フリントがドラグーンの指示出すあたりからです。
「そこ、罠魔法があるぞ」
「え、こんなところにも……?」
鼻の効くシリウスの指示に従って、チャリタリの仕掛けた魔法や魔道具の類を取り外していく。
彼女が仕掛けた魔法の数々は、シェリー達の道のりを阻む分厚い壁となった。数も質も、授業で習ったものとは段違いだ。もしシリウスが犬の動物もどきでなければ、ここに辿り着くまでに十回は捕まっていただろう。
とはいえ、急がなければ。
ダンブルドアが闇祓い達を足止めしてくれているおかげで、今のところは何とかスムーズに事が運んでいるのだ。
「シリウスがいなかったら、ここまで来れなかったよ。ありがとう」
「わふん。……いや、私のせいでここまで来る羽目になったとも言えるが……」
「き、気にしなくていいよ!」
「……ねえ二人とも、罠の解除を手伝ってもらえるかしら」
「あ、ああ、すまない。……気を付けろ、そこに二重で魔法が仕掛けられてる。私でも嗅ぎ取れるかどうか分からない程に巧妙に仕掛けられてるぞ」
「改めてチャリタリって凄かったんだね…あ、もうすぐ出口だ」
地図を片手に、隠し通路を歩く。(地図はルーピンの部屋から回収したものだ)
昔、ジェームズとシリウスの悪童コンビは透明マントを身につけては度々夜のホグワーツを探索したらしいのだが、有事の際にマントが手元に無い時はシリウスの影に隠れる能力が重宝したらしい。
影という特性故に制限が大きいのが難点ではあるが、それでも便利な能力であることに変わりはない。同じくジェームズやペティグリュー、きっとマクゴナガルも特異な能力を得ているのだそうだ。
「……。二人とも、ここで止まれ」
「え?」
「妙な匂いがする……人のようだが……なんだこの匂いは?」
「ごめん、お風呂にはちゃんと入ってるつもりだったんだけど」
「違くて。……この一年、ホグズミードには何度か立ち寄ったが……こんな独特な匂いを嗅いだ事はなかった。誰か、外部の人間でも来ているのか……?」
甘い蜜の香りのようでもあり、刺激臭のようでもある、らしい。
進むほどに匂いは濃くなる。
シェリー達にもその匂いが分かるほど強くなってきた。
(……シェリー、ハーマイオニー。もし誰か来たら私に脅されて無理矢理連れて来させられたと言うんだ。私としてもその方がやりやすい)
(人質のふりをするって事?分かった)
シリウスが警戒しつつ進むと、一人の男が道を塞いでいた。匂いの発生源も彼のようだ。
彼が背負うのは、両手斧。
英国では異端の、杖以外の武器を使って戦うタイプの魔法使い。
ゆらゆらと不安定に立つ姿は風にはためく旗のようだったが、その眼が、彼の異常性を物語っていた。
「……何だ、お前。シリウス・ブラックじゃないか」
「………マクネアか?魔法省の処刑人の」
「久しいな、ブラック。……捕まったと聞いたが」
「悪いがまだ死ねないんでね」
「そうかい。だが悪いな、俺はお前達を殺さねばならん。闇の帝王の仇だからな」
「それが目的か……」
「さもあらん。ペティグリューの回収が本来の目的だったのだが、それは『もう一人』がやってくれるそうでな。一人で暇してたところだ……………!?」
マクネアと呼ばれた男が目を剥いた。
やばい。シェリーを見て明らかに態度が変わっている。
「そこにいるのはシェリー・ポッターだろう!?お前を殺してあの御方に捧げればきっとお喜びになるだろう!」
「……やっぱこうなるのね……」
「ごめん……」
「二人とも、杖は自分を守るために使え。奴は死喰い人だった男だ、何をしてくるか分からない」
「え?デス……何?」
「要するに例のあの人の部下だったってことよ」
まさか、ペティグリューの逃走を察知してやって来るとは。戦闘は避けたいところだったが、この男を倒さねば、ペティグリューの逃走を逃してしまう危険性がある。
そして何より『シェリー・ポッター』と『シリウス・ブラック』という二大カードを、闇に忠誠を誓った男がみすみす逃すわけがないのだ。
運が悪いとしか言いようがない。
どちらにせよ、この男を倒さねば進めないという事だ。
「お前達に死を与えてやる。死はいいぞ」
「………」
「死とは芸術。死とは美なのだ。私は闇の帝王に忠誠を誓い、数多の人間を屠ってきた。そうしたらあの方に喜んでもらえた。今日、お前達を殺すことでまた新たなる芸術を創るのだ」
「黙れ。死に美醜の概念などない。人間の美しさは生き方に宿るもんだ」
「フン、お坊ちゃん風情が……」
じりじりと、距離を詰めていく。
シリウスは犬に変身できれば、杖が無くとも戦える。そして影に隠れて移動して、不意を打つのも可能なのだ。
そして同学年ではトップの実力を誇る、シェリーとハーマイオニーまでいる。
マクネアの勝機は薄かったが……。
「お前にも分かる筈だ。十三年前、お前の友のジェームズ・ポッターとリリー・ポッターが死んだ。彼等はただ死んだのではなく、そこのシェリー・ポッターを守って死んだ。死ぬことで芸術となったのだ」
「私の両親をそんな風に言わないで」
「違う!侮辱ではない!物語が最後で美しく終われば名作と言われるように、人間も美しく死ねば芸術となる!他ならぬ我が君の手によってあの二人は美しくなった!あの日死んでよかったな、あのまま生き残っていれば醜くなってしまっていたかもしれない!子供を守って死ぬ、最高の人生じゃないか!」
「……あなたの主張をどうこう言うつもりはないけど。それ以上は、やめて」
「いいややめんぞ!シリウス・ブラック!お前もそう思うだろう!?」
「──黙れ。私は、お前のような下衆と話す口を持ち合わせていない」
マクネアの、その自分勝手な主張が。
シリウス・ブラックの中の、眠れる獅子を呼び起こした。
▽▽▽▽▽▽
「お、おい。今出てっちゃ駄目なのか」
「駄目だ」
「どうしても?」
「駄目」
ベガ・ネビル・ドラコの三人は、草陰でシェリー達の様子を伺っていた。いや、正確には『約一時間前のシェリー達』だが。
シェリー達の話によれば、ルーピンが狼に変身した時のドサクサでペティグリューが逃げ出すのだという。
つまり、ペティグリューがネズミになり逃げ出したタイミングを見計らって捕獲しなくては意味がない。シェリー達に見つかればタイムパラドックスが起きてしまう。
ちなみに事前にダンブルドアから匂いを消す魔法をかけられていたため、ベガ達がシリウスに見つかる心配はない。
「………来た!ペティグリューがネズミに変身した!」
「まだだ、まだ待て!……よし!今だ!」
ベガ達は捕縛や失神呪文をネズミに向けて放つ。だが、不意打ちだったにも関わらず、俊敏な動きで躱される。
ならばと、事前に仕込んでいた魔法糸や罠魔法を作動させるが、それすらもペティグリューは躱していく。これはベガ達の罠の仕掛け方が悪かったのではなく、ペティグリューが元々、悪戯仕掛け人の中で罠魔法に最も精通していたという点が大きい。
加えて、動物もどき状態の時、普通の動物よりも身体能力や感覚器官が強化される事があるのだが……ペティグリューもその例に漏れず、髭の感覚が鋭敏になり、それで罠を見抜いているようだ。
「だったら、多少手荒な方法で捕まえてやるよ。ラカーナム・インフラマーレイ!」
蛍火のように淡く輝く、リンドウ色の火炎球が幾多も現れ、ペティグリューの行手を阻む。一つ一つの威力はさして高くはないが、その量でペティグリューを追い詰める算段だ。
だが、ペティグリューは、脚を止める事なく火炎球の大群に突っ込むと、大きく口を開いて火炎球の一つを口に含んでしまったではないか。
「なに!?」
「あ、あいつ、火を喰いやがった!」
動物もどきとしての能力か。
ペティグリューは食べた炎を頬袋に溜めると、他の火炎球に向かって吐き出し、相殺させる。
そして出来た隙間を縫って、そこから逃走を図る。……破格の能力だ。ロックハートの薄っぺらな盾、プロテゴ・メンダシウムを彷彿とさせる。
ネビルは追撃を放つが、標的の小ささ故に当たらない。当たりそうになれば、ペティグリューはそれを食べる。ネズミなのにイタチごっこだった。
「奴の動物もどきとしての能力は、『魔法を吸収して吐き出す能力』……らしいな。直接的な魔法攻撃は効かねえようだ」
「マルフォイ!そっち逃げたよ!」
「任せろっ、『プロテゴ』!……何!?」
ドラコの作った防御壁を、ペティグリューはいとも容易く噛みちぎり、小さな穴を作ってそこから逃走する。
どれだけ歯が頑丈なのかと思ったが、そういう魔力らしい。攻撃魔法だけでなく、補助魔法まで食べる。彼の前では魔法は全くの無意味であり、物理攻撃しか手段がないというわけだ。
「下手に魔法を撃つと奴に反撃される隙を与えるだけだ!囲んで捕まえろ!」
「うん……でもベガ、この先はまずいよ。禁じられた森だ……」
鬱蒼と茂る森の中、小さなネズミ一匹を追うのは至難であった。
三人の執念の追跡で、どうにかペティグリューを捕捉し続けているものの、なかなか捕獲にまでは至らない。
もしもこのまま捕まえられず、彼が森の奥地まで逃げられたらもう捕縛は不可能だろう。それまでに捕まえなくては……。
という、ベガ達の焦りは、すぐに解消される事になる。
ゆらり、と、動く影が、俊敏な動きでペティグリューの尻尾をつまんだ。魔法を使わずに、純然たる身体能力だけで。手の中でジタバタと暴れるネズミを、つまらなさそうな眼で見ている。
その男は、狼の姿をしていた。
その男は、毛むくじゃらだった。
────人狼。
先程ルーピンが変身したそれとはまた違う、筋肉質な肉体を覆い隠す白い毛は、月光に照らされて美しささえ漂わせる。
敵か味方かでいえば、敵だろう。
奴の顔には、見覚えがある。
その顔は──教科書に載っている。
英国で知らぬ者などいない大量殺人鬼。
必要に迫られて殺したペティグリューとは違う、快楽のために殺す男。
『フェンリール・グレイバック』!
「おォーい、ペティグリュー。ピーター・ペティグリューさんよォー。あんまり手間かけさせんなよなァー。ここの警備は厳重なの、お前も知ってんだろ」
「か、勘弁してくれ、グレイバック。こっちも色々と大変だったんだ」
どうやらペティグリューとは知己の仲のようだ。彼は嫌々死喰い人に属していたと聞いたが、認識を改めねばなるまい。
死喰い人の中でも上位の実力者が、わざわざホグワーツまで危険を冒してまで迎えに来た。何をしているか知らないが、重要なポストにいるのだろう。
「お前も俺と同じく『闇の帝王』から力を授けてもらった幹部だろ?これくらい自分で何とかしろよな」
「あ、『あの力』は今は没収されているんだよ。お前も知っているだろう……?」
「あー、お前、色々としくじったもんな。それで新参者のクィレルに力を譲渡したんだっけか?まあ、あいつも適正は高くなかったみたいだがな。──さて」
「!」
「一応、
軽薄な口調だった。
世間が抱くグレイバック像そのままだ。野蛮で粗野、下卑た男。ほんの少し喋っただけで彼の性格が垣間見える。
彼が死喰い人ならば戦闘は避けられないだろう。邪魔者は消すと眼が告げている。
ネビルとドラコを逃さねば……そうベガが思考していると、狼男の視線が、ちょうどベガの前で止まった。
「…………、お前………」
何かに驚いたような顔だった。ウルフフェイスでも感情は読み取れた。
「お前、名前何て言うんだ?」
「………?死喰い人なんざに名乗る名前は持ち合わせてねえな」
「………、その態度、その口ぶり……。おいペティグリュー、あのガキの名前は?」
「た、たしかベガだった筈だ。レストレンジ家の生き残りの」
「ベガ・レストレンジ……ああ、目つきや態度がデネブそっくりだが、髪はアルタイル譲りだ……ほお………?」
何だ、二人のことを知っているのか?
レジスタンスに属していたベガの両親と闇の勢力のグレイバックが知り合う方法など一つしかない。お互い戦った時に顔と名前を覚えたのだろう。
しかし妙なのは、先程からグレイバックの様子がおかしい事だ。ベガを、どこか愛しいモノを見るような眼で見ている。彼にとっては敵の息子の筈なのに、その視線はどこか優しげだ。
……事情はよく分からないが、交渉の余地があるのではないか?戦闘を避けられるのであれば、避けた方が良い。
しかし。
それはすぐに勘違いだった事を知る。
「………お前、良いなあああ──ッ!」
「は?」
「俺はよう、顔が綺麗で整ってる奴が大好物なんだよ!男女問わずなあ!俺はお前ぐらいの歳のガキを何人も喰ったし、犯してきた!だが、中でもお前は格別だ!」
「…………」
「艶のある髪、ハリのある肌!美しいブルーの瞳!だがそんな可愛い顔して性格がクソ生意気なのが素晴らしい!ヘヘハハハ、唆るぜ!良いね、俺は最近十代前半の子供を襲うのが趣味でよ!その生意気な面を俺の手で歪ませてやりたいね!」
「死ね」
己の性癖を曝け出す変態に本気で気持ち悪いものを感じながら、ベガは何発もの魔法を放った。ベガも女遊びが酷いので人の事は言えないのだが、少なくとも無理矢理迫るのは違うと思うのだ。
しかしそれらの攻撃は全て躱された。
ならば、と次の手を備えたベガだったがその動きがピタリと止まった。
「まあ待てよ。お話しようぜ」
「………なっ」
「えっ」
「……な、なんで……」
──何でもう背後にいやがる!?
ベガは焦るより先に驚いた。首筋に、鋭い爪を突きつけられている。
背後を取られたのは二年ぶりだ。前は吸血鬼のクィレルに背後を取られた。
しかしあの時はまだベガも一年生、まだまだ未熟だったと言い訳できる。
だが今回はどうだ?成長を積み経験を重ねたベガが、またもやアッサリと敵に背後を許してしまった。
──この男が、早過ぎるのだ。
(認めたくはない、が……こいつ……俺が今まで戦ってきた奴の中で一番強い)
当然といえば当然。
グレイバックは闇の勢力の中でも最上位の強さを持つと謳われる実力者。ヴォルデモートに勧誘されるずっと前から、英国で殺人や強姦を繰り返してきた根っからの悪党なのだ。長年裏の世界に身を投じているだけあって、その戦闘経験も豊富なはず。
それでも……それでも、ベガは、彼との実力が、天と地ほど離れているとは思いたくなかった。
「おいペティグリュー、お前は逃げてろ。俺はこいつと遊んでから行くからよォ。…良いなあ……、シェリー・ポッターも上玉だったが、こっちも最高だあァ……」
「わ、わかった。ヒィイイイ……」
「ま、待て!ペティグリュー!」
「おおっと、待て待て。あんなでも俺達にとっちゃ重要人物なんだ、追わせる訳にはいかねえなあ」
「ぐッ……」
逃げるペティグリューを黙って見逃す事しかできなかった。作戦は失敗だ。
しかし、何なのだこの男は。見た目だけならば狼の姿は勇猛そうに見えるのだが、中身はその真逆で年端もいかぬ少年に欲情する変態クソ野郎とは。
爪が紅く染まっている。闇に傾倒した魔法使いは身体の一部分が紅く染まるというが、女の爪を模したようで気味が悪い。
「俺の爪は特別性でな、『紅い爪』って言うんだよ。去年闇の帝王と戦った時、眼が紅く光ってなかったか?闇に傾倒した魔法使いにごく稀に起こる現象でな、身体のどこか一部分が紅く染まり、魔力量が上昇する現象が起きるんだ」
(何か喋り出した……怖……)
「あのお方にもその力が目覚めてよ、あろうことか力のメカニズムを解析したんだ。
そして闇の魔法使いの幹部にもその力を分け与えた。俺もその一人。ペティグリューの奴も力を貰ってたんだが、しくじりのせいで剥奪されちまった」
(何だこの話いつまで続くんだ)
「クィレルにもその力が与えられてたんだがよ、その結果はあまり芳しくなかったようだな。魔力は殆ど上昇せず、紅くなる代わりに黒ずんだ。あれは失敗だな。次の貰い手は誰になるのやら」
(……ぼ、僕達はどうすれば……)
「そうだ、お前やれよ!お前幹部になって俺と良いコトしようぜ?な?」
ニヤついたグレイバックの提案を、ベガは即座に断った。
そしてその瞬間に魔法を唱える。
既に糸は展開しているのだ!
ハーマイオニー考案の魔法糸に魔力を乗せ、首筋狙って失神呪文を放った。
「──うぉお!?」
だが、すんでのところでグレイバックは首を逸らしてみせる。完全には避けきれなかったため少したじろいだものの、目立ったダメージはない。
動揺した隙を狙い離れたベガは、戦闘よりも逃走を選択した。
「逃げろ!お前達!作戦は失敗だ!闇祓い達にこの事を伝えるんだ!」
(闇祓い?おいおいマジかよ、あのアレン達がここに来るってのか?そいつは困る、ベガと良いコトできねえじゃねえか)
至極不純な動機でネビルとドラコもターゲットに入れたグレイバックは、二人目掛けて投石した。人狼の投石は木を抉り、二人の脚を止める。だが、あまりの破壊力に呆然とする暇はない。
すぐにまた走り出す二人を見て、ベガは広範囲にわたる大規模な魔法を唱える体勢に入る。ベガは相手を分析しながら戦闘を組み立てるタイプではあるが、グレイバック相手では自分の得意技を押し付けた方が良いと判断した。
幸い、ここは燃える物が沢山だ。
ペティグリューに気を遣わなくていい今この時、この魔法は極めて有効のはず!
「インセンディオ!」
狼男を炎が囲んだ。
足止めくらいにはなるだろうと期待したが、そのどれもが無駄だったようだ。猛る人狼は右手を突き出した形で突進した!
「俺の紅い爪は万象を貫く!」
理屈も何もない、ただの突進。
しかしグレイバックは炎の中を突っ切ってきた。紅い爪は、燃え盛る火炎をも貫いたのだ!
舌打ちしながらもグレイバックの猛攻をいなし、予め木を『変化』させておいた槍でカウンター気味に迎え打つ。毛皮の一部を裂いただけだが、ダメージは入った。
だが血が流れたからか更に獰猛さを増すグレイバックの攻めに、ベガの回避も少しずつ間に合わなくなってきた。
「良いねえ、興奮してきた!血が流れて迸ってきたぜえ!」
(戦闘狂かッ、こいつ!クソ、近接戦闘じゃこいつに勝ち目はねえ!)
「ほらほらほらァー、まだまだ俺はこんなもんじゃないぜ!?このくらいで粘ってんなよ、もっと興奮させてみろオ!」
たまらず、木々の中に身を投じて戦況を変えようとするも、その木ごと破壊して攻撃を放ってくる。しかも出鱈目に動いているようで、まだまだ余力を残しているのがベガにも分かった。
高すぎる身体能力故の、単純な力押し。
が、突破口が無い訳ではない。
動体視力が高いという事は、つまり目眩しなどが余計に効きやすいという事。至近距離からルーモスで光らせてやれば、グレイバックは確実に怯むだろう。
問題はむしろそのあと。身体能力が段違いなのだ、目眩しをしたとて逃げられる相手ではない。
では攻撃に転じて攻め立てるのか?と聞かれれば、それも難しい。人狼であれば、いやこの男であれば視覚に頼らずに戦闘するという荒技も可能だろう。
(だから、できるだけ高威力の魔法をゼロ距離で放たなければならない。一撃が強い魔法……一点集中で悪霊の火を使い肉を焼いてみるか……?)
──それで十分なのか?
──それじゃあクィレルの時の二の舞じゃないのか?ロックハートもそうだ。俺が殺す気で挑んでいれば敵を倒せていた事が何度もあっただろう?
──これ以上、自分の友人を危険に晒していいのか?
──もっと強力な魔法があるだろう?
ベガの中の悪魔が囁いた。
常々思っていたことだ。
敵を作るだけの自分とは違う、敵を赦し味方に引き込むシェリーに憧れて、何度も甘い選択ばかりしてきた。
だがその度に後悔する。自分がもっとしっかりしていれば。もっと強ければ。もっとちゃんとしていれば。
シドも、死ななかったのではないか。
今が変わる転機ではないのか。
この男も、殺す、べきではないのか。
(……死の呪文なら……)
「なぁーに余所見してんだあ!?そんなんじゃ俺を殺せねえぞ!」
「!ハッ、お前ごとき余所見しながらでも倒せんだよ!」
どっちみち、魔法を使わない事には始まらない。ベガはそう結論付けて、杖先から魔力を放った──
「ベガは大丈夫かな」
禁じられた森の中を逃げながら、ネビルはポツリと呟いた。
「大丈夫だろ、何を心配してる?あいつの強さはお前が一番よく知ってるだろ」
「うん……そうなんだけど。でもベガは僕達の誰よりも能力が高いから、誰よりも危険で難しい役割を率先してやる。だから今回も僕達を逃がすために……」
「それは、その役割を自分ならできると確信してるからだろ?あいつなら大丈夫さ、つーか走るの遅いぞロングボトム」
「悪いねこんな体型なもんでね。
戻って、くるよな?ベガ………ッ!?」
身を屈めたネビルの真上を、銀髪の少年が飛んでいく。体勢から見るに、吹き飛ばされてここまで来たようだ。
勢いそのままに木に直撃し、背中を強く殴打する。神経系が集まる頭部から背中を強く打っても意識を飛ばさないのは、彼の執念といえよう。
──ここまで吹っ飛ばされたのか?
──あの、ベガが?
狼狽するネビル達に、彼は強く言い放った。彼の声色は焦りと少しばかりの恐怖が滲んでいた。
「ッ、………、ネビル、ドラコ!まだこんな所にいたのか、早く逃げろッ!ぐ……、こいつは今までの敵と格が違う。……俺じゃこいつに勝てねえ!」
「……か、勝てない、だって?」
「勝てないんだよ!グレイバックはダンブルドアやヴォルデモートを除けば最強格の人間だ!逆に言えば、こいつと真正面から戦って確実に勝てるのは、今、ダンブルドアしかいねえんだよ!
──こいつは殺す気でいく。そうでないとこっちが死ぬ……!」
レックス・アレンとの交戦で微かに感じた、強者の貫禄。『人間の最高到達点』。
それと同じものを感じていた。
彼の動きを先読みしても、火炎系魔法で薙ぎ払っても、守護霊で陽動しても、小細工を使っても、全て無駄に終わる。高すぎる身体能力がその全てをひっくり返す。
ベガの攻撃を尽く無力化して、手札が無くなったところで骨を折り連れ帰るというのだから笑えない。何故神はこんな男に力を与えたのだ。
(なんとなく分かる……俺が残してる手札はまだあるが、そのどれもが奴に通用しないだろう事が……『奥の手』もきっと回避されて終わりだ……どうする………!?)
──いや、手札はまだある。
──許されざる呪文を使え。禁忌とされる呪文の効果は絶大だ。
──護りたいのは友か?それとも自分の安っぽいプライドか?
(…………、やってやるよ。こいつ達を守るためなら、俺は本当の悪魔にだってなってやる!)
一秒の硬直。狂おしい程の葛藤。
しかしベガは決断した。
グレイバックに突っ込み、炎を交えた近接戦で攻め立てる。一手、二手、三手ときて、四手目に本命の『死の呪文』をゼロ距離で放つ。
奴の身体能力は脅威だが、奴がどのくらいのスピードで動くかは分かった。後は、身体がついていけば良いだけ。自分の身体に鞭打って、グレイバックの初撃を横に回避して──
「かかったな」
(………!!自分の骨を折って、無理矢理軌道を変えやがった……!?)
全く想定外の方向からの一撃を、ベガは躱しきれなかった。グレイバックの紅い爪が、右眼から右胸にかけて切り裂いた。
大丈夫だ、致命傷は避けた、右眼の眼球も無事だ。そう言い聞かせるが、それでもベガを焦らせる十分すぎる理由ができた。
(杖が……折れた……!?)
◯動物もどき
何か動物に変身できる、杖を使わない高等魔法。
何の動物になるかは変身してからのお楽しみ。
ちょっとした特殊能力も手に入る。
例)
シリウス・ブラック→犬
影に隠れる能力
ピーター・ペティグリュー→ネズミ
魔法を食べて吐き出す能力
など。
死喰い人連中はキャラ薄いから濃くしていくね…。キチガイと変態にするね…。