シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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Goblet of FireⅡ

 アラスター・ムーディーは、やけに興奮した面持ちで廊下を走っていた。

 向かう先は医務室。シェリーとベガ、そして三人の代表選手の遺体が置かれてある場所だ。

 

(シェリー・ポッターの魔力が変質していた……魔法の義眼で観たから間違いない!あれは紅い力、闇の帝王が考案し、創りたもうた力だ!帝王は復活なされた!!)

 

 ぎちぎちと、ポリジュース薬の効果が切れていくのを感じる。だが別にいい、もう変装する必要などないのだから。

 医務室にいるのは警備についている闇祓いだけだ、大多数は大混乱の会場の方に回されているのだろう。これはまたとない好機だ!

 そこで、自分は、シェリーを……。

 

「アレナス、砂よ!」

「なッ!?」

 

 突如として自分の身体を覆う砂に、身動き取れなくなってしまう。杖で何かする前に『武装解除』されてしまった。

 やって来たのは十人ほど。

 レックス・アレンを始めとする闇祓いの面々。そして、セブルス・スネイプだ。

 まさかこいつら俺の正体を!?と思った時には、既に魔法がかけられていた。

 

「汝の秘密を現せ!」

 

 骨格が変わり、義足が外れ、髪が艶を取り戻していく。ガサガサの肌に潤いが戻っていく。そして数秒も経たないうちに、彼は本来の姿を取り戻した。

 バーティ・クラウチ・ジュニア。

 それが今回の事件の黒幕だった。

 アレン達闇祓いはスネイプの証言から何者かがポリジュース薬を錬成していることを知り、怪しい人物を教師や生徒、仲間達も含めて全て洗い出していたのだ。ムーディーはその一人だった。

 

「は、はは。俺の真実を知ったな!よくぞ気付いたものだ!どうだアレン、今の気分は!まるで十三年前の再現だな!?あの時もお前の砂で俺は……」

「ステューピファイ、レダクト、コンフリンゴ、エクスペリアームス、スコージファイ、結膜炎、セクタム……」

「ぐへぁっぎゃっがぐぁやめべ多っ」

「スネイプ教授、そのくらいに」

「………チッ」

 

 ボロッボロだった。

 もはや意識があるのかも疑わしいが、それでも彼には聞くことがある。活性呪文をかけると、ジュニアは少しは元気を取り戻したようだった。

 スネイプは真実薬を取り出す。

 魔法界における自白剤だ。これを使えば尋問の手間も省けるというもの。

 

「んごッごッごぶっちょっがぶ多っ」

「スネイプ教授、そのくらいに」

「………チッ」

 

 びっしょびしょだった。

 顔中が真実薬まみれになったジュニアは、咽せながらもアレン達の質問に従順に答えていく。

 

「ごぼ……俺はこの最終戦でシェリーに移動キー化した対抗杯を掴ませて、帝王のところにシェリーを飛ばすことが目的だった。帝王の復活は闇の印を見れば分かる。そこのスネイプに聞けば分かるはずだ」

「…………」

「この対抗試合はシェリーを成長させる役目もあった。紅い力を覚醒させるためだ。あれは実力のある魔法使いでなければ使いこなせない代物だ……。

 帝王はシェリーを死喰い人の幹部にすることで、魔法界に絶望を与えようとしていたのだ。俺もその手伝いをした、マッドアイをペティグリューと共に襲撃し、奴に成り変わった!あいつは今も職員室のトランクの中に隠してある……」

「アタシ見てくるよ」

「任せた、チャリタリ」

 

 褐色の闇祓いに捜索を任せると、アレンは続きを促した。

 

「お前はどうやってアズカバンから脱獄した?あの時、確かに俺が更迭した筈だが」

「俺を哀れんだ母が、ポリジュース薬を使って俺と入れ替わったのだ。最期まで俺が罪を侵したと信じて疑わなかった……

 俺の父は屋敷に俺を閉じ込めた。俺が暴れると服従の呪いを使って押さえつけた。身の回りの世話は屋敷しもべのウィンキーにさせていた……」

「厨房行って連れてくるッス」

「頼む、ジキル。……続けろ」

「ウィンキーの頼みで俺はワールドカップに連れて行かれることになった。透明マントを被り試合を観戦していた、が、その時俺の力は服従の呪文を打ち破れるまでに回復していた。

 たまたま近くに座っていたシェリーの杖を奪い、勝手気ままに騒ぐ死喰い人達への怒りで俺は完全に服従を解き、闇の印を打ち上げた。だが、その後闇祓い達の魔法に当たって気を失ってしまい、目が覚めた時には父の屋敷だった」

「……あの時のクラウチさんの怒りようはそういうことだったのか。息子を逃がしかけてしまったウィンキーに対する……」

「そうだ。俺は再び自由を失った。だが、そのすぐ後に帝王がやってきて俺を解放してくださったのだ!!」

 

 そこからは推測通りだ。

 クラウチ氏を服従させ屋敷に閉じ込め、隠密に事を進めていたジュニアだったが、暫くしてその効果が薄まり、クラウチ氏は屋敷から逃げ出してホグワーツにやってきた。ダンブルドアに伝えなければと思ったのだろう。

 しかしジュニアは彼を再度捕縛し、そこでクラウチ氏は殺された。かつての上司が殺されたことに、アレンは苦々しいものを感じた。

 

(クラウチさん、あなたは正義を信奉すると同時に、家族への情を完全には捨て去ることができなかったのか……

──感傷に浸るのは後だ。闇の帝王への対策を練らねばなるまい。『騎士団』を再び発足する日も近いかもな……)

 

 一度愛の魔法でヴォルデモート卿は敗れている、よって彼は肉体を得た後も以前のように表立って行動することはしなかった。

 水面下で準備を進め、全盛期以上の力を手に入れるために奔走し、そして今日その儀式が行われてしまった。

 だが、ヴォルデモート卿の復活も脅威だが、果たしてあのファッジがこの事実を信じようとするだろうか。彼の本質は臆病者であり、なまじ権力がある分、何をしでかすか分からないのだ。

 アレンが思考していると、ジュニアは下卑た笑いを浮かべた。

 

「ハッハハハ……悔しいだろうアレン、お前の掲げる正義とやらの牙城が崩れ去る時がついにやって来たんだからな!

 お前のその顔が見れて俺は嬉しいよ!」

「………そうか。それは何よりだ」

「そもそも俺はお前のことが昔っから気に食わなかったんだ!本物の息子の俺を差し置いて、父の隣に並び立つお前が……。

 だがそれももういい!あんな愚かな父親にどう思われていようが詮無きこと!俺はもっと素晴らしい人物からの愛情を受け取ったのだからな!!」

「闇の帝王のことか?水を差すようだが、あの男は誰かに愛情を注ぐような神経はしていないさ」

「違う!!シェリーのことだ!!!」

「…………んっ?」

 

 何故、そこでその名前が出てくる。

 スネイプの眉が釣り上がった。

 

「あいつは俺に対して一人の人間として接してくれた女の子だ!!あんなに優しくて笑顔が可愛い奴がいるか?いやいない!!

 闇の帝王には悪いが俺は今日限りで闇の勢力を抜けさせてもらう!!そして元の姿に戻って……

──俺はシェリーに告白する!!!」

「は?」

「は???」

「何言ってんだこいつ」

「……こいつはアズカバンより聖マンゴに送った方がよろしいかと」

「同感だ」

「俺がどれだけ女日照りだと思ってるんだあんな可愛い子に笑顔向けられるだけで惚れるに決まってんだろうがロリコン上等だ馬鹿野郎!!!」

「分かる」

「分かってくれるかスネイプ!!!」

「おい」

 

 何故かクラウチ・ジュニアと分かり合ったスネイプはすぐさま正気に戻るが、周りからは白い視線を向けられていた。

 そこに、チャリタリの肩を借りながら本物のムーディーがやってくる。

 ……いや、肩を借りながらというより、静止するチャリタリを引き摺りながらこちらに走ってくる!

 

「ちょっ、ムーディー、止まって!まずは医務室に行こうよ!!」

「黙れそれより先に闇の輩の確保だ!!」

「なっ!?貴様っ、俺とペティグリューであんなに痛めつけたというのに!!」

「あの程度でわしが屈すると思うたか!!あれくらい杖などなくとも何とかなるわ!闇の輩が!!死ね!!死ね!!!」

「ごばばっあがっぎゃっ待っべ多っ」

「ムーディーさん、そのくらいに」

「死ね!!死ね!!」

「スネイプ教授も便乗するな!!」

「チッ!!!」

 

 ボッコボコだった。

 

「ごほぁっ、クソッ!俺はシェリーに告白するまでは死ねないというのに!!」

「……どっちみち、あの子は今告白どころじゃないぜ」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「何で入れないんですか!?」

「理由を説明してください!!」

 

 医務室の前は、シェリー達を心配する友人達でごった返していた。ロンとハーマイオニーは勿論のこと、ネビルやジニーといった獅子寮の面々、チョウ・チャンなどの他寮の生徒まで押しかけている。

 他校の生徒は各校の校長達が諫めているようだが、そういった人達までもが彼達を心配するほどの人気なのだ。

 スプラウト教授が扉の前で仁王立ちして侵入を阻むが、ロン達もそれで黙ってはいられない。と、そこにマクゴナガルがやって来た。

 

「ロナルド・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー、来なさい。貴方達には友人として知る権力があります」

 

 重苦しい老婆の言葉に緊張が走る。

 面会謝絶の札が置かれた扉をくぐり中へ入ると、奥の方まで連れてこられる。

 天蓋付きのベッド。そのカーテンには、何やら呪詛が綴られた札が何枚も貼られており、不安をいっそう駆り立てる。

 

「──ポッターは怪我をしていましたが、幸い、傷自体はポピーの腕をもってすればすぐに治せるものでした。

 しかし……問題は、彼女の精神の方で、ええ、友人を同時に三人も失ったことが堪えたようなのです」

 

 常に厳正な彼女が、弱々しく震えた口調でそう言った。マクゴナガルが札の一つを剥がすと、ロン達はすぐにその理由を知ることになった。

 

「うわあああああああああああ!!!」

 

──シェリーの、叫び声。

 

「嫌だ、嫌だ、ローズ!!ブルー!!死なないで、ごめんなさい、私が、ああっ、セドリックまで、やめて、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!ぁあああ、殺してやる殺してやる貴様を私が……あああああ!!!!」

「鎮静剤を!シェリー、私です!ここに敵はいません、ここはもう安全ですよ!」

「殺した、コロシテ、ごめんなさい、誰か彼を助けてセドリックをどうか、やめて、私が私で私を守れなくて貴方を殺して──貴様が、貴様が貴様が貴様が!!報いを受けさせて、コロス殺して苦しめ貴様を、私がこの手で──」

 

 そこが限界。

 マクゴナガルは、そっと札を戻し、後には静寂だけが残った。……その顔はとても疲れ、悲嘆しきった女のものだった。

 

「何だよ、これ」

 ロンはそういう他なかった。

 ハーマイオニーは悲しみに暮れた。

 誰よりも優しかった少女は、絶望の淵に立たされてしまったのだ──

 

 

 

「──うん。大丈夫。

 ごめんね、心配かけて」

 

 ダンブルドアがやって来たのは、しばらくの日が経ってからだ。

 彼はシェリーの昏い瞳を見て、全てを悟ったようだった。シェリーはあの日あったことを全て話した。

 ヴォルデモート卿復活。

 紅い力。

 ハリー・ポッターの存在。

 シェリーがホムンクルスという事実。

 それらを全て受け止めると、彼は、いやに衰弱したような顔になっていた。

 

「謝罪から、入ろう。シェリー、わしは真実を口にすることを恐れた。そのせいで君に残酷な真実を告げることになってしまった。取り返しのつかないことをした。

 ……黙っていて、すまんかった」

「いえ。どちらにせよ、私のやることは変わらなかった。ヴォルデモート卿を殺す、それが使命なのでしょう?」

「……………」

「先生。私の身体について、詳細な説明を求めます。ヴォルデモート卿が聞いてもいないのにべらべらと喋ってきたので、大凡の事情は把握していますが」

 

 ダンブルドアはシェリーの自己犠牲を咎めることはしなかった。彼もまた、心のどこかでシェリーを駒と見ていたし、その敬虔な姿は大衆の希望となり得る……という打算的な思いがあったからだ。

 

「……詳しいことは、ヴォルデモートめが踏ん反り返りながら話したじゃろうが。

 奴はあの日、ポッター家に二人の部下を引き連れてやって来た。うち一人は知っての通りペティグリューじゃが、もう一人が誰かは分からん。

 そこで奴は一度滅びたが、部下に命じて君と……ハリーというホムンクルスを創造した。時にシェリーや、夢の中で会った少年とは、ハリーではなかったかね?」

「ええ。彼とは夢で何度も会いました。目が覚めるといつも顔を忘れてしまっていたんですが、あの雰囲気は……ハリーで間違いない。確信を持って言える」

「きっと夢の中から君にコンタクトを取る腹積もりだったのじゃろう」

 

 兎にも角にも、ヴォルデモートにとって必要だったのはシェリーが紅い力に目覚めることだ。闇の陣営に加えたかったのもあるが、そもそも自分が創造した存在が力に目覚めないような軟弱者など許さない、おいう考えだったのだろう。彼はそういう性格だ。

 帝王はハリーに命じて、夢の中からシェリーの意識に訴えかけていたのだ。

 

「話の続きじゃが、ヴォルデモートは紅い力の種とも言うべき魔力を、君と、ハリーに植え付けた。いつか力が芽吹くことを期待しての。

 ハグリッドが君を連れて来た時は、どうしたものか本当に迷った。君が創られた存在であることはすぐに分かったし、君の内に眠る力にも気付いた。正直に言えば、殺してしまった方がこの子のため、とも思っていた。

 ……しかしわしは君を殺さなんだ」

 

 それは、赤子を手にかけることへの後ろめたさもあったが、シェリーが真っ当に成長してくれることへの期待もあったのだという。

 

「ハリーはその後闇の陣営に引き取られたそうじゃ。わしは最近までハリーの存在に気付いていなかった。闇の勢力が怪しい動きをしているとは思っていたが、まさか、君の弟とも呼ぶべき人物がいたとは……

 よほど隠蔽工作が得意な人物が、闇の勢力側にいるとみえる」

 

 ヴォルデモートの信頼する部下であり、あの運命の日に居合わせた人物。どうやらクラウチ・ジュニアやベラトリックスなどの忠誠心の高い部下でもないようなのだ。

 何せ彼達は、その日は別の場所で戦っていたり、目撃されているという情報があるのだ。闇の勢力もなかなかどうして層が厚い。

 そも、紅い力を持った幹部があと六人も控えているのだ。

 あのグレイバックと同等の力を持った魔法使い達が、そんなにも……。ハリー、ペティグリューという優秀な魔法使い達の力を更に高めるのが、『紅い力』。

 グレイバック戦も、彼が弱体化してシェリー達に油断しまくって何とかギリギリ持ち堪えたようなものだ。一体どれだけの激戦になることだろうか……。

 

「そういえば私も紅い力には目覚めましたけど、これで闇の勢力の幹部と同じくらいの強さになったんでしょうか」

「何とも言えん。魔力は強化されているようじゃが、まだまだ彼達の領域までは達していないように見える。

 時間をかけて馴染ませて、徐々に強くなっていくのかもしれん。紅い力に関してもまだまだ研究が必要じゃな。しかし、ゆめ力に溺れるでないぞ」

 

 シェリーは頷きを返した。

 

「……そういえば疑問があります。一年時のクィレルのことを鑑みても、私には愛の護りが働いている。けれどそれは本当のシェリーに働くもので、ホムンクルスの私に働くのはおかしいですよね」

「おそらく、ヴォルデモート卿がリリーの愛の魔法を君に引き継がせたのじゃ。あの魔法は闇の帝王すらも凌ぐ魔法、その特性を便利だと思ったのじゃろう」

「成程。私が死ぬのは向こうも困るから、ですね」

「有り体に言えばそうなる」

 

 彼はシェリーを娯楽の人形として見ている節があるが、それなりに愛着もあったのだろう。自分以外のものに壊されることを忌避する愛着が。

 実に傲岸で、くだらない理由だ、とシェリーは脳内で吐き捨てた。

 さて。

 聞きたいことはまだまだあるが、少なくとも知りたいことは知れた。ならば身体を労って休むべきだろう。

 シェリーは横になる。ダンブルドアが部屋を出る寸前、一人の愚かな男の顔をして呟いたのを聞いた。

 くたびれきった声だった。

 

「わしは愚かじゃった。決断を先送りにして事態を悪化させるような馬鹿を何度もやった。今回もそうじゃ……君に真実を伏せたのは君を傷つけたくなかった以上に、わし自身が傷つきたくなかったからじゃ。

 本当に……仕方ない老いぼれじゃ」

「シェリー、君には友がおる。愛すべき人達が大勢いるのじゃ。君は一人ではない。君が愛を与えてきた全てから愛を返される時がきっと来る。その繰り返しで歴史は紡がれていき、伝説は刻まれていくのじゃ。

──そのことを忘れてはならぬ」

 

 忘れるものか。

 己が護るべき友を忘れるものか。

 私は、彼達の為なら、何も捨て去ってもいい。何も惜しくなどない。

 この命でさえも──

 

 その後シェリーは、周りが驚くくらい穏やかに過ごしていた。

 絶望に打ち拉がれた顔ではなく、どこか陰はあるがその口もとには微笑が添えられており、落ち着きすら感じさせた。

 しかしその眼は濁っていた。

 それに気付いたロンとハーマイオニーは、心の底から彼女の復活を喜ぶことができなかった。

 

「──シェリー、大丈夫、なの」

「うん。平気だよ」

「あー、え、ええと、ママがリンゴ買ってきたからさ、今持ってくるよ!」

「そっか、ありがとう」

「………………」

 

 あの日からシェリーは変わった、とロンとハーマイオニーは思っていた。

 彼女には清流に咲く花のような清々しさと可憐さがあった。

 だが今はどうだ。彼女の雰囲気は淡白なものとなり、時折、その瞳には烈火の如き地獄が映っている。

 あの事件が彼女の負担となっていることは間違いなかった。……けれども、二人は彼女にかける適切な言葉を持ち合わせてはいなかった。

 それが、

 どうしようもなく悔しかった。

 

「悔しい、私、悔しいわ。何もできなかった自分が悔しい。人が死んで、あの子が悲しんで、でも何もできることがなくて」

「ハーマイオニー……」

「私──こんなにも無力だったのね」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 代表選手達との別れがやってきた。

 最後に苦い出来事が起きてしまったが、各々、寂しさは見せないようにしていた。泣いてしまえば最後、それが悲しい別れとなってしまうのを理解していたからだ。

 幽霊船や、天の馬車の前でそれぞれの学校の生徒達は別れを惜しんでいた。短い間だったとはいえ、その友情は本物だ。

 だが、シェリーがここにいないことだけが彼達にとって心残りだった。彼女は目下療養中であり、ポンフリーに外に出ることは禁じられているのだ。

 

「ひぐっ、ぐすっ、タマモさん、ご指導ご鞭撻ありがとうございました!『秘密の部屋』で力のコントロールを教えてもらってわだじ成長でぎまじだぁぁあ」

「うん……ねえ、あそこって本当に使ってよかったの?なんかホグワーツの最重要の機密のような気がするんだけど」

「うわああああああん」

「……ああ、もうっ!仮にも英国淑女がそんな顔しないのっ!ほら、ハンカチで拭いたげるからこっち見て!」

(おいハヤト、見ろ。タマモのやつ、異国の地でもお姉ちゃんしてやがる)

(いつの間に出会ったんじゃあいつら)

「ちょっとそこ、聞こえてんだからね?」

 

 コルダはタマモに人目も憚らず思いっきり抱きついていた。わずか一年足らずの間ではあったが、自分の秘密を共有できる相手、さらには師弟関係ということで大分心を開いていたのだろう。

 マホウトコロの戦士達は、同年代の生徒と比べて小柄な、しかし同年代の誰よりも強靭な肉体に、これから起こりうる闘争の予兆を感じ取っていた。

 

「俺達はまたここに来っぞ。闇の帝王だか何だか知らんが、俺達の前に立ち塞がる言うんなら全員ぶった斬っててやっど」

「今回ばかりは同意見だ粗忽者。俺達の力は仲間のために……強くなれ、シェリー」

 

 サーベラスの三人はセドリック達に向けての鎮魂歌を歌っていた。

 派手なメイクで隠してこそいたが、その表情は陰鬱なものだ。仮にも代表選手として戦った者同士、通じ合うものがあったのだろう。ジニー達に別れのサインを書いている間も、心の中の曇りは晴れてはいなかった。

 

「バーニィ、サモエド、マスティフ、ちょっとこっち来い」

「…………?」

 

 イルヴァーモーニー校長、セイラムに呼ばれて人気のないところへと連れて行かれると、彼は葉巻を取り出した。

 

「お前達、今日はもう休め。こんな日にまでサーベラスである必要はねえよ」

「な………!でも、俺達はいつ何時もファンの人達に……」

「馬鹿野郎。そんな辛い顔しながら活動したって意味ねえよ。……ここには誰もいねえんだ、思う存分泣け」

「………ず、ずみまぜん、校長」

 

 幽霊船の前、ダームストラングの兄妹は壁にもたれかかりその喧騒を眺めていた。

 

「に、兄さん、シェリーさんは大丈夫でしょうか。医務室で見た時、何だか無理してそうに感じました」

「大丈夫なワケねえだロ。目の前で三人も死んだんだ」

「………わ、私、何もできませんでした」

「……そう思うんなら、もっと強くなるこったナ」

「ネロ!」

 彼達に話しかけたのは、ベガだ。

 その決意したかのような表情に目を細める。最終試合では仲間を助けられなかったことに絶望すら抱いていたようだが、今の彼は覚悟を決めた男の顔だ。

 

「お前にはまたちゃんとした形で決着を着けたい。また会うことがあったら、今度は死力を尽くして戦おう」

「──ハッ。受けて立ってやる」

 

 側から見ればライバル同士の会話だが、二人はまたしても瞬きによるモールス信号で会話を済ませていた。

 

『これからどうするんだ?』

『ダームストラング家に戻って暫く情報を集める。暫くしたらそっちに行くサ』

 

 ベガは頷きを返した。ここにダンテはいないが、念の為の措置である。

 モールス信号が分からないリラは「いつの間にこんなに仲良くなったんだろう」とぼんやり考えていた。

 正直、彼達を信じていいのかどうか、ベガは未だに疑っている。二人を信じたいという気持ちはあるが、その素性は怪しいものだ。何体もの守護霊を操ることができ、その分能力も多彩なネロに、絶対的な防御力を誇るリラ。その能力は異常だし、今回もいいように担がれただけかもしれない。

 けれども、この二人が最終試合で助けてくれたのは本当だ。だからこそ、ベガはこの兄妹を信用するという手段を取った。それが間違いでなかったことを祈るばかりだ。

 猫背でその三人に近付いてきたのは、クラムだ。……神妙な面持ちだ。

 

「ヴェガ。後でシェリーに伝えておいてくれるか」

「何だ?」

「同じシーカー同士、いつか箒で語り合おう。世界最強の座に待つ、と」

「……はは、あいつも随分好かれたな。ああ、伝えておく!」

 

 クラムは頭を下げる。一時はロンとハーマイオニーの不和を生んだ人物だが、何だかんだこいつも良い奴だった。

 と。

 しんみりしたボーバトンの横を通り過ぎると、類稀な美貌の持ち主が声をかける。

 フラー・デラクール。

 彼女の変わらぬ美しさには、どこか翳りがあった。ローズとブルーという妹分を亡くしているのだ、無理もない。

 

「もし例のあの人と戦うことがあったら、私も呼んでくださーい。きっと貴方達の役に立ちまーす。……ダンス・パーティー、楽しかったですよ」

「………ああ、俺もだ」

 強い女性だ、とベガは思う。

 自分に近しい人物が死なれるのはこれで二度目だが、ベガは未だにその感覚に慣れないし、未だに引き摺っている。

 しかし彼女は最初取り乱しこそしたものの、前を向いていた。死を悼み、それでも前へ進む彼女の姿は、掛け値なしに美しかった。それは見た目ではなく、その精神がそう思わせるのだろう。

 

「んふー、しかーしベガ、あなたとても良い男ですね。わたーしが出会った男の中で一番。どうです?わたーしと付き合ってみませーんか?」

「お前はいい女だが俺には釣り合わんな」

「んもう。つれないでーす」

 

 軽いジョークを交えながらのやり取りに苦笑すると、別れの時はやって来た。手を振る彼達に笑顔を返すと、ベガは密かに決意した。

 次にこの国に来る時には、必ず、来てよかったと言える国にすると──!

 

(この対抗試合で俺の理想は砕かれた。仲間を守る?側にいる人間を守ることすらできなかったじゃねえか。

 ……だがこれで終わりにするつもりは毛頭ねえ。ヴォルデモート、その首洗って待っていやがれ)

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ホグワーツ特急。

 いつものようにはしゃぐ生徒達の喧騒はここにはない。それもその筈、この列車に乗っているのは、護衛の闇祓いが数人と、シェリーだけだ。

 シェリーは大事をとって長い間医務室にいたため、ホグワーツ特急に乗り損ねてしまったのだが、特別措置で列車を走らせることになったのだ。

 友人達と帰ることができなかったのは残念だが、その方が良いとシェリーは思う。きっとダンブルドアからホムンクルス云々の話は聞いただろう、ならばこんな化物と関わり合いになりたくない筈だ。

 それよりも、今は──。

 

「ふ。ふふふ、うふふふっ」

 

 闇祓い達はコンパートメントの外。

 つまりシェリーは一人で座席に座っているわけだが、まるで向かいに人がいるかのようにぶつぶつと喋っていた。

 否。

 彼女には、彼達が見えていた。

 

「大丈夫だよセドリック、心配しないで。ああ、ローズも、ブルーまでそんな顔をして。安心してよ。すぐに害虫どもをそちらに送って断罪させるから。私が奴達を殺し尽くすからさ」

 

──それはセドリック達のゴースト、ではない。シェリーに見えていたのは、彼女の憔悴した心が作り出した幻覚であり、魔法要素など皆無の精神的なものであった。

 

「うまくやるよ、私。頑張るね。

 あの人面獣心のクズどもを、ちゃんと殺すからね!今回はちょっと上手くいかなくて殺せなかったけど、次はちゃーんと生まれたことを後悔させて殺すから!

 ああ、もう、何でそんな顔するの?大丈夫だって、ふふふふ………」

 

 暗い暗い顔で、目に隈を作って、それでも幻覚相手に心配かけまいとシェリーはにこにこと笑う。

 その様は異常の一言に尽きた。

 精神が崩れ、頭痛でロクに睡眠も取れておらず、食事さえ疎かにするようになったシェリーだが、それでも、その瞳の奥底には爛々とした殺意だけが燃えていた。

 狂気の少女は、更なる殺戮を求めて、自ら厄災の檻に囚われる──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言ってしまえば。

 シェリーがホグワーツに通うのは、来年で最後になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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◯ シェリー・ポッター(The homunculus called sherry Potter)

神に呪われた少女。本物のシェリーをベースに、ヴォルデモートによって創られたホムンクルスであり、生まれるべきではなかった女の子。元々闇堕ちしてるような精神状態だったが、セドリックを殺したことで本格的に闇堕ちした。和解(殺す)。

紅い力、憤怒の力を宿しており、紅い力を使うと赤い髪が逆立つようになる。全ての攻撃に『レダクト』が付与される。

 

◯ベガ・レストレンジ(Vega Deneb Lestrange)

今年は世界最強の学生になるという目標に向かって舞台裏でめっちゃ頑張ってた。でも正直こいつちょっと強すぎるので、毎回何かしらのハンデをつけられてる。

いつの間にか若気の至りで背中に刺青入れてた人。もう銭湯行けない。

回避+守護悪霊+時間操作+遠距離攻撃と技が豊富。たぶん格ゲーだと強い。全盛期のベヨネッタとジョーカー足して2で割らない的な……。

 

◯セドリック・ディゴリー(Cedric Diggory)

享年一八歳。

質実剛健な紳士。人に優しくて自分に厳しいが、それ故に好意を抱いていたシェリーに告白できずじまいだった。

何かに特化しているわけではないが基本どんな魔法も使うことができるので、度々シェリーに魔法を教えていた。

 

◯アルバス・ダンブルドア(Albus Percival Wulfric Brian Dumbledore)

賢者であると同時に愚者、ロマンチストであると同時にリアリスト。相反した二つの属性を併せ持つ彼は、そのすれ違いに葛藤しながらも戦うことになる。

 

◯ネロ・ダームストラング(Nero Darmstrang)

闇の勢力側に属しているが、普通の身体を手に入れることを条件に、ダンブルドア側に協力する。

雷魔法、ダメージ肩代わり、探知能力、色んな種類の守護霊を呼べる…など、その能力は多岐にわたる。強すぎねえ?

代表選手最強候補その1。

 

◯リラ・ダームストラング(Lira Darmstrang

オドオドした性格の少女。不器用で、いつもネロの後ろについて回っている。その出身と性格故に友達がいなかったが、対抗試合を通してできた。嬉しかった。

背中に家庭の事情でキツめの刺青入ってる人。もう銭湯行けない。

ドラゴンに噛まれても傷一つつかない特別な身体を持つ、防御に優れた魔法使い。しかしその影響で食欲旺盛。

 

◯ビクトール・クラム(Viktor Klum)

世界最高のシーカーと謳われるストイックな青年。しかしネロとはとある事情で犬猿の仲で、彼と話す時のみ感情的になる。

その気質から、修行好きが多いマホウトコロの生徒達やサーベラスと仲が良い。

 

◯ダンテ・ダームストラング(Dante Darmstrang)

前任のカルカロフを失脚させ、校長に就任した謎多き人物。その思惑は不明だが、ヴォルデモートの復活に協力しているらしい。

 

◯サツマ・ハヤト(Satsuma Hayato)

杖を二本使うことができる魔法使い。近距離戦闘に長けており、魔力で剣を作って攻める。低威力の魔法なら気合で耐えるし、居合切りなどの剣技も全てマスターしている。いや強すぎねえ?

最初に考えた時からまったくキャラがブレていない。コージローとはライバル。

代表選手最強候補その2。

 

◯フウマ・コージロー(Fuma kojiro)

技や速さに特化した魔法使い。近距離戦闘の達人だが、同時に忍術をモデルにした魔法を数多く覚えているのでどんな状況でも戦える。家が代々続く忍者の家系ということもあり坊ちゃん気質だが、誰かを見下すようなことはない。

ヴォルデモートと髪型が似てるが別に関係はない。代表選手最強候補その3。

 

◯ミカグラ・タマモ(Mikagura Tamamo)

狐と人間のハーフ。そのため、狐に変身して遠距離から攻撃することができる。魔法の弓を使うため、その軌道は千変万化。

ハヤトとコージローとは幼馴染で、二人の抑え役として奔走してきたせいか、面倒見の良い姉御肌。でも彼女も結構脳筋。コルダとは似た能力ということで師弟関係になるが、脳筋同士気が合ったのかもしれない。

多分、挿絵を見て「えっ変身したらこんな感じになるの!?」って思った人は多い。

 

◯オダ・ナギノ(Oda Nagino)

予想以上に出番がなかった人。

稀代のうつけ者の将軍を祖先に持ち、途中で酒好きの鬼の血が混じったために小柄な身体をしている。フリットウィックが密かに惚れていた。

 

◯フラー・デラクール(Fleur Delacour)

ヴィーラ血を引く絶世の美女。その美しさに嫉妬し虐められていた経験があったが、生来の器量と実力を持ってしてボーバトンの女帝に君臨した。そのためか、ローズとブルーを気にかけていた。

 

◯ローズベリー・フロランタン(Roseberry “Rose” Florentin)

享年十七歳。

親に虐待されていた過去を持つ。警戒心が強く人を中々信用しない人物だが、一度心を許した者には優しい。シェリーとの和解が彼女達の心をほぐし、彼女達の周りに対する態度も軟化していった。以降はシェリーガチ勢になる。

双子とはいえ姉という意識があるのか、ブルーに比べ若干活動的な性格。

 

◯ ブルーベリー・フロランタン(Blueberry “Blue” Florentin)

享年十七歳。

花魔法の使い手。悲惨な人生を送ってきたため、心を許せる友達に憧れており、対抗試合には自分達を認めてほしいという一心で参加した。そのため、シェリー達が参加した時は私達はあんなに頑張ってようやく選ばれたのに、という焦りと憤りがあったため辛く当たっていた。

ローズに比べ少し内向的な性格。

 

◯オリンペ・マクシーム(Olympic maxim)

ハグリッドといい感じだった人(?)。

彼女の教育者としての優秀さは五校の中でも群を抜いており、あのマクゴナガルが尊敬の念を抱くほどの徹底した指導ぶりを見せる。ローズとブルーも彼女に救われており、尊敬している。

 

◯バーニィ・レオンベルガー(Berny Leonberger)

新進気鋭のロックバンド、ザ・サーベラスのボーカル兼リーダーを務める女性。

派手なメイクとは裏腹に真面目な性格。彼女の爆音呪文は圧倒的な破壊力を誇り、火力だけなら代表選手でも上位である。

守護霊は「モヒカンみたいなトサカの鶏」であり、爆音呪文の威力を底上げすることができる。

サーベラスとはケルベロスのラテン語読みであり、彼達の名前は犬種がモデルとなっている。

 

◯サモエド・バーナード(Samoyed Bernard)

個性がないのが個性。ベース担当。バーニィとは音楽性の違いでよく衝突する。曲作りはこいつ主導でメンバー全員と相談しながら行う。

 

◯マスティフ・ファンドランド(Mastiff Fundland)

落ち着いた性格。ドラム担当。メンバー内で衝突した時にストッパー役になる。星型のメイクの方。

多分こいつの名前をフルネームで言える人いないと思う。

 

◯セイラム・ウィリアムズ(Salem Williams)

小太りの黒人男性。見た目は悪役そのものだが根は優しく生徒思い。

名前の由来はアメリカの魔女裁判、セイラム裁判とそれに関わった人物であるアビゲイル・ウィリアムズから。

 

◯ハリー・ポッター(The homunculus called Harry Potter)

神に愛された少年。プライドが高く、自分以外全ての人間を見下している。その一方で自分の力をこの世界に証明してやりたいという欲求もある。

まさかこいつが出てくるなんて誰も予想できねえだろ!って思ってたらコメント欄で結構予想してる人いたことにびっくり。

紅い力、暴食の力を宿している。

 

 

『難易度上昇』

ハード(1〜2巻)

ベガやコルダ等のお助けキャラがいなければ攻略は難しい。

→ベリーハード(3巻)

お助けキャラがいても攻略が難しい。グレイバック強すぎ。

→ルナティック(4巻)

もはや誰かが犠牲にならないと一年を過ごすことすらできない。絶対に誰かが死ぬ。

 




シェリーとベガを絶望させたいという一心で小説書いてたらすげえもんできた……。
他の小説書いてる時も思うんですけど、どうやら私はメインキャラが絶望したり闇堕ちするのが好きみたいです。
やたらとシェリーは優しいって描写してたのは今年で闇堕ちしてもらうためです。初期はシェリーが普通でベガがやべーやつって感じだったのに、三年のボガートあたりから立場逆転してんな。
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