シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

23 / 145
7.大蛇

シェリーとロンが医務室でハーマイオニーの遺した手がかりを見て、怪物の正体がバジリスクだと突き止めていたその頃。

ベガはこっそり嘆きのマートルのトイレまでやって来ていた。

 

「あら、ベガ!わざわざ来てくれたなんて嬉しいわ!今日はどんな御用かしら?」

「ああ。ちょっと今日は色々と聞きたいことがあってな」

 

なにせ先日、一度に五人もの被害者が出てしまったのだ。マンドレイク薬で復活すれば犯人の正体も分かるかもしれないが、分からないかもしれないのだ。となれば、秘密の部屋の調査を急がねばなるまい。

ベガは突然被害者が大勢出た事に、内心焦っていた。

 

「地道に調べた甲斐があったぜ。嘆きのマートル……本名は、『マートル・エリザベス・ワレン』」

「!」

「五十年前、ホグワーツで殺された女子生徒の名前は一切出てこなかった。きっとダンブルドアが混乱を防ぐために隠してたんだろうな。だから当時の生徒から何か情報を得られねえかと、五十年前の生徒の名簿を手に入れたんだが……そこに、お前の名前が書かれてあってな。って事はだ、お前が五十年前の、被害者なんだろ」

「うそっ、五十年も経ってたの!?」

「突っ込む所そこか?……続けるぞ。あまり話したくないかもしれねえが、死んだ時の事を聞かせてくれると助かる。このままだとホグワーツに危機が訪れちまうんだ」

「も、いーわよいーわよ何でも聞いて!ベガの頼みなら何でも言っちゃう!」

「……死んだ時の話をするのは辛いかもとか思って、こいつに配慮した自分が馬鹿らしくなってくるな」

 

こっちの心配を返せと言いたくなる。

嬉々として死んだ時の事を話すゴーストがいるだろうか。いや、ほとんど首なしニックは普通に教えてくれるし、長い年月が経つと笑い話になっちまうのだろうか。

 

「って言っても、死んだのは一瞬だったからよく覚えてないけどね」

「一瞬?」

「男の子達に眼鏡の事でからかわれて、しょげて個室に入って泣いてたのだけれど。不意に、誰かが話している気配がして、私をからかいにきたのね良い度胸だわビンタかましてやるわって怒鳴ってやろうと思って扉を開けたら、何かを見て……そしたら死んじゃってたってワケ」

「……成る程な」

 

十中八九、だ。

今まで組み立ててきた仮説の中に、マートルの発言を組み込むとするなら……。

「昨日の被害者は五人。全員、シャワーを浴びている最中に石化していた。フィルチの猫は床の水たまりの近くで石化していて、コリン・クリービーはカメラを構えたまま石化していた。ハーマイオニーと、その近くで石化していた女子生徒に至っては鏡を持っていた。そして、マートルは何かを見て死亡した」

「被害者が見たのは『バジリスクの魔眼』。それを見た者を死亡させる能力があるけれど、水たまりや鏡に反射して写った魔眼なら死亡じゃなくて石化になる」

「……バジリスクの眼にこんな性質があったとはな。学会に発表すれば学者どもが騒ぎそうだ」

 

ハーマイオニーらに続いて、ベガも独力でバジリスクという答えに辿り着いた。

秘密の部屋への入口も見当がついている。バジリスクが移動経路にパイプの中を使ったという仮説と、マートルの証言を合わせれば、おそらくはこのトイレの中にーー。

そこまで考えたところで、ホグワーツ中に響き渡りそうな轟音が起きた。

 

「きゃあああああ!?何、何よっ!?」

「まさか……『継承者』か!?直接生徒を狙う事にしたのか……!?」

どうする、と逡巡する。今このトイレでバジリスクと継承者を罠を張って待ち構えれば、捕まえられる可能性はある。

しかし、だ。

継承者達がこのトイレに戻って来るのは、一体いつだ?十分後か?一時間後か?

その間に生徒達に何人犠牲が出るだろう。自分がここで待ち惚けを食らっている間、自分の友達は何人死ぬ?

脳裏に浮かぶのは、かつて幼き頃に自分を命懸けで守ろうとして……そして死んでしまった友人の姿。

 

ーー『シド、なんで、なんで、どうしてだよ!なんで俺なんかのために!』

『……………へへ……。俺なんかでもベガを守れるんだって、思って、さ…………』

 

(ーーーダメだ!友人が死ぬかもしれねえ時に何もできないのはもうダメだ!行ってみて何もないようならそれで良し、直ぐに戻れば良いだけの事だ!)

「マートル!罠魔法を設置しておく!もしここに忍び込もうとしている奴がいたら、そいつの顔を覚えておいてくれ!絶対に話しかけたりするなよ!」

「ぇーーあ、わ、わかったわ!」

 

ベガは急ぎ魔法を張り巡らせると、音のした方へと向かった。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

ーー時は少し巻き戻るーー

 

ホグワーツの廊下を、ふらふらと覚束ない足取りで歩くのは、ウィーズリー家の末妹であるジニー・ウィーズリー。その様子は明らかに異常で、歩くというよりも、転びそうなのを堪えているようにも見える。

平時のホグワーツであれば、呆けた彼女を心配して声をかける者もいただろう。栄養失調気味なのかと、屋敷しもべから料理を貰う者もいたかもしれない。

だが、今のホグワーツは継承者騒ぎでそれどころではない。教室間の移動でさえ、教師が引率する厳戒体制で、単独行動などあり得ない。しかし、彼女は誰もいない廊下を一人でよろけながら歩いている。これは明らかに異常である。

そしてそんなジニーを見て、何事かと後ろからついて来る生徒がひとり……。

 

(ウィーズリーの末妹。厳戒体制が敷かれているのに、廊下を一人で出歩くだなんて……一体どういうつもり……?)

 

コルダ・マルフォイ。

ビンズ先生の引率中、彼女が列の一番最後を歩いていると、柱の影をふと赤毛が通り過ぎたような気がしたのだ。

そこで好奇心が刺激され、ついて行ってみれば、自分の目の敵であるウィーズリー家の末妹が単独行動をしているではないか。

先生に言いつけてやろうと思ったが、何やら只ならぬ気配を感じたので、尾行を続けているというわけだ。

 

(まさか、あの子が継承者……?いや、まさか一年生が、それもグリフィンドールの生徒なわけないですよね……)

 

ミセス・ノリスが石化された最初の事件はハロウィーンに起きた。もしジニーが継承者なら、入学してたった二ヶ月であれ程の事件を起こしたということになる。

そんな事を考えていると、ジニーはいきなり立ち止まる。なんだ?背中に薄ら寒いものを感じつつ、彼女の動向を伺う。ここからでは彼女の顔は見えないーー

 

 

 

 

 

「やあ、お嬢さん」

「ーーーー!!??」

 

 

 

 

 

後ろから甘く囁くような声。

その毒々しい色気に本能的に恐怖を感じて、コルダは大きく飛び退いた。叫び声を上げなかっただけ大したものだ。

振り返りながらジャンプしつつ、左手は杖を抜くのを忘れない。同時に魔力も練る。いつでもこの男を倒せるようにーーいや、逃げられるように。

獅子に睨まれた鼠が如し。

絶対的実力差。

自分も優秀だと言われてきて、才能があると自惚れ無かったわけではないがーー。そんなもの、この男と比べれば塵のようなものだ。

それだけの深い深い魔力の闇が、そこには渦巻いていた。

 

(お母様がよく言っていました……人に向かって杖を向けるのは失礼な事だと。ですがお母様、教えてください………こいつは果たして人なのですか!?人型の化け物と言われた方がまだ納得できる!)

「おやおや、随分とあんまりな態度じゃないか?僕は君の先輩だよ。ほら、見なよ」

 

言うと、青年はスリザリンの象徴である翠のローブを見せびらかした。その仕草は、まるで親に自慢するかの如くである。

黒髪。

爽やかで柔和な顔立ち。

街を歩けば見た人全てが振り返ってしまいそうな美貌。しかし、その端正な顔にミスマッチな仰々しい魔力を放出し、存在している少年がそこにいた。

直感が言っている。

この男はやばい、と。

 

「貴方みたいに恐ろしい魔力を出す人、一度見たら絶対忘れません……!」

「恐ろしいとは心外だね。僕は君と仲良くしたいだけなのに。可愛い子を見たら声をかけるのは男の本能ってもんだろ?特に道の端っこを歩く子なんかはベストだ。内気な子ほど流されやすい」

「……………ッ」

「はは、そうカッカするなよ」

 

尾行がバレていたのか。単に魔力が強力というだけでなく、かなりの実力者だと推察できるが……。

軽口を叩く男からは、真意が読めない。

 

「……貴方が私に用があったとしても、私にはありません。急いでるので、これで失礼します」

「君に用がなくとも、僕にはある。実は僕はその子、ジニー・ウィーズリーに取り憑いてるんだけどね」

「取り憑く……!?」

「ゴースト……いや、もっと抽象的な、怨念みたいなものかな。僕はそんな不確かな存在でしかないんだよ。誰かに魔力を肩代わりしてもらわなきゃ生きられないような弱っちい存在、それが僕、トム・マールヴォロ・リドルさ」

 

トム・マールヴォロ・リドル?

聞いたことあるようなないような名だ。というか平凡な名前すぎて肩透かしだ。

「おい今何か失礼な事考えたろ。……で、僕の魔力にその子が耐えられなくなってきてね。他に選択肢がなかったとはいえ、グリフィンドールの小娘じゃ一年も持たなかった。新しい取り憑き先を探してるんだよ。……その点君は最高だ。高い魔力と才能を持ち、スリザリン生で、血統も良いときた。君なら僕の取り憑き先にぴったりだ!おまけに馬鹿そうだから尚のこと取り憑きやすそうだ」

「………………もしや、『継承者』とは。今までの事件の犯人は……!」

「僕のことさ。正確には、僕が取り憑いたジニーの事だけどね」

 

やはり、か。

これだけの事件を起こした犯人は、一体どれだけ冷血な人間なのかと思っていたのだが……こんな邪悪な魔力を見せられれば、納得もいく。

 

「クソ野郎ですね。一昔前の純血思想でこっちは迷惑してるんです。貴方のせいで今学校が大変なんですよ。

それにあなたがマグル生まれをどう思おうが勝手ですが、だからといってあんな仕打ちが許されるはずがありません。ジニー・ウィーズリーは個人的に気に入りませんが……入学したばかりの一年生に罪を被せておいて、貴方はずっと裏でコソコソと……!卑劣です!許されざることです!」

「なんで?」

「え?」

「いいじゃん別に死ぬんだから。人っていずれ死ぬんだぜ?だったらせめて幸せに死にたいだろ。僕のために死ねるんなら幸せだろ?それに操られたとはいえジニーが実行犯なんだ、ならこれから罪の意識に苛まれずに意識も自我も失って死ねるって良いこと尽くしじゃねえ?」

「貴方は………、人の命を何だと、」

「あ、僕は将来的に人間を超越するんで人の命どうこうは興味ないんだよね。優秀なら眷属、無能なら家畜。反逆するなら奴隷だね。ところで君はどれがいい?」

「……………」

 

度し難い。

正気なのか?この男。倫理観が人と違いすぎて、宇宙人と話しているようだ。

コルダ・マルフォイは今までぬくぬくと過ごしてきた温室育ちの女の子だ。故に、このような異常すぎる……常識から逸脱した感性の持ち主に遭遇した事はない。

だから、困惑する。

杖すら構えていない、ただの霊体に、心底竦み上がる。

 

「もういい?君と話すのはもう飽きたよ。普通の人間と同じ事しか言わないしさ。ジニーから聞いた通りだ。ほんと良いのは見た目と能力だけだよなー」

「ッ!『グレイシアス』!」

「おっと。霊体の俺に攻撃は効かないって。本当のこと言われたくらいでムキになるなよな、淑女の名が泣くぞ?」

「黙れ!黙りなさい!」

 

リドルの挑発にまんまと乗せられ、コルダは怒りのままに魔力を振るう。この男には灸を据えてやらねば気が済まない。

しかし、その全てが無駄。氷では霊体の身体をすり抜けてしまう。コルダの魔法ではこの男に傷一つ付けられない。そもそもコルダが得意とするのは氷魔法であって、霊体特効の魔法は専門外だ。

 

(ッ、この男にいくら攻撃しても無意味!でも、それはこの男も同じなはず。彼は一体どうやって私を連れて行くつもりだったの……?)

「大人しくついてきてくれるなら、お前の大切な兄貴と両親には危害を加えないでおいてやるよ」

「ハ!スリザリン……純血だけは襲わないって主義じゃなかったんですか!?結局は自分に都合の悪い人を排除するってスタンスじゃないですか!言う事がコロコロ変わる人の言葉なんて信じられませんよ!」

「そんなの俺の勝手だろ。マルフォイ家はなんとなく気に入らないしな」

「何ですって!?」

(ーーっ、頭を冷やしなさい、コルダ。考えなさい……。さっきこの男は確かに私に『取り憑く』って言った。そう言うからには、何かしら、私に干渉する手段があるはず………)

 

ゴーストや精神体が生きている人に取り憑くなど、基本的にあり得ない。血みどろ男爵も嘆きのマートルも、生者に対して物理的な干渉はできないのだ。

コルダの知らない例外として、去年ヴォルデモートがクィレルの後頭部に取り憑いたというのがあるが……あれはクィレルがビビりすぎたのと、ヴォルデモートが異常すぎた故の結果だ。

少なくとも現段階のトム・リドルにそこまでの力は無い。となると、取り憑くための魔法と、それを行使する人間が必要になるはずだが……。

 

(……そもそもどうやってウィーズリーに取り憑いたの?…………そうだ!前にスネイプ先生が言ってた!強い呪いをかけられた魔道具は時として人を狂わす、って!)

 

つまりジニーが何かしらの魔道具を拾って取り憑かれてしまったというわけだ。ならその魔道具を壊せばいいだけの事。何だ、簡単な事じゃないか!

ジニーへと向かって走り出す。魔道具が入っているのはポケットか、鞄の中か。取り憑くなら肌身離さず携帯している筈だ。

だが、コルダがそれを確認する事は叶わなかった。

 

耳をつんざくような轟音。同時に、校舎の壁が崩れ、土煙が上がる。

煙が目や口に入り、咳き込む。あまりにホグワーツの壁を一瞬で破壊するほどの強烈な衝撃と音に、耳は一時痛んだがーーその声は、不意に聞こえてきた。

蛇語。

決闘クラブでシェリー・ポッターが呟いていたのをよく覚えている。意味は分からないが、あの独特の発音は間違いない。まさかもう一度聞くことになろうとは思ってもみなかったが。声色からして、トム・リドルが蛇語を使ったのだろう。

現れるは、王に傅く蛇の化物。伸ばせば、天井に頭が当たるであろうほどの長さを有する胴体。

生物としてはあまりにも巨大な大蛇が、瓦礫の中を荘厳に鎮座していた。

嘘だろう、と言葉が漏れる。

ありえない。一年生がこれを相手にするなんて馬鹿げてる。

大きい。

強い。

そしてーーー怖い。

 

「ーーそ、そんなーー嘘でしょう…!?ば、バジリスク………?」

『目はつぶっておけよ。絶対に開くな。こいつは殺したらいけないやつだ』

『ーー承知』

「ふぅ。ーー安心しろよ、今殺さないように言っておいたからさ、命の保証はする。それ以外の保証はできないけどな」

 

胸の奥がざわついた。

今ここでこの蛇に捕まったら、死ぬよりも恐ろしい事が待っている。マルフォイ家に二度といられなくなるような、何かが。

嘘だと思いたい。何が悲しくてバジリスクなんぞを相手にしなくてはならないのか。自殺も良いところだ。

自分に倒せる相手じゃない。逃げなくては。逃げて大人に知らせなくては!大人が倒せるという保証もないが、とにかく逃げなくては……!

 

「知らなかったのか?俺様からは逃げられない」

『GROOOOOOAAAAAHHHH!!!』

 

トム・リドルの指示で大蛇はうねり、その巨体を大暴れさせる。大きいという事はそれだけで脅威だ。尻尾や身体で器用に周囲を薙ぎ払いーーその圧倒的破壊に、コルダは身を竦めるしかない。

しかしリドルの真意はそれではないことをすぐに悟る。廊下には大量の瓦礫が降り注ぎ、コルダの逃げ場を塞いでしまった。ホグワーツの教員といえど、この量の瓦礫を撤去するのには時間がかかるだろう。

 

(逃げられない……、やばい、やばい!)

「これで時間も稼げるだろ。ダンブルドアもご不在のようだ。あー、コルダだっけ?君には秘密の部屋まで来てもらうぜ」

 

『王』を冠する蛇を従えた男は、その恐怖に呑まれつつあるコルダを嘲り笑う。

その侮蔑に、彼女の中にかろうじて残っていたとマルフォイ家としてのプライドが反応した。

それは、強がりから出た挑発だった。

「……ふ、ふふ。秘密の部屋?そんなのいくらでも行ってあげますとも。貴方とバジリスクを氷漬けにした後、もう二度とその部屋が開くことのないようにぶち壊してあげます」

「できるもんならやってみろよ」

「できるから言ってるんですし、今からやってあげますとも。言葉の意味分かりますか?もしかしてお馬鹿さんですか、ーーー『先輩』?」

 

震えた声で一体何を言っているのか。この間ホグワーツに通い始めた小娘に、バジリスクとまともに対峙して勝てる筈がない。

しかし現状、それしか手がないのも事実。

この男を、バジリスクを倒さなくてはーーコルダに未来は永遠に訪れない。

ーーー覚悟を決めろ!

 

「ーーーぁああああっ、『グレイシアス・フリペンド』!」

 

引きつった笑みを浮かべつつ、恐怖を振り払うようにバジリスクに向けて『氷結』を放つ。コルダの得意とする氷魔法、その発展形である氷の弾丸。

それを連続を放つ。的が大きいので命中精度の低さは気にしない事にする。戦術や被害もこの際考えない。殺すくらいの気概でないと逃げられない!ていうか制御なんてできない!

 

「グレイシアス!氷河よ!グレイシアス・フリペンド!氷の弾丸!」

『怯むな。殺さないよう注意して戦え。あとさっきの態度にむかついたから半殺しにしてやれ』

「っ、さっきからシューシューシューシューうるさいですよ!聞いていてとっても不快です!グレイシアス・フリペンド!」

「君が不快になったのなら何よりだ。『薙ぎ払え』」

「この……!『グレイシアス・プロテゴ』………うッ!」

 

彼女が形成した氷の盾は、一瞬は持ち堪えるものの、直ぐにヒビが入り砕け散る。

コルダの盾では、バジリスクの薙ぎを一瞬防ぐのが精一杯だ。相手は捕縛に専念し、必殺の魔眼の能力が封じられているというハンデがあるとはいえ、その程度のハンデで倒せるのなら苦労はしない。

これが同世代最強のベガ・レストレンジであれば話は変わってくるだろうがーー

 

(って、今あんな女誑しクソ野郎の事なんて考えてどうします!重要なのは、今この蛇を倒す方法です!)

「グレイシアス・フリペンド!グレイシアス・フリペンド!グレイシアス!」

馬鹿のひとつ覚えと言われても構わない。しかしコルダにできるのはこれだけ。

ただただ氷を生成し、場を制圧する。氷が増える程に冷気が漂い、蛇が動き辛い環境になっていく。まさしく攻撃は最大の防御というわけだ。

 

「ハハ、大した攻撃だ。だが、おい。そんな氷如き、バジリスクがぶち壊せないと思ったか?この鱗はあらゆる熱気や冷気を遮断する。このままだとバジリスクを倒すどころか、その辺に倒れてるジニーが氷漬けになっちまうぞ」

「グレイシアス・フリペンド!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに………ん?」

 

何度も懲りずに氷魔法を放つコルダに、リドルは違和感を覚える。たしかに氷は生物特攻の強力な魔法だが、バジリスクには強靭な鱗がある。この鱗を攻略しない限り氷だろうが何だろうが意味はない。

ーー攻略したとすれば?

11歳の女の子を大蛇で連れ去るなら、普通は尾の先で巻き取り、拘束する。口に咥えれば牙の毒が回るかもしれないからだ。

逆に言えば、バジリスクは尻尾以外の攻撃が出せないと言う事になる。

もしも、氷を同じ所に何度も何度も当てていたとしら、いずれは……!

 

『GROOOOOAAAA!!』

「……これは、これは。バジリスクの尻尾が凍り始めている」

「もう遅いですよ。あなたには、どんどん身動きできなくなってもらいますから!」

驚くリドルに渾身のドヤ顔を決めるコルダだが、内心では(何十発も当てたのにあれだけしか効いてない……!)とバジリスクの異常な化け物っぷりに毒付いていた。命中精度に自信はないが、それでもほぼ同じ所を攻撃したというのに。

闘えば闘うほどに、大蛇の恐ろしさが克明に強くなっていく。そしてそれ以上に恐ろしいのはあの男だ。あのバジリスクを手脚の如く扱い、攻める。追い詰めているように見えて、じりじりと追い詰められているのはこっちだ。

早くこの場から逃げ去る策を「よし、じゃあ『脱皮しろ』」

「GYAOOOOOOOOHHHH!!!」

「………えっ?」

 

トム・リドルが何を言ったのかは分からないが、バジリスクは自分の鱗を脱ぎ捨てーーそしてもう一段階早くなる。

鎧を脱ぎ捨てた蛇は、水を得た魚のように鋭敏な動きを可能にした!しかも尻尾についてた氷ごと脱皮したので元通りというオマケつきだ。出鱈目すぎる……!

バジリスクはその巨体をコルダ目掛けて勢いよく叩きつけようとする。咄嗟に躱そうとして、瓦礫の隅に追いやられていた事に気が付いた。大蛇のその大きさに、感覚が狂わされてしまっていたのだ。

『殺す気はない』ーーそうは言っても、極論腕の一、二本ほど欠損させて秘密の部屋へと連れて行けばいいだけの話なのだ。生きてる限り魔力は練れる。かのアラスター・ムーディーがそうだったように。

殺す気は無いという事は、死ぬより危険な目に遭うという事なのだ。

やばいーーもう、逃げ場はない。

ーー『あの力』を使うか?

いや……今の状態ではロクに力を発揮できないどころか、下手すれば自滅…。

 

(やばい、早く盾の呪文を…………)

「プロテゴ………」

(……あ、盾は効かないんでした……)

「ーーーーー」

 

あ、詰んだ。

 

「うわあああああ間に合えええええ!!」

「ーーーーえ」

「何?」

「GIGAAAAAAAAHHHH!!」

 

腹部の辺りを掴まれて、床を転げ回って蛇の攻撃を避ける。同時にさっきまで立っていた地面がめくれ上がるが、今はそんな事気にしている余裕はない。

自分、蛇とそれを操る男。その中に突然現れた第三者、いや味方!

自分を助けてくれたこの男は……!

 

「えーと……そうだ!ネビル・ロングボトム!?何故ここにいるんです!」

「今一瞬名前忘れてたよね!?……話せば長くなるけど、君を助けに来た!」

「まさか鼠が入り込んでいたとは……」

コルダを庇いつつも、決してリドルやバジリスクに警戒を怠らないネビル。

『助けに来た』ーーその言葉を聞いただけで、疲労が出た身体は、幾分も軽くなった気がした。

憎きグリフィンドール、その中でも一番の問題児……に引っ付いてるぽっちゃりした冴えない男だと思っていたが…。

この男に助けられたのも、また事実。

 

「あー、マルフォイ。無事か?怪我とかしてないかい?」

「いえ……大丈夫です。強いて言うならそれ以上手を下に降ろさないでいて欲しいですね、これでも女子なので」

「あっ、ゴメン!」

「……、どうやってここに?この瓦礫の中を通るのは教師でも難しい筈」

「えーと……まあ、君が一人で行動してたから尾行してたら、壁が崩れて瓦礫の中に閉じ込められちゃって、今まで動けなかったってだけなんだけど」

「はン。ただの偶然って訳か」

 

つまりリドルにとって、取るに足らない一生徒というわけだ。彼が懸念するのは、そろそろ瓦礫をどかして教師陣が参戦してくるかもしれないという事である。

 

「コルダ、尾けてる時に話は聞かせてもらったよ。僕達は君を犯人だと思って、色々と探りを入れていたんだ。疑ってごめん。本当に……、ごめん。

ーーそれと。ジニーのために怒ってくれて、ありがとう」

「………!」

「よく、一人で頑張ったね。後は任せて」

「ネビル・ロングボトム……」

「おいおい!君の頭の中は空っぽか?どれだけそれが小さくってもバジリスクに勝てない事くらい分かると思うんだが?」

「脳ミソが足りないのは君の方だ。この子は絶対に助けてみせる」

「助けられなかったろ。今まで何人の被害を出してると思ってる。できもしない事を言うのはヤメロ?自分が虚しくなるだけだぞ?」

「そうだ、僕達は助けられなかった。だから今助けるんだよ」

 

くだらない、そうリドルは切り捨てる。

彼はシェリーやベガのような特別な人間ではない。ロンやハーマイオニーのように取り柄がある訳でもない。本当にただの一年生である。一人で何ができるというのか。

 

「……ええ、貴方が来たところで何ができるっていうんですか。大した特技もないくせに」

「それは………あー」

「まったく、もう。私も戦いますとも。ここで貴方を置いて逃げたらそれこそマルフォイ家の名折れですとも。そうでしょう?ロングボトムさん」

「……ゴメン、情けないけど君の力を借りなきゃいけないみたいだ」

「バジリスクを倒せるのなら、何でもいいですよ」

 

不意に、蛇の尻尾が飛来した。

盾の呪文程度では防げないほどの威力。大木すら上回る太さの尻尾が横薙ぎに振るわれる。

それを跳躍して回避すると、コルダは転がりながら躱したネビルに指示を送った。

 

「私と同じ方向に躱しなさい!あいつは私を殺せない、だから私と同じ場所にいれば魔眼を使うことはない筈です!」

「分かった!」

(こっちからしたら一纏めに潰せるチャンスだけどな)

 

バジリスクはその巨体を変幻自在に動かす事で全方位からの攻撃を可能としている。

鞭のようにしなる身体は、そのものが凶器!おまけに高速移動も可能であり、直撃すればその時点で詰みという鬼畜設定。

初撃を躱すと、すぐに次の攻撃。見て躱すより、出鱈目に動き回った方が幾分か当たりづらいようだ。その分体力の消耗も激しい。このままではジリ貧だ。

 

(ここは短期決戦を決めたい!でもバジリスク相手では氷魔法も分が悪い!あの鱗はあらゆる魔法を弾く上に脱皮もできるみたいですし……それなら、身体の『内側』はどうでしょう?)

 

生物である以上、内臓を鍛えることは出来ないはず。大蛇の口の中に直接魔力を流し込めば可能性はある。

問題は自分が氷魔法を制御できていないという点だ。命中精度に難がある。小さな的にまともに当てられたためしがない。

だからその役目は、必然的にネビルしかいないわけだが……。

 

(……ロングボトムさんに手伝ってもらえれば、いけるかもしれないですけれど。でもそれは彼が危険にーー)

「ーーフォイ!マルフォイ!何か作戦思いついたのかい!?」

「っ、い、いえーー」

「僕に気を遣わなくていいからな!何か思いついたら何でも言ってくれ!」

「ーーー」

「僕の頭じゃ何も思いつかない!だから君の作戦に賭けるけれどーーそれが失敗したとしても、誰も君を責めやしない!自信を持って言ってくれ!」

「ーーーーー!」

 

小さな氷の弾を放つ。それらは大蛇により粉々に砕かれるが……同時に、中の冷気が霧散し、視界を妨げる煙幕となった。

ネビルの襟を掴んで瓦礫の陰に隠れると、声を潜めてこう言った。

 

「作戦を、伝えます」

 

 

 

 

 

(どこに行った?あいつら。チッ、逃げに徹して援軍が来るまで待つ気か?)

 

リドルは苛立たしげに舌打ちすると、不審な物音がしないか耳を澄ます。乱暴に暴れたので建物は崩れ、あちこちに瓦礫が散乱し、隠れられる場所は少なくない。

 

(仮に、もし、万が一あいつ達がバジリスクに奇襲を仕掛けるとしたら……体内に魔力を流されるのは注意せねば)

 

バジリスクの内側は、数少ない弱点と言えるだろう。だが、それができるならさっさとそこを狙って攻撃する筈だ。

それができないのは……コルダ・マルフォイは氷魔法の精度が低く、ネビル・ロングボトムは技量不足だからだ。

悲しいかな、魔法使いとしての練度の低さがこんなところで出てしまう。才能はあってもそれを活かしきれていない。

 

(だからお前達は一点集中の攻撃で決めるしかないーー)

「『グレイシアス・フリペンド』!」

(だがその程度の攻撃、既に読んでいる)

「GYAOOHHHHHHH!!!」

「っ、弾かれーー」

「ーー終わりだ」

小賢しい不意打ちも徒労に終わり、リドルは勝ちを確信した。

もうこれ以上何をしても無駄だと決めつけてしまったのだ。

 

ーーコルダはその一瞬の隙を突いた。

霊体故に温度は感じない筈だがーー底冷えするような錯覚に陥るほどの、巨大な氷山。大量の魔力を消費して形成された寡黙なブルークリスタルの結晶が、バジリスクを襲った。

ーー自分の魔力を全て使いやがった!

それは諸刃の剣だ。魔力を全て使えば、しばらく魔法を使う事はできないがーーコルダ・マルフォイは、この一撃に全てを賭ける事を選択したのだ。

正真正銘、最後の攻撃!

バジリスクの生物としての本能が、たちまち現れた巨大で荘厳な氷山を警戒する。回避することは簡単だがーー威力がすさまじい。まともに喰らえばただではすまないだろう。

 

(だがーーバジリスクなら避けられる)

 

バジリスクの高い運動能力と柔軟な身体がその回避を可能とした。その巨体に似合わぬスピードは、まさしく化け物。

どこまでも規格外な怪物を前にして、コルダは魔法を放つことなく膝をついた。

氷魔法の使いすぎだ。

魔力切れーー。

最後の氷結も無意味に終わってしまった。

彼女は今ここで、終わった。

だがーー。

 

「ーーーーー!?」

 

冷気の中に隠れて。

ネビル・ロングボトムが、バジリスクの顔のすぐ近くに迫っていた。

コルダの氷魔法はブラフ。

全てはネビルが、彼女が空中に形成した『氷の道』を走って、魔力を直接流し込むための布石だった。

それに気付いた時には、時既に遅し。

 

(一年前、僕は自分の無力さを呪った。賢者の石を守る親友達を助けるどころか、脚を引っ張ってしまった)

 

(今年はどうだ?……同じだ。皆んなは継承者を探すために色んな努力をした。だけど僕は何の役にも立てていない)

 

「だけど今はーー今だけは、違うんだ」

 

氷の道をひた走る。

自分は、シェリーやコルダ……そしてベガといった才能を持つ人間達とは違う。

何も持っちゃいない。

だから、走る。走るしかないのだ。

何も持っちゃいないから、その分早く走れる筈なのだ。

ーー前に、前に、前に。

ーー進み続けるしかないのだ。

 

「しまっーーー」

「『ステューピファイ』!!!」

 

氷に映っていたのは、小さな勇者。

紅い光が走ったーー。




ハリポタGOが予想以上にポケモンGOだった。
ハリポタファンならやるべきなんだろうけど、今やってるスマホゲー(グラブル・FGO・ビーナスイレブン)が忙しいからまた今度な!何やったらポケマスも始めるからな!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。