ヴォルデモート卿の忠実なるしもべ達。
彼達の突然の襲撃にどよめくアイルランドのサポーター達は、ただただ逃げ惑うしかなかった。
パニックに陥った群衆に押されながらも、ノッポのロンがシェリーとハーマイオニーを抱きかかえるような姿勢で走る。
アーサーは騒動の鎮圧に向かった。ビルやチャーリー、パーシーも一緒に杖を持って立ち向かっている。
フレッドとジョージはジニーと一緒に行動しているのを見た。あの二人なら、しっかりジニーを守ってくれるだろう。
「ドラコ達や、セドリックやルーナは大丈夫かな。バグマンさんやダームストラング家の人達も心配だし……」
「ルーニー達は分からないけど、少なくともマルフォイ兄妹やセドリックは大丈夫だろ!ひとまず僕達も逃げないと!」
「そうね、他人の心配より先に自分の心配をするべきだわ……いつでも杖を出せるようにしておきましょう」
「うん。………あれっ?」
シェリーはポケットに手を入れて、青褪める。そこにはある筈のものがなかった。
「杖が無い!!」
「うそーっ!?」
「えっちょっどうすんのぉ!?」
「やべぇーっ!僕たちゃもうお終いだぁ」
「お、落ち着いて二人とも」
(いつ落としたんだろう?……観客席に行った時には確かにあった筈なのに……ああもう、こんな時に落とすなんて……!)
己の失態に毒付く。すると何故かまた頭が痛んだが、無視して走る。
途中、何人かの闇祓い達が姿あらわししている光景を見たり、ニホン人らしき三人組が走っていたり、屋敷しもべ妖精が妙な動きをしていたが、彼達に構っている余裕はシェリー達にはない。
走って、走って、走って。
辿り着いた先は森の中だった。いるのはシェリー達の三人だけ。
興奮状態にあった身体が沈静化し、疲労が追いついてきた。
喧騒が遠くに聞こえる。まだ騒ぎは終わってはいないようだが、収束に向かいつつあるのだろうか。
……情報が何もないのは、堪える。
「どうなったんだ、さっきの騒ぎは……」
「……見た?あの人達、マグルを人質にしていたわ。それにあの数……こんなところで騒ぎを起こしたらどうなるかくらい分かっているでしょうに、それでもあんな、あんな酷い事をするなんて……」
「………何か目的でもあったのかな。だとしたら、多分真っ先に狙われるのは私…
私、様子見てくるね。囮にもなれるし」
「シェリー!そんな事言うな!大丈夫だ、魔法省の役人がいっぱいいるんだぜ?きっとすぐ解決するさ。
楽観的すぎてもいけないが、肩肘張りすぎるのも良くない。なるだけ気を楽にしていこうよ」
「……そうね。ふふっ、ありがとうロン」
ハーマイオニーが笑うと、ロンは恥ずかしそうに鼻の下を擦った。確かに、ロンの言う事にも一理ある。ここで警戒していても事態が良くなる事はないのだ。
ここは彼の言う通り、できるだけ楽に行こう。楽に………楽に…………。
「お茶おいしーなー」
「へへへへへこのコミックおもしれー」
「あら、髪の毛にゴミついてるわよ?」
「ありがとーハーマイオニー」
「あー脚いてー」
「揉んであげるね、ロン」
「いやぁすまないねぇシェリー」
疲れで逆にハイになったからか、三人は余裕ぶっこいてた。だからだろうか、彼達はその人物の攻撃を許してしまった。
ロンが寝転がった瞬間、彼の頭があったところに紅い閃光が迸る。シェリー達もよく知る武装解除呪文。だが、明らかに込められた魔力が多すぎる。ロンを攻撃するつもりで放ったのだ。
「二人とも逃げろッ!誰かいるぞ!」
「『フームス、煙よ!』……今の内に!」
ハーマイオニーの放った煙幕に身を隠しながら、二人と手を繋いで逃げる。
しかし、いったい今のは何だ?
彼女の目に狂いがなければ、何もないところから突如として魔法が放たれたように見えた。誰が、何の目的で、どうやって魔法を使ったのかまるで分からない。
……何もないところから?
「……『透明マント』?マントで隠れながら私達に攻撃してきたってこと?」
「マントだって?そんな物を持ってる奴がどうして僕達を襲ってくるんだ!?」
「いいから早く逃げて──」
「──『モースモードル』!!」
「っ!?」
背後から爆発音が聞こえた。
焼けバチになった襲撃者が、無闇に魔力を放出したのだろうか?
振り返ると、空高く青白い光がゆらゆらと立ち昇っていく。そして空中で光は再び破裂し、花火のように光を撒き散らした。
しかしそれは決して幻想的なものではなく、髑髏の口から蛇が這い出るという何とも不気味かつ悪趣味なものだった。
隣でロンが怯えた声を出した。
「や、闇の印だ……!」
「なにそれ?」
「あれは例のあの人と、その配下の死喰い人を示すシンボルよ!逃げなきゃ!またグレイバックみたいなのが現れたら──」
「二人とも伏せて!!!」
空気が膨張したような音。
姿あらわし特有の独特な破裂音を聞いた瞬間、シェリーは迸る殺気を感じた。
唐突な指示にも関わらず、ロンとハーマイオニーは即座に身を屈める。地面に膝をつけた瞬間、既に彼達は魔力を練り終わっていた。
「「「エクスペリアームス!!」」」
頭の上で紅い光が炸裂した。
シェリー達を囲むように現れた魔法使い達の攻撃が、頭上で交わって爆発したのだと気付くのに数瞬かかった。
危なかった、そう安堵すると同時に身体は動いていた。シェリーは低い姿勢のまま滑るように地面を駆けると、一番近くにいた魔法使いに向かって突撃する。
今のシェリーには杖がない。
ならば、敵から奪ってでもこの状況を打破するべきだ。不意を突くような形で、脚に飛びついてバランスを崩す──!
「させねェよ!!」
「!?カハッ………」
その魔法使いの脚に触れた瞬間、頭上から丸太のように太い腕で地面に叩きつけられる。鈍い痛みが後からやって来て、思考が全て飛ぶ。舌を噛んだ。
首根っこを抑えられながらもシェリーはジタバタと抵抗するが、その魔法使いの力はとても強い。華奢な体躯のシェリーではその体格差は如何ともし難かった。
「ぐッ………!」
「大人しくしてろ!!お前達が闇の印を撃ったんだな!?後でゆっくり話を……」
「………ん?その声は……ジキル?」
「してもらおうじゃ……シェリー!?」
昨年世話になった闇祓い、ジキル・ブラックバーン。不器用ながらも優しい彼に襲撃された事に、シェリーは少なからず驚きを覚えた。
「み、皆さん!やめてくれっス!この子達は違う!見てくれ、シェリー・ポッターとその友達だ!あそこの子はアーサーさんの息子のロンっスよ!」
「何!?本当か?」
「……ああ、俺が保証する。その子達は紛れもなく本物だぜ、クラウチさん」
スーツ姿の、明らかに役人という格好の男はフンと鼻を鳴らす。他の闇祓い達は申し訳なさそうにしているのに、その男だけが態度を崩さなかった。
「………。仮にその二人がシェリー・ポッターとアーサーの息子だとして、みすみす見逃す理由がない。お前達の誰かがあの闇の印を出したのだ!」
出た言葉が謝罪ではない事にロンは憤慨したが、初対面の大人に突っかかるほど馬鹿でもない。開きかけた口を閉じた。
……自分より、シェリー達に危険が及んだ事を怒ったのだろうか?
「何を馬鹿な、トチ狂ったかバーティ。あの忌まわしき闇の印を、こんな子供達が出せると思うか?魔力の問題じゃない、闇の帝王と渡り合った子供達があんな物を果たして出すだろうか」
「………では誰が出したというのだ、キングズリー」
「さァ、それは彼達に聞いてみない事には何とも。シェリー、それと、ロンとハーマイオニーだったね?あの印がどこから飛んできたか分かるかい?」
鬼の形相のクラウチを、キングズリーは爽やかに流した。
シェリー達が向こうの方だと言うと、ジキルがその周辺を探る。確かあの辺りにも失神魔法が飛んでいた筈だ。
それを見た瞬間、クラウチ氏の顔が一転してギョッと青褪めた。
屋敷しもべ妖精。
あの顔は見覚えがある。そう、ワールドカップの貴賓席で席を取っていたウインキーなる屋敷しもべ妖精だ。
右手に杖を持ってぽてんと倒れている。
……いったい、何故?屋敷しもべ妖精は杖を使えない筈ではないのか?
キングズリーが杖がどんな魔法を使ったのか分かる直前呪文を使うと、杖からは空に打ち上がっているのと同じ闇の印がミニチュアサイズになって浮かび上がる。
犯行に使った杖があり、犯人と思しき人物もいる。となれば、目下現行犯になるわけだが……。
「あれ?……やっぱり。私の杖だ」
「何!?自白か!?やはり貴様があの闇の印を出したのか!」
「やめろクラウチさん。その子達の嫌疑はさっき晴らした筈だぜ」
「ッ、分かった。分かったからその手を離せアレン。痛いから」
アレンに掴まれた手を摩りつつ、クラウチは活性呪文でウインキーの意識を戻す。
ウインキーの身体が一瞬びくりと身体が震え、次に周囲を見渡して、頭に疑問符を浮かべながらびくびくと立ち上がった。
まだ状況が飲み込めていないようだ。
その様子にクラウチ氏は怒りを抑えきれずに頭にぴきぴきと血管を浮かべながら、威圧するような口調で聞いた。
「──しもべ。お前はシェリー・ポッターから杖を盗み、あの闇の印を悪戯目的で独断で打ち上げた。そうだな?」
「ヒッ……は、はい、そうでございます」
▽▽▽▽▽▽
「絶対おかしいわ!!」
数週間後のホグワーツ特急で、ふとワールドカップの話題が出た。それであの時のクラウチの滅茶苦茶な人事にハーマイオニーが再度怒り始めた。
彼女は屋敷しもべ妖精の不当な扱いにショックを受けていたのだ。
「アレン達も弁護してくれてたけど、結局ウインキーへの処分が下される事は無かったね」
「アズカバン送りじゃないだけ温情さ。あいつの経歴聞いたか?自分の身の潔白のために実の息子をアズカバン送りにした前歴があるらしいぜ」
「そんな………横暴だわ、あまりにも!」
ハーマイオニーの言い分は分かる。
魔法界で育ったロンは屋敷しもべ妖精は労働を望み給料を欲しない奇特な生物という認識で、今後もそれが変わる事はないだろうが、少なくとも長年仕えていた愛着のある職場で突然解雇されれば流石にそれは可哀想だと思う。
そもそもウインキーがやったという確定的な証拠が無いのだ。状況証拠だけで、ウインキーの証言もどこかおかしかった。だから闇祓い達は証拠不十分で彼女をアズカバン送りにはしなかった。
だが、ウインキーは解雇された。クラウチ氏が身の潔白を証明するため、たったそれだけの理由で。
「イギリスは法の支配の国!法律で権力と自由を支配している国なのよ!?昨今ではその存在意義を問われる事も多いけれど、少なくとも価値観や倫理に囚われず厳粛に裁いてきたの!そしてそれは魔法界においても基本の考え方よ!すなわちその法律がウインキーを有罪という判断を下していないのならば、クラウチさんは誠実にウインキーに対して接するべきだわ!せめて彼女が最も望む労働環境だけでも用意する必要がある!まあもっともその労働環境もお世辞にも良いとは言えないみたいだけれどねっ!!!」
「……ソウダネ?」
「何言ってるか全然分からねえ……」
ハーマイオニーの主張を聞いてるうちにホグワーツに到着した。
一年ぶりの組分けである。コリンの弟のデニス・クリービーがグリフィンドールに入った。彼は上級生達から熱烈な歓迎を受けていた。
話を聞くと、実家でコリンからシェリーの話をたんまり聞いていたようで、握手とサインを求められた。……最近はこういうのにも慣れてきた。
ふと、デニスの近くで、新入生の女子達がコソコソと何かを話しているのが耳に入った。聞いたら悪いかなあと思いつつも、耳に入ってきてしまった。
「ね、ね、あの先輩カッコよくない?」
「素敵よねー!」
ベガの方をチラチラと見ている。彼が気になるようだ。
視線に気付いたベガはハンサム顔で爽やかに手を振ると、一年生はきゃいきゃいと黄色い声を上げる。あ、マクゴナガルに睨まれた。
恋愛経験豊富なラベンダーからは「うわぁ、またやってる」と呆れた顔をされているが当の本人はどこ吹く風だ。……なんとなくベガを眺めていたら、目が合った。
「よう、シェリー。ワールドカップ大変だったみたいだな」
「久しぶり、ベガ。色々あってね…って、あれ?もしかして杖変えた?」
「ん、よく気付いたな。これはな……」
「また一年が始まる!」
ダンブルドアの声。
いつの間にか組分けは終わっていたらしい。ベガが「また後でな」と視線をよこした。シェリーは頷いて、姿勢を正す。
彼が喋るのは、毎年恒例の諸注意だ。しかしそんな話は早く終わらせて楽しくご飯を食べよう、がダンブルドアのスタンスなのですぐ話は終わるだろう。
……というシェリーの、いや生徒達の予想は外れる事になる。
「闇の魔術に対する防衛術の新任の先生もいるのじゃが、彼はどうやら到着が遅れるようでの。また後にしよう。……まず今年のクィディッチ対抗戦は中止とする」
「嘘だろ!?」
「そんな殺生な!」
「ふざけんなー!」
「俺留年したのに!!!」
「どうどう、落ち着きなさいフリント君。これは儂としてもまことに残念じゃ。いやマジで、これは本当じゃよ?でもって、代わりと言ってはなんじゃが皆の衆を大いに盛り上がらせるイベントがある」
悪戯っ子のように笑うダンブルドアに、大広間中が期待の視線を向けた。
毎年生徒達を熱狂させるクィディッチ対抗戦を中止してまで行うイベント?否が応にも、そのイベントに期待してしまうのが人の性というものだ。
「──『
一言。
そのたった一言が、大広間中を驚愕の坩堝に叩き込んだ。
それも当然だ。三大魔法学校対抗試合とは、ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングというヨーロッパの三大魔法学校が一同に介し、覇を競う行事なのだ。
厳正かつ公平な審査によって各校から代表選手を一人だけ輩出し、三つの魔法競技で競い合う。
魔法という力を持っていながら、私的な戦闘は禁止されている魔法界において、魔法を使った決闘というのはとてもとても甘美な響きなのだ。
「よしよし。……この対抗試合はもともと魔法使い、魔女が国を越えて絆を築く事を目的として開催されたものじゃ。しかし七百年前、試合内容があまりにも危険すぎるのと、夥しい量の死者が出た事で競技は中止となっていたのじゃ。
じゃが今年は、魔法省各署の尽力と何重もの安全対策を組み上げ、今こそ再開の時だと判断したのじゃ。
──その安全措置の一つが、対抗試合はチーム戦だという事!過去の試合では代表選手は各校一人までじゃったが、今回の代表選手は各校三人選ぶ!!」
再び大広間が歓喜で震えた。
チーム戦?
魔法学校一つにつき、三人?
つまり、自分達にも少なからずチャンスはあるのだ。対抗試合に出場できる可能性は決して低くないのだ、と。
それに九人の代表選手が集って闘うとなれば、その興奮もより一層高まるというもの。大広間は狂喜乱舞していた。
ダンブルドアと魔法省を讃えて歌う者まで現れる始末だ。こんな歴史の節目に立ち会える日など、きっと一生の内に二度とないだろう。
しかし。
ダンブルドアは更なるサプライズを用意していた。
「さてさて、ここからが本題じゃ。儂は何も、その試合が開かれるとは一度も言っておらんぞ?」
ダンブルドアは笑みを深めた。
悪戯っ子のような笑みを。
「古い話をしよう。ホグワーツを創り上げた、四人の創始者の話を。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ。ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリン。儂も尊敬する偉大なる四人の魔法使い達は千年もの昔に集い、ホグワーツ魔法・魔術学校を創り上げた。
じゃが四人は方針の違いからバラバラになり、ホグワーツを後継に託してそれぞれ違う地で眠ったとされている。
──しかし、最近歴史的に解明された事じゃが四人はホグワーツを去った後に別の国へと移り住み、別の魔法学校の創設に深く関わっていたという事実が判明した。魔法の発展のために、後進を育てるために。そしてあるいは、全てをもう一度やり直すために」
秘密の部屋に隠れ棲んでいたバジリスクの話の通りだ。
ゴドリックは教師を辞めホグワーツを去ると日本に渡りマホウトコロの創設に深く関わった。ヘルガは病気の療養のためにフランスに渡ると、その人柄から人を集めボーバトン創立の切っ掛けとなった女性とされている。
「そう、ホグワーツとその四校にはずっと前から深い関わりがあったのじゃ。ならば彼達もまた同志。今こそ、創設者達の想いを汲んでやる時だとは思わんか?ここで残り二校を無碍に扱うべきではないとは思わんか?」
「………ま、まさか!?」
ダンブルドアは声高らかに叫んだ。
「──今年、ホグワーツで!
『
紡がれるは五芒星!
七百年ぶりの開催!
五つの魔法学校の祭典!
一つの学校につき三人の代表選手!
優勝者には一千ガリオンの賞金!
それら全ての要素は大広間中の生徒のボルテージをハイにするには十分だった。歴史の節目どころじゃない。魔法省は歴史を創ろうとしているのだ!
ここに紡がれるは前人未到の未来。
今、彼達は、歴史の上に立っている!
そしてひとしきり熱狂したホグワーツに客人がぞろぞろとやってくる。
「紹介しよう。美と芸術の国フランスから魔法生物飼育学の第一人者のマダム・マクシームと、『ボーバトン魔法アカデミー』の生徒達じゃ」
シェリー達の知る限り最も図体の大きいハグリッドと同等か、それ以上に高身長な妙齢の女性がずんずんと歩く。身長は高い部類のダンブルドアが彼女の手の甲にキスをするのに殆ど屈む必要が無いほどだ。
何とも威圧感のある女性だが、背筋がピンと伸びたその様は洗練された美を感じさせる。強い女性とはああいう人の事を言うのだろう。
そしてボーバトンに一人、とびきり美しい少女がいる。水色のローブを着た生徒達はホグワーツの男子陣を魅了したが、その誰もが添えものに過ぎないと思わせる程の美貌。ロンが見惚れてた。
彼女の傍には可愛らしい少女が二人ほど、ぴょこぴょこ歩いていた。……付き人気取りだろうか?
「お次は昨年より校長を務める若き重鎮ダンテ・ダームストラング氏と、『ダームストラング専門学校』よりやって来た生徒達じゃ!」
軍隊のように統制された動きで、渋いブラウン生地の制服を身に纏った生徒達がやって来る。その中心に立つのは、先のワールドカップでも邂逅した『黒髭』ことダンテ・ダームストラング氏だ。ダンテはのすのすとダンブルドアのところへ歩くと軽口を叩き合う。
アーサーに危険視されていたダンテ氏だが、どうやら彼は闇の魔術に深い見識を持つ男らしく、前任のカルカロフ以上に闇の魔術を徹底した魔法教育を推し進めている人物なのだとか。
堂々と王者のように大広間の中心を歩くのは、ダンテの子供のネロ・ダームストラングとリラ・ダームストラング。(リラの方は顔色が悪いが、ど真ん中を歩くのが恥ずかしいのだろうか?)そしてなんと、ワールドカップで大活躍だったビクトール・クラムだ!生徒達は期待と羨望の視線を彼へと向けた。
ネロはチラリとシェリーの方を見ると、ニヤッと笑う。……彼の笑みはどうも苦手だ、どうも背筋が強張ってしまう。
そしてここからは、今回から初参加となる魔法学校の参入となる。
「自由の国アメリカより、『イルヴァーモーニー魔法魔術学校』が参戦する。校長を務めるはセイラム・ウィリアムズ、アメリカ魔法界きっての弁舌家じゃ!」
色付き眼鏡をかけた派手な黒人男を先頭にして、派手に音楽魔法を掻き鳴らしながら生徒達が雪崩れ込む。あのセイラム氏はアメリカ合衆国魔法議会で強い発言権を持つ男で、言葉と活字で人を沸かせる『議会のエンターテイナー』なんだとか。どう見てもはっちゃけたおじちゃんにしか見えないが、凄い人らしい。
しかし学生レベルとは思えないほどの超絶技巧のロック・ミュージックだ。演奏しているのは誰だろう?
生徒達の中に一際異彩を放っている三人組がいた。何やら派手なメイクだが……、あの姿はどこかで……。
「マジか!?ザ・サーベラスだ!」
「嘘でしょ、クラムに加えてサーベラスまでいるの!?」
魔法界出身の生徒を中心として歓声が上がった。サーベラスといえば、先のクィディッチ・ワールドカップで開会セレモニーを務めたバンドだ!
まさか、学生バンドだったのか!
「東洋より『マホウトコロ』。日本の白刃の如く磨かれた心を、オダ・ナギノ氏と生徒達がとくと見せてくれるじゃろう」
どよめく観衆の中を颯爽と駆けるは、マントを羽織った学ランやセーラー服の生徒達。黒と紅の独特な模様が刺繍された日本の民族衣装、着物を優雅に着こなした小柄な女性が生徒達に手を貸されながらふらふらと歩く。
どうやら既に酔っ払っているようだ。着物から紅潮した白い肌が見え隠れしていて男子達の視線を集めている。艶めかしいというか、色っぽい。
あれが着物美人か……!
「俺これから楽しみだよ色んな意味で」
「あんな美人と暮らせるのか……」
「最高じゃん?」
男子達はタイプの違う美女達にもう首ったけだった。
ジニーやパーバティがそれを白い目で見ていると、ザ・サーゼラスによる生演奏が始まる。各界の有名人が揃い踏みしたホグワーツだが、中でもサーベラスは生粋のエンターテイナーなのだ。
リーダーと思しき少女が壇上に上がる。パンク・ファッションに身を包み、ケバケバしいメイクと派手な色の髪は攻撃的だがあくまでファッションの範疇らしく、喋ると以外と落ち着きのあるトーンだった。
『ウィーっす、ザ・サーベラスっす。ホグワーツじゃいつも組分け帽子さんが歌を歌ってるみたいっすけど、今年はあーし達が担当する的な感じでシクヨロっす。
……組分けさんの方が良かったー、って思ってる人がいたら申し訳ねえっす』
「そんな事な──いっ!」
「サーベラスの方が良い──っ!」
「えっ………私の立場は」
『はは、どーもっす。あーしはバンドリーダーで
『
『
『名前、覚えといてね。そんじゃま、一曲いきますか……!』
生ライブが始まった──。
数時間後のグリフィンドール寮。
マクゴナガルもある程度は生徒達が浮かれるのを許容しているようで、馬鹿騒ぎを黙認していた。
というのも、今グリフィンドール寮にはマホウトコロの学生達が宿泊しにやって来たのだ。他校と親睦を深める一環として、四つの魔法学校の生徒が四つの寮それぞれで寝泊りするというのだ。
グリフィンドールの場合は、ゴドリックと縁の深いマホウトコロの生徒達が。はじめは言語の違いで戸惑いもあったが、ウィーズリー兄弟やリー・ジョーダン等の馬鹿騒ぎ大好き集団が上手いこと絡んですぐに馴染んだ。
ニホンの学生は大人しい人間が多いと聞いていたが、中々どうして面白い。
「うっははは!フレッド、お前話の分かる奴じゃのう!」
「うひゃひゃひゃひゃ!お前こそ最高だぜブラザー!」
「おい粗忽者!貴様、口に物を入れたまま喋るんじゃない!マナーがなってないぞマナーが!」
「なんじゃい唐変木が。お前みたいな空気の読めぬボンボンがおるとせっかくの食事も台無しじゃのお」
「やるか?」
「あ?」
「またあの兄ちゃん達が喧嘩をおっ始めるぞォー!」
「賭けた賭けたァ!……あれ、そういえば名前なんつったっけ」
「ん?名前を聞いとるのか?おいの名前はサツマ・ハヤトじゃあ!よろしくのお!」
「俺はフウマ・コージロー。何を言ってるかは分からんが、よろしく頼む」
「何でお互いの言語を理解してないのに話が通じるのかしら……」
独特な訛り(ハグリッドのそれに近い)で喋るボサボサ頭の少年と、よく手入れされたサラサラ髪の少年とがぶつかり合う。魔力を剣状に伸ばしてチャンバラをしているのだ。ウィーズリーズが「カタナ!サムライソード!」とはしゃいでいた。
まあ気持ちは分かる。
もちろん本気で戦っている筈もなく、手加減しながらの戦いなのだが……すごく高次元の戦いだ。洗練された足捌きは、素人のそれではない。
獅子寮が沸き、マホウトコロの男子は慣れているのか後方でケラケラ笑って、女子は「またあいつらか」と頭を抑えている。
……苦労しているのだなあ。
「で、貴方のお名前はなあに?」
「えっ?えーっと、私、日本から来ました、ミカグラ・タマモと申します。どうぞお見知り置きを……」
「堅苦しいのは抜きだ!飯食おうぜ!」
「わっ。……っふふ、ありがとう」
「しっかし、『フーマ』に『オダ』か……歴史上の人物の苗字だろ?そっちじゃ一般的な名前なのか?」
「ああ、お館様……校長先生とコージローは過去に実在した人物、織田信長と風魔小太郎の血を引いているのよ」
「え、ほんと!?」
「日本の魔法使いは軍事力として昔から重宝されてきたの。侍や忍者なんかがそうね、一般に知られる事はなかったけれど。
で、そういう戦力を得るために将軍や権力者達がやったことといえば……」
「──政略結婚、か」
戦乱の世では珍しくもないことだ。
将軍は跡継ぎを得るために名家の娘と結婚し勢力を伸ばす。その中で長男以外の、魔力や才能に溢れた子を魔法使いとして育て、軍事力として使役する。歴史の裏で暗躍した精鋭部隊というわけだ。
特に、都合の悪い家系の子や、妾の子がそういった部隊に抜擢されるケースも少なくなかったそうだ。
そんな血みどろの歴史が古来より繰り返されてきたわけだが、人間兵器として扱われる彼達を哀れんだ者達が創った魔法学校が、平安時代から(細々とだが)あったそうなのだ。
「ヘイアン時代から……!?」
「って何?」
「ああ、そっか。こっちには年号の文化が無いのね。こっちでは8世紀末から12世紀までの事を指すのよ。
その時代に安倍晴明っていう陰陽道に優れた占星術士……まあ、平たくいえば学者さんがいたんだけれどね?その人が世界を旅していたというゴドリック・グリフィンドールから伝わった、魔法学校というシステムを真似たのがマホウトコロ創設のきっかけ」
「へー」
「そうだったんか……」
「知らなかった……」
「いやあんた達は知っとけッ!」
ハヤトとコージローの馬鹿二人にタマモはぴしゃりと言い放った。
魔法使いを勢力としてではなく、一人の人間として扱う魔法学校の存在が重視され始めたのはごく最近で、世界大戦後に漸く国の公認のものとして扱われるようになったのだとか。
そういうわけでマホウトコロにはかつて家同士が敵だった生徒も多いわけだが、対立はあれど差別はない。そもそもがマグルに深く根差した文化のため、文化間の隔りは少ないのだという。
成程。ためになった。
「……って感じかしら。ゴメン、長くなっちゃったね。私の悪いクセで……」
「そんな事ないよ!分かりやすい!」
「すごい!先生みたいだわ!」
「タマモ先生!」
「せ、先生!?私が?いやぁ〜…」
「そうだろう、タマモは凄いじゃろう」
「タマモは頭脳だけでなく戦闘にも優れていてな。こいつの魔法がまた凄いんだ!」
自分達の仲間が褒められると嬉しいのか、マホウトコロの学生達はこぞってタマモを自慢する。タマモは林檎のように顔を赤くした。
「のうベガ!きさん、ホグワーツ最強の魔法使いと聞いとるぞ!いっちょおいと模擬戦でもしてみらんか!?」
「おう、俺へのお誘いとは嬉しいねえ。俺も他校の最強に興味が湧いてたところだぜ!」
「いつまで騒いでるんですか!」
「うわっ、おいハヤト逃げろ!マクゴナガルは怒るとこえーぞ!」
「ようタマモ、この後時間あったら二人で一緒に……」
「今口説いてんじゃねーッ!」
各々馬鹿騒ぎしながら、自分達の寝室へと引っ込んでいった。……グリフィンドール寮がまた賑やかになりそうだ。
そして、シェリーはマホウトコロの生徒との会話の中で、特に頻繁に話題に上がる彼達の顔を何となしに覚えていた。
サツマ・ハヤト。
フウマ・コージロー。
ミカグラ・タマモ。
てんでバラバラな三人だが、彼達には一つの共通点がある。それは対抗試合に出られる年齢だということだ。
シェリーの隣で眠るタマモを見て思う。先程類稀なる身体能力とキレのある体術を見せたハヤトとコージローもそうだが、タマモの立ち振る舞いも洗練されていた。
そう、現役闇祓い達のような、全く隙のない磨かれた身体の動き。彼女もまた優れた魔法使いである事がひと目で分かった。
シェリーの中に、いやグリフィンドールの中に一つの確信が浮かんでいた。
──この三人が代表選手として場を引っ掻き回すのは、間違いない。
マホウトコロとイルヴァーモーニーが参戦。
ついでにチーム戦で三人で戦ってもらいます。
こんなにオリキャラ出して大丈夫かよ!って思うかもしれませんが、原作キャラもきちんと活かす予定ですし、何より絶対に面白くさせるのでお付き合いしていただけると幸いです。