シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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先に言っておきます。
今回きついです。


2.シェリー・ポッターと厄災の訪れ

 

(まずは、情報収集だ)

 

 シェリーの決意と準備は早かった。

 まずは何としてもイギリスに行かなければならない。が、これはウイ爺に任せるとしよう。箒に乗ってグレート・ブリテンまで飛行するのは体力が保たないし、夜の騎士バスや移動鍵を使うにしてもそもそも場所を知らない。素直にウイ爺達に連れて行ってもらおう。

 

 次、持ち物確認。

 ニュートとかいう魔法使いが使っていたというトランクを真似して、ポーチに空間拡大の呪文をかけて、必要なものを収納していたのだが、紛失しているものもあるので一度確認しておかねば。

 

 杖──ヒイラギ、二十八センチ、不死鳥の尾羽根が一枚入っている。

 透明マント──しっかりポーチの中に仕舞ってある。

 クリムゾンローズ(箒)──無い。

 忍びの地図──無い。

 

 ……ああそうだ、クリムゾンローズは魔法省の戦いの時に、逃走手段を封じるためとか言ってオスカーに折られてしまったのだった。嫌なことを思い出した。

 忍びの地図は、ホグワーツを出る時にパンジーに手渡した。あの後、風の噂でホグワーツで戦いがあったと聞いたが、役に立っただろうか。

 こんなところか。忍びの地図でホグワーツの状況を知れないのは残念だが、必要なものはきちんと揃っている。マントはこれから必要になることもあるだろう。

 

 そして最も重要な──戦闘勘が鈍っていないかどうかの確認。

 不死鳥の騎士団と合流できたところで、死喰い人と戦える力がなければお話にならない。足手纏いになるためにイギリスに行くわけではないのだ。シェリーは近くの森で食糧を採るついでに、魔法の訓練を行うことにした。

 

「──フリペンド!」

 

 白樺の木に目掛けて呪文を発射する。バコン、と風穴が開いた。

 威力、速度、ともに問題なし。

 命中精度は……まあ、これは前から苦手分野だったので仕方ない。正確に狙撃するのはエミルやタマモの仕事だ。どうせ近寄って乱射するしかできないし……。

 それにしても意外だった。前と殆ど変わりない状態で戦えるだなんて。

 心がまだ戦場にあるということなのか……いや、今は素直に喜ぼう。

 

「ブランクが無いのは良し。けれどパワーアップした訳でもないんだ。ベガやハーマイオニーなら新しい魔法の一つくらい覚えている筈……この早撃ちも紅い力の幹部の戦いじゃ通用しなかったんだ。せめて何か進化しないと話にならない」

 

 とは言うが。

 ホグワーツを五年で中退した身分の彼女にはそんな知識はない。

 

「……ハーマイオニーがいればなあ」

 

 道すがら魔法の教科書なり本なりを手に入れて、何か使えそうな魔法を習得するしかないだろう。もっと真面目に授業受けとくんだった……。

 紅い力も、使えば使うほど寿命が削れてしまうのなら温存するしかない。

 紅い力の幹部との戦いでは必要不可欠だろうが、魔法の練習でおいそれと使っていい代物ではないだろう。……ううん、ヴォルデモートの悪意が光る!

 いや、頑張ろう!

 できることを、できるだけ頑張る!

 

「──未来のために!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────え?」

 

 戻って来ると村は焼けていた。

 夥しい死臭が村全体から漂っていた。

 テントは倒され、人々は死体となり、つい数時間前まである筈のものがなかった。

 そこは、およそ村と呼べるものではなくなっていた。

 雲の代わりに──暁の空に上がっていたのは闇の印だった。

 

「……死喰い人……なん、何で……誰かッ、誰か無事な人はいないの!?」

「ゥ……ァ……」

「!ウイ爺……!!何があったの!?」

 

 息も絶え絶えに、ウイ爺は血を吐きながらも口を開く。

 ……酷い怪我だ。腹部に深い裂傷が刻まれている。少し村から外出している間に、こんな……。こんなことが……。

 自分のいないところで、また……!

 

「ぐッ、ああッ、死喰い人だ……死喰い人がやって来て村を蹂躙した……儂らは懸命に戦ったが力及ばずで……子供達を連れ去られてしまった……」

「子供達を……?」

 

 そういえば、大人の死体はあるのに子供の死体はほとんどない。

 連れ去る……何のために?何が目的でこんな所までやって来たのだ?

 いや、今は子供達を救うのが先だ。

 

「死喰い人達は北へと向かっていった……たの……む……儂はもう助からん……あの子達を助けてやってくれ………」

「ウイ爺ッ、…………」

 

 瞳から光が消えたのを見て、シェリーは忸怩たる想いに囚われた。

 また守れなかった……また……!

 心に暗雲を抱えて、シェリーは覚束ない足取りで北へと向かう。

──雪が降ってきた。

 眠りに落ちる前、スネイプと共に過ごした最後の数時間も雪が降っていたなと、呆けた頭で考えた。……ああ、今は思考にさえ質量を感じる。頭を空っぽにしなければ到底進めやしない。

 歩いて、

 歩いて、

 歩いて、

 

「…………あった」

 

 人の寄り付かなさそうな洞窟。

 熊の巣にしては大きすぎる、巨大な穴の中から、異様な魔力を感じる。

 間違いない。死喰い人はあそこに子供達を連れ去ったのだ。

 透明マントを頭から被り、最小限のルーモスを唱えて洞窟の中へ潜入する。

 

(普通、こういう拠点には人避けの呪いをかけているものだけど……そういった痕跡もないし、何というか色々とお粗末だ。雪に足跡は残ってるし、何か引き摺ったような跡はあるし……素人の私にも分かるくらい何かあるって思わせる)

 

 罠……いや、単に馬鹿なのか。

 場当たり的犯行で、自分達が襲われる可能性を考慮していないのか。

 有り得る。死喰い人は今やヨーロッパ全土を震え上がらせる組織にまで拡大しているのだ、慢心して、防衛に気を配っていないというのは有り得る。

 それにしても──長く巨大な洞窟だ。

 壁伝いに進んでいくのが良いだろうと、手探りで探して。

 

 べちゃり──そんな音がした。

 

「…………!んぐッ」

 

 咄嗟に杖を向けて、それが何なのか理解した。してしまった。

 子供、だ。

 

 シェリーはこれまで何度か死体を見た経験がある。

 セドリック、ローズベリー、ブルーベリー、シリウス、スネイプ、ウイ爺。彼女が自分のすぐ近くで生の死体を見たのはその六回だ。

 六回ともなれば、慣れはしないが受け止め方は違ってくるというもの。

 心に傷は負うけれども、不意に傷つくのと、痛いと分かっていて傷を負うのとでは大分違うのだ。ましてやこのアジトに来た時点でシェリーは覚悟していた。もしかするともう駄目かもしれない、と。

 その筈だったのだ。

 だが──見よ、この悪意極まる人を人とも思わぬ惨状を。

 ここにあるのは死体ではない。生きる屍を使った玩具の数々だった。

 

 矮躯には用途すら判らぬ器具がごちゃごちゃと“縫い付けられていた”。

 気持ち悪い音を立てて、肉と骨を使った楽器がひとりでに音を奏でている。

 丹念に丹念に、作者の創作意欲をぶち撒けられた残骸がここにはある。

 辱められ、

 穢され、

 拷問の跡すら見える。

 なのに、死ねない。死ねないのだ。

 スプラッタ映画に出てきそうな、グロテスクな映像を生で見て……シェリーは嫌なものが込み上げる感覚を味わった。

 

(──ッ、この人達は、確かにあの村の人達だ)

 

 理解が追い付くと同時、これをしてのけた人物に対しての、言いようもない感情が湧き上がる。

 それがただの死体であったならば、シェリーの精神はこの惨劇を『最低の所業』

という風に許容できただろう。どれだけの数の屍があろうと、どれだけ人体からかけ離れた姿になっていようと、決して立ち止まるまいと決めていた。

 だが現実はそうではなかった。嫌悪だとか忌避だとか、そういう生易しいものとは一線を画したおぞましき衝撃がシェリーの心をがつんと殴りつけた。

 

「……ぁ、エトワール、カノ……ルーシー!……サルパトーレも、サティもリリアもイヴも……!こんな、……酷すぎる……」

 

 見知った子供達が、こんな……命の尊厳を靴底でぐちゃぐちゃに愚弄されたような姿になっている。たかだか数日一緒にいただけだけれども、それでも……いや、だからこそ胸の痛みは大きくなる。

 助けてあげたいと思うけれども、肉体には高度な術式が施されて保護されているようだ。ここで介錯するのは簡単だが奥にいるであろう死喰い人達にバレてしまう。

 ……いや違う、シェリーは殺すことから目を背けた。

 トラウマが、呼び起こされる。

──大丈夫、大丈夫、すぐに、すぐに死喰い人を倒すから。そうしたら……この魔法も解ける筈だから……。

 

(……っ、ごめんなさい、ごめんなさい、無力でごめんなさい……!

 村民をわざわざ攫って、こんな、こんなことをして──、何が楽しいの……)

 

 この屍山血河を生み出した人物を野放しにしてはいけない。

 崩れ落ちたい衝動を抑えて、それでも彼女は脚を止めなかった。

 止めなくてはいけない、そう思った。

 血風吹き荒ぶ赫い洞窟の中を、先の見えぬ地獄を、マントを被って、杖先の光を頼りに進んでいく。

 その様相はまるで、罪人が地獄を巡り懺悔でもするが如きだった。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の河を渡り、血風を越えた先に、ようやく終着点が見えた。

 それなりに広い場所のようだ。蝋燭が灯されていて、空間全体を照らしている。

 ……酷い臭いだ。先程までの通路もそうだがここはもっと酷い。おそらく、あの作品はこの空間で作られているのだろう。

 と、蝋燭に照らされて、二人の男が話しているようだ。

 シェリーは物陰に隠れ、マントをしっかりと着込み、杖の灯りを落とした。

 

(ここからじゃよく見えないな……声だけでも……)

「村を一つ見つけたと思えばやることがそれか、スカビオール」

「ふふ、そう言うな。前までは死こそ芸術だと思っていたが、最近は殺さないアートに目覚めたのさ。俺の創作意欲を試す良い機会だったんだよ」

(……スカビオール……?)

 

 シェリーが知らないのも無理はない。彼はここ数年で力をつけた死喰い人だ。

 スカビオール──“人攫い”を生業とする下衆な悪党である。

 人攫いとは、マグルや反ヴォルデモート卿を掲げる魔法使い達を調査して、闇の帝王の前へと差し出す賞金稼ぎのようなもの。グレイバックも幹部になる前はもっぱら人攫いの仕事をメインに活動していたと聞く。

 ただ、グレイバックには悪癖として人を必要以上に痛ぶる趣味があった。人攫いの領分を越えて遊び過ぎる癖があるためだ。

 

「だが俺は違う。仕事は真面目にキチッとやらないと気が済まないタイプなんでな、ちゃんとノルマをこなしてから遊ぶようにしている」

「…………まあ、仕事をするなら何も言うことはないが。随分と退屈な趣味もあったもんだな」

「クク、最高幹部殿は芸術はお嫌いかな?マクネアの阿呆は死こそが芸術などと宣っているが私に言わせれば“生かさず殺さず”!そのバランスにこそ美しさがあるのさ。だからこうして肉体は生かしたまま末端から殺していくのさ。ふっふっ!まさか偶然子供の多い村を見つけられるとは、まるで仕事帰りに美味い酒呑み屋を見つけたような気分だよ」

 

 ……最低だ。最低すぎる。

 あんな所業を、このスカビオールとやらがやったというのか。

 許せない。度し難い。生かしておくことすら憚られる。

 どうせマントを被ってこちらの居場所は分からないんだ。背後から不意打ちの一つくらい喰らわせてやろうか……!

 

「まあ、いい。スカビオール、シェリー・ポッターを見つけたら直ぐに僕の所に連絡を寄越すんだぞ。良いな、父さんや他の幹部には黙ってるんだぞ……」

「それは構わないが……そんなにも警戒すべき相手か?」

「仮にも紅い力持ちだぞ。それに……」

 

 

 

「あの“姉”は、僕が決着を着けないといけないからな……」

 

 

 

(──まさか、彼は……!)

「チッ。ここじゃ食事をする気にもなれやしない。僕は帰るぞ」

「お達者で。俺はもう少しここで楽しんでいくので……!」

 

 くしゃくしゃの黒髪で、額に稲妻の形の傷がある、眼鏡をかけた少年。

 間違いない。シェリーの唯一の弟にして倒すべき宿敵。

 ハリー・ポッター……。

 彼は用事が終わったと言わんばかりに姿現しをして消えていく。最後までシェリーの存在には気付いていないようだった。

 

(正直言って、ここからいなくなってくれたのは助かる……ここで紅い力の幹部と戦うなんて流石にキツ過ぎるし……今はスカビオールを倒すことだけ考えよう……)

「──ふぅ。やれやれ、あの御方に創られただけの人形が舐めた口を利きやがって。まあいい、仕込みは終わった!作品作りに取り掛かるとしよう!」

(……作品、作り?)

 

 ……まさか。

 スカビオールにとって先程までの通路に置かれてあった子供達は、ただの加工された素材でしかなく。これからまた加工していくつもりだったのか?

 彼等に、更なる苦しみを与える気なのか?

 

「活きの良い子供が沢山いたからなあ。解剖して別の肉を詰めよう。拷問して血管を適当に結ぼう!ククッ、ハハハハ!仕事が終わりにアート作品を作るのはいくつになってもやめられん──」

「──何を……言ってるんだ……」

 

 ぽす、とマントが落ちた。薄布の下に隠されていた怒りが露わになる。

 芸術家気取りはようやくシェリーに気付いて振り返った。

 

「──!!シェリーッ、」

「うあああああああああああっ!!」

 

 ポッター、と続けようとした男の顔を、慈悲もなく殴りつける。

 感情は無かった。ただ、この屑は殴りつけなければならないと思った。

 怒りよりも、嘆きが勝っていた。なにが芸術だ。なにが美しいだ!

「ぐぎゃっ!?や、やめ──」

「こんなことの──」

 何度も殴りつけて、拳に血が跳ね返る。

 気持ち悪い。スカビオールも、こんなことしかできない自分も、何もかも。

 

「こんなことの何が楽しいの……!?」

 

 虚しかった。

 拳はとても軽かった。

 大義も何もない、感情をぶつけるだけの音だけが響いた。

 

「人をいたぶって……酷いことをして……こんなの何も楽しくないじゃんか……これが復讐……?こんなものが……こんなことの為なんかに私は……?」

「ガッ、死ねっ死ねぇ!!アバダ、」

「いいよ、もう、そういうの……!!」

 

 腕を殴り、杖を弾き飛ばす。

 理解できない存在に、ただただ鬱憤を吐露した。

 

「心底くだらないよ……!!何なの……!?何でこんなことを楽しいと思える感性があるの……!!友達と遊んだり勉強したり、そんなくだらないことを何で楽しいと思えないの……!!貴方達の酷い理屈にはもううんざりだ……!!本当に、本当に本当に最低だよ!!こんな……こんなことがあっ!!」

 

 もう一度殴りつけると、スカビオールは意識を失った。

 拳の振り下ろし先を見失った。これ以上何に怒ればいいのだ。これ以上、何に苦しめば良いというのだ。

 呪文も使わず、必要以上に痛めつけた自分に吐き気がする。自身の感情を暴力でしか訴えることしかできない自分は、結局はこいつらと同じ穴の狢なのか──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽたっ。

 

──血の落ちる音がした。

 何処から?スカビオールからではない。奴は地面に伸びている。

 もっと高いところから血が落ちた。

 嫌な予感がした。

 嫌な予感がした。

 嫌な予感がした。

 けれどシェリーは無意識に、そして反射的に上を向いた。

 そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、」

 

 マリィ・リエットがいた。

 腸がくり出されていた。それはまだ生きていた。血で化粧を施されていた。それはまだ生きていた。腸という腸を伸ばして蝶々結びにしていた。それはまだ生きていた。身体中を貫かれていた。それはまだ生きていた。顔面が切り刻まれていた。それはまだ生きていた。殴られた箇所があった。それはまだ生きていた。苦しんでいた。それはまだ生きていた。可哀想だった。それはまだ生きていた。それはまだ生きていた。それはまだ生きていた。それはまだ生きていた。それはまだ生きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぅ──ぇ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 “たすけて”

 

──墓場の時と、かさなった。

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 シェリーは脇目も振らず駆け出していた。

 アレがマリィであると信じたくなかった。

 洞窟内の景色をもう一瞬でも見たくなくて逃げ出した。

 渇いた息を吐いて、たちまち肺が凍りつく。躓いて、雪原に転がる。

 呼吸が荒くなる。

 なんで。なんでなんでなんでなんでどうしてこんなことに。

 あんなモノがあっていい筈がない。マリィがあんなモノになっていい道理はない。あんな人の尊厳を踏み荒らすような、肉という肉を繋げたおぞましい、おぞ──

 

「──!ォェッ、ッ!ァァ」

 

 思考を吐瀉物とともに吐き出す。

 考えたくない。

 考えてはならない。

 あの、あの──ああ、駄目だ。

 真っ白な雪原の上で一人、慟哭する。

 

「また──また、また、ああああっ、またたすけてって、あっあ、わた、──あああああああああああ、あああ、ああああごめんなさいごめんなさい、あっ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそにきまってるこんなこと──ああああ!!!」

 

 マリィは、光だった。

 戦乱の中にあって、希望を見失わない光だったのに。

 優しい子だったのに。

 何であの子までこんな目に。

 何で何で何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。

 

「……何で………何で何で何で何で何で何でいつもこうなるんだよ……!!嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だッ、こんなの嫌だ!!守りたかったのにッ、今度こそっ、……何かしてあげられると、思ッ……っあ、ああああああああ!!!」

 

 髪を掻き毟り、嫌悪と苦痛でぐしゃぐしゃになる。

 涙はとめどなく流れ、止まることを知らない。

 声は枯れて、しかし嘆きは収まらない。

 ただ泣き喚き、無様に悶えることしかできない。それも終わる。疲れ切った肉体は雪の冷たさを如実に伝えてくる。

 あれだけ流した涙すらも、全ては無為に消え去ってしまった。

 ……こうして、消えてしまうのなら。

 ああ──意味無いかもな。

 生きていたって。

 

「……………もう嫌だ……………」

 

 考えることも億劫だった。

 希望なんて、なかったんだ。

 底のない絶望だけがこの世には蔓延しているんだ。

 花を摘むように容易く潰えて消えてしまう程度の存在。

 それが、シェリーが守ろうとしてきたものの正体だった。

 

 

 

──視界の端で、何かが転がった。

 ああ……何だ、自分の杖か。いつも間に落としてしまったのか。

 

 シェリーは杖を取った。

 シェリーは杖をまじまじと見た。

 

 

 

 そこに、死ねる道具があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリーは杖を口に咥えて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱん。

 

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