六年生からの時間割は、これまでとは少し異なってくる。
ふくろう試験の成績や個々人の学びたい科目、将来の職業のことを考えてどの科目を取るか取捨選択するというわけだ。例えば闇祓いを目指すというのであれば闇の魔術に対する防衛術や呪文学、魔法薬学などを勉強しなければならないのだが、教師によっては一定の成績を取っていないとそもそも授業さえ受けさせてもらえない。
それは授業が、よりハイレベルな分野へと踏み込んでいくからであり、一定以上の成績がなければ授業の内容についていけないと判断されるからだ。
DAを経て、なんとなく闇祓いを目指していたメンバーも出鼻を挫かれる。
修羅場を潜り強くなった気でいたが闇祓いは普通にエリート集団なのだ。
「トンクスって凄かったんだな……」
「エミルって凄かったのね……」
「あの二人は確かに手が掛かる生徒ではありましたが、闇祓いになると決めてからは相当努力を重ねたのですよ。貴方がたも邁進することです。……まあ、どうしても闇祓いになりたいというのならば、アラスターに手紙を書いて弟子入りして認められでもすれば試験は受けさせてもらえるかもしれませんが」
「ムーディーブートキャンプは嫌だ……」
「ならば今ある選択肢の中から最良を選ぶことです」
マクゴナガルが上機嫌そうなのは、今年の生徒の成績が比較的優秀だからだろう。
跳ね踊る羽根ペンがその証左だ。
ただ、そんなマクゴナガルの授業を受けられなくなる生徒もいる。彼女は良・Eを取った生徒にしか教えないからだ。ネビルは可・Aだったので、継続して学ぶことができないのだ。
「……婆ちゃんに何言われてんのか知らねえけど。呪文学のNEWTを取ってみたらどうだ?お前の成績ならいけるだろ」
「アー……呪文学は軟弱な科目だって」
「いいからやってみろって。お前、この授業結構楽しんでたじゃねえか。取らなきゃきっと後で後悔するぜ?それでも婆ちゃんが怖いなら俺に無理矢理付き合わされた、とか言っとけ」
「はは、ありがとう。それなら、やってみるよ、僕。ベガとハーマイオニーは受ける科目は前とほとんど同じなんだよね」
「あら本当だわ……あなたのことだもの、面倒臭がって授業の一つ二つくらい受けなくなるかと思ったけれど。そんなに私と一緒が良いのかしら?」
「おっと脈アリか?今晩一緒にどうだい……何だよロン睨むなって。冗談だろ?」
「ウチの優等生はどいつもこいつも節操なしに授業を取るなあって呆れてただけさ」
「ああ、ここまで来たら全教科取ってパーフェクト目指すわ。やり込み要素っていうかトロフィー集めてる気分だぜ」
「何自慢だよ!」
「イテッ」
今度こそロンの不興を買ったベガは軽くどつかれた。
「まー本音を言うと、まだちょっと自分の進路が見えなくてな。取り敢えず例のあの人ぶっ潰したら数年くらい旅にでも出ようと思うんだよな。色々と見て回りてえ」
「自分探しの旅ってやつ?痛いなあ」
「うるせっ。そんなことじゃ連れてってやらねえぞ?」
「えー」
「でも卒業旅行は行きたいな、タマモ達のいるニホンとか行ってみたい」
「私はフランスかしらね……ベガ、どうせあなた対抗試合の賞金があるんだからグリフィンドール全員連れていってよ」
「馬鹿かジニーてめこの野郎」
気付けば友人達といつになるかも分からない旅の予定を立てていく。
いつか闇の帝王を倒したら、皆んなで自由に遊び呆けて。そしてその時にはきっと紅い髪の友人の姿もある筈だ。
くだらぬ話をしながら眠りにつく。
そんなわけで授業に臨んだ。
「今日は無言呪文を教えるこれはすごい難しいのでよもや今日中にできる者はいないだろうなフハハハグリフィンドール十点減点」
という、やる気を削がれるスネイプの話から始まった闇の魔術に対する防衛術の初回の授業であるが、ベガとハーマイオニーが完璧にこなし、あと意外にもロンが無言呪文を習得しかけたのでスネイプは大変微妙な顔をしていた。
ドロホフという、トリッキーな難敵を相手にした経験が活きたのだろうか。
しかし他にも習得しそうな生徒がチラホラいるのは予想外だった。ホグワーツ戦線は生徒達にレベルアップの機会を与えてしまったのかもしれない。
スネイプに一泡吹かせたことでハーマイオニーがルンルンで歩いていると、
「何してるの、コルダ」
「!し、静かにしてください!あまり大きな声を出すとバレちゃいます!」
「……?何?」
コルダの視線の先には、ドラコと、何やら見知らぬ少女が一人。
あの黒髪は……アステリア・グリーングラスだったか?ドラコと仲睦ましげに話しているようだ。……恋のライバルか?
「あら?あなたってドラコに女の子が寄り付かないようにしてなかったかしら。もうお兄さんに絡むのはやめてしまったの?」
「まあ……そう、ですね。お兄様も成人になられましたし、私もそろそろ身を引くべき時が来たということかもしれません」
コルダは小さすぎる悲鳴を上げていた。
軋んでいるのだ、心が。
「もう知ってるでしょうけど、私はお兄様が好きです。大好きです。できることならずっと側にいたい。……ですがお父様も亡くなった今、マルフォイ家の置かれている立場はあまり良いとは言えません。だから何としてもこの血統だけでも残さなければならないのです」
「──あくまで私の意見だけど、それはとても前時代な物の考え方じゃないかしら」
「分かってますとも。この考え方はマグル界とも、今の魔法界とも乖離しつつあることを。……けれど、純血の子として育てられた私は、この考え方を捨てられない」
だから。
身を引く、というのか。
「……そう、よね。あなたの気持ちも大事にするべきなんだろうけど、それと同じくらい家族の幸せも大切だものね。……ごめんなさい。こんな時、何て言えばいいのか分からない」
「いいんです、その気持ちだけで。貴方みたいな友達ができただけで幸せ者ですよ、私は。……ご両親、治ると良いですね」
「……ええ。ありがとう」
良い友達ができたのはこちらもだ。
ハーマイオニーは心の中でそう綴った。
「……あ!うっかり相談するのを忘れてしまいました……まあ、魔力的要素も見受けられませんし、ただの教科書みたいだから別に良いですかね……ジニーもあの日記みたいな感覚はないって言ってますし」
「──この、『謎のプリンス』とやらが使っていた教科書。前に買ったのは薬品が跳ねて駄目になってしまってお古を貰いましたが……これ、かなり先進的なことを書いてますし…… 落書きが多いのと汚れてるのが気になりますけど、しばらくの間、この教科書に従ってみましょう」
▽▽▽▽▽▽
ホグワーツのチャイムが鳴る。
生徒達は鞄に教科書をしまい、次の授業の準備をする。
ここ、呪文学の教室でもそうだった。
「じゃー今回はここまで!次回は魔法の種類について勉強するので、教科書をおさらいしておくように」
タマモはにこにこと授業を終わらせると杖を振るい黒板を消していく。
マクゴナガルは後ろから授業の様子を見ていたのだが、多少拙いながらもきちんと説明された良い授業だというのが最初の感想だった。
……これは期待の若手が来たものだ。
「お疲れ様です、ミス・ミカグラ。魔術理論についてはもう少し深掘りした方が良いかもしれませんが、初めての授業でこれなら十分良しでしょう」
「やたっ。ふふ、先生になったのに生徒に戻ったみたい」
「どうですか、このままホグワーツで教鞭を取ってみるというのは。ホグワーツは人手不足ですので歓迎しますよ」
「(笑うところなのかな。ブリティッシュ・ジョークはイマイチ分からないや)せっかくのお誘いありがとうございます。でもイギリスに移るべきか、祖国で教えるべきか迷っているので、まだ明確な返事はできません。ごめんなさい」
「そうですか。ええ、それは大きな決断ですからね、よく考えて決めなさい」
「それと、あなたのお友達が来ているようですよ」
ん?とマクゴナガルの指差す方向へ視線を移動させると、……いた。まったく、この幼馴染はいったい何をやっているのか。
「……バレてたか。流石はかのマクゴナガル女史だ。なんて鋭い勘の冴えだ」
「何を言いますか、わざと気配を出して私を試していたのでしょう?」
「すまない、礼を欠く行いだった。強者の闘気を感じて、つい、な」
コージローが柱の影から現れる。
気配を遮断して授業の様子を見ていたのだろうが、なんというか趣味が悪い。少しむかついたので脛を蹴ってやった。
マクゴナガルと別れ、タマモとコージローは次の授業へと向かった。
「もう!わざわざ盗み見ることはないじゃない。言ってくれれば見学くらい許可してくださる筈よ、マクゴナガル先生は」
「悪かったよ。今度は見つからないようにするから」
「少しは反省しろ馬鹿」
「それで、どうだ?お前から見て“気になる生徒”はいたか?」
「────」
コージローは言外に、『死喰い人に通じているような生徒はいないか?』と聞いていた。ホグワーツは過去にクィレルやクラウチジュニア、オスカーといったスパイが何人も紛れ込んでいた。警戒を強めたホグワーツは教職員だけでなく、生徒にも疑いのめを向けることにしたのだ。事実、正史においてはドラコ・マルフォイが死喰い人に繋がる裏切り者として暗躍していたのだから。
スリザリンの中にはタマモが半妖ということで距離を取っている者も多いが、逆に警戒してもらった方が上手く懐に入りやすい場合もある。
「んー、今のところは皆んな可愛い子達だけれどね。やっぱりこの年代の少年少女はいいわね、目がキラキラしててとっても爽やかでとっても素敵だわ」
「……そうか」
タマモは『闇に通ずるような生徒は今のところ見つかっていない』と返したのであるが、発言だけ切り取ってみればちょっと危ない人のそれである。
誰かに聞かれれば誤解されかねない発言だが、ちょうどその場をベガやネビル、ロンといったグリフィンドールの生徒達が通ってしまっていたのである。
バッチリ誤解されてしまった。
「……え?何?歳下好き?」
「へえ……そんな趣味が」
「素質あるわね」
「何のだよ」
「あっ……あっ、いや違うの皆んな。確かに私はティーンの男の子とか女の子を可愛いと思うことはあるけれど、決してその域は出てないというか、犯罪行為には絶対に手を染めないというか」
「滅茶苦茶自爆しとるわ粗忽者!」
事実、タマモは美少年や美少女が大好きだった。ニホンにいた頃、弓の稽古で道場にやってきた少年達のひたむきな姿を見た瞬間に電流が走ったのである。
これでも名門ミカグラ家の者として犯罪になるようなことは決してしなかったが、タマモの少年少女に向ける情熱は今でも熱いものがある。
ハヤトやコージローと良い仲になっていないのも、彼等がタマモの趣味を理解しているからといえよう。あと単純に色恋より戦に熱を出すような連中だし。
「えーとだからね、男の子とか女の子は好きだけどそれ以上は望まないというか」
「グレイバックみたいなこと言ってる……」
「ローナールードーくーん?女の子になんて言い草かしら」
「イデデデデデデ!」
「私も新聞で見たからグレイバックは知ってるけど、それ割とタチの悪い悪口よ。それに似てるって言ったら、どっちかというとハヤトの方がそうじゃないかしら」
「ああ、うん、まあ、確かに」
「性格はともかく、戦い方や肉体だけならコージローが似てるんだけどね」
「え、そうなの?」
タマモのちょっと意外な答えに、ロン達は目を丸くした。
「うん……まあ、あまり人に言うようなことでもないんだがな。まあ、俺もちょっとした特異体質って奴なのさ」
「へえ……?」
「そら、俺のことはいいから。早く次の授業の準備をするんだな」
「……別にあの子達は人の過去をどうこう言うようなタイプじゃないと思うよ?」
「ああ……俺の心の問題だ、これは」
▽▽▽▽▽▽
──聖マンゴ病院。
「……ん。まあ、問題なかろう。完治だな」
「ありがとうございます、先生」
「何を言っとる。お前さんの生命力がずば抜けとったんだ。本当ならまだ寝込んでてもおかしくない怪我だぞ」
レックス・アレンの、岩石のように鍛え上げられた肉体を癒者は杖でとんとんと診察していた。一九〇センチ近いアレンの、凄まじい修練の下に作り上げられた鋼の肉体は、見る者を威圧させる。まるで杖が小枝のように感じられるほどだ。
「……。まあ、無理はするな。お前さんの父親も随分と無茶をして寿命が縮んだようなものだ。わしはお前さんを看取るのはごめんだぞ」
「分かってますよ」
「本当か?まあ、いい。……っと、いかんいかん。お前さんから預かっていたマント、言われた通りクリーニングに出しておいたぞ」
ばさり──漆黒のマントを羽織る。
数多の武勲を持つ世界最強の男に、仰々しいまでのマントは勇猛の華を添える。あらゆる魔法使い達の頂点に君臨する、まさしく理想の戰化粧。
そのマントに身を纏うことで、アレンという魔法使いは無双の戦士として完成される。
「……やはり、父親そっくりだな。さあ、行け。二度とここに来るなよ、イギリスの英雄」
診察室を出ると、アレンは足早にふくろう小屋に向かった。伝えるべきことが山のようにある。頭の中で文書の内容を纏めつつ、曲がり角に差し掛かって──。
「うわっ!」
──子供にぶつかってしまう。少年は運悪く、転んだ拍子に手を擦りむいてしまった。
「いてて……ご、ごめんなさい」
「いや、こちらこそすまない。見せてみろ」
どうやら、軽く擦りむいただけのようだ。アレンは躊躇なくマントで血を拭うと、簡単な癒しの魔法で傷を治していく。この程度の傷なら癒者に見せるまでもないだろう。
「あ、ありがとう。……あ、えっ!?も、もしかしてあのレックス・アレン!?」
「俺を知ってるのか?」
「勿論だよ!俺、ウィリアムソン!アレンさんの同僚の息子です!魔法大戦で多くの功績を残したって!」
「ウィリアムソン……確かに面影があるな」
「……その、アレンさん、お願いがあるんだ」
「ん?」
「俺を弟子にしてください!」
突拍子もない申し出に、少し驚くアレン。ひとまず近くのベンチに座らせると、ウィリアムソン少年の話を聞くことにした。
「俺の父さん、今はここで治療を受けてるんだ。死喰い人達に酷い怪我を負わされて……。それでも、怪我が治ればまた死喰い人と戦わなきゃいけない」
「……そうだな」
「俺、父さんのことは尊敬してるんだ。魔法界がこんな状況で、それでも悪い奴らに立ち向かっていく父さんが好きなんだ。でも、傷付いてほしい訳じゃない」
「ああ。それは俺もよく分かる」
「だから頼むよアレンさん!俺に魔法を教えてくれ!」
ウィリアムソンは真剣な目でアレンに頼み込む。その目に嘘はないと感じ取ったアレンは、静かに頷いた。
「無理だ」
「無理なの!?この流れで!?」
あまりにも分かりやすくショックを受けた。これがコミックなら雷でも落ちそうな勢いだった。
「君に問題がある訳じゃない。俺自身に教えられるだけの能力がないんだ。……俺は攻撃魔法が苦手でな。不器用な方だったから、学校の成績もあまり良い方じゃなかったんだ。あと、守護霊の呪文も苦手だ」
「ええ?それは嘘だよ。守護霊の呪文は闇祓いになる上で必須だって聞いたよ?」
「──『
杖先から銀色の靄が広がった。
暖かくて雄大な魔力……しかしそれは、確かに明確なビジョンを持っているわけではなかった。
「当時の闇祓い局は人手不足でな。求める基準が今より低くて、ある程度の強さがあればなれたんだよ。英雄だなんだと言われちゃいるが、俺は守護霊一つ満足に作ることができないんだ」
「いや……わざと手を抜いているだけでしょ?それくらいわかるよ」
(本当なのに……)
「でも、確かに俺は杖すらまだ持ってないし、守護霊を作れるようになるまで何年かかるか……」
「そうだな。時間はかかる。だが、そこで諦めたり挫けたりしちゃ駄目だ」
アレンは真っ直ぐに少年を見据える。とても力強い眼差しだった。記憶に焼き付かんばかりに熱かった。
「俺と君が背を並べて戦う日は来ないかもしれない。だが君が大人になる頃には、また別の悪党が生まれているはずだ。それは俺にはどうしようもできない。未来に生きる君達でなければ倒せない敵なんだ。
だからその時まで、学校で学び、育ち、力をつけて、自分の
アレンの好きな言葉は熱血だ。正義ではない。
正義とは、時代や状況によって形を変えてしまう不確かなものだ。自分にとって正しいことでも、相手にとってはそうでないことを、アレンは知っている。
それでもアレンが正義の味方であり続けるのは、尊敬する人達から教わったものを、裏切りたくないからだ。
「
「…………!はい!」
アレンは諸々の手続きを済ませると、聖マンゴを後にする。すると、意外な人物と鉢合わせた。年老いたライオンを思わせる、壮年の魔法使いだった。ボディーガードにエミルとジキルがついているが、彼は本来、護衛など必要ない実力の持ち主だ。
「スクリムジョール大臣」
「退院おめでとう、アレン」
「お疲れ様ッス、アレンさん」
「うぃーっす」
どうにもおめでとうというテンションではない口振りで、新たなる魔法省大臣は答える。どうやら聖マンゴには負傷した数多くの闇祓いへの見舞いと……詰問をしに来たようだ。
スクリムジョールはキャリアのほとんどが闇祓いで、貴族社会の魔法界にあって貴族とのコネクションはあまり多くない。ここに来たのも、政治的意味というよりは闇祓い達から情報を得ようという意味合いが大きいのだろう。例えば、行方不明のシェリーについて何か隠していないか、と。
(言葉には出さないが、この人は魔法省にシンボルを作りたいようだからな……シェリーを英雄として祭り上げてプロパガンダにするつもりか。俺の時のように)
「煙草はどうかね、レックス」
「いえ病み上がりなので」
「じゃあもーらい」
「ちょ、エミルさん……」
(こいつ……)
(左遷させてやろうか)
エミルがひょいっと煙草を取って吸ってた。
「老け込みましたねスクリムジョール大臣。闇祓いの勲章授与式でお会いした時とは別人だ」
「激務だよ。私ほどツイてない大臣もいないだろう。とんだはずれくじを引かされたものだ」
「闇祓いの猛将とまで謳われた貴方らしくもない。ダンブルドアがいないのがよほど堪えたようだ」
「ダンブルドア……気に入らん。奴は魔法界の象徴とも呼べる人物だが、本人が矢面に立つ気がまるでない。裏でコソコソ動き回りおって。あの全てを見透かしているかのような態度が癪に障る」
「それに関しては同感です」
「しかし魔法省としては、ダンブルドアを敵に回すのは得策ではない。あれだけの功績を持つ偉大な魔法使いだ。率直に言って……彼がこれまで大臣職を引き受けてこなかったことが不思議でならん」
「そういう欲がなかったんでしょう」
「ふっ。そういう意味では、お前ほど欲張りな男も早々おるまいよ」
アレンに皮肉げな笑みを落とす。げっそりと痩せこけた笑みは獰猛な肉食獣のようだった。
「これから私達はどうなります?」
とジキルが尋ねた。
「さあな。私はもうじき死ぬかもしれんし、そうなれば君たちに職務が委譲されるわけだ」とスクリムジョールが答えた。
「覚悟はできているわけですね」
「どうかな……。今でも死をまことに恐れていないとは言い切れん。無様なものだ。もしもの時が来たらその時はキングズリーに指揮を執らせなさい」
「キングズリーに?」
「そうだとも。彼なら適任だ。闇祓い局を統率し、魔法省に巣食う旧勢力を間引いてくれる」
スクリムジョールは高潔な男だ。
しかし、年老いた彼は危うさをも持ち合わせる。
シェリーの紅い力の話……彼女を殺さなければヴォルデモートを殺せないという話は、やめておこう。シェリーを哀れだと思っているわけではない。彼女自身が重要な戦力の一角になり得るからだ。
場合によってはアレン隊もシェリーを殺す覚悟だ。
「しかし、弱音を吐いていた割には元気そうじゃないですか」
「ダンブルドアもシェリーも魔法界のシンボルにはなれなかった。頼れるのはお前だけだ。それを思うと開き直れてきただけだ」
「私はダンブルドアに憧れて闇祓いになった。しかし、これからは一人の天才が指導する世界ではなく、個々人が責任を持って事にあたる世界ということだ」
滾る心に自然と力が入ってしまったのか、スクリムジョールは煙草をくしゃりと潰してしまっていた。
折れて、しわくちゃになって、ほとんど燃えカスになってしまったけれども、まだ火はついていた。
まだ、燃えていた。
「やっぱり一本いいですか?」
アレンとジキルも火をつけた。
スクリムジョールは原作で唯一、ダンブルドアと部屋の外まで聞こえるほどの口論をした男です。個人的にそこがすごく気になったので、実はダンブルドアに憧れていた設定になりました。
おまけ
『デネヴとアルタイルの一幕』
「ん、アルタイル、君が眼鏡をかけているとは珍しいな」
「ええまあ……最近は騎士団で書類仕事が多いもので。普段の生活には支障ないので外しますけど」
「ん?折角可愛いのに」
「……へえ?」
数日後。
「今日もかけてみましたよ。どうです」
「いや普段眼鏡かけてないアルタイルがかけるからこそのギャップであっていつもかけられるとそれは普通に可愛い」