シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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閑話
Episode of Sherry


 

 

 

──頭が痛い。

──同じ言葉が何回も繰り返される。

 

『お前は生まれてきてはいけなかった』

 

──煩い。

──誰かが身勝手な理論を振りかざす。

 

『お前は生まれてきてはいけなかった』

 

──誰だ?この、耳障りな音をリピートするのは誰だ?

 

『お前は生まれてきてはいけなかった』

 

──壊れかけのラジオのように、何度も同じ箇所を繰り返して進まない。

──私が聴きたいところは、そこじゃないのに。同じところばかり聴かされてうんざりさせられる。

──私が聴きたいのはもっと先。未来の部分だ。私は未来を求めたい。

 

『無理だね。所詮お前はこの壊れたラジオと同じなのだ。同じところばかり繰り返して後悔するだけの愚か者、それがお前だ』

 

──違う。

 

『無理だね。所詮お前はこの壊れたラジオと同じなのだ。同じところばかり繰り返して後悔するだけの愚か者、それがお前だ』

 

──違う!煩いったら!!お前なんかどこかへ行ってしまえ!!私の前で同じ文句を何度も垂れ流すな!!

 

『お前は未来へ進めない』

 

──黙れ!!煩い!!!

 

『お前は未来へ進めない』

 

──煩い!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────煩い!!!」

 

 まさかその声が自分から出ているとは思っていなかった。覚醒した意識はシェリーを落ち着かせる。

 まだ暗い。自分はこんな夜中に大声を出してしまっていたのか。

 寝汗がべっちょりとして気持ち悪い。

 ここは……ここは、どこだ。

 

「……シェリー?」

「ッ!……ああ、ジニー、ごめん。起こしちゃったね」

 

 ……そうだ、ここはウィーズリー家だ。

 夏休みの間はウィーズリー家で過ごす事になっていたではないか。そんな事すら忘れてしまっていたのか……。

 

「いいのよ別に………なんだかうなされているようだったけれど、大丈夫?」

「う……うん。大丈夫」

「何か怖い夢でも見たの?」

「ええっと………あれ?何を見ていたんだろう、私」

「………本当に大丈夫?」

「あはは、大丈夫大丈夫。本当ごめんね」

 

 ジニーは何度も心配そうな顔をしながらベッドに潜り込んだ。

 それを見ながら、ふと、思案に耽る。

 夢で何を見たかは忘れたが、夢で何を感じたかは覚えている。

 そう、その感情を表すならば、憤怒。

 

(……私、夢の中で怒っていたの?)

 

 シェリー・ポッターは怒れない。

 過去の経験から、彼女が人に対して怒った事は一度たりともない。

 賢者の石を狙う男を止めるだとか、友達を守るだとか、唯一の家族を逃すとか、そういった使命感で感情が爆発した事は何度かある。

 だが、この瞋恚の高鳴りは。

 理不尽なまでに破壊してやりたいとか、そういった暴力的なものだと思う。

 シェリーは怒っていた。

 ああ、壊したい。ああ、潰したい。

 ああ、呪いたい。ああ、殺したい!

 

──誰を?

 

──私は誰に怒っている?

 

──ああ、最近ずっと頭が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

「覚えてねえ」

「嘘をつくな!お前達は何故ホグワーツにやって来た!?目的を言え!シリウス・ブラックを手引きしたのか!?」

「だーからー、さっきから覚えてねえっつってんだろ」

 

 フェンリール・グレイバックはあっけんからんとそう言った。

 ここはアズカバンの取り調べ室。

 彼を囲むようにして、キングズリー・シャックルボルト、レックス・アレン、ジキル・ブラックバーンという錚々たる面子がグレイバックを尋問していた。

 しかしその結果は芳しくない。

 チャリタリの『真実薬(ベラセタリウム)』を飲ませて彼に自白させているのだが、アレン達に捕まる直前に彼は自分自身で記憶を『破壊』したようなのだ。尋問で情報を引き出させないために……。おそらくは、ヴォルデモートが彼の頭にそうするよう細工したのだ。

 憂いの篩も真実薬も、覚えていない記憶は引き出せない。だから、この尋問はあまり意味を成していなかった。

 

(しかし、闇の帝王が本当に記憶を引き出されたくないのなら、グレイバックが俺達に捕まった瞬間に自動で人格や全ての記憶を破壊するような魔法をかけていてもおかしくない。

 ……それがないのは、グレイバックがまだ闇の勢力にとって必要な人材だから?)

 

 糞、とアレンは歯噛みした。

 グレイバックは危険だ。闇の勢力の幹部である以上に、快楽殺人鬼なのだ。こいつを生かしておけば、またシリウス・ブラックのように逃亡を許してしまうかもしれないし、その時はまた罪なき人達に牙を剥くだろう。あまりこういう言い方はしたくないが、生かしておく意味がない。

 しかし上はグレイバックを殺すなという指示を出した。探りを入れてみれば、何人かの死喰い人が潜り込んでいる可能性が浮上してきた。

 ……闇祓いの名を捨ててでも、今ここで殺しておくべきか……。

 ……駄目だ。この立場でやれる事はまだ沢山ある。今はその時ではない。

 今は少しでも情報を引き出さなければ。

 

「紅い力ってのは何なんだ……」

 

 アレンがぼそりと呟くと、グレイバックは口を開いた。この情報は話せるらしい。

 

「詳しい事はよく分からねえけどよー、闇の帝王から聞いた話じゃ、闇の魔術に精通した人間が稀に目覚める力らしいぜ」

「らしいな」

 

 過去の著名な闇の魔法使いにも何人かその力に目覚めている者がいる。例えばグリンデルバルド。彼も闇に傾倒した結果、眼を紅くする事に成功し、その日を境に絶大な力を手にしたという記録が残っている。

 

「でもよー、俺の場合は別なんだよな」

「?」

「闇の帝王から貰った力なんだよ、これ。俺がいつも通り顔の良い人間を殺していたら呼び出されて、俺には適正があるとか何とか言われて。よく分からねえ魔法式を身体に刻まれて、で、今みてえな力を手に入れたって訳だ」

「……貰った、だと?」

「元々俺も腕の立つ方だと思ってたんだがよ、この力を手に入れてからは見違えるように変わったね。身体能力、魔力、それらが飛躍的に上昇していくのが自分でも分かった。俺以外にも何人か力を貰った奴はいるぜェー」

 

 闇の帝王は人為的に紅い力を引き出す、もしくは与える事ができる……?

 つまり、グレイバック級の魔法使いを何人も生み出せるという事か?

 確かに、先の魔法戦争においても紅い力に目覚めたらしき人間はチラホラいた。そして彼等は例外なく圧倒的な力を持っていたのだが……それが人為的にできたものだとしたら。

 (いや、それはあり得ない。グレイバック級の強さを持つ人間が何人もいたら、とっくに闇の帝王の天下になってる)

 

「……闇の勢力にはお前以外にも紅い力を持つ奴達がいるのか?」

「俺が把握してる限りじゃ、四、五人はいたかな。力が馴染むかどうかはそいつの資質次第だが、力を得た奴達は幹部の座を手に入れていたぜ。俺もそうだ」

「紅い力には適正や資質が必要だと言うが、それはどんなものなんだ?例えば今、俺達の中に資質を持つ者はいるのか?」

「俺に言われても分からねえよ。えーと、確か人間の持つ感情が鍵だとか何とか言ってたような………んで、その資質が足りない奴は不完全な強化になっちまうんだ。それは『黒い力』って言われててな、例えばクィレルなんかがそうだ」

 

 成程。段々と分かってきた。

 『紅い力』は魔法使いの能力を高める効果があり、本人に資質がないと得る事ができない能力。資質が何かは分からないが、感情が鍵になってくるらしい。

 『黒い力』はこちらも魔法使いの能力を高める効果があるが、紅い力には及ばない。本人の資質が足りないとこっちの力が目覚めてしまうらしい。

 闇の帝王はこんな力を研究していたのか……。

 

「………。例のあの人が誰にその紅い力を渡したのか、詳しく教えろ」

「ええ〜?よく覚えてねえけどよ……。まず俺に、ペティグリューだろ?あ、あいつは仕事をミスして力を没収されたんだったかな……それと………」

 

 そこでグレイバックはふと、軽い調子で、思い出したかのように言った。

 

「あ、そういえば。闇の帝王はシェリー・ポッターに力を分け与えたのか?」

「は?」

「いやさ、何か妙だなと思ったんだよ。紅い力特有の匂いっていうのかねェ。巧妙に隠されてはいるが、シェリーの髪から俺達と同じ匂いがしたんだ」

 

 シェリーの髪から……?

 そんな事はあり得ない。紅い力は闇の産物のはずで、あんな人畜無害な少女が持っているわけがない。

 だが、それをアレン達は一笑する事ができなかった。グレイバックには真実薬を投与してあるのだ、嘘をつける筈がない。きっとこの男の勘違いだろう。

 ──しかし、闇の帝王とシェリーの間には何か特別な繋がりがあるのも事実。

 

(……例のあの人が、シェリーに何か細工をした?)

 

 しかしそれは考えにくい。

 彼女がヴォルデモート卿と対峙したのは一年生と二年生の時だけ。

 一度目はクィレルの後頭部で生き永らえていただけの弱った生命体でしかなかったし、シェリーに何かを仕込む余裕など無かった筈。

 二度目は日記に憑依しており、これまた何かする余裕も力もなかった筈だ。

 普通に考えればグレイバックの妄言だと切り捨てられるところだが、闇祓いとしての勘が、何かを見落としていると告げているような気がした。

 

(──そうだ。馬鹿か俺は。闇の帝王とシェリー・ポッターが初めて出会ったのは、十三年前のゴドリックの谷だ。……その時に闇の帝王はシェリーに何かしたのか?)

 

 あの日の事は誰も知らない。いつの間にか始まって、駆けつけた時には既に終わっていたのだから。

 あの時に何が起きた。

 闇の帝王は滅び際に何をした?

 シェリーは本当にこちら側の人間か?闇に傾いているのではないのか?

 もしもそうであるなら、彼女のこれまでの行動自体が信じられなくなる。

 一年時には賢者の石騒動。

 二年時には秘密の部屋騒動。

 三年時には死喰い人とドンパチだ。事件に巻き込まれ易い体質だと思っていたが、もし仮に、彼女が意図的にその騒動に巻き込まれているのだとしたら。自分達が見ていないところで彼女が何らかの企みをしているのだとしたら?

 しかしシェリーが本当に心優しい少女なら、それはそれで問題だ。あんな優しい子が闇の帝王の陰謀に巻き込まれている。

 あの子に、その髪は母親の遺伝したものではなく、闇の帝王の遺したおぞましき闇の産物かもしれないと告げたらなんて顔をするだろうか。

 

(あくまで、俺達の想像に過ぎない。だがどちらにせよ……彼女は何かとてつもなく重い宿命を背負っているのは確かだ)

 

 シェリー・ポッター。

 彼女は一体何なのだ。

 神に愛されなかった少女はどこへ行く?

 

「シェリー、君は一体何者なんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリーは頭を抑えた。

 何か悪い夢を見たような気がする。

 だが忘れてしまおう。時には忘れた方がいい場合もある。今がその時だ。

 あんな夢、忘れてしまえ──。

 

 「ああ、最近ずっと頭が痛い……」

 

 

 

『Episode of Sherry』、the endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

『悪戯仕掛け人シェリー誕生?』

 

 

 

 

 

 ──明くる日の事だ。

 シェリーとハーマイオニーは談笑しながら歩いていた。図書室からの帰りである。

 女の子らしい会話に花を咲かせて──そしてふと、シェリーは体勢を崩した。

 

「わあっ!?」

「ああっ、シェリーの足元に何故か都合よくバナナの皮が!」

「んぎゃっ」

 

 鈍い音。

 頭と地面とが思いっきりぶつかった。

 声を掛けても全く起きる様子がないのを見ると、気絶しているようである。

 

「大変!すぐ医務室に運ばないと!」

 

 というわけで今は医務室。

 医務室の女神、マダム・ポンフリーの診断によれば目立った外傷もなく、しばらくすれば目が覚めるだろうとの事だった。

 そしたら起きた。

 

「んん……ん………」

「良かった、起きたのねシェリー!」

「ここは……」

「医務室よ。あなたさっき廊下で転んで頭を打っちゃったのよ」

「……ハーマイオニー」

 

 シェリーは神妙な顔をした。

 親友のその表情を見て、ハーマイオニーは心配になる。憂いだ眼にはどこか覇気がなく、今にも飛んでいってしまいそうな儚さがあったからだ。

 もしや、医務室まで運ばせてしまった、などと思っているのではあるまいか。心配をかけさせてしまったと思っているのではないだろうか。友達なんだからそれくらい良いのに、とハーマイオニーは思うが、シェリーはそう思ってしまう性格なのだ。

 だがそれでも、いつか自分達に頼ってくれる日が来たとしたら……。

 シェリーは遠慮がちに口を開いた。

 

「頭にゴキブリついてる」

「えっ、えっ!?ちょ、ど、どこ!?」

「あっ今服の中に入った」

「え!?う、嘘!?」

「あっ今下着の中に……」

「し、下着!?………って、どこにもいないじゃないのよ!」

「あっはっはっはー!引っかかったー!」

 

 ゲラゲラ笑うシェリーをぶっ飛ばしたくなるハーマイオニーだったが、その違和感に気付いた。シェリーが悪戯……!?

 あのシェリーが!?人畜無害、清廉潔白を絵に描いたようなシェリーが!?

 

「ハーマイオニー、私気付いたよ。私は悪戯をするためにホグワーツにやってきたんだって……!」

「何に気付いたのよ!?……い、悪戯?何言ってるのシェリー、あなたそんなキャラじゃなかったでしょう」

「そうと分かれば早速皆んなに悪戯しに行こーっと!じゃーねーハーマイオニー、マダムに上手く言い訳しといてー!」

「ま、待ちなさいシェリー!」

「ハーマイオニー、追ってくるのは良いけどそんな裸同然の格好で校舎を走り回るつもり?」

「え…………きゃっ!?」

 

 服装を指摘され顔を赤らめるハーマイオニーを尻目に、爆誕した悪戯っ子はホグワーツを縦横無尽に駆け回る。

 シェリーは頭を強打した事で記憶があやふやになってあれやこれやして、何だかんだで今とは真逆の性格になったのだ!

 綺麗だった頃のシェリーはもういない。

 ここにいるのは下衆なシェリー!

 言うなればゲスリー・ポッターだ!

 どこから悪戯してやろう、まずはグリフィンドール寮からだ、とシェリーはよく知る通路を走った。

 

「ネビルー、チェスの新戦略を考えたいから付き合ってくれよ」

「いいよーロン。じゃあ早速やろうか、僕はまずポーンを……うわっ!?」

「ぎゃああ!?チェスの駒に羽が生えて部屋中を飛び回ったああああ!?」

「しかもなんか爆発したし!!」

『…………』

「あれ、何体が『変身』して……」

「ぎゃああああ蜘蛛おおおおお!?」

「ぬひひひひ、悪戯大成功ー!!」

 

 慌てふためくロンを見て耐えられないと言った風に腹を抱えた。シェリーの何とも下品な笑い方にネビルは面食らう。

 

「な、何やってるんだよシェリー!」

「変身!全ての肖像画よスネイプ先生の顔になーれっ!」

「うおおっ怖いっつーかキモッ!?」

「あっははははは!」

 

 先の『防衛術』でネビルの怖いものは把握済みである。彼等の弱点さえ把握していれば悪戯も捗るというもの!

 しかしホグワーツの壁に置かれてある肖像画全てがスネイプの顔面に変わるのは流石にキモかった!いや顔だけ見たら意外と悪くない気も………?いやでも部屋中がスネイプは流石にホラーだ!

 そんな思考をしていると、ホグワーツの現・悪戯番長、フレッドとジョージが殴り込んできた!

 

「やってるねえ、我等がグリフィンドールのお姫様!」

「だがまだまだ甘いぜ!俺達が悪戯の極意ってのを見せてやる!」

「へぇー…ところでその胸ポケットは何が入ってるの?」

「え?おわあああ俺達が独自に作った魔法の花火が!?」

「あっちゃちゃちゃちゃちゃ!いつの間にか燃えてるゥー!?」

「大丈夫ぅー?はい、アグアメンティ!」

 

 二人はずぶ濡れになった。

 全身水浸しで寒そうだ。悪戯番長がもはや形なしだった……。

 

「「がぼ………」」

「さて、それじゃ聞こうか……『俺達が悪戯の極意を見せてやる』……だっけ?」

「うおおおおっ、や、やめてくれー!」

「恥ずかしくなってきたぁー!!」

「あっはっは、なんだか楽しくなってきちゃった!別の悪戯も試してみよおーっと!バハハーイ!」

 

 ホグワーツの廊下に出てやる事といえば一つ。落書きだ!不良がスプレー缶で校舎の壁に落書きをするような要領で、杖でホグワーツの壁を汚していく。

 途中通りがかったミセスノリスが信じられない物を見るような目をしてきたが、猫じゃらしを贈ったら素直になった。ついでに主人のフィルチに拷問道具を贈るのを約束すると、悪戯は見逃された。ちょろいもんである。

 

「何て書こうかな……。いやでもやっぱ定番はコレでしょ!」

『シェリー・ポッター参上!!』

「いやー、継承者騒動の時にリドルに先を越されたままだったのよね。私もこれぐらいやらないと悪戯番長の名が廃るってもんだわ」

 

 別にリドルは悪戯番長じゃない。彼もただティーン特有の疾患に罹っていただけなのだ……。

 そうこうしていると、シェリーの奇行に人が集まってくる。何であのシェリーがこんな事を、などと言われているが当の本人はどこ吹く風だ。

 と。集まってきたのはどうやら生徒達だけではなかったようだ。

 

「おい!何をしているポッター!」

「あ、誰かと思えばスネイプ先生」

「貴様、事もあろうに校舎の壁に堂々と落書きを!今回ばっかりは普通に貴様が悪いぞポッター!減点………」

「先生………♡」

「!?ど、どうした急にそんな潤んだ瞳でこっちを見て!」

 

 身をくねらせながら迫るシェリーにスネイプは面食らった。事情があるとはいえ一回りも歳の違う相手に顔を赤くするのはどうかと思うが、少なくとも、今のシェリーにスネイプはタジタジだった。

 

「おい!やめろ!あの日の情熱がまた燃え上がるぞ!?」

「スネイプ先生……いいえ、セブ♡そんなに怒ると皺ができるゾ♡」

「何だその甘えた声は!貴様ァ!我輩が耐えられると思っているのかァ!」

「ねえセブ………私、実はずっと前から貴方の事が……」

「…………リ、リリ………」

「うっそぴょ〜ん。引っかかってやんの、チェリー丸出しのロリコン教師」

「ぶち殺してやるクソガキがァ!!」

 

 怒り狂うスネイプから悠々と逃げた。

 何故かは知らないが妙に怒っているというか、マジギレしているというか。理由は分からないが今までの比じゃないくらい彼はブチ切れていた。

 まあ、そんな彼を見てシェリーはニヤニヤ笑いを浮かべていたわけだが。

 

「どこ行ったあのガキャア!!」

「あー怖い怖い。あれ、何だろコレ?」

 

 スネイプの落としたメモを拾うと、何やら暗号のような物が走り書きされていた。

 それを一目見てピンと来る。

 これは、スリザリン寮の合言葉!

 

「良い物拾っちゃったー!」

 

 という訳で蛇寮までやって来ていた。

 ちょうどドラコとコルダが優雅にティーブレイクしているところだ。そんな空気をブレイクする勢いで上がり込む。

 人呼んでエアブレイク。空気はぶち壊していく!ついでに寮の扉も壊す!

 

「ハロハロ、スリザリンの皆んなー」

「おわぁ!?ポ、ポッター!?」

「何で貴方がこんなところに!?」

「ちょっとね。ところでドラコ、私と授業サボって遊びに行かない?」

「え!?は!?」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 言うと、胸元をはだけさせる。

 色仕掛けが有効なのは既にスネイプで実証済みだ。年頃の男子であるドラコがこういった類のものに慣れていないのは予測がつく!

 案の定彼は顔を赤らめていたし、コルダも吃驚したような声を上げていた。

 

「シェ、シェリー・ポッター!!いくら貴方でもそれ以上は許しませんよ!?私のお兄様を籠絡しようだなんて真似……!」

「ロウラク?あはは、こんなのただのスキンシップだよ、ねえドラコ?」

「いや距離が近くないか!?」

「ええ?蛇寮はノリが悪いなあ……」

「と、とにかく!それ以上お兄様に近付くのは許しません!そ、そんなに近付いて何をするつもりですか!」

「ナニを、するつもりかですって?」

 

 面白い。

 これはこれで、面白い。

 スリザリンは堅物が多いと思っていたが、その実、ウブな生徒が多いだけだ。彼等の純心な態度はシェリーの悪戯心に火をつけた。

 

「んー?お子様のコルダちゃんには分かんないかなあ?」

「な!」

「男と女、二人でやるコトと言ったら、そりゃもう一つしかないでしょ……?」

「え!?」

「な、なあっ!?ちょっ、貴方人前で何てコトしようと──」

「あれぇ?何を想像したのかな?コルダって案外ムッツリなんだね」

「……ポッタアアアアアアアア!!!!」

「わー、怒ったー」

 

 そりゃ切れる。

 

「は、恥を知りなさい!貴方がそんなふしだらな人だったとは思いませんでした!」

「私からすればコルダの方がずっとお子ちゃまだけどね。ねえ、さっき小耳に挟んだんだけど、あなたって──」

「わああああああ!!!何を言うつもりか分かりませんが嫌な予感がします!!!」

「いやー、人を揶揄うのって面白っ!」

「待ちなさああああい!!」

「……僕の純潔が奪われるところだった」

 

 スリザリン寮からの脱出。全く悪びれないその態度は何とも悪質である。

 しかしまあ、シェリーを追う人間が大勢増えて来た。ホグワーツの中は彼女を探す人間ばかりだ。これではやり辛いなと判断したシェリーは、彼の下に行く事にした。

 

「ハァァグリィィッド!げぇえんきぃいいい!?」

 何か某死喰い人のように小屋を燃やしかねない勢いで小屋の中に飛び込んだ。

 

「おうシェリー、どうした。元気だな」

「ハァイハグリッド!ポケットに鼬の死骸が入ってるよ!」

「ん?オーッ、いつの間に。ちょっと待ってろ、今鼬のシチューを作るからよ」

「わぁいありがとう!」

 

 席に着くと先客がいた。

 濁ったブロンドの少女。銀灰色の瞳。まだ顔立ちが幼いのを見るに、一〜二年生と言ったところだろうか。

 

「あんた、誰?」

「私はシェリーだよ」

「ふぅん、そっか。あなたが噂のシェリーなんだ。よろしくね、私はルーナって言うんだ。皆んなからはルーニーって言われてるけどね」

「誰よそいつら。待ってなさい、私が今に悪質な悪戯してあげるわ」

「あはは、あんた面白いね。でもあんたにはここにいて欲しいかな。話相手になって欲しいし」

「話相手?」

「ハグリッドとセストラルについて話してたんだ。知ってる?セストラル」

「ああ、人が死んだ瞬間を見た人にしか見えないっていう……」

「セストラル、皆んなからは不吉の象徴だとか死の化身とか言われてるけど、私は可愛いって思うんだ。それをハグリッドと話してたら、シェリーならあの可愛さに気付くかも、って」

「うーん、私もセストラルは見えないからなぁ。スケッチとかは無いの?」

「えーとね……」

「おおーい二人とも、シチューが出来たぞ。お?いつの間にか仲良くなっちょる」

 

 三人でシチューを啜りながらセストラルの話をした……。

 

「………はっ!いけないいけない!つい楽しくお茶しちゃったけど私は悪戯がしたいんだよ!じゃっ、私行くね!」

「おう、またなー」

「バイバイ」

 

 気を取り直して悪戯再開。

 ひとまず大広間に向かおう。悪戯したい人が沢山いるし。

 

「うわー!シェリーの色仕掛けに男子陣が悩殺されてるぞ!」

「セドリ──ック!!やばい、こいつ前にシェリーの事が好きだって……」

「わーっ!!あちこちからシェリー被害が起きてるぞォー!!」

「ぐっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 馬鹿笑いするシェリーは邪悪そのもの。

 ジャリー・ポッターだった。

 彼女が何か行動を起こす度に被害が大きくなっていき、悪戯の被害者は増えていく一方だった。

 特にシェリーの色仕掛けは強烈だった。

 が、どんな所にもどんな人間にも天敵はいるものである。

 

「おいおいシェリー、ちょっと見ねェ内に良い女になっちまって。俺とも遊ぼうぜ」

「ベガ!」

「そうかベガに色仕掛けは効かない!シェリーも返り討ちにできる!」

「やったれェーベガ!」

 

 ベガ、参上!

 プレイボーイの彼が残した伝説は数知れず、彼の偉業はかのシリウス・ブラックにも勝るとも劣らないと言われ、つい先日、三百人斬りを達成した男である。

 そんな彼に色仕掛けなど効かない!

 

「事情は聞いた。皆んな下がってな」

「あんたに色仕掛けは通用しないからね。ガチンコで闘るよ!」

「おう………おう!?えっ、大丈夫かお前そんな事言っちまって。俺生徒達の中じゃ最強の自負あるんだけど」

「関係ねえ!いくよ!」

「うおっ!?」

 

 関係なかった。

 身構えるベガに向けて、何だかよく分からない魔法の弾を放つ。何だこれ初めて見る魔法だけど、何だこれ?

 

「ああっ、あれは!?」

「『守護霊弾丸』!自分の得意な魔法を二つ組み合わせて新しい魔法を作ったというのですか!」

「いたんですかフリットウィック先生!」

「しかも……おおーッ!?なんかよく分からない魔法式まで付与されてなんか凄い魔法ができちゃってるー!?」

「だ、だが!俺の手にかかれば躱せる!」

「しかし追尾弾だぁー!」

「ぐあああああああ!!?」

 

 ベガは負けた。

 

「あっひゃっひゃっひゃ!私の勝ちー!」

「く……屈辱だ………」

「やばいぞ!ベガで止められないなら誰が奴を止められるっていうんだ!」

「いや……まだ一人だけこの状況をひっくり返せる猛者がいる!」

「ほっほっほ」

「そうかダンブルドアだー!世界最強の魔法使いならきっと何とかしてくれる!」

 

 正真正銘の伝説の魔法使いが事態を収束せんとやって来た。彼以上に頼もしい男など存在しねえ!!

 

「ええ〜、良いのかなぁ〜?私、校長先生の秘密のアレを知ってるんだけどなぁ〜。言っちゃって良いのかなぁ〜?」

(………!?アレじゃと!?心当たりが多すぎて分からん!じゃがこの口振りだと確実に何かを知っておる……!)

「………そういえば儂、魔法省に呼ばれてるんじゃったーすぐ行かなけりゃー」

「ダンブルドア先生!?」

「使えねえなこのジジイ!」

(ラッキー、適当に当てずっぽうな事言ったら勝手に身を引いてくれたぁー)

 

 まんまとシェリーの口車に乗った。

 意図せずして彼女は世界最強の魔法使いに勝利した女となった。これからは彼女が最強だ!サイキョー・ポッターだ!

 新たなる最強の爆誕に生徒達は震える。

 ダンブルドアで止められないのなら、一体誰が倒せるというのだ!

 彼女の進撃に立ち塞がる者などいない!

 

「あっひゃっひゃー!次はどんな悪戯をして遊ぼっかなー!」

「シェリー!!」

「げぼぉああっ!?」

「いい加減になさい!」

 

 マクゴナガルは本の角でシェリーの後頭部をチョップ。その一撃が脳天直撃した。

 そのあまりの破壊力にシェリーは意識を失った。強い……!強すぎる……!

 その光景を見て、生徒達は思う。

 

(((この学校ってマクゴナガルが良心だったんだなあ………)))

 

 

 

 

 

 

「シェリー!マダム・ポンフリーの話ではもう一度強い衝撃を頭部に加えると元に戻るかも……って………もう喰らってるみたいね、『強い衝撃』」

 

 

 

 

 

 

 

「んん……ん……」

「あ、起きた?シェリー」

「……うん、おはようハーマイオニー。…あれ?なんだかとてつもなく申し訳ない事をしたような………うっ頭が」

「……気のせいよシェリー」

 

 都合よく記憶を失っているようだ。

 ……思い出させる事もあるまい。

 

「……皆んな、今日のアレはなかった事にしましょうか」

 ホグワーツ全員が頷いた。

 

(うーん、何か悪い夢を見たような……)

 思い出すなシェリー。忘れた方がいい時もある。そして今がその時だ。

「ああ、最近ずっと頭が痛い…」

 

 

『悪戯仕掛け人シェリー誕生?』

──the end──

 

 

 

 

 




あれ……おかしいな……悪戯っ子のシェリー書くの楽しいな……。
いや前半だけだと暗いし量も少ないから何となく書いてみたけど、こんな感じになるとは思わなかったよ!

んでシェリーの正体について。
闇に傾倒した人間は身体の一部が紅く染まる(リドルは瞳、グレイバックは爪)のですが、シェリーの髪は果たしてリリー譲りのものなのか、それともヴォルデモート由来のものなのか。そしてそんな力を持ってるシェリーの正体は何なのか注目していただけると幸いです。
ちなみに一年生の時から傷じゃなくて頭が痛いって描写は何度か入れてるので、暇だったら探してみてネ!
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