シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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お待たせー!!
とりあえずハリーの誕生日まで書きまくるぜぃや!


4.FIRST STAGE DRAGON

 水曜日。

 代表選手達は、試合に待機するため設置されたテントで各々集中していた。

 特にチーム戦という事もあり、他の学校の代表選手と話はせず、学校ごとに固まり戦略やらを相談しているらしい。

 マホウトコロは相変わらずで、タマモが集中している横で誰が一番成果を上げられるかでハヤトとコージローが張り合っている。何というか、見上げた精神力だ。

 ボーバトンの三人娘は緊張を紛らわす為か、ローズベリーとブルーベリーがいつも通り話をしている横でフラーが微笑ましく見つめていた。

 ダームストラングのテーブルでは、備え付けのお菓子をぼりぼり食べるリラを横目に、ネロとクラムがぶつぶつと話し合っている。

 イルヴァーモーニーは気持ちを沈める事に専念しているのか、楽器と杖の手入れを入念に行っているようだ。

 

「…………」

「…………」

(………うう、緊張するなあ……あ、このお菓子美味しい)

 

 ホグワーツは、なんか気まずかった。

 互いに緊張しているのもあるだろうが、どこか壁があるというか、ぎこちない。

 この空気に気付いてないのはド天然のシェリーだけだ。そのシェリーもシェリーで緊張に悩まされているわけだが……。

 

「シェリー!セドリック!…あとベガ!」

「!ロン、ハーマイオニー!」

「俺の扱い酷くねえ?」

 

 テントの隙間から彼達を呼ぶのは、ハーマイオニーとロンだ。

 ロンはクィディッチ関連でセドリックには複雑な気持ちがあるのか、微妙な視線を向けていた。……ちょっと困り顔のセドリックもハンサムである。

 

「ベガ、ネビルから伝言だよ。『棄権したって誰も笑わないよ』、だって」

「誰がするか」

「セドリック、シェリーを頼むわね。私達の大事な友達なの」

「ああ、分かってるさ」

「それとチョウから伝言。無事に帰って来ないと承知しないから、だって」

「………あ、ああ。分かってるさ」

 

 尻に敷かれているらしい。

 言うと、ロンは握った手でポンと二人の胸を叩く。頼んだぞ、という合図らしい。

 

「シェリー!」

「わっ」

「ごめんね、側にいられなくて。今年は僕達は頑張れって言う事しかできない……」

「……ううん、大丈夫。私、頑張るね。ありがとう、二人とも」

 

 抱きつく親友二人に、シェリーは笑顔を返した。いつも通りの優しい笑顔。彼女の普段の笑顔だ。

 

(…………?)

 

 しかし、シェリーの隣に立っていたベガだけはその笑みがどこか嘘臭く思えた。

 若干の違和感。

 何か気になるものを感じたが、目の眩むようなフラッシュで疑問も吹き飛んだ。睨むと、派手な装飾のローブを着た中年の魔女がカメラマンと共に立っている。

 リータ・スキーターだ。

 先日の取材の時はどこかビクビクしている様子だったが、今日はいやにテンションが高い。

 

「あーら可愛いざんす!実にロマンティックざんすねー!シェリーを巡ってベガとセドリックがドロドロの関係かと思いきや、実はそこの坊やもシェリーを狙ってるざんすか!?そこの小娘も巻き込んで、これが本当の五大魔法学校対抗試合ってワケざんすかー!?」

(ウゼェ……)

 

 何があったんだコイツ。

 白けた視線にも動じず『自動速記羽ペンQQQ』を走らせるスキーターだが、ダームストラングのテーブルを見てピシリと顔を凍らせる。

 いや、正確にはネロ・ダームストラングの方を見て、だが。

 

「ヒィッ!?ネ、ネロ!?何でここに!」

「いや代表選手なんだから俺がいるのは当たり前だロ……」

「言われてみればそうざんす!?」

「ヴぉく達は作戦会議中だ。邪魔をするなら出て行ってもらおうか」

(………お菓子美味しい………)

「ほ、ほほほ……失礼したざんす……」

 

 妙に聞き分けの良いスキーターと入れ違いで、クラウチがテントの中に入る。場がシンと静まると、満足そうにクラウチは頷いた。厳格な場が好きらしい。

 ロンとハーマイオニーはいつの間にかテントの外だ。見つかれば小言を喰らうだろうと思ったのだろうか。

 

「全員揃っているようだな。では競技内容を伝える!競技場に鎮座するドラゴンから金の卵を奪う、ただそれだけだ!」

 

 十五人の代表選手の中に緊張が走る。

 シンプルにして単純明快。だが、だからこそ難しいこの競技。

 何せ相手はあのドラゴンだ。

 魔法生物界の頂点に鎮座するような規格外の化物と対峙して、僅かにも恐怖しない方がおかしい。

 ──だが。

 それ以上に闘志が、湧き上がる。

 

「ドラゴンは凶暴だ!なにせ金の卵を自分の子供と思い込んでいるのだからな!子を守るためには何でもする!しかし諸君達はその脅威と立ち向かわなければならん!

 闘技場には闇祓いがいる!だが助けなど期待するな!頼れるのは自分と仲間のみと思え!

 勝利への渇望も、優勝への想いも!負ければそこで終わりだ!敗者は捻じ伏せられる!栄光を得たくば勝て!!立ち塞がる者は排除せよ!!勝利はその先にある!!

 ──若人よ!!戦え!!」

 

 お固い役人とばかり思っていたクラウチの熱い演説に、静かに、そして確かに情熱の炎が躍動した。

 

「ただ今より!!五大魔法学校対抗試合、第一の試練を始める!!」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「ネビルーッ」

「ロン!ハーマイオニー!こっちこっち。席取ってあるよ」

「ありがと!」

 

 グリフィンドールの紅一色に染まった、友人達のいる観客席に二人は腰掛けた。ポップコーンのような魔法界のお菓子、爆発ボンボンをネビルに渡す。手掴みで食べられるので観戦にはもってこいで、バターを塗ると美味いのだ。

 

『さァーいよいよ始まります五大魔法学校対抗試合!実況生活六年!本日も実況して参りますリー・ジョーダンと!』

『解説のフリットウィックです、どうも』

『さて初戦は抽選の結果マホウトコロになりましたが、彼達はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか!』

『ニホンの魔法は独自の進化を遂げていると聞きますからね、私も楽しみです』

 

 闘技場に現れる三つの影を見て、マホウトコロとグリフィンドールの観客席が盛り上がった。

 少し思考が物騒なきらいはあるが、馬鹿騒ぎが好きで派手好きな彼達とは気が合うのだ。ハヤトは雄叫びを上げ、コージローが右手を上げる。タマモは照れ笑いしながら観客に手を振った。

 その騒ぎにも動じず、ドラゴンはつまならさそうに鼻を鳴らした。種族名、『ウェールズ・グリーン種』。英国ウェールズを原産とするドラゴンで、普段は羊や哺乳類を好んで食べる大人しい性格だ。

 ドラゴンの中では比較的相手しやすい部類といえよう。

 

『ですがあの種は六千年の時を経て復活した『古代種』!正式名称はウェールズ・グリーン古代種といい、現在確認されている中で最古のドラゴンなのです!』

『いやそんな貴重な種と戦わせていいんですか!』

『獰猛にして残忍!古代の驚異に東洋のサムライ達がどう立ち向かっていくのか楽しみです!』

 

 妙に熱の入ったフリットウィックの解説に苦笑する。見ると、マホウトコロの校長のオダ・ナギノにちらちらと視線を送っている光景があった。

 フリットウィックと同様、ナギノもまた小鬼か何かの血を引いているともっぱらの噂だが、そこで何か感じるところがあったのだろうか?今の彼は、彼女の気を引きたいように見える。

 さて、マホウトコロの代表選手達は一番手ということでさぞ緊張しているだろう…と思いきや、いつもの調子で、まるで散歩でもしているみたいな様子で入場した。

 

「俺達が一番手とはな」

「卵を取れ、だって。どうする?」

「何はともあれ、まずはドラゴンを倒さんといかんじゃろ」

「そうだな。とりあえず、あのトカゲ野郎が邪魔だ」

「うんうん。邪魔だねあいつ」

 

 適当な相槌、形だけの作戦会議。

 彼達にとって作戦など意味はない。

 結論は既に決まっている。

 

「「「──ぶち殺してやる!!」」」

「グギャ………!?」

 

 あまりにもシンプルすぎる答えに、さしものドラゴンも目を見開いた。

 ギラついた眼光に恐怖すら覚える。

 弾けるようにマホウトコロのメンバー全員が走り出すと、殺気全開でドラゴンに向かっていく。

 三人の中では比較的知的なタマモでさえ極悪な顔を浮かべているのだ、密かに彼女のことを慕っていた男子学生は泣いた。

 全員が脳筋魔法使い。

 マホウトコロの学生は──全員が猪突猛進、一騎当千の戦士達なのだ!

 その殺気に当てられ古代からの眠りから覚めたウェールズ・グリーン種は、闘争本能のままに豪快に爪を振るう。向かう先は──コージローだ。

 

「流るる黒は墨となり、切り裂く黒は柳となる」

 

 コージローは動じることなく詠唱。

 歌でも歌っているかのような、独特なリズムの短文詠唱を行う。だがグリーン種の爪はそこまで迫っている。如何な魔法を唱えたところでもう間に合わない──

──という、観客の不安をかき消すような出来事が起きた。

 確かに爪はコージローを引き裂いた。

 引き裂いたが……ぶち撒けられたのは血ではなく、真っ黒い墨のような何か。

 は?と驚く暇もなく、墨は姿形を変え、まるで空中に文字でも書いてるみたいに自在に空を飛び回り、グリーン種の硬質な皮膚の上に飛び乗ると再びコージローの姿に戻り、魔法の刃で斬りつけた。

 

『あ、あれは……あの魔法は何だ!?』

『おそらく、姿現しの亜種です!この闘技場では全ての魔法を使っていいルールですが、まさかあんな魔法が見られるなんて!』

 

 姿現しは、自分が念じたところに瞬間移動できる便利な魔法として有名だ。

 しかしその利便性故に代償は大きく、連発すると瞬間移動の負荷で身体に異常をきたす。そして隙も大きいので戦いには向かない呪文……の筈だ。

 だが、コージローは事もなげに姿現しを連発してみせる。おそらく何かしらの仕掛けがあるのだろうが、きっと聞いても求める答えは返ってこないだろう。

『え?あの魔法はどういう仕組みかって?んー、俺にも分からん!』

 きっとこういう答えが返ってくる。

 

「よく分からないけど……でも、ドラゴンの攻撃が全く効いてない!すげえっ!」

「ええ、本当に凄い……凄いけど、あのままじゃ火力不足だわ!あの鎧みたいな皮膚を破るには、もっと、もっとパワーがないと──」

「グギャアアアアアア!!?」

「………えっ?」

 

 ハーマイオニーは惚けた声を出した。

 細長い魔力がドラゴンに被弾すると同時に、大きな音を立てて爆発する。

 あれは──矢だ。

 魔力がふんだんに込められた、矢。

 風を切り裂いて、放たれた何本もの魔法の矢がドラゴンを襲っているのだ。

──では、その矢を放っているのは誰だ?

 視線を動かすと、またしても信じ難い光景が入ってくる。

 紅の鎧兜を身に纏う、金色の狐。

 突如として出現した謎の狐が、虚空より弓矢を取り出し、矢を番えて遠距離から放っているのだ。

 あれは明らかに魔法生物の類。ニホンの妖怪か何かだろう。代表選手の誰かが呼びだしたのか?

 一体、誰が──?

 

「いや……違う。あの狐は突然呼び出されたわけじゃない。僕は見たんだ」

「見たって、何をさ」

「彼女が変身するところを、さ。タマモがあの狐に変身したんだよ!」

「な───」

 

 有り得ない話ではない。

 現にハーマイオニー達は去年、人の身でありながら異形に変身する例をいくつも目撃しているのだから。

 シリウスやペティグリューのように、経験を積んだ魔法使いだけができる究極の変身術、『動物もどき』。

 コルダやルーピン、グレイバックなどの別の姿に変身できる種族、『狼人間』。

 彼女もまた、それらに類する力を持った少女──ということだ。

 『半妖』。

 人に化けることのできる妖怪を親に持つケースは、ニホンでは珍しくもない。

 ミカグラ・タマモはおそらく、妖狐を親に持つ種族なのだ。

 

「妖狐は膨大な魔力を持つ種族と聞くけれど、きっとタマモは狐に変身して、その魔力を矢という形で放出してるんだわ」

「ああいう、違う生物に変身できるタイプの魔法使いは爪や牙を使った肉弾戦ばかりするものだと思っていたけれど……タマモは遠距離タイプってわけか!」

 

 距離を置き攻撃することに長けた弓兵。

 彼女は狐となってもその獰猛な双眸を引っ込めることはなかった。

──地獄に来つ寝よ。

 彼女の容赦なき攻めは、そう語っているようにも思えた。

 コージローの撹乱、タマモの弓矢。

 その一風変わった魔法に観客達は驚き、そして彼の存在を忘れていた。

 サツマ・ハヤト。

 死の冠を戴く、臨界極めし戦闘者。

 彼がドラゴンの背に立っていたのに気付いたのは、突如として何十もの傷がつけられていった時からだ。

 

「面白いモン見せちゃるぜ」

 

 獰猛な笑みを貼り付けたハヤトに、ドラゴンどころか観客席までもが身震いした。

 杖に込められた魔力は濃く、他の全ての魔力の追随を許さないほどに濃厚だ。

 あれに触れれば、きっとどんなものでも両断されてしまうだろう──という予想通り、尻尾がサイコロステーキのようにカットされ、地面に散らばった。

 しかし驚くべきはそこではない。

 血の雨に打たれるハヤトの両手に、杖がそれぞれ握られていたのだ。

 二本ある。

 杖が二本ある!

 

『──あ、あれは!私も見るのは初めてです!膨大な量の魔力と生命力、そして体質があって初めてできる芸当!

 二刀流、ならぬ、二“杖”流使い!!』

 

 ハッタリではない。二本同時に杖を使い、そして魔法を放っている。二振りの魔力の刃を状況に応じて使い分け、変幻自在の攻撃で観客を湧かせている!

 火炎の如き古代竜の猛攻は、それ以上の、獄炎とも言うべき剣で相殺される。

 およそ華やかさとはかけ離れた、強引な攻め。華美な響きなどある筈もない。

 けれどその、道理も何もない乱雑な攻撃が人々を血沸き肉踊らせているのには違いなかった。

 

「おそらくは、世界でたった一人の……、杖を二本使う魔法使いなんだ!!」

 

 東の国ニホンにおいて、魔法族によるマグルの差別は殆ど無いに等しい。

 そもそもニホンの魔法族は高名な武家や妖怪など、極めて特殊な血を持っている者が多いからだ。様々な血が混ざり合い、多種多様な独自の文化が形成されているので、マグルの血がどうこうは今更大した問題ではないのだ。

 コージローは先祖代々伝わる純血の血を継いでいるのを誇りとしているし、タマモも半妖であることにコンプレックスを抱いているわけではない。

 さて、その中にあって、ハヤトの家は極めて平凡な家系であり、雑種とも言うべき普通の家柄だった。

 

「だがそんな普通の家系に生まれたハヤトは誰よりも異端だった」

「膨大な魔力、杖を二つ持てる器量。おかしいこと尽くしだ」

「あと性格もおかしいし」

「さて、西洋の竜よ!お前はこのサツマの殺戮武人共を食い切れるか……!?」

 

 たった三人で竜を屠る姿は、寝物語に聞く化物狩りそのもの。源頼光の鬼退治を彷彿とされる英雄譚を直に目の当たりにしている感覚だった。

 古代竜が絶命した後で、血に塗れながらゆるりと卵を取る姿は観客を沸かせるとともに畏怖させた。三人の狂戦士の姿を見て誰もが思ったものだ。

 

 『ニホンは狂っている』、と。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 コルダ・マルフォイは、厳かに入場する彼女達に密かに注目していた。

 一点の穢れもなき美貌のフラー・デラクールと、ローズベリーとブルーベリーのフロランタン姉妹。

 対抗試合の中で唯一、女性だけで固められたチーム。それが、ボーバトンだった。

 

「かのフラー・デラクールの戦いを、生で見られる日が来るなんて……夢にも思っていませんでした」

「ん?コルダ、デラクールのことを知っていたのか?」

「ええ、お兄様。あくまで噂程度ですが。デラクールは、入学当初から奇跡のような美しさを持つ少女として有名でした。けれど、それを妬む人間もいて、女子からのいじめに遭っていたそうなんです」

「………生々しい話だな」

「けれど、彼女は元来持っていたカリスマと統率力でボーバトンの女王として君臨するようになった。……そんな彼女がどんな風に戦うのか、興味があって」

 

 コルダ・マルフォイも女子ウケはあまりよろしくない。何せ、スリザリン内では人気のドラコにべったりで、彼に擦り寄ろうとする女子と何度も対立しているからだ。

 特にパンジー・パーキンソンなどとは犬猿の仲である。同じスリザリンなのに。

 人狼であるコルダが簡単に人に心を許せないというのもあるだろうが、ともかく、そういった事情から彼女はフラーに一方的にシンパシーのようなものを感じていた。

 

『ああ──ッ!チャイニーズ・ファイヤーボール種の火炎攻撃!これは直撃したら危ないぞォ──ッ!』

「ッ!ここからでも熱気を感じる……!」

 

 長大な火炎は、闘技場を焼き尽くさんとするばかりに燃え広がっていく。名前通り火炎攻撃に特化した、ファイヤーボール種の十八番攻撃。

 けれども涼しげな顔で、フラーはフロランタン姉妹を担ぎ上げ、炎を大きく跳躍して回避した。

 ……何を言っているのか分からないだろうが、事実そうなのだから仕方がない。

 

「と、飛んでる……」

 

 フラーには羽根が生えていた。

 先程までは決してなかった羽根が六枚、まるで天使のように身体から伸びていた。

 しかして羽ばたいているわけでも、滑空しているわけでもなく、まるで宙に浮かんでいるように──あるいは立っているかのような優雅さで、彼女は微笑んだ。

 その姿は美しいの一言に尽きる。

 

「──魔法生物ヴィーラとの混血って噂は本当だったんだ!」

 

 彼女もまた、タマモと同じように魔法生物の血を引く女性。

 ヴィーラを祖母に持つ魔法使いなのだ。

 シルバーブロンドの髪を持ち、白亜の肌は月のように輝く。何をしても、何をしなくても男を誘惑することができる生物。

──そして、怒り狂うと半鳥人のような姿へと変貌する魔法生物でもある。

 フラーはその力をコントロールして、まるで天使のような神々しい姿へと変身することができるのだろう。

 

「わたーしに牙を剥いた愚かしさ、教えてあげなさーい。ローズ、ブルー」

「?お姉様、牙は剥いてないよ。あいつは炎で攻撃してきたし」

「……何でもいいでーす。あのトカゲを懲らしめてやりましょう」

「かしこまり!」

 

 言うと、空中に何百もの羽根でできた足場が形成される。フロランタン姉妹はそれに飛び乗ると、ドラゴン目掛けて一直線に走り出す。

 しかし相手も竜の端くれ、矜恃というものがある。簡単にはやられまいと、灼熱の火炎を再度吐き出した。

 羽根がざわめく。

 フラーが操る羽根が空中を飛び回る。並の箒程度のスピードはあるだろうか?怒って単調な攻撃になっている竜相手には、十分すぎるほどの速さだ。

 

「「──フロース・オーキデウス、大輪の花よ!」」

 

 フロランタン姉妹は、奇しくも同時に魔法を放っていた。空中に咲き乱れる色とりどりの花。仮にも戦場に似つかわしくない光景だったが、これは決して場を和ませる魔法などではない。

 

「──そうか、匂い!花の匂いに釣られたドラゴンの動きを誘導してるんです!」

「本当だ、あの巨体がいいように動かされている……!」

 

 そして、花は陽動だけでなく、間接的にだが攻撃をも兼ねていた。

 大輪の花の中に隠れ潜んでいたフラーが『結膜炎の呪い』を放ち、そして同じく花に隠れていたブルーがその魔力を反転させドラゴンの瞳に命中させる。

 ファイヤーボール種はもがき苦しむが、肝心の相手は何処にいるか分からない。それも当然、大量の花が視界を覆っているのだから。

 ならば火炎で周囲を一掃──をしようとしたが、僅かに残った防衛本能が、その行動を妨げていた。ここで見境なく炎を放てば、卵も燃えてしまう、と。

 結局、ドラゴンは中途半端な量の炎を吐き出すに留まった。──不幸なことに、その炎の先にたまたま卵が置いてあり、表面を少し焦がしてしまったのだが。

 

(けれど、試合運び自体は悪くなかった。花魔法もヴィーラの羽根も、炎主体のファイヤーボール種相手だと相性が悪い。

 それを技術と発想でひっくり返したのはひとえに彼女達の地力があってこそだ。

──すごいなあ……)

 

 コルダは内心、敬意を払っていた。

 ボーバトンの女傑達に。

 美しくも強かな彼女達は、同じ女としてコルダに畏敬の念を抱かせた。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 チャリタリ・テナは競技場の警備にやって来ていた。

 普段は様々な凶悪犯罪者を追っている彼女だが、ムーディーの鶴の一声により急遽五大魔法学校対抗試合の警備を任されることになったのだ。

 罠や魔道具の扱いに優れる彼女は、こうした会場の警備に適任だ。後の先を取れる人物としてこれ以上の人材はいるまい。

 

(……丁度、ダームストラングに気になる代表選手もいたしね)

 

 かつかつと軍靴を鳴らして入場するは、ダームストラングの英雄、ビクトール・クラム。試合を気合を高めているようだ。

 まだ学生の身でありながら、彼の精神力は感服する。先のワールドカップでは闇祓いに勝るとも劣らない不屈の精神力を見せつけた。

 ……そんな彼だが、隣を歩くネロ・ダームストラングのちょっかいに苛立っているように見えるのは、自分の見間違いだろうか?と、チャリタリは思う。

 

「なあビッキー、何だよさっきのタダならぬ視線は?あのハーマイオニーとかいう女に惚れてんのかい?教えろヨ、俺とお前の仲だろう?」

「………」

「お前がここのところずっと図書室に行ってたのも、お勉強するためじゃないだロ?狙ってるなら手伝ってやろうか」

「うるさい。黙れ」

 

 睨むクラムに、なおも挑発するかのような視線を送るネロ。

 ネロはチャリタリが代表選手の中で最も警戒している人物だ。二年前、急に職を辞したカルカロフ氏に代わって校長に就任したダンテ氏の息子。彼もまた、何かしらの闇に通じている可能性はある。

 それにしても。

 身長が一八〇センチを越えるクラムとネロが顔を突き合わせると、それはそれは凶悪な絵面になる。

 髭の生えた強面と、人でも殺しそうな眼の男達。誰も近寄りたくない組み合わせだが、リラは背中を丸めながらおずおずと間に入った。

 

「あ、あの……二人とも」

「何だリラ、俺はビクトールと話してる途中なんだが」

「黙れ!お前と話す義理はない」

「ドラゴン、こっち来てます……」

『……………』

 

 口喧嘩ばかりで中々攻撃してこないネロ達に痺れを切らしたのか、『ハンガリー・ホーンテール多頭種』は奇声を上げながらそこまで迫って来ていた。

 ちなみに、ホーンテール種は獰猛な種として有名だが、それが三つ首型の龍ともなるととても好戦的だ。血に飢えた、黒い蜥蜴のような顔の竜は、縦に瞳孔の開いた目を興奮で飛び出させている。

 悪魔のような形相だ。

 けれどもネロとクラムは動じず、つまらなさそうに溜息をつくと、各々、魔法を唱えた。

 

「『アクシオ、ファイアボルト』」

「『身代わり鴉』」

 クラムは呼び寄せた箒で早々にどこかに飛び去ってしまい、ネロは魔法で創り出した鴉をリラの肩にとまらせる。……防御か何かだろうか?

 しかし、連携も何もないスタンドアローンな戦い方だ、とチャリタリは思う。チームでの強さを重視する闇祓いの彼女からしたら尚更だ。

 というのも。

 あの三人、仲が悪いようなのである。

 クラムとネロは尚のこと、ネロの妹のリラも兄の言うことは絶対という感じだし、クラムとも大して話をするわけではない。

 互いにやり辛い関係を構築している。あのクラムが感情を露わにするなど、よほど仲が悪いのだろう。

 

『さーて我達がクラムは箒で回避!ダームストラングの兄妹は待ち構えて……って、オイオイオイ!このままじゃ噛み殺されるぞ!?逃げろォ──ッ!』

 

 直線上に向かってくるホーンテール種は大きく口を開く。捕食のためではなく、惨殺のために。

 それでも二人は動かない。

 盾の呪文を使う気配すらない。

 もしや、恐怖で身体が動かなくなっているのか!?と、チャリタリは救出のために杖を構えていつでも飛び出せる体勢になるが、気付いた。

 恐怖というには、あまりにもネロとリラの瞳は落ち着いていることに。

 ホーンテール種の二つの顎が、ネロとリラを噛み殺さんとして──

 

「……ふぅーっ。一瞬とはいえドラゴンに喰い殺されそうになるってのは、流石に良い気分じゃねえなあ」

「………、………。いったいなぁ……」

『むっ……無傷!?』

 

 ネロとリラは無傷。

 一滴の血も流してはいない。

 どころか、噛み付いたホーンテールの方が歯こぼれする始末。あり得ない。あの歯はとても硬く、噛みつく力だけなら全ドラゴン中最硬とも言われる硬度なのに。

 

「その……無駄ですよ、私の身体は特別性なので………すみません」

「今の俺にも、その攻撃は効かねえヨ」

 

 ごぎゃあああ、と、悲鳴とも怒りともつかないホーンテール種の咆哮。

 ドラゴンの言葉は分からないが、何を言っているかは分かる。『有り得ない、どうして』──と。

 無理もない。彼達を見た誰もが、その光景を信じられないのだから。

 これまでの代表選手は、ドラゴンの攻撃を躱すなり防ぐなりして掻い潜ってきた。それはドラゴンの攻撃が脅威で、一撃でも致命傷になるような破壊的なものだったからだ。

 だがあの兄妹はその前提をひっくり返してみせた。明らかに、異常だ。

 チャリタリは薄気味悪いものを感じて、彼達をより深く観察する。……おかしな所はすぐに見つかった。

 鴉だ。

 魔法で作られた黒い鴉が、リラの肩にとまっている。あれが今の攻撃を防いでみせた魔法のタネだろう。

 

「おいクラム、お前も『身代わり鴉』をリラにつけとけヨ。受けたダメージをリラが肩代わりしてくれる」

「俺にはそんなもの必要ない!」

「あっそ」

 

 ネロはつまらなさそうに溜息を吐くと、リラの肩に鴉をもう一匹とまらせた。

「ちょ、兄さん……」

「お前硬いんだから良いだロ?」

「いや別に良いんですけど……」

 

 今の会話をヒントに推理する。

 おそらく、あの鴉を媒体として、自分が受けたダメージをとまった相手に肩代わりさせるのだろう。

 例えばネロが刃物で切り裂かれたとしても、実際に切り裂かれるのは鴉がとまった別の誰かであり、ネロ本人は全くの無傷というわけだ。

 今の攻撃もそうやって防いだ。……しかしそれはそれで、更なる疑問が浮上する。

 

(あのリラとかいう子……二人分のダメージを喰らっていながら無傷って、一体どういうこと!?

 ネロのダメージ移転能力も十分危険だけれど、あの子の身体もどうなってるのよ)

 

 ネロの『攻撃を他人に肩代わりさせる』魔法はおそらく呪術の類いだろうが、それでもあんな攻撃を受けて平然としていられるのは常軌を逸している。

 そしてリラもまた、ホーンテール種の歯を通さぬ身体ときた。……まったくどうなっているのだ、この兄妹は。

 ネロがドラゴンに近付く。恐れをなしたか、びくり、と怯えたように竜は後退。けれどもネロはその歩みを止めない。

 十分近付いたところで、ネロは呟く。

 ぽつり、と一言。

 

「──『トニトルス、雷よ』」

 

 瞬間。ドラゴンの身体の中を、縦横無尽に電流が駆け巡った。

 蒼く光る雷は、竜の体内をいとも簡単に破壊しながら突き進む。思わず目を覆ってしまいたくなるほどの身勝手で強引な雷の蹂躙は、まるまる数十秒も続いた。

 えげつない、と思わざるを得ない。

 あれは内側から神経をズタズタにする類の魔術だ。

 込めた魔力はそこまで多くはないだろうが、ネロの巧みな魔力コントロールによりドラゴンの肉体を、内蔵を、余すことなく焼き尽くしたのだ。

 焼き焦がれ、断末魔と言わんばかりに凶声を上げ、ホーンテール種は倒れ伏す。

 ドラゴンが絶命したのを理解した観客はネロに喝采を上げ、それに気を良くしたネロはまるでショーの後のように観客席に深々とお辞儀をしてみせた。

 

「ドラゴンの丸焼き、一丁上がりっと」

「たかがトカゲ一匹に、随分と時間がかかったものだな、ネロ」

 涼しげな顔でクラムは地面に降り立つ。その手には卵が握られており、何とあの攻防の間に卵を奪ってみせたのだ。

「そっちこそ俺の影に隠れてこそこそ卵を取るだけの簡単な任務に、随分と手こずってたナ?ビッキー?」

「あ?」

「やるカ?」

「ふ、二人とも喧嘩は……」

 

 ネロとリラが囮になり、その隙にクラムが卵を奪う。単純な作戦だが、その結果は最良と言えるものだった。

 文句なしの最短記録。

 けれども、その異常性もまた、まざまざと見せつけられる結果となった。

 チャリタリは、ぞくり、と身震いする。

 あのダームストラングの兄妹は、一体、どういう経緯であんな力を手に入れたというのだ──?

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 バーニィ・レオンベルガーは、闘技場に入るなりげんなりとした顔をした。

 

「うわ、本当にドラゴンだ……」

 

 クラウチに聞いてはいたが、いざ目の当たりにすると違う感情も芽生えるというものだ。

 といっても、バーニィ達はドラゴンに対して恐怖を感じているわけではない。

 心構えならできていた。

 心を揺さぶるのは、つい先日、シェリーがバーニィの下を訪ねてきた時のこと。

 不正をしたと思しき少女がやって来て、バーニィは身構えていたのだが、

 

『バーニィ!第一の試練はドラゴンだよ!サモエドとマスティフにも教えておいて』

『は?……ははあ、そうやって偽の情報を教えて錯乱しようって寸法ッスね、その手には乗りませんよシェリー・ポッター!』

 

 まさか本当だとは思わなかった。

 紅い髪の少女の言葉が真実だったことに申し訳なさを感じたのか、バーニィはぼりぼりと頭を掻いた。

 見た目こそパンクだが、彼女達は非常にプロ意識の高い三人組。それ故に、何かズルをしたであろうシェリーとベガの存在は到底許せるものではなかった。

 なかった、のだが。

 果たして自分の持ってる情報を他人に簡単に渡すようなお人好しが、ズルをしてまで対抗試合に立候補するだろうか。

 ややもすると。あの二人の器量を見誤っていたのかもしれない。

 

「嫌なことしちゃったかなあ……」

「もしかすっとあの二人、本当に巻き込まれただけなのかもしれねえっスね」

「まぁ私達のする事は変わらねえっスよ。相手が誰だろうと、正面からぶっ飛ばすだけっスから」

 

 思考を切り替える。

 どうせ自分達にできることは、この魂の躍動を曲という形にして伝えることだけなのだから、と。

 そのスイッチの切り替わりを見て、イルヴァーモーニー校長のセイラム・ウィリアムズは満足そうに頷いた。

 

(くっくっく……あいつ達がこの試合で勝ち抜けば、イルヴァーモーニーの宣伝に一役買う。我が学校の更なる発展のために、この試合必ず勝て!サーベラス!)

「校長、煙たいでーす」

「ん?ああ、悪いな」

 

 自分のところの生徒に葉巻を注意され、「いけねえ、禁煙だった」と火を消す。

 悪役みたいな顔をしているが、彼も教育者、そんなに悪い奴でもないのだ。

 さて──サーベラスと相対するは、ウクライナ・アイアンベリー種。魔石や鉱物を食糧とする彼達は、身軽さと引き換えに鉄のように硬い皮膚を手に入れた。

 鋼鉄の如きドラゴン相手に、生半可な攻撃など通用しない。敏捷性こそないが、卵を守るその巨体は、まさに壁そのものだ。

 

『ここはどう突破すべきですかね!?』

『やはり防御に長けた種族ですから、速さで撹乱するのが良いと思います。あとは結合部、すなわち眼や関節部分などを狙うのも効果的でしょうね』

 

 しかしバーニィ達の取った選択は、あくまで音楽だった。

 呼び寄せたのは楽器。

 唱えたのは拡声呪文。

 そして始まるのは、攻撃ではなく演奏。

 何とも珍妙な行動だが、それには意味がある。サーベラスの魔法は、音楽なのだ。

 

「『拡声呪文』、更にその強化版!」

「それが『爆音呪文』!!」

 

 痺れるようなミュージックに乗せて、爆けるような魔力がやってくる。

 アイアンベリー種の硬い身体など関係ない、身体全身に音波として魔力の瀑布が襲い掛かるのだから。

 音の魔法。

 相手の防御を丸っきり無視した、攻撃力全開の音楽攻撃!

 

「ただ煩いだけの音楽じゃねえっスよ。最高のメロディー!最高のリズム!!アメリカ一番のロック・ミュージックが、破壊の波とともにやってくる!!」

「聴けばハートが、喰らえば身体がやられちまう!俺達の音楽に酔いしれながらくたばりやがれ!!」

 

 彼達が奏でる『音』にのせて、『魔力』が飛んでいるのだ。

 しかしそれは攻撃ではあるが苦痛にはならない。ミュージシャンの矜恃がある彼達は、決して音で苦しめたりはしない。音に惚れさせて、幸せの中で倒すのだ。

 あまりの激しい音楽に、ドラゴンは口から血を吐いて膝をつく。しかしその目はどこか幸せそうで、バーニィのシャウトに合わせて火を吹いた。

 それは観客達も同じだ。音に酔いしれ、楽しむ者はいても、その音が不快だとか煩いとか言う輩は一人としていない。

 アイアンベリー種が絶頂のままに倒れ伏すのを合図に、爆音ライブはフィナーレを迎えた。

 

「──魂揺さぶる音楽の前には、平伏すしかないんスぜ」

 

 地面に沈むアイアンベリー種を見て、セイラム・ウィリアムズは「上々だ」とその笑みを濃くした。

 彼女達は根っからのパフォーマー。

 であるが故に、セイラムが舵を握り世界へとアピールしている。イルヴァーモーニーには、こんな素晴らしい生徒がいると。

 そしてこの対抗試合で、イルヴァーモーニーは更なる名声を得るだろう!

 

「ぐふふふ、我がイルヴァーモーニーの名を広めるチャンスだ!」

「校長、バーニィ達が卵割っちゃったよ」

「なに──っ!!」

 

 セイラム校長は口に含んだワインを盛大にぶち撒けた。

 慌てて闘技場を見てみれば、確かにドラゴンの卵が割れている。……そうか。あまりの爆音で壊れてしまったのか。

 マスティフがしょげてる横で、バーニィとサモエドが互いの頬を引っ張ってギャーギャーと口喧嘩していた。

 

「バーニィの馬鹿!調子に乗ってボリューム上げすぎっスよ!!」

「サモエドだってハイパー大音量だったじゃないっスか!!」

「うっわ、コレ最下位確実じゃんかよー。萎えるわぁ……」

 

 流石にあんまりな結果にセイラムは喉に杖を当てて、『拡声呪文』を唱えた。

『バーニィッ!サモエド、マスティフ!お前らっ、俺あれほど言ったよなあ!お前らの魔法は被害が大きすぎるからセーブしろって!できてねえじゃん!馬鹿なの死ぬの!?後で説教だぞコラァ!』

「あー、校長が怒ってる……」

「説教かー、やだなー」

 

 校長とサーベラスのコメディじみたやり取りが面白かったのか、闘技場は笑いの渦に包まれた。

「だああクソッ、まったく世話のかかる生徒だぜッ!」と吐き捨ててセイラムは再び席にどっかり腰掛ける。……彼も教育者、多少はずっこいことも考えるが根はそこまで悪い奴ではないのだ。

 なおも笑うイルヴァーモーニーの生徒達の頭を叩いても嫌がられていないところからも、セイラムの人望が窺える。

 

「校長ー、別にいいじゃん。今のところバーニィ達が一番目立ってるしさあ」

「そうそう。学校の宣伝って意味じゃ一番貢献してるよね」

「うるさいわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 ベガ・レストレンジは、もうこれで何度目になるか分からない溜息を吐いた。

 それは、ドラゴンと闘うことに対する恐怖……ではない。数々の戦いで経験値を積んできた彼には、闘志と緊張はあっても憂慮はないのだから。

 しかし。

 ベガは内心、シェリーもそうだと思っていたのだ。シェリーはああ見えてとんでもない度胸の持ち主である。流石に緊張しているようだが、試合になれば揺るがぬ闘志で戦ってくれることだろう……

……と思っていたのだが。

 試合直前、顔を青くしたり赤くしたりを繰り返す彼女の姿を見ては、その考えも撤回せざるを得ないというもの。

 

「……ベガ、シェリーの様子が変だ。押し付けるようですまないが──彼女の話を聞いてやってくれないか?」

「それはいいけどよ、セドリック、お前はそれでいいのかよ。……お前、シェリーのことが……」

「だからこそ、さ。僕がここで彼女に話しかけるのは……何というか、卑怯な気がするんだ。精神的に弱ってるところに付け込んだみたいで……」

「真面目だな。まあ、いいさ。俺ごときでシェリーの力になれるとは思わねえが…」

 

「おいシェリー、平気か?」

 ベガはテント裏、人気の少ない場所にシェリーを連れてきた。

 ここならば、他の対抗試合のスタッフも出払っているし、話を聞かれることはないだろう。

 

「何を心配してんだよ?俺達は今までにも色々と乗り越えてきただろ。今日はそれと同じだ。いつもみたいに最善を尽くせば、きっと……」

「────」

「お前、手、震えて……」

「──ごめん、ね。この試合で、二人の足手まといになっちゃうかも、って、思ったら。震えちゃって……ごめんね、試合前なのに……心配かけてごめんね」

「………」

「なんで私なんかが代表選手なんだろう。なんでベガやセドリックと一緒になったんだろう。……皆んなに、迷惑かけたくないのに」

 

 そこで気がついた。

 彼女は戦いが怖いのではない。

 自分達の脚を引っ張るのが怖いのだ。

 去年、ルーピンの話を聞いてから薄々感じてはいたが、シェリーの精神構造は歪なのだ。

 自分はいくら傷ついても良いと思っているくせに、他人がほんの少しでも傷ついてしまうことが極端に怖い。

 おそらく、クィディッチではスニッチを取れなかったシーカーが責められることが多いため、シェリーはその重責にまだ耐えられたのだろう。

 けれど、今回は、シェリーの失敗が二人の脚を明確に引っ張ってしまう。行動如何でホグワーツの名を貶めてしまう。

──それが、怖い。

 シェリーは名誉など欲しくはない。自分が泥を被って皆が幸せになれるならば、喜んで泥の中に突っ込んでしまう。

 そんな異常性。

──そして、ベガはそれに腹が立つ。

 

「おい、勘違いすんなよ」

「え?」

「俺は表彰台に立つつもりだが、その時、隣に立つのが誰でも良いって訳じゃない。なるつもりはねえが、例え最下位になったとしても──」

 

「──お前が隣にいてほしい」

 シェリーが必要なんだ、と、ベガは言外にそう言った──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(──何クサい台詞吐いてんだ俺っ!!)

 正直滅茶苦茶後悔した。

 シェリーの肩の荷は下りたようだが、あれではまるで、告白しているみたいではないか。

 

(クソッ。セドリックがシェリーに好意があるみてえだから、良い感じにくっ付けてやろうかと思ってたのによ。何か変な感じに拗れちまった。

──つか、本当に好きなら普通こういう時に声をかけてやるモンだろう!)

 

 自分でもよく分からない感情に苛々しながら、目の前の敵を見据える。

 スウェーデン・ショート・スナウト種。

 長い鋭い角を持つ、シルバーブルーの鱗が輝かしい俊足の竜種だ。

 けれども、目の前のドラゴンは、授業で習ったそれとは姿形が大きく異なる。

──全身から緑がかったおどろおどろしい焔を吐き、地獄の瘴気を身に纏う、『骨格標本が動いてるみたいな竜』なんて、誰も見たことないだろう。

 

『あれは骸竜種!ショート・スナウト種の骨に強い怨念と魔力とが合わさって生まれた、怨嗟で動くゾンビドラゴンです!』

(そんなもんと戦わせて大丈夫なのかよ…)

 

 竜の姿の骨が、明確な意思を持って動いている。毎度のことながら、本当に魔法界はファンタジーだ。

 ドラゴンは火を吹く個体が多く、必然的に火炎耐性を持つ種族も多いのだが、流石にアレ相手に炎は無茶だろう。

 巨大な骨と、禍々しい焔とが合わさったような風貌。もはや生物としてのカテゴリに入るのかどうか微妙なところだ。吸魂鬼とどちらが生き物らしいだろうか?

 

(──考えてばかりもいられねえ、か)

 

 地を這うような突進で、目の前の敵を排除せんとする。

 ベガはそれに対抗するように魔力を練り、蒼い焔を纏う守護悪霊を呼び出す準備を執り行う。

──ベガの杖は、去年のグレイバック戦で折れてしまっている。そのため、彼は今学期に入る前に、オリバンダーの店で新しい杖を見繕っていた。

 

『杖を折ったか。仕方ないこととはいえ、正直テンション下がるのォ。その人に合う杖なんて、そうそう見つかるもんでもないしの……』

『そこを何とか頼むよ爺さん』

『だって見合い相手を紹介したら、たった三年で離婚したみたいなものじゃよ?また新しい相手を探すのはなあ……』

『いやその例えは分かんねえけど』

『……、ならば、ブラックバーンとの協力で作られた杖を渡しておこうかの』

『へえ……え?ブラックバーンって……』

『いいか、この杖は誰にでも扱える代わりに、油断すると魔力をすぐに持っていかれる呪いの杖でもあるのだ……』

 

 オリバンダーの忠告を思い出しつつ、ベガは、極まった集中力で魔力を放つ──。

「蒼き焔は静かに燃ゆる──」

 地から這いずり出でる悪魔の巨人に、観客席は悲鳴を上げる。

 悪魔と骸竜。

 二つの巨大な異形がぶつかる様は、まるでここが冥界であるかのようだった。

「特大バージョンだ!!」

 

 何だあの大きさは、あのパワーであの巨体を保てるなんて、と解説席のフリットウィックが興奮する。

 本来、守護霊とはモデルとなった動物と同程度の大きさである。

 ベガが守護霊を改良して編み出した守護悪霊も、元は黒山羊だ。無理矢理人のような姿に変えてはいるが、せいぜい大きな人間と同じくらいのサイズしかない。

 けれども、今回ベガが呼び出した守護悪霊は竜と真正面からぶつかり合いができる程の巨大なものだった。

 魔力を込めて大きくしたのもあるが、ベガの新しい杖は、ベガの予想以上に魔力消費が激しい。

──これは、一筋縄ではいかねえぞ……!

 ベガは新しい杖への不安と期待で知らず口角を上げた。

 

「さて……!打ち合わせ通りに頼むぜ、シェリーッ!」

 

 作戦その一。

 ベガが生み出した守護悪霊によって、無理矢理ドラゴンを抑えつける。力は拮抗しており、魔力さえ絶やさなければドラゴンの動きは何とか止まりそうだ。

 作戦その二。

 攻撃魔法に長けたシェリーが、ドラゴン目掛けて魔法を撃ちまくる。

 

(といっても、私の射撃魔法は人より少し速いだけ。エミルのような命中精度や、コルダのようなパワーはない。

──だからせめて、量でカバーする…!)

 

 シェリーは杖先に魔力を集中させ、六つの魔法陣を横並びに錬成する。

 それは砲門だ。性能を度外視した、ただただ魔弾を撃ち出すための、魔法の発射台が形成された。

 そしてシェリーの魔力が注がれるやいなや、命を屠る魔法の弾を発射していく──

 

「『オルガン・フリペンド』!!」

 

 オルガン砲。

 パイプオルガンのように並んだ砲門から弾を撃ち出す砲台だ。

 シェリーが今まで使っていたものを銃とするなら、これはまさしく無数の砲台。精度こそ高くないが、数でゴリ押しする彼女らしい兵器といえる。

 射撃呪文のシャワーが、ドラゴンの骨を少しずつ砕いていく。痛みは感じていないようだが、それでもダメージは確実に入っている。

 そんなシェリーに怒りを感じたのか。

 ドラゴンゾンビは、骨を燃やさんばかりの勢いで、身体中から炎を発して闘技場を火の海へと変える。

 それはまさしく地獄だった。

 地は割れ、焔が噴き出し、悪魔と竜のぶつかり合いでその空間は壊れていく。観客席など目も当てられない。阿鼻叫喚の嵐が吹いていた。

 

「ッ!『アグアメンティ』、水よ!」

 

 観客席に割れた大地の破片が飛来したのをセドリックは見逃さなかった。水の弾はその岩を呑み込み勢いを消す。観客席には闇祓い達が分厚い『盾の呪文』を構築しているのだが、正義感の厚いセドリックがそれを見逃すはずもなかった。

 

「セドリック!」

「僕のことは気にするな!君達は、君達のやるべきことをやれ!」

「──ッ、ありがとう!」

 

 言うと、セドリックは自分の役割───卵を奪うことに専念する。

 セドリックの魔法はオールマイティな反面、攻撃力に欠ける。ベガ達のようにドラゴンと真っ向から戦う力は彼にはない。

 しかしそこで僻む彼ではない。己が使命を全うするため、卵に向かってひた走る。

 

(よし、もう少しで──)

「セドリック、上!避けて!!」

「────えっ?」

 

 シェリーの声に顔を上げると──雨のように、多数の骨が降り注いでいた。

 間一髪、盾の呪文で直撃を防ぐ。

 ……見ると、ベガが食い止めていたはずの骸竜がバラバラに崩れ、闘技場を所狭しと飛び回っているではないか。

 

(──まさか、自分の骨をバラバラに分解して、それぞれの骨を動かすことができるってのか!?)

 

 人間の骨の数は約二〇六本あると言われているが──ドラゴンの骨の数は一体何本あるのだろうか。

 少なくとも、軽く見積もっても優に千本は越えるだろう。それだけの数の骨が自立して動き、襲いかかってくる。

 セドリックは自分に向かってくる骨を叩き落としたが、それは地に落ちてバラバラになり、そして何十本もの骨となってまた動き出す。

 これではキリがない。

 攻撃すればするほどその数は増え、次第に追い詰められていくという訳だ。卵に近付くどころの話ではない。

 

「──『インセンディオ』!!」

 

 ベガが火炎魔法で周囲を一掃するも、骨には火炎耐性があるので効果は薄い。それでもベガの火力ならば、時間はかかっても少しずつ突破口は開けるだろう。

 相性が不利な相手でも、技量と地力でカバーできる彼は紛れもない天才だ。

──だが、それでは評価は下がる。

 時間がかかりすぎてしまうのだ。ここで何か手を打たなければ、審査員からの評価は高いものにはならない。

 

「だが、これだけの骨を操ってるんだ、おそらく『核』がある筈だ!そいつを破壊さえしちまえば、この骨も動かなくなる!」

「──核──あっ、あれ!骨が一箇所に集まってるところがある!きっとあれが、このドラゴンの核だよ!」

 

 だが、分かったところで攻略法はない。

 シェリーが『フリペンド』で攻撃するも、幾多もの骨に阻まれてガードされる。

 魔法糸を伸ばそうにも距離がありすぎるし、骨の量が多すぎて邪魔してしまう。かといって、これだけの骨の量では、近付くことさえ難しい。

 このままではジリ貧だ。

 汗が一滴、垂れる。

 何か、手は──。

 

「……そうか、水だ!シェリー!バンバン水を出してくれ!」

「!?うん、分かった!…………、えっ、何で!?」

「成程、そういうことか!」

「『アグアメンティ』!……ごめん、どういうこと!?」

 

 観客席からも、その行動は奇妙な行動としか思えなかった。

 セドリックとシェリーはベガの支援をすることはなく、闇雲に水をばら撒いているだけにしか思えなかったからだ。

 けれど、段々と出来上がっていくそれを見て、彼達の行動の意図を悟る。

 雨雲。

 ベガと骸竜の炎で散々熱せられた競技場の大地に水をばら撒けば、それは水蒸気となり雲となる。科学的に不可能な部分は魔力でカバーし、小規模ではあるが雨雲が完成する。

 

「そして──あの雨雲に雷の魔力をぶち込めば、雷雲に変わるって寸法だ」

 

 ベガは先程のネロの真似をして、『トニトルス、雷よ』と唱える。杖先に雷の魔力が凝縮されると、それをシェリーの杖へと当て、魔力を共有する。

──あの雲に魔力を当てるのは、シェリーの役割だ。

 

(脚を引っ張るのが怖い……なんて言ってる場合じゃない。やるんだ。皆んなが全力を尽くしているのだから──私もそれに答えなきゃ、仲間じゃない!!)

「当てろッ、シェリー!!」

「──『トニトルス・フリペンド』!!」

 

 放たれた雷は、天上へと昇り行く。

 限界などないような魔力の渦が、雲という終着点目掛けて飛んで行く。

 衝突。

 それだけで恐ろしいまでの暴風が吹き荒れ、余波が闘技場全体へと渡っていく。

 魔力は既に蓄えられた。

 迷いもない。

 ただ敵を討ち滅ぼさんとする天の劔が、暴風とともに振り下ろされる──!

 

「──ゴガグギャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?」

 

 天帝の裁きとも言うべきか。

 一直線に進む彗星は骸の竜の心臓部に直撃し、その意識を刈り取った。

 数多の骨がその動きを一斉に止め、ただの物質となり活動を停止する。──作戦は成功のようだ。セドリックはシェリー達を労うと、卵を取る。その姿に、グリフィンドールもスリザリンも、いやどの学校も関係なく、観客席が沸いた。

 

「何とか、なったな」

 ベガはすっかりボロボロになった闘技場の上にどっかりと座り込む。審査員達はあの状態から雷を作るのは素晴らしい機転だと評価してくれているようだが、今回もギリギリの勝利だったことに変わりはない。

 けれども、勝利は勝利だ。

 

「ベガとセドリックがいてくれて、本当に良かったよ。皆んなのお陰で倒せた」

「ああ。けどよ、自分自身のことももっと褒めてやれよ。お前も今回の勝利の立役者なんだからな!」

「──うんっ。ありがとう、ベガ!」

 

 

 

「──第一の試練、突破だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一位 ダームストラング専門学校

メンバー:ネロ、リラ、クラム

ハンガリー・ホーンテール多頭種

評価【ドラゴンを倒せる強さ、卵を取るスピード、どれを取っても素晴らしい。個人主義が強すぎるのが欠点?】

 

二位 マホウトコロ

メンバー:ハヤト、コージロー、タマモ

ウェールズ・グリーン古代種

評価【やや直線的なきらいはあるものの、ドラゴンと真っ向から戦って倒せる戦闘力や連携能力は評価に値する】

 

三位 ホグワーツ魔法魔術学校

メンバー:ベガ、シェリー、セドリック

スウェーデン・ショート・スナウト骸竜種

評価【三人の息を合わせたチームプレイが素晴らしい。欲を言えば、もう少し時間短縮を狙いたいところ】

 

四位 ボーバトン魔法アカデミー

メンバー:フラー、ローズベリー、ブルーベリー

チャイニーズ・ファイヤーボール種

評価【うまく自分達のペースに巻き込んではいたものの、火力不足な点や、卵を焦がしてしまった点が目立つ】

 

五位 イルヴァーモーニー魔法魔術学校

メンバー:バーニィ、サモエド、マスティフ

ウクライナ・アイアンベリー種

評価【攻撃力という点でいえば各校の中でも上位に入るが、見境がなさ過ぎる。卵を破壊してしまったのが痛い】

 

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