シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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Goblet of FireⅠ

「ロン、ロン!起きて!もうすぐ変身術が始まるよ!マクゴナガル先生怒るよ!」

「んがっ。………あと五分んん」

「昨日はしゃぎすぎたわね……」

「うん、なんてーか、ごめん。ウチには騒ぐの大好きな馬鹿ばっかりしかいなくて」

「うちも似たようなのばっかりよ」

 

 寝ぼけ眼の男子達を引っ叩いて叩き起こし、大広間まで連れて行く。

 どうやら騒いでいたのはどこの寮も同じようで、どのテーブルも死屍累々だった。

 昨日は早めに寝たのか、スリザリン寮のテーブルだけが唯一落ち着いた雰囲気のようだった。

 

「うわ、しかもスリザリン寮にいるのってダームストラングの生徒じゃん。クラムとマルフォイの奴が話してる……くそぉ、羨ましい。僕も後でサイン貰おうかな」

「私だってザ・サーベラスのサイン貰いたいわよ。ああ、チョウ・チャンの隣でバーニィが歌ってるし。いいなぁ」

「ごめんね……」

「一緒なのが俺達で……」

「え!そ、そういうつもりじゃ」

 

 ロン達の言葉を勘違いしたのか、マホウトコロの生徒達は沈んだ。口は災いのもととはこの事である。

 

「ようよう、何を落ち込んでるんだいマホウトコロの諸君」

「ん?フレッドとジョージか。……お前達はやけに楽しそうだな?」

「そりゃあ、炎のゴブレットの攻略法をついに見つけたからさ」

 

 双子は意地悪そうに笑った。

 炎のゴブレットとは、クラウチが対抗試合のために用意した魔道具だ。対抗試合では代々この魔道具が代表選手を選定するのがしきたりなのだとか。

 ハロウィーンの夜までに決心のついた者は自分の名前を書いた紙をこのゴブレットの中に入れ、ゴブレットが公正に審判を下すのが習わし。候補者の中で勇気なき者や力なき者は中で紙を焼かれ、残った者だけが試合に立つ権利を得るのだ。

 しかしゴブレットは『年齢線』で囲まれており、一七歳に満たぬ者はその線を越えるのは不可能。……なのだが、双子はそれを攻略してみせるという。

 

「くくく、俺達が独自に開発した老け薬数滴でいけるはずだ……」

「やめとけよ双子。さっき見たが、あの年齢線を誤魔化すのはお前達じゃ無理だぜ」

「俺達を誰だと思ってる?ホグワーツの悪戯仕掛け人だぜ。いくらダンブルドアが敷いた線といえど、越えられぬ道理はないんだぜッ!」

「うっははは!面白かのうこいつ達は!」

 

 こういう気持ちの良い馬鹿は好きなのか、ハヤトは双子を見てゲラゲラ笑った。

 

「そういえば、ハヤト達は代表選手に立候補するの?」

「応ッ!勿論!男は困難に挑んでナンボじゃけェのお!」

「この粗忽者と一括りにされるのは少々癪だが、まあそうだ。マホウトコロの最後の思い出を作りたかったし、己を高める良い機会だしな。それに、俺達は幼なじみでいつも一緒に行動してきた。ならば、一人が対抗試合に申し込むならば俺達も挑むのが道理ってもんだ」

「ふふっ。コージローったら、そんな事考えてくれてたの?可愛いヤツ」

「だ、だまれタマモ!」

 

 顔を赤くして怒鳴るコージローを見て、皆が笑ったのだった。

 『闇の魔術に対する防衛術』。

 シェリー達が教室に向かうと、そこにはスリザリンとダームストラングの生徒達が教室の前で待機していた。他校の生徒が入るということで、マクゴナガルの粋なはからいで合同で授業を行う事になったのだ。

 

「あ、あの。クラッブさん、ゴイルさん。差し支えなければそのお菓子、私にも分けていただけないでしょうか……」

「………」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ゴイルとクラッブがリラにお菓子を分け与えていた。あの大食漢二人が人に食べ物を分けるなど信じられない光景だが、シェリーはパンジー・パーキンソンが耳打ちしたのを聞き逃さなかった。

 大方、純血の名家であるダームストラング家とコネクションを得るつもりだったのだろう。

 そんな光景を眺めていたからか、ビクトール・クラムが猛禽類のように鋭い眼でこちらを睨むように見ていたことに、シェリーは気付いていなかった。

 

「…………」

「よ、シェリーちゃん。ひっさしぶり〜」

「あっ、久しぶり!ええと……ネロとリラだったよね?」

「ん!よく覚えててくれたねェ、お兄さんは嬉しいよ」

「もぐもぐ……ど、どうも」

 

 軽い調子で肩を叩いたのは、ネロ・ダームストラングだ。その後ろにはリラ。もごもごと口に頬張っているのは、彼達から貰ったお菓子だろうか。

 しかし、美男美女な二人だと思う。

 プロのクィディッチ選手のクラムが女子から人気を集めているのは分かるが、癖こそあるものの美男子の部類に入るネロも女子からヒソヒソされているらしい。

 しかも社交的で、純血の名家ときたものだから、それはそれはモテるだろう。

 

「ホグワーツはどう?もう馴染めた?」

「ん!けっこー楽しいよ。可愛い子もいっぱいいるし、制服も可愛いしさ。ついつい目移りしちまう」

「うん……うん?」

「まあでも欲を言うなら、明るい子が近くにいてほしいよね。スリザリンの子は大人しめの子が多いし、ダームストラングは根暗ばっかだしさ。俺はシェリーちゃんみたいな純朴で明るい子が好みなんだよね」

「?……ええっと、ありがとう?」

「ッハハ。どうだい?君さえよけりゃあ今度の休みにちょいとお茶でも──」

「シェリー」

 

 ネロの言葉を遮ったのは、ベガだった。

 

「もうすぐ授業だ、中入れよ」

「あ、うん!ありがとうベガ」

「へェ?女の子との会話中に横槍を入れるなんて、無粋な輩もいたもんだ」

「そんなつもりは毛頭ねえが、ナンパのつもりなら意味ねえからやめとけ」

「言ってくれるジャナイ。だが度を越えたお節介は嫌われるゼ?」

「いやそういう意味じゃなく……」

「えーと、二人ともいったい何の話を…」

「何だお前達は!儂を殺す相談でもしているのか!?あ!?」

 

 嗄れた声。

 ヒト型の魔法生物と言われた方がまだ納得する凶悪な顔が嗄れた声で叫んだものだから、その場にいた全員が硬直した。

 彼はアラスター・ムーディ。別名『マッド・アイ・ムーディ』とも呼ばれる人物で、かぼちゃをくり抜いて作ったようなでこぼこの顔には歴戦の負傷があちこちについていて、鼻は大きく削がれている。

 おまけに眼帯状につけられているブルーの義眼はぎょろぎょろと忙しなく動いている。ロンが言うには、あれは魔法の眼といって万眼鏡のように遠くまで見渡し、物を見透す力があるのだとか。その目玉が彼を『マッド・アイ』たらしめる理由だ。

 

「アラスター・ムーディだ!よろしく!この目玉は気にするな、低俗な輩にちょっと抉り取られただけだ!」

「よろしくお願いします!」

「うむ!良い返事だ!わしを見ても怖がらなかった者はお前が初めてだ!もしや貴様は偽物でわしを殺す機会を狙っているというわけか、ハッハッハッハ!!」

「笑えない冗談だわ」

 

 アラスター・ムーディとは前時代において、長年英国最強名を欲しいままにしていた伝説の闇祓いだ。アレンが台頭して来るまでは彼が前線に立って死喰い人達を軒並みアズカバンにぶち込んだのだとか。

 今は引退して後進の育成に力を注いでいるようで、かのチャリタリやトンクスなる優秀な闇祓いを育てた、立派な、そう、立派な人格者な筈なのである。

 例え始業のベルが鳴った瞬間に闇の手先と勘違いして時計を壊したとしても、立派な人物であることに変わりはないのだ。

 

「ダンブルドアに頼まれたのでここの教員になった!あいつがわしを呼んだ理由はひとつ!闇の魔術とそれを使う者達と戦う術を身につけさせるためだ!!わしが教えるのは魔法省に反対呪文までだと言われとるがクソ喰らえだ、闇に染まっている者は年齢など関係なくその力を目覚めさせる!

 え!?そうだろうが、リラ・ダームストラング!!」

「え!?えーと……何のことだか」

「ふん、わしの義眼で見た景色については目を瞑っておいてやる。ともかく身を守る力と戦うべき相手を知れ!死喰い人がここにやってきたとて、奴達は弱点をバラしたりはせんのだからな!……さて!」

 

 ムーディは黒板に『許されざる呪文』と乱暴に書き殴った。あまりの勢いにチョークが一本折れた。

 

「許されざる呪文!この意味が分かる者はいるか!……よし、グレンジャー!答えてみろ!」

「使用が許されていない闇の魔術の代表とされる呪文です。その三つは使うだけでアズカバンで終身刑になってしまいます」

「うむ!いいだろう!という訳で今から実践してやる!」

「……えっ!?いや、たった今使っちゃいけないって……」

「実物を見んことには対処すらできん!大丈夫だ、お前達にかけるわけではない!

 何から教えるか……許されざる呪文には何があるか、知っている者は答えろ!」

「え、えーと、はい」

「よろしい!ならば杖を置き両手を上げてゆっくりと立ち上がって答えろロナルド・ウィーズリーッ!!」

「僕は犯罪者か何かかよ!えーと、服従の呪文?」

「うむ!服従の呪文、すなわち意識を縛り身体を操作する魔法なり!これを見ろ!」

 

 ロンが短い悲鳴を上げた。ムーディが取り出したガラス瓶の中には、大きな蜘蛛が入れられてあったのだ。

 瓶から取り出すと同時に魔法をかけた。

 

「インペリオ!服従せよ!」

 

 ムーディが放った魔力が蜘蛛に衝突すると、蜘蛛は優雅にワルツを刻んだ。ムーディが杖を振るとその動きは激しくなり、また杖を一振りすると宙返りする。

 その様子は珍妙で、サーカスのピエロのように面白おかしい動きだった。

 生徒は一同爆笑するが、ムーディの「次は何をさせる?入水自殺させるか?同族を殺させるか!」という一言によってシンと静まり返った。

 服従の呪文の真の恐ろしさとは、すなわちそういうことだ。人間が、都合の良い人形へと変わってしまう。間接的に被害をもたらせる呪文というわけだ。

 しかも悪人にとっては、都合が悪くなれば『自分も操られていた』と言い逃れできる恐ろしい魔法なのだ。

 

「もしお前達がこの魔法にかかれば、ナイフで友人を刺し殺そうが抵抗はできんというわけだ。この魔法は魔法省を困らせた、アズカバン送りにするべき人物を見定められんからな」

 

 なにせ操られていた間の記憶はないのだから、真実薬も意味はない。真実薬も貴重な薬品なので、投与する犯罪者は非常に吟味しながら使用したという。

 

「だが、まれにこんな物を使わずとも人をかどかわす力を持った魔法使いもいる。そうだな、ビクトール・クラム?」

「……はい。ヴぉく達の国では、『ゲラート・グリンデルバルド』が闇の魔法使いとしてとても有名です」

「何故奴が最恐と恐れられているか、その理由は考えたことはあるか」

「………アー、『例のあの人がその実体を見せずに暗躍する闇ならば、グリンデルバルドは確かにそこに存在して弱い心につけ込む詐欺師』……奴が人をかどかわすのがとても上手く、常人さえも狂わせるからだと思います。ヴぉくの祖父も、奴に……」

「うむ、そうか。ならば今は闇に対抗し守る力を学んでおけ」

 

 ムーディの声色に、ほんの少しだけ優しさが混じったような気がした。だがそれも一瞬、すぐにぴしゃりと声を荒げる。

 

「次だ!知っている者は!……よし、次はお前だネビル・ロングボトム!」

「うわぁ何か殺害予告受けてるみたい……えーと、磔の呪文、です……」

「よろしい。前へ来なさい」

 

 生徒全員が見えるよう、『肥大呪文』で蜘蛛を大きくすると、ロンがまたもや小さな悲鳴を上げた。

 ベガが気遣わしげにネビルを見ているのに気付いて、嫌な予感がしたが、それは正解だった。

 苦悶の声。

 蜘蛛が苦しみ悶えているのが、シェリー達の目にも明らかだった。拷問にかけられていると言わんばかりの痛々しい悲鳴と仕草に、生徒の大半が目を覆う。しかしそれでも蜘蛛の苦痛が終わるわけではない。

 ……あの感覚は、シェリーもよく覚えている。一年生の時に、ヴォルデモート卿に自分との不思議なつながりを利用され、闇の帝王直々に、ダイレクトに苦痛を味合わされた時のあの感覚は、忘れようがない。

 ネビルが身体を震わせていた。恐怖にしてもあの怯えようは異常だと思うが、あれはどうしたことか?

 

「おい!もういい、やめてくれ!ネビルが辛そうだ!」

 ベガの声で、ムーディは我に帰ったような顔をして魔法を中断した。

 

「……ッ、そうだな。ロングボトム、戻るといい。少しショックだったか」

「は、はい……」

「……怖いか、この呪文が」

「…………はい」

「ならば知ることだ。知識とは力、恐怖とは勇気へと変わる。お前は決して臆病者などではない!

 他の者もよく覚えておけ!『クルーシオ、苦しめ』……これがあればどんな拷問道具も用無しになる。苦痛そのものを脳に直接ブチ込む魔法であるからして、探究心から作られる魔法の中でも異質、純然たる悪意のもとに創作された魔法なのだ」

 

 マグルの科学者ノーベルは、ニトログリセリンを安全に使いやすくできるようにダイナマイトを開発し、当初は土木工事に大いに貢献していた。

 しかし次第に兵器としての運用が増えていったことに嘆き悲しんだノーベルは、自分など死んだ方が良かった、などと己の存在を否定し続けたらしい。

 魔法界にも同じことが言える。探究心のもとに生み出された魔法が、人を傷つける兵器となり得る。多くの魔法研究家がその命題に当たっているのだ。

 だが。

 磔の呪文は、明らかに拷問もしくは快楽のために創られた魔法で、それ以外の使用方法が存在しない。人を苦しめるためだけに創られた悪辣な呪文なのだ。

 

「さて、最後のひとつ。誰か知っている者はいるか!」

「フォ、あ、はい」

「ルシウスの息子か。貴様なら色々と聞いておるだろうな。答えてみろ」

「……死の呪文。これを喰らった者は例外なく死ぬとかなんとか」

「うむ。その通りだ。これを喰らった者はあらゆる過程をすっ飛ばして死がもたらされるのだ。反対呪文は存在せず、盾の呪文ですら意味がない。躱すか、何かに隠れるかでしか対処しようがないのだ」

 

 言うと、ムーディは緑色の魔力を蜘蛛にぶち当てた。一瞬の閃光の後、シェリー達が目にした物は蜘蛛の死体だった。

 ぞくり、と。

 静まり返っていた空間に、得体の知れぬ恐怖が広まったのを確かに感じた。

 死。

 『生』物である以上、決して逃れ得ぬ事のできぬ事象。それを目の当たりにして、平然と行使できる死喰い人達の異常性に内心で戦慄する。

 果てがそこにある。

 死がそこにある。

 肉体になんら損傷を与えることなく死体へと変えてしまうさまは、まるで芸術にすら思えた。

 

「あ、アレンの砂や岩の魔法って……」

「うむ、あの当時では実に理にかなった戦法といえよう。いくら死の呪文といえど実在する壁をすり抜けるわけではない。よって物理的に遮断するのが良いと考えたわけだな」

 

 壁や物が置いてあれば、そこで死の呪文は途切れてしまう。それが唯一の弱点……いや、欠点といっていいだろう。それでも強力な呪文であるということに変わりはないのだが。

 死の呪文は、物理的な遮蔽物によって阻害できる。達人はそれで死を回避し、過信した死喰い人を返り討ちにするのだ。

 

「これを受けて生き残っていられた者はたった一人しかおらん。そう、わしの目の前にいるお前しかな」

「…………」

「──と、ここまでが今までの許されざる呪文だ!魔法省はある一つの魔法を──厳密には呪文ではないが──禁忌の呪文に定めた!それが何か、分かる者はいるか!」

 

 服従、苦痛、死ときて、さらに悪辣な魔法がある事に生徒達は頭を抱える。人を辱める呪文がまだ存在するのか、という真実への恐怖だ。

 しかしそのムーディの恐怖を取り入れた授業でさえ、平然としている者がいた。ネロ・ダームストラングがその一人だった。

 彼はムーディにすら聞こえぬほどの小声でリラに話しかける。

 

「おいリラ、手を上げてみ?」

「え?はい」

「よし!ではお前だ!」

「ええっ!?」

 

 ネロと悪戯で理不尽に指名されたリラはしばらくの間「あー」とか「うー」とか唸った後、思い出したかのように一つの単語を口にした。

 

「え、ええー……と、たしか…分霊箱(ホークラックス)?」

「ああそうだ!ダームストラングにも学習意欲のある者がいて感心だ!」

「えっ?ほんと?で、でへへ……」

「かの闇の帝王もその魔法を使用していたと言われておる!殺人を行うことをトリガーとして、分裂した魂を別の容れ物に移す!その容れ物が破壊されるまでは死なないというわけだな!

 仕組みは単純だが、分裂した魂は非常に脆く繊細で、別の箱に移し替えるのは恐ろしく難しい!分霊箱の作成に成功した例は闇の帝王しかおらんと言われとる!」

 

 かつて不死を求めた多くの魔法使いがこの箱を創ろうと試みた。だが、その多くが魂の移し替えに失敗し、完璧な分霊箱を創れたのはヴォルデモート一人だけだと言われている。

 しかし、分霊箱は古来より伝承されてきた魔法であり、すなわち必ずその魔法を創った人物がいる筈。『成功例』がある筈なのである。

 初代ダームストラング校長がその魔法を創ったという伝説も残されているが、眉唾物の御伽話だ。

 

「闇の帝王がどうやってその魔法を知るに至ったのか、習得したかはもはや本人にしか分からん!重要なのは!お前達の近くにはこうした下劣な魔法を使う輩がいるという事だ!呪われんようにせいぜい気を付けろ!油断大敵!!」

 

 ムーディの授業の反響は大きかった。

 生徒達は足早に教室から去ると、口々に授業の感想を言い合う。あんなショッキングな授業を受ければ、それも当然だ。

 ダームストラングの生徒達がホグワーツって相当やばい学校なんだな、と噂していた時は慌てて修正したが。あれはムーディが特殊すぎるのだ。

 

「………」

「ネビル、大丈夫かい?なんだか顔が青いようだけれど」

「お水飲む?」

「!う、うん。平気だよ」

「……辛い時は俺達に言えよ?」

「ありがとう、ベガ……あっ」

 

 ネビルの視線の先には、義足をがしゃがしゃと鳴らしたムーディの姿があった。

 若干、本当に若干だがムーディは柔らかい表情を見せた……気がする。しかし快楽殺人鬼のような不気味な笑顔は素なのか、それとも笑顔で騙し討ちしようという腹積もりなのかはもはやシェリー達には判別が付かなかった。

 

「大丈夫か?え?ロングボトム、茶でも飲もう。お前の好きそうな本がある」

「……一緒に行くか?ネビル」

「いや、いいよ。ちょっと行ってくる」

 

 気楽に言うネビルを見送った。

 いやに『磔の呪文』に怯えていたネビルが気になってベガに話を聞くも、「誰にだって話したくねえ過去があるだろ。あいつが喋ってくれるのを待とう」という曖昧な返事しか貰えなかった。

 あんな授業の後でもケロリとしているネロから手を振られると、シェリー達は昼ご飯を食べながら次の授業の準備をした。

 昼食はカレーライス。イギリスでは国民食として広まっているカレーだが、どうやら日本でも好まれているそうで、「久しぶりの白米だ!」とマホウトコロの生徒達が嬉しそうにがっついていた。本来のインド式カレーではなく、英国式のシチューのような洋風カレーが東洋に伝わっているのだから歴史って不思議だ。

 次の授業はハッフルパフと合同の『薬草学』。扱っている植物のレベルが高いとボーバトンの生徒は驚いており、ホグワーツの生徒を少し良い気にさせていた。

 

「ああ、じゃあ、ハッフルパフからはセドリックが立候補するんだね」

「そうなんだ!もし代表選手に選ばれたら皆んなで応援するね!」

「セドリックかぁ〜…」

「ロン?クィディッチのあれこれを引きずらないの。もう。実際に戦ったシェリーが何とも思ってないから良いじゃないの」

「はは、まあ気持ちは分からなくもないけれど、是非応援してくれると助かるよ」

 

 ホグワーツからは誰が出るのだろう、と議論し合う。セドリックはほぼ確定としてクィディッチでキャプテンを務めるはずだったアンジェリーナも候補に上がるか。フリントは……選ばれるのかあれ。

 頭脳と肉体と勇敢さとなると、どうしてもクィディッチ選手ばかりが候補に上がる。そういう意味ではダームストラングのウッドは非常に有利と言えるだろう。

 

「あ、そうそう。ボーバトンからは誰が立候補してるか知ってる?」

「ああ。あれ見てみろよ。愛想を振りまいてるわけでもないのに、男子達を魅了していいように使ってる女子がいるだろう?」

「あのシルバーブロンドの女子?」

「あれはフラー・デラクールって言って、ボーバトンのリーダーみたいな人なんだ。カリスマ性も実力も確かだよ。

 で、彼女にくっついてるのがフロランタン姉妹。双子の姉妹さ。彼女達もフランスじゃ指折りの魔法使いらしいよ。えーと、姉がブルーベリーで妹がローズベリー……だっけ?」

「違いますよ、姉がローズベリーで妹がブルーベリーです」

 

 ジャスティンの勘違いをアーニーが訂正した。……たしかに、フレッド・ジョージ並にそっくりな二人だ。髪型で違いをつけているらしい。

 ボーバトンのカースト最上位に君臨しているのが彼女達で、ホグワーツでもファンクラブができたというのだから驚きだ。

 スプラウトの薬草学で『腫れ草』の膿を取り出したり、トレローニーの占い学で宿題がたんまり出てロンがウンザリした顔をしていたりして時が過ぎた。

 

「ね、ね。シェリーちゃんは好きな子とかいないの?」

 

 いかにも興味津々、といった風にタマモが尋ねてきた。シェリーもいっぱしの女子である。それがどういう意味で聞かれたかくらいは分かっている。

 が。

「うーん、恋愛的に好きな人もいないし、自分がそういう事をするって想像も全然沸かないなぁ」

 自己評価の低すぎる彼女がそういったものに無縁なのもまた事実だった。興味がないわけではない。むしろある。が、そこに自分を結びつける事はなかった。

 

「タマモはどうなの?ハヤトかコージローとそういう関係になったりとか」

「え?ないない。あの二人は馬鹿だし」

「なによ、タマモも浮ついた話があるわけじゃないのね」

 

 ラベンダーは残念そうな声を出した。

 十七歳になる娘が浮ついた話の一つもないというのは、彼女からしてみればあり得ない事なのだろう。

 

「あ。そうだシェリー、ベガは?」

「ベガ?」

「あいつは歳上好きかと思ってたんだけど案外同年代もイケるみたいよ。あいつと付き合ったりとかはないの?あんた達、一緒に行動する事も多いみたいだしさ」

「いやあ、私なんかじゃあベガから相手にされたいよ」

「そうかしら?まあ確かに、全然タイプの違う二人だと思うけどさ」

「あ、そうだ聞いて皆んな!実はハーマイオニーがね……」

「シェリーッ!?」

 

 夜遅くまでガールズトークに華を咲かせていたシェリー達は、翌日、寝ぼけ眼で大広間に向かう事になったのであった。

 道中、見知らぬ老人二人が生徒達の注目を集めていたが……、どこかで見たような気も……。

 

「えっ、フレッドとジョージ!?」

「ぜんぶお前のせいじゃ!」

「いーやお前が悪いんじゃ!」

「うっひゃひゃひゃ!見ろシェリー!この二人、老け薬で年齢線を誤魔化そうとしたらこのザマじゃ!ひゃっひゃっ!」

「ほっほっ。何だか面白いことになっておるのお」

 

 老人みたいな見た目の双子と、老人っぽい喋り方(サツマ訛りらしい)のハヤトのところに正真正銘の老人がやってきた。

 アルバス・ダンブルドアは悪戯が成功したような愉快な顔で双子を医務室に行くよう促した。……すっごいニヤけている。

 

「立候補できるのももう少しの期間だけじゃぞ。対抗試合へ名乗りを上げたい者は早めにのう」

「………あ!そういや立候補まだしとらんかったわ!忘れとった!!」

「あ!そういえば俺もだ!やべえ!」

「あんた達二人ともそんな理由で立候補してなかったの!?こっちはハヤトとコージローが参加を躊躇するレベルなんて、って葛藤してたのに……」

 

 タマモは何だか馬鹿らしくなったのか、羊皮紙と羽根ペン……ではなく、和紙と筆を取り出すとササッと自分の名前を書き上げる。

 ハヤトとコージローも同様に名前を走り書きすると、三人でゴブレットを囲むようにして立った。一緒に炎の中に紙を放り込むらしい。

 

「誰が選ばれても恨みっこ無しだぞ」

「そっちこそ、私だけ代表選手になっても代わってあげないからね」

「ハン、言いよるわ」

 

 軽口を叩き合いながら、ハヤト達は代表選手に立候補した。そこには、側から見ても分かる、確かな信頼があった。

 三人全員が自分が選ばれると信じているし、仲間達も選ばれると確信している。幼馴染というのもあるだろうが、彼達は数々の苦難を共に乗り越えてきたのだろう。

 時は過ぎ、ハロウィーン当日。

 とうとう五大魔法学校対抗試合の代表選手の発表の日がやってきた。

 来訪している生徒数は絞っているものの、四つもの魔法学校の生徒とホグワーツ生が一堂に会すると流石に圧巻だ。今日はそれに加えて魔法省の人間も何人か来ているようで、流石に収まりきらないと判断したのか『空間拡大呪文』が使われていた。

 ロンが照り焼きなる日本独自のソースがかかった料理を食べて舌鼓を打っていたり、ハーマイオニーが何やら『屋敷しもべ妖精福祉振興協会(Society for Promotion of Elfish Welfare)』なるバッジを持ってきて一波乱あったりしたが、ともあれ、とうとう発表の時間だ。

 ダンブルドアが立ち上がると、大人数の大広間は期待と注目で静かになった。

 

「さてさて、皆の諸君。食事をしたままで構わん、目だけ向けてくれんかの。炎のゴブレットが決定を下したようじゃ」

 

 ゴブレットの中で、蒼く揺蕩うように揺れていた炎が激しさを増し、薔薇色に燃え上がる。すると炎から射出されるように勢いよく三枚の紙が放り出されると、ダンブルドアの手元まで吸い込まれるようにやって来た。

 

「ダームストラングの代表選手は──ビクトール・クラム!ネロ・ダームストラング!リラ・ダームストラングの三名!!」

「………!よしっ!」

「行くぞ、リラ」

「えっ、まだヴォンゴレ食べてる途中……す、すみません兄さん、すぐ行きます」

 

 クラムは拳を硬く握ると、俄かに口角を釣り上げた。存外に熱い男らしい。

 ネロはこうなる事が分かっていたようにクールに立ち上がると、リラを引き摺って奥の部屋に消えて行く。

 道中、ダンテがバシバシとクラム達の肩を強く叩いているのが見えた。ブルガリアの英雄、そして自分の子供達が選ばれたのが嬉しいのだろう。

 再び炎が燃え上がる。渦を巻くように火炎が天井を舐めると、再び三枚の紙が放り出された。

 

「二校目、イルヴァーモーニー代表選手はバーニィ・レオンベルガー、サモエド・バーナード、マスティフ・ファンドランドの三名!!」

「イイイ────ハァ────ッ!!!」

「ヒャッホウ!」

「やったぜェ──ッ!」

 

 バーニィは祈るような姿勢から一転、飛び上がるとパフォーマンスにギターをかき鳴らした。バーニィ、サモエド、マスティフが選ばれたという事はザ・サーベラスのメンバーが全員出場するというわけだ。

 イルヴァーモーニーの生徒は熱狂したようにサーベラスコールを行う。彼達は常日頃からサーベラスの演奏に魅了された者達なのだ。

 炎は三校目の紙を吐いた。

 

「マホウトコロからは、サツマ・ハヤト!ミカグラ・タマモ!そして──フウマ・コージローッ!!」

「よっしゃああああ!!」

「やったね二人とも!」

「っはは、俺達なら当然だろう!」

 

 天に轟き、大広間中を震わせるほどの雄叫び。三人は笑顔で拳を合わせ、三人で出場出来たことに喜び合う。

 意外とノリの良いマホウトコロの学生達が三人に盛大な拍手を送ると、タマモは照れたように手を振り、ハヤトとコージローは大仰に腕を上げて応えた。それにまた学生達は湧いたのだった。

 炎が燃え盛る。次は、四校目だ。

 

「ボーバトンは──フラー・デラクール!ローズベリー・フロランタン、ブルーベリー・フロランタン!以上三名!」

「よっしゃあ!代表選手だぁ!」

「やったぁ!お姉様と一緒だぁ!」

「……ふふ。行きまーすよ、二人とも」

 

 嬉しそうに飛び跳ねる小柄な姉妹をどこか微笑ましい目で眺めつつ、フラーは高飛車に大広間を歩いていく。ハッフルパフどころか全ての寮から野太い歓声が上がっているあたり、フラー嬢はちゃっかり大勢の男子達を籠絡していたようだ。

 ダンブルドアと握手をすると、去り際に大広間に投げキッスを残していく。再び大広間が盛り上がった。

 そして、最後。

 我達がホグワーツの代表選手である。

 

「ホグワーツの代表選手は、セドリック・ディゴリーと……」

 

 そこまで言いかけた辺りで、ハッフルパフから割れんばかりの歓声が上がった。彼達の寮は少し地味というか、目立つ事が少なかった。馬鹿騒ぎ大好きのグリフィンドールや、リーダー適正の高い者が多いせいか意外と優秀な生徒の多いスリザリン。そして頭脳面で毎年素晴らしい成績を残すレイブンクローに埋もれがちだった。

 しかしハッフルパフは今年の主役の一人に選ばれた。それだけで、彼達にとってどれだけの救いがあったことか。勤勉で優しく、責任感に溢れたセドリックならば皆が応援する。

 ならば、残り二枠が誰であろうと文句は言わない──その筈だった。

 ダンブルドアは続きを言わない。

 硬直していた。ブルーの瞳が、その二枚の紙から離れなかった。

 ややあって、半ば呟くように、その選手達の名前を告げた。

 

 

 

 

 

「………シェリー・ポッター。ベガ・レストレンジ」

 

 

 

 

 

 シェリーは思わず持っていたスプーンを落とした。ベガは目を見開いていた。

 たっぷり数秒間固まって、大広間が再びざわめき出したところで、シェリーはようやく思考を取り戻した。

 何故?どうして私が?という、答えのない疑問が頭の中を飛び回る。

 フレッドとジョージが証明したように、年齢線のせいで四年生のシェリー達はどうやっても参加できない筈なのである。

 だがゴブレットは確かにシェリー達を選定した。これは一体、どういうことか。

 ベガがシェリーの手を掴み「行くぞ」と声をかけてくれなければ、きっと椅子と同化してしまったかのようにそこから動けなくなっていただろう。

 

「──ベガ?ベガ、これは一体……」

「俺にも分からねえ。だが、何が起きてもいいように腹ァ括っとけ」

 

 代表選手の集う控室までの道のりは、とてもとても長く感じた。身体中に、敵意と悪意の視線を浴びた。

 責められているような気がして、セドリックの表情をまともに見れなかった。

 その時のダンブルドアのブルーの瞳は、困惑と、そしてどこか恐怖に染まっているようだったが、その事に誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 シェリーとベガは選手控室の入り口で、居心地悪そうに立っていた。

 それもそうだ。

 部屋の中央では、ボーバトンの三人がシェリー達が不正を働いたと非難しており、マホウトコロの三人がそれに反論している真っ最中なのだから。

 マホウトコロの代表選手、サツマ・ハヤトとフウマ・コージローは頭に血が上りやすいタイプなのか、血管をびきびき言わせながら怒鳴っている。自分達のために怒ってくれているのは嬉しいが、少しヒートアップし過ぎな気もする。ミカグラ・タマモは彼達を宥めつつ、論理的な見解から擁護してくれていた。

 それに対するは、シェリー達と話した事もないフロランタン姉妹とフラー・デラクールだ。ローズベリー・フロランタンとブルーベリー・フロランタンは非難轟々で、シェリー達が代表なのが許せないといった様子だった。フラーは彼女達ほどヒートアップはしていないものの、時折口を開いてはハヤトとコージローの怒りに油を注いでいる。

 この口論を止めたいところだが、シェリーもベガも、ましてやセドリックも。不正の疑いのある彼達が何か言えば面倒な事になるのは目に見えていたので、何も言えずにいるのだった。

 

「どういうこと!?まだ十四歳の生徒が二人も代表選手に選ばれるなんて!」

「私達ごとき、四年生で充分だと判断したというわけなの!?侮辱だわ!」

「この子達は違います、そういう事を考えなしにするような人間じゃない!これはきっと何かの手違いで──」

「おっおー、なら証拠はありまーすか?その二人が無実だという証拠は」

「それは……」

「まーぁ、仮にあったとして。ズルをして参加しようとする程度のひーとに、私達が負けるとは思えませーんが」

「はぁん!?女ァ!貴様言わせておけば!誰がお前達なんかに負けるか!」

「いやコージローには言ってないと思う」

 

 挑発するかのような言いぶりに、ハヤトとコージローが顔を赤くした。……怒ってくれるのはありがたいが、必死すぎて逆に立場を危ぶめてる気がする。

 

 他の選手はといえば。

 

 クラムは腕を組んで事の成り行きを見守っていて、ネロはマイペースに砕けた姿勢で椅子に腰掛けている。リラはなんか蹲ってお菓子食べてる。ダームストラング側からの助けは期待できそうにない。

 バーニィはギターのチューニング中、サモエドとマスティフも楽器を弄っている。しかし時折シェリー達に向ける視線は厳しく、こちらも援護はまた期待できそうになかった。

 

「大方、上級生を拐かして自分の紙を入れてもらったんでしょ、穢らわしい。そこのレストレンジ君は結構なプレイボーイだと聞いてるしね」

「二ヶ月一緒にいればそいつの人となりも見えてくる!この二人はそういう事をする人間ではない!勿論そこのセドリックが何かしたわけでもない!そうだよな!?」

「うん、僕も保証する。これは何かの間違いだよ」

「セドリック……」

「ちょっち、いいすか」

 

 静観を決め込んでいたバーニィは、ふと手を上げて言った。皆の視線が彼女に集まるが、慣れているのか、意にも介していないようだった。

 

「シェリーっちとベガっちには悪いけど、君達が代表選手になるのはあーし達的には反対ッスねー。対抗試合と銘打ってはいるけれど、これは親善のための催しッスよ?ズルして選手になった疑いのある人達が試合に出たところで、ブーイングの嵐が出るだけッス。親睦も何もないッスよ」

「………それは、まあ……」

「つーか、対抗試合自体が七百年ぶりの祭典なんショ?そんな歴史ある行事に参加するってのは、それだけ大きな意味を持つじゃないッスか。互いのためにももっと相応しい人を選ぶべきッスよ。

 対抗試合に出るってのはそんな簡単な事じゃねえんスから」

 

 その言葉には重みがあった。

 アーティストとして活動してきたからか、彼女達には彼女達なりの責任感があるらしい。責任ゆえの、正論だ。

 

「んな話はしとらんわ!そもそもこいつ達は入れとらんのじゃから参加も何もないじゃろうが!話聞いてたんかボケ叩っ斬るぞきさん!あ!?」

「えっ」

「やめなさいハヤト!」

 

 と思ったら暴言のラッシュで切り返されていた。哀れな。

 ダンブルドアがやって来た。それに続く形で各校の校長達が入り、最後に対抗試合の関係者であるクラウチとバグマンが部屋の中へも雪崩れ込む。

 ダンブルドアはシェリーとベガの肩を掴んで、半ば威圧するように問い質す。

 

「炎のゴブレットに名前を入れたか!」

「い、いいえ」「入れてねえ」

「上級生の誰かに頼んだかね!」

「頼んでません」「してねえ」

「信じられませーん。だんぶりーどーるはこの二人を明らかに贔屓していまーす!そう、あの時引いた年齢線が間違っていた、そうに違いありませーん」

「オリンペ、そりゃなかろうて。こいつの年齢線は確かに正確だった、それはお前さんもそのドデカい眼で見たろう?」

 

 怒りに膨れるマダム・マクシームを鎮めたのは、イルヴァーモーニーの校長、セイラム・ウィリアムズだ。疑惑の目で見てはいるが、表立って責める事もない。あくまで彼は事態の解決を考えているようだ。

 

「ですが……」

「クラウチ、そして我が友バグマン。あんた達はこの対抗試合の審査員だ。二人の公正な意見を聞きてェな」

 このままでは水掛け論になるだけだと、ダンテは意見の取りまとめを促した。

 

「あぁ、それなんだが。ゴブレットに名前を入れた者は例外なく最後まで戦い抜かなければならない。一つの例外もなく、だ」

「シェリー・ポッターとベガ・レストレンジの名前が出てきた以上、この子達は魔法による拘束で試練をやり抜く義務が生じるんだ。途中棄権は認められない。本人の意思にかかわらずな」

 

 すなわち、二人が競技に参加するのは決定事項であり避けられない事なのだとクラウチは説明する。

 古代の魔法具『炎のゴブレット』は、契約を破った者に多大なるリスクを負わせる恐ろしい側面がある。怪我しようが欠損しようが息の根が止まるその瞬間まで契約が切れることはない。

 先には戦いか、死しかないのだ。

 

「都合の良いことに、そうなっとるな」

「!ムーディ!?」

 

 いつの間にか現れたムーディに、入り口近くにいたバグマンは殆ど腰を抜かした。あんな顔が近くにいたらそりゃびびる。

 

「そう、ポッターとレストレンジの小僧を殺したい輩にとって、非常に都合の良い展開になっておるのだ!」

「なんだと?この対抗試合に、闇の輩が絡んでいるというのか!?」

「わしからしてみれば何故それを真っ先に疑わないのかの方が疑問だがな!今回の対抗試合は安全装置をいくつもかけた、しかし奴達の執念と悪意は常にその上をいく、え?そうだろうが。そうだったろうが、クラウチ!」

「…………」

 

ムーディの熱を帯びた弁舌に、その場の誰もが押し黙る。

 世界五ヵ国の魔法学校を巻き込んだ対抗試合。そこに闇が絡んでいる、となれば、それはとても悪辣な発想に違いないのだ。

 シェリー・ポッターは、闇が蔓延る暗黒時代を変えた女の子。いわばこの時代の象徴なのだ。

 故にこそ、闇世界で生きる者達にとって最も排除したい存在でもある。ヴォルデモートに忠誠を誓っていた者や、闇にどっぷりの人間は殆どが彼女に深い怨みつらみを持っている筈だ。それくらいに特別。

 

「高度な『錯乱の呪文』を使い、ゴブレットを騙したのだろう。アルバス、今年も闇祓いを呼んでるようだがきっと人手が必要になる、アレン隊を呼んでおけ!ゴブレットはチャリタリに調べさせよう」

「あいわかった」

「しかし、『選ばれた女の子』のシェリーは分かるが……ベガまで?彼は、確かに奴達からしたら疎ましい存在かもしれんが、そこまで重要視するほどか?」

「あのデネブ・レストレンジの子供だぞ」

「!?あのデネブの!?」

「子供なーんていたんでーすか!?」

「嘘だろ、オイッ!あんな奴の子供とは思えないくらいまともだ!」

(親父はどういう認識なんだ……)

 

 何やらそれぞれデネブに並々ならぬ感情を抱いているようだったが、ひとまず、シェリーとベガが闇の勢力に狙われているのだとは認識してもらえた。

 

「ううん、疑問が残りますなぁ。そもそも炎のゴブレットに紙を入れられるのは一七歳以上の生徒だけですやろ?けれど二人もそれ以下の子の名前がゴブレットから出るのはおかしない?」

「おそらくだが、ゴブレットの設定を弄ったのだろうよ。ホグワーツの代表選手枠を一人に設定し、もう一つ、シェリーとベガしか生徒がいない架空の学校を創った。すると自動的に、ホグワーツから一人、架空の学校からシェリーとベガが選ばれるって寸法だ」

「成程ねェ。ダンテはんは色んな事を知っとりますなぁ。紙を入れた張本人みたいな言い方やぁ」

「含みがある言い方だが、褒め言葉として受け取っておこう」

 

 マホウトコロの校長、オダ・ナギノはピリピリした空間で異常な程のほほんとした口調で己の疑問を口にする。彼女は……どういう考えなのかよく分からない。ダンテもまた何かを思案しているようだったが、感情は読めなかった。

 

「……成程ね。俺が出場させられた理由が分からなかったが、附に落ちた。

 セドリック、ごめんな。俺達が出場する羽目になっちまって、一番とばっちりを喰らってるのはお前だ」

「いや、そんな……仕方ないさ」

「そう言ってもらえるとありがてえ、が、シェリー!お前はセドリックの脚を引っ張るつもりはないだろ?」

「え?も、もちろん」

「俺もそのつもりだ。……他の連中にとっちゃ、四年生の俺達がいるホグワーツは楽勝だなんて思ってるかもしれねえが!」

 

 言うと、ベガは椅子に飛び乗った。

 

「な、なにを──」

「この中に俺達を嵌めた奴がいるんなら、聞いとけ!俺はお前の思い通りになる気はさらさらねえぞ!受けて立ってやる!

 試練だろうが何だろうが、俺にできねえ事なんざねえんだよ!!」

「……、何だと?」

「お前の思惑に敢えて乗ってやる!ここにいる奴達を全員倒して、俺達はこの対抗試合で優勝してやるよ!

 ──そして俺は、この試合で!ひとまず世界最強の学生になってやる!!」

 

 挑発行為。

 収まった筈の場が再び荒れた。

 『お前達を全員倒すぞ』という物言いが彼達の譲れないプライドに障ったのか、彼達は早口で捲し立てた。

 だがそれでも、ベガは怯まない。

 瞳の炎が燃え上がる。

 彼は挑戦者として、最強の名を追い求めている。『皆んなで強くなる』ために。皆と強くなるための手段として、彼は最強を目指す。

 

「悪ィ、二人とも。せっかくの対抗試合だってのに、急にこんな事に巻き込まれてほんと散々だと思う。けど、どうか俺の我儘に付き合ってくれ。

 ──俺、この試合で優勝してえ」

 

 いつも巻き込まれるだけだった彼はここで自ら苦難の道に身を投じた。

 ──意図せずして苦難に巻き込まれるか、苦難と知っていながら立ち向かうかは全く違う事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【代表選手紹介】

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ホグワーツ魔法・魔術学校

 

◯シェリー・ポッター(Sherry Lily Potter)

主人公。射撃魔法と守護霊の呪文が特に得意で、早撃ちで先んじて攻撃するのがメイン戦法。

 

◯ベガ・レストレンジ(Vega Deneb Lestrange)

天才。火炎魔法全般と守護霊の呪文が得意で、相手の動きを読み反撃するカウンター戦法をとっている。

 

◯セドリック・ディゴリー(Cedric Diggory)

ハンサム顔の優等生。ハッフルパフの監督生でクィディッチではシーカーを務め、おまけに優しい性格の好青年。シャイ。

 

◯アルバス・ダンブルドア(Albus Percival Wulfric Brian Dumbledore)

ホグワーツ校長。

飄々としたジジイ。世界最強の魔法使いでかなりの策略家。自分すら駒の一部。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ダームストラング

 

◯ネロ・ダームストラング(Nero Darmstrang

ダンテの息子。目に隈がある。

プレイボーイで女好きだが、その内に秘めた実力は本物。

 

◯リラ・ダームストラング(Lira Darmstrang

ダンテの娘。目に隈がある。

内気でおどおどとした性格で、常にネロの背後に隠れている。意外とよく食べる。

 

◯ビクトール・クラム(Viktor Klum)

今世紀最高のシーカーと評される、プロのクィディッチ選手。プレッシャーには動じない性格だったが、最近はネロとリラに頭を悩まされる事が多くなった。

 

◯ダンテ・ダームストラング(Dante Darmstrang)

ダームストラング校長。

ダンテ本人。目に隈がある。

創始者の血を引いており、その手腕で北方魔法界をのし上がった人物。その豪快なやり口で黒髭の異名がつけられた。純血。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

マホウトコロ

 

◯サツマ・ハヤト(Satsuma Hayato)

ボサボサ頭の戦闘馬鹿。義理堅く情に厚いが、言動が物騒。

 

◯フウマ・コージロー(Fuma kojiro)

サラサラ髪の戦闘馬鹿その2。実家が裕福なお坊ちゃんらしい。風魔小太郎の子孫。

 

◯ミカグラ・タマモ(Mikagura Tamamo)

優等生で委員長タイプ。ハヤトとコージローとは幼馴染で、彼達にいつも手を焼かされている。ちょっと男子ー!

 

◯オダ・ナギノ(Oda Nagino)

マホウトコロ校長。

おっとりした性格で、常に微笑を浮かべているが……。織田信長の子孫。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ボーバトン

 

◯フラー・デラクール(Fleur Delacour)

彼女の周りでは殆どの人間が添え物に過ぎないと言われる程の絶世の美女。ヴィーラの血を引いている。フロランタン姉妹は彼女の数少ない大切な友人。

 

◯ローズベリー・フロランタン(Roseberry Florentin)

姉の方。劣悪な家庭環境で育ったため双子の妹と尊敬するフラーを何より大切にしている。

 

◯ブルーベリー・フロランタン(blueberry Florentin)

妹の方。姉妹間の仲は極めて良好で、ローズ、ブルーの愛称で呼び合う仲。知らない人間には少し攻撃的な一面も。

 

◯オリンペ・マクシーム(Olympic maxim)

ボーバトン校長。

恐ろしく身長の高い女性。

魔法生物飼育学の権威で、生徒想い。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

イルヴァーモーニー

 

◯バーニィ・レオンベルガー(Berny Leonberger)

派手なメイクの女性。音楽ユニット『ザ・サーベラス』のリーダーで、ボーカルとギターを担当している。

 

◯サモエド・バーナード(Samoyed Bernard)

奇抜な髪のひょろ長い男。

ベースとコーラス担当。

 

◯マスティフ・ファンドランド(Mastiff Fundland)

個性的なメイクの男性。

ドラム担当。

 

◯セイラム・ウィリアムズ(Salem Williams)

イルヴァーモーニー校長。

小太りの黒人男性。かつては杖ではなく言葉で人をねじ伏せる弁論家だった。

 

 

 




更新遅れたの九割挿絵のせい。

最近ペンとスマホの持ちすぎとパソコンの使いすぎで腕が痛くなってる。これが……腱鞘炎か……!へへ、ざまあねえぜ……!
と思ってたら筋肉に詳しい友人から全然大丈夫との評価を受けました。やったぜ!
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