シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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4.決闘

決闘クラブ。

過去にも何度か開催されたそれは、主に生徒達の自己防衛の力を高めることを目的としたものだ。

ヴォルデモート全盛の時代には、かのジェームズ・ポッターの働きかけによって開催され、当時の生徒達のレベルは底上げされたと言われている。そのためか、当時の世代は優秀な魔法使いや魔女揃いだ。

秘密の部屋だの継承者だのと騒がれている現在、ロックハートがそれを開催したのはあながち間違いではないと言える。

そう、間違い、ではないのだが……。

 

「さーてさてさて皆さん、さて!決闘クラブへようこそ!おっとバンビーナちゃん!サインはあ・と、ですよ!ですが、クラブ参加者には漏れなく私のブロマイドと握手券が振る舞われますので、ご心配なく!」

「……心配になってきた」

 

懸念材料があるとすれば、ロックハートの存在である。

さっきからずっとこんな調子である。多少は実践的な魔法を学べるかと思ったが、どうやら当ては外れたようだ。

ベガとネビルが壇上に白けた視線を送っているのを見て、シェリーは苦笑いする。

 

「ベガ、シェリー、やっぱり帰らない?僕、あいつから教えてもらっても上達する気しないよ」

「誘っといてなんだが、正直俺も帰りたくなってきた。冷静に考えればいつもスリザリンの上級生をボコボコにしてるし、参加する意味なかったかもな」

「う、うーん……。あ、でもほら、今から何かするみたいだよ」

 

ちなみに、シェリーと行動を共にしているのはロンとハーマイオニーではなく、ベガとネビルである。

彼等は最近、シェリーの与り知らぬところでこそこそと何かをやっているらしい。

感情的になりやすく、シェリー達とは性差の壁がある男子のロンだけならまだ納得はできる。彼だってたまには単独行動したい時や、シェーマスやディーンと騒ぎたい時もあるだろう。

しかし、理知的なハーマイオニーまでもがシェリーを避けて行動しているのはどういう事だろうか。結局、彼等を決闘クラブに誘うタイミングを逃し続け、見かねたベガ達がシェリーを誘ってくれたのだ。

 

(ベガもネビルもすっごく大切な友達……だけど、やっぱりロンとハーマイオニーもここにいてほしい。私と初めてお友達になってくれた人達だもの)

彼等が何の考えもなくシェリーを避けるなど、ありえないことだ。彼等は重要な何かを成し遂げようとしている。

それがロン達にとって必要なことなら、シェリーは我慢できる。

しかし。

 

(少し、淋しいな……)

 

ドビーの手紙を思い出す。

彼は夏休みの間、ロンとハーマイオニーの名義で「あばずれ女」「死んでしまえ」といった暴言を詰め合わせた手紙をシェリーに送り続けていた。

ロン達が書いたのではない、そう分かった今も、心の中では「本当にそんな事を思っているのでは?」とビクビクしてしまう。

 

(私は、本当に、二人の友達だって。胸を張って言えるんだろうか………)

「シェリー?そろそろ始まるみたいだよ」

「!ご、ごめんなさい。ありがとう、ネビル」

「具合悪いなら談話室に戻った方が良いぞ。今回は実戦もやるみたいだからな」

「ううん、大丈夫」

「ハイッ!では私がお手本を見せてあげましょう!助手のフィリウス・フリットウィック先生と、……えーと上の名前なんだっけ…まあいいや、スネイプ先生ですっ!」

「あー、皆さん、どうも」

「グリフィンドールから一点減点」

「なんで?」

 

ロックハートに呼ばれて現れたのは、小柄で髭を生やした生徒想いの教師と、嫌味なネチネチ教師のタッグである。

スネイプはこういう場には決して参加しない男なのだが、今回ロックハートに引き立て役として無理矢理駆り出されており、その不満を隠そうともしない。

そんな蛇寮の寮監を見て苦笑するフリットウィックは、二人のお目付役だ。職員同士で話し合った結果、中立な立場の人間は必要だという結論に至ったらしい。ロックハートはファンの女子贔屓だが、スネイプはスリザリン贔屓だ。その二人が指導するというのは憚られたらしい。

 

ロックハートがふざけた口調で「えー、では!お互い呪文をかけ合う前に、かっこ良くポーズ決めるのが決闘の流儀なんですねぇ!」みたいな話をぐだぐだと続けた後、怒りの限界だったスネイプのエクスペリアームスによって無様に床を回転しながら転がっていくと、男子による喝采とスネイプコールが始まった。スリザリン嫌いのグリフィンドールさえ手を叩いているのだ。彼は英雄である。

スネイプは普段慣れていない扱いに困惑しているのか、仏頂面なのにちょっと得意そうでもあり照れているように見える表情をする、という器用な芸当を行った。

 

「去年も思ったが、あいつの戦闘技術はとんでもねえな。杖を構えて、魔力を練って、呪文を唱える。その一連の動作に寸分たりとも無駄がなく、一切の隙が無え。……性格はアレだが腕は本物だぜ」

「性格に関しては人の事言えないと思うよ、ベガ」

「はったおすぞ」

 

ズタボロになったロックハートが蹌踉めきながらも壇上に立つと、「ちょおっと今のは次の手がバレバレというか動きが分かり易すぎましたねぇァハン☆」などと言い訳してスネイプに睨まれると、ちょっと脅えて「では今のような感じで生徒を代表して誰かにやってもらいましょう!」とのたまっていた。

ロックハートとお近づきになれるチャンスに女子生徒達は色めき立つ。想像通りの光景を眺めていると……ふと、シェリーは視界の端っこに自分の親友の姿を捉えた。

ーーロン、ハーマイオニー!やっぱり決闘クラブに来てたんだ……!

 

「二人とも、こっちにーー」

「さあシェリー!こっちに来なさい!特別にこの私が教えてあげましょうとも!」

「えっ」

最悪のタイミングでロックハートに首根っこを掴まれて壇上に上げられた。しまった。ここからでは二人の姿を見つける事が出来ない。またも声をかけそびれたシェリーは、戦う前からテンションがた落ちである。

 

「ふ、二人とも……」

「さあさ、シェリー!恥ずかしがる事はない!このハンサムな私が、手取り足取り何でもかんでも教えてあげましょうとも!」

「あー……えっと………はぃ」

「それでは、相手の生徒は…」

「我輩が選ぶ。貴君の手を煩わせるまでもない。静かにしていてもらえますかな」

 

言外にお前は黙ってろとロックハートに釘を刺すと、スネイプは考える。

シェリーの相手。

またとない機会に他の寮生は浮き足立つが、相手は慎重に選ばねばならない。それだけシェリーは優秀な魔女なのである。

その上、クィディッチや去年のハロウィーン、賢者の石騒動などで散々見せてもらったように、彼女はとても勝負強い。自信がないのに本番になると最高のパフォーマンスを発揮する。

それ故に、彼女の相手も相応の実力を伴う生徒でなければならないのだが…。

 

「…………!……!!」

(すっごいこっち見てくる生徒がいるなぁ)

コルダ・マルフォイ。

ドラコの妹でありながら、兄とは良い意味で似ても似つかぬ容姿と才能の持ち主。未だ一年生でありながら、氷魔法に限っては既にその域を越えているとされる。重度のブラコンでなければ引く手数数多の才女だ。しかし懸念すべきは、その氷魔法のリスクが高すぎるという事だ。

 

「コルダ、お前の氷魔法はまだ制御が上手くいってないだろう」

「そ、そんな事ありません!」

「この間、クィディッチ・ピッチを滅茶苦茶にしたのは誰だ?」

「そ、それは……ごめんなさい……」

「わかればよろしい。さて… 」

ドラコに慰められているコルダを見やり、スネイプは思考を続ける。

 

(ポッターを打ち負かす役目、か。本来ならドラコに任せたいところだが、……あっさりやられそうな予感がする)

「フォーイ?」

(決して劣等生という訳ではないのだが、何故だ。滅茶苦茶負けそうだ。何故だ…。仕方ない、スリザリンの上級生を出すとして……)

「俺がやるぜ」

「あ、ベガ!」

(……面倒臭い奴が来たなぁ)

 

勝手に壇上に上がってきたのは、ベガ・レストレンジ。

同年代の魔法使いの中では文句無しの最強。頭脳、体力、魔力、そして戦闘センスの全てが突出した天才だ。

彼ならばコルダと違って魔法の制御も効くだろうが、個人的に嫌いなグリフィンドール同士の闘いになるのは気に食わない。勝っても負けても結局勝つのはグリフィンドールなのだ。

しかし実質の二年生最強決定戦にギャラリーは勝手に盛り上がっていた。自分が選ぶと言ったのに。

(……仕方ない)

 

「ポッター。よく聞きたまえ」

「な、なんですか?スネイプ先生」

「貴様ではレストレンジに勝てん。無論、貴様が無様な姿を衆目に晒そうが我輩には関係のない事だが、それではスリザリンの教育のためにならん。というわけで仕方なく、本当に仕方なくお前にアドバイスをしてやる。勘違いするなよ、貴様のためではないからな」

(………あ、そういえばダドリーが言ってたような気がする。こういうのをツンデレって言うんだっけ?)

「失礼な事を考えていそうだな一点減点。……で、ポッター。お前があいつに勝つには、何よりスピードが重要だ」

 

スピード。

魔法使いにとってそれは、肉体的な反応速度や速力ではなく、魔法を放つ早さの事。

それは魔法使い同士の闘いに於いて非常に重要な要素なのだ。なにせ魔法を極めれば極めるほどに攻撃力は増し、相手を倒すのは容易になる訳だが、バトル漫画のように肉体の防御力は上昇するわけではないからだ。一撃で相手を倒せるのなら、呪文を素早く撃てる方が有利になるのだ。

魔法の達人が、子供の一撃に倒れる事もある。それが魔法使い同士の闘いなのだ。

 

「レストレンジの『見切って反撃する』戦闘スタイルはある意味魔法使いの理想の戦い方の一つだ………が、貴様が『見切れないほどのスピード』で攻撃できるなら、あるいは……」

「……………!」

「麻痺呪文と武装解除呪文は使えるな?」

「は、はい」

「よろしい。ではもう一つ教えてやる。その呪文は……、………………、……」

「二人っきりで何を話しているんですかぁァハン?セクハラですよっ!」

「お前が言うな」

 

ロックハートが指導と称してシェリーの肩やら腰やらを触ろうとするのをスネイプが阻止して、ベガとシェリーは相対する。

赤髪の美少女、獅子寮のお姫様。

銀髪の美少年、獅子寮の悪魔。

グリフィンドールの若獅子達は、互いに杖を構えた。

 

「そういやサシでやるのは初めてだったな?え?シェリーさんよぉ」

「ベ、ベガ。どうかお願いだから、お手柔らかにお願いします…」

「この際だからはっきりさせとこうじゃねえか。二年生最強は誰かをな」

「そ、そんな。最強だなんて。私なんか、ベガに比べれば、全然大した事無いし……」

「嫌味に聞こえんぞ、それ」

 

この勝負はベガが有利だ。

シェリーはあらゆる面で彼に負けている。

それに呪文の知識はベガに分がある。すなわち彼女の使える呪文の数は比較的少なく、戦闘の選択肢はベガに比べて限られたものになるからだ。

 

(だが、こいつは一点集中型……幅こそ狭いが、その分突き抜けているんだ。呪文の完成度に関しては誰よりも高い……手札こそ少ねえがどれも強力なカードばかりだ)

 

思えば、シェリーは自分が興味のある呪文学や闇の魔術に対する防衛術の成績はかなり高いのに、薬草学などは下から数えた方が早い成績。

ムラがあるのだ、シェリーには。

得意なものはとことん得意で、苦手なものはとことん苦手。しかしそれは戦闘において、ある種の武器になる。

(見せてもらおうじゃねえか、その実力)

 

「ではお互いに杖を構えて!はい、チャーミングなスマイルの僕に免じてお辞儀!」

「ーーー」

「ーーー」

「始めーーー」

 

ロックハートが言い終わらぬ内に、赤髪の姫は呪文を放っていた。赤く光る魔力の塊は、弾丸となってベガめがけて飛んでいく。

衝撃呪文、フリペンド。

未熟な魔法使いが使えば物を弾き飛ばすくらいの威力しか出ないが、シェリーの杖から放たれたソレは、高速の衝撃の塊。当たれば医務室行きは確定だ。

(ベガが唱えるよりも先にーー!)

しかしベガは躱してみせる。

躱して、既に魔力を練り終わっている。

 

「ラカーナム・インフラマーレイ!」

数十個ほどのリンドウ色の火炎球が空中に浮かぶ。幻想的な光景だが、しかし今はそのどれもが恐ろしい。

凶悪な火炎はシェリー目がけて飛来する。盾の呪文では防ぎきれないと悟ったシェリーは、すぐ下の床を『浮上』させて防御する事に成功した。

頭上でいくつもの火炎が花火のように爆発して弾ける。しかしそれに安堵はせず、シェリーは浮かべた床の残骸を自らを守る盾にする。そしてその陰からカウボーイさながらに魔法の弾丸を何発も放つ。

しかしその弾丸を全て杖の一振りで弾き、逸らし、叩き落としているベガはコミックに登場する剣士のようだ。

観客のボルテージは最高潮。シェリーはひたすらに魔力の弾丸を撃ち込んだ。

 

「あの戦い方は……!」

「おい、フリットウィック先生が何か言ってるぞ!」

「知ってるんですか先生!?」

「『早撃ち』!呪文の掛け合いが主な魔法使い同士の闘いにおいて、ある意味最も効果的な戦法!攻撃に特化するあまり自身もやられてしまう可能性が高くなる、まさにノーガードの殴り合いなのですっ!」

「ああっ、先生の昔の血が騒いでる!」

 

昔、決闘チャンピオンだった彼の解説によると、シェリーの早撃ち呪文には秘密があるのだという。

それが、魔法を意図的に崩すということ。つまりはパワーや精度を犠牲にしてスピードに特化させているのだ。確かに回避型のベガに一回でも攻撃を当てるには、彼を上回るスピードで魔法を放つ必要があるのは確かだが…。

 

「だが……未熟だ!どれだけ魔法が早くとも、見切って反撃できるレストレンジさんが相手では……!」

「せっかくの早撃ちも無駄撃ちでしかねえって訳だ。スピードは大したもんだが、魔法を相殺するのは何てこたあねえ」

その証拠に、彼は襲いかかってくる魔法を全ていなしている。使う魔力は多すぎず少なすぎず、絶妙な魔力コントロールで無駄なく撃ち落とす。彼の異常な動体視力も脅威だが、それ以上に彼の神がかった戦闘センスは凄まじい。

力ではなく、技。

二年生の少年の、大人顔負けの天才的技術にギャラリーは沸いた。こんな芸当、誰にでも出来るものではない。

これが、グリフィンドールの悪魔か。

これが、ベガ・レストレンジか!

 

「お前の攻撃はただ撃つだけか?確かにスピードは中々の物だが……そろそろ目が慣れてきたぞ」

「っ。フリペンド!撃て!フリペンド!フリペンド!」

「……おい、そんなもんかよ」

シェリーの弾丸は大したものだ。しかし一度効かないと分かった攻撃を何度も繰り返すのは愚策と言わざるを得ない。

痺れを切らしたベガは、ピリオドを指すために杖に魔力を込めた。これで決着をつけるために。

 

「終わりだ!エクスーー」

「ーーー今だ、ポッター」

「フリペンド!!!」

 

ベガの顔が一瞬、驚きに変わる。

それもそのはず。先程までのフリペンドとは比べ物にならない早さの弾丸が、目の前に迫っていた。

ーー今までの弾丸の嵐は、全てこの時のためのフェイクだ。

ベガに、『シェリーの魔法の早さはここまでだ』と誤認させるための。先程ベガは、シェリーの攻撃に目が慣れたと言った。しかしそれは彼女の思惑通りで、目が慣れたところに突然それ以上の早さの攻撃が来れば、いくら彼でもひとたまりもない。

加えて、攻撃する時のほんの少しの隙を突いたのだ。確実に当たってーーー

 

赤い光が弾けた。

威力を最大まで殺し、早さを最大まで高めた神速の一撃。彼女が持ちうるカードをフルに使い、現段階のシェリーの最強の魔法を全力で叩き込んだ。

彼女は必死に喰らい付いた。

彼女の剥いた牙は確かに鋭かった。

しかし。

その牙は、ベガには届いていなかった!

 

「『盾の呪文』!レストレンジさんは攻撃呪文を放ったんじゃない!守りのために使ったのです!あと一撃で勝てるかもしれない、それなのに彼は守りの魔法を……」

「……確かにこの場面においては効果的だが、一応他の生徒のお手本なのを忘れているのではないでしょうな」

 

仮に、ベガが万全の状態であっても、シェリーの最速の攻撃を躱せるかどうかは難しかっただろう。見切れたとして、そもそも肉体が追いつかない可能性が高い。

しかし相手の一手先を読んだベガはその攻撃を難なく防いだ、という訳である。

 

「す、すごい……でもまだ、負けた訳じゃーーー!」

「足元、よく見てみろ」

「え?きゃあっ!」

 

シェリーの手首と足元を拘束したのは、いつの間にか地面を這っていた蛇の群れだ。ベガのコントロール下にある蛇は決して噛み付くこと無く、その身体を紐のようにして絡みつき、そして腕を締め上げる。

シェリーが杖をおとす。ーー勝負あった。

からん、と乾いた音が響くと同時に歓声が上がる。

 

「い、いつの間に…?」

「お前の呪文を弾いてる最中に、だ。弾いた魔法の弾丸の中に紛れ込ませた。この距離で、しかも瓦礫に隠れながらじゃあ、俺がこっそり使った魔法の光なんざ見えねえだろ?」

「な、なるほど。……この距離まで蛇行して気付かないなんて、私ってそんなに鈍感だったんだ……」

「気にすんな。蛇には床と同じ色になるように魔法をかけてたし(色を変えるのは変身術の基礎)、ゆっくり静かに動くから分かり辛いのも無理はねえよ」

 

つまりは、だ。

結局は全て、最初から最後まで。ベガ・レストレンジの手の内だったということだ。

自分なんか勝てるわけない、そう思ってはいたが、心のどこかで少し期待していたのかもしれない。シェリーは今回の結果をほんのちょっぴり残念に思った。

ともあれ、絡みついている蛇をなんとかしなくては。

 

「悪い、すぐに消滅させてーー」

『こんにちは、蛇さん』

「…………!?」

『ん……あぁ、君は喋れるのか。すまないな、こんな風にしてしまって』

『大丈夫。拘束を解いてくれる?』

『分かった。私を怖がらない人間は久方ぶりだよ、お嬢さん』

 

巻きついた蛇が離れていく。服の上から感じていた感触が取り払われていく感覚。

しかし同時に感じたのは、全身に突き刺さる敵意と畏怖の視線。何事かと思い見渡すと、スリザリンはおろかグリフィンドールの生徒までもが呆然とした顔でシェリーを見ているではないか。

腫れ物のような、病人のような。

しかし、敵意はまだ分かるとして、何故自分は恐怖されているのか。その問いに答えるように、ベガとネビルはシェリーを連れて談話室へと逃げるように去っていった。

 

「シェリー!君、蛇語使い(パーセルマウス)だったんだね。どうして言ってくれなかったんだい?」

「ど、どういうことなの?だ、だって、魔法界では蛇さんとお喋りするのくらい普通なんでしょう?」

「ネビル、こいつはマグル育ちだ。自分が何をしたかを分かってねえ。……お前はいつから蛇と喋ってた?」

「い、いつからなんて覚えてないけど、子供の時からお話してたよ」

 

ベガとネビルは顔を見合わせると、お互いに顎を手に乗せて考え込んだ。

焦燥は幾分か和らいだようだった。だが、それでも尚、深刻な表情で言葉を紡ぐ。

 

「シェリー、君の蛇と話せる能力。それは蛇語(パーセルタング)といって、その能力を持つ人を蛇語使い(パーセルマウス)と呼ぶんだ。誰でも喋れるわけじゃない生まれつきの力で、魔法界でもとっても珍しい、希少な能力なんだよ。……蛇語には、色々と嫌な話があってね」

「蛇語使いは、その多くが闇の魔法使いだったり、悪神宗教の信仰の対象だったり、異端視されて迫害されたり。昔から不吉の象徴として扱われてきてんだ。蛇は聖書で悪魔の化身と言われていて、なら蛇語使いは悪魔の手先だ!って地域もある」

「……悪魔の、手先?」

「ああ。インドのナーガ、ニホンのヤマタノオロチ。これらの神話上の生物が信じられていた地域での蛇語使いは、良くも悪くも特別扱いされたそうだ。……今回のお前みてえにな」

 

そしてどの世界にも共通するのは、蛇語は闇の魔法使いの象徴と言われているという点である。

古代ギリシャの闇の魔法使い、腐ったハーポは数多の生物実験を繰り返し凶悪な生物を生み出したし、古代エジプトの歴代ファラオは全員が蛇語使いであると同時に、その全員が闇に傾倒していたという。

 

「で、でも。それだけで、あそこまで皆んな怖がるものなの?不吉なのは分かったけれど……」

「……イギリスで有名な蛇語使いは、二人いる。一人はヴォルデモート卿」

シェリーは一年前の騒動を思い出した。彼の凶悪な顔は、蛇そっくりだった。

「そしてもう一人は」

彼にしては珍しく、言い淀んだ。

 

「……通称『蛇舌』ーーー、サラザール・スリザリンだ」

 

スリザリン。

ホグワーツ生ならば、誰もが耳にする名前だ。蛇寮を、いやホグワーツを創った彼は未来の若者の教育のために尽力したと言われている。

しかし同時に、彼は生粋の純血主義者でもあった。ハーマイオニーが穢れた血と言われた時から、その手の本を図書館で読んでいたのだが、そういった差別文化の元凶は全てサラザール・スリザリンに帰結した。

その行きすぎたマグル差別は、やがて同志だった筈のゴドリック・グリフィンドールやロウェナ・レイブンクロー、ヘルガ・ハッフルパフの三人との対立を生んでしまい、学び舎から去るに至ったと言われているほどだ。

 

しかしーーよりにもよって、彼が蛇語使いだったとは。

シェリーが蛇と話せる事が、考え得る限り最悪のタイミングでバレてしまった。秘密の部屋を創ったのは彼だ。となれば、彼と同じく蛇語を使えるシェリーがスリザリンの継承者と疑われるのは当然。

ギャラリーは、彼女を継承者だと思い込んでしまったのだ。

 

「くそッ、何で蛇なんか出したんだ俺は…せめて哺乳類を出しておけば……」

(そういう問題じゃないんじゃ……)

「シェリー!ここにいるの!?」

「大丈夫かい!?どこか怪我したりしてないか!?」

「あ……、ロン、ハーマイオニー……!」

ぱたぱたと音を立てて談話室へと入ってきたのは、彼女の親友達だ。

こうして面と向かって話すのは随分と久しぶりだ。嬉しいやら気まずいやら、いや、やっぱりシェリーは嬉しかった。

 

「まさか君が、蛇語使いだったとはね…」

「…お前達、何か隠し事してるんじゃねえか?シェリーが入院した日以降……いや、コリンが石化した日以降、お前達二人で、シェリーにも内緒でコソコソやってるみてえじゃねえか。何か考えがあっての事なんだろうが、事態は一刻を争う。何か企んでいるんならサッサと教えやがれ」

「…………」

「シェリーの事が大切ってんなら、除け者にせずにちゃんと説明すべきだ」

 

無論、二人が教えずとも、彼等が何をしているかくらいベガは自ずと答えに辿り着くだろう。しかし、それでは二人への信頼が無くなるということ。意味がないのだ。

観念したのか、ロン達は顔を見合わせると口を開いた。

 

「……もしかしたら、継承者の正体が分かるかもしれないんだ」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

ポリジュース薬。

クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワナヤギ、二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切り、そして対象の遺伝子情報。

これらを絶妙なバランスで配合させる事により生み出される魔法薬を使えば、薬の生成に使った人物へと変身する事ができる。

ロン達はこの薬を使ってスリザリン寮に忍び込み、ドラコから継承者の情報を引き出そうとしていたのだ。シェリーに内緒にしていたのは、彼女には余計な負担をかけたくなかったからとのこと。

たしかに彼女が犯人だという人間は一定数いる。その者達からの誹謗中傷を真に受けてしまうのがシェリーだ。ロン達は彼女を守る選択よりも、彼女を救う選択の方を取ったというわけだ。

 

「スリザリンの継承者ってんだから、当然犯人は蛇寮のはずさ。僕達はマルフォイ兄妹のどっちかが犯人……ないしは継承者の情報を持ってるって思って、これを作ってたんだよ。…まあ、作業のほとんどはハーマイオニーがやってたけど」

「作るって…これって、もしかしてすごく貴重な材料なんじゃ……」

「あー、そうなのかい?君達はどこで手に入れたんだい、これ」

「スネイプの部屋からくすねてきたわ。校則をいくつも破る必要があったけれど」

「まさかハーマイオニーが俺達路線に走るとはね。楽しいだろ、校則破り」

「……ええ、そうね。とっても!」

「そりゃ結構。…………だが、よ」

ベガは周りを見渡した。

「何でよりによってここなんだよ……」

 

長い間使われていないのか、そこら中の床や便器が水浸しになっている。二人がポリジュース薬を使っていたのは、大胆にも事件があった廊下にある女子トイレだ。

しかし、汚れや水なら、学校憑きの屋敷しもべが掃除する。しかしそれでもここが水浸しなのは、卑屈やのゴーストが取り憑いているからだ。

 

『何?新しい友達を連れてきたの!?なによあんた達、私をからかいに来たんでしょう!』

「そ、そんなつもりで来たんじゃないよ。ええっと、あなたはマートルだよね?ゴーストの」

『ふん!知ってるんだから!陰で皆んなして私のことを馬鹿にしてることくらいね!卑屈・根暗・腐ったマートルって!』

「まあ落ち着けよ、マートル」

『あらぁ〜、あんた良い男だわね!結構好みのタイプだわ!あんた名前は?』

「ベガだ。ありがとうよ」

「なんだこいつ」

 

どうやらマートルは面食いらしい。ベガの女たらしっぷりはどうやらゴーストにも有効だったようだ。

話が逸れた。

ロン達が計画をここまで明かしたのだ。それを聞いたシェリー達が、何もしないわけがない。

 

「俺達にも協力させろ」

「僕も、これ以上被害が出るのは嫌だし」

「私だって」

「皆んな……」

『ハアイ、ベガ。あんたなら大歓迎よ。いつでも来てネ』

「台無しだよ」

 

さて、ポリジュース薬自体は完成間近なのだという。問題は材料になる遺伝子情報だが、どうやら決闘クラブに来たのは、スリザリン生の遺伝子を手に入れるためだったらしい。ロンがちゃっかり髪の毛を手に入れていた。

そしてフィルチに聞いたところ、マルフォイ兄妹はクリスマス休暇中も家に帰らないらしい。これだけの騒ぎが起こっていて、帰る生徒も大勢いて、しかもあれだけ家族大好きの兄妹なのに、帰らないのだ。

疑念は疑惑を呼ぶ。まさか彼等のどちらかが、あるいは両方が継承者なのか、と。

ベガは「妹のコルダはともかく、あの坊ちゃんにそんな度胸があるかね」とぼやいていたが、スリザリンの寮に入るまたとない機会である。意外とノリノリだった。

 

「ハーマイオニー、最後の作業だが、クサカゲロウを入れるタイミングを前日の夜にしておけば、朝にはちょうど薬が出来上がるんじゃねえか」

「うーん、でも、長い時間かけて攪拌させなきゃいけないから、この作業2と作業3を分ける事で……」

「それなら……」

「でも……」

「わ、私達はお掃除してよっか……」

「…マーリンの髭!」

 

新たな三人の協力者の存在は、確実に計画を後押ししていた。シェリーが継承者だと思われている現在、彼等に近寄ろうとする存在が少ないのも一因だ。

そして、計画実行を予定していたクリスマスの日。プレゼントを確認していると、シルクの絨毯のような感触。シェリーが疑問に思っていると、隣で包み紙を破っていたハーマイオニーが目を剥いた。

 

「これ、透明マントよ!?すっごく高価で価値のあるものなの!初めて見たわ……」

「そうなんだ……何でそんな物が、わたしに……?」

「送り主の名前は書いてないの?」

「うん、メッセージカードが一枚ついてるだけで……『君のお父さんから預かっていたものを、返す時が来たようじゃ』、だってさ」

「それ、使って大丈夫なのかしら……でもホグワーツがこの状況下でプレゼントを監視していないわけがないし……」

「ねえハーマイオニー、見て見て!」

 

栗色の髪の少女が目を向けると、そこには身体を透明にして、頭だけが宙に浮いているというショッキングな光景が。

内向的な性格で誤解されがちだが、彼女は割と好奇心旺盛である。今回も興味が理性を越えた、それだけのこと。

しかし今はタイミングが悪すぎた…。

 

「どうしたのシェリー、頭を抑えて」

「ハーマイオニーにはたかれた……」

「泣かないの。それよりこの透明マント、今回の計画に使えるかもしれないわ」

「どういうこと?」

「いい、今回作っていたポリジュース薬は三つだけ。もともと私とロンの二人分と、予備の一つだけ作っていたの。だけどこのマントを使えば、蛇寮に入れる人が多くなるのよ!」

 

計画実行の日。

ポリジュース薬を飲んだのはシェリーとロン、ハーマイオニー。透明マントに隠れるのはベガとネビルだ。ポリジュース薬を飲んだメンバーに何かあれば、ベガ達が助ける算段。(紅いローブの色は魔法で緑に変えた)

シェリーが化けたのはダフネ・グリーングラス。スリザリン生の中でも、大人びた美少女で評判だ。

ロンはクラッブに、いやゴイルだろうか?とにかくドラコの取り巻きのどっちかに化けた。

 

「わぁ……すごい!全然ちがう!私じゃないみたい!」

「僕もだ……うぇー、あいつの顔って鏡で見ると余計不細工だ」

「二人とも、その喋り方じゃダメだよ。本物になりきらないと」

「あ、そっか。コホン……私に何か用でもあるのかしら?ロングボトム?」

「あっはははは、似てる!ほら、ロン、じゃなかったゴイルも!」

「いやネビル、こいつはクラッブだ」

「……そういえば僕、あいつ達が喋ったところ見たこと無いや」

「あー……えっと、あいつが言いそうな台詞を思い浮かべてみて」

「ウッホウッホ」

「だめだこりゃ。ハーマイオニー、何か案無いか?……ハーマイオニー?」

『だ、だめっ!皆んな、私の事はいいから行って!』

「は?おいおい、あのゴリラ女の顔が悲惨な事くらい分かってた事だろうが」

『いいから、行って!はや、はやくっ!はやく行かにゃきゃ、ああっ!』

「?」

ハーマイオニーが化けたのはミリセント・ブルストロード……の筈なのだが、トイレの個室にこもって出てこない。

気にしてもしょうがない。四人は外へと飛び出した。

 

「お、クラッブ。それにグリーングラスじゃないか」

「うわっ、マママルフォイ!?何でこんなところにいるんだよぉ!」

「何だよ急に余所余所しいな。なあ二人とも、ゴイル見てないか?」

「し、知らない……かなー?そ、そうだ!だっ、談話室に行けば、クラッブもいるかもしれないよ!」

「それもそうか。じゃあ行くぞ」

「え?ど、どこに?」

「談話室に決まってるだろ。君が今言ったんじゃないか」

「あ!あー、あーー!!そ、そそそそそうだねうん、行こうか!」

(大丈夫なのかこの作戦)

 

助かった。

友好的なドラコというのはかなり違和感があるが、彼について行き楽々と談話室に到着できた。マルフォイ家様々である。

なるほど、地下の談話室というのも存外悪くない。陰があるが、静かで上品な雰囲気が漂う、気品のある部屋だ。

ドラコは緑色のソファにどっかりと座り込むと、お菓子の包みを開いた。

 

「まったく、ポッターのやつ。グリフィンドールのお姫様だのなんだの言われてるけど、何が、って話だよな。グリーングラスもそう思うだろ?」

「うん、そうだよね……。皆んなに迷惑かけてばっかだし、要領も悪いし、いつもこそこそしてるし……」

「言うね。で、だ。そのポッターだが、今度は継承者扱いされてる。笑っちゃうよな、あいつは獅子寮なのにさ」

「…君なら、継承者が誰かも知っているだろう?」

「?前にも言っただろ、僕は知らないぞ」

「…………えっ」

 

なんともはや。アテが外れた。

いやしかし、彼が犯人ではないとすれば、次に怪しいのは妹のコルダだ。なにせ彼女は一年生とは思えぬ程の氷魔法の使い手。あれだけの才を持っているのだ、彼女が継承者という可能性がまだ…。

 

「コルダ?おいおい、あいつがいつも僕にべったりなの知ってるだろ?それにコルダはフィルチの飼い猫が石化した時に滅茶苦茶怖がってたじゃないか」

「……………そうなの?」

「そうだよ。まあ、マグル生まれだけを襲うと分かってからは幾分か大人しくなったけどね。いやしかし、秘密の部屋騒動でお父様が理事会に引っ張りだこになるとはね。おかげでクリスマスまで休みなし。さっさとこの事件も終わってほしいよ」

「……………」

 

シロだ。決定的なまでに。

結局、情報は得られなかった。継承者探しは振り出しである。

どうしたものかと頭を悩ませていると、こちらに嬉しそうに近付く少女の姿が一つ。噂をすれば、である。ドラコと同じプラチナブロンドの髪を一房だけ三つ編みにした生粋の美少女、コルダだ。

 

「あら、お兄様!それにお友達のクラッブさんも!こんなところで何、を………」

「あ、どうも、コルダ」

「………………………」

 

コルダがソファの前で急停止したかと思うと、彼女のこめかみに青筋が走った。曲がりなりにもお嬢様ゆえに顔には出さないものの、明らかにキレているのが態度で丸わかりである。

彼女はドラコの隣に腰掛けると、満面の笑みを浮かべた。その瞬間背筋が寒くなったのは、冬だからではないだろう。

 

「………わ・た・し・の!お兄様に、何かご用ですか?グリーングラスさん??」

「け、継承者について……」

「へー!ほー!お兄様は以前、継承者は誰かは知らないと仰られてました!それに私も知りませんし!ので、この話はこれ以上は無意味だと思いますが!?」

早口でまくし立てられた。これが恋する乙女の剣幕だとでも言うのか。

だがこれは、体良く逃げだすチャンスだ。

 

「そ、そうみたいだね。じゃあ私達、もう行くね」

「あ、ああ。そうだねシェリ、ごほん。ダフネ」

「?クラッブまでどこいくんだ」

「あー、えっと、ト、トイレに……」

「何言ってるんだ、トイレなら談話室にも備え付けられてあるだろう……んっ?あれ?目が疲れてるのか僕は?おかしいな、二人ともそんなに赤毛だったか……?」

「喰らいやがれ、必殺・ツープラトンブレーンバスターーーッ!!!」

「僕は君が十人束になっても敵わないぐらい価値があるんだあああああ!!!」

「フォオオオオオオオオオイッ!!??」

「お兄様あああああああ!!!??」

 

ドラコの身体が宙を舞い、上下逆の状態で停止したかと思うと、そのまま断崖を落ちるように頭を打ち付けられた。言わずもがな、透明マントに包まっていたベガ達の仕業である。

ベガとネビルにより繰り出される垂直落下の一撃は、別名脳天砕きと言われ、かつてプロレス界を一世風靡した四大必殺技の一つである。今回はソファに頭を打ち付けた程度なので大したダメージではないが、これにより死亡した例も数多くある高難度な技なので素人は真似してはならない。

 

「な、え、でも、あれ!?なんで!?何で急に、ええっ!?」

「フォ、フォーイ……」

「今のうちだ、逃げるぞ!」

「あ、う、うん」

 

大混乱のスリザリン寮を抜け出し、大慌てでマートルのトイレへと退避する。しかし、マグル式・ウィンガーディアム・レヴィオーサを喰らったドラコは大丈夫なのだろうか。というか今年は彼はダメージ負いすぎである。

しかし彼等が継承者ではないとするなら、一体誰が継承者だというのだろう。過激なまでにマグル生まれの弾圧を望み、そして純血至上主義とする魔法使いなど、それこそスリザリン生しかいないだろう。

手詰まり、である。

 

「あ、諦めるのはまだはにゃ、早いわ!継承者の犯行の方法がわかれば、きっとはんにゃん、犯人も分かるはずにゃわ、だわっ!ああっ、もう!にゃあに、これ!」

「………ハーマイオニーが、猫に」

「頭に猫耳がついて、尻尾も。手には肉球までついて……」

「「「……………」」」

「ちょ、ちょっと!あにゃた達、にゃにを見てるの!?わけがわからにゃい、わ!」

 

ダドリーが昔よく言っていた。

猫耳とはポピュラーな萌え要素の一つで、人間がこれを手に入れる事により猫属性が付与され、猫の可愛らしさを手に入れられるとか何とか。尻尾や肉球があるとなお良しである、と。

その意味が今分かった気がする。栗色の髪の上からぴょこんと自己主張する猫耳は、ハーマイオニーに凶器を与えた。

ロンは悩殺。ネビルは顔を赤くして、ベガは値踏みするようにその姿を見る。ちなみにシェリーは「わぁ、可愛い!」と呑気なもんである。しかし無理もない。作り物の耳ではなく、マジモンなのだ。

ベガが男二人の視界を塞いで、シェリーがハーマイオニーを医務室へと連れて行ったことで事態は収束した。

 

「動物の毛は使っちゃいけなかったんだ。人間に変身するのとは違って、一時間経っても変身は解けない」

「…………」

「ブルストロードの奴、どうやら猫を飼ってたみてえだな。それで猫の毛が混ざってああなっちまったんだ」

「…………」

「おい、聞いてんのかロン」

「あッ………!?き、聞いてる聞いてる!や!全然!全然何とも思ってないし!マーリンの髭だよあんなもん!」

「顔真っ赤だぞ、ククク」

「あー!ぼっ、僕には何を言ってるのか分からないなー!」

 

盛大にロンが顔を紅潮させた後、さて実際問題次はどうしたものかと頭を捻る。そうこうしている間にも次の被害者が出るかもしれないのだ。

「ねえ」

ポリジュース薬が空振りに終わった今、彼等には考える事しかできない。

「ちょっと」

何か、打開策は……。

「ねえってば!」

「うわびっくりした!何だマートルか、どうしたんだよ急に」

「さっきからずっと話しかけてたわよ!ちょっと聞いてよ、もう。こっちは大変だったんだから」

「そうかい奇遇だな、俺達もだ」

「ぐすっ、それでね。私が個室でボーッとしてたら本を投げ込まれたのよ。酷いわ!私はずっとこのトイレの中で、誰にも迷惑をかけずに暮らしてるのに!!」

「君が暮らしてるおかげで、女子トイレが一つ使えなくなってるんだけどね」

「意地悪!ほら、見て。あそこの隅っこの黒い革の日記帳、よ。あれを私の頭にぶつけてきたの、ぐすっ。どーせ触れないし持ってっていいわよ」

「そうかい、ありがとよ。お前に本を投げた奴は俺が懲らしめてやるよ」

「うわあああああん、ベガああああ!!」

「……この扱いの差」

 

その日記帳は、水浸しのトイレの中でも不思議と紙が湿気っていなかった。水除けの魔法でもかけられているのだろうか?見たところ、マグル製品のようだが…。

何枚か捲ってみても、白紙ばかり。最初のページに『T・M・リドル』と書かれている以外には、何も。不気味なまでに。

 

「三日坊主どころか、日記をつける気すら無かったみたいだね。気持ちは分かるよ、僕もクリスマスにこういうのを貰うんだけどいっつもクローゼットの奥の方に押し込んじゃうんだ」

「俺も、夜は色々忙しいからな……ま、俺もいらねえや。ロン、やるよ。今日から日記書け」

「えーっ、僕がかい?まあ良いけどさ」

 

ブツブツ言って日記を受け取ると、ロンは鞄の中に突っ込む。その様子を見たベガは、ハーマイオニーの様子も心配だし、医務室に行こう……そう思った瞬間。ドロドロとした漆黒の悪意が、どこからか滲み出ているのを感じた。底がなく、それでいて身も凍えるような冷酷な気配。

嫌な予感がして周りを見渡しても、特におかしな所はない。いるのは、急にキョロキョロし始めた銀髪の美少年を怪訝な目で見るロン達だけだ。

 

「どうしたの?ベガ」

「……気のせいか。何でもねえ」

 

それが決して気のせいではないという事を知るのは、もう少し先の話……。




透明マント解禁。
今年はこれがないと詰みます。

スネイプ先生の熱血指導により、シェリーが早撃ちスタイルを獲得。今のうちに自分の戦い方を知っておかないとこの子死にます。

ふと気になったんですが、魔法使いの子って宗教観どうなってるんでしょうか。全員無神論者なのか、マグルと同じ感じに分かれてるのか。もしくは魔法使い専用の宗教がある、とか?
でもまあ魔法で何でもできるんだったら宗教とかハマらなさそうですけどね。俺が神だ!
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