シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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メリークルーシオ。
サンタさんからの小説のプレゼントじゃよ。


13.クリムゾンフォース

 まるで『どこかに戦争でも行ったみたいに』死喰い人の数は少なかった。

 ヴォルデモートが戦力として集めていたという迫害された異種族の姿はなく、いるのは少数の死喰い人のみ。とはいえ紅い力を持つ者達の存在は到底無視できるものではなかった。

 そのひとり、オスカー・フィッツジェラルドを視線で射殺さんと言わんばかりにベガが睨み付けていた。

 ベガの唯一無二の友、シグルド・ガンメタルを殺したのは他ならぬ自分自身の傲慢だと理解している。けれどだからといって、彼が死ぬ直接の原因を作ったのはオスカーを憎まない理由にはならない。

──そう、この男なのだ。

 怒りと屈辱で打ち震える。あの日の悔恨が消えずとも、彼への憎悪が塗り潰されるわけではない。凪いだ泪の海が揺れ、憎しみの焔が静かに燃え始める。

 シェリーに偉そうに言っておきながらこのザマだ。自嘲するも、ベガがオスカーを睨むのをやめる様子は無かった。オスカーはベガの最も嫌悪すべき存在へと成り果てていた。

 その憎しみをぶつけられた男は──

 

「ふッ、くッ、くくくく……」

 

──笑い始めた。

 腹を抱えて、それが心底面白い見世物であるかのように。

 

「はははははははははははは!」

 

 オスカーのかんばせに喜色の色が灯り始める。

 ぎちぎちと、頬の筋肉を釣り上げて、この世全ての幸福を享受したかの如く。

 浮かんだ三日月はどこまでも下劣で邪悪だった。彼が心から笑っているのは初めて見たが、ベガはそれを底知れないまでの侮辱と感じた。

 

「アッハッハッハッハッ!心の奥底の醜い感情を怒りで覆い隠しているな。実に、ああ、実に良い顔をする……。私はその顔が好きだ。復讐しようとするその貌が好きだ!殺人とは実に効率的だ。殺す愉しみと、復讐に狂う顔を見る愉しみの二つが味わえるだからな」

「あァ!?このクソ野郎が……!!」

「オスカーにいくら問答をしようと無駄だ。徒労に終わるだけよ」

 

 人に物を教えるような優しい教師のような顔を作って、ヴォルデモートはつらつらと言葉を綴った。

 

「猪が如くのこのこやって来たシェリーに免じて、そいつの習性を話しておこうか。その男は中々得難い珍種だぞ?ある意味ではシェリーと同類かもな」

「そこの下衆と一緒にするな」

「いいや同じさ。お前達は人として大切なモノが欠落しているのだ」

 

 人が人であるために重要な要素。

 それは「愛」。

 けれどオスカーは致命的なまでにその情動を理解することができない。それ故に彼は人でありながら人ではないのだという。

 

「シェリーは自分を愛することができない。オスカーには苦しみしか愛するモノがない。おお、案外似た者同士じゃないか、お前達」

(苦しみ……しか……?)

「そこなオスカーはな、元々はただの退屈な男だったのさ。

 こいつには感情というものが恐ろしく薄かった。殆ど無いと言ってもいい。協調性に欠け、喜びも悲しみも抱くことがなく、ただただ無感情に生きていた……昆虫と同じよ。頭は良かったので家族にもその本性を隠せていたが、彼達が向けてくる愛情とかいうものには一切理解できなかったのだ。

 それこそ、自分や家族が危機に遭っても「どうでもいい」と思うくらいな」

 

 自己愛の欠如。

 隣人愛の欠如。

 いやそれ以前に、オスカーには決定的に情緒が無かった。

 どれだけ美しい花を見ようとも心が揺れることはなく、どれだけ素晴らしい絵画を目にしても心が満たされることはない。それが美しいということはかろうじて理解できるが、何故美しいかを永遠に理解することはできない。

 魔法界にはどんな形であれ愛が溢れている。逝ってしまった友への友愛、たった一人の女性に向ける悲しくも気高き愛、息子や娘への惜しみなき家族愛、おぞましき暴君への狂った敬愛、自分にしか向けられることのない男の身勝手な自己愛に、自分には向けようともしない少女の美しき慈愛。

 形がどうあれ、いつだって人を突き動かすのは愛に違いなかった。

 人の原動力は感情──すなわち個人個人が当たり前に持つ愛情なのだ。

 だがオスカーは違った。サイコパスといってもいい。共感性と感受性が欠けた空っぽな虚しい存在。

 愛が、ないのだ。彼には──。

 

「……そう、その筈だったのだがな。ある日この男は感情を得た。

 ある日死喰い人が家に押し入り、家族が殺された──それをこの男はそれを面白いと思ったのだとさ!他者の苦痛に、悲鳴に、あろうことか喜びを感じた!

 その瞬間悟ったのさ、自分は他者の嘆き悲しみでしか幸福を得ることができないとな!嘆きこそが喜びであり生きる目的……しかも、殺人にも自分の本性にも忌避感はないときた。

 ははははッ、こんな珍種にはそうそうお目にかかれんぞ」

(────)

「性善説を信じるか、シェリーよ。俺様は生まれついての善だとか悪だとかをさりとて深く考えたことはなかったが、少なくともこいつは悪行を重ねなければ生きることができない存在だ。飯を食い呼吸をしなければ生きていけないように、悪を為さねば生きていけない生命体なのだよこの男は」

 

 どうしようもない、根っからの悪。

 生まれながらの邪悪。

 劣悪な家庭環境に生まれ闇に傾倒した者は履いて捨てるほどいる。生まれた場所や人物さえ違えば違った未来があったかもしれない人間は大勢いる。が──この男はどんな始まりだったとしても罪を重ねることしかできない。そうしなければ生きていけないのだ。

 哀しい、哀しい生き物。

 怒りも苦痛もそこにはない。彼の心を満たすのは辛苦の味だけ。

 人が苦しむことでしか幸せを、生の実感を味わうことができない男は、息をするように飯を食うように、当たり前に人を苦しめ続ける。それは、どれだけ──

 ……いや、そんなことを気にする必要はない。この男が何であれ、ベガの家族を殺した事実は揺らがない!

 ぐちゃぐちゃになった心で、ベガは内なる怒りを吐露した。

 

「七年前、お前は俺をその場で殺すこともできた筈だ!だが不測の事態にお前は尻尾巻いて逃げ帰ったってわけだ!ハッ!そんな腰抜けが幹部とは死喰い人も終わってやがんな!!」

「ハハハ、ハハ……言っただろう?お前の苦しむ貌が見たかったと。だから私はお前を敢えて逃がした、お前が復讐に狂う様相を見たかったからな!

 私の行動原理はいつもこっきりそれ一つさ。帝王の側に着いているのも私の目的とまるきり合致しているからさ。死喰い人であればあらゆる人間の苦しみを愉しめる!」

「……とんでもない不忠ぶりだな」

「ついさっき我が君に喧嘩売ったお前が言えた義理じゃないね、グリンデルバルド。紅い力に適合できる人材じゃなかったら今頃ぶち殺してるところだよ」

「私はほら、助っ人外国人枠だから」

(へらへらと……!)

「いい憎悪を見せてくれる。どうだ?ベガ。俺様に忠誠さえ誓うのならば幹部に加えてやってもいいし、力さえ示せば紅い力の幹部にしてやってもいい。最高幹部同士での殺し合いというのも一興だ」

「いい加減、その煩い口を閉じろ、ヴォルデモート……!!」

「怖い怖い。いやァ、せっかくシェリーが紅い力に目覚めたというのに一向に力を伸ばしてくれないからな。お前ならもう少し見込みがあると思ったんだが」

(力を伸ばす……?)

 

 そういえば、五年生が始まる前にドロホフと交戦した時も言っていた。

 紅い力は伸ばしていくものだと。

 どういう理屈かは知らないが、紅い力というものは磨き強くすることができるものらしい。となればシェリーの紅い力はまだまだ未熟なものであるといえる。魔法の破壊力が増したり、身体能力を底上げする程度では到底強大な力とは言えないだろう。

 ついぞその方法は見つけることはできなかったが、ここで条件を聞き出して力を強くすることさえできれば──

 

「言ってなかったっけ?紅い力は人を殺せば殺すほど強くなるものだ」

「──────」

 

 力を強くすることさえできれば……

 人を殺すほど強く……?

 

「俺様達にとっては当たり前すぎてわざわざ言う必要すらないことだったので忘れてたよ。殺人をすると魂は引き裂かれるのだが、それを分霊箱で『固定』、紅い力で『繋いで』、裂けた分だけさらに強靭な魂となる寸法ってわけさ」

「……そんな」

「ダンブルドアは薄々気付いていたのかもしれんが、紅い力の詳細が分かってもこんなこと言えないよなあ。『シェリー!紅い力は殺人するごとに強くなると分かった!お主にはこれからバンバン人を殺してもらうぞい!』

 ……なんてな!アハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 理論は分からない。

 だが結論は分かる。

 紅い力が初めて発現したのは去年の墓場でのことだ。

 あの時自分は初めて殺人を行い、セドリックを『殺して』しまった。

 そして、どうしようもなく無力な自分と悪意の塊のような男に『憤怒』した。

 シェリーは意図せずして紅い力を開花させる条件を満たしてしまっていたということだ。確かに力が目覚めたのはセドリックを殺した直後──筋は通っているがこれはあまりにも──

 全身が生毛だったのを感じた。

 あの時のナイフが肉を貫く嫌な感触がリアルなものとなって伝わってくる。あれをもう一度やれというのか。あれをやらなければ強くなれないのか。

 

「それと、俺様が力を幹部達に分けてその分魂が弱くなったと考えているようならそれは期待しない方がいい。血縁であるハリーやシェリーを取り込んでいるので魂は回復しているし、先も言った通り分割するほど紅い力は強まる!

 あとついでに副作用で分霊箱になったようだしな!予備で作っといた日記の分霊箱は壊されてしまったようだがこれで結果オーライってやつだ!」

 

 シェリーやベガ、ドラコも、いや事情を詳しく知らないパーシーでさえ、今のヴォルデモート卿がどれだけ危険な存在なのかを本能的に理解した。

 彼を殺すためにはまず紅い力の幹部を倒さねばならない。

 そして彼達を倒した後は魂どころか全ての能力が底上げされた闇の帝王を倒さねばならない。彼を殺すだけの力を得るためだけに、今度はシェリーが殺人を重ねる必要があるのだ。

 ……そうか。今になってようやく気付いた。当時の闇の帝王は異常ともいえる程の屍の山を築き上げた。それは己の力の誇示のためでなく、打算的な思考に基いての行動だったのだ。自身が滅びる直前に行ったロンドンのマグル大量虐殺、あれが力を強めるための儀式だったというのか。

 

「関係ない、むしろ好都合だ!犬畜生にも劣る貴様達を殺せば殺すほど力を得られるのならそうするまで!そうして得た力で最終的に貴様を殺すことができればそれでいい!貴様からの借り物の力というのはいささか不満だが、貴様は貴様が宿した力によって滅ぼされるんだ!!貴様が創った存在によって塵芥のように無残に潰えて消滅させられるんだ!!」

「勝てるわけないだろうが」

 

 その決意をハリーが両断した。

 

「お前、自分が誰だか忘れたのか。父さんに創られたホムンクルスなんだぞ?別に世継ぎが欲しくて僕達を創ったわけじゃないことくらい分かるだろ」

「……何が言いたい?」

「自分に勝てる性能のホムンクルスなんて創らないってことだ」

 

 ヴォルデモートは自分が最強の魔法使いであると自負している。

 が──それは万が一、紅い力の幹部に叛逆された時の対抗策を考えていないということには繋がらない。紅い力の幹部は強力だが、あくまでヴォルデモートには及ばないレベルだという。

 そうは言ってもグリンデルバルドのように何をしてくるか分からない男には最大限注意を払ってはいるようだが。ヴォルデモートが生み出したモルモットに等しきシェリーが、生みの親を殺せるだけの力が得られるなど、夢物語にしか過ぎないとハリーは語る。

 

「お前は永遠に父さんには勝てないよ。永遠にな……」

 

 その声はどこか自嘲めいているようにも聞こえた。

 生まれた時からずっと独りで、魔法学校に通うこともなく、友も得ず、ヴォルデモートの駒となるためだけに人生を過ごした彼が何を思ったか……慮るだけの余裕はシェリーにはなかった。

 

「ハッ!いつの間にそんな猪口才な口を利くようになったんだいハリー坊や!」

「うるさい黙れババア」

「ああ哀しいねえ、ガキの頃はベラお姉ちゃんと結婚するなんて可愛いこと言ってたのにねェ」

「嘘つけその頃お前はアズカバン暮らしだっただろうが!!」

「そうだぜベラトリックス、こいつを育てたのはこのグレイバック様だ。懐かしいねェ、娼館に連れて行った時の小僧の反応ときたらもう……」

「やめろ変態野郎!!あの時はお前一人で楽しんでただろう!!だいたいな、あの時から僕を育てていたのは(強いて言うなら)オスカーだよ!!」

「ああ……付き合いの長さで言えば私になるのか。私の『趣味』を手伝わせていたが興味を示さなかったと記憶している」

「君の趣味って要するに拷問と殺人だろ?ハリー、若い美空で大変だな……」

「ガキ扱いすんじゃねえ!!」

「ええ……?」

「ヒッ!ジェ、ジェームズの顔でそんな怖い目をしないでくれ頼むから」

「知るか!!!」

 

 怒鳴り散らすハリーの剣幕にペティグリューは怯え、オスカーの方へと倒れるが、当のオスカーは紅い力を解放していたのですり抜けてしまい転んでしまった。

 ハリーが冷静さを取り戻し眼鏡をかけ直すと、「僕のことはいい」と幾分か怒気を孕んだ様子で息を吐き出した。

 

「そういえば、俺様としたことがもう一つ言い忘れてたよ」

「……何だと」

「紅い力の幹部達は分霊箱の役割も果たしていると言ったな?そう、俺様を殺すにはここにいる全員を殺す必要があるのさ」

「それがどうした。私、私が、貴様達を皆殺しに──」

「まだ分からんか?いや、分かりたくないだけか。言い方を変えよう。

 『紅い力を持つ者』を全員殺さなければ俺様を殺すことができないのだ」

「何を、────!!!」

「気付いたか。そう、紅い力を所持するのは俺様と幹部六人……それともう一人いたなあ。なあ、シェリー!?」

 

 

 

「お前が死ななければ、俺様を殺すことはできないなァ〜!!」

 

 

 

 絶望したのは、むしろベガやドラコの方だった。

 紅い力が分霊箱の役割も司っていると知った時点で気付いてもおかしくなかったものの、気付けばシェリーが儚く散ってしまうような気がした。

 気付きたくなかった!

 ヴォルデモートの死を肯定するということはシェリーの生を否定することと同義であるということ。

 シェリーが生きていては、永遠に闇の帝王は絶えることなどできない。

 

「俺様を殺した後に自殺するか、自死した後に誰かに俺様を殺してもらうか!まあそもそも俺様を殺すだけの力がないといけないんだがな!

 ダンブルドアも罪な男だな、このヴォルデモート卿を斃すにはお前の死が必定だと気付いただろうに、それを本人には黙っているのだから──何とも、何ともいじらしい老いぼれよ──」

 

 まさしく、胃の腑に冷たいものが落ちたようだった。

 一方が生きる限り他方は生きられぬ。

 かつてトレローニーが発した予言を知っているわけではなかったが、シェリーは己の運命を知るに至った。いずれ喰われる家畜のように育てられ、死ぬべき時に死ぬようにと生きてきたということ。

 それをどうして是認できようか。

 どうして認められようか。

 

「お前……お前は……本当に余計なことしかしやがらねえよ……!こいつにどれだけクソみてえなモン押し付けてやがんだ、親の顔が見てみてえよ!!」

「俺もだよ!!……まあいい。今はシェリーを苦しめることの方が先決だ!更に駄目押しだ」

 

 ヴォルデモートは杖を取り出すと、シェリーの額へと押し当てた。

 

「紅い力は元は寿命を削るものであり、分霊箱の理論と組み合わせることでようやくノーリスクで使うことができるということは話したな?ああ、お前達にとっては人を殺さなくては強くなれないという点はデメリットかもしれんが、ともあれリスクではない。この幹部達も、微力ではあるがシェリーも、何の代償も無しに紅い力を使えていると言っていいだろう。

 しかし、だ!それではつまらないと思わないか!?たかだか一人殺したくらいで紅い力を使っているシェリーが気に食わん!俺様の配下にならないくせに俺様の力は使うなんて、不公平だと思わないか!?だから俺様は決めた!

──こいつだけ紅い力を使えば使うほど寿命が縮むようにする!!」

 

 瞠目と驚愕──そして焦燥。

 そんな感情をよそに、享楽でもってヴォルデモートは魔術式を展開した。

 自己に対する憐憫など持ち合わせてはいない彼女ではあったが、人智を越えた力を行使するだけ寿命が削られていく、となれば、奪われていくものが、勝手に作り替えられていくものがどれだけの価値を孕んでいるかを理解できる。

 死喰い人を皆殺しにする前にタイムリミットが来てしまう。

 元来、紅い力とはそういうものだ。

 古代の闇の魔法使いが紅い力に溺れ死に絶えていったのはそのため。なまじ力に目覚めてしまったが故に滅んでしまう運命にある。それを代価を払わずして使えていた今までがおかしかった。けれどシェリーは命を支払うことを惜しんだ。

 命など惜しくない。

 殺しきるまでに殺しきれないことの方がよほど怖い。

 シェリーの皺に線が新しく刻まれた。

 

 帝王による寿命の改竄にはさほど時間はかからなかった。

 後に残ったのは多大な虚脱感だけ。全身から色が抜け落ちたようだった。

 

 明かされた情報のどれもが、死と危険の匂いを孕んでいた。

 シェリーは混乱した頭でその全てを整頓していくも、正しく現状を理解すればするほどおぞましい立場にあるのだと思い知らされる。

 ヴォルデモートと戦う力をつけるために人を殺さねばならず。

 ヴォルデモートを倒すためには自ら命を絶つ必要があり。

 ヴォルデモートとの戦いが長引けば寿命で死んでしまう。

 どう足掻いても死か殺ししか見えない、狂気に彩られた最悪の未来。

 ダンブルドアと必死で考えれば、何かしらの突破口が、抜け道が見つかるかもしれない。けれどそれは希望的観測に過ぎず、絶望で塗り固められていた。

 これだけは言える。

 

──未来がドブのように見えた。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「そんなの……どちらにせよシェリーは死ぬじゃないか……!!」

 

 口を開いたのはパーシーだった。

 恐怖に耐えられず口を開いたといった雰囲気ではあったが、それでも、自分のために怒ってくれた……それだけでシェリーは嬉しかった。

 ベガもドラコも心は同じだ。理不尽にシェリーを苦しめることを到底許容などできる筈もない。黙していてもそこに確かな怒気は伝わってくる。

 それがとても嬉しかった。

 実のところ……ベガ達ほどはシェリーは動揺はしていなかった。自身の命に頓着はなかったからだ。彼女が恐れるのは、無駄死にしてしまったらどうしよう、ということだけ。寿命に興味はなく、闇の帝王の死に必要なのであれば自死さえ厭わない。

 人を殺す必要がある……というのもまあ大丈夫、だろう。殺す覚悟はとっくに決めている。やることは今までと何も変わらない。

 可及的速やかに死喰い人を殺し、ヴォルデモートを殺し、自殺する。

 いやヴォルデモートを殺すのは分霊箱の自分が死んだ後の方がいいのか……?そんなささやかな疑問を抱きつつも、どこか心は凪いでいた。

──私は死など恐れない、と。

 

「さあ、俺様の軍門に下れシェリー。心から服従すると誓え。そうしないと紅い力を使うたび寿命が削られるぞ?お前がくだらぬ正義のために命を落とす必要もないのだぞ?人を殺すという罪悪感がなくなるぞ?そらそら!」

 

──どうでもいい。

 大層な秘密を暴露したと思っているようだがとんだ勘違いだ。どっちみち死ぬ予定だったのだから差し支えない。開示された全てが私の歩みを止めるに値しない程度のもの。

──全てがどうでもいい。

 これまでの戦いとは意味合いが違うというだけの話。生き残るための闘争ではなく、どちらかが滅びるための死合いになっただけ。

 戦いの果てに未来がないだけ。

 命がけで守りたかったそれを直接見られないのが残念ではあるが、自分なんて忘れてもらった方が──

──ずきり。

 

(…………?痛い……?)

「ほら、早く降伏しろよ。何故かお前は身体は操れても心まで服従させるのは難しいのだからな」

 

 その言葉と、胸を抉るような痛みに、異様な違和感を感じて。

 そして気付く。

 シェリー達の周りに柔らかい砂塵が舞っていることに。

(砂?)

 

 温かな砂の感触に触れると、緊張がほぐれてベッドの中にいるような心地にさせられる。一度この砂に触れたことがあるシェリーは、すぐにこれが誰によって作り出されたものか分かった。

 器用にも縄は砂の中に混じった小石で断ち切られ、死喰い人達に奪われていた杖も砂が取り返し投げ渡された。シェリー、ベガ、ドラコ、パーシー、グレンジャー夫妻までもが一緒になって天高く引き上げられていく。

 それに見れば、少しずつではあるが──フロアごと下へ下へと陥没していっているようだった。天変地異にも等しい砂魔法の使い手など、たった一人。

 世界最強の闇祓いが来ている。

 レックス・アレンが来ている!

 

「すまない、遅れた。ひとまずここにいる連中は全員ぶちのめすから、それで許してほしいぜ」

 

 アレンは上からやってきた。

 天井を、あるいは上の階の床を砂に変えて降りてくる。

 暗い部屋に光が差し込み、砂の足場に乗ってゆっくりと。その様は裁きを下す神か天使のようでもあった。

 砂に抱えられて天へと昇るシェリー達とは反対に、死喰い人達はいつの間にか作り上げられた砂地獄に脚を取られてその中へと沈み行く。さりとて、紅い力の幹部がそれを黙って見ている筈もなく。

 

「紅い力、解放ォォオオ!」

 

 指を鳴らしたグレイバックの爪が紅く染まる。

 三年生の時に見たそれよりも遥かにその色は濃く、禍々しい。彼が人狼の暴力を使えば容易に砂地獄など抜け出せるし、爪を振るえばそれは──何条もの斬撃となって襲い来る!

 飛来する風の刃。

 乱雑に振るわれたにも関わらず世界の剣豪のどれよりも鋭いと確信できるほどの破壊密度は、しかしてアレンにもシェリー達にも届くことはなかった。

 極限まで研ぎ澄まされた長距離からの狙撃魔法が斬撃に直撃し、逸らす。僅かに方向が変わり魔法省の壁を切り裂いた。その断面は深く、もはや嵐でも通り過ぎたようだった。

 まともに受ければ即死。

 闇祓いの二番手、狙撃手エミル・ガードナーがグレイバックの攻撃をいなせるだけの技量があることを称賛すべきか、グレイバックの桁違いの力量に目を見張るべきか。……というかこんな技、前戦った時は使ってなかったぞ。

 

「僕の射撃で撃ち落とせないなんて……」

「俺の斬撃を逸らされるとは……」

『こいつ、強い……!!』

 

 最早シェリー達のことなどどうでもいいとばかりに、グレイバックは嗤いながら戦場の中へと身を投じていく。

──速い。速すぎる。魔法使いが魔力を射出する速度と同等の速さで、全てを切り裂きながら壁を昇っていく。魔法の代わりにあの巨体が突進してくるのだ、たまったものではないだろう。

 行ってしまった人狼に悪態をつきながら、炎の魔女は高らかに吼えた。

 すらりと長い脚を振り上げると、勢いよく地面に叩きつける。ハイヒールの高い音が響くと同時、その脚に紅き紋様が浮かび上がり、身体全体を包んでいく。

 

「──紅い力、解放ッ!!」

 

 紅の魔力がベラトリックスの全身を包むと長く大きく伸びていく。やがて人ならざる巨体へと変貌し、炎を纏いながら天にとぐろを撒きつける。童話にでも出てきそうな気高くも傲慢な化物が咆哮とともに降誕せしめた。

──ドラゴン。

 空を我が者とする、昊より世界を我が者と見下す傲慢なる魔力生命体。

 ベラトリックスの能力は、ドラゴンに変身することだった。分厚い魔力の肢肉に覆われた化物は、しかしてシェリー達の知るどのドラゴンよりも強く、強大だということが一眼で分かった。

 大蛇のように長い長い身体は、底知れぬ闇とともに浮遊する。

 死を馳走せんと不毛なる大地より放たれた悪逆の使徒。

 火炎纏いし昏き黒龍が空を駆け巡る。それはまさしく死なりて──。

 奈落よりも深き口腔から、微弱に死の呪文を孕んだ火炎が吐き出された。

 アレンへと向かって行き──

 

「『メテオリーテース、隕石よ』」

 

──更なる巨大物によりかき消される。

 巨大化したベラトリックスよりも大きな隕石によって頭部を殴られ、遽によろめく彼女に続けざまに第二弾が放たれる。破壊の化身が群れを為して襲い来る。

 無論、隕石など意にも介さず火炎を吐くベラトリックスではあったが、相性は最悪だ。空から火炎を吐き蹂躙するのが彼女の基本的な戦闘スタイルなのなら、アレンの隕石は明確な対空攻撃。

 巨大すぎる的が仇となって、アレンの激烈なる攻撃を喰らってしまう。

 紅い力を持ち、火炎魔法なら世界最強とまで謳われるベラトリックスがそれしきでやられるわけではなかった。だが、相性というのは時として単純な能力差を凌駕する。ましてやそれがアレンともなれば、寧ろベラトリックスが今も継戦できているのは水の中で焔を燃やすことに等しいまさに神の御業であった。

 

「レーックス・アーレェーン!?そんな石ころ遊びしてていいのォー!?あんた達の大事なお友達も、魔法省も!全部全部ぶっ壊れちまうよォー!?」

「シェリー達ならば砂のガードで守っているので問題ない!そしてもう形だけの魔法省などいらない、ここで諸共粉微塵にする!魔法省がお前達の墓場だ!!」

「あ……?正気かお前、魔法使いの拠点が壊れて困るのはそっちだろう!?」

「お前達にやるよりはマシだ!!」

「この城は我が君のモンだよ!!」

「魔法省は俺達が壊す!!」

「魔法省は私達が守る!!」

 

 どちらが正義の味方か分からない。

 が、ヴォルデモートを滅したいと思う心は本物のようだった。

 アレンが隕石に魔力リソースを使っていることで、シェリー達を逃がそうとする砂の動きが若干鈍くなった。ここにいれば彼の邪魔になってしまう。己の実力不足を痛感した。

 

「驚いてる場合じゃない、早くこの場から脱出しないと──」

「────!?」

 

 砂から温もりが消えた。

 熱が急速に失われ、冷たい砂へと変貌していく。決してアレンがやられたわけではなく、絶えず砂に魔力を送り込んでいるだろうに──何故だ?

 やって来る破壊の余波をベガが即座に火炎でガードしようとするも、彼の杖からは何も出ない。折れた杖、他人の杖で強敵と渡り合える彼がこんなに簡単な魔力コントロールを間違えるなど有り得ざること。

 まるで周囲一帯から魔力が奪われたかのように……。

 魔力が、奪われた……?

 

「あ、紅い力──解放ッ!」

 

 ピーター・ペティグリューが腕を交差していた。

 ヴォルデモートによって創造された水銀色の左腕、そして紅く光るタトゥーが刻まれた右腕。紅い力による影響か、ペティグリューの両の掌からは異形の口が覗いていた。

 その口から──鼠色に燻んだガスのようなものが垂れ流されている。ガスに触れると、何故だか魔力が編むことができなくなる。散々紅い力の反則じみた力を見てきたシェリー達は、たちまちそのガスの正体を看破した。

 あれは強制的に魔力をシャットアウトする類のものだ。

 あのガスに触れると、魔法が使えなくなってしまうのだ!

 魔法使い殺し。ピーター・ペティグリューの持つ紅い力は、魔法を使えなくする能力なのだ!

 

(何て……何て能力だ!?魔法が使えないなんて、そんなの──そんな魔法ってアリかよ……!?)

「ヒッ、グ、グリンデルバルド!子供達を回収してくれ!私はあの子達に近付きたくない!あの眼で見られたくない!」

「君意外と人使い荒いな……ま、先輩からの頼みだと思って引き受けよう。君のと違って私の能力は機動力に長けているからね。

──紅い力、解放!」

 

 狼狽するシェリー達を見やって、グリンデルバルドが力を解放する。

 左胸、ちょうど心臓部に拳を押し当てると布越しに一瞬だけ眩く輝き、彼が抑え込んでいた闇が放出される。

 闇は地を這い、たちまち世界を洛陽へと誘う。幽谷よりもたらされし黒き質量体があらゆる物理法則を意に介さずシェリー達のところへ一直線に伸び、怨嗟と罪の一欠片を描いた。

 闇──というより、影か!

 魔法が使えないという異常事態に焦っていたシェリー達は音もなく現れた刺客に忘我の呟きしか返すことができなかった。当然だ。魔法を使えたとしても、グリンデルバルドという絶大なる闇の魔法使いが前触れなく至近距離にやって来たとなれば勝ちの目はないに等しい。

 グリンデルバルドの能力は遍く影を操ることができるというもの──。

 そこに影さえあれば、遠く離れた場所にいたシェリー達のもとへ姿現しよりも速く、そして隙もなく移動できるといった芸当も可能というわけだ。「まさかこんな力に頼る日が来るとは思わなかったが」と自嘲めいた笑みを浮かべるも、みすみす見逃すというわけではないらしく、杖を振るい再び捕らえようとする。

 しかして、その笑みは苦悶へと変わる。

 

「私の娘に手を出すな!!」

「ぐッ──!?」

 

 影から飛び出した大犬が、グリンデルバルドの頸を噛みちぎった。

 シリウス・ブラック。

 動物もどきとなったシェリーの守護者は犬に変化し、影に潜む能力を手に入れている。ゆえ、グリンデルバルドにとっての天敵といっていいほどの絶対的なアドバンテージを持っていた!

 吸血鬼になった彼が大犬程度の噛みつきで死に至らしむなどないが、それでもシリウスの存在を無視できないとなれば狙った以上の効果を発揮する!猛る黒犬は勇猛を胸に世界最強へと肉迫せん!

 

「ほお……能力の相性ってのは分からないものだな。思わずキツいのを喰らってしまったよ。まあそれ分身だけど」

「ッ!?」

「私の能力は君のとは相性が悪いようだが、これでもちょっとばかし名の通った魔法使いだ。あの若造に恩を売っておくという意味でも、君に負けてやるわけちはいかないな、ブラックの」

「その名で呼ぶな!」

「歳の割に、まだまだ青いな」

「ベガ!!ドラコ!!あとウィーズリーの、ええと、パーシー!!シェリーとハーマイオニーのご両親を頼むぞ!!」

 

 ハッとして、気付く。

 ペティグリューの魔法無効化のガスが充満しているにも関わらず、シリウスとグリンデルバルドは普通に戦えている。おそらくだが、人智を越えた力故かはたまたそういう仕様なのか、紅い力は無効化することができず、動物もどきのように『既に魔力で変化しているもの』も無効化できないという弱点があるのだ。

 動物もどきの真髄は体組織を組み替えるという部分的な世界改変にある。

 自身だけという縛りはあるが、理を書き換え違うものへと創造しなおすという能力は、言うなれば『自分は生まれた時から犬だった』と誤認させるに等しい。

 犬に魔法無効化ガスを使っても意味などない。しかも影に潜む能力は据え置きなわけで、シリウスはペティグリューとグリンデルバルドの両名に特攻を持っているというわけだ。

 ……と、ベガは説明したのだがパーシーはともかくとしてドラコとシェリーはいまいちよく分かっていないようだったので、「シリウスはペティグリューのガスを無効化できる」と言えば納得した。

 ペティグリューの魔法無効化ガスはあるだけで厄介だ。戦うにせよ逃げるにせよ、一旦退いて体勢を立て直さないことには始まらない。瓦礫の山を登り逃れようとして、

 

「紅い力解放ォォオ──!!」

 

 少年の雄叫びがこだました。

 ハリーの双眸が妖しく光り、紅い力が付与された水の鎖によってシェリーの右足首を巻き取られて沈んでいく。ハリーの狙いはシェリー一人だ。去年の雪辱をここで晴らそうというのか!

 

「お前の相手は僕だ!!」

「──ッ、ああいいだろう、相手になってやる!!」

 

「頼むぞって今言ったばっかりなんですけどねぇええええ!?」

「相手になってやるじゃないよすぐ戻ってこいシェリー!!」

「ベガ!!君、実は動物もどきとか使えたりしないのかい!?」

「今習得しとけば良かったなって後悔してるとこだよ!!」

「頼むぞ!ほんと頼むぞ!私だって余裕ないんだからな!割とギリギリなんだからな!?」

「君も大変だな……」

「知った顔すんじゃねえ!!」

「ええ……?」

「死ねよやぁああああ!!」

 

 いつの間にか形成した足場に引き摺り下ろすと、二人のポッターは相対する。

 かつての友に酷似したホムンクルスを直に見てシリウスが一瞬だけ苦い顔をしたが、グリンデルバルドを相手に余所見するだけの余裕はない。戦士の貌でもって黒き魔法使いに対峙した。

 シェリーも同じだ。己の片割れに呼応するように力を解放し、紅く髪の毛が暴力的に光り出す。

 

「紅い力、解放!!」

「来いよシェリー・ポッター!!」

「殺してやるハリー・ポッター!!」

 

 二人の邂逅はこれで二度目。魔力の激突をもって第二ラウンドが幕を開けた!

 何気に初の、紅い力同士の衝突!

 全てを無に帰す紫の魔力!

 万象を破壊する紅の魔力!

 触れればたちまち壊されるであろう魔力同士が消し合い生まれ、互いに互いを殺し合っていく!二つの攻撃魔法の究極系破壊は螺旋となりて天と地をたちまちの内に焼き払う。

 刮目して見よ幾星霜の戦士達。

 ここに在るは眩き魔法の祭典!

 一切の汚れなき憤怒の化身と絶対不落の暴食の具現が牙で貪り合う。

 

「フリペンドォォォオ!!」

「ボログリムゥゥウウ!!」

 

 削り切り合う二つの破壊殺の終着点。

 何が面白いのか、ハリーは歓喜すら浮かべて更なる激突を望む。攻撃特化の魔法使いのシェリーではあったが、それでも紅い力の練度の差というのは如何ともし難い。勝負は互角から劣勢へと持ち込まれつつあった。

──もっと。もっと細く。

 一点集中の魔力放出なら、勝機はある。

 紅い力の更なる解放。フル出力でハリーを迎え撃ってやる──!!

 

「──!?」

「な……ッ!?」

 茶々を入れるようにして、シェリーとハリー目掛けて魔力弾が放たれる。

 ペティグリューの魔力無効化ガスの中でも何ら問題なく魔法を使える人物……そして今もこのフロアで不遜に鎮座する人物など、たった一人。

 ヴォルデモート卿だ。

 

「邪魔をするな、父さん!!シェリー・ポッターを殺すのは僕だ!!」

「許せ、息子よ。いやなに、幹部達が紅い力をお披露目しているので、俺様も戯れにちょいと能力の一端を見せておこうと思ってな。ダンブルドアもまだ来ていないようだし」

 

 シェリーは殺意の矛先をヴォルデモートへと切り替えた。

 闇の帝王とハリー、どちらを警戒すべきかなど火を見るより明らかだ。ハリーも意識しつつ、今はヴォルデモート卿の攻撃に対処する方に注力する。

 ……そんなシェリーの態度に憤慨した少年は、激昂を返した。

「何を……何をしている!!僕と戦え!!僕をもっと怖れろ!!畏怖しろ!!僕こそ最も優れた死喰い人なんだぞ!!」

「後で相手してやる。せいぜい貴様はそこで帝王が破滅する様を指を咥えながら見ていろ」

「だ、そうだ。姉さんに振られちまったなあハリー?」

「ふざけるな!!僕がこの一年どれだけお前を殺すことを待ち望んだと思う!?お前を殺すためにどれだけの力を得たと思っているんだ!!

──僕を見ろ!!!」

 羽虫がうるさい──。

 

 

 

「セドリック・ディゴリーを『喰った』のは誰だと思ってる!!」

「────」

 

 

 

 シェリーは鎌首を擡げた。

 

「そうさ!!お前達が墓場に置いていったセドリックの遺体は僕が吸収した!!あいつの血も、肉も、骨も、余すことなく喰らい尽くしてやった!愛しのセドリックは鎮魂されることなく僕の栄養分になったのさ!

 穴熊寮の貴公子だか何だか知らないが、末期は惨めにも醜く歪んだ貌でぐちゃぐちゃになって喰われたんだ!!」

 

──キサマカラコロシテヤロウカ。

 シェリーの、向けるべきではない殺意がハリーに直にぶち当たる。

 肉食獣のように破顔し、ハリーは杖を構えようとするが、台風でも吹いたのかと錯覚するほどの濃密なる風の魔力によってたちまち壁に叩きつけられた。

 

「不快だ。今俺様が話しているのはシェリーなのだぞ。邪魔をするな」

「ァ……糞、がァァ……!!」

 却って好都合。

 

「さて、シェリーよ。話の続きだ。突然だが死の秘宝は知っているか?」

「『オルガン・フリペンド』!!……それがどうした!!」

「その様子だと知らんようだな。まあ簡単に言えば、伝説の魔法使い、ペペレル三兄弟が遺したとされる三つのマジックアイテムのことなんだが」

「貴様の与太話に付き合ってやるだけの寛大さを期待するだけ無駄だ!!」

「いいから聞けって殺すぞ。で、俺様は当然その三つを……特に最強の杖を追い求めたわけだが、ふと気付いたのだ。俺様がこの世で一番偉大なのだから、俺様が杖を作ればいいんじゃね?とな」

 

「先人達の手垢のついた秘宝とやらへの興味はもうなくなった。せいぜい思い出の中で永遠に供養されるがいいのだ」

 

 ヴォルデモート卿はシェリーの兄弟杖にあたる杖を取り出し、一振りする。

 彼が顕現させるのは、帝王によって齎されたこの世に余る決戦兵器。

 彼方より現れた願いの数々。人の祈りに呼応するが如く、忘れかけた幻想を再び描かんと彩を灯して光り出す。

 けれども下すのは救済でなく、天にて破滅と弾劾の裁きである。言祝ぎの詠唱から成る呪言の開闢が文字通り世界を創り、星の海の終着を引き摺りあげん。無辺の理を超越し、虚空を欣ぶことによる生ずる絶対的空間。

 虚数の第零天。

 窮極凱旋の理想の果て──。

 

 殺意しかなかった筈のシェリーの心に感動が湧き上がった。

 美しい──。

 宇宙を思わせる、至高なる美の数々。

 ヴォルデモートの背後には、宇宙が、星が広がっていた。

 心が洗われ呆けてしまうほどの──。

 

「紅い力、解放。

 真・死の秘宝──第一神器『虚の震天』」

 

 ヴォルデモートの背に浮かぶ創世の海原に揺蕩う無限の光──

 

 

 

 

 

 

──その星だと思っていた煌めきの全てが、杖先の魔力の光だった。

 

「これはな、全ての杖を創り出す能力だ」




おまけその1

感情/適合者/能力
憤怒/シェリー/破壊力向上
色欲/グレイバック/身体能力向上
嫉妬/ペティグリュー/魔法無効化
怠惰/オスカー/透過
強欲/グリンデルバルド/影の支配
傲慢/ベラ/竜に変身
暴食/ハリー/毒魔法強化
なし/ヴォル/全ての杖を使える

おまけその2

シェリー「貴様のところにサンタさんが来ると思うのか?おこがましいクズめが」
ハリー「黙れ!!ならお前のところには来てるってのか!?」
シェリー「来る筈がない……私も貴様と同じ罪人だ……私達のところには永遠にサンタさんは来ない!永遠にだ……!!」

シェリーはサンタの存在を信じていますが、自分は悪い子なので来るわけないと思っています。
ハリーも昔グレイバックの冗談を鵜呑みにしてずっと信じていて、期待はしていませんがクリスマスが近づくとやたらとソワソワし始めます。
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