シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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そういや以前の表記で分かりづらい点があったので補足をば。
57話(不死鳥編1話)で「ドロホフにはオスカーという息子がいる」って紹介をしてたんですが公式にそのような設定はなく、今作におけるオスカーもドロホフと血縁関係はありません。伏線でも何でもないです。
某小説のリスペクトで書きましたがややこしい事になってしまいました。
こんなことで推察させても申し訳ないので書かせていただきました。すみませんでした。


9.ホグワーツ・フロントⅡ

 

 

『ホグワーツの者共よ!!城を開け渡せ!!』

『我達は戦いを望まない、この城を我達死喰い人に!!そうすれば誰も犠牲になることはないだろう!!だが!!もしも抵抗するのなら愛する母校諸共、全てブチ壊してやる!!』

『逃げる者は追わねえが歯向かう者は殺す!!』

『死でも逃亡でも──好きな方を選ぶがいい!!』

 

 

 

 

 

 時刻は夜半過ぎ。

 大広間にはホグワーツ中の人間が集まっていた。

 先の開戦宣言を聞き、半ばパニックになりながらもある程度統率が取れていたのは、スネイプが指揮を取っていたからだ。

 試験の採点中にふくろうが送られてきたかと思えば、これから総攻撃を仕掛けるので本営がある禁じられた森に来い、とのこと。

 そんな計画聞いていない──と思うが、行方知れずのダンブルドアや闇祓い達に計画を知られるわけにはいかなかったのだろう。それにこの手紙を寄越したドロホフからすればスネイプはイマイチ信用ならない存在なのだろう。

 だから万が一裏切ったとしても、十分な準備を与えないためにギリギリまで知らせなかったのだ。スネイプとしてもこれは痛い。焦りながらの戦闘準備となった。

(ちなみにスネイプはスパイという立ち位置なので死の印を使っても行くことができないので、そのための手紙である)

 

(もはや死喰い人側にいる意味はない……ダンブルドアも生徒達を見捨てたとあらば私を生かしてはおかないだろう。二重スパイは今日で終わりだ!……すごい開放感!嬉しい!!だが浮かれてばかりもいられない、状況は最悪なのだからな!)

「フィルチ!ビンズ!避難する生徒の引率を!!シニストラ、セプティマ、バーベッジ、バスシバ!マダム・ピンスはポンフリーのフォローを!!戦う意思のある者はついて来い!フィリウス、ポモーナ、フーチ、プランク、フィレンツェ、あと一応トレローニー!こちらに……」

「……先生、スネイプ先生!!早く降伏しましょう!!」

「む……」

 

 そう喚いたのはパンジーだ。パグ犬そっくりの顔をくしゃくしゃに歪めて懇願する彼女に、グリフィンドールを始めとする正義感の強い生徒達からは非難の声が上がる。

 

「お前!それ本気で言っているのか!?」

「恥知らずにも程がある!!」

「……ええ、大マジよ!!わざわざ生き残る確率が低い方を選択するなんて馬鹿のやることだわ!!」

「なんだと──」

「やめんか!!……パンジー、どちらにせよドロホフは降伏宣言など聞く男ではない。ホグワーツを守りたければ戦うしかないのだ。君は逃げてくれ、生き残ることも戦いだ」

 

 パンジーは絶望とも呻き声とも取れぬ声を上げた。

 とはいえ彼女の主張も分からなくはない。つい先程アンブリッジの悪行を目の当たりにし、ヴォルデモートと邂逅したばかりだ。死と悪意を見せつけられた彼女は本能的にこの戦いを恐れていた。

 そんなパンジーの肩を優しく叩くのはコルダだった。本来なら医務室にいるべき彼女だが、先の宣戦布告を聞きこの場に留まったのだ。

 

「……パンジーさん、死喰い人の言い分なんて信じちゃ駄目です。平気で嘘をつき人を陥れるような人達の集まりなんです。中にはペティ……自分の嘘を本当のことだと思い込むやばい人もいました。

 ここが危険なことには変わりないんです」

「……だったら、尚のこと!皆んなで逃げればいいじゃない……!!何で戦おうとするのよいかれてるわ!!」

「そう、ですね……。でもきっと、ここにいる人達は戦いたくなんてなくて、本当は逃げ出したくて仕方ないんだと思うんです。

 でも自分の大切な仲間や家族が逃げてからじゃないと、時間を稼いでからじゃないと逃げられないられような、そんな人達ばかりが集まっているんだと、私は思いますよ」

 

 言うと、コルダはスネイプのところに行こうとする。

 戦うつもりだ、そう理解したパンジーは彼女の首根っこを掴み無理矢理医務室のベッドに寝かしつけた。

 

「パンジーさん?ここは危ないです、早く──」

「うるさいわね!!あんたが治ったらさっさと逃げるわよ!!」

 

 真の恐怖を知った少女は少しずつ変わり始めた。

 もう少しだけ、付き合おう、と。

 そしてここにも一人、逃げ出そうとしている者が一人。

 

「ふ、ふざけるなよッ。死喰い人なんて聞いてないぞ!!」

 

 ザカリアス・スミスである。

 力がありながら臆病者でもあった少年はDAの中で唯一逃げるという選択肢を取っていた。付き合ってられるか、と。ただこの情けない光景を見られるのは恥ずかしかったのか、コソコソと隠れながらの避難であった。

 ……が、フィルチやチョウからバッチリ見られていた。

 

「なあッ!?なな、なんだよ悪いか!?」

「いや……っていうか、逃げるならあっちだよ」

「はぇ?」

「わしとしては、むしろ生き延びてもらわんと困る。今までやってきた活動は全部お前達を死なせないためのモンだ、それがここで御破算になっちゃ元も子もない」

「……そ、そうか?じゃあ遠慮なく……」

 

 少し情けない形ではあるが、ザカリアスは下級生と一緒に逃走ルートを歩くことになった。同級生は殆どいない。大部分がホグワーツ防衛のために残っているだろうことが推察されたが、そんなこと知るかとザカリアスは一人ごちる。

 結局、生き延びた方の勝ちなのだ。

 誰かのために戦うなんてどうかしている。

 それに、ちょっと魔法の訓練を受けたくらいで死喰い人相手に通じると思っているなんておめでたい考えじゃないか。

 だって──

──僕達は、無力な!学生なんだから!

 

「ねえ、聞いた?ロンやハーマイオニー達は残って戦うんだって」

「うん……何か手助けできることがあればいいんだけど、私達が残っても足手纏いになるだけだしね……」

「…………!」

「……私に、もっと力があれば……」

 

 ……仮に、もっと力があれば戦っただろうか?

 きっと戦わなかっただろう。何だかんだ理由をつけて戦いから目を背け逃げ続けていただろう。何もしなかっただろう。

 死ぬのが怖いから。

 負けるのが怖いから。

 いや、そもそも、そういったことを考えることが嫌だから。

 DAで学んだことを何も活かさないまま、一人ひっそりと負い目を抱えて死んでいく。別にいいじゃないか。生き残ることだってとても大切なことだ。

 ……でも、ザカリアス・スミスが戦いたくない理由はそんな高尚なものじゃない。弱い自分を見られたくないから。いつも高慢に振る舞う自分の、情けない自分を見られたくないから、戦おうとしない。晒したくないのだ。

 

(………だけど……ここで逃げたら、見てすらくれなくなるぞ──!!)

「ごめん、僕、ちょっと戻る──!!」

 

 かくして戦士は集まった。

 年齢も性別も関係ない、ただホグワーツを護りたい、その一心で彼達はここに残ったのだ。それがどれだけ勇気ある決断であることか。

 広いテーブルを出現させ、多くの教職員、生徒達が顔を揃え忍びの地図を覗き込んでいた。

 

(おいおい、忍びの地図をこんなに大っぴらに見せてよかったのか?スネイプもいるんだぞ?)

(ホグワーツ全員で戦うんだ、これは必須だよ)

「……この地図について言及するのはやめておいてやる。

 言うなれば死喰い人は、一つの巨大な孤軍だ。闇の帝王という圧倒的なカリスマの持ち主の下に集結したならず者達。その全てが一つの塊であり闇の帝王さえいなくなれば組織として瓦解する」

 

 だから死喰い人は、あれだけ猛威を奮っていたにも関わらず帝王の敗北後は拍子抜けなほどあっさりと解散したのだ。

 考えたくもない話だが、仮に今ダンブルドアがいなくなったとしてもすぐに代わりの人間……キングズリーやアレンあたりがリーダーシップを取るだろう。組織として弱体化するとしてもそこで諦めて終わりにすることなどさせないだろう。

 逆に死喰い人の頂点はヴォルデモート卿でなければならないし、そこが揺らげば一気に終わってしまう。そこに違いがある。

 

「だがドロホフは違う。彼は死喰い人が解散しても独自に兵を集めて戦争できるだけの能力がある。闇の帝王が本当は滅んでいなかったから仕掛けてこなかっただけだ。

 強大な力に頼らず、口先で人を扇動する天才。強さは並だが、帝王から紅い力の幹部に匹敵するほどの信頼を寄せられている。性格的な問題で紅い力は持ちたがらなかったようだがな」

「紅い力?」

「……奴本人の地力はそこまでではないということだ。とはいえ油断するな、奴は戦いでの駆け引きが上手く、格上相手だろうが斃すこともある実力者なのだからな」

 

 その場の誰もがゴクリと息を呑む。敵はいつも自分達の上を行く。

 それに森に隠されて戦力が読めない。巨人らしき影は見たが、それ以外の正確な戦力を知ることができれば……と思っていると、ケンタウルスのベインが息せききってやって来た。

 

「ここにいたか!死喰い人達は今何とか押し留めてるが、時間の問題だ!じき本営が来るぞ……!!」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

──数十分前。

 

 死喰い人が有する戦力の中で一番の脅威。それは並大抵の魔法が通じず、破壊力に長けた巨人達だろう。ドロホフはホグワーツ攻略に当たってその戦力を惜しみなく投入した。

 超一流の魔法使いにとってはデカい的だろうが、逆にそれ以外の魔法使いは全てを押し潰す破壊の化身。それが何十体も進む姿は圧巻ですらある。

 それらを何とか止めようとしていたのは、普通の巨人よりも小柄なグロウプだった。体当たりで倒そうとするも、その体格差から逆に蹴っ飛ばされて地面に転がってしまう。

 だが、彼はどれだけ泥塗れになろうと立ち上がり、立ち向かっていく。

 そこには友の憧憬があった。

 

「いぇりー、ぼくに、ともだちだっていってくれた。」

 

 巨人としては小さな身体ということでいじめられていたグロウプは、文字通り大きい巨人に対して一種のトラウマを覚えていた。

 ましてや同郷の巨人達──。

 殴られるのが怖い。蹴られるのが怖い。

 一人で寂しくめそめそ泣いていた時のことを、彼は忘れない。

 だけど、素敵な記憶だってある。

 

「やくたたずのぼくを、やさしいっていってくれた!!ハーミーも、ロンもぼくのともだちだ!!」

 

 花を摘んで花冠を作ってくれたシェリーのことを忘れない。

 根気強く勉強を教えてくれたハーマイオニーのことを忘れない。

 命がけで遊んでくれたロンのことを忘れない。

 

「こんどはぼくがおんがえしするばんだ!!ぉぐあーつはともだちのいえだ!!ぼくのともだちのたいせつなばしょだ!!」

 小さな勇者は立ち向かう。

 相手が誰であれ、関係ない。

 

「ぼくは、まもるぞ!!たたかうぞ!!みんなの、ために!!」

 

 勝てる要素などない。

 たった一人で巨人の群勢を止められるわけがない。

 案の定、歯牙にもかけず蹴散らされる。だが、彼の奮戦は無駄ではない。否、無駄になどしてたまるものか。

 グロウプの勇気に触発されたか、ケンタウルスまでもが、彼を後押しするために弓矢を担いで戦闘に加わった。

 

「グロウプに続けー!!」

「あの巨人を死なせるな!!」

「!?な、なんだこいつ達、急にっ!?」

「巨人は目を狙え!魔法使い達は木々に隠れて攻撃しろ!」

「くそっ、馬風情が……ぐあああっ!?」

 

 森の賢者達による連携。

 突撃するグロウプに合わせて援護射撃を行い、木々に隠れてヒットアンドアウェイで確実に削っていく。元より森での戦いは彼達の独壇場、馬の機動力も活かし縦横無尽に駆け巡る。利はケンタウルス側にあった。このままいけば禁じられた森で足止めできると思った。

──相手がドロホフでなければ、だが。

 死喰い人、アントニン・ドロホフは、地図を片手にあくまでも狡猾に采配を下す。

 

「慌てるな。忍びの地図で場所は分かっている。そして今の射撃で顔と攻撃の癖はだいたい把握した。そこ、九時の方向!」

「なッ、があああっ!?」

「!下がれッ!場所が割れているぞッ!」

「散らばって攻撃を──」

「無駄だ。この地形でお前達が下がろうとすれば、自然と一箇所に集まるしかない。そして一纏めになってしまえば、後は巨人で一掃できるって寸法だ!

 ……今だ、巨人ども!踏み潰せ!!」

「な……!?退避、退避ーっ!!」

 

 あり得ない。

 これだけの数のケンタウルスを相手に、これだけの高速戦闘の中で顔や位置、癖までもを完璧に把握し即、反撃の指示など、彼の頭脳と判断力はズバ抜けすぎている。

 しかし実際に、ドロホフの指示でケンタウルスの陣形が少しずつ揺らいできている。彼は司令塔として必要な力を全て持っており、そして極限まで極めている!

 ケンタウルスの森の守りは盤石だ。地の利を活かし、種族の利を活かし、数の利を活かす彼達であらばこそ、どんな相手であれ戦うことができる。今回のような大軍相手でも足止めくらいはできると自負している。実際、ドロホフがいなければそれはできただろう。

 だが──こうして強大な敵と対峙すると、常々思う。

 死喰い人は強すぎる……!

 

「ぐが……!!」

「グロウプが倒れた!!抱えて逃げろォー!!」

「そんな暇、オジサンが与えると思ってんのか!!」

 

 倒れ伏すグロウプを起点にして、血気盛んな吸血鬼の部隊が攻め立てる。最高速度で上回るのはケンタウルスだが、小回りが効く吸血鬼の方が初速は早い。ドロホフの采配は確かにケンタウルス陣営の喉元を穿った。

 

「……、ん?この名前は……」

「駄馬どもが……。星詠みなんぞにうつつを抜かすケンタウルスがいくら頭数を揃えても無駄だ。わしが軍略の何たるかを教えてやる」

「!?貴様は、アラゴグ!」

「……ハグリッドのペットか何かか?」

「全く違うな。彼は──友だ」

 

 大量の蜘蛛達が、ケンタウルスを守るように参上する。

 統制の取れた動き。禁じられた森の二大勢力が今、ここに集っていた。あり得ざる共闘にさしものドロホフも目を剥いた。

──まさか、蜘蛛までもが戦いに加わるとは。

 

「放心するでない、駄馬ども。疾く相手側の戦力をホグワーツに報告しに行かんか。業腹だが、人間と意思疎通できるのは貴様達だけだろう」

「アラゴグ……、お前」

「勘違いするな!我が森を荒らすことは許し難き狼藉、ましてや我が友人の不在中に攻め込むなど、そんな愚か者は生かしておけぬだけぬだけのこと!あの者達に誅を下してやるのだ!!」

 

 アラゴグは鋏をがちゃがちゃと鳴らした。

 額面通りに森を荒らされたことに憤慨していると取るべきか、はたまたハグリッドの弟への義理立てか。それは毛むくじゃらの顔面からは読み取れないが、老いた蜘蛛は死喰い人を敵と見做した。

 

「いいね。オジサンそういうの好きよ?蜘蛛にしておくのが勿体ないくらいだ。踏み潰される運命の虫畜生とはいえ、『一応』礼儀を払って改めてあんたの名前を聞いておこうか」

「ふむ。食い殺されるが道理の人間畜生とはいえ、『一応』礼儀を払って我が名を知る栄誉を与えてやろう。

──我は森の番人の友、蜘蛛の王。アラゴグである」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「──敵は間違いなく巨人兵を使って質量攻めしてくる」

 

 ケンタウルスが持ち帰った情報を元に、ロンはきっぱりと言い切った。

 彼の言葉を妨げる者はいない。ただの一般学生とはいえ、その分析はあまりに的確だったからだ。それが獅子寮特有の出しゃばりだとは思えず、スネイプですら嫌味を言わずに次の言葉を待った。

 ホグワーツの利点は崖上の城という構造故の対空性能。

 高台……すなわち櫓が多数にあるので竜や箒などで攻めるのは難しい。それが分かっているからこそ地上での制圧を選択したのだろう。

 それは地図を見ても明らかだ。

 

「多少の魔法を防げる巨人を活用しない手はない。確実に巨人を前衛にして押し進んでくるだろう。だけど逆に言えば巨人が進めるところからしか攻められない」

「……と、なると。禁じられた森側が防衛の要所となるな」

「だが巨人をどう殺す。でかいってのはそれだけで厄介だぞ?」

「……森に隠れながら頭部を狙う。巨人の大きさで逆にこちら側の姿を隠せるかもしれない」

「小兵とくれば私だ。敵から身を隠しての先攻めなら、この私でもお役に立てるというもの。小鬼の魔法をご覧あれ」

「お願いしますフリットウィック先生!」

「……彼の援護を頼めますかな?最も森を熟知しているのはケンタウルスだ」

「任された!……しかし、ふむ……?」

「どうした?」

「ヒトの子の間ではそれが流行っているのか?死喰い人達もその地図とよく似たモノを持っていたぞ」

「何だと!?」

 

 ベインが指差したのは忍びの地図。

 ロン達はあからさまに狼狽する、この地図はホグワーツに精通したジェームズ達が四人がかりで創り上げた代物。そうそうあっていい産物ではない。……それが死喰い人側にもあると?

 

(死喰い人にはペティグリューがいる、新たに忍びの地図を作ってもおかしくはないが……)

「それが本当なら相手にも名前と場所が分かる、不意打ちは不可能ってことだ!クソッ、作戦を練り直す必要があるな……」

「いえ、いえ」

 

 フリットウィックは、穏やかに首を振った。

 

「この世には分かっていても防ぎようのない魔法もあるのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先鋒として森に入ったフリットウィックは、程なくして死喰い人の軍勢を捕捉した。心臓を震わせるような衝撃音……これは巨人が群れをなして歩んでいる時の音だ。

 グロウプやケンタウルス、アラゴグ達の足止めがなければ、もっと早く襲来したかと思うと笑えない。……だが、残念ながら、そのアラゴグはもう生きてはいないだろう。先程、地図上から名前が消えたのを見た。

 彼には思うところはあれど、その犠牲を無駄にしてはならない、と男はひた走る。

 

(──粘着性の高い糸でトラップを作り、足止めをしたのか……!)

 

 アラゴグなる蜘蛛はしっかりと置き土産を残していた!

 だがフリットウィックの予想が正しければ、そろそろ敵勢力とかち合う筈だ。その思案に答えるように、緑の閃光が放たれる。

 

「ドロホフの言う通りだ!!奴が言った通りの場所にケンタウルスどもとフリットウィックがいやがったぜェーッ」

 

 魔法を使い現れたのは、十人ほどの死喰い人達。

 フリットウィックはすかさず木の影に身を潜める、それは小柄な彼が自分よりずっと大きい者達と互角以上に渡り合うために編み出した戦法だった。

 ケンタウルスも同様に木陰に隠れながら隙を窺う。

 死喰い人達はそんなものお構いなしと言わんばかりに魔法を連発し木々を焼き払っていく。数に物を言わせた連続的な破壊。だがそんなものに臆する者はいない、フリットウィックは突撃を敢行した。

 

「そこだっ!……なに!?」

 

 死喰い人の一人が撃ったのは、ただの木の人形。フリットウィックが即席で作ったダミーを『発射』させたのだと気付いた時には、二人の死喰い人はもう意識が刈り取られていた。

 フリットウィックは再び木に隠れる。もう一人の死喰い人が意識をそちらに向けた瞬間、ケンタウルスの矢が飛来した。防御した隙を狙って再びの突撃。

 ……今度はダミーを盾に使いながら突っ込んできた!

 本物を探すことばかりに意識を取られていたその死喰い人もまた同様に地面に倒れ伏した。

 

「こいつ手強いぞ……!!油断するな!!」

「それはどうも!そして、いまの攻防で分かりました!

 やはり地図は一つしかないようですね!名前や位置を特定できるマジックアイテムがあれば、私の場所を正確に把握できる筈!しかしそれができなかった……つまりそれを持っているのは指揮官のドロホフただ一人、違いますか!」

「……!!ふっ、バレたか。そうさ、忍びの地図は生産に手間も時間もかかるからドロホフが持ってる一つしかねえんだ。こんなに早くバレるとはな」

「ああ、そうなんですか。カマかけただけなんですけども」

「……………」

「わっかりやすいなーあいつ」

「…………………………殺す!!!」

 

 怒り狂った男の無差別な魔法の乱射。

 その乱れ打ちをフリットウィックは更なる激怒でもって返した。

 

「一丁前に怒っているようだから教育してやりましょう!私の方こそはらわたが煮えくり返っていることを!!生徒達を殺す、ですって?そんな非道を私が許すと思ったか!!」

「ぐお──て、てめえ……!!」

「容赦も慈悲もないと思え、死喰い人よ!!この学び舎での殺人は誰であろうと許さんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリットウィックを討伐しに行った死喰い人の部隊が帰ってこない。ドロホフは忍びの地図上で動かなくなった名前を見て溜息をついた。十中八九返り討ちに遭ったのだろう、使い捨てとはいえあまりにも役に立たない。

 だが注視するべきはそこではなく、フリットウィックやケンタウルスの名前もまたそこから動いていないということ。もうすぐ巨人の部隊が森を抜けてホグワーツを攻め入るというのに、全くと言っていいほど動きがない。

 

(何故だ。フリットウィックの狙いはオジサン達への強襲だろうに、何故逃げるでもなく攻撃するでもなくその場に留まっている?考えられる状況としては……そこでしかできない何かがあるから……考えろ、オジサンならこの位置から何をする?)

「──そうか、狙撃……!」

 

 ドロホフの頭脳は一つの結論を弾き出した。

 狙撃魔法くらい、呪文のエキスパートたるフリットウィックが習得していないわけがない。狙撃魔法ならその場から動かずとも攻撃することが可能だ!

 地図を持っているからこその盲点。

 なまじ敵の位置が分かるからこそ遠くの敵は疎かにしがちになる。

 考える間もなく、ドロホフは即座に魔法を放つ。タイミングはドンピシャだ、『遠くから放たれた魔法』とぶつかって弾けた。

 胸中でほくそ笑む。遠距離から巨人の急所を狙い撹乱するつもりだったのだろうが、その目論見は外れた!もう狙撃魔法は通じない、位置が分かっているスナイパーほど滑稽なものはない!

 無駄な足掻きだったな、と嗤うドロホフだったがその笑みはすぐに剥がされることになる。何故なら、撃ち落とした筈の魔法は怪しげに輝き始めたからだ。

 ドロホフが使ったのは失神呪文だったのだが、フリットウィックが放った魔法……いや、『花火』は、呪文を使うと逆により激しく破裂するという性質を持っていた。それが敵陣営のど真ん中で炸裂すればその被害は何十倍にも膨れ上がる──!

 

「ごあああああああああ!?」

「ぐぎゃあああああ!!!」

 

 フレッドとジョージが開発したその花火は、巨人達を襲撃せしめる兵器と化す。ドロホフの即座に攻撃に反応できる実力を逆手に取った逆転の発想!花火が派手に紅く燃え上がり、混乱を引き起こす!

 

「やるねえ」

 

 アントニン・ドロホフはニヒルに嗤う。

 個と個の戦いではなく、軍と軍の戦いを至上とする生粋の戦争屋はこの戦いを退屈だとすら思っていた。ダンブルドアやマクゴナガルがいないホグワーツに価値はない。過剰戦力で適当に攻め入るだけで陥せるハリボテだと、忌憚なしにそう思っていた。

 だが向こうには不確定要素がある。

 個々を活かし束ねて力と為せる人間がいる。

 そしておそらく生粋の軍師がいる!

 張り合いが出てくるというものだ。退屈な任務だと思っていた戦いが予想以上の抵抗とイレギュラーによって彩られていく!

 

(そうだ──そうでなければ戦いは面白くねえ!!!)

 

 此度の戦争は、少し、面白くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラゴグ『死亡』

死因:ドロホフによる死の呪文

 




皆んな知らないであろうホグワーツの教師陣。

マグル学:チャリティー・バーベッジ
天文学:オーロラ・シニストラ
数占い:セプティマ・ベクトル
魔法生物飼育学:ウィルヘルミーナ・グラブリー=プランク(代理)
古代ルーン文字:バスシバ・バブリング

殆ど活躍の機会ないけどホグワーツにはこんな愉快な仲間達がいるんだぜ!!!
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