シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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アレン「見てくれ!!ヘラクレスだ!!俺も捕まえるのは初めてだ!!!」
エミル「マジで!?やべえ!!」
チャリタリ「えーと、はしゃぐのはいいけどこっち持ってこないでくれる?」
ジキル「(虫苦手)」ビクビク

デネヴ「見てくれ!!ギラファだ!!ギラファノコギリクワガタだ!!!」
ベガ「ほう……!?」
アルタイル「餌は何を食べるんです?育てるならちゃんと面倒見ないと駄目ですよ」
デネヴ「バナナを頼む!!!」


9.BLITZ【Albus_ Gellert】

 ダンテとの激戦の後、スクリムジョールとバジリスクは吹き飛んでいった筈のダンテの死体を探していた。

 

「確かにニコ……ニックはダンテの心臓を攻撃したよな?」

「ええ、私も見ておりましたとも」

「そうだよな。この破壊痕のどこかに死体がある筈だよな」

「ええ、その筈ですとも」

「……じゃあ、何故何処を探しても見つからない……!?」

 

 臍を噛む。

 あれだけ苦労して倒した相手の行方が知れないなど、大臣どころか一介の闇祓いとして許容できる話ではない。

 

(あの一瞬で逃げ果せたとでもいうのか?まさか……)

 

 ネロから念入りに『ダンテはしぶといから気をつけろ』と口を酸っぱくして言われてきたが、認識に侮りがあったというのか。どうする……?

 

「──考えても仕方がない。お前は相性の良い紅い力の幹部の所へ行って加勢するんだ。私はもう少しここいらを探す」

「……、無理はせぬよう、スクリムジョール殿」

「心得ているさ」

 

 スクリムジョールは重く頷いた。

 

「人事を果たして天命を待つ、だ。追い詰められて死ぬ気で足掻くのはダンブルドアやアレンの担当。俺達は足掻く土俵にすら立てん。だからせいぜい土俵を支えるくらいはしなくっちゃあな」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

──あの頃は、楽しかった。

 

 アルバス・ダンブルドアが初めてその男と出会ったのは十八歳の時だった。

 ホグワーツ始まって以来の秀才──監督生や首席になるのは当然のこと、優れた学術論文を在学中に数多く執筆し、多方面に突出した類稀なる才能を憚ることなく発揮した彼が、才能ある魔法使いとして周囲から期待されるのは、至極当然の流れであったといえよう。

 ごく自然な流れとして、魔法史家バチルダ・バグショットや魔法理論家アドルバードワフリングといった当時の著名な魔法使いとも交流、意見を交わしたりする時間もできた。彼日々の授業に退屈していたアルバスにとって、それは実に有意義な時間だったといえよう。

 ただひとつ、錬金術師ニコラス・フラメルと共同研究をした時に、「君は失敗を知らない」と言われた時は、何のことかと首を捻ったけれど。

 ともあれ、己が華々しい栄光を世界に刻むものだと信じてやまなかった。

 しかしホグワーツを卒業した辺りから彼の人生設計に暗雲が漂い始める。

 

 母、ケンドラの死去である。

 

 ダンブルドア一家にとって母親の死は非常に大きなものだった。というのも、ケンドラが死ぬことでアルバスに家督の継承と、妹……アリアナの世話をする義務が生じたためである。

 彼のその素晴らしい成績故に取り沙汰されることはなかったが、彼の家族は大きな欠落を抱えていた。まだ彼がホグワーツに入学する前、アリアナがマグルの少年達に魔法を使った場面を見られてしまい、気味悪がった彼等から暴行を受けるという事件が起きた。ショックでアリアナは心を壊し、満足に魔法を使うことができなくなってしまった。

 激怒した父親は少年達に蹂躙の限りを尽くし、アズカバンに送られて終身刑を言い渡される。その後は獄中死という哀れな末路だ。

 

 アリアナの面倒を見ていた母の死後、当然のものとしてその役割は長男であるアルバスに回ってきた。アバーフォースが面倒を見るとも言ったが、彼はまだホグワーツに在学中の身だ。仕方なくアルバスがアリアナの面倒を見た。

 ……そう、仕方なく、だ。

 不満はすぐに出た。才能を羽ばたかせることを期待されていた男が、こんな片田舎で一生妹の世話をするだと?馬鹿げている。アルバスにとって家は檻の名前であり、アリアナは足枷だった。

 ずっとこのまま生きていくなんて耐えられない。退屈だ。不満だ!口に出すことはなくとも、アルバスは自分の居場所を谷の向こう側に感じてやまなかった。

 

 そんな彼の様子を見兼ねたのか、それとも偶然か。

 近所に住んでいたバチルダの紹介で出会った青年、ゲラート・グリンデルバルドと出会った時、鬱屈とした感情が再び湧き上がるのを感じた。

 飛び抜けた才能。

 図抜けた頭の良さ。

 加えてそれらを嫌味に感じさせない人間的魅力。

 全てがアルバスの興味を引いた。或いは興味を引かされたというべきか。今まで培ってきた価値観を壊され、籠絡されていった。今まで対等な友人というものがいなかったアルバスにとって、ゲラートは唯一同じ目線で語り合えることのできる友であったといえよう。

 

『強者が強者足り得るのは意味や理由などという錘を持たないからさ。世論と風評に惑わされるなアルバス。まさか学校の先生のお説教が世界の全てだと思ってる訳じゃないだろ?』

『強さに意味はないと?』

『微塵もないさ。強さとは謂わば金と同じでね、『どう使うか』という権利と選択肢が与えられているだけで、義務はないものさ。人理とは先人達の才能消費の轍だよ。君も歴史を踏み締める資格がある。少なくとも俺はそう考える』

『ゲラート。恥ずかしいことに僕には分からない。この世界に於いて僕の資質が最も耀く場所は何処だと思う?教えてくれよ。君の口振りだと、僕の、いや僕達の行く先は、君にはもう見えているように思えるけど?』

『──世界そのものだ』

『へえ?』

『魔法界という庭は、あまりに狭すぎると思わないか?マグル界と魔法界はコインの表と裏だというけれど、その釣り合いはとれているか?世界は金貨のカタチをしていない。──正すのは誰だ?』

 

 若者の思い上がりと切り捨てるにはあまりに凶悪な誘いだった。

 全能感に満ち溢れたアルバスと、それを助長させるゲラート。退屈な田舎での暮らしにおいて、唯一光を感じた時間だった。それこそ、アリアナの世話を疎かにしてしまう程に。

 

 そうだ、元はと言えば。

 アリアナを不自由にさせたのはマグルじゃないか。

 彼等が身の程を弁えていればアリアナは『不幸(面倒)』にならずに済んだのに。

 

『弱者は不自由を強制する。理不尽な鎖を強いてくる。だが君はその逆を往く権利を得たのだよ?弱者の義務に、どうして君が縛られなきゃいけないんだ?』

『──君は何のために、そこまで』

『全ては大いなる善のために』

 

 熱を帯びた語り口に首肯で答える。

 稚拙で、愚か。けれど何よりも芳醇。

 夢と呼ぶにはあまりにも狂気と野蛮が過ぎるそれを語らう時間が、アルバスの心を慰撫していった。度を過ぎた投薬、とも。

 しかし、その幸福にも終わりが来る。長期休暇で帰ってきたアバーフォースは兄がアリアナを疎かにしていたことに激怒した。元より家族愛が強く、母よりもアリアナの世話が上手いと言われる程度には妹想いだった。その分芽生えた怒りと失望は計り知れない。

 アバーフォースはアルバスを責め、彼等が企てていたマグル支配計画に猛反対した。いくつか口論をして、ゲラートが呪いをかけたことで戦いが始まった。

 才能溢れた若者の三つ巴……そう言えば聞こえはいいが、それはただの感情のぶつけ合いに過ぎなかった。

 力の行末を間違えた戦いは、アリアナの死という形で決着を見た。

 三人の戦いは妹をも巻き込むほど大規模なものとなっていて、三人のうちの誰かの魔法が彼女を殺してしまったのだ。

 

 グリンデルバルドは逃げた。

 アバーフォースは嘆き悲しんだ。

 アルバスは呆然としていた。

 

 思考が纏まらない。

 狂っていたのは世界の方か、それとも自分の方だったのか。

 醜悪さに惑い、煢然に溺る。

 強者は理由もなくただそこに在るだけで強い。

 あるのは権利だけ。

 それは、真理、なのかもしれない。彼には自由という特権が与えられ、蹂躙という道を歩くことができた。

 しかしアルバスは知らなかったのだ。権利の向こう側を……即ち、権利を行使した先にあるものを。蹂躙の足跡を。何を踏んだのか知らなかった。この結末を知っていたならば、最初からこんなもの使わなかった。

 

「お前のせいだ!!」

 

 いっぱいいっぱいの顔で殴られた。涙を流すことすら許されていなかった。

 アバーフォースの狼狽には二つの意味が込められていた。アリアナの死への憤りと、最愛の妹を自分が殺したかもしれないという事実へのの恐怖。

 あれだけ優れていると思った自分自身が気持ち悪くて仕方なかった。

 乾いた大地に酸性雨が降ったようだ。

 罪という錘が与えられた。

 

 

 

 酔いは醒めた。

 この呪いは、一生解けない。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「アァァァァァルバァァァァス!!」

「ぐっ……!!」

「楽しいなアルバス!?少なくとも俺は楽しいぞアルバス!戦闘の勘も少しずつではあるが戻ってきている!やはり俺にはお前が必要だ……お前にも俺が必要なのだよ!この領域に薄っすら肉薄してきたのはあの魔法生物大好きイモリ君くらいのものだ……おおっと!俺としたことが決闘中に違う男の名を出すなど無粋なことをした!許せ!」

 

 怒涛のグリンデルバルドに、ダンブルドアは後手に回るより他なかった。

 吸血鬼と紅い力の特性を得たとはいえ彼の肉体にはヴォルデモートから施された魔術式がいくつも刻まれ、総合的な戦闘力ならば他の紅い力所有者と大差はない程度の力しか持たない。

 しかし相手がダンブルドアならば話は俄然変わってくる。

 一つの『縛り』──ダンブルドアを相手にした時のみ魔力が格段に上がるという唯一無二の特性が、グリンデルバルドの力を底上げする。

 それは彼のたった一つの欲。

 その他一切を切り捨ててもいい程に求めてやまなかったその邂逅。

 狂い堕ちて、渇望だけが心の拠り所となった男の哀しき愛の唄。

 

「思い出すな、アルバス!あの日あの時お前と語らいあった青春の日々を!!」

「それはもう過ぎ去ったものじゃ。思い出と共に消えてくれ、ゲラート」

「消えるものか。思い出は加速する!」

 

 戦いの余波で周囲の校舎は最早原型はなく、重い緊張感だけがあった。

 鞭をしならせるように杖を振るうと閃光が衝突し、魔力の火花が咲く。

 数えられない程の魔力弾がグリンデルバルドの黒衣から飛び出し、ダンブルドアを全方位から襲う。それらを老人は杖の一振りで消滅させ、業火の炎を杖先に集中させて、解き放った。

 しかしグリンデルバルドが笑みを絶やすことはない。着弾の瞬間にマントを翻したと思えば、既に炎はかき消されてしまっていた。

 

「何を以って正義を為す、アルバス?私も君も、正義というには随分と穢れた身だと思わんかね」

「全ては見解の相違じゃ。儂は君ほどには正義には興味を持っていなかった。マグル達から身を守るために力を欲していたのじゃよ」

「ならばこそ統治すべきだ」

「──君の言うことはいつだって蠱惑的な響きを持っている」

 

 ダンブルドアはかぶりを振った。

 毒のように楽しかった二ヶ月が、じわじわと心に影を落としていく。

 結局のところ、自分は力だけ持った中途半端な人間だ。この小さな世界で、あまりにも大きな身体を持って生まれてきてしまった巨人。何かに寄り掛かってしまえば建物を崩してしまう。歩いてしまえば人を踏み潰してしまう。

 その内動くのが怖くなって、その場に留まり続けるようになったら、周りの人間が崇めるようになった。違う。そんな大層な存在じゃない。ほら──内心ではこんなにも、辛くて辛くて辛くて辛い。

 その内、口先だけで人を動かせるようになって、ますます決断や行動に責任を負うのが怖くなった。寄り掛かられるのが怖い。辛い。苦しい。重い。

 けれどそれが罰なのだ。

 人の一生を左右してしまうような人間に課せられた──。

 

「どうした!?アルバス。戦いの最中に余所見とはらしくないぞ!!」

「ッ──」

「お前は英雄なのだ!お前自身がそれを否定しようともその運命は変わらない。しかしここに救うべき民衆はいない、護るべき朋友はない!であれば──自身を縛り付ける鎖に、一体どれだけの価値があろうか!」

 

 影を切り裂いて、王は漆黒を歩む。

 排他と排斥。睥睨を伴う行進は、しかして破滅とともにある。

 

「価値──価値か」

「うん?」

「去年はまさか君と再会すると思ってもいなかったから、あんまり驚いて聞きそびれてしまったが、儂はずっと君に問い質しかった。どうしてヴォルデモート卿に味方するのじゃ。誇り高い君ならば、抵抗の仕方などいくらでもあった筈じゃろう。何故幹部などに身を窶した?」

「──魔法界を変えるために私は政治的手段を好んで用いたが、物理的手段も悪くないと思ってな。ダンテも言っていたがまさしく力は正義だからな」

 

 何故だろう。

 その理由は、今まで聞いてきたグリンデルバルドの言葉の中で、一番、つまらない文句だと思えてならなかった。

 魔力を込め、黄金の巨像を生み出して豪剣で斬り飛ばす。肉体を損耗したグリンデルバルドはしかし、蝙蝠となり瞬く間にダメージを受け流す。返す刀で、底のない深淵の影が巨像を取り込んだ。

 

「爆発させろよ、アルバス。抱えた荷物を下ろす時だ。責任なんてものを持っていたら戦いの邪魔だぞ。そんなものでお前の杖が重くなるなんて、私はそんな戦いをしに来たんじゃない」

「────」

「杖をもて。来いよ、友よ。それともまだ何か理由が必要か?この史上最恐の闇の魔法使いを前にして、まだ尻込みしちまってるのか?」

「それは──…」

「ならば俺が、お前が全力を出さねばならぬ理由を教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がアリアナを殺した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歪んだ口で、澄んだ瞳で、グリンデルバルドは甘い罰を告げた。

 何年も、何十年も、そこに立ち尽くしていた気分だった。

 過ぎ去る時の砂が心地良かった。

 

「あの三つ巴の戦いにアリアナが割って入ったのは想定外だった。今更、言い訳はすまいよ。ほとんど反射的に私はアリアナを殺したのだ。お前の妹をな」

「…………」

「若かった俺はその『殺人』を受け入れるのにしばらくかかった。されどそこからが私の道の始まりだったのだ。お前達の護りたかったものを破壊したのは、他でもない、私なのだ」

「…………ああ、それは──…許すわけには、いかんのう…………」

 

 音もなく、涙が溢れた。

 ああ、いけない。

 泣く資格などないというのに。ただ漫然と、解答を得てしまう。

 

「──ッ、あぁ、そう、──そうか……」

「ああ」

「君が殺したんだな……」

「ああ」

「では……兄らしく、宿敵に向かって敵討ちをするとしよう……」

 

 赦されてはいけない。

 贖罪こそが生きる道。

 自分の強さの矛先をずっと、それのみに費やした。人より長く生きて、人より大きな力を持った分、人よりずっと苦しんできた。……ダンブルドアの罪はそれだけではないというのに、多くの命を狂わせてきたのに、こんな、こんなことで今更、赦されてはならない。

 ただ、ほんの少し、肩が上に上がるような感覚はあった。

 

「魔法界の英雄、アルバス・ダンブルドアは今夜ばかりははお役御免だ。同窓会といこう。血濡れた心臓を私が殺し尽くしてやる」

 

 思いつく限りの受難と、考えつく限りの試練の果てに在ったもの。

 そこに辿り着くまでに張り裂けそうな程の恐懼があって、軋んだ心が求めていたのは惨めな死の筈だった。

 その筈、だったのだ。

 知らずの内に咽び泣くする魂を、それでもダンブルドアは止められなかった。

 彼は人間だった。

 あまりにも。

 

「──ああ、では、存分に、戦うとしよう。そうしよう」

 

 呟くと、ダンブルドアは左手の上に魔力熱を収縮し擬似太陽を作り上げて、槍状にして放出した。『ハスタム・エクスティンクティ』、水すら吹き飛ばす消滅の火炎槍。グリンデルバルドは嬉しそうに笑うと、それに呼応するかのように蒼き廻天の劔を生み出して、衝突させる。

 瞬間、世界は切断される。

 ひっくり返った重力の中にあってもダンブルドアは何ら一切の衰えを見せず、動揺すらもなく、ただただワインを飲み干すように、覚悟を受け入れる。

 願ってもない夢だった。

 およそ一世紀前に置き去りにしてきた感覚が、今になって追い付いた。

 澄み渡る頭は、グリンデルバルドの次手を冷静に予測する。

 侍るように影王の傍に蟠る昏い影は虎視眈々と老人を狙っていた。

 

「そこだァァ、アルバス!!」

「フォークス!」

 

 紅い力が暴威を振るう。影はダンブルドアに向かって鋭利な帯状となって襲いかかった。そこへ主人を守るように燦然と輝く美しき不死鳥が割って入り、命を代償に影ごと焼き払った。

 眩く輝く不死鳥の煌めきが、その魂の叫びが、ダンブルドアを勇気づける声に聞こえて仕方なかった。……そうであるならば良い。そうであって欲しい。

 犠牲を、無理を、強いてきた。

 それが善であると信じて、何人もの人間を身を焦がす業火へと追いやった。

 そういう生き方ばかりをしてきた。

 ……ただ、希望もあった。同種の人間が現れたことだ。

 レックス・アレン。

 健やかな精神と世界の生者を守らんと世界最強へと成った者。

 ベガ・レストレンジ。

 同じく家族を傲慢で喪くし、死者を悼み強くあろうとする者。

 

(儂のしてきたことが、全て正しいとは露ほども思わんが。せめてそれが次代へと繋がるものであったならば。最早それだけで十分だと思っとったんじゃが)

 

──ほんとうにきみは、いつも予想だにしない答えを提示する。

 不死鳥が燃え尽きると同時、ダンブルドアは攻勢へと打って出た。

 これで仕留める算段だった。

 けれどそれすらも読んでいたかのように、グリンデルバルドは杖先に魔力を充填させていた。空すら覆い隠すほどの圧倒的な闇を、影を、一点に。

 吸血鬼の贅力でもって、ダンブルドアの懐に飛び込んだ。

 心なしか、先刻までのグリンデルバルドよりも疾く思えた。

 グリンデルバルドの影は、底なし沼のように物体を沈み込ませることができる特性を持つ。それを集中させたということは、一瞬でも触れれば影により削り取られるのと同義である。

 黒風怨嗟──影が嵐のようにグリンデルバルドを軸として旋回する。それは一本の剣のような形となって──振り下ろされる!

 

「永遠の中に沈み込め──アルバス!!」

 

 数多の屍を踏み越えた故の闇。

 唸りを上げる黒い剣。慟哭と嗚咽が影の中から聞こえてきそうだ。

 呼吸が痛い。立っているだけで怨嗟の風に呑み込まれてしまいそうな、果てのない廻天が怒涛のように浴びせられる。

 或いは、それこそが罰か。

 アルバス・ダンブルドアの、世界のためだか、正義とか善とかいうもののために犠牲になった者達の呪怨に聞こえて仕方ない。だが──一つの誓いを胸に、力があるだけの魔法使いは一歩を刻む。

 怨念は全て儂が教授する。

 赦さなくていい。どれだけ呪ってくれて構わない。その代わり、どうかその呪怨は儂だけに向けておくれ。──ぜんぶ呑み干すから。

 もう、救いは得たから。

 

「影が──焼き払われる!?」

 

 その魔法は、ダンブルドアの魔力の全身全霊。

 大いなる影すらも抉り、闇の中で光を失わぬ黄金の煌めき。

 アルバス・ダンブルドアという男の命の灯火。

 

「ォォォォオオオオオオ──」

 

 光は影を生む。

 けれどその本質は──闇を祓うモノ。

 だからもう、けして。ここで否定されてやる訳には、いかないのだ。

 

「神よ──命よ──!儂に、この杖に──勝利の鼓動を刻み給え──!!」

 

 魔力は十全。技巧は十分。不足なるは心のみ。

 威風を傍に、なけなしの命にけれど生の輝きを灯す。

 これから生まれる子供達が。

 胸を張って幸せだと言える世の中を。

 

「アル……バス……!!ぐ、──ぅあああああああああああ!!!!」

 

 光と影。全てが果てた。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 命を燃やし尽くした先にあったのは何もない焦土だった。

 アルバスはかろうじて膝をつく程度で済んでいるが、ダンブルドアの全力の炎を浴びたゲラートは、もはや声を出すので精一杯といった様子だった。

 けれど、黒衣の男は、どうしようもなく澄み渡る青空のように晴れやかに、口元を歪めてみせた。……直にこの男は死ぬだろう。

 再生能力に優れた吸血鬼。しかし心臓に打ち込むようにして放たれた火焔には耐えられなかったようだ。全てを覆う闇ごと火炎で切り裂かれては、最早打つ手は残されてはいない。

 影ごと崩すには、アルバスの螺旋の焔で吹き飛ばすより他なかったのだ。

 崩れ行く友を前に、けれど老人の心はどこか穏やかであった。

 

「──ふっ。アレには勝てないなぁ。闇すらも祓う光とは」

「……ゲラート」

「ああ、嘆くな嘆くな。悪者は悪者らしくこの世から退散するまでさ」

「友との別れじゃ、少しばかりしんみりさせてくれ」

「まだ、友と呼んでくれるのだな」

「呼ぶとも」

「ああ──結局、私は何も為せず仕舞いだったな」

 

 それが自然であるかのように、ゲラートの貌には爽気があった。

 

「言っておくがな、アルバス。私がヌルメンガードくんだりからわざわざ脱獄して来てやったのはな、お前に貸した二シックルを返してもらうためさ。忘れたとは言わさんぞ」

「ゲラートがゴドリックの谷から出て行ったからじゃろう?住所も知らぬし、どうやって送れと言うのじゃ」

「さっさと見つけてくれると思ったんだ」

「……いかんのう。君が嘘の達人だということを忘れておったわ。二シックル貸したのは儂の方じゃて」

「いーや、絶対に私だ」

「儂じゃ」

「俺だ」

「僕だ」

 

 今世界でここだけは、砂時計の砂が下から上っていくだろう。

 懐古した会話はくだらなくて、心地良くて。

 

「──なぁ。本当はどっちだと思う?」

「……………」

 

 それはコインの貸し借りの話か、それとも──。

 

「そういえばアバーフォースから金をせしめたような気もするんだ。なあ、どれだと思う?どれが正解だと?」

「……予想が当たっていたとしても、誰も得しないよ」

「なら、騙されておけ。──やっぱり金を貸りたのは俺の方だった。二シックル返しにきたぞ、友よ」

 

 友の、あまりに薄っぺらい文言に苦笑してしまいそうだ。

 けれど、その嘘とも真ともつかぬ口振りに、今も昔も翻弄され続けている。

 

「君は口が上手いな。そういう風に言われると、本当に犯人は君だったような気がしてきてしまう」

 

 

 

 

 

「──騙されてしまいそうだよ」

 

 




ゲラート・グリンデルバルド 死亡
死因:友との激戦の末、眠るように息を引き取る
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