シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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紅い力の幹部って毎回打つの面倒だし誰かかっちょいい名前つけてくんねえかな……(チラッ
あと伏線とか謎とか回収してるつもりでも忘れてるやつとかあるから誰か教えてくんねえかな……(チラチラッ


11.ホグワーツ・フロントⅣ

『……あっ!!』

 

 ヘレナが、その髪飾りは分霊箱に使われた可能性があることを思い出したのは、ルーナが髪飾りを身につけた後だった。

 

「?どうしたのヘレナ」

『な、何ともないのですか?』

「特に何も……」

『そ、そう……ですか?』

 

 分霊箱と化した髪飾りにどんな呪いがかかっているのかと心配したが杞憂だったようだ。とはいえ、あの邪悪な男の魂が入っていて何も影響がない筈がない。ヘレナはよくよく髪飾りと剣を覗き込んで、

 気付いた。

 ヴォルデモートの魂がまるで感じられない。彼の魔力の残穢すら残っていない。

 それはおかしい、分霊箱として使用されたのならその痕跡が残る筈。それが全くないということは、彼はこの髪飾りに魂を分けていないことになる。自分の罪の証を見たくなかったので放置していたから今まで気付けなかった。

 ヘレナの読みが正しければ、ヴォルデモートは分霊箱を複数作る予定だった。

 自分の魂を分割し、他の容れ物に入れて保存する。そのための容れ物の一つとして髪飾りを欲したのだとばかり思っていた。だが、それが為されていない。

 つまりヴォルデモートは分霊箱を作っていない?

 では、何故彼はあの蛇のような顔面になったというのだ?

 ……情報が、足りない。

 

(あの姿になった以上、分霊箱を作ったのは間違いない。だけどお母様の髪飾りは分霊箱に使われていない。どうして?偉大なるホグワーツ創始者の魔道具が器に相応しくなかったとでもいうの?何か……何か他のものに魂を入れたとでもいうの……?そんなもの……

 ……!!『紅い力』!!)

 

 ……あくまで推測、だが。

 十六年前、ヴォルデモートは既存の紅い力と分霊箱の力を組み合わせ、寿命を削らなくてもいい紅い力を生み出した。そして彼はその力を信頼する部下に分け与えたらしいが、その際に己の魂をも与えたのではないだろうか?

 

(例のあの人は紅い力を創り、それを七つに分けて自分の部下に持たせた……

 それはまさしく、分霊箱の作り方に酷似している。自分の魂や力を切り離して他の何かに閉じ込める、それが容れ物か人間かの違いだっただけ。

 ということは、紅い力を授けられた幹部はあの人の魂を入れられている……ということになる……!)

 

 そうか、とヘレナは合点した。

 紅い力の幹部がヴォルデモートの分霊箱になっているのだ。彼達を倒さない限りヴォルデモートが死ぬことはない!

 ただの分霊箱なら、見つけさえすればいくらでも破壊することができる。魂をも喰い殺す毒牙を持ったバジリスクが仲間に加わっているのだから、分霊箱を壊すなど造作もなきこと!悪霊の火を使える人材もいる!

 だが、壊さなければいけないのが分霊箱ではなく紅い力の幹部だとしたら?

 それは……とても困難だ。話を聞いただけでも分かるほどに強い幹部達を全員倒さなくては、ヴォルデモートを殺すことさえできないのだ。

 

(おそらくお母様やヘルガおばさん、サラおじさんの遺品を収集したのは分霊箱の実験をするため!人に強大な力を移すのだから下手をやれば優秀な部下を殺してしまうからだ!あの日記はきっと実験の過程でできた分霊箱……それが壊された今、例のあの人の魂は彼と紅い力の部下の中にあるんだ!!)

 

 もしも、おそらく、たぶん、きっと。

 全てが推測の域を出ない考察だが、ヘレナはそれがほとんど事実であるだろうことを理解した。彼女はロウェナ程ではないが天才、それがまったくの的外れではないことは分かる。

 あの蛇顔になったのは、魂が分けられたことによる反動。

 しかし瑞々しい青年の姿に戻ったのは、自分が創造したハリーやシェリー、日記帳を取り入れたことで魂が回復したから。

 髪飾りを得て見つけたのは希望か、それとも──。

 

「絶望なわけないモン」

『!』

「貴方が何に気付いて何を察したのかは知らないけど、絶望なんてそんなもの、いくらでも塗り替えてみせるよ」

 

 そうだ──。

 この子達に希望を感じたからこそ、自分は髪飾りを託したのではないか。

 ルーナはすぐさま戦場に舞い戻る。

 彼女の脳内にはロウェナの意思が伝わってくる。なるほど、断片的ではあるが創始者の言葉を聞くことができるのか。

 

『いいですか、ルーナ。この剣は私達の意識を継承する者でなければそれを持つことすらできず、また、戦いが終わると力を失う仕組みになっています。この剣が無いと勝てないような戦いでなければその力は発揮されないのです』

「意外と不便なんだね」

『便利すぎると人はそれに頼ってしまいますから。それにゴドが剣の所有権で小鬼と散々揉めて……って、それはいいです。とにかく、この剣を使うからには必ず勝て!ということです』

「言われなくても!」

 

 見慣れない髪飾りと剣を持ってきたルーナにギョッとするマリエッタに構わず、彼女は思うがままにそれを振るった。

 レイピアの形状こそ取っているが、それは敵を刺し穿つためのものでなく、空間を切り裂く類のものだ。

 通常の魔力とも、紅い力ともつかぬ不可思議な魔力が満ちる。

──ロウェナ・レイブンクローはホグワーツの防衛機構を作ったとされる。

 見た目には分かり辛いが、ホグワーツは違う空間と化しているのだ。そんなロウェナが剣に込めたのは空間を操る魔力。

 世界を書き換える能力!

 死喰い人の一人が放った魔法は、ルーナが切り裂いた虚空へと吸い込まれた。

 

「な……」

「何だそりゃあ!?」

 

 ブラックホール……のようなものだろうか?

 細かい説明はいい、ルーナは内なる声に従い剣をその場に突き刺した。途端、ルーナの周りの空間が揺らぎ、少し離れたところへと移動する。彼女に攻撃した死喰い人はその謎の現象に惚けてしまい判断が遅れ、ハーマイオニーに気絶させられた。

 

「すごいじゃないルーナ!」

「そして何だその剣!?」

「細かい説明は後だよ、とにかくこの戦いの間だけ力を貸してくれるみたい!」

 

 レイブンクローの剣には特殊な魔力が詰まっている。

 それにより空間を引き裂いたり、躱したりすることが可能になるのだとか。

 その証拠に、ホグワーツでは本来絶対になし得ない『姿現し』に近い現象を彼女は起こしてみせている。

 どくん、と鼓動が高鳴った。

 いけるかもしれないと。

 この剣がどんなことができるかを未だ知らないが、どんなことをやってくれるのかという期待ならある。

 ルーナに期待が高まった。

 極限状況下での覚醒に、誰もが勝利という名の希望を抱いた。

 

 

 

 そしてその希望は崩れ去った。

 

 

 

 ルーナが攻撃を躱した先に、人狼の拳が置かれていた。

 彼女の動きを読み切ったのだ。

 あり得ない、そんな、たった数回しか使っていないのに、何で──。

 少女の矮躯が地面に転がる。砂上の楼閣よりも儚く崩れ去ってしまった。

 

「よく分からんが、お前、そのマジックアイテム使うの初めてなんだろ」

「……何で、」

「何で分かったかだって?舐めんなよ、俺達はあのドロホフと戦ってきたんだぜ。相手に合わせて粘り強く戦うのが俺達のやり方だ、土壇場の覚醒や火事場の馬鹿力は一番警戒してんのさ」

「最強の敵に勝機を見出だす!無敵の相手の弱点を見つける!それが俺達の戦い方!たかが覚醒した程度で形勢逆転できるほどヤワな鍛え方してねえんだよ!!」

 

 特筆すべきはその継戦能力。

 これだけ戦ってもまだ死喰い人達の力は衰えていない。持久戦は寧ろ彼達の得意とするところで、スタミナや魔力を多く消耗しているホグワーツ側とは打って変わって未だその脅威は健在している!

 感情の爆発による魔力の増幅など魔法界では珍しくない。窮鼠猫を噛むというように、怒りによって普段は眠っている底力を発揮することで実力差をひっくり返すなどザラにある。

 この死喰い人達は、それをも計算に組み込んでいる。当然といえば当然。

 怒って敵を倒せるのなら、死喰い人はとっくに倒されている!

 次いで放たれる攻撃をネビルが盾の呪文を張って守る。だが、それすらも読まれていたかのように盾を迂回して強烈な連打が叩き込まれた。

 あれは、骨が折れている。

 

「手こずらせやがって、ガキどもが!!」

「く、糞……!!」

「その程度で俺達を倒せると思ったら大間違いなんだよ馬鹿がァアア──!!」

 

 ネビルへと、巨人の棍棒が振り下ろされる。

 スローモーションでやって来るそれを見て、ネビルはただただ歯噛みした。

 強すぎる。

 たかが一般兵がこれだけの強さを誇っているなんて、死喰い人の層が厚すぎる。

 考えれば簡単な話。普通の学生が一年練習した程度で、

 敵う相手ではなかったのだ。

 

「──ネビル!!!」

 

 夥しいほどの血が流れた。

 形成が、変わる。

 戦いの均衡が崩れ去った。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ドロホフとの激戦は続いていた。

 

「ウィーズリー……ウィーズリーか……!!そういやその家に嫁いだモリーとかいう女がいたねェ!よォく覚えてるぜ、そいつの弟のフェービアンとギデオンをぶち殺してやったことをなァ!」

「何っ!?」

「弟を殺されたと知った時、どんな顔をしたんだろうね!見てみたかったなあ!そういえば君の兄貴にフレッドとジョージって双子がいたなあ!あれ!?頭文字が同じだね!?今でも弟に未練タラタラなのかな!?お前のお袋はもしかしてブラコンだったのかな!?オジサン引くわァ!」

「いい加減にしやがれこのクソ野郎!!」

「待てウィーズリー、早まるな!!」

 

 挑発に乗った。

 ドロホフは、ロンが怒声を上げながら目掛けて走るのを迎え撃とうとして……しかし失敗した。ロンは攻撃のために突っ走ったのではなく、「ルーモス、光を!」と目を眩ませたのだ。

 激昂したと思わせて視界を防ぐ。思わず目を覆ったドロホフの隙を突いてスネイプが魔法弾を放ち、ドロホフを守っている魚群を何割か吹き飛ばした。

 

(今の激憤は演技か、この状況でよくやる……!!)

(マジかよ、やってくれるじゃねえの)

 

 スネイプやフリットウィック単体ならドロホフに圧倒的に利がある。直線的すぎる戦い方なので搦手を使うドロホフは相性が良いのだ。

 生徒にしてみてもそうだ。勇気があって果敢に攻めるようなタイプはむしろドロホフにとって格好のカモ、そういう奴達のプライドを煽ってやれば面白いように崩せることを彼は知っている。

 だがこの男は妙にやり辛い。

 強さでは敵うべくもないが、自分のすべきことを明確に理解している!

 ドロホフにとってロンは明確に苦手な相手なのだ!

 

「まァ、多少苦手な相手だったところでオジサンに負けはねえんだがよォ!!」

「来いっ!ドロホフ!」

「あァ相手してやるよ!!」

「っ!?こっちに攻撃してきたか!」

 

 ドロホフはロンに攻撃すると見せかけて、ノールックでスネイプへと無言呪文を放った。ドロホフの得意技、油断させておきながらの無言呪文である。今が攻撃のチャンスだと不意を突こうとしたスネイプは、慌ててその思わぬ攻撃を何とか打ち消す。

「『フェラベルト、変化せよ』!」

 次は何を何に変化させる、と身構えた二人だったが、杖からは小規模な台風が放たれ辺り一帯を切り刻んだ。口では変化呪文を唱えておきながら実は無言呪文で風呪文を使うという高等テクニック。

 騙し合い、化かし合いは彼の得意とするところ。嘘八百を並び立てて相手を混乱させて優位を取る。人同士の戦いをドロホフが得意とする理由がそこにある。

 だがスネイプも負けてはいない。彼の十八番セクタムセンプラで風を切り裂いた。

 返す刀でロンが切り込んだ。インカーセラスで縄を作り、瓦礫を掴んでぶん投げる。魔法ではない物理攻撃、魚で魔縄を喰いちぎるも、さしものドロホフも瓦礫はガードするしかない。

 

 奇妙な関係性だ。

 ドロホフはスネイプに強く、

 スネイプはロナルドに強く、

 ロナルドはドロホフに強い……わけではないが、予想だにしない攻撃を放つ。

 互いが互いの弱点を突き突かれ、結果として全員の能力がフルに発揮される!

 全ての潜在能力を引き出した戦い。通常人間はどれだけ訓練を積んでも実戦ではせいぜい七〜八割くらいしか実力を発揮できないものだが、今この場では十割増しの力を発揮していたといえよう!

 ただここで問題はドロホフの防御力。付かず離れずの中距離での牽制、更には圧倒的なスタミナが彼の強み!中でも攻防一体の魚群防壁が最大の障害だ!

 下手に突っ込めば即死──!

 

「なら逆に突っ込んでやるっ!」

「何!?早まったかウィーズリー!!」

「違うぜスネイプ先生!この魚は魔力を感知して自動でドロホフを守る、なら逆に魔力を感知させて魚の行き先をコントロールしてやればいいんだ!!」

「馬鹿な、それでは魔力を放つ瞬間に魚が向かってたちまち喰い殺されるぞ!!」

「どうかな」

 

 ロンが生み出したのは守護霊だ。

 彼の指揮棒のような動きに合わせて教室の中をテリアが跳ね回る。その銀色の犬を追ってドロホフを守っていた魚が離れて飛んでいく!守護霊とはすなわち魔力の塊、魚達は一斉にその魔力へと飛びつく!

 ドロホフの判断は早かった。即座に魔法盾を展開、即席だがかなりの強度だ!

 だがスネイプの魔法の方が強い!

 

「ぐおおおおおおっ!!」

「押し込め!!ウィーズリー、貴様も加勢しろ!この機に攻撃を叩き込め!!」

「はい!!」

(早い、知らない間にこれほどの力を得ていたか……!)

 

 ロンの実力を認めたスネイプは、更なる魔力放出を行った。

「速度を上げろ!!私に合わせろ!!二人でドロホフを倒すんだ!!」

 

 盾を何枚も展開するが、ここにきてスネイプの火力の高さがドロホフを苦しめる。

 防御には一家言ある彼だが、スネイプは早撃ちの強さで幹部に選ばれたような男なのだ。ロンも攻撃に加わった今、半端な盾では数秒と持たない。けれどもドロホフの頭脳は数秒あれば打開策を弾き出す。

 フレッド・ジョージ作の花火。

 魔法が当たると逆に膨らんで炸裂するという特性がある花火を、彼は回収して再利用できるようにしていた!敢えて盾を爆発させて体勢を崩し、花火を放り投げると、思った通りに着弾する。スネイプの早撃ちを逆手にとって、それが何なのかを把握させる前に撃たせたのだ。

 火炎が広がり、周囲を包む──

 

 スネイプは飛来した小石で目を切った。

 

 血で視界が塞がる。眼球は切っていないようだが恐ろしいまでのハンデだ。

 ロンだけは、防戦一方のドロホフの行動に違和感を感じて警戒していたので盾でガードすることができたが、それでも身体が妬けるように熱かった。

 どこか火傷したのか。

 杖腕は無事、まだ戦える。

 だがスネイプはどうする、一手間違えればスネイプは死ぬ。

──いや。スネイプなら、「いいからさっさと倒せ馬鹿者」と減らず口を叩く筈。

 少しだけそこで待っていてくれ。

 盾の呪文を展開しながらロンは突撃した。

 

(このガキ!接近戦でオジサンを確実に仕留めるつもりか!だがこいつは体術でいくらでも捻り潰せる!そして盾を展開しながらの突撃なんざ、ビビってるのが丸分かりだ!魔力のリソースの大部分を盾に使ってるから大した魔法も出せねえだろ!!

 返り討ちにしてやる!風の刃で……)

「アクシオォオオオオ!!」

(……!?呼び寄せ呪文!?瓦礫や机をぶっつけるつもりか!どこから──

──真後ろからか!!)

 

 瓦礫を破壊するには魔法しかない。

 だがロンを殺す方法はいくらでもある。魔力を込めた投げナイフをロンに投げればいいだけだ。盾で弾かれてしまうかもしれないが一瞬足を止めることはできる。

 同時だった。

 ナイフを投げつつ、振り向きざまに魔法を放つ。

 しかして、ドロホフは、今。

──初めて明確に読み間違えた!

 

「……!?何もねえ!?」

 

 呼び寄せ呪文はフェイクだ。

 風呪文を使った先には何もない!まったくの無駄撃ちだ!

 ドロホフの得意技、『詠唱しておきながら全然別の事をする』を、ロンは真似てみせたのだ!ドロホフに振り回されてきた彼が初めて頭脳戦で先を行った!

 一手、早かった。

 ナイフを弾き、その長身でロンは右手を振りかぶり。ドロホフ目掛けて渾身の右ストレートをお見舞いした!脳が揺れる。窮地であっても正解を弾き出す思考能力に空白が生じる!

 次いで、ロンの魔法が、アントニン・ドロホフを壁へと吹き飛ばす。

 いや──壁、ではない。

 吹き飛ばした先はガラス張りの窓。ロンは二階から落とすつもりだ!何とか踏み留まり耐えようとするドロホフだが、ロンの長い脚がそれを許さない。強烈な蹴りが炸裂した!

 

「こ、の、糞ガキ──」

「アントニン・ドロホフ!お前は長年人を欺き続けてきたようだが、僕を騙すのは十年早かったようだなああああ!!」

「がああああああッ!!」

 

 ガラス窓が割れ、ドロホフの身体が外へと放り出される。

──勝った!

 この戦い、ロンとスネイプの勝利だ。

 激戦だったが、アントニン・ドロホフをとうとう倒したのだ。タフなドロホフでも二階から落ちればしばらくの間は動けないだろう。安堵の息を吐こうとして、

 逆に息を呑んだ。

 蹴りで伸ばした脚に何かが絡みついている。この細く長いものは……ロープだ!

 

「ハッハハハァ!オジサン舐めてもらっちゃ困るぜ、お前も道連れだァ!!」

「お、お前、インカーセラスで縄を作って脚に絡ませたってのかい!?」

「ご名答!!オジサンと仲良く落ちようぜ!!」

 

 あの一瞬で何という判断力……!

 しかしまずい、空を飛ぶ魔法は魔法界にまだ存在しないし、今は魔力を消費しているので大した魔法も使えない!

 やばい、打ち所が悪ければ死ぬ!焦ったロンは、咄嗟にその名を叫んでいた。

 

「来てくれバジリスクゥウウウ!!」

「ええ、来ますともっ!!」

 

 下の階の窓から飛び出した蛇の王が、間一髪でロンを受け止める。

 バジリスクの巨体ならば、空中でロンを支える足場となる!

 蛇の鱗に軟着陸するロン。

 ひとまず助かったと安堵するも、彼はある可能性を懸念していた。ドロホフもこの蛇に乗って助かるのでは、という可能性を!

──懸念は当たった。

 ドロホフは杖からありったけの風を出して、一瞬の空気操作を行う事でジェット機のように空中を移動し、無理矢理バジリスクの身体にしがみついたのだ。あれだけ戦っても尚尽きぬ闘志。しぶとすぎる……!

 対してロンは息も絶え絶えだ。一度勝ったと思っていた相手と戦うというのは流石にきつい。精神的にも、体力的にも。

 

「オジサンがこの程度のことで倒せると思ってんのなら大間違いだぜ……!!」

「ぐ、この……」

「そして!よしんばオジサンを倒せたとしても、もうホグワーツの負けは決まった!兵力が違うからだ!!惜しかったなロナルド・ウィーズリー、出来ることなら同じ条件で戦ってみたかったけどよ……!!」

 

 悔しいがその通りだ。

 戦いが始まってから早数時間、もうすぐ陽が昇ろうとしている。

 防衛に特化して時間こそ稼げてはいるが、それでも時間稼ぎが関の山で、勝てはしないだろうと心のどこかで理解していた。あと数分もすれば死者が出始める。

 ホグワーツ戦線は崩壊する。

 

「だが戦争で同じ条件なんてあり得ねえ。誇っていいぜ、オジサンをここまで追い詰めたのはお前が初めてだ」

「な、にを……何を言ってる!まだ勝負は終わっていないぞ!!僕は──」

「無理だね。その身体はもう動かせない」

 

 何を、そう言おうとして金縛りにあったかのように全身が痛むのを感じた。

 筋肉に針金が巻きついているかのように硬直して、曲げることすらできない。ここにきて疲労がピークに達した。

 更には問題がもう一つ。

 

(脚を捻った……!?)

 

 鈍く重い痛みがやって来る。同時に焦燥の汗が垂れる。

 ドロホフは怪我を負った状態で倒せる相手ではない。スネイプが上階から狙撃してくれればと思うが、彼は今視界を塞がれている。

 

「ロン殿!!早くお逃げください!!私のこの体勢では背中を攻撃できませぬ!!」

「くッ、仕方ない、下に転がって──」

「んな隙与えるかよ」

 

 ドロホフの杖にはもう、十分な量の魔力が溜まっていた。

 

「死ね」

 

 緑の閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 吸い込まれるように斧が振るわれた。

 ああ、死ぬ。

 どうしようもない死をそこに感じた。

 悔しさに涙が溢れそうだ。こんな連中に負けるなんて。こんな連中が強いなんて。

 ホグワーツの全てを出し切っても勝ち切ることはできなかった。

 相手は、強すぎた。

 それでもネビルは、無様だけは晒すまいとキッとそれを見据えた。

 退いてなるものか──!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────『居合』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何者かが、棍棒ごと腕をぶった斬った。

 洗練された魔法の刃が、鮮血の徒花を咲かせた。

 呆けた巨人達を斬り刻む。その武者に慈悲も区別もありはしない。

 およそ華やかさとはかけ離れた、強引な攻め。華美な響きなどある筈もない。

 けれどその、道理も何もない乱雑な攻撃が人々の闘志を湧き上がらせているのには違いなかった。

 彼はきっとおそらく、

 世界でたった一人の。

 二刀流、ならぬ、二“杖”流の魔法使い。

 

「地獄に来つ寝(きつね)よ」

 

 武者に続くは、紅の弓兵。鎧に身を纏った妖狐が番う矢の数々が無数の死喰い人を貫いていく。

 美しき金毛を輝かせて、狐は寸分狂いなき精緻さで、眉間へと当ててしまう。

 獰猛な瞳は、優秀な千里眼でもあった。

 (アルクス)をしならせて、美しき獣の蹂躙劇が始まる。

 突然の加勢に慌てふためく彼達の間を一人の風が通り過ぎると、途端に弾かれ倒れ伏していく。墨でもぶち撒けられたかのような特殊な移動術。そして高すぎる身体能力による迫撃の強さ。

 

「流るゝ黒は墨となり、切り裂く黒は柳となる」

 

 知っている。

 ハーマイオニー達は彼達を知っている。

 この場の全員がその勇姿を覚えている!

 ダンブルドア軍団は強くなるにあたり彼達を参考にしていた。何故って、その強さに憧れたから。その魔法に憧れたから。

 サムライに、武士(もののふ)に。

 (つわもの)どもはここに在り。

 

「貴様達のような粗忽者は残らずくびき取ってやる」

「コルダちゃん、皆んな。後は私達に任せて」

「おう、きさんら。ぶっ殺してやっど」

 

──援軍がやって来た。

 駆けつけたるはマホウトコロの戦士達、だけではない!

 不意に奏でられた、最高にイカした爆音の魔法が死喰い人達を吹き飛ばす!

 

「──ギターかき鳴らすぜェエエエエ!!カモォォォオオオン!!」

 

 防御を無視した絶大なる振動破壊!かき鳴らされたギターは最高潮!

 破裂せんばかりの音の波が、辺り一帯の敵どもを襲う!

 世界一有名な学生バンド。こんなことをしでかせるのはこの三人しかいない!

 

「サーベラス!!」

「ここまでよく耐えたなお前達!!最高に熱い魂してんじゃねえかッ!!」

「後でサイン書いてやるぜ!!」

「オラオラ、巻き込まれたくねェならすっこんでな!!」

 

 あらゆる勢力渦巻く中であっても、一際目を引く派手な髪とメイク。世界中を躍動させる彼達がニヤリと笑う。

 熱く、それでいて頼もしい叫声が聴くもの全てを震わせる!

 狂え狂え!狂いこそが最高の道楽、ふざけた愉快さが武器になる!

 ここは既にライブ会場だ!ここがお前達の棺桶だ!

 援軍はまだまだ増える。マホウトコロ、イルヴァーモーニー、ボーバトン!各校の精鋭達が戦闘に参加する!

 

「まったく、ここまで案内したのは俺達なのに、騒がしい奴達だ」

「ビル……!!」

「やあジニー、無事で何より」

「ロンの兄貴……、こ、これは?」

「──不死鳥の騎士団は極秘裏に戦力を集めていてな。だが、増え続ける死喰い人を相手する戦力を集めるのはヨーロッパだけでは限界があった」

 

 だから、世界へと手を伸ばした。

 去年の魔法学校対抗試合で得た知己と縁を活かさない手はない。本国で闇祓いになった生徒や代表選手を中心に声をかけ続けて召集したのだ。

 元よりセドリックやローズ、ブルーの死とそれに対するイギリス魔法省の態度に少なからず思うところがあった者達は快く了承してくれた。決意が揺らいでいた人間には、校長職を留守にしている間にダンブルドアが直接掛け合ってくれたのだ。

 

「で、でもサーベラスなんかはプロのミュージシャンになる道があったんじゃ」

「あァン!?ファンがいねェとプロも糞もないでしょうがよ!だからあーし達は歌い続けるぜ!今ここにある命を助ける為になァアアアア!!」

 

 繋がった。届いた!

 意味は確かにあったのだ!

 今ここで諦めてしまっていたら間に合わなかった。ここで粘っていなければ彼達が到着しても形成は逆転していなかった!数時間も耐えながら戦っていたことでようやく報われた!

 そしてロンも、助けられていた。

 世界最高のシーカーと、ヴィーラとのハーフの美しき女性に。

 

「よくやった。ヴぉく達がやって来るまでよく持ち堪えたな、ロン」

「わたーし達は去年の絶望で色々なことを学びまーした。死なせるもんですか。もう誰一人、死なせませーん」

「クラム……フラー……!!」

 

 死の呪文が当たるすんでのところでフラーの羽根がそれを弾き、クラムが高速でロンを掴んで飛び去ったのだ。

 かつて憧れたその背中がすぐそこにある。諦めていては見られなかった景色だ。

 岩のように太い腕で肩を叩かれただけで勇気が湧いて来る。自信が漲る。

 駆けつけて来てくれた彼達には感謝しかない。喜色満面の笑みを涙で濡らすわけにはいかない。だが……ロンは泣かずにはいられなかった。

──嬉しい。

 来てくれて、嬉しい。

 

「圧倒的な兵力差の前には敗北しかない……まさにその通りだ。まさかオジサン達の方が少数の側にになるとはね」

「大分遅れてしまったがな……。ああ、だが、敢えてこう言い直そう」

 

 魔法学校対抗試合の代表選手、そしてその学校の生徒達が、参戦した。

 

 

 

 

 

「──助けに来たぞ!!」

 

 




ダームストラングの生徒は諸事情によりクラムだけです。
次回、ホグワーツ戦線決着です。
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