シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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6.eve,eve,eve

「ダンブルドア!」

「もう身体の調子は……」

「ああ、うむ。ありがとう。この歳になると眠りが深くなっていかんの。危うく永眠するとこじゃった」

(笑い事じゃねえ……)

「それで、じゃ。校長室に皆を集めてくれるかの。ああ、スクリムジョール派の闇祓いもじゃ。ヴォルデモートを倒すのに儂等だけでは不足じゃろう。それと、我等が友人ネロもじゃ。フラメルには儂から連絡しておこう」

 

──ダンブルドアが復活して、わずか十七時間後。

 ホグワーツの校長室には召集をかけられた選りすぐりの闇祓い・騎士団員達が揃っていた。本来なら魔法省で行うべき会議だが、一年前に陥落しかかって未だ安全地帯とは言えない。それならばホグワーツの方が安全という考えだった。他に場所の候補を探すとなれば、それこそグリンゴッツの金庫の中で話し合いをするしかなくなる。

 拡大呪文が目一杯までかけられた校長室の中に主要メンバーは全員揃った。

 勿論、入念な魔法のチェックは済んでいる。この中にスパイはいない。

 壇上にて、到底数ヶ月の間寝ていたとは思えない溌剌さで、ダンブルドアは厳格にこれから命を預ける魔法使い達のかんばせを慮った。

 

「既に情報は聞き及んでおる。まずは、この老いぼれのケツを拭いてくれて誠に申し訳ない。今までサボっていたツケは仕事で晴らさせてくれ」

「……まったくだ。死ぬ前にそのくらいの働きをしてもらわねば、割に合わん」

「分かっておる。肝心のヴォルデモートの居処については、ネロが教えてくれる」

「ネロローン」

「うわぁ何か変な奴きた……」

「何だこいつの奇ッ怪な動きは!?わしを殺す気か!?」

「おいおいネロってんナ」

 

 いつもの調子で登場する男は、まるで緊張など感じさせなかった。

 厳粛な場ではこの異物かと錯覚するほどに陽気な声ではあったものの、彼がもたらした情報の大きさに、その場の誰もが押し黙る。

 

「連中の居城は、ダームストラング城。ウチの親父が死喰い人一派に城の一部分を提供してる。今年、例のあの人が大々的に行動しなかったのは、戦力が大幅に削れていたのもあるが……単純に海外で場所が遠かったんだヨ」

「生徒達は死喰い人に気付いていないのか?」

「気付けねェし、気付いたところでどうしようもねェんダ。学生レベルじゃ見つけられない結界に護られてる上に、教師全員がグルなんだからナ」

「……、下手に動けば生徒達に被害が及んでしまうか」

「ふん。むしろ、闇の輩どもがダームストラング城の生徒を人質に取れば、こちらは手が出せなくなる。連中がそれをしないのは、情報や力が足りてないからだろう。攻め込むなら今しかない」

「だから次の長期休暇が狙い目ダ。大半の生徒達は実家に帰ってるから、帰らなかった生徒は当日中に保護するのが良いだろうナ。コガネムシの情報によると結界自体は寮とは遠くにあるようだし」

「陽動と保護で班を分ける必要があるな」

「質問いいか?」

 

「結局、障害となるのは紅い力を持った幹部だろう。最高幹部達の動向は掴めてないのか?」

「極めて不規則、としか言えねェ。奴等は死喰い人勧誘の為に出歩くこともあるらしいが、最高幹部ともなるとかなりの自由を許されてるらしくてナ。城以外にもいくつか拠点を持っているようで、そこから連絡を取ることもあるらしい」

「幹部達をどうするか、だな……」

「それじゃが、紅い力とはヴォルデモート本人と密接に結びついた力で、ヴォルデモート本人を倒しさえすれば幹部達からは紅い力は失われる筈じゃ。先の魔法大戦でもヴォルデモートが滅んだ後、死喰い人達の勢いが削がれたじゃろ?いくら手足があろうが頭を潰せばどうすることもできん。

 ……そこで、幹部達の気を引いている内にヴォルデモートを倒しちまうっていう作戦はどうじゃろう?」

 

 そう飄々と嘯くダンブルドアに向けられる視線の中に、少しばかりの戸惑いが混ざっていく。

 

「失礼だが、あなたは去年──その、グリンデルバルドに負けているだろう?今年も同じ結果になるのでは……」

「言い訳をするようじゃが、グリンデルバルドの攻撃の余波を押し留めるために魔力を回しながら戦っていたのじゃ。フルパワーで戦えば相討ちには持っていけるじゃろう。……いや、必ず勝つとも」

 

 甘さは棄てる。

 絶対殺意の名の下に、グリンデルバルドとの因縁に決着をつけに行く。

 そも、トレローニーの預言によれば戦いはここで終着しないかもしれない。それでもなおこのタイミングで仕掛けるのは死喰い人に一般人を殺させないため。

 奴等の紅い力を、もう、これ以上成長させてはならない。

 

「闇の帝王と、グリンデルバルド、そしてダンテの三人は飛び抜けて強い。最優先は闇の帝王だが、こいつらは特に気をつけた方が良いナ」

「ダンテはそんなに強いのか?」

「ああ見えてもフラメルの爺さんより歳上だからナ、奴の内側にはとんでもねえ魔力が渦巻いてる。しぶとさだけなら一番かもしれねェ」

「マジ?儂より歳いってる人間とか初めて見たわ」

「うん……彼等を見つけたらすぐ俺やダンブルドア、フラメルさんに知らせてほしい。忌憚なしに言って俺達三人が最高戦力だろうからな。期待してるぜ、フラメルさん」

「ニックでいいよ」

「ありがとうニック!」

 

 ニコラスはニックだった。

 

「今回は一年かけて造り上げたカバラ式ゴーレムを総動員しよう。魔法省の戦いに参戦できなかった分、ジジイに活躍させとくれ」

「存分に頼らせてもらうね、お爺ちゃん」

「ほっほ」

「先の戦いで手の内が分かってる以上、やりようはあるが……連中は奥の手を隠している風でもあった。使う魔法だけでも分かればいいんだが」

「……分かる、かもしれんぞ」

 

 セイウチ髭の、真ん丸としたスラグホーンが控えめに手を挙げる。

 古ぼけた、しかし丁寧に保管されていただろう日記帳を手に、憶測を語った。

 

「これは私が十六年前に懇意にしていた生徒、レギュラス・ブラックの日記だ。彼は死喰い人陣営に所属していたが、例のあの人の恐ろしさを知り逃亡した……という風に思われている男だ」

「?」

「そう、彼は死喰い人に入って情報を入手していたんだ。例のあの人が密かに研究を続けていた『真・死の秘宝』について、彼は独自に調査を進めて暗号にして託したんだよ。生憎と、暗号に気付くのに何年もかかってしまったが。ベガと会わなければ過去と向き合って日記を見ようとすらしなかっただからな……。

 で、この日記だが、内容自体は凡俗なものだ。例のあの人に選ばれた存在として精進したいという内容が家族宛てに綴られていて、最後のページは帰りたい、戻りたい、助けて……そういった文章ばかり。だがそれはフェイクなのだ」

「他に伝えたかった事柄があるというですか?」

「その通り。日記中にやたらと文章中に家族の名前が出てくると思ったんだが、ページを一度バラバラにして同じ名前を重ねて、線で結ぶと魔法陣ができる。それを基点に呪文を唱えると、音声が再生される仕組みなのだ」

 

 この手法はトム・リドルが以前に試した方法だ。リドルは日記の中に魂を封じ込めて分霊箱を作ったが、レギュラスは魔術音声を記録した。スラグホーンが符術の要領で魔力を込めてやれば、レギュラスの肉声が再生される。

 

『──例のあの人の持つ紅い力、その概要についてお伝えするでござる──』

「これは……!吠えメールの要領か!」

「どうか、どうか私の今は亡き生徒の情報を役立ててほしい……!」

 

 死喰い人の裏切り者として哀れな末路を辿った男、レギュラス。しかしその、無様な死こそがフェイク。日記の内容が無様であればあるほど、悦楽に生きる死喰い人達の目を曇らせられる。

 さて──ダームストラング城に攻め込むとあれば、去年のように強襲するのが望ましいのだが……。

 

「ひとつ、作戦を思いついた。名付けて『七人のダンブルドア作戦』……!」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 語るべきを語り終え、各々が戦いへと備えを始める。

 フラメルがゴーレムの点検をしようと格納庫へ向かおうとしたところで、アレンに呼び止められる。世界的錬金術師のフラメルなら、シェリーの肉体を作り替えることができるのではないかと。

 

「分霊箱と化したシェリーを、どうにか殺さずに闇の帝王を倒したい……か。何ともまあ、親父に似て頑固というか実直というか。じゃが、実に錬金術師として最適な考え方じゃな」

「褒め言葉と受け取っておく。それでニック、シェリーは治せるのか?」

「──不可能ではない」

 

 それに対する返答は、しかし希望を持たせる言い方ではない。含みのある言い方に柳眉を上げた。

 

「儂はシェリーを一度見ただけじゃが、それでも断言できる。彼女はホムンクルスとして完璧すぎる。普通は寿命が短いものなんじゃが、彼女は普通の人間として何ら遜色なく動くことができる。肉体上の欠陥はどこにもない」

 フラメルがシェリーと出会ったのは偶然ではない。

 ダンブルドアに頼まれて、シェリーの様子を観察していたのだ。

 

「だからこそ、どうしようもなく彼女の死が鮮明に見えてしまう。彼女に愛の護りは働かず、帝王にとって有利な条件ばかりが課されてしまっておる。シェリーを殺さなければ帝王は死なない、という制約はマジじゃ。奴がそこにつけいる隙を与えるわけがない。

 じゃが、無理矢理な突破口ならないわけではない。誰かが人柱になり、彼女に生命エネルギーを与える。そうすれば彼女の性を補填できよう」

「そんな……」

「あの子が望むなら、それも良いだろうと思うとった。しかしこれ以上、あの子に命を背負わせるわけにもいくまいて」

「…………」

「取り敢えず、寿命補填のやり方を書いたメモは書いておこう。こればっかりは本人の意思がないとな」

 

 そう──シェリーの命を生かすも殺すも全ては本人の意思に委ねられる。

 人間が所有できる命は、自分の命だけなのだ。それをどう扱うかを本人の意思決定に委ねなければ、それこそヴォルデモートと同じくシェリーを操り人形にしてしまうだけだ。

 仮にシェリーが誰かのお陰で生きることができても、彼女はそれを悪い方へと解釈してしまうのだから。

 

「それと、ネロから伝言。ダンテとは殺す気で戦ってくれて構わない、だそうだ」

「了解」

 

 ……さて、アレンもフラメルも邪気を感じていなかったので放置していたが、この会話を盗み聞いていた者がいる。

──セブルス・スネイプ。

 たった一つの執着を抱える蝙蝠は、生贄を捧げてシェリーを救うという話を聞いて、いったい何を思うのか……。

 

 一方、気落ちしたアレンは、ホグワーツの屋根の上で月を眺めていた。

 ……佳い月夜だ。

 アルタイルがここでデネヴに告白したと聞いているが、確かにここならばあの互いに恋愛淡白コンビでもそんな気分になるのかもしれない。……こんなにも月が綺麗だと思った夜は生まれて初めてかもだ。楚々と照らす夜の光を、アレンは思い出の中に仕舞い込む。

 と──寝転がっていた彼の視界に静謐な美しさの少年が写る。

 

「ベガ?」

「闇の帝王をぶっ倒しに行くらしいな」

 

 相変わらずここは噂が早い。

 月光のような銀髪の彼は、しかし貌に憂慮の色を浮かばせた。

 

「俺も連れてけよ、おい」

「死の危険があるところに学生を連れて行くわけにはいかない」

「こっちだって知り合いに死なれんのはもう御免なんだよ。刺し違えてでも、とか思ってやがるんだろ。そうだろ?」

「……かもな」

「だから俺も連れてけっつってんだよ」

 

 ……怒っている、のか?

 皮肉と見栄に隠れた優しさが、雲間から顔を出す月のように、覗き出ずる。

 

「自分で言うのも何だが、俺の実力は闇祓いでも通用するレベルだ。お前達の脚は引っ張らねえ。今持てる最高戦力で奴を叩くのが最善なんだろ。俺だって戦力になれる。戦える」

「かもしれないな」

「なら、」

「君の役目はまだだ」

「っ」

「言っただろ、一人だけ強くても意味がない、皆んなで強くなるんだ、って。俺達は死にに行くんじゃない、君達を守る為に戦いに行くんだ」

「……でもよ……!」

「もし君が死んだら、誰が未来の魔法界を引っ張っていくんだ?実は密かに期待してんだぜ、『最強』」

 

 そこにどれほどの間と、葛藤があったかをアレンは推し量れない。

 アレンは、結局のところ正義を持たない法の体現者に過ぎないのだ。

 多くの人を救ってきた。

 多くの人を救い損ねた。

 そして知ったのだ。自分ではどうあっても救い得ぬ者がいる、と。そういう手が届かない人を代わりに守ってくれる存在をずっと探していたし、自分の代わりとなれる者を探していた。

 その重荷(役目)を背負わせようとしているだけなのかもしれない。

 数多の嘆きの果てに待つ景色へと導いているだけなのかもしれない。

 ただ──それでも。

 

「俺が死んでも、ベガがずっと忘れないでいてくれたら、俺は十分なのさ」

「……分かったよ」

 

 尊く、無垢なる願いを、けして見失うことのない輝きを抱いてくれるのなら、ベガの必定の結末に救済を齎し得るのかも知れない。

 

「お前も、ダンブルドアも越える世界最強の魔法使いになるから……お前はそのための礎になりやがれ」

「喜んで」

 

 なあに、心配することはない。

 レックス・アレンは死なないさ。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 アルバス・ダンブルドアに残された最後の家族──アバーフォース・ダンブルドアは、胸騒ぎを覚えてホグワーツにやって来ていた。ダームストラング攻城作戦には参加しないものの、彼もまたダンブルドアの信頼に足る人物として会議に呼ばれていたのだ。

 本当に──

 本当に、腹が立つ。

 あんな老いさらばえて、辛酸を身に刻んだ老人が、今度もまた若い連中を口車に乗せて死地へ追いやって死なせる。しかも今度は心中ときた。今日の会議で再確認した、俺は奴の全てが憎いのだと。

 殺せるものならとっくに殺していた。

 けれど時代がそれを許さず、民衆が英雄を必要とし、終焉までのさばらせた。

 あの死に損ないが、もう何度目かも分からない舞台に立つ。格好つけて、この世のならぬ慟哭を抱えて死ぬのだ。

 

(いつから『儂』だなんて格好つけた口調になったんだっけか、あいつは)

 

 アバーフォースがアルバスを探しているのは、ザカリアスとマクラーゲンにあれこれ説教した手前、自分がこのまま醜態晒したまま死に別れるのに何となしに腹が立った。ただそれだけのこと。

 あんなでも、家族なんだ。

 目当ての兄は、満天の星空の下にて、しょぼくれた老人の貌でアバーフォースを出迎えた。賢人の風格はなく、死を前にして過去を振り返り、自分の愚かさに落ち込んでいたというところか。

 薄暗い廊下で、懺悔でもするかのように項垂れていた。

 落ち込むくらいなら、最初から妙な気を起こすなというのだ。

 妹の死で何も感じないような奴ならどれほど良かったか。

 善人を演じられる面の皮の厚い人間ならどれほど良かったか!

 

(奴は善を護り悪を殺す。奴の心の中にはいつも善悪を測る天秤があって、その多寡で判決を下してしまえる男だ。けれど奴自身の感情はまた別……どれだけ取り繕うとも、臆病で愚鈍なガキであることに変わりはない)

 

 歪んだ精神性。

 己が愚道に浮かぶレゾンデートルはアルバスの人生に於ける錘だった。重すぎる決意と宿命が、アルバスの弱り切った絹のような心に乗っかり、ぐちゃぐちゃの皺だらけにしてしまった。幾つもの矛盾する人間性を抱えた男を創ったのは、自分だ。

 それでもアルバスに対して抱くのは怒り。口を開けば罵詈雑言がついて出る。解り合うことも、信頼を築くこともついぞできなかった、誰よりも近しいアバーフォースの『怨敵』。

 

 カラカラと──何かを言おうとして言えなかった。

 いくら問答を重ねても答えの出ない問いを神より課されたような気分だった。最悪だ。

 月を見上げる。ああ──今日の月は綺麗だ。凛烈として、清々しい。

 何となしに、ベガと交わした会話のことを思い出した。

 

『弟…てみてえな奴がいたんだ。俺が傲慢だったせいでそいつは死んじまったんだけどな。説教されて考え方が変わったけど、それまでずっと後悔してたよ』

 

 アルバスも、そうなのか。

 そうであれば、いい。

 それがせめてもの救済だ。

 今も尚、凡俗を振り返ることなく邁進する男に、これ以上ないほどの手傷を負わせてやっていたとしたら……。

 ……ふ。それは、何ともはや。

 喜べアリアナ。世界で一番アルバスを追い詰めたのは、どうやらお前らしい。

 アバーフォースは、今度は淀みなき口ぶりで語る。

 愛情ではない。労いでもない。

 ただ、後悔を増やしたくないだけだ。

 

「行くのか、アルバス」

「ああ」

 

「決めたのか、アルバス」

「うん」

 

「もう会えないか?」

「会えない──だから後は頼む」

「……分かったよ、クソ兄貴」

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕、行くよ」

 

 

 




アバーフォースはベガと割と仲が良いと思っています。守護霊がヤギだったり、傲慢で下の子をなくしてしまったり、色々と思うところがあるんでしょうね。ヤギを見せたらバタービールの料金をまけてくれたりします。
でもベガからしたらそんな事情知らないのでなんだこの変なオッサン扱いされてます。ダンブルドアの弟ってやっぱり変人なんだなって感じです。
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