シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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9.FORTH STAGE SAMURAI

「わ、私、男の子になってる!?」

「嘘だろ、俺が女になってやがる!?」

「どうなってるんだ一体──ッ!!」

 

 障害物競走。

 魔法学校対抗試合、第四の試練はそれだった。様々なトラップが仕掛けられているコースの中を潜り抜けていき、ゴールに辿り着いた順に高いポイントを貰えるというもの。

 シェリー達は途中までは順調に進めていた……のだが。とあるトンネルの中を通ると急にその脚が止まった。

 それもそのはず。

 シェリー達は性転換していた。

 肉体の違和感を感じてあちこち触ると、柔らかく丸みを帯びた体型はごつごつと筋肉質なものに変わっていたのだ。

 

『ホグワーツ組は『反転の虚』に入ってしまったようですね!このエリアはあらゆるモノの性質が反転してしまうという、おそろしい魔法がかかっているのです!

 男は女に!女は男に!普段とは違う別の肉体に作り替えられてしまったのです!』

「なんだそりゃあ!!」

 

 ポリジュース薬のようなものだろうか。

 見ると、ベガは身長が縮み小柄になり、長い銀髪を揺らしていた。口調も相まってどこぞのお嬢様のような、静謐とした風貌へと変わっている。可愛い。

 セドリックは流石の美少女だ。茶色の髪をした純朴な少女。麦畑にでもいそうな純朴さだが、それがいい。見れば、胸囲のそれは中々に立派だ。自分で自分の姿を見て顔を赤くしていたりしていた。

 シェリーも鏡を見て、何ともいえない気分に陥る。赤い髪のボサボサ頭。髪の色以外はジェームズにそっくりだ。

 観客席のスネイプが悲鳴を上げた。

 

「ご丁寧に服まで変わってやがる!この魔法創ったの絶対ダンブルドアだろ……!」

「う、動きづらいな。自分の身体じゃないみたいだ。アイタッ」

「大丈夫、セドリック……うわっ!当たり前だけど身体の違和感がすごい!」

 

 何故か意気消沈としたスネイプとは反対に、観客席(特にラベンダーとパーバティ)は盛り上がっているようだ。物凄い勢いでコリンが写真を撮っていく。おそらく後でフレッドとジョージが高値で写真を売り捌くのだろう。

 

『ちなみにゴールに着いたらあらゆる魔法を洗い落とす水が流れるので、性転換の魔法の効果も切れまーす』

「行くぞセドリック!!!」

「ああ!!誰よりも早くゴールへ!!!」

 黒歴史確定だが、早くゴールすれば被害は少なく済む。一致団結したベガとセドリックはこれまでにない勢いで走った。

「そ、そんなにその格好嫌なの……?別の自分になれてちょっと面白いんだけど」

「ああ嫌だね!!!一刻も早くここから逃げ出してえ気分だよ!!!」

「シェリー!!一生のお願いだ!!!僕達をここから解放させてくれ!!!」

 

 二人ともいやに顔を赤くさせている。

 せっかく可愛いのになあ、と思っていると、背後から気配。誰かが追って来ているようだ。

 見ると、それはハヤトだった。

 いや、ハヤトだがハヤトではない。

 シェリー達を追って来ているということは、彼もあのトンネルを潜ってきたということだ。ボサボサ頭は、癖のある長髪に。筋肉質な肉体は、健康的な身体に。

 しかしそのギラついた瞳だけが、唯一、女となっても変わっていなかった。

 

「待てェエーーーきさん達あああ!!!」

「誰が待つか!ああクソッ、身長が低くなったからいつもより足が遅く感じる!」

「でもそれはあっちも同じの筈だ!このままこの距離をキープすれば……」

「……、でも、まだまだたくさん罠があるだろうし……。二人とも、行って!

 ハヤトは──私が食い止める!!」

 

 シェリーは足を止め杖を構えた。

 少しの間、悩んだ。シェリーを行かせるべきか、と。けれど彼女(彼?)の目つきを見て──思考を捨て、ゴールへと向かう。

 これがシェリーと築き上げた信頼だ。

 あと早くこの格好をやめたかった。

 

「いい度胸じゃ!あの時の約束通り、俺が叩っ斬っちゃる!」

 

 約束──とは、以前タマモに卵の謎を解くヒントを提供した時に交わしたものだ。

 マホウトコロは、謎を解くヒントを貰う代わりにホグワーツの邪魔をしない。

 義理堅く友情に厚い彼達はそれを守ろうとしたのだが、

『どうせあの課題のヒントは皆んなが知ることになったんだし、気にしなくていいよ。それに私は全力で貴方達と戦いたい』

 とシェリーに言われ、渋々ながらもそれを了承したわけである。戦いたいと言われてそれに応えないなどマホウトコロの武士の名折れだ。

 無論、シェリーのこの発言もベガとセドリックの了承を得て言ったものだ。

 

「先の課題じゃあ良い所がなかったからのお、ここらで挽回といくかァ!」

(──来る!!)

 

 男だろうが女だろうが、強い奴は強い。

 それが魔法界における鉄則だが、少なくとも自分の身一つで前線に飛び込む近距離型の魔法使いには体力が求められる。

 更には別の身体になった違和感。

 今のハヤトの動きは少しだけ鈍っている。何とかシェリーにも見切れる速度だ。

 

(動き自体は単純だ、ハヤトの直線上に攻撃すれば──!)

「フリペンド!!」

「──────」

「やった、命中………えっ!?」

 

 腕が吹っ飛ぶ衝撃を食らってもなお、ハヤトの脚は止まらない。

 一瞬の怯みもなく、攻撃を食らっていないのではないか、と見紛うほどの不屈の精神だ。

 意思の固定化。

 『突っ込んで叩っ斬る』という強い意志が脳に刻み込まれ、肉体を凌駕したのだ。

 マホウトコロの生徒達の戦いを見た人々は口を揃えてこう言う。獣のようだ、と。

 だが、それは少し違う。獣は傷を負えば逃げるし、不利を悟れば撤退する。

 されど彼達に後退はない。不退転の契りを持って、外敵を滅さんと突撃する──!

 

「エクスペリアームス!!」

「ッ!!」

 

 しかしシェリーも負けてはいない。流石の弾速で、魔法弾を連発。

 狙うはハヤトではなく、ハヤトの杖。

 身体に当たった程度では根性で無理矢理痛みを抑えて突っ込んでくる。ならば、杖を攻撃して武器を削ぐという算段だ。

 ハヤトの二杖流が魔法弾を切り落とす。

 その隙にシェリーは距離を取った。

 

(大した『銃』使いじゃあ)

(すごい『剣』使いだ……)

 

 好敵手が現れたと言わんばかりに、臓腑が喜びで波打った。

(普通の攻撃魔法じゃハヤトは気合で耐えて攻撃してくる。だから、私は武装解除呪文で杖を取り上げないといけないんだ。問題は、ハヤトが二つも杖を持ってるってことだけど)

(中距離で攻められるのはまずい。俺の間合いで攻撃せんといかんのう。問題は、近ければ近いほど早撃ちの餌食となってしまうということじゃが)

 両者の激突は同時だった。

 シェリーが撃ち、ハヤトが斬る。

 グレイバック程の怪物ではないが、ハヤトも相当の腕の持ち主だ。近距離戦という括りならば、代表選手の誰よりも優れているのではないか。

 もしこれが、本来の肉体だったとしたら。──考えるだけで恐ろしい。

 

(私がいつも通りに戦えているのは、魔法弾を撃ち出す戦闘スタイルだから、いつもとあまり行動が変わらないからだ。

 付け込む隙があるなら、そこ!)

「おう、来いい、来いい!もっとお前の魔法を見せてみい!全部俺が叩っ斬っちゃるわ!!」

 

 醒めぬ闘志。鬼のような気迫。

 されどシェリーも負けてはいない。攻撃の手は休めず、最善手を出す。

 お互いに攻めの膠着状態だ。

 一歩でも臆せばそこを撃たれる。

 一手でも間違えればそこを斬られる。

 のし掛かるようなプレッシャーを吹き飛ばすようにして、互いに技をぶつけ合う。

 攻撃に特化した──特化しすぎた二人の応酬は、狂気さえ感じさせた。

 幾度とないぶつかり合いの果てに、二人は互いに距離を取る。しかしてそれはハヤトの有利に働いた。

 

「───居合」

(やばっ)

 

 悪寒を感じた。

 見てから回避するのでは間に合わない。

 万象を屠り去る絶対の一撃が、来る。

「エクソパルソ!!」

 足場の爆破。

 咄嗟の判断だったが、それは間違いではなかったと悟る。瓦礫や土煙、更には展開した盾の呪文で身を守ろうとしたが、それらは全て真っ二つに切断された。

 驚きで目を見開いたシェリーの前には、姿あらわしでもしたかのように、ハヤトが一瞬にして姿を現していた。

 

「──見しげた(みつけた)

 

 にィ、と。

 頬が破れんばかりに、口角を釣り上げたハヤトは、凝縮した両手の魔力の刃を振り下ろそうとして──やめた。今は攻撃よりも回避だと本能が告げていた。

 今斬れば倒せる、という渇望と、

 今斬ればやられる、という本能。

 ハヤトは刹那にも満たぬ思考の後、後者を取った。しかし、その思考回路ごとぶっ飛ばすような速度で魔法が飛んで来た。回避でよかったと、心から思う。

 魔法糸。

 魔力を糸のように伸ばし、魔法を放つと糸に沿って魔法が飛んでいく。

 シェリーはそれをワイヤートラップのように活用し、ハヤトを糸が伸びる先まで誘い込んだ。その様は、巣で餌を待ち構える蜘蛛さながらだ。

 

(──誘いこまれたんは、俺か!)

 

 刹那の攻防戦の中、よくもまあこんな器用な真似ができるものだ。

 己の技に矜恃が無いからこその境地。

 自分を信じていないからこそ、的確に次の手を打つことができる。

 しかしその罠だらけの状況でなお、ハヤトの剣は止まらない。回避に特化したベガと攻撃に特化したハヤトという違いはあるが、ハヤトもまた恐るべき反射神経の持ち主なのだ。

 降りかかる火の粉全てが敵。

 腕が千切れんばかりの速さで全て斬る。

 彼の双剣は爆発的な速度を見せた。

 その最中、ハヤトは襲いくる弾幕の中に不自然な光を見つけた。何十もの攻撃魔法の中に一つだけ、明後日の方向に飛んでいく魔法がある。

 その魔法は壁に着弾すると、鉄の棒へと『変化』してハヤトに飛来。無論そんなものすぐに斬り落とすハヤトだが、斬った瞬間に背後から気配を感じた。

 

(シェリー!?……そうか、今までの攻撃は全てブラフか。全ては俺の背後から強襲するための罠!何重にも積み重ねた罠の中に隠した本命が、これか!

 しかし確実に仕留めるためとはいえ、この俺に接近してくるとは!

──ははっ、イカれとるのォきさん!!)

 

 戦闘時において、ハヤトの一瞬の思考は常人の熟考に値するほどのキレを見せる。

 彼の読みは全て正解。野生的な戦いをするように見えて、シェリーの戦闘の組み立て方は目を見張るものがある。

 しかし彼は戦闘の達人。背面斬りなど、とうの昔に会得している。

 前傾した体勢から即座に背後の敵に対応するという馬鹿げた荒業を見て、シェリーは遽に目を開くも、攻撃を止めることだけはしなかった。

 再度、激突。

 しかしここで強引に魔法を放てば、ハヤトに着弾して少なからずダメージは与えられるだろう。そう判断して、魔力を放出しようとして──

 

「ほいっと」

「──え?あッ──」

 

 ハヤトに斬られていた。

 脳が情報を処理しきれない。が、薄れゆく意識の中で、パズルのピースが嵌っていくような感覚を味わった。

 シェリーとハヤトはぶつかり、そこでシェリーは追撃をかけようとした。

 しかしシェリーは一つの事実を失念していた。ハヤトは二杖流なのだ、片方の杖が塞がっていても、もう一方の杖は自由なのだという事実を。

 しかもハヤトは杖を投げた。ひょい、という軽い音が聞こえるような、何気ない仕草で。シェリーの意識はそちらに向いてしまい、意識を逸らしてしまった。

 その隙を突かれ、ハヤトに斬られてしまったというわけである。自身の生命線の杖を戦闘中に手放す者がどこにいる?思考が止まってしまうのも無理はない。

 

 けれど、杖を二つ持つハヤトだけは、その選択をすることができる。

 そして、いくら二杖流とはいえ、あの高速戦闘の中で杖をあえて手放すことができるのも、ハヤトだけだろう。

 

(………つ、つよ〜〜っ)

 

 シェリーは困った。

 代表選手のトップ層が強すぎる……!!

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 結果から言えば、ホグワーツは悪くない順位だった。ベガとセドリックの尽力のお陰でレースでは上位だった。

 しかしシェリーは落ち込んでいた。

 慣れない身体というハンデがありながらも、ハヤトにボロ負けしたのである。

 あれはまだ本気を出してはいまい。

 

「元気出せよシェリー、仕方ないって。戦闘に特化した魔法学校の上澄みだろ?人外魔境だよ、ありゃ」

 

 ロンがそう言ってブイヤベースをシェリーに勧めてきた。それを有難く頂戴して舌鼓を打つ。代わりに彼の苦手なものを食べてもらおうという魂胆は黙っておいた。

 実際問題、ホグワーツが今まで一度も一位を取れていないのは代表選手の上位層が強すぎるからだと言える。

 ボーバトン、イルヴァーモーニーだけならまだホグワーツにも勝機があろう。ボーバトンの連携戦術は厄介だが火力不足気味だし、イルヴァーモーニーは反対に攻撃に寄りすぎだ。

 フラーの飛行、フロランタン姉妹の花魔法はサポートや対人戦で真価を発揮する魔術だし、バーニィ、サモエド、マスティフの爆音呪文は見境がなく、融通が効かなすぎるのだ。

 無論、厄介な相手ではあるが、同時に弱点もある。苦戦は強いられるだろうが戦えば勝利できる可能性は少なからずある。

 

(だから問題は……やっぱりマホウトコロとダームストラングだよね……)

 

 マホウトコロはあの通りだ。近距離戦で戦えばまず勝ち目のないハヤトに、同等の力を持ったコージロー。そして遠距離戦で他の追随を許さないタマモだ。

 ダームストラングは語るまでもない。だが敢えて語ろう。触れればアウトの雷魔法にダメージを肩代わりさせるネロ、やたら頑丈な身体を持つリラに、プロのクィディッチ選手ということを差っ引いても高い実力のクラム。

 各校のオールスターが揃い踏みだ。

 

「ダームストラングのネロ、マホウトコロのハヤトとコージロー。この辺りは特に警戒が必要ね」

 

 今名前の挙がった人物は魔法界でも指折りの猛者だ。単純な戦闘でなら、今大会で最強クラスだろう。

 ベガは最強の学生になると宣言したが、そのためには彼達を越えなくてはならない。高い壁だ。あと数年成長を積めばまた違うのだろうが、三年の差は大きい。

 けれどベガは止まらなかった。

 その日、ムーディに呼ばれクィディッチ・ピッチへと行くと、代表選手達が勢揃いしていた。……跡形もない。魔法がかけられた植物があちこちに生えていて、生垣が壁のように聳えている。青々としたピッチは見る影もない。セドリックとシェリーが抗議の声をあげた。彼達は生粋のクィディッチだ。クラムも静かに頷いていた。

「心配するな殺すぞ!試合が終われば元に戻るわ呪うぞ!!」

 聞けば、次の試練が最後なのだとか。

 長いような、短かったような。

 泣いても笑っても次が最後なのだ。

 

「試練はこうだ!迷路の森を抜けて、一番早く着いた者の勝ち!簡単だろうが?」

「楽しそうでーす」

「シェリー、一緒に周りましょ」

「お姉様もそれでいいですか?」

「勿論でーす。大勢で回った方が楽しい」

「わ、私の知らないところで話が進んでいる……!」

「仲良しなのは良いことだが、今回の競技ではそうもいかん。なんせ代表選手達はバラバラに分断された状態でスタートするのだからな!」

 

 それは同じ学校のメンバーとて例外ではない。十五人がそれぞれ所定の位置からスタートし、ゴールに置かれてある優勝杯を掲げた者の勝利というわけだ。

 そして優勝杯に近付けば近付く程、罠や魔法生物が増えていく。そうした困難を乗り越えた者にのみ勝利の女神は微笑むのだ。

 勝利の鍵は他のメンバーと早く合流することだ。味方が多ければ多いほど試練は突破しやすくなる。あと観客席も色んな映像が観れて楽しいだろう。

 

「バタイユ・ロワイヤル?んっんー、それならボーバトンが勝てる可能性はまだありそうでーす」

「……ええと、何でフラーは今私の頬っぺたを触っているの?」

「おおう、シェリーのお肌ぷにぷにでーす。触りがいありまーす」

(答えになってない!)

「第二の試練以降すっかり仲良しッスね」

「俺とダンスパーティー行った時は警戒しまくってたのにな」

「羨まし……な、何でもないよ、ベガ。だからその目をやめてくれ」

「……。想いは黙ってるままでヴぁ伝わらないぞ」

「えっ。あ、ありがとう?」

「愛しのハーミーと上手くいってないから僻んでるのカ、ビッキー」

「黙れ」

 

 各々軽口を叩き合いながら、城へと帰っていく。シェリーも戻ろうとしたが、コージローとクラムが残っているのに気がつく。日課の鍛錬をするらしい。

 いつの間に仲良くなったのやら。

 クラムはダームストラング生だが、ネロやリラとはどうも反りが合わないらしく、時折マホウトコロのような気持ちの良い連中と鍛錬しているのをたまに見かける。

「お前もどうだ?」

 断る理由もなかった。

 

「ライバルに手の内を晒すようで気が引けるが、もうここまでくれば俺の魔法は大体バレてるか」

 コージローは笑うが、分かっていてもどうしようもないものはある。

 組み手をしてそれを思い知らされた。

 感覚としては、ベガに近い。

 攻撃は尽く回避され、速さと手数で翻弄される。闇雲に攻めるだけでは勝ち目はなさそうだ。攻撃が当たらない分、ハヤトよりも厄介かもしれない。

 

「流石にヴォくの実力は彼ほどでヴぁないが、それでも足手纏いにならないくらいには鍛えてあるぞ」

 そう言うクラムだが、日頃の鍛錬の甲斐もあってか、コージロー達の高速戦闘にもある程度対処できるだけの実力があった。

 他の代表選手が派手すぎてつい霞がちだが、そもそも彼も世界最高のシーカーと評される男。

 そんな彼が弱いわけはないのだ。

 

「シェリーは攻撃手段が単純すぎるというか、本当に攻撃に寄りすぎているんだな。それじゃあいつか限界が来るぞ」

「おっしゃる通りです」

 

 二人に軽く捻られて、芝生の上に転がる。そのまま息を整えていると、タオルを投げられた。

 何かと思えば、クラムが「年頃の女子が人前で腹を見せるな」と、少し紅潮した顔でモゴモゴ言っていた。何のことか分からなかったが、有難く受け取った。

 休憩時間中、クラムとクィディッチ議論を繰り広げる。ニンバス系は箒の先端部分の操作が負荷がかからないだの何だの。

 コージローの祖国、ニホンではトヨハシ・テングなるナショナルチームがあり、負けたら箒を燃やすという話を聞いてジョークかどうか判断に迷った。

 

「──ん?この声は……」

 どこか懐かしい声がした。

 気になって、シェリーが気になって茂みの奥の方へと進むと、ネロとリラのダームストラング兄妹が話し込んでいた。

 

「リラ、情報は集まったカ」

「ご、ごめんなさい兄さん……まだ……」

「ちっ。まあいいさ、最初から期待なんてしてねえからナ。まあ魔剣のことはいい、問題は最後の試練ダ。

──シェリー・ポッターとベガ・レストレンジ。あいつ達だけには対抗杯を取らせるわけには………、っ、誰ダ!」

「わっ」

「!お前達……」

 

 ネロはバツの悪そうな顔をした。

 聞かれたくない話だったのだろうか。

 

「オーイ、シェリーどうした?

 ……ああ、何かと思えばダームストラング兄妹か」

「聞き耳とは感心しねえナ。仮にも代表選手ともあろう者が、随分とまあ姑息な手段を使うもんダ」

「ご、ごめんね。聞こえてきちゃって」

「ネロ、シェリーとコージローは悪気があったわけでヴぁない。偶然ここを通りがかっただけだ」

「………ちっ。行くぞ、リラ」

「待てよ、二人とも」

 

 サッサとその場から去ろうとするネロに、声をかけたのはコージローだ。

 

「お前達も一緒に修行しないか?代表選手同士、共に汗を流すのも良いだろう」

「は?」

「おい、コージロー。それヴぁ……」

「……自分の手の内を敵に見せる気にはならねえナ。お前もほどほどにしておけよ、ビッキー。行くぞ、リラ」

「え!で、でも、兄さん……その」

 リラは残念そうな顔をした。

 彼女はこれまで友人に恵まれなかったらしく、この対抗試合の期間中にシェリー達と交流できたことが嬉しかったのである。

 だからコージローの誘いは、正直言って嬉しかったのだ。

 そんな妹の様子など気にも止めず、さっさとその場を去ろうとするネロだったが、いきなりぴたりと止まると、

 

「………いや、待てよ。これは………

 オーケー、ちょっと運動用の服を持ってくるから待っててくレ。

 おいリラ、俺が戻ってくるまでの間、一発芸でもして場を盛り上げとけ」

「えっ!?えーと、ま、マートラップの物真似いきまぁす!」

「いやしなくていいわ粗忽者が!!」

 

 コージローが一喝してリラの奇行を阻止する。彼女は少々兄にいじられ過ぎじゃなかろうか。

 クラムは微妙そうな顔をしたが、彼達の鍛錬を断る理由もない。早速再開しようという時に、リラが、思い出したかのように口を開いた。

 

「魔剣伝説はご存知ですか?」

 何だそれは。

「ホグワーツの四人の創始者はそれぞれ形状の違う剣を所有した魔剣士だった、という伝説があります。彼達は若い頃、互いに協力してとある怪物を倒したとか。

 そして怪物を滅ぼしたその剣は今も世界のどこかに形を変えて存在する……という伝説です。

 或いは帽子の中に身を潜めたり、或いはロケットに封印されたり、他にも髪飾りやカップへと形を変えているとかなんとか」

 

 ロックハートが喜びそうな話だ。

 彼達ほどの人物であれば、剣術を使えてもおかしくないが、実際にその剣を見ないことには判断のしようがない。

 どこかの想像力豊かな人物が作った御伽噺ではなかろうか。

 というか、そもそもシェリーも然程ホグワーツの歴史に詳しいわけではない。それは彼女が魔法史が苦手というのもあるが、ホグワーツの創始者時代の文献は殆どが失伝しているのだ。

 ……バジリスクに聞けば教えてくれるだろうか?

 

「へえ、そんな伝説があるなんて知らなかったなぁ……」

「そ、そうですか……」

「しかしまた、何でそんな伝承を調べているんだ?」

「えっ!えーと、わ、私達、歴史とか好きなんですよね」

 

 そっかぁ、ちょっと意外だなあ。

 と呑気にシェリーとコージローは考えたが、クラムはどこか訝しげな顔だった。

 

「おい、ネロは一体何を企んで──」

 クラムがずい、とリラの方に身体を傾けた。シェリーのすぐ近くに頭がある。

 と、その瞬間、

「──────」

「?……どうしたの?」

 コージローが立ち上がった。

 

「おい、そこにいるのは誰だ」

「………?」

「こっちは腐っても忍者の家系だぞ。その程度の殺気、俺が感じ取れないとでも思ったか」

 

 その迫力に、シェリー達は思わず黙り込んで息を飲む。ややあって、観念したかのようにその男は出てきた。

 

「えっ、クラウチさん……!?」

 バーテミウス・クラウチ。

 魔法省のお堅い役人で、パーシーから絶大な信頼を得ている人物。しかし過去に過剰な正義を振り翳していた男でもある。

 仕事人間で、休むくらいならヒッポグリフと駆けっこする方がマシとまで言われている彼が、どうして……。

「ど、どうして今、ここに……?」

 

 彼の様子は尋常ではない。

 シェリー達の様子が目に入っていないのか、ぶつぶつと妄言を繰り返し、物乞いのようなボロを身に纏っている。パーシーからは殆どの業務を手紙でこなすと聞いていたが……到底、今の彼にそんなことはできそうにない。

 

「訳が分からんが、ともかく今はこの人を医務室まで運ぼう」

「ああああああああ!!!」

「!?」

「ダンブルドア!!ダンブルドアに、私は早く会わなくては……会って何を話す?そうだ、対抗試合について話す、あれは私の尽力した試合だ、紅茶でも飲もう。君はどうしてどうする?

 なあオスカー、君は聞き上手だな。聞いてくれよ、妻と息子に会わせる顔がないんだ、私はなんてことを、ごめんなさいごめんなさいオスカー私はどうすればいい?君ならどうする?──」

「こ、この人どうかしてます……」

 

 リラの指摘はもっともだ。

 とはいえこのまま放置しておくわけにもいくまい。体格の良いコージローとクラムが彼を持ち上げようとするが、突如として暴れ出したクラウチにはずみで殴られてしまった。

 仕方がないので、魔縄で縛り上げることにした。それでも抵抗をやめないクラウチには狂気じみたものを感じたが、こんな状態の彼に下手に魔法を使えばかえって容態は悪化しかねない。

 石化や麻痺の呪文を使うのは駄目だ。

 

「私、ダンブルドア先生呼んでくるよ!」

 

 事件の匂いがする。

 となれば、呼ぶべきはポンフリーではなくダンブルドアだろう。

 校長室の前まで走り、そういえば校長室の合言葉を知らないことに気がついた。彼女は何気にこの部屋に入ったことがない。

 ガーゴイルが退屈そうに欠伸した。

 部屋の前でたたらを踏む。通りすがりの生徒に怪訝な顔で見られるが気にしない。

 事は一刻を争うのだ。

 

「ガーゴイルさん、何とかそこを通してもらうわけにはいかない!?」

『合言葉を言わねえことにはなァ』

「じゃっ、じゃあ、ダンブルドア先生を呼んできてもらえないかな?今、何気に結構大変な事態が起きてると思うんだ」

『お前が合言葉を言ったらな』

 

 取りつく島もない。

 困った、代わりに職員室から誰か先生を呼ぼうかと思っていると、目に入ったのはマクゴナガルとスネイプ教授だった。

 

「いい加減ポッターにちょっかいかけるのはやめたらどうです」

「だからそんなんじゃないと何度も……、ポッター!何をしている」

「あー、先生!クィディッチ競技場の近くてわクラウチさんが倒れてて……」

「クラウチだと?そんな馬鹿なことがあるか嘘をつくな一点減点」

「クラウチが?彼が何故ホグワーツにいるのです?グリフィンドールに一点」

 

 事情を説明すると、二人は現場に向かって走り出す。俊敏な動きだ。シェリーより一回り歳が離れているとは思えない。

 

「今、年齢について考えませんでしたか?

……現場はここですか。……これは」

「!?コージロー、リラ、クラム!?」

「!──お前達か」

 酷い惨状だった。

 地面には明らかな戦闘の跡。至る所が切り裂かれ、抉り取られていたり腐食していたり、明らかな魔法の痕跡が残っていた。

 しかし見るべきはそこではない。

 その中心にいる、三人。

 クラムは肩を袈裟斬りにすっぱり切り裂かれていた。

 リラはうつ伏せに倒れ、意識が無いようだった。

 コージローは息も絶え絶えに、二人を守る形で臨戦態勢だった。

 ……頭が痛む。彼達を見ると、何故だか酷い頭痛がする。

 シェリーとホグワーツの教師が来たことで落ち着いたのか、コージローはふっと警戒を解いた。

 

「シェリーが行った後、俺達は何者かに襲撃されたんだ」

 コージロー達がクラウチを見張っていると、どこからか魔法が飛来した。咄嗟に躱してその方向を見たが、そこには誰もいなかった。しかし尚も攻撃は続いた。

 おそらく、襲撃者は透明マントを被っていたのだろう。各校の指折りの実力者が三人いるといっても、相手の姿が見えなければどうしようもない。寧ろその状態である程度粘れたのは流石と言うべきか。

 しかし謎の紫色の魔力がリラに着弾してしまい、彼女はその場に倒れてしまう。防御力の高い彼女が倒れたことと、味方が一人やられたことに動揺してしまい、その隙にクラウチが連れ去られてしまった。

 追おうとしたが、手傷を負ったままでは返り討ちに遭うだけだ。どこかへ消えて行くクラウチをみすみす見逃すことしかできなかった。

 

「不甲斐ない話だ。俺の修行不足が招いた結果だ」

「それはヴォく達にも言えることだ。自分を責めるな、コージロー」

 

 いつの間にやら仲良くなったらしい。

 同じくストイックな気質を気に入ったのだろうか。クラムなど、ダームストラングにいる時に見せなかった表情だ。

 三人はマクゴナガルが治癒魔法で応急処置を施され、担架で運ばれていく。リラも命に別状はなさそうで、気を失ってはいるが苦しそうにはしていない。

 

「……ポッター、来い。校長がお呼びだ。ああそれと我輩の薬品棚から鰓昆布を盗んだだろう一点減点」

「グリフィンドールに一点。セブルス、あれがシェリーの犯行だという証拠はない筈ですよ」

(すいません……強ち間違ってません……)

「それだけではない。毒ツルヘビの皮にクサカゲロウが無くなっていた、ポリジュース薬でも作っているのだろう五点減点」

「グリフィンドールに五点。あれは精製に上級生でも手こずる魔法薬であることは、あなたが一番よく知っている筈ですが」

「………十点げんて」

「セブルス」

 

 憮然としたスネイプに連れられて、再度校長室の前までやってくる。彼が合言葉を言うとガーゴイルは素直に飛び退き階段が現れた。(スネイプが無表情でペロペロ酸飴と言ったのが何だか面白かった)

 中にいたのは、珍しく険しい顔をしたダンブルドアと最強の闇祓いのアレンだ。

 闇祓い達の警備はより強化され、ホグワーツ外部から敵がやって来ないよう十分な警戒をしていた筈だが、今回の襲撃は起きてしまった。子供達に被害が及ぶことをよしとしない彼にとって、この出来事は辛酸を舐めさせられた気分なのだろう。

 

「話すのは久しぶりだな、シェリー」

「久しぶり、アレン。闇祓いの人達は仕事が忙しそうだったからね」

「わしもシェリーとはものっそい久しぶりに喋る気がするのォー。さて、君には色々と知るべき事実がある。今日はそれを教えねばと思っての」

 

 言うと、彼は銀色に輝く液体が揺らめく盆を取り出した。それは『憂いの篩(ペンシーブ)』。

 人が持つ脆弱な記憶を保存・観賞することのできるマジックアイテムだ。

 覗き込むようにしてそれを見ると、シェリーは記憶の中に吸い込まれていく。記憶の旅はリドルの日記帳以来か、と懐かしんでいると、その記憶は姿を現した──。

 

 




次回更新は7月30日になります。
次々回をシェリーの誕生日と合わせるためなんや仕方ないんや二週間待たせちゃうねごめんね。
皆んな大好きあのキャラも登場するから楽しみにしててね。

◯魔剣伝説
ホグワーツの創始者はグリフィンドールを始めとして剣の扱いにも優れており、それぞれの魔力を込めた魔剣を所持していたという伝説。
その剣により北の怪物を滅ぼしたと言われている。
四つの剣は彼達の死後、形を変えたり帽子の中に隠れたりして今も残っているのだとか。
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