──薬草学の授業。
ハッフルパフからの非難の声も少しずつではあるが減ってきて、以前よりは過ごしやすくなってきた。
と。前方に人影を見つけて、シェリーは声をかけた。
「ローズベリー、ブルーベリー!お疲れ!この間は大変だったねっ」
「ふん」
「二人の花魔法凄かったなあ!あの魔法はどうやって覚えたの?」
「知らないっ」
友好的に話しかけるシェリーをあからさまに無視するフロランタン姉妹。彼女達は人一倍警戒心が強く、フラーやマクシーム以外が話しかけるとこうしてツレない態度を取るので、代表選手の中でもあまり好かれている方ではないらしい。
……ないらしいのだが、そういう相手に全く臆さず話しかけられるシェリーも、こうして見るとすごいもんだ。
(うーん、駄目かぁ……仲良くなれると思ったんだけど)
シェリーは残念そうに俯いた。
第一の試練がドラゴンということをバーニィ達に伝えたおかげか、彼女達の態度は若干軟化して世間話程度なら付き合ってくれるようになった。シェリー達がどういう人間なのか、直接見て話して知りたいのだとか。
だがフロランタン姉妹は取りつく島もない。シェリーとベガが代表選手に選ばれたと知った時、一番反発していた二人だ。無理もないが……。
さて。
授業が終わると、グリフィンドールの生徒達はマクゴナガルに呼ばれて空き教室に集められていた。ここにいる生徒は四年生以上のようだが……。
「クリスマス・ダンスパーティ!?」
「ええそうです。クリスマスの日、魔法学校対抗試合の伝統として、ダンスパーティが行われるのです。外国からのお客様と知り合う機会でもあり、これは節度を持っているであろう四年生以上を対象とします。
しかし、下級生を招待するのは可能なので全員が参加できないというわけではありませんよ」
つまり、今日集められたのはダンス・パーティの予行演習。ダンスの簡単な練習のためらしい。
女子は盛り上がり、男子は恥ずかしそうに肩肘つつき合う。反応は半々だ。
しかしベガは結構乗り気だった。
それもそうだろう、忘れられがちだが彼は女好きなのだから。
「いやァ楽しみだねえ、女子と公然と仲良くしていい機会だものなあ。今からクリスマスが楽しみだぜ」
「それは何より。ではレストレンジ、ダンスのお手本としてこちらに来なさい」
「はあ〜〜!?」
マクゴナガルに姉妹され、ベガは渋々といった感じで前に出る。超嫌そうな顔だ。
口々に冷やかされながらダンスを踊る。
………普通に上手い!
年頃の男子にとっては恥ずかしいだろうが、あれだけ堂々とリードする姿を見せつけられては押し黙るというもの。
ていうかベガは普通に優良物件だ。
身長も伸び、女慣れしているが心根は兄貴肌な性格。しかも普通に顔も良い。今の彼はまごうことなきイケメンである。
さて、恥をかかない程度にダンスが上達したところで、問題はパートナーだ。
「やあシェリー・ポッター!」
「あ、コリン!こんにちは」
「僕とダンスパーティ行きませんか!」
「いいよ!私でよければ喜んで」
「「………いや待て待て待て!!」」
ロンとハーマイオニーは慌ててシェリーの口を塞いで黙らせる。
さっきからずっとこんな調子だ。対抗試合が開かれるという年に自分達だけのけ者にされるのは嫌なのだろう、三年生以下の少年達はこぞってシェリーに寄ってくる。
それはシェリーが有名人で、おこぼれにあずかりたいからというのもあるが、それ以上に、シェリーが人に頼まれると断れない性格と知っているからである。
シェリーは人の誘いを断らない。
というか、断れないのだ。
相手が誰だろうが、誘ってくれたら即オーケーしてしまう。しかも「やっぱり別の子と踊ることにしたわー」とか言われても「オッケー」と笑顔で返せるような少女。
すごく都合の良い女なのである。
だから、シェリーのパートナーがとんでもないロクデナシになってしまう可能性すらあるわけで。
「……面接の必要があるわね。シェリーが悪い男にひっかからないようにしないと。最低でもこの子を好きになった理由と良いところを三つは言えないとダメよ」
「………え、えっ?面接?」
「僕とハーマイオニーと話して、シェリーに好意を抱いてる奴を吟味しなきゃね」
保護者モードに入った。
彼達の心境は娘を嫁に行かせたくない親のそれである。その甲斐(?)あってか、パーティが目前に迫ってもシェリーはダンスの相手を未だ見つけられずにいた。
ちなみにロンは母親から栗色のドレスローブが贈られてきたりしていた。
さて、本当にどうしたもんか。
三人は談話室で寝そべっていた。
「フレッドはアンジェリーナと行くみたいだし、ネビルはシレッとジニーと約束を取り付けてるんだよなあ」
「皆んな次々にパートナーが決まってくね。……私も代表選手だからパートナーは絶対見つけなきゃだし……」
「シェリーのパートナー探しもだけど、僕もいい加減相手を見つけなきゃなあ」
お?と、談話室の生徒達が耳を傾ける。
ロンとハーマイオニーは互いに互いを意識している、所謂、両片思い状態であることは談話室中の人間の知るところだ。
ロンはハーマイオニーのちょっとした仕草に視線を向けるし、その度にいちいち顔を紅くする。ハーマイオニーはハーマイオニーでロンと話している時は自然と顔が明るくなるのだ。
つまり、「もう付き合っちゃえよ」って感じの二人なのだが、とうとう本当にそうなる日が来たか……?
「………、ねえ、ロン……」
「そういや君、一応女の子だったよね。どうだい、僕とダンスするかい?」
「………………」
(((馬鹿野郎ォ────!!)))
グリフィンドール中の心が一つになる。
いくら気心の知れた間柄とはいえ、ロンの誘い方は流石に酷すぎる。
好きな子に素直になれない症候群。好きなあまり行動が空回ってしまうことは多々あるが、今回のはまさしくそれだ。
日本ではツンデレというらしい。
ベガとラベンダーがあちゃー、という顔で天を仰いだ。恋愛事には人一倍詳しいコンビが頭を抱えるレベルである。
ハーマイオニーの方を恐る恐る伺うと、……うわっめっちゃキレてる。怖……。
「生憎だけど、私もうパーティの相手はいるのよ」
「えっ!?」
「えっ!?」
「なんでそこでシェリーも驚くのかしら。……ええ、そうよ、ロン。貴方よりずっと魅力的な人に誘われて、断る理由も無いからオーケーしたのよ!」
「なっ、えっ、そんな──」
──マジかよ。
と、またもやグリフィンドールの心が一つになってしまった。
真実を言うなら、ハーマイオニーがダンスの誘いを受けたというのはハッタリだ。
誘いを受けたのは事実。今日の昼、図書室で勉強中に肩を叩かれ、ダンスパーティに誘われたのだ。
これまで男子にそういう風に誘われることなどなかった彼女は狼狽して、つい「考えさせて!」と逃げ出し、ロンには言い出せないまま今に至ったのである。
実を言うと、ハーマイオニーは彼の誘いを断るつもりでいた。できることなら、ロンとパーティに行きたいという気持ちがあったからだ。
しかし──彼の無神経な言葉に怒り、ついそんなことを口走ってしまう。
「そ、そんな──嘘だろ!?あ、相手は誰なんだよ!?」
「あなたもよく知っている人よ!」
「よく知っているって……」
「──ビクトール・クラムよ!!」
ロンの顔が驚愕と絶望の表情に変わる。
無理もない。ロンは、この三年と少しで成長したとはいえ、それでも普通の範疇に留まっている人間なのだから。
片や、世界最高峰のシーカーであり、学校を代表する選手に選ばれた特別な人間。
片や、特別な経験に巻き込まれただけの、チェスが得意なだけの普通の人間。
ロンのコンプレックスが刺激されるのも無理はない。項垂れた彼をよそに、ハーマイオニーは寝室へと戻った。
「ロ、ロン……私と行く?」
「うん………」
シェリーとロンのパートナー決定。
「えー…ハーマイオニーの奴、とんでもない相手とパートナーになってたんだな」
「そういえばベガのパートナーは?」
「フラー・デラクール」
「 え っ !?」
▽▽▽▽▽▽
──ダームストラングの幽霊船。
ダームストラングの生徒達が乗ってきた黒々とした船は、そう呼ばれている。ゆらゆらと水面に漂い、不安定に揺れる様は、確かにそう呼ばれてもおかしくないほどの不気味さがあった。
その一室。
彼達用に充てがわれた部屋では、とある少女のドレスアップが行われていた。
リラ・ダームストラング。
おどおどした様子の彼女は、彼の兄、ネロの手によって美しく様変わりしていく。
「ったく、これくらい一人でできるようになりやがれってんダ……」
「ご、ごめんなさい兄さん……」
リラは生来の不器用だった。
どうも、手先を使って何かするという行為が恐ろしく苦手なのである。兄のネロは何でも器用にこなすのだが。
思えば、昔っから妹に世話を焼かされてばかりだナ、と彼は自嘲する。世渡り下手な彼女の代わりに矢面に立ち、社交場では緊張してロクに話せないリラの代わりに何度自分が話したことか。
「いいかリラ、今日のダンスパーティでは俺は手助けしないかラ、自分で考えて行動するんだぞ」
「ええっ!?む、無理です!私一人じゃ何もできないです……」
「だから、お前一人じゃ何もできねえからやらせるんだヨ。いつも言ってるだロ、自分で考えて行動しやがレ、って」
「そんなあ………」
しょぼくれた彼女をよそに、髪の手入れは進んでいく。黒のドレスに身を包んだリラは、見た目だけなら立派な淑女。
しかし、緊張でオロオロしている彼女を見ると、この様子じゃ独り立ちはまだまだ先だナとネロは一人ごちるのであった。
さて。
この時間、メイクをしているのは彼達二人だけではない。
同時刻、シェリーも慣れないメイク道具をチャリタリに教えてもらいながら動かしていた。
「ん!これで完璧、っと」
「ありがとう、チャリタリ!」
「良いって良いって!あー、なーんか今のシェリー見てると私の髪長かった頃を思いだすわぁー」
チャリタリの勧めで髪型も変えた。三つ編みを作って、後ろで纏める。すると首筋が見えてスッキリする上に、いつもと違う大人っぽさも醸し出せるのだとか。
シェリーが着ているのは、ワインレッドのドレス。肩部分を見せる形状だが、二の腕は隠されるようになっており、着痩せ効果が期待できるんだとか。……これを勧めてくれたモリーの心境やいかに。
そんなドレスを着て、くどくならない程度に化粧も施した彼女はとても綺麗だ。いつも美少女なシェリーだが、今夜は普段の三割増しで美少女だった。
二人で廊下を歩いていると、すれ違う男子がチラチラとシェリー達を見るのもその証拠である。
「そうそう、チャリタリもパーティに参加するんだよね?」
「参加じゃなくて警備。一応仕事で来てるんだからね?ダンブルドアが、闇祓いの制服じゃ生徒達も楽しめないだろうからって慌てて用意したんだから」
そう言って口を尖らせるが、彼女のドレス姿は傍から見てもすごく綺麗だ。
健康的な褐色肌に白いドレスが合わさると相性抜群の美しさになる。チャリタリの綺麗な脚も深いスリットで晒されていて、なかなか気合いの入った装いに見える。
実は楽しみにしてたんじゃ……?と思ったシェリーは、好奇心から尋ねてみた。
「ダンスの相手はいるの?」と。
「え、えーっと、まぁ。エミルと踊ることになってる………かな」
「エミルと!やったね、チャリタリ!」
「な、何がよ。アタシは別にそんな、エミルと踊るのが嬉しいとかそんなのは……」
「おーいチャリタリー」
「ひゃあっ!?」
彼女の絶賛片思い中の相手がドレスローブを着てやって来た。あまりのタイミングの良さにチャリタリはドギマギする。
……そしてそれをちょっと遠くからニコニコしながら眺めるのがシェリーである。
「あー……エ、エミル?その……」
「ん?おーっ、似合ってるじゃないですかチャリタリ」
「………えっ!えー、えっ!そうかな…」
「はい!そのスリットとかとってもエロいと思いますよ!」
「……………」
……ホグワーツの男は女の地雷を踏み抜かなければならない決まりでもあるのか。
見事にチャリタリの機嫌を一変させたエミルは、腹に強烈な一撃を貰った。仮にも闇祓いの彼女のパンチは腰が入ってて重かったらしい、エミルは腹を抱えて蹲った。
馬鹿なんじゃなかろうか。
パーティ会場はどことなくふわふわした雰囲気だった。大勢の人が浮かれた様子で談笑し、踊り合い、料理に舌鼓を打つ。
その隅っこでソワソワと落ち着かないようにジュースを飲んでいるロンの姿を見つけて、シェリーは駆け寄った。
「ロンッ、おまたせ」
「わっ!……シェ、シェリーか。…あー、なんだ。すごく綺麗だね」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」
「いや本当に……い、行こうか」
顔を赤くさせたロンに腕を差し出され、応じるように手を置いた。
彼の栗色のローブはベガやらエミルやらシェーマスやら、お洒落な面々に魔改造を施され、今では彼の燃えるような赤毛が映えるドレスローブへと変貌しているのだから凄いものだ。
ふと。脚の裏を縫い付けられでもしたかのように、ロンの脚が止まった。
「本当だったんだ……」
彼の視線の先には、よく知った人物の姿があった。
長い癖毛にはふんだんに『癖毛矯正クリーム』が使用され、少し大きめの前歯も今日ばかりは目立ってないように見える。最近医務室に行ったのは、このためだったのだろうか。
だとするととても気合いが入っている。
パール色の、ざっくりと背中が開いたドレスで粧し込んで、見違えるような美しさを手に入れた少女がそこにいる。
しかしその隣に立つのはロンではなく、王族のような威厳あるローブを事もなげに着こなした、ビクトール・クラムなのだ。
(なんか胃がキリキリしてきた……)
ハーマイオニーがクラムとパーティに出席したのは、無論、クラムの誠実さに惹かれた面もあるだろうが、ロンへの当て付けの面が大きいだろう。
しかしロンもロンで、彼女の言葉を額面通りに受け取ってしまう程度には子供だ。
なんというか、これは。
「面倒くさいカップルだよなあ……」
いつの間にかやって来ていたベガが、遠い目でそう呟いた。隣には、相変わらずの美貌のフラー・デラクールの姿が……
「えっ!?フラー!?」
「何だよ、言ってなかったっけか?つーかそんな驚くことか。代表選手同士がペアを組んじゃいけないなんて決まりはないぜ」
「そうでーす。どの学校にも私に釣り合うような男はいませーんでしたが、ベガはマシな方でーす」
「そりゃ光栄だこって」
とは言うが、彼達はこれ以上ないくらい美男美女のカップルだ。
ベガは後ろで艶やかな銀髪を纏めてその整った面貌を惜しげもなく晒しているし、フラーもまたシルバーブロンドのドレスが彼女の美しさを際立たせている。
お互いがお互いの美麗さを引き立てている、顔だけは理想的なペアといえよう。
(でもなんでよりにもよってボーバトンの代表選手がペアなんだよ!?)
(だから、スパイだよスパイ!敵の情報を引き出すためにペアになったんだ!向こうもそんなことは承知だろうけどよ……)
「何話してんの、あんた」
ロンとヒソヒソ話してたらフロランタン姉妹に睨まれた。
「レストレンジだっけ……?あんたがお姉様と出席するの、私達は認めたわけじゃないんだからね!」
「へいへい」
ちなみにフロランタン姉妹はダームストラングのそこそこ顔のいい男と踊ることになっているらしい。彼女達のどことなく嫌そうな顔を見るに、本当はパーティに出席すらしたくなかったのだろう、という本心が透けて見える。
「あー。レストレンジ、あれは、ホグワーツの先生じゃなかったですか?」
「あ、マグゴナガル先生だ……」
「探しましたよ皆さん。素敵なドレスですね?さて、あなた方は代表選手ですから、他の生徒より先に踊ることになっているのは、知っていますね?」
「………聞いてねえぞ」
「では、今伝えました。さぁ、こちらへいらっしゃい。皆が待っています」
マクゴナガルに引っ張られて、十四組のペアがステージの上に上がる。拍手で出迎えられると、フリットウィックの指揮で厳かなクラシック音楽が流れ始める。
環境の差か、貴族階級の生徒達はダンスも優雅にこなせているものの、これまでダンスなど縁遠い生活を送っていた生徒は粗が目立つ。
シェリーとロンのペアは庶民二人の組み合わせなので、必然的にガチガチだ。
セドリックとチョウのペアから「もっと肩を抜いて」などと小声でアドバイスを受けながら、ぎこちなくではあるが形にはなっているようだった。
ちなみにチョウは前々からお熱だったセドリックとパーティに行けることが嬉しいようで、アジアンの活動的なドレスを程よく着崩しながら踊っていた。
「……まっ!お互い楽しむとしようぜ。なぁ、フラー」
「ふーふーん?そういえばー、ベガ、あっなーたダンスはできまーすか?わったーしはダンスできない男の人とは、一緒にいたくありませーん」
「任せろ」
フラーをリードする形で、ベガはステップを踏んだ。まだ十四歳の彼だが、成長期になり身長はぐんぐん伸び、女子にしては高身長のフラーをソツなくリードできる程度には伸びている。
フラーも満更ではなさそうだ。……フロランタン姉妹は面白くなさそうな視線を送ってきてはいるが。
マホウトコロの方を見ると、和服を着たハヤトがルーナを振り回している光景が。それに負けじとコージローが無茶な踊りをしてタマモから怒鳴られている。和もへったくれもありゃしねえ。
ネロとリラは純血の良家と踊っているようだ。二人とも大して面白くなさそうな顔をしている。クラムは……ハーマイオニーと自分達の世界に入ってた。
(あれ?サーベラスの皆んながいない?)
『アタシ達はここだぜェエーーー!!』
「うわっ!?なんかギター持って派手に登場してきた!?」
『サーベラスは皆んなのものなので誰かとダンスはできないっス!なのでダンブルドアに掛け合って、私達は生演奏することになりましたァー!』
『皆んな盛り上がってこうぜェーー!!』
厳粛なクラシックの時間はサーベラスの爆音でロックへと変貌した。
学年も寮も学校も違う者同士が繰り広げる馬鹿騒ぎ。音楽は世界を一つにするというのは本当だったらしい。一度破裂した熱狂は留まることを知らず、どこまでも燃え広がっていく。
いつの間にかフリットウィックが生徒達に担ぎ上げられると、やいのやいのと運ばれていく。理性などかなぐり捨ててやると言わんばかりに、皆が踊り狂っていく。
その喧騒に疲れたか、ベガは、代表選手のソファにどっかりと腰を下ろした。
「ハーム・オウン・ニニー?」
「ハー・マイ・オ・ニーよ。ふふっ」
……近くでイチャイチャしてる馬鹿ップルがいるようだが無視する。
「やあベガ、随分とお疲れのようだね。何か飲むかい?」
「あぁ……じゃあファイア・ウイスキー」
「はい」
「ん、悪いな」
渡されたボトルごと飲む。体内の熱を逃がすように息を吐くと、ふと、気になっていたことを口にしていた。
「何でシェリーを誘わなかったんだよ」
恋愛経験豊富なベガは、セドリックの気持ちなどとうに気付いている。けれど、だからこそ分からない。セドリックは何かに遠慮しているような気がしてならない。
「ロンとハーマイオニーが邪魔したから、なんて言い訳は聞かねえぞ。あいつ達は真摯に誘ってくるような奴の邪魔するような人間じゃねえ」
「……何もかもお見通しってわけか。分かった、白状するよ。
シェリーとは、君が行くと思ってた。だから誘わなかった」
「……はぁー??」
余計に分からない。
ベガとシェリーは恋人ではないし、特別狙っていたことがあるわけでもない。
彼女とベガの間には何もない。
──と言ったのだが、セドリックは笑顔で「そうかな?」と返すだけだった。
「僕は、君がシェリーのことを好きなんだと思ってたよ」
「はぁーあ!?何でそう思ったんだよ?」
「勘ってやつかな。でも、それならプレイボーイの君が彼女には手を出さなかったことに納得がいくんだ。
シェリーは誰に対しても平等だ。誰にでも優しいし、罪を犯した人間にも再起のチャンスを与える。人の役に立てるなら喜んで茨の道に行くような人間だ。
──けれど、だからこそ彼女の一番になることはとても難しい。それが分かったから君は彼女に手を出さなかったんじゃないかって」
よく見てるじゃないか、と感心する。
シェリーは求められれば誰とでも恋人になれる。なれてしまう。彼女には一切の差別も区別も偏見もないからだ。
でもそれは、彼女の特別にはなれないということでもある。『自分以外の人間は全て等しく素晴らしい』、それがシェリーの出した結論なのだから。
「けど、僕は決めたよ。彼女の特別になってみせる。心から僕のことを好きになってもらうってね。
ベガ、君にその気がないなら僕はそれでいい。だけど後悔だけはするなよ!」
言うと、セドリックは楽しげに笑っているシェリーの方へと向かう。改めてダンスを申し込むつもりらしい。
何だか急激に熱が冷めた気分だった。
フラーを酔わせて、何かしらの情報を聞き出そうと思っていたのだが、その気も失せた。
「はあ……馬鹿らし。帰ろっかな……」
「あ?何だよ、もう帰るのカ」
何か絡んできた。
「……俺に何か用か、ネロ」
「あれを見ろヨ。サーベラスの音楽に合わせて生徒達がブレイクダンスしてル。お前もあの中に混じって踊れヨ」
「なんでんな事しなきゃいけねえんだ…」
「負けるのが怖いのカ?」
「はあ〜〜!?」
なんだかムシャクシャしていたベガは、ネロの挑発に簡単に乗った。
溜まりに溜まったストレスをここで発散してやる、と言わんばかりの勢いで上着を脱ぐ!
「やってやんよパンダ野郎!!」
言うと、観衆の中にダイブし、重力を無視したかのような動きでくるくる回り片手だけで身体を支えてみせる!
「言ったなこのロン毛野郎!!」
ネロも負けじと遠心力をフル活用して床の上で乱回転を巻き起こす!そのスピードたるやもはや芸術の域!
「あ、あれは!」
「おい、フリットウィック先生が何か言ってるぞ!」
「知ってるんですか先生!?」
「ウィンドミル、トーマス、マーシャルに果てはバックスピンまで!ブレイクダンスの花形、パワームーブを代表する技が続々と……!そして最後は……ヘッドスピンだァアアーーッ!!」
「うおおおよく分からんがなんか凄いってのは伝わってくるぜええええ!!」
ブレイキンッッッ!!!
▽▽▽▽▽▽
「踊ってくれてありがとう、シェリー」
「いいよ、セドリック」
「それでその……この後なんだけど……」
「ふぁ……あ、ごめん。つい……」
「あー、大分疲れたみたいだね。送って行こう……と言いたいところだけど、チョウを送る約束をしていてね」
「いいよ、そっちを優先してあげて」
ダンスやら歌やらで、シェリーの身体はすっかり疲れてしまったらしい。けれどももう少しこの空気に浸っていたかった彼女は、外に出て夜風に吹かれることにした。
「あ、コルダ」
「ポッターじゃないですか」
ベンチには先客がいた。
まだ三年生だというのに、ドレスを着たコルダは大人びて見える。
グラデーションがかった、ブルーグレーのレースのドレス。プラチナブロンドの髪色がアクセントになって、まるで雪の妖精を思わせる可憐さだ。
「貴方もパーティを抜け出してきたクチですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと休憩。少ししたら帰るかな」
「気が合いますね。私も帰るところです」
彼女は上級生に誘われて参加したらしいのだが、すぐに自分が家柄の良い女だから誘われた……いわばアクセサリー目的の誘いと気付き、馬鹿らしくなって適当に抜け出してきたのだとか。貴族も貴族で色々と大変らしい。
「……その、去年は私の秘密守ってくれてありがとうございました」
「えっ?い、いやいや!私達もあの時はコルダにお世話になったし……」
「それでもです。貴方達には助けてもらってばかりです、本当に」
深々と頭を下げられた。
「いいよそんなことしなくて!友達の秘密を守るのは当然でしょう?」
「友達……ふふっ。ええ、そうですね。
ああ、そういえば。ポッター達はドビーと知り合いなんですって?」
「うん!今はホグワーツの厨房で働いてるみたい」
「それは良かった。……あの子、私達を恨んでやしないでしょうか」
え?という、シェリーの疑問に答えるように、コルダは言葉を紡いだ。
「言い訳するつもりはありませんが……私の家は屋敷しもべに対して特別酷い仕打ちをしていたわけではないんです。
けれど、私がグレイバックに噛まれて以降、お父様は八つ当たりでもするかのようにドビーに辛く当たるようになったらしいんです。私も又聞きではありますが……」
曰く、当時はよく自分の部屋に閉じこもっていたので、詳しい事情は知らないらしいのだが。
ルシウス氏の気持ちは分からないでもない。最愛の娘が人狼に変えられて、絶望して何かに縋りたかったのだろう。けれど彼が縋ったのは暴力で、その結果ドビーは家を去ってしまった。彼は間違えたのだ。
「なら──気持ちの整理がついたら、謝りに行こう?間違ったなら、少しずつでも償っていけばいいんだよ」
「……ふふ。ありがとうございます、ポッター。………ホグワーツに入って、貴方達に会えて良かった」
シェリーもコルダも、未だ知らない。
コルダがグレイバックに襲われたのは、かつて闇の勢力に属していたルシウスが遠因ということに。
コルダが秘密の部屋事件に巻き込まれたのは、ルシウスがリドルの日記をジニーに渡したのが原因ということに。
彼女の最も尊敬する父親が、コルダの今の環境を作ってしまったことを彼女はまだ知らない───。
──そして、その事実に、発狂寸前なほど追い込まれているということも──。
シェリーと別れたコルダは、もう自室に帰ってしまおうかと思っていると、
「コルダ?どうした、踊らないのか」
──ふと、最愛の兄から声をかけられる。
「お兄様……ええ、何だかもう、疲れてしまったもので」
「嘘だな、コルダ。大方、あいつの相手が嫌で逃げ出してきたんだろ」
「う……お兄様に嘘はつけませんね」
「とはいえ、すまない。お前の相手にあいつを勧めた僕の責任でもある。もうちょっとマシな相手を勧めるべきだった」
「そんなことは──……」
いや、不満はある。
本音を言えば、コルダが踊りたい相手はドラコなのだ。
けれどそれは許されざる恋。兄と妹という関係以上に、周りがそれを許してはくれないだろう。兄弟同士の恋が知られれば、マルフォイ家の名を貶めることになる。
だからこの想いは消してしまわなければいけないのだ。そう自分に言い聞かせ、コルダは踊りたい気持ちを押し込んだ。
──それなのに。
「コルダさえよければ、僕と踊るか?」
「え────?」
「あくまで練習の延長線上だが……折角のダンスパーティの思い出があれだけなんて寂しいもんな」
「お、お兄様!そんな、いけません、私なんかと踊ったら…………お兄様が笑われてしまいます……」
「僕のことは気にしなくていいさ」
ドラコは無邪気な顔で手を差し出した。
その顔が、コルダにとっては誰よりも魅力的で──心臓を高鳴らせる。
この恋は報われてはいけない、隠し通さなければならない。それは分かっている、けれど。
「僕と踊ってくださいますか、お嬢様」
この手を跳ね除けるなんて不可能だ。
自分のこの恋が報われるとは、つゆ程にも思っていない。
いつか大人になって、兄が家督を継ぎ嫁を貰うまででいい。その間だけ、どうかこの恋を許してほしい。
「はい────勿論」
コルダの魔法は、まだ解けない。
書く直前にラブコメ読んだからかめっちゃ影響されてる…。これだよわしが書きたかった学園青春ものはよぉ!
アメリカ組がバンドという設定になったのは、今回妖女シスターズの代わりに出れるからダンスのペア考えなくていいからだったり。でも正直ペアの相手わりと適当だし、そんな意識する必要なかったかな……。