に光る鹿が、闇の帝王の喉笛を食い千切らんと勇敢に道なき道を走っていく。

 そしてジェームズとリリーも──どういう理屈か分からないが──鹿の守護霊を呼び出して、シェリーの守護霊と共に走る。

 三頭の鹿が血気盛んにヴォルデモートへと飛び掛かり、ツノと蹄を喰らわせた。

 

「ああ……忌々しい、うざったい! 貴様等の悪足掻きもうんざりだ!」

 

 ヴォルデモートの裂帛の咆哮が、びりびりと空気を震わせる。その様は神話に出てくる悪魔や怪物そのもので……帝王の闇が濃くなれば濃くなるほど、守護霊の銀の輝きが、美しい光となる。

 鹿が雄々しく嘶きを上げた。より強く、より猛々しく、眩く光っていく──!

 

「…………!? 何だ、この力は……!?」

 

 その極光の強さは、ヴォルデモートでさえ想像だにしていなかった。たかだか守護霊ごとき、直ぐに壊してしまえると思っていた。

 だが意に反して、守護霊達はヴォルデモートの魔力を弾いていく。銀の鱗粉を撒きながら、角を高く突き上げて、帝王の肉を穿ち、引き裂くのだ。

 

 そう、守護霊は幸せな感情をトリガーにして放たれる魔法である。どれだけ魔力を吸おうとも、憎しみを奪おうとも、帝王に幸福だけは奪えない。

 

「チッ、邪魔だ──切り裂け(ディフィンド)!」

 

 ヴォルデモートの放つ透明の刃は、ただ真っ直ぐ飛ぶだけのシンプルな軌道を描く。問題なのはその斬撃に込められた魔力と、熱量。その呪文をシェリーが唱えたとしても、これほど破壊的な力の奔流が吹き荒れることなどない。

 三頭の鹿はバターでも切るみたいに容易く両断それて、ようやく動きを止め、霧散した。

 

「…………? !? どこだ……!」

 

 安堵も束の間、今度はシェリーの姿が消える。

 ジェームズとリリーの影も見えない、これは……透明マントを使ったのだ。

 

(攻撃に特化したこの姿になって……俺様は魔力を感知する能力が劣化したのか……!)

 

 ヴォルデモートは強くなったのではない。

 あらゆる魔法の達人から、攻撃魔法の達人へと変わっただけだ。それが仇となり、隙を生む。

 

「フリペンド!」

「──!」

 

 紅の弾丸に気付けたのは、研ぎ澄まされた神経があってこそだ。不意打ちを狙うにしては、あまりに稚拙な一撃。ヴォルデモートは回避でも防御でもなくあくまで反撃という選択肢をとった。

 

 この程度の魔弾、かき消してくれる──!

 

 

 

「そして──シリウス・フリペンド」

「な……ッ」

 

 シェリーは既に第二撃を放っていた。

 光さえ置き去りにした俊撃は、たちまち、第一撃に追いついてしまった。

 二つの魔弾がヴォルデモートの眼前で混じり、超音速の爆弾となって弾け飛ぶ。超高圧に凝縮された空気が、烈風の一撃となって叩きつけられる。

 紅蓮に舞う血の雫。誰の流血かは言うまでもないだろう。ヴォルデモートの眉根には、ありありと苦痛の色が広がった。

 

「がああああああ──ッ!」

 

 腹の底から湧いて出る、叫び。

 苦痛がヴォルデモートを染め上げる。帝王の視界には、いつの間に透明マントから出たのか、リリーの姿があった。

 

「満足かしら、ヴォルデモート!」

「何だと……ッ」

「貴方言ったわよ、善も悪もないって! 力を持つ者と力を追求できぬ弱き者しかいないんだって! 弱者をいたぶるのが随分とお気に入りのようだけれど、貴方はより強い力に滅ぼされた時、果たして笑っていられるのかしら」

「黙れ!」

「楽しくなんかないわよ、私は。魔法はもっと楽しいものだもの……愛は戦いの道具じゃないもの」

「黙れと言っている!」

 

 ヴォルデモートは唸った。

 

「分かったような口を効くなよ──愛とやらが無敵なら、迫り来る死を跳ね除けることなど容易かったはずだ──そうだろうが?

 勝つのは自分だと思ってやまない顔だな! 偶然生き残った女の子、ダンブルドアに操られていたことにも無自覚で──…」

「偶然? お母さんが命を賭して私を守ってくれたことが、偶然?」

 

 ヴォルデモートが今、透明マントを看破できないのであれば、すぐにまたそれを被って撹乱すべきなのだが、シェリーは、あまりにもあまりな帝王の言い草に我慢ならなかった。

 

「私があの墓場で、戦いを決意した時のことを? こうして貴方を倒しにやってきたことを、偶然の一言で済ませるつもり?」

「偶然だ! 他の偉大な者達の影に隠れてきた、弱虫の女の子、それが貴様だ! 今日は誰を身代わりに生き延びるつもりだ? 好きなだけ言えばいい、殺してやるとも!」

「今夜の貴方は、他の誰も殺せない!」

「よくも──」

「私は貴方の知らないことを知っている──」

 

 ヴォルデモートは歯噛みした。シェリーの騙る言葉を否定せねば生きていけないようだった。

 

「知らないこと? 何だ? それは何だ?

 また愛か? ダンブルドアお得意の!

 愛、愛! それのみが死に打ち克つとダンブルドアは嘯いたな。だが、愛は、穢れた血の母親が、虫ケラのように俺様に踏みつけにされるのを防いでくれたのか? 愛は──」

 

 次の言葉は紡げなかった。

 あろうことかシェリーの言葉に、反論する余地を残せなかったのだ。

 

 

 

「貴方の死の呪いは──確かに私に直撃した。

 だけど、貴方は、殺せなかった。

 私は生きてる。これも偶然? この現象も偶然で片付けるつもり? お得意の(・・・・)偶然で」

「────」

 

 

 

 とうとうヴォルデモートは押し黙った。屈辱に言葉を失っていた。

 ヴォルデモートに恐怖があるのだとすれば、それはきっとシェリーの形をしている。

 

貴方の知らない私の最大の協力者(シェリー・ポッター)が、私の命を救ってくれたこと──偶然なんかじゃない」

 

 僅かに時間が流れたのち、ヴォルデモートは末恐ろしい声色でもって言った。

 

「やり直しだ──次こそ貴様を殺す──死の運命は変わりはしない! 今度こそ……!」

「そう、やり直しだよ! 終わらせよう、トム・リドル。あの夜と同じように……私達だけで!」

 

 役者は揃っていた。

 死の先のいやはてさえ、運命を知らなかった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 時を同じくして、墜落の運命を辿っていた暗黒魔城は不死鳥の騎士団と死喰い人達の一時的な協力によって不時着した。

 荒波の波濤の中に、もはや意味を失った黒い城の残骸が浮かんでいた。

 

「ロン! ロン──やったわ、ロン──」

 

 ハーマイオニーは感激のあまり、最愛の男に熱烈なハグをした。ロンは硬直して動けなかった。その様子をフレッドとジョージがからかった。パーシーが力尽きて項垂れて、ビルが抱き止めた。

 ドラコはもう一生分の運を使い果たしたような顔をしていて、ルーナがからからと笑っていた。ジニーがチョウと抱き合った。

 

「まだだ、杖を構えて」

 

 しかし歓喜の声は直ぐに止む。

 ルーピンの言葉に我を取り戻す。ひとまずの危機を乗り越えるために死喰い人達にも協力させたが、それが去った後、どうするかは決めていなかった。

 未だヴォルデモートに忠誠を誓う死喰い人達が、ギロリと髑髏の仮面の下から殺気を覗かせた。

 

「お前らなぁ、まだやるつもりかよ? もう勝負の趨勢はついただろ」

「そうだそうだこっちにはアバさんがいんだぞ!」

「アバさん! やっちゃってください!」

「…………(汗)」

「お前等は何も分かっちゃいない!」

 

 死喰い人の一人が、ヒステリーな声を上げた。

 

「何も分かっちゃいない……例のあの人は無敵だ。あの人が死ぬなんてことはあり得ない! あの人が全てのケリをつけた後、俺達を見て、いったいどんなご判断をするか想像もつかない──」

「だから戦うって? 勇気の出し所が違うだろ」

「黙れ!」

 

 城にはじきに水が入り込むだろう。早く脱出しなければならないこの状況で、その問答はあまりにも大きな障害だった。

 

「お前……お前等……俺達を見下してるんだろ。恐怖に震える俺達を見て、悦に浸ってるんだろ? でもそんなもんなんだよ……俺達はどこへも行けない。行けやしないんだ!

 それしか道は残されていないんだよ、忠誠を誓うか死ぬか、そんなの、いやだ。死ぬのは誰だって嫌だ。お前達もそうだろうが。死に屈してビクビク震えるのが罪だって言うのかよ!?」

 

 軽蔑の視線が突き刺さってもなお、死喰い人達は喚き声を上げた。多勢に無勢、死喰い人より騎士団のメンバーが多い状況であっても、ぶつけてしまわなければ気が済まない怒りがあったのだ。

 

「もういい、さっさと逃げ──」

「まだよ。まだ戦いは終わっていない」

 

 ハーマイオニーがぽつりと呟く。

 その声を聞き取れたのは、彼女を抱き止めていたロンただ一人だけだった。

 

「は、ハーマイオニー? 何をするつもりだよ?」

「ちょっと待ってて……今充電してるから……貴方から勇気を貰ってるから………………………

 ……………よし充電完了。ちょっと離れて」

「えっ本当になに? ……ハーマイオニー!?」

 

 群集をかぎ分けて、ハーマイオニーは死喰い人達の前に立った。距離は十メートルもない。呪文を唱えればまず真っ先に当たる位置だった。

 

「ハーマイオニー、何してるんだ、そいつらに近付くな! 何をしでかすか分からない連中だぜ? 危険だ……」

「いいえ、駄目よ。話をしなければならない。彼等にはまだやってもらうことがあるわ」

 

 死喰い人はおろか、不死鳥の騎士団の面々にも当惑の声が上がっていった。誰しもがハーマイオニーの行動を論理的に説明できないでいた。

 

「…………まさか、君は…………」

 

 そう、ただロン一人を除いて。

 彼女が言うことをただ一人理解したロンは、さっと青褪めた顔色になった。

 

「ハーマイオニー、それは……無理だ!」

「無理とか無駄とか、そんなものはこの戦いの中で嫌というほど聞いたわ。大丈夫。ちょっと話をするだけよ」

「話? おい、何のことだ!」

 

 死喰い人の一人が続きを促した。

 ハーマイオニーはそれを幸運と捉えて、意を決したように息を吸い込んだ。

 

 

 

「皆んなも、どうか聞いて。ここに無関係な人は誰もいないわ。皆んなの協力が必要なの。

 ──全員で、最後の魔法(・・・・・)を唱えるために」

 

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