シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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アズカバン編終結です。


Prisoner of Azkaban

 禁じられた森の中。

 死闘を終えたベガ達をジキル率いる救護班が手当し、その他の闇祓い達は哨戒を行う。一糸乱れず迅速に行動を行う様は、プロフェッショナルのそれがあった。

 それをポカンと見つめながら、ハーマイオニーは小声で尋ねた。

 

「じゃあペティグリューは逃したのね?」

「ああ……不甲斐ねえ。途中でグレイバックがやって来て、追うに追えなくなっちまったんだ」

「仕方ないよ、あれほどの人……人?がやって来たんだもの」

「ありがとうシェリー。……そういえばシェリー達はロンとドラコに会った?」

「?いや、会ってないけど」

「そうか……いやな、戦いの途中でロンとコルダがやって来たんだよ。んで、その後ロンとドラコを結界の解除に行かせて、助けを呼びに行ってもらってたんだ。となるとあいつ達は、闇祓いの所に助けを求めに行ったんだな……」

「………ん?コルダ?」

「…………」

「「あー!!」」

 

 ベガとネビルは顔を見合わせた。

 コルダが狼になったままだ!

 このままでは闇祓いに見つかって彼女の秘密がバレてしまう!人狼は英国界で差別の対象だ、今後彼女は暗い人生を送ってしまう事になる!

 

「ば、馬鹿!大きな声を出すなッ!」

「ベガだって出してたじゃん!?」

「いいか、コルダを回収して隠すぞ!あいつの正体が闇祓い連中にバレる訳にはいかねえ!兄貴を助けに来て人狼バレするのは流石に可哀想すぎるだろ!」

「わかってるよ!ルーピン先生はどうしようもなかったけど、あの子はまだ何とかできるしね!よし、行くぞお!」

「アンタ達、何の話してるの?マルフォイ家のお嬢さんならもう確保済みだけど」

「「………えっ」」

 

 朗らかにやって来た褐色の闇祓い、チャリタリの一言に二人は凍りつく。

 終わった……。

 

「そんな暗い顔するなっての!アタシ達があの子の事を密告すると思う?」

「え、でも……」

「だーいじょうぶ。この森で見た事は、ホグワーツの皆んなには内緒。狼人間なんて知らない、私達が見たのはお兄ちゃんを必死で助けようとした女の子だけ。そういう事でいいよね?」

「………ありがてえ」

「さっきマルフォイの坊ちゃんに氷魔法の入力コードを教えてもらって、あの子に打ち込んでる。今は落ち着いてるよ。コルダだっけ?良い子だね」

「………ホントにね」

 

 途中のコルダの参戦がなければベガ達は今ここに立っていられなかった。それを考えれば、彼女はベガ達の恩人だ。

 そんなコルダがこれから不幸な思いをするのは、あまりにも忍びない。彼等が理解のある大人でよかった。

 安堵の空気が流れる。シェリー達は何のことやらさっぱりだったが。

 

「え?え?何のこと?」

「後で説明するね……」

「ベガ、そんなところで寝たら汚いわよ。いや戦いのせいで元々汚いんだけど」

「なんか、安心したら疲れが急に……」

「ルーピン先生はどうにかならないの?」

「あの人の事も擁護してあげたいけど……スネイプが魔法省にある事ない事言いふらしててね……」

「ああ………」

 可哀想なルーピン。

 スネイプが大人気なかったばかりに…。

 「君達、ちょっといいか?」と言って、シェリー達の会話にレックス・アレンが加わって来た。

 

「どうせ知ることだから今話しておくぜ。

シリウス・ブラックが牢から逃走したんだ。だからスネイプ先生は今とっても虫の居所が悪いようでな……。まあ、結果的に俺達は周囲を探索する事になって、ロン達を見つけられたわけなんだがな」

「そのシリウス・ブラックだけど、どうも共犯者がいたみたいだよ。ホグワーツに忍び込んだ何者かが脱走の手引きした可能性が高いみたい」

(すみませんそれやったの私達です)

「ホグズミードのはずれに倒れてたマクネアが怪しいな。魔法省勤めだが奴は元・死喰い人だしな……」

(すみませんそれもやったの私達です)

「おっと、ここで話す事じゃなかったな。とりあえず君達を医務室へ運ぼう」

 

 魔法の絨毯ならぬ魔法の担架に乗せられると、医務室へフワフワと漂いながら飛んでいく。横には、アレン達がそれを守るように歩いていた。

 

 (疲れた……)

 

 長い夜だった。

 たった数時間の間に色んなことが起きすぎている。ペティグリューの正体、ルーピンの狼化、シリウスの逃走、何よりマクネアとグレイバックの奇襲。

 しかし最後は大人の、闇祓いの手を借りなければ勝てなかった。

 彼等の横顔を見てベガは歯噛みする。

 遠い。最強が、遠い。

 数々の激闘で強くなっていた筈なのに、グレイバック相手に手も足も出なかった。

 魔法と知識をフル活用して、新しい魔法も創って。援軍としてやって来たシェリー達の力も借りて、挙句コルダに狼化までさせて。

 それでも勝てなかった。

 闇祓いがいなければ負けていた。

 それが、悔しい。

 皆んなを守れない無力さが憎い。

 気付けば、ベガは弱音を溢していた。

 

「なあ、アレン」

「ん?どうした」

「俺さ、皆んなを守るために力を求めて…それで時間系魔法とか、色々と魔法を創ってたんだけど、全然通用しなかった」

「時間系魔法?」

「ああ。相手の時間を奪う魔法だ。だけど創ったはいいもののデメリットが多くてな。超至近距離でないと使えない上に、魔力の消費も激しい。接近戦が主体のグレイバック相手じゃ、発動の隙が無かった。

 しかも『時間簒奪』にはどうやらインターバルがあるようだ」

「成る程、時間を置かないと使えないという事か。それは確かに使い辛い魔法だ」

「『時間簒奪』のインターバルは、一年」

 

 つまり、時間簒奪を再度使えるようになるのは約一年後のこと。一年に一度しか使えないとっておきの大技だ。

 

「一年に一度しか使えない魔法……しかも今の俺じゃ逆転時計の力を借りてやっと発動できるくらい難しい魔法。もっともっと改良していかなきゃいけねえ。それに即興で創った守護悪霊の方も問題だ、あれもまだ制御しきれてねえし……」

「…………」

「クソ……俺、弱えな………」

 

 ホグワーツの生徒の中では上級生含めて最強だと思っていた。では教師相手では?ホグワーツの外の闇祓い相手では?……まだまだ力は及ばない。

 ベガ・レストレンジは無力だった。

 自分は、もっともっと強くならなければいけない。そうでなければ仲間を守れないし、シドとの約束通り生き残る事もできやしない。もう二度と友人を失わないために強くなろうとしたのに。

 強さが欲しい。

 仲間も自分も纏めて守れる強さが。

 しかしアレンはそれを肯定しなかった。

 

「──ベガ。君は、百年に一度の天才と呼ばれた事はあるか?」

「………?」

 

 アレンの意図のわからぬ質問に、ベガは咄嗟に答える事ができなかった。

 

「天才とは何度も呼ばれてきただろう。だが、せいぜいが十年に一度の天才だろ?ダンブルドアやトム・リドル、そういった天才達が過去にホグワーツにいたから、君は百年に一度の天才とは言われてないんだ」

「………そうかもな」

「だが、そんな規格外の天才達が何人も魔法界にはいたのに、世界は未だに平和になっちゃいない。最強が一人いたところで意味はないんだ。俺も闇祓い最強と持て囃されてはいるが、誰か一人強いだけじゃ変わらないんだよ」

 

 そうした天才は、数世代に一度現れる。

 しかしその誰もが過ちを犯し、間違え、天才故の孤独を味わうのだ。

 時間さえかければ、ベガは、ダンブルドアやヴォルデモートにも並び立つ存在になれるかもしれない。アレンも同様、いずれ彼達と同じだけの力を、名声を、持つことになるだろう。

 だがそれでは意味がない。

 限られた天才が主導する世界は、いずれ破綻する。人間一人にできる事には限りがあるのだから。

 ベガだけが強くなるのでは、駄目だ。

 だから。

 

「皆んなで強くなろう」

「…………!」

「俺達だけが強くても意味はない。皆んなで強くなるんだ」

 

 闇祓い最強の出した結論は、ベガにとって少し意外なものだった。

 個の強さより、群の強さ。

 最強とまで言われる男がまさかそんな事を説くのは、眼から鱗だった。

 

「そうでもないぜ。例えば、南極で今死にかけてる人がいても俺達にはどうしようもないだろ?どんなに強くても無理なものはあるって話だ」

「………そういうもんかね」

「もっと友達を頼ってみてはどうだい。君の友達は君が思うほどヤワじゃない」

「………ん。……疲れた。寝るわ」

 

 まどろみ数分、かつて無いほどの疲労が溜まっていたベガはすぐに寝息を立てた。

 他の生徒達も同様に、担架の上ですやすやと眠りについている。ただ一人シェリーだけが、うつらうつらとしながら舟を漕いでいた。

 

「シェリー、眠る前に一つ聞かせてくれ」

「……はっ。うん。どうしたの?」

「何で君達はこんな所にいるんだ?」

「えっ?何でって──…」

「こんな時間に禁じられた森に行くなんてどういうつもりだ?ロンとコルダに関しては医務室を抜け出して来てるだろう?しかもどうしてグレイバックなんかと戦っていたんだ」

「……あー……えーと……」

 

 言い訳を考えていなかった!

 確かに側から見たら、自分達は夜に禁じられた森に出掛けて闇の勢力の幹部と遭遇して死闘を繰り広げていた、という訳の分からない行動をしている!

 まずい!なんて説明しよう!

「………あの人の差し金かい?」

 いや、もうアレンはお見通しのようだ。ならもう包み隠さず話した方が良いか…。

 

「……うん……。ダンブルドアに計画を持ちかけられて、私達が実行しました……あの人を助けたい一心で……」

「成る程、ダンブルドアが首謀者か」

「ああっ!」

 嵌められた!

「詳しい事情はダンブルドアに聞こうか。ありがとうシェリー、君はもう寝なさい」

「あ、あの!規則を破ったのは私達だし、ダンブルドア先生も私達も悪い事をしようとしたわけではないの!然るべき罰はきちんと受けるけれど、何か目論見があったわけじゃない!それだけは分かって!」

「………大丈夫だよシェリー、ちゃんと分かってるぜ」

 

 アレンは優しく微笑んだ。

 その笑顔を見て、シェリーは、堰き止められていた疲れがどっと押し寄せて来るのを感じた。ああ、眠い……。

 

「………さて………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

──数時間後

──校長室

 

 生徒も職員も寝静まった夜に、その二人は密談でもするかのように顔を付き合わせて話していた。

 一人は、きらきらと輝くブルーの瞳を持つ老獪な男、アルバス・ダンブルドア。

 一人は、牛乳瓶の底のような眼鏡をした昆虫染みた女、シビル・トレローニー。

 一見すると意外な組み合わせだが、実はそうでもない。トレローニーはしばしばダンブルドアの下に人目を忍んでとある報告を行なっていたのだ。

 

「確かにそう言ったのか?シビル」

「ええ、予言では戦争は七年続き、シェリー・ポッターは殺人を冒す……と」

「なんとも、物騒な予言が出たものじゃ」

 

 トレローニーは高名な予見者、カッサンドラの曾々孫である。そのためか、彼女自身も予期せぬタイミングでトランス状態に陥り、声が太くなって白目になって、本物の予言を行う事がある。

 そしてトレローニーはそんな自分の体質を自覚している。トランス中に自分が何を言ったのかも覚えているし、意識もハッキリしているのだが、『もう一つの人格』というべきか、それが表に出ている時は身体の制御が効かなくなるのだ。

 そしてヴォルデモート全盛の時代に、自分の能力を役立てるために彼女はホグワーツへと入り自分の体質を打ち明けた。全ては平和な世界のために。

 

 と、ここまで聞けば立派な人物だと思われがちだが、彼女はトランス状態の時ほどではないにせよ自分には占いの才能があると誤解しているのも事実なのだった。

(シビル自身には占いの才能はこれっぽっちもないし授業も色んな生徒から苦情が出とるんじゃが、これは言わないでおくべきかのう)

 自己評価が高いんだか低いんだか。

 ともあれ、今回の予言は妙だ。一つ、どうしても理解できない部分がある。

 

「シェリーが……殺人………」

「ええ。よもや、わたくしの授業であんな好成績を取るような生徒が殺人をするなんて思ってもみませんでしたわ。まあ、わたくしには分かっていた事ですけれど!」

「………いや、おそらく………」

 

 ……それについて考えるのは後回しだ。

 今は、再びの魔法戦争のための準備を行わなければ。戦力が足りない……。

 トレローニーを自室に返すと、ダンブルドアは思考の海に沈んだ。

 これから起こりうる事態、最悪の展開を予測する。来年には『対抗試合』も控えているのだ、ヴォルデモートの性格上、確実に利用してくるだろう。

 そして問題はシェリー・ポッターだ。

 もしこのまま、予言通りに事が運んでしまったとしたら。このまま彼女が戦争に身を投じていったとしたら。

 トム・リドルやグレイバックのような、『紅い力』の持ち主にも出会うだろう。そうすればいずれは……。

 

(とうとう気付いてしまうやもしれん……『自分自身の正体』に……)

(シェリー・ポッターという人間が、この世に存在してはいけない事実に……!)

 

 ダンブルドアは未来に起こりうる最悪の事態を回避しようと努めていた。

 だが、たまにそんな行動が無意味だと思う日があるのだ。どれだけ手を尽くしてもどれだけ努力しても、シェリーの過酷な運命は変わらないのではないかと。

 それほどまでに。かのダンブルドアをもってして不可能と言ってしまうほどに、シェリーの未来は血塗られていた──。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 医務室。

 どんな無茶をすればこんな傷だらけになるのだとポンフリーに呆れられながら、ゆっくりと安静に過ごした。

 

「なんかあんた達学年末はいつも医務室にいる気がするわね。習慣なの?」

「いやよそんな習慣……ありがとうパーバティ、お見舞いの品は後でゆっくりいただくわ」

「え?私も食べたいんだけど?」

「……初めからそのつもりで買ってきたわねあなた達!?現金すぎるわよ!?」

「あはは」

 

 グリフィンドールの面々に存分に看病されながら、戦いの傷を癒していく。そんな彼女達を見てマクゴナガルは神妙な顔を浮かべていた。

 

(……人狼の恐怖に晒されて、トラウマになってもおかしくない筈なのに……あの子達なりに日常を取り戻そうとしている……

 ……やはり予言なんて嫌いです。教え子の身に不幸が降り掛かるかもしれないだなんて聞きたくありません)

「?どうしたの、マクゴナガル先生」

「ああ、いえ……ところでウィーズリーとマルフォイの姿が見えないようですが」

「あの二人なら裏庭だよ」

「?」

 

「マルフォイ!!僕を殴れ!!」

「急にどうした!?」

「結果オーライとはいえ僕は君の妹を連れ出して危険な目に遭わせたろう!逆の立場だったら僕は絶対に許せない!だから思いっきり殴ってくれ!」

「ああ、なるほど………それなら遠慮しないぞウィーズリーッ!!」

「ぐぼぁ!痛ッ!!」

 

「………あれは何をしているんだろう」

「男の青春とかいう奴です。……ああ、ポッター。ルーピン先生がお見えですよ」

 

 マクゴナガルと入れ替わる形で、みすぼらしい容姿をしたルーピンが入室する。なんだか淀んでいるというか、負のオーラ全開だ。彼も見舞いに来ている筈なのに全く喋らない。居た堪れなくなっていると、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すまない………私のせいで………こんなに傷を………」

「え、いやいやいや!私は大丈夫だよ!」

「私は、か……。つまり、他の生徒達はもっと酷いんだな………。ロンは私を止めようとして傷ついたというし、ベガとコルダの怪我は酷いと聞くし……すまない……」

「え、えーと……そ、そうだ!来年の授業はどんな事をお勉強するの?うわ〜っ、ルーピン先生の授業楽しみだなぁ!」

「もう先生ではないよ。さっき退職届を出してきた」

「えっ。えっ!」

「今回のような事は二度とあってはいけないだろう?それに、狼人間が教師の学校に子を通わす親はいない」

 

 そんな、と声が漏れる。

 ルーピンの授業は面白かったし、いつも楽しみにしていたのに。もう彼もホグワーツの一員だと思っていたのに。

 ……何より、彼は父親の親友なのに。父の話をもっと効かせて欲しかったし、聞いておくべきだった。

 

「そう悲しい事ばかりでもないよ。ホグワーツに来たおかげで旧友にも会えたし、勝手だが自分を見つめ直す切っ掛けにもなった。……同族にも会えたしね」

「同族………コルダのこと?それとも、グレイバックのこと?」

「両方さ。片や兄を助けるために一度は世俗を捨てて狼になる道を選び、片や己の快楽のためとはいえ決して揺らがぬ精神で狼の自分を極めてみせた。

 ──方向性こそ違えど、彼女達は人狼としての在り方を見せてくれた」

「……?」

「私も、自分自身に向き合わねばならん時が来たようだ」

「そっか……うん……残念だけど、もう決めた事なら仕方ないね…。また会おうね、ルー……じゃなくて、リーマス!」

「たった今この仕事に就いてよかったと心から思ったよ。リーマスか、ふふ」

 

 忍びの地図を返すと、ルーピンはホグワーツから去って行った。

 ホグワーツから出る直前、コルダと何やら話していたが……同じ人狼同士、何か通ずるものがあったのだろうか。

 

「おいポッター!貴様って奴は!我輩がお前あの男をどれだけ、何年もかけて逃したのだろう貴様があの夜にどれだけの怨みを貴様この野郎!!」

「落ち着きなさいなセブルス」

「黙ってもらおうミネルバ!我輩には分かっているぞポッター!お前が!あの男を逃したのだろう!!」

「何言ってるんですセブルス」

「黙ってもらおうミネルバ!こいつがやったんだ、我輩には分かる!いつだってこいつは我輩の頭を悩ませて……」

「……シリウス・ブラックの件に関してはな、何も知らないけど、いつもスネイプ先生を悩ませちゃってたのは……ごめんなさい……私、気付かなくて………」

「きっ貴様っそんな顔をするなっ!!!」

「怒るか照れるかどちらかにしなさいなセブルス」

「黙れよミネルバ!!!」

 

 そして数日が過ぎる──…。

 今日は学年末パーティーの日だ。医務室から許可を得て馬鹿騒ぎに参加したシェリー達は、思い思いに宴を楽しんだ。

 ……ルーピンがもう城にいなかったのは物悲しかったが。(ちなみに彼は仕事をしっかりと終わらせてからホグワーツを出たらしく、テストの採点もきっちりつけてから出て行ったのだとか)

 

「今年の優勝はグリフィンドール!!!」

「よっしゃあああ──!!」

「しゃあ!オラァ!」

「やっぱ一位は気持ち良いもんだぜ!」

 今年の勝因は特に問題が起きなかったことと、何よりクィディッチ対抗杯の優勝が大きい。おまけにジニーが学年末試験で首席を取ったのだという。あのコルダを抑えての一位である。ジニーにも良きライバルができたものだ。

 

「うぐぐ……首席を取られた上に優勝まで奪われるとは悔しいです……!あれ、お兄様は平気そうですね?」

「ふふ、たしかに悔しいが、僕はこの数年間で学んだのさ。優勝杯よりも価値のあるものがある、とね!」

「さすがお兄様!」

 しかしドラコは自室に戻るなりベッドに埋もれてバタバタし始めた。

「ああああああ悔しいいい!!!ちっくしょおおお優勝できなかったちっくしょおおおおお!!!滅茶苦茶悔しいいい!!!」

 

 ホグズミードからの汽車に乗り込むと、アレン達の主力メンバーはシリウスの捜索に注力するために抜けるのだとか。

 仮にも一年間、交流した仲である。闇祓い連中との別れは皆が寂しそうにしていたが、そんな湿っぽさを吹き飛ばす程の陽気でアレン達は笑った。

 

「俺達の任務はこれで終わりだ!帰るぜ!既にアズカバンに送ったマクネアとグレイバックの聴取もせねばならんしな!」

「バイバイ、闇祓いの皆んな!」

「ああ!──力を求める少年少女達よ!君達にとって来年の催しはきっと良い刺激になる!頑張れよ!!」

「え?来年の催し?何のこと?」

「アレン隊長、例の試合の事を関係者以外に言ったら駄目ッス!」

「あっ………今の無し!ともあれ、皆んな帰るぞ!さて、俺達は闇祓いでありながら生徒を何人も危険に晒した間抜けだ、今後は気を引き締めなきゃいけないぜ!」

「はい!」

「という訳で魔法省まで箒で行くぞ!心身を鍛える良い機会だ!あ!おいエミル逃げるな!」

「あああああやりたくないいい!!!数時間も箒になんて乗りたくないいいいい!!滅茶苦茶やりたくないいいい!!!」

「……なんでアタシこんな奴の事好きになっちゃったんだろ」

 

 お菓子に舌鼓を打っていると、なんか知らない小さな豆みたいなふくろうが手紙を運んできた。

「誰からだいこの手紙」

「わぁ、シリウスからだ!」

「警備が薄くなった隙に送ったのね……なんて抜け目ないのかしら」

「うん……うん、元気でやってるみたい!安全な隠れ家を見つけたって!手紙を出す時はヘドウィグに頼めば大丈夫……なんて書こうかなあ」

「はは、楽しそうだねシェリー」

「うん!友達……とも違う、家族ができた気分!」

「……何かしらこの敗北感」

「わぁ、満面の笑顔が眩しいや」

 

 親友二人は、シェリーに太陽のような笑顔をさせたシリウスに内心でライバル心を燃やした。それに気付かずシェリーは手紙を読み進めていく。

 

「あ、そのふくろうさん、ロンの新しいペットにどうぞだって。ネズミがいなくなったのは自分のせいだから……って」

「えー、また小太りのオッサンが化けてるんじゃないだろうな」

「ふふ、それなら面白いけど……あら?何かしらこれ、ホグズミードの許可証?」

「『わたくし、シリウス・ブラックは、シェリー・ポッターの後見人として、ここにホグズミード行きの許可を与えるものである』……これって!」

「シリウス……!やった、これで来年からはロンとハーマイオニーと一緒に、正面からホグズミードに行けるんだ……!!」

「ふふっ。敵わないわね、あの人には」

 

 満面の笑みを浮かべてはしゃぐシェリーを見ては二人は笑う他ないというものだ。

 だがふと思う。

 シリウス自身が決めた事とはいえ、ピーター・ペティグリューを生かしておいて本当に良かったのかと。

 自分を認めてほしかっただけだったクィレルと違い、奴は根っからの屑だ。改心の余地も無ければ、罪悪感も無い。

 断罪するべきだったのではないか。

 殺せるチャンスはいくらでもあったし、その手段もあった。

 奇しくも、別車両でベガも同じ命題に悩んでいた。あの時の決断は正しいのか。

 本当に、赦してよかったのか。

 

「グレイバックとの戦闘時、俺は死の呪文を使えなかった。……俺がもしあの時、『時間簒奪』ではなく『死の呪文』を唱えていたとしたら、奴を殺せていたかもしれなかったのに、その度胸がなかった。

 ……度胸がないといえば、シドの一件もそうだ。俺があの時代わりに飛び出していれば、シドは死ななかったかもしれない」

「私があの時シリウスに杖を差し出さなければ、彼は迷う事なく復讐を果たせたかもしれなかったのに」

「あの時の決断が正解だったのかは、今でも分からない」

「多分正解なんてないんだと思う」

「だからせめて、自分の行いに対する責任は取らねえといけねえ」

「シリウスは生きる道を選んだ。だから彼の人生を楽しいものにしてみせる」

「シドは俺に生きろと言った。だからこれからは友達も死なせねえし俺も死なねえ、それが俺の通す筋だ……!」

 

 シェリーも、ベガも、選んだのは茨の道だった。掲げた信念はあまりに重く、難しいものだ。

 特にシェリーは、この先苦悩するかもしれない。彼女は罪を犯した人間は裁かれなければならないというスタンスだが、重すぎる罪を犯した人物に対しどうしていいか分からなかった。おまけにペティグリューは親の仇同然の男、彼女が冷静に判断できなくなるのも止む無しというもの。

 しかし、どんな結末であろうと、赦しであろうと断罪であろうと。一度決めた事柄に対し責任を持つ必要があるのだ。

 どれだけ過酷な道であっても……。

 だが彼等には友達がいる。

 

「あなた一人で考え込む必要なんてないのよ、シェリー。一緒に悩みましょう?」

「いつでも頼ってくれよな、シェリー」

「………!ありがとう、二人とも!」

 

 どんな苦難が起ころうとも。

 

「ネビル」

「ん?」

「俺と友達になってくれてありがとな」

 

 きっと彼等となら、乗り越えていける。

 

『Prisoner of Azkaban』、the endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【登場人物紹介】

 

 

 

【挿絵表示】

 

↑左がシェリーと守護霊、中央がコルダと狼化した姿、右がベガと守護悪霊

 

◯シェリー・ポッター(Sherry Lily Potter)

自己犠牲しすぎる系女子だったが、最近は普通の感情が芽生えつつある。……なんか感情のないロボットが人との繋がりで感情を得るみたいな話っぽくなってね?

占いではなんか来年以降悲惨な目に遭うとか言われてるが……。

守護霊は『牡鹿のツノを生やした牝鹿』。

 

◯ベガ・レストレンジ(Vega Deneb Lestrange)

モテるプレイボーイから、兄貴分ポジへ路線変更し始めてる人。積極的にボケるエミルとは相性が良く、二人が話す場面は書いてて楽しかったりする。

元々かなり強かったところに時間系魔法が加わった。一年に一度しか使えないので作中のどのタイミングで使うかお楽しみに。

 

◯ロナルド・ウィーズリー(Ronald Bilius "Ron" Weasley)

他のキャラに比べ身体を張って守る機会が極端に多い人。お前がいればプロテゴなんて必要ねえ……!

 

◯ハーマイオニー・グレンジャー(Hermione Jean Granger)

豊富な知識と応用力で戦う技巧派。いぶし銀な活躍を見せる。恋愛面に関してはもう本当に……イチャイチャが……イチャイチャが足りない……!

 

◯ネビル・ロングボトム(Neville Longbottom)

いつもベガに振り回されているからか、落ち着きのある性格になってきている。女子の間で密かに人気。

 

◯ドラコ・マルフォイ(Draco Lucius Malfoy)

去年に比べかなり成長したが、小物なライバル感がまだ出てる。こいつに関しては普通に良い奴になったらつまらないポジションだと思う。

 

◯コルダ・マルフォイ(Corda Narcissa Malfoy)

感想欄でめっちゃセクハラされてる子。

今年度は結構活躍した。ドラコとのエピソードもたくさん書けた。

実は秘密の部屋を書く直前に思いついたキャラで、途中までキャラが定まってなかった。今は書いててとても楽しい。

 

◯シリウス・ブラック(Sirius Black)

実は無罪の人。原作ではハリーにジェームズの面影を見ていたが、今作ではシェリーは彼等とは違うのだと考えるように。

黒い大型犬に変身でき、影に隠れて行動できる能力を持つ。

 

◯リーマス・ルーピン(Remus Lupin)

ホグワーツに来て自分以外の人狼を知った事で考えに変化が生じ、自分自身の狼と向き合う事を決意する。

この人の名前本当はリーマス・ルパンって読むんじゃないかって思う。

 

◯シビル・トレローニー(Sybill Trelawney)

稀にトランス状態に陥り、人が変わったように変貌して予言を行う体質の女性。本人はその症状を自覚しているため、原作に比べたらかなり有能。

 

 

【挿絵表示】

 

 

◯レックス・アレン(Rex Aren)

世界最強の闇祓いと称される男。実務の多いキングズリーに代わり、現場で指揮を取る事が多い。明朗快活で真っ直ぐな人間で彼を慕って闇祓いに入った人間も多い。

砂魔法や岩魔法の使い手で、地形を変えるほどの大規模な攻撃が得意。

グリフィンドール出身。

 

◯エミル・ガードナー(Emil Gardner)

女性のような顔をした男性。

その中性的だが整った容姿故に女性に人気が高い……と思われがちだが、中身はかなり馬鹿で悪戯っぽい性格をしているため、そのギャップに失望する女性も多い。

超遠距離魔法が得意。

レイブンクロー出身。

 

◯チャリタリ・テナ(Charitari Tena)

男勝りの性格をした褐色肌の女性。

サバサバしたしっかり者だが内心はかなり繊細な乙女。昔はもっと大人しかったが、実の姉同然に育った女性を亡くしてから今のような性格になった。トンクスとは同期で、エミルとの恋をよく相談している。

罠魔法が得意。魔道具にも詳しい。

ハッフルパフ出身。

 

◯ジキル・ブラックバーン(jekyll Blackburn)

アレン隊の中では新参の闇祓い。

ゴツい顔をしてる割に女性に免疫がなく、すぐ緊張したり赤くなってしまう。女性と戦う時は必死で抑えているらしい。元々頭の良い方ではなかったが、闇祓いになるにあたって猛勉強した苦労人。

医療系・補助系魔法が得意。

スリザリン出身。

 

◯ニコラス・フラメル(Nicolas Flamel)

悠久の時を生きる天才錬金術師。

二年前に賢者の石を砕いてそのまま死ぬ筈だったのだが、某占い師の占いを聞いて残り数年は生きられるよう調整した。

しかし加齢のせいでボケており、傍若無人なお爺ちゃんになっちゃった。

ファンタビと性格が違うのはそのため。

 

◯ワルデン・マクネア(Walden Macnair)

死が芸術だと思っているサイコ野郎。

本来は後方支援が得意で、結界を作ったり幻惑を見せたりする能力に長けている。しかし何故か斧で戦った。何故……?

 

◯ピーター・ペティグリュー(Peter Pettigrew)

思い込みの激しい性格になり、自分の行動は悪くないと思い込んでいるクソ野郎。この世に不可能はない!自分ができると思ったらできるのだ!

ネズミに変身すると、魔法を食べたり吐き出したりできるようになる。

以前はヴォルデモートからグレイバックと同じ能力を授かっていたようだが……?

 

◯フェンリール・グレイバック(Fenrir Greyback)

凶悪殺人鬼。文字通り、老若男女見境なく欲情する変態。犯したり殺したりする事が彼の最大の愉しみで、基本的に顔が良ければ誰でも殺人の対象に入る。

本作において準最強クラスの実力を持ち、人狼の身体を活かした近接戦が得意。

爪が紅く染まっているが……?

 

◯その他

 

『紅い力』

闇に精通した者は身体の一部が紅く染まり魔力を増幅する事ができる。発現には何か特殊な条件が必要らしい。

トム・リドル、グレイバック等がその力に目覚めていた。ペティグリューも以前はこの力を使えていたようだが……。

 

『難易度』

今までハードモードだったのがベリーハードモードに上昇。グレイバック強すぎ。

 

『親世代』

スネイプ含めた親世代組は、ステータスの割り振りが違うだけで総合的な能力は殆ど同じという設定。

近距離攻撃はジェームズやシリウスが得意だが、射撃系魔法はスネイプ、補助系はペティグリューが得意……といった具合。

 




つーわけでアズカバン編完結です!ここまでお楽しみくださってありがとうございます!ここまで長かったねー。
畜生!あまり長くしない予定だったのにグレイバックが強すぎたせいで一話増えたよ!
先に言っておくと、次の炎のゴブレットは結構長くなる予定なんですよねー。どうなる事やら……。
とにかく次回もお楽しみに!
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