シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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4.ダンブルドア・アーミー

「あんたには失望した。シーカーは代わりを探す」

 

 グリフィンドールの新キャプテン、アンジェリーナはそう吐き捨てた。

 彼女の激昂も無理からぬこと。なにせウッドの後を継がんと意気込んでいた彼女に、シェリーはクィディッチを辞めると言い放ったのだ。クィディッチに勤しむ暇があればヴォルデモート達を殺す力を身につけたいから、という理由で。

 それがアンジェリーナの逆鱗に触れたのである。

 シェリーの孤立化、そしてアンブリッジの存在はグリフィンドールに波紋を広げていた。

 これはまずいと、空き教室にてベガやドラコが集まって今後の方針を話し合うことにした。防音対策はバッチリで、誰かに見られている心配もない。

 

「獅子寮どころか、ホグワーツ全体の雰囲気が悪くなってやがる。『勉強会』の開催を早めた方がいいな」

 

 勉強会。

 闇の魔術に対する防衛術を自主的に学ぶというものだ。アンブリッジがまともに授業を行わないならば、こちらで実践的な授業を行ってしまえばいい。特に闇の時代が本格的に訪れた時、自衛手段があるのとないとでは雲泥の差がある。

 このアイデアはキングズリーやシリウスはじめ闇祓い連中にも絶賛され、覚えておくべき呪文の教科書を何冊もオススメされたものだ。

 ホグワーツに来てすぐにでも発足したかったものの、アンブリッジの目がある以上大っぴらに動くことはできない。要するに秘密の組織でなければならないのだ。

 シェリーにはその教師役に就いてほしかったのだが、彼女があの様子ではそれも無理だろう。勉強会に参加することすら拒否された。

 

「何人か声をかけてみたんですが、スリザリンはアンブリッジ派が多いので到底人は誘えそうにないですね」

 コルダが申し訳なさそうに言う。

 分かってはいたことだが、改めて蛇寮との確執を思い知らされた。

 

「次のホグズミード休暇で人を集めるわ。そこで勉強会のメンバーに活動方針を伝えて、ついでに名簿も作りましょ」

「ああそうだ、教師役……ていうか、リーダーはどうする?こういうのは最初にキッチリ決めておいた方がいいだろ」

「ロン。リーダーはお前が適任だと思う」

「へえそっか僕………僕ーっ!?」

 

 ロンは素っ頓狂な声を上げた。

 こういうのは自分以外の誰かがやるものだと思っていたからだ。

 

「いやベガとかハーマイオニーとか、もっと適任いるだろ!」

「私じゃただの押し付けになっちゃうし」

「俺もちょっとな。この間、シェリーと喧嘩しちまったろ?俺はただあいつにキレるしかできなかったがよ、お前は周りの状況を見て俺達を止めてくれたじゃねえか」

 

 ロンはごくりと生唾を飲む。

 正直言って彼には荷が重い。常識外れの強さを誇るシェリーやベガといった存在を近くで見てきたからか、彼は友人達に対してコンプレックスを拗らせるよりも半ば諦めの方向で割り切っていたのだ。

 シェリー達だけではない。頭脳がズバ抜けているハーマイオニー、誰よりも強い勇気を持つネビル、スリザリンのリーダーとして頭角を表しているドラコ、氷魔法の使い手のコルダ。

 彼達は僕とは違う、だから他の部分で何とか役に立とう、と。

 自分にできることなんて、限られていて……。

 

「それだけじゃねえ。お前は一年生の時にシェリー達を身体を張って守ったらしいな。二年生の時は脱出経路を用意してくれた。三年生の時は結界を解除して援軍を呼んでくれた。一つ一つは大したことじゃねえかもしれねえが、お前は自分ができることを絶対にこなしてくれている。こんなに有り難えことはねえ」

 

 だからお前を信用するのだと。

 凡人のロンだからこそ勇気を与えることができる、と。

 何たって、ロンは、弱者と同じ立場で、最高に格好良いことが言えるのだから。その言葉はきっと彼達に伝わるはずだ。

 

「……なあ君達、それが一番、上手くいくって思ってるんだな?」

「ああ」

「なら、やるさ。それ以上の説明は要らない……!」

 

 自身の最も信頼する仲間に太鼓判を押された以上、ロンの中に拒否という選択肢は残されていなかった。

 授業のサポートはするが、全体的な指揮と方針はロンが執るのだ。

 

「でもアンブリッジには内緒の集まりか……それじゃあ、スリザリンの僕達に手伝えることはなさそうだな」

「ええ、私達がいたら邪魔でしょうしね」

「?何言ってんだよ、来いよ」

「えっ」

 

 勉強会に不参加の意思を見せるマルフォイ兄妹に、ウィーズリーの末弟は事もなげに言った。

 

「僕達もう仲間だろ?一緒にやろうぜ。君達のことは上手く説明するからさ」

「……あ、……ああ、おう」

「そ、そういう……ことなら……」

「……ええ、ほんと、こういうところよねえ」

「本人は無自覚ってのがまた、ね」

「な、なんだよ??」

「君がリーダーになったのは間違ってないってことだよ」

 

 かくして生徒達のまとめ役にはロンが抜擢された。

 彼にとってこの役職は転機となることだろう。

 しかしちょっとした高揚感をも与えたのか、何か勢いでクィディッチ選抜試験にも応募してしまった。前々からやりたいとは思っていたのだが、あの黄金世代の後釜ということもあり彼はめっちゃ緊張していた。

 脂汗が酷い。ピッチへと向かう途中、やっぱ行くのやめようかなとか思いながら廊下を歩いていると、シェリーとばったり出くわした。

 瞬きほどの沈黙。

 最近彼女とは碌に喋っていなかったので少し口籠った。

 

「ロン?その格好……」

「あ、あー。うん。まあ、ちょっと……選抜受けようかなー、なんて思っちゃったりして。ハハハ、だよ」

「………」

「お、お笑い草だよな僕が出るなんて。やっぱり……」

「ロン」

「ハイ」

「クリーンスイープなら瞬間的に出すよりは全体的なスピードを維持した方が細かな制御も効きやすいし撹乱もできるし……クイックネスだけならニンバスにも劣らない性能だし……キーパー狙いなら箒の張力を利用したら体力の管理もしやすいから意識してみたらいい……と……思う……」

「!ありがとう!」

「じゃ、じゃあ私行くから」

 

 小っ恥ずかしいのかシェリーはそそくさと去っていく。

 彼女は何だかんだ言いながらも仲間想いなのだ。

 ロンの沈みがちだった気分は遽に高揚し、ダメでもともと、最後までやってみるか!と意気込んでプレーを行い、他にまともな候補がいなかったこともあって見事キーパーの座を勝ち取ったのであった。

 ちなみにシーカーにはジニーが就いた。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 そして来たるホグズミード休暇。

 ひっそりと佇むバー、ホッグズ・ヘッドには既に集合をかけた生徒達が集まっていた。隠れ家風パブとしてマニアには密かに人気のこの店だが、遊びたい盛りの生徒達からは敬遠されがちだ。だからこそハーマイオニーは集まる場所をここに決めたのだ。

 しかしいつも繁盛している三本の箒の方が人が多くても目立ちにくく、声も聞き取りにくい。それは三年時にあのパブで大人達がシリウスについて話していた時、近くで聞き取る必要があったことからも証明できる。

 だがそれでも敢えてこのバーを選んだ。選ぶだけの理由がもう一つあるのだ。

 

「アバさん、バタービール人数分頼む」

「ふん、ガキどもが」

「……後で俺の守護霊見せてやるから」

「店にある一番良いの持ってきてやる」

 

 アバさんと呼ばれた店主はウッキウキでジョッキを用意する。

 彼は無類のヤギ好きらしいのだ。以前ベガがホグズミードで自分の守護霊についてポロリと言った時、物凄い勢いで食いついてきて、それ以来やたらと贔屓してくれるようになったのだとか。

 曰く、ヤギ好きに悪い奴はいないとか。

 別にベガは守護霊がヤギなだけで特別ヤギが好きだとかそういう訳ではないのだが……。

 彼とは事前に交渉して、聞き耳を立てていたりアンブリッジに類する者がいればすぐに伝えてくれることになっている。聞けば、嘘かまことか相当の実力者らしい。

 

(しかしまさかあいつの弟とは思わなかったが……)

「……おいおいハーマイオニー、ちょっと数多くないかい。きみ、両手で数えられるだけの人数だって言ったろう!?」

「あら、びびってるの?」

「び、びびってるもんか!」

 

 ざっと見ただけでも三〇人は集まっていた。

 獅子寮の人数が最も多く、フレッド、ジョージ、ジニー、リー、シェーマス、ディーン、パーバティ、ラベンダー、アンジェリーナ、アリシア、ケイティ、コリンとデニスのクリービー兄弟。そしてロン、ハーマイオニー、ベガ、ネビルの四人だ。

 鷲寮からはチョウ、ルーナをはじめとして、監督生のアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル、マリエッタ・エッジコム、マイケル・コーナー、テリー・ブートらが参加している。

 穴熊寮からは監督生になったアーニー・マクミランにハンナ・アボット、ジャスティン・フィンチ・フレッチリー、スーザン・ボンズ。

 そして蛇寮からはドラコ、コルダだ。

 見知った相手とはいえ、これだけの人数を相手にすると流石に緊張する。ネビルに励まされ、深呼吸すると、ロンは彼達に見える位置に立った。

 

「おほん、それじゃあ始め──」

「シェリーはいないの?」

「あいつは不参加だ。この集まりのこと自体は伝えてある、やる気がありゃその内来るだろ」

「ええっ!?じゃあ僕は今日何を撮れば!?」

「ヤギでも撮ってろ」

「なんだよ、あの日何が起きたか聞きたかったのに」

 

 不満を隠そうともしないのは、小生意気そうな顔の五年生。ハッフルパフのザカリアス・スミスだ。

 

「なあ、ベガ。聞かせてくれよ。あの日何が起こったんだ?」

「説明はもう散々したろ」

「それは君達が勝手に言ってることだろ。例のあの人と戦って生き残っただって?なあ、セドリックが死んだ時のことちゃんと話してくれよ」

(本当にハッフルパフかこいつ?)

 

 ちらりと見ると、チョウの顔が少し強張っていた。

 彼女がセドリックに惚れていたことは察しがつく。しかしその辺りを無遠慮に聞いてくるザカリアスはいかがなものか。

 ベガが適当に答えようとすると、ロンが制した。

 

「ザカリアスだっけ?ベガ達はあの時のことはもう散々話した。今学期に入ってからずっとね。それでもまだ君が信じられないってんならもう君には何を言ったって無駄だと思うね」

「……僕はセドリックに何が起きたのか──」

「ここはそういうことを話す場じゃないぜ。なあハーマイオニー」

「えっ?え、ええ。そうね」

 

「ここには、そう、闇の魔術の防衛術を自主的に学びたい、って生徒が集まっているはずです。アンブリッジの指導が酷いっていうのもあるし、今年のふくろう試験が心配な人もいるでしょう。ですがそれ以上に、自分達の身を守る手段を知っておくべきだわ……です」

「いいぞハーマイオニー!」

「ありがとうアンソニー。それで皆んな、今日はその辺りを期待して来たってことよね。そう、私達に求められているのは、理論以上に、自衛の手段……身を守る術を身につけないといけない。死喰い人から、そして、ヴォルデモートから」

 

 短い悲鳴が上がった。

 誰もがその恐ろしさに言葉を失う。純血で、親からその恐怖を伝え聞いている生徒は殊更だ。しかしハーマイオニーをよく知る面々は引き攣りながらも口角を吊り上げる。今彼女は勇気ある行動をしたのだ。

 

「ここまでで、何か質問あるかい」

「なあベガ……有体の守護霊を出せるってのは本当か?」

「ん?ああ」

「悪霊の火も出せるのよね!?」

「まあな」

「それだけじゃないぜ!こいつ達は例のあの人と戦って賢者の石を守ったんだ!まだ一年生の時にだぞ!?」

「最終的にダンブルドアが出張ったがな」

「対抗試合じゃ活躍してたし!」

「そうかな……」

「秘密の部屋でバジリスクと対決したって聞きましたよ!私が聞いた話だと、ロングボトムさんもその時活躍したとか……」

「おおそうだろすげえだろこいつ!」

「なんでネビルの話題の時だけテンション上がるの」

 

 大きく咳払いをすると、「けどな」とベガは続けた。

 

「全部、仲間がいたからできたことだ。いくら一人が強くても限界がある。こいつ達がいてくれたお陰だ……

 で、その仲間の輪にお前達も加わってほしい。誰かが困ってたら身につけた力でそいつを守ってやってほしいんだ」

「……その仲間ってのにあの二人は入ってるのか?」

 

 ザカリアスが指差した方には、ドラコとコルダの姿。

 無理もないだろう。衝突こそ減ったものの、憎っくきスリザリンの代表格みたいな二人が勉強会に参加するというのだ。

 今日だって、この集まりを密告する気かと勘違いしたテリーやマイケルといざこざを起こしたのだ。

 

「二人は秘密の部屋の時、僕達と一緒に戦ってくれた。根は良い奴達なんだ」

「けど二人共スリザリンで──」

「スリザリンだからとか関係ないさ。こいつ達は信用の置ける二人だよ。この会合がバレた時、真っ先に疑われる立場なのに参加してくれたことの意味を考えてみてほしい」

「………」

 

 ザカリアスは口をつぐんだ。

 清濁含めた交渉。そして天然か、最後に限りなく清の自分を曝け出す。これに反論しようものなら却って自分の立場を悪くしてしまうだけだ。

 それに、ベガ達の指導は受けたい筈だ。二人を快く思っていない連中も渋々ではあるが二人の存在を受け入れた。

 

「それじゃあ、一週間に一回のペースで皆んなで集まって会合を行うわよ」

「ああ、クィディッチの練習と被らないようにしてくれよ。まあ今年も優勝杯はいただくけれど!」

「あら、言ってくれるじゃない。連続優勝なんてさせないわ、レイブンクローは去年よりもっとずっと強くなったんだもの!」

「クィディッチ選手同士のバチバチは他所でやってくれるかしら」

「……ぼ、僕も選手なんだからな!」

「お前もかよザカリアス!」

「その割にはスポーツマンシップゼロだね君!」

「うるさいな!!!」

 

 かくして生徒達はぞろぞろと去っていく。

 バタービールを飲みひと息つく。人を纏めるというのは、中々に体力のいる仕事だ。

 と、弛緩した空気の中に二人の来客だ。

 アバーフォースががっちりと首根っこを掴み、ずるずると引き摺ってきたのは魔女……ではない。あれはカツラだ、よくよく見れば中年男ではないか!

 

「おい、聞き耳立ててた怪しいの連れてきたぞ」

「ほ、ほんとにいた!」

「つーかマンダンガスじゃねえかてめー!」

「な、なんだよぅ。いちゃ悪いのかよぅ」

 

 マンダンガス・フレッチャー。

 駄目な大人の典型的な例で、その情報力を買われ騎士団に入った彼だが、子供達の教育に悪い!とモリーからは毛嫌いされている酒好きの男だ。

 

「なあお前達からも言ってやってくれよぉ。俺ァ顔見知りのお前達がこんなシケた店に友達ぞろぞろ引き連れて来たもんだから、何が起きたのかと心配でよぅ」

「シケた店で悪かったな。お前、ウチから金目のモン盗もうとしただろ。騎士団員じゃなかったら今頃ヤギの餌にしてるとこだ」

「え、なんで騎士団のこと……」

「バーには色々情報が集まってくんだよ。特にこんな店にはな」

「しっかしよくやるよなぁ。俺がお前達なら大人達に全部任せるのによぉ。しち面倒くせえことなんざ騎士団に押し付けときゃ楽だってのによぉ」

「そこのカスと意見が同じってのは癪だが、俺も同感だ。ガキの頃なんざ変なこと考えずに気ままに過ごすのが一番だよ。何が楽しくてんなキツい選択をすんのかね」

「ガキはガキなりに足掻いてやるってことだよ──!」

 

 子供達の決意は、揺らがなかった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「ホグワーツ高等尋問官──」

「権力にこだわるあいつらしいな」

 

 掲示板にデカデカと張り出されたお触れには、アンブリッジとオスカーが任命された役職が記されてあった。

 ホグワーツの閉鎖的で独立的な教育指針を改革すべく、魔法省の役人が授業を監査するというわけだ。つまるところ、ファッジがホグワーツに対して情報収集と共に圧力をかけたいのだろう。彼はダンブルドアが学生を集めて武力集団を作ろうとする気だと思ったらしいのだ。

 聞くところによれば、キングズリーはやたらとファッジの身辺警護に駆り出されここ数ヶ月ほど休みなしらしい。大人って大変だ。

 しかしまあ、そんな誇大妄想を阻止すべくやってきたのがアンブリッジという時点で既に失敗しているとしか思えない。彼女は思いっきりスリザリンや魔法省で上の地位の子供を贔屓するくせに、それ以外には教育と称して体罰一歩手前のことをやりだす始末。

 打って変わってオスカーの方は、彼女とは違う意味でこの任に向いてないように思える。ホグワーツを監査する立場ながら、意外にも幅広い知識で質問にきちんと答えたり、魔法省を目指している生徒の相談に乗ったり、少しずつ受け入れられ始めている。

 

「あの、オスカー先生、これ私からのプレゼントです!」

「ん……ああ、ありがとう。大事に食べるよ」

「きゃーっ!」

 

 つまらない役人かと思いきや能力は高く、生徒達もオスカーのことを信頼し始めている。あのアンブリッジの下にいてよく歪まなかったものだ。

 閑話休題。

 高等尋問官だけならまだいいが、ロン達はその横に貼られた教育令に目が行っていた。要約すれば学生によるチームや団体を全て解散し、再結成の際にはアンブリッジの許可が必要になる、とのこと。クィディッチ・チームも例外ではなく、アンジェリーナは嘆いていた。

 初めての集会の翌日にこれだ。これは、やはり情報の漏洩を疑ってしまう。

 

「ねえこれって、僕達の集まりがバレてるんじゃ」

「それはないわ。皆んなに書いてもらった名簿には呪いをかけてあって、この集まりのことを告発したら分かるようにしてるの」

「分かるようにしてるって……どうやって?」

「顔に密告者とか書かれたニキビができるとか?」

「アンブリッジの顔になるわ」

「何その闇の魔術」

 

 ともかく、情報の秘匿の重要性が増したということだ。

 どうやら高等尋問官という役職にかこつけて、アンブリッジとオスカーがそれぞれの教師達の授業を見て回り評価するらしい。

 仕事熱心なことだ。だが、色々理由をつけてホグワーツの授業にケチをつけたいだけだろう。何とも浅ましい計画だ。

 

 変身術。

「皆さん、ふくろう試験が迫っています。さしあたっては今から出題頻度の高い消失呪文を練習してもらいますが、ひとまずは理論をしっかりと覚え──」

「エヘン、エヘン!」

「ではカタツムリを使って練習します。これである程度要領を掴んだ後は段階を経てネズミ

「エヘン、エヘン!」

「喉飴はどうです、ドローレス。それ以上咳をするようならば貴方には風邪か何かの症状があると見なし感染のリスクを避けるため貴方には医務室に行ってもらいますがいいですね」

「………」

 とどめとばかりに、アンブリッジの口からはよく飛沫が飛ぶからとマスクを着用させられ、もし病気に罹っていたら大変だと距離を取られてしまった。アンブリッジに何もさせないまま授業を終えたマグゴナガルは凄いというべきか何というか。

 

 魔法史。

「エヘン、エヘン!ビンズせんせっ!わたくしちょっと気になることが──」

「………………」

「この時魔法省が魔法使いを守るためとして法律を定めた意図についてどうお考えで……」

「………………」

「何か喋りなさいな!!!!!」

 ビンズはアンブリッジのことなど視界に入っていないかのように黙々と授業を行い、授業中一言も喋ることなくチョークのみで内容を説明してしまった。そのせいで一巻き多く羊皮紙を消費してしまったが、まあ内容も詰まってたし良しとしよう。

 

 魔法薬学。

「魔法薬に使うカエルを切り刻むのだロングボトム!!お前の思うまま切り刻んでやれ!!」

「はい師匠!!」

「ふ、出来の悪い弟子がいたものだ……!」

「何か寒気がしますわ」

 カエルをミンチにする度に何かアンブリッジが青い顔になっていったが、何か呪術でも仕込んでいるのか。そういえばニホンには藁人形に相手の写真をつけて五寸釘で刺せば呪えるとかそんな話があった気がするが、今まさにそれが行われているような気がしてならない。

 

 占い学。

「トレローニー先生でしたかしら?大預言者カッサンドラの曾々孫だとか。彼以来の第二の眼の持ち主ならば、ちょーっと私の今日の運勢でも占ってみてくださる?」

「うるせえんだよ黙ってろビチグソ女髪についてる趣味の悪い蝿みてえな髪飾りの代わりに花火でも括り付けてチリチリになるまで焼いてやろうかそしたらその薄ら汚ねえツラも少しはマシになってるだろうよ……と仰っておりますわ」

「ゲコッ!?」

「あーらやだわわたくしったらつい予言があれでカバラの神秘的な何やかんやでインスピレーション的にうっかり野蛮な言葉をおほほほ」

(罵詈雑言ってあんな風にやるんだ……参考にしよう)

 シェリーが何か嫌な方向で影響受けてた。

 

 結論。

 アンブリッジがしっぺ返し受けてた。

「これ自分で傷ついてるだけじゃね……?」

 

 監査とか何とかのたまった割に、アンブリッジは散々な仕打ちを受けただけだった。

 相手にされないカエル女を横目に、オスカーが冷めた顔でボードに書き込んでいる。

 アンブリッジの側近というが、オスカーはどうも彼女に従順というわけではないらしい。アンブリッジは生徒嫌いという噂を聞いてフィルチを取り込もうとしたらしいが、かつてシェリーに絆された彼はアンブリッジの指令に従う筈もなかった。上手いこと生徒達の罰を回避させて危ない目に遭わせないようにしているらしい。

 この城に彼女の味方はいなかった。

 唯一、パンジーを始めとする一部のスリザリン生だけがアンブリッジとよろしくやっているらしいが……。そういった輩にも見つからずに練習できる環境を見つけなければ。

 しかしそんな都合の良い場所が……。

 

「あるーっ!?」

「三〇人もの人間が一緒に『闇の魔術の防衛術』の練習ができて、尚且つアンブリッジに見つからない場所がまさか本当にあるなんて……!」

「最高じゃねえか、ドビー!」

「お役に立てて光栄でございます!」

 

 トロールにバレエを教えている様子を描いた絵画、『バカのバーナバス』の向かい側に位置する石壁。そこで必要なことを思い浮かべながら三回往復すると扉が現れるという。

 そこは『必要の部屋』。あったりなかったり部屋とも称されるそこは、自分が必要とする全てを与えてくれるところだという。

 眉唾物の伝説だが、ドビーから聞いた話は本当だったようだ。

 大広間ほどの広さの部屋の中には、闇祓い御用達の最新型の隠れん防止器に秘密発見器。敵鏡や、失神呪文の撃ち合いの時にちょうどいいふかふかのクッション。本棚にはハーマイオニーが感動するほどの実践的な防衛術の学術書がズラリ、だ。

 果てはスポーツジムにありそうな高級トレーニングマシンやサウナやバスルームや魔法式マッサージチェアまで……。

 

「いやそこまでしてくれなくてもいいよ!?」

「あんまり人が来ないから寂しいのかな」

「部屋が感情を持つって……あり得そうで怖いわ」

 

 やってきたメンバー達は全員もれなく驚いていた。まさかホグワーツにこんな隠し部屋があったとは、ドビーがいなければこの部屋を知らないまま卒業していた可能性もあったということだ。

 

「となりゃあ次は名前だ!いつまでも勉強会とか集まりとかじゃあ不便だ、皆んなが結束するような格好良い名前が欲しい!」

叛逆の十字架(Rebellion Cross)とかどうよ」

「ベガ、君ってたまに痛いよね」

「………」

HeyHey☆LONDON's STAR(ヘイヘイロンドンスター)はどうですか」

「だっせぇ……」

「!?」

「ごめんコルダ、擁護できない」

「!!??」

「じゃあ無難に反アンブリッジ同盟(Anti Umbridge Alliance)は?」

「んー、日常会話で使ってる時にバレたら困るかな」

防衛協会(Defense Association)とかどうかな?頭文字を取ってDA。これならどこで言っても大丈夫じゃないかしら」

「お、いいじゃん」

ダンブルドア軍団(Dumbledore's Army)とも呼べるわね」

 

 そう言ってニヤリとするジニーは、まさしくウィーズリー家の血を引いているに相応しかった。

 いっそのこと、アンブリッジの誇大妄想を実現させてやろうという腹積りだろう。悪戯好きな生徒達の支持も集まり、晴れてDAはここに設立された。

 

「もしバレたらドローレス軍団(Dolores's army)ってことで誤魔化せるな」

「うわあ名前だけでもあの女の部下になるって嫌だな!」

「バレる日が来ないといいね……」

「それを防ぐために、今度からはこれを使うわ」

「……ガリオン金貨!?買収するつもりかい!?いや貰えるのなら有り難く貰っておくけど!」

「これ、偽物のお金よ?レプラコーンの金貨にヒントを得て、ね。本物の金貨には鋳造した小鬼と年月が示す番号があるんだけど、この偽金貨は次の集会の日付を時刻を表すわ。日程を決めたら、私が持ってる大本の金貨の数字を変化させて、それに合わせてその金貨も変化するようになってるわ。その時に金貨が熱くなるから、ポケットにでも入れておいて……ど、どうしたの皆んな」

「そ、それいもり試験(N.E.W.T)レベルのこうとう魔法ですよ……!?」

「君ってレイブン以上の頭脳じゃないかい!?」

「あ、ありがと」

「お前ってたまに発想力凄えよな」

 

 ハーマイオニーが時折見せる発想は有用なものが多い。

 単純な強さでは優秀な生徒の域を出ず、頭脳面ではベガと同程度の彼女だが、その豊富な知識量と閃きで誰よりも有用な作戦や策や仕組みを考案することができる。

 タイプが違うだけで、彼女もまた優秀な頭脳派魔法使いなのだ。

 さて、肝心の魔法の練習。ロンが集合をかけて、緊張しながらも言葉を紡いでいく。個々の実力を測るためにも、まずは基礎からだ。

 

「まず最初は、エクスペリアームスからだね」

「武装解除呪文?そんな初歩的なのを今更?」

「君ほんと何にでも噛みつくね……ベガ、お願いしていいかい」

「任せろ」

 

 ザカリアスが前に出ると、ベガとお見合いの形で向き合った。

 武装解除呪文を撃ってこい、と言うと、ザカリアスは怪訝な顔をした。当然だ、ベガは杖すら持たずポケットに手を突っ込んでその場に突っ立っているのだから。

 しかしザカリアスは不満を爆発させるように言われた通りに呪文を放つ。噛みつくだけあってその呪文の出来自体はそこそこだが、数々の修羅場を潜ってきたロン達から見ればそれはあまりに凡庸で稚拙に過ぎた。

 ベガはその場から殆ど動くことなく、僅かに頭を揺らすだけで呪文を避ける。驚く彼の身体に、いつの間に杖を抜いたのかベガの高速の一撃が叩き込まれ、大きく宙を舞いクッションまで吹き飛ばされる。

 まるで子供扱いだ。その分かりやすいまでの実力差にメンバー達はあんぐりと口を開けた。

 

「ベガ、解説頼む」

「いいか、杖に注目な。今のザカリアスの魔法の出し方はこうだ、ただ魔力を出すことだけに集中しちまってる。これじゃあただ出てるだけだから、すぐにスピードは落ちちまうよな?」

「あ、ああ」

「杖はいつも直角に構えろ!きちんと腕を伸ばして身体全体を意識して撃てば、魔法を出す時の反動も半減される。そして伸びた腕から魔力を真っ直ぐ出してやれば、スピードも増すってわけだ」

「成程なぁ。あ、シェリーもよくこの魔法使ってたよな。去年の対抗試合で」

「寧ろそれ以外できねえんだよ。あいつは基本強力な魔法をすごいスピードで撃つってだけだ。おかげで泡頭呪文とか、補助系の呪文覚えさせるのほんと苦労したしな……」

「意外と不器用だよね」

 

 しかしシンプルな戦闘スタイルでも、基本が極まっていれば敵にとっては厄介なことこの上ない。ただ普通に強いというのは、地味ながら最も恐ろしいのだ。

 

「んじゃ、一番呪文の上手いベガが見回るから、ペアを組んでお互い魔法をかけあってくれ!」

「……………」

「どうしたザカリー、ああ散々嫌味言ってたからあぶれてるのか」

「ぼっちだね」

「やめろよ!!!」

「えーっと、ザカリアス?私達のペアに混ざる?」

「……ありがとうジニー、ルーニー」

「ルーナだもン」

「それとドラコにコルダ、君達はフレッド達と組んでくれ」

「な、何だって?」

「ええっ!?お兄様以外の人と組めと!?」

「そうだよ。こうでもしないと君達ずっと浮いたままだろ?最初は僕達と組んで、それから徐々に他のメンバーともペアを組めるようにしていくんだよ」

「む……まあそうだが……いや、分かった」

 

 ドラコはフレッドと、コルダはジョージと。

 ぎこちなくではあるが、二人の存在をDAの中に溶け込ませる目論見だ。ホグワーツの人気者と組めば、多少は抵抗も緩和されるというもの。

 

「それと、完璧に武装解除できるようになったと思ったらベガに見せに行くように!彼と撃ち合って一撃でも当てられたら次のステップに進むよ!」

「一撃?そんなの楽勝だぜ!」

「何回もやったらその内当たるだろ!」

「いやあ……」

「どうかな……」

 

「当たらねえええええ!!」

「オラオラもっと弾速上げねえといつまで経っても当たらねえぞ!不意打ちでも連携でも何でもして俺に当ててみせろ!」

「ぐっ……こ、このっ!!」

「おお、今の動き良いじゃねえか!」

 

 回避型のベガに、ちょっと練習しただけの個人が立ち向かうだけでは到底届きなどしない。だから彼達は協力し、連携し、大きな壁として立ちはだかる天才に向かっていく。

 個ではなく群。

 仲間であることを活かしたメンバー全員の力。ここにいる誰もが強さを求めている、一人一人は最強になれなくても全員でやれば最強に届き得る。

 それはいつか、最強の闇祓い、レックス・アレンが言った言葉。

 

 

 

「いいか、ここにいる全員が仲間だ、協力しあって全員で強くなるんだ!!一人だけ強くても意味がない!!

──皆んなで強くなるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──秘密の部屋。

 蛇語を使うことのできるシェリーだけが訪れることのできる、彼女だけの特訓場。奇しくもDAの会合と時を同じくして、彼女もまた特訓を行なっていた。

 紅い力も使い、我武者羅に魔法の練習を重ねるシェリーだが、少女の身にはあまりにハードワークが過ぎる。練習相手になっていたバジリスクは、その無茶な特訓に渋い顔をした。

 短時間で魔力を酷使し、息を切らす彼女に、普段の好々爺のなりを潜めたバジリスクは心配そうに声をかけた。

 

『……シェリー殿、ここまでにしておくべきです。こんなにズタボロになって、修練の域をとうに超えているではありませぬか』

「……心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ、このくらい。あの時、セドリック達はもっと苦しい思いをした……そして今も無辜の人々がいたずらに傷つけられている。それに比べたらこんなの苦しくとも何ともないよ」

『……しかし……』

「私は、決めたよ」

 

 鉄のように昏く光る瞳には、研ぎ澄まされたナイフよりも鋭い殺意が奔っていた。紅い力がどうこうではない、彼女の精神は狂気に彩られていた。

 決定的な間違いであることも知らず、彼女はひた走る。

 地獄の坩堝へと──。

 

 

 

「傷つくのが私一人でいいように……一人でも戦える力を手にするんだ……!!皆んなが傷ついてしまったら意味がない!!

──一人で強くなるんだ!!」

 

 

 

 




【DAメンバー】

獅子寮
ロナルド・ウィーズリー
ハーマイオニー・グレンジャー
ベガ・レストレンジ
ネビル・ロングボトム
フレッド・ウィーズリー
ジョージ・ウィーズリー
ジニー・ウィーズリー
リー・ジョーダン
シェーマス・フィネガン
ディーン・トーマス
パーバティ・パチル
ラベンダー・ブラウン
アンジェリーナ・ジョンソン
アリシア・スピネット
ケイティ・ベル
コリン・クリービー
デニス・クリービー

穴熊寮
アーニー・マクミラン
ハンナ・アボット
ジャスティン・フィンチ=フレッチリー
スーザン・ボンズ
ザカリアス・スミス

鷲寮
チョウ・チャン
マリエッタ・エッジコム
アンソニー・ゴールドスタイン
パドマ・パチル
マイケル・コーナー
テリー・ブート
ルーナ・ラブグッド

蛇寮
ドラコ・マルフォイ
コルダ・マルフォイ
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