シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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10.BLITZ【Allen_Voldemort】

 アレン家は大層な歴史を持つ家という訳でもなければ、特別な魔法が伝承されているという訳でもない、ごくごく普通の一般家庭であった。

 母親が出産のショックで死んで以降、父親のレオナルドが男手ひとつでレックスを育てる……というわけには職業柄いかなかった。レオナルドは闇祓いだったのである。いつ何時も闇の輩の動向を注視しなければいけないという仕事であるため、どうしてもレックスの面倒を見るのが難しかった。

 すると、レオナルドを慕っていた闇祓い局員や魔法省のスタッフがレックスの世話を買って出た。人徳というべきか、レオナルドの厳しくも優しく、誇り高い性格が人々を惹きつけたのだ。

 父親と話したり遊ぶ機会こそ少なかったものの、父親を慕う人間に囲まれて、自然とレックスも父親を尊敬する気持ちが芽生えていった。

 闇祓いに関連する仕事の人に囲まれて育ったせいだろうか。

 レックスは、ホグワーツに入学する頃には正義感溢れる少年になっていた。やはりと言うべきか、組分けもそれを重視する寮に選ばれた。父と同じ寮だ。

 

「グリフィンドール!!」

 

 レックスは闇祓いとなるために凡ゆることに全力で取り組んだ……が、彼の才能は中々芽吹かなかった。何と言っても不器用な性格だったのである。要領が悪いと言ってもいい。詠唱の複雑な魔法はどこかの文節でスペルミスをするし、勉強だって何度も何度も繰り返しやらないと覚えられなかった。

 ジェームズやシリウスの非凡ぶりを見て落ち込んだり、リリーやリーマスに勉強を教えてもらうことも、けして両の手に収まるような回数ではなかった。

 

 『闇祓いは優秀な人間がなるもの』

 『自分は闇祓いになれないかもしれない』

 

 焦りと失望が渦巻いていたレックスをレオナルドは根気強く説得した。その歳で夢を諦めるのは早い、と。得意分野が一つしかないならとことんまでそれを極めてみろ、と。

 レックスの反撃はそこからだった。

 砂魔法、岩魔法……誰もが使える魔法でありながら、誰もが軽視する呪文を何度も何度も練習した。上の世代がオリジナルスペルを作ろうと、非効率だと言われようと、愚直に、自分にできる魔法だけを極める。

 幸いなことに、一年生の時から決闘クラブにはちょくちょく顔を出していたので、上級生から手解きを受ける機会はいくらでもあった。初めて勝ったのは、入学して暫く経ってからのこと。

 血の滲むような実戦と努力を経て賞状を貰った時には、何を話せばいいのかまるで分からなかった。今までそういうものとは無縁だったから。

 

 ややあって、魔法大戦が激化していく中でアレンは闇祓いとなった。

 ムーディー直々のしごき……という名の人を人とも思わぬ狂気じみたスパルタを越えた何かをやって、基礎戦闘力は更に向上した。死喰い人達を相手取って戦闘での勘も磨かれた。

 しかしそんな折、レオナルドの体調が悪化して死亡した。過去に戦った闇の魔法使いとの傷が悪化したのだという。レックスが戦場に立つ頃にはもう、レオナルドは第一線から退いていた。

 病室で、今際の際に言われたことをよく覚えている。

 

──たくさんの人を、助けなさい。

──お前は正義の味方になれ。

 

 レックス・アレンは完成した。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「お辞儀をするのだ、レックス・アレンよ。よもや決闘の礼儀作法を知らんというわけはあるまい?」

「…………」

「……本当にお辞儀する奴は初めてだ」

「おちょくってるのか?」

「何を。お辞儀にはお辞儀で返すわ。お辞儀返しを喰らえッ」

 

 互いに頭を下げた後は、どちらからともなく杖を構える。

 構える──といってもヴォルデモートの場合、むしろ『呼び出す』と言い変えた方が適切かもしれない。瞳は紅く煌めいて、王の背後に宇宙が創られる。

 その内海の星の全てが杖の魔力。

 宙より覗く幾百もの砲門が、戦禍の匂いを感じ取りギラついた。

 ヴォルデモートが死の秘宝よりも優れたものを追求した結果、創り上げられた真・死の秘宝──その第一神器にあたる『虚の震天』。

 全ての杖を再現でき、ヴォルデモート流にアレンジを加えた杖の群れ。

 あの神器が展開されているだけで、空気が重くなった感覚さえある。

 しんと静まり返る王の間。強壮な気迫に誰もが立ち入れない。ぱらり、と耐えかねたように小石が落ちる。それこそが決闘開始の合図であった。

 

「──発射」

 

 つんざめく音とともに、衝撃だけがアレンを襲った。

 虚空が震え天に座す。

 何条もの魔法弾をアレンは砂の防御膜で防ぎきる。砂が受けた感覚に、アレンは内心で臍を噛む。相も変わらず、何とも強力無比な能力だ。万夫不当の英雄といえど、ここまでの魔力弾幕を経験するのは初めてだ。

 虚の震天の強さの本質が数の暴力である以上、放たれる魔力弾の一発一発の威力そのものはそこまで脅威ではない。直撃こそ避けねばなるまいが、脅威というにはあまりにも攻撃力不足。全身防御で何とか乗り切れる。

 だが、その途切れなさよ。

 これがただの軍隊であったならばアレンもここまで苦労はしない。けれど相手しているのは群ではなく、たった一人の指揮下に置かれている多量の杖だ。

 ただの群であれば、必ず何処かに綻びが生じる筈。百人もの人間が呼吸を揃えて連携できる道理はないからだ。さらにはスペースの問題もある。これだけの規模の絨毯攻撃を再現しようとすれば、途端に大勢の人達でぎっしりと詰まってしまうが、あくまでヴォルデモートの杖であるため出し入れは自在。

 『一騎当千』をここまで表した能力もないだろう。

 今でこそヴォルデモートは様子見で魔力弾の雨を降らせるだけで済んでいるものの、これが例えば炎に変わればどうなるだろう。並の火炎魔法使いでは出せぬ出力の火炎がアレンに襲い来てしまう。

 

「『アグアメンティ・ケントゥム』」

 

 そら、言ってる側から。

 建物内で、途端に足が浸かる程の大瀑布とカッター状に高速回転した高圧水流がアレンを苦しめる。砂は泥となり、先程までの動きの精細を欠いてしまう。

 だがしかし、それしきで止まるようならば世界最強は名乗れない。

 泥は膨張して寧ろ水を吸収し、種を仕込めばたちまち大樹が生み出される。

 大樹の上を、悠々とアレンは闊歩した。

「うん?」

 帝王の片眉がぴくりと上がる。

 言うなれば、食指が動いた、とでも言うべきか。

 興味がてら防御不能の雷魔法を放ってみるも、アレンは磁場を狂わせることで方向を乱し、むしろ倍にして撃ち返す。

 歩みは止まらない。

 

(──そうかこいつ、砂魔法や岩魔法が得意だとか、そういう次元ではない。大地そのものを使役する魔法使いなのか)

 

 土に関連する魔法の真髄は、場所を選ばぬところにあるとアレンは考える。

 個体なら岩を。流動体なら砂を。気体なら樹木でも生やせば調整可能。

 火があればマグマに火山岩。

 水があれば泥に沼。

 雷があれば磁場に鋼鉄。

 風があれば砂嵐でも起こそうか。

 天には隕石を、海には岩礁を、地にはあるがままを。

 全てが全てアレンの技の数々だ。人並外れた魔力量であらばこそ成せる、大地を操る魔法の究極系。果てにあるもの。

──素晴らしい。

 最強の矛と最強の盾。

 ヴォルデモートの能力が攻撃のためのものとするならば、アレンのそれは防御のためのもの。砂や岩──『大地』は全てを守る。

 

(他には何ができる?俺様の真骨頂たる空中戦にはどこまでついて来れる?)

 

 敵対心よりも興味が勝った。背後の壁を破壊して、背中から倒れるようにして空中へと飛び出した。何本もの杖を同時に操ることで、ヴォルデモートは擬似的な空中歩行を可能としていた。

──うん、未だ改良の余地はあるか。空中歩行に使う魔力や杖に無駄が多い。これでは空中戦どうこうを人に説けたものではないな。いっそのこと、本当に空を飛ぶためだけの呪文を作るか──

 さて、どう来るか。

 ベラトリックスの時のように隕石群でも降らせてみるか?

 

「アレナス、砂よ」

「──ッ、ハッハッハッハッ!おいおい正気か!?そんな力業があるか!砂柱の上を歩いてくるとは!大雑把にも程があるわ!」

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 砂が天高く聳える柱となって、アレンの歩みを受け止める道となる。

 機動計算だの、気圧調整だの考えていた自分が馬鹿らしい。当然のように空中戦に対応してくるアレンを見て、闇の帝王は自らの滑稽さに腹を抱えた。

 

「皮肉よな。真に考えを改めるべきは俺様の方だったというわけだ。なまじ全ての魔法を手に入れてしまったが故に、発想が貧困になっていたわ。ああ、何、こちらの話だ。怪訝な顔をするな。そして今からお前の話をする」

「うん」

「まずは謝辞を述べよう。熟練の技巧と判断力、感服した次第だ。故に勿体ないと心から思う。その力──俺様のために活かしてみないか?」

「断る」

「俺様を花に例えるなら薔薇だ。美しく紅く咲く一輪の華──その輝きの前には凡百の魔法使いなど俺の添え物に過ぎん。

 だが、お前は違うだろう?ダンブルドアやベガのように最強の強さを持っているだろう?それを愚かな民衆どもに捧げるというのか?俺様は強者に対しては誇りと敬意をもって遇するぞ。……だが賭けてもいいが、連中は戦いが終われば貴様を厄介者と看做すのだぞ」

「……随分と能力を買ってくれているようだな。ありがとう」

「どうも」

「だがそれはお前の勘違いだ。俺は世界最強の闇祓いなんて呼ばれているが魔法自体は誰でも使えるようなものを使っているし、特別家柄が良いわけでもなければ特殊能力だってありゃしない。

 お前が薔薇なら俺は雑草だ。どこにでもいるただの一般男性だよ。この顔とかっちょいい名前を親から貰えたことが俺の唯一の誇りさ。俺は人々の到達点としての強さを持っていたい。お前の職場じゃそれは無理だ」

「……どうやら貴様は俺様とは正反対の人種のようだな」

 

 元来、アレンの魔法は戦闘よりも災害時や救助活動で役に立つものである。

 衝撃を優しく受け止め、避難誘導にも最適。簡易的な足場を作ることもできる優れものだ。より簡単に捕縛という手段を取れるのも砂であるが故。

 しかしその力は多くの魔法使いができることであり、自分は彼等の代用品にすぎない、という。

 誰もが目指し得る究極点。

 基礎能力だけで頂点に立った男。

 特別を排し、凡庸を認め、一切の言い訳を持たない世界最強の平均男性。

 

「レックス・アレンには誰でもなれる。この世のどこにも正義がなくとも、正義の味方には誰だってなれる。俺がいなくとも誰かが意思を継ぎ悪を挫く。せめて後継の者に負担を与えないくらいには頑張るのが俺の正義だ。

──死喰い人じゃ子供が憧れるようなヒーローになれないぜ」

「……憧れ……」

 

 ずきり、脳が痛む。

 ヴォルデモート、いや、トム・リドルの脳裏に浮かぶ粗雑な映像。

 なん、だ、これは?

 そう──あれは──孤児院でのことだったか?

 そこで、確か、トム・リドルは人生初めての絶望を思い知ったのだ。

 

(俺様はどうして闇の帝王になった?)

 

 くだらない理由だった。

 瑣末な出来事だった。

 孤児院のスタッフも、孤児達も、それが起きた後もごく普通に過ごした。

──だけど、トム・リドルだけがその結末を受け入れられなかった。

 自分の中の世界だけが変わったのだ。

 或いは世界を見る目が変わった。

 あの三〇分に満たない出来事が、リドルをヴォルデモートに変えた。

 

 ◼️◼️が◼️◼️した。

 ◼️◼️は◼️◼️◼️◼️と◼️◼️◼️◼️◼️した。

 

 小さな少年の大きな絶望が、やがて彼の悪行の原点になった。

 憧れが怒りに変わり。

 期待が失望に裏返る。

 屈辱だった。愚かだった。馬鹿馬鹿しくて認められなかったのだ。

 

(──そうだ。そうだそうだそうだ。俺様はこの世で最も優れた魔法使いであるが故に世界を支配する運命にあるが……わざわざ闇の帝王などという名称を使用したことには意味があったのだ)

 

 理由はいくらでもあった。

 それが起きなくとも、トム・リドルはいずれヴォルデモートになっていた。

 けれど──彼の根底にある種の信念を抱かせたのは間違いなくあの◼️◼️◼️。

 

(忘れてしまっていたな。俺様が杖を取る理由を……原点を)

 

「……何故俺様がお前に興味を持ったのか自分自身でも分からなかったが、……そうか。あまりにも在り方が真逆すぎて物珍しかったのか」

「俺も、お前とは何か奇妙なものを感じずにはいられないな」

 

 父を受け入れられられず名前にコンプレックスを感じた男。

 父を誰より誇りに思い名前に恥じぬ人間になろうとする男。

 

 自他ともに認める天才で誰もが為し得ない特別を求むる男。

 努力が身を結び皆の憧れた理想を全霊で体現せしめる男。

 

 両者の性質は、補完ができるほどに食い違っている。

 似た者同士、同族嫌悪……そういった枠組みとはまた違った、対照の関係。或いはダンブルドアよりもこの男が、ヴォルデモートの宿敵足り得る存在だったのかも知れない。強さ云々の問題ではなく心持ちの問題だ。

 孤高か、理想か。

 そも、ヴォルデモートがトップであることに意味がある死喰い人と、最強たるアレンがいなくとも組織が回るよう統制された闇祓いとでは抱える意識からして違うのは至極当然のこと……強者はできるだけ配下に加えたい性格のヴォルデモートだがアレンを引き込むことはどうあっても不可能だと心で理解した。

 対するアレンもまた、人生最大の強敵を前にして、どこか心臓は凪いでいた。

 これ程までに正反対の人間と出会うのは初めてだったし、善悪関係なく、興味を敵に対して抱くのも殆どなかったからである。

 

「俺はレオナルド・アレンから貰ったこの名が誇りだ。誇りにかけて倒すとも。魂が選んだ選択だからな」

「悉く共通点の見当たらない奴め。ダンブルドアの方がまだ死喰い人に勧誘しやすそうだ。チャドリー・キャノンズが来シーズンでグランドスラムを達成するくらいの確率だろうがな……しかしそれがいい」

 

 『真逆』を否定すればそれは自らを貶めているのと同義である。

 相容れない精神性、似た境遇。互いが互いのイフであり、故に否定も出来なければ肯定もできない。あるのは正義の押し付け合いのみだ。

 

「いいだろう。俺様に殺される資格はあるとみえる。得難い仇敵よ。俺様の覇道に転がる小石は多々あれど、艱難と認識するのはお前で二人目だ。誇るがいい、レックス・アレン。泥臭く生き土に還るモノよ」

「勘違いをしているようだな、ヴォルデモート卿。賞賛されるべき誇り高き戦士は何人も集っているんだぜ──!!」

 

 大地が割れる。

 砂の柱に打ち上げられる二人の闇祓いによる連鎖爆撃に、ヴォルデモートは魔力リソースを防御に割かざるを得なくなる。闇の帝王をバリア状に覆う防御膜。

 しかし帝王の堅牢なるそれを、アレン達は確実に突破せしめんとする。

 そもそもヴォルデモートの性格からして受けに回らざるを得ないという状況そのものが苛立たしいだろう。万能の死の秘宝ではあるが、闇の帝王の気性とプライドがそれを許さない。あくまで防御を優先していたヴォルデモートだが、攻勢に回らんと杖の本数を増やそうとする瞬間が必ずある。

 

(地中から現れた闇祓いは……ふむ、アラスター・ムーディーにセブルス・スネイプか。成程、ムーディーの義眼であれば全方位からの攻撃にも対応し得るし、スネイプならば早撃ち魔法で数の暴力にも対応できるというわけか。

 だが、それが何になる。アレン、貴様は援軍を呼んだつもりであろうが、大きな間違いだ。足手纏いが増えただけよ)

「『虚の震天』、更なる杖を──」

「──そこだッ!!」

 

──衝撃。

 天より飛来する隕石を、しかしてヴォルデモートは避けられなかった。

 隕石といっても、その大きさは小石程度のもの。飛距離と加速力に重きを置いたアレンの岩魔法──その初歩も初歩という石の魔術。

 その小石がバリアを破り、帝王の頭部へとダメージを与えた。

 直感か、寸前で魔力探知・防御が間に合ったのか、はたまた千里眼でも持っているのか。小石の強襲はヴォルデモートの耳を切り裂く程度に終わったが、帝王の憤怒を煽るには十分すぎる程の威力は持っていたようだ。

 だらりと垂れる血を忌々しげに振り払う。

 

「……俺様に頭を下げさせるか?大きく出たな、塵どもが!」

(頭部に衝撃を受けたのに杖の攻撃は止まらなかった。つまり本人操作ではなく自動操縦ということ……加えて、ヴォルデモート本人や魔力探知も追いきれない程の速度で攻撃すれば、あの包囲網を突破できる!)

(そして俺様の包囲網の隙を突ける人員など限られている!)

「「──スネイプ!!」」

「気安く、呼んでくれるな。不愉快だ」

 

 虚の震天の最大の長所は、何と言ってもその数量である。

 であれば欠点も表裏一体、その量こそが欠点なのだ。要するに──数が多ければ多くなるほど杖一本当たりの威力と正確性は落ちていく。凡そ百を越えた辺りでその欠点は覿面に現れていた。

 この点に気付ける者は少ない。何故ならば単純に大抵の相手は『杖が展開する前に本体を攻撃する』という手段を取るからである。如何に王といえども、暗殺となれば対抗手段は限られてくる筈。

 事実、エミル・ガードナーによる遠距離射撃も案に入ってはいた。

 だが人員の都合や、アレンが近くで守れないことのデメリットが勝るのだ。アレンから離れた位置で狙撃するにしても位置を特定され広範囲攻撃をされてしまえば分が悪い。かといってアレンと近い位置で戦うとなれば当然、乱戦に巻き込まれて遠距離狙撃の効果は半減だ。

 無論、エミルならば如何な状況においても能力を発揮してくれるだろうが、相手はヴォルデモートである。それ相応の対策を取らねばなるまい。

 

(故に!防御性能の高いアレンのすぐ近くで早撃ちを行うというわけか。俺様の虚の震天を防ぎ切れるのはお前の砂の防壁くらいだものな!アレンを軸にして視野の広いムーディーと攻撃力と速射性のスネイプ──ふん、俺様対策はしっかり練ってきてあるようだ)

「──フリペンド!!」

「喰らうか!!」

「くッ、スネイプ、お師匠!もっと魔力を回してくれ!」

「分かっているわ殺すぞ!!」

「話しかけるな殺すぞ!!」

「仲が良くて何よりだぜ!!」

 

 ヴォルデモートは今、使用している杖の八割ほどを攻撃に費やしている。

 それは必ずしも最適解ではない。あくまで安全性を考慮するなら、いつものように攻撃は六割程度に留め、残り四割を防御に費やしてしまえば、最早個人では手の出しようがない磐石の布陣となる。その状態で相手の魔力切れまでゴリ押すのが最も確実な勝利法。

 それを『攻撃は最大の防御』と言わんばかりに攻撃に割いているのは、先程の不意を突いた小規模隕石が原因だ。要するにアレン達が防御に回らざるを得ない程に弾幕を張れば、先刻のような小細工をかける余裕もない、というもの。

(さっきのようなくだらん一発芸などもう許さん──!!)

 アレンの狙いはそこにあった。

 バリアを突破する小規模隕石が通用するのは、ヴォルデモートが油断している間だけであろう。だから──逆にそれをブラフに使う。

 

(小規模隕石は一つじゃない。何十個も上空にキープしてある!アレの脅威を帝王は身を持って理解した、時間差で墜落させて意識を防御に向けさせる!)

(そこが、儂等の攻め込む隙だ!隙はなければ作るもの!油断大敵!)

(リリーへの償いはここで果たす!覚悟しておけ闇の帝王よ……!!)

 

(──待て。いや待て、本当にこのままでいいのか俺様よ。奴等は何かを狙ってきているぞ。逆に狙って来なければおかしいまである。相手は俺様だぞ?結果的に勝つのは俺様だが、一応連中も何かしらの策を講じてはいる筈。──いくつか推測はできるが断定はできん。俺様が取るべき行動は──)

「──もう一段階上の領域を目指す!学ばせてもらうぞレックス・アレン!!コツを掴もう──防御は最大の攻撃なり!!」

 

 ヴォルデモート卿、乱心。

 全身全霊の十割防御!!

 

「なんッ……」

 ヴォルデモートは遥か上空からの小規模隕石を知覚していた訳ではない。

 それを可能性の一つして考慮することはあっても、対策として取れるのは上空の防御を高めることぐらいが関の山。アレンのそれは指定の時間に指定の軌道で隕石を発生させるというモノで、根本的にどうこうできる代物ではないからだ。

 そしてスネイプという、あからさまなヴォルデモート対策を見せられたことで攻撃に集中せざるを得なくなった。

 だが、敢えて、思考を破却。

 防御全振り体制で、如何な攻撃をも全方位シャットアウト。こんな風に全方位を盾の呪文を張れるのは、それが虚の震天だからである。当然の帰結として、小規模隕石は防御膜に弾かれる!

 その無敵の防御にも一点だけ、防御膜が薄い部分がある──それは、アレン達の斜線が届かない死角──!!

 そこから魔力をジェット噴射、近接戦へと持ち込む!

 

「突っ込んでくる──!!」

「照れるなよ、スネイプ。俺様とお前の仲だろう!?」

 

 アレンの砂の防壁と、ヴォルデモートの防御膜の削り合い。

 魔力を噴射させながら飛び回る絶対無敵の魔力バリアは、さながらピンボールのようであった。これはまずい。先程までの本体は動かない攻撃と違い、常に高速移動で動きが追えない──!

 

「いや、儂の義眼ならば追える!お前は砂の防壁の衝突部分を瞬間的に強化するのだ!スネイプ!フリペンドの応用で乱気流くらいはできるだろう!?」

「できる!!」

「やるぞ!!」

 

 スネイプとムーディーの二人がかりで嵐を巻き起こす。

 それは砂嵐だ。ヴォルデモートの視界が塞がれ、位置を見失う。

「ふむ──」

 されど、ヴォルデモートは、更なる成長性を見出していた。

 発想の転換。魔力の根源到達!

「──こうか?」

 

 一転攻勢、防御反転!

 一秒にも満たぬ時間での十割全開全方位攻撃!

 使用していた魔力を、杖を、敢えて攻撃にのみ特化させることで、ヴォルデモートを基点として周囲一帯が魔力により捩じ切られ薙ぎ払われる。

 アレンの防御壁もまた、その被害を甚大に被っていた。

 防壁の衝突部分が自動で威力を逓減させたものの──アレンの砂という砂が消費されていく。杖持つ右手はそれこそ紅蓮。アレンの杖が悲鳴を上げる。

 何とか凌ぐが、しかしアレンは砂を維持出来ず、地上へと墜落してしまう。

 対して優雅に舞い降りる闇の帝王はこれ幸いと勝負を決めにかかる。

 

「ありがとうレックス・アレン。良いインスピレーションが沸いたよ!

 真・死の秘宝、第二神器──」

「いかん!!止め、」

「『神託の庭』!!」

 

 神託の庭──

 視界が白黒反転する。

 それはヴォルデモートが『完成しているが永遠に未完成』と称した神器。

 時空間魔法に種別される、されど精神に影響を及ぼす究極の対人兵器。

 彼が展開した庭の中に取り込まれた者は須く『動きが止まる』。体内時間が停止して、指一本動かなくなるからだ。何故ならば、ヴォルデモートが殺してきた者達の怨念が、彼等の脳髄を駆け回るからである。

 これがただの精神汚染であるならば幾多の死を乗り越えてきた闇祓いや騎士団達には然程効果は無かっただろう。けれどこれは時空を越え与えられる情報であり体感時間を停止させる効力も孕んでいるためガード不能だ。

 怨嗟に対する認識などどうでも良い。爆音を至近距離で聞かされれば耳を塞いでしまうように、精神を意識的に遮断させて縛り付ける。

 

(人体、生体、霊体問わず、心ある生き物全てに効く時間停止!怨嗟がおよそ無窮の懺悔を強制させ、何も出来なくなってしまう神器だ)

 

──しかしあくまで生き物の時間を停止させるだけであって、世界の時間を止めるわけではないこと、庭の発動中はヴォルデモート本人の魔力が練れなくなってしまうこと、インターバルがあること、そして停止した時間分だけの跳ね返りがあること──

 それらデメリットを差し引いても、今発動すべきだと魂が叫んでいた。

 いつまでも止められる代わりに、範囲・秒数に上限がない故『完成』がない。

 それこそが、対人最強の神託の庭。

 

「──勝った、な。っくく……お前達の停止時間は九秒、停止が解けると同時に俺様も九秒間止まらねばならん。しかしお前達が死ぬならその心配はせずに済むというわけだな!」

 

 魔力が練れなくなり、虚の震天を維持出来なくなったヴォルデモートは、直接殺さんと地上を歩いて行く。地に伏すアレン達を嗤うように、地上の戦士を讃えるように。足音が死を告げるカウントダウンのようだった。

 かつん、かつん、かつん──

 静まり返る戦場に、乾いた音だけがやけに響き渡った。

 にやりと、優越の笑みとともに右手を振り上げて──

 

「──フリペンド!!」

「がッ、あ──?」

「セクタムッ、センプラ!!」

「き、さま──スネイプ!何故……!?」

「何の話だ!!」

 

 瞋恚をもって、蝙蝠の男を睨め付く。

 原理は知らないが神器を破られた。その事実に腑が煮えくり返りそうだった。

 対するスネイプもまた、神器を打破したという実感はなかった。気付いたら帝王が近くにいたので、取り敢えず魔法を撃ち込んだだけだ。先刻の、肉体が止まるかのような奇妙な違和感は何だったのか知る由もない。

 偶然に偶然が重なった結果だった。

 スネイプが高度な閉心術師であり、ヴォルデモートの攻撃が精神に干渉するものと察知して、半ば瞬間的に精神を事前に防御したこと。だが閉心術でも神器を突破することは叶わない──

 しかしスネイプには、怨嗟の声の中に混じる、紅い女の面貌を捉えていた。

 彼女もまたヴォルデモートに殺されたモノであり、愛してやまない女性。

 怨嗟を全て聞き流し、無我夢中でその足跡を追ったことで、何とか脱出できたというだけのことだ。

 その代償は大きい。魔力はがりがりと削られて、精神は摩耗しひび割れる。

 スネイプの寿命は一気に削れたろう。

 だが──

 

「お前がそれで死ぬのなら、最早それに勝る喜びはリリーのみだ!!」

「何を言って──ッ、がァァ!!」

「照れるなよ。私とお前の仲だろう……!!

──セクタムセンプラァアアアア!!」

 

 まずい。肉体の損耗が激しい。

 虚の震天か、もしくは第三神器を使用して防御せねばなるまい。

 そうするためには第二神器を解く必要がある。であればアレン達の解放は免れない。いや待て。落ち着け。神託の庭を途中解除することで、アレン達への時間停止はなかったことになりこの身への跳ね返りも最小限で済む筈。

 であれば、虚の震天をフル活用すればスネイプごときすぐに殺せる。

 それから段階を追って殺していけばいいだけの話だ──!

 

「解除!!第一神器──」

「『ハスタム・エクスティンクティ』。よく持ち堪えたのう、皆んな」

「ダンブル、ドア……!!」

 

 ヴォルデモートの咄嗟な防御は果たして攻を奏した。

 あの髭野郎──あの老ぼれめ。グリンデルバルドを倒してここに来たか!

 畳み掛けるように、砂塵が舞い帝王へと押し寄せる。何なく躱すものの、ここに来て、ヴォルデモートは自身が荒い呼吸をしている事実に気付く。

 マジかよ。窮地に陥った。

「いや、愉しんでいこう!」

 闇の帝王の基本原則。全霊でこの世全てを睥睨し侮蔑し尽くす。愚者どもの滑稽さに腹を捩らせるべきだ。愉しむためなら大罪すら侵そう。

 逆境にこそ愉悦を求むるのだ。何故なら不自由こそ苦痛であるからだ。

 通用しない、効かない、何もできない意味がない──それは不自由。

 何なら効く?何が通じる?今俺様にはどんな可能性がある?──それが自由。

 自由にこそ勝利を求めよ。

 

「ここが限界値ならば──俺様は更にその先を往くだけよ」

 

 虚の震天──それはもう一段階先の形態へと移行する。

 あくまで変化だ。応用に過ぎない。けれどそれこそが可能性への発端。虚の震天で出した幾百もの杖を、敢えて一点に集中して一本の杖にする。

 最初から一本の杖を出すのではなく、他全てを犠牲にすることで得られる真理の果て──それが、『虚の哀哭』。

 されどダンブルドアがヴォルデモートの攻撃に対し受けの姿勢に回ったのは、フォークスがいたからだった。二つの影は合わさり──

 死が交差する。

 心臓が貫かれる。

 互いに少なくない消耗だった両者の激突は、かくも早い段階で決着へともつれ込もうとしていた。分があるならば、死をも厭わぬダンブルドアの方が、より深く肉体を抉っていた。けれどヴォルデモートもそれは承知の上。

 

「──ゾンビかお主は。どこにそれだけの元気があるのじゃ」

「殺した、とでも思ったか……?第三神器の効果だよ……!!」

「まあ、予測は、しとったよ。けれどこれでもう動けまい、トム」

「────ッ!?」

 

 不死の焔が帝王を縛り付ける。フォークスの無限の拘束だ。

 そして限界を迎えていたのはヴォルデモートだけではなかった。

 闇に光差す派手な金髪の男が、ふらふらとした足取りで立ちはだかる。

 人生初の魔力枯渇、体調が悪い中で神託の庭をその身に受け、常人であれば最早立ち上がれぬ程の消耗。それでもアレンは立ち上がる。歩みを止めない。

 ムーディーに支えられながら、なけなしの魔力をそれでも絞る。

 世界の悪を、正義は殺す。

 

「いけるか、レックス」

「いけます、お師匠」

(どこまでも──つくづくな男よ。俺様が立ち上がるなら、また同様にお前も立ち上がらねばならん。曲がりなりにも死を知覚したことで抱いたのか、新しい世界への扉の鍵を)

「──だが。俺様を殺したくば、それはダンブルドアを殺すということに他ならんぞアレンよ!やるというのか?宿業に身を堕とす覚悟はあるのか!?」

「あるさ」

 

 アレンは即答した。

 

「俺だけじゃない。皆んなそうだ。舐めるなよヴォルデモート、ここに集ってくれた人達の覚悟の重さを。──いくら怖くても怯えても、不死鳥の騎士団は死ぬことから逃げなかった人の集まりだ。

 お前の価値観を否定はしないが、同時に許しもしない」

 

──まだ、レックスが子供の頃の話。

 闇祓い達に、父に、死ぬのは怖くないのかと聞いたことがある。

 それを聞くと彼等は笑った。いつ死ぬかなんて誰にも分からないものだ。いつまでも続くと思っていたものはある日簡単に壊れてしまうものだ。

 だから──価値を求めるのだ。

 明日死のうが、百年後に死のうが結局は変わりはしない。

 どうせ死ぬんなら、俺達は今を精一杯生きたい。

 じゃあ、どうして命を助けるの?と大人に聞いたら……生き甲斐ってやつが見出せない人がこの世にはいる、俺達はいいけどその人達が死ぬ時に胸張って生きててよかったって言えるような世の中にしたいから……そう言った。

 

「そのために生き抜いてやる……魂を屈服できると思うな、ヴォルデモート!

 これが!俺達の、生き様だ!!」

 

 ああ──

──託せる。

 

「──レックス・アレン」

 ダンブルドアは、消え入りそうな声でそう言った。

 

 

 

「頼む」

 

 

 

 大地が軋んだ。

 地上が唸った。

 岩があり、砂が舞い、木が燃え、熱となり炉心は完成した。

 翠と蒼の星の創生が超速で行われ高速回転し、命が生まれ梵天が死ぬ。

 それ全てのエネルギーを収束。

 形となるは最強のそれ。

 天下無双の咆哮をを上げて、壊劫が牙を剥く。

 

「頼まれたよダンブルドア。貴方ごと帝王を殺すぜ。怨むなよ」

「怨むものか。ありがとう」

 

──骨身の竜。

 現れる絶対の破壊神は、かつて少年だった頃に夢見た最強生物。

 古代生物・ティラノサウルスの骨が絶対防御を身に纏い顕現せしめる。

 そこには、確かな暖かさがあった。

 凶暴なりし骸竜であるそれには確かに幸福と祝福が渦巻いていた──。

 

「……守護霊の呪文……!?」

「──守護神とでも呼んでくれ」

 

 優しき兵器は地を揺るがして、至高へと至る。

 

 

 

 二人は激突した。

 空だけが、その決着を見ていた。

 




次回、プリンス編最終話です。
7月31日はハリー・ポッターの誕生日。それに合わせた重要話を投稿予定です。お楽しみに。
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