「オラ、キリキリ歩けッ!」
「…………」
「オラ行くぞ!早く歩けッ!」
「いや普通に歩いてると思うけど……」
「言いたいだけだろ」
ロープに繋がれたスカビオールを引っ張りながら、シェリー一行は雪原の中を歩いていた。日差しはあまり強くない。吸血鬼のクィレルとしてはありがたい天候だ。
「ええと……クラウチ、本当にこっちの道で合ってるのか?」
「何だとテメェ親父と同じ名前で気安く話しかけてんじゃねえぞ!!」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ……」
「えっと、バーティ?これから一瞬に戦う仲間なんだから、喧嘩はやめてね……?」
「悪かったなクィリナス、よろしくな」
「手の平どうなってんだ」
「……何処に向かっているのかも気になるけど……それよりも二人はここにいて大丈夫なの?来てくれたのは嬉しいけど、二人はアズカバンに収監されていたよね」
「ああ、俺達は特例で騎士団に入れさせて貰ってるんだ」
「……えっ!?」
クラウチジュニア、クィレルの二人は元死喰い人。
本来なら今もアズカバンにいて然るべき存在なのだが、シェリーが五年生の時に起きた死喰い人の大量脱獄事件に乗じて彼等も逃げ、死喰い人や騎士団から隠れながら生きていたそうなのだが、ある日ダンブルドア本人がやって来たのだという。
曰く、秘密裏に動く情報屋として動いてくれないか、と。
それが君達に今できるシェリーに対する恩返しだ、と。
(そんなことを……確かダンブルドア先生は魔法省に追い出されて一時期姿を隠してうた時期があったし、その時に勧誘したのかな……)
「俺達は快諾して、行動を共にしながら死喰い人の動向を探っていたが……シェリーが行方不明になったと聞いてな。それからは主にシェリー捜索を行っていた」
「ちなみに私はある日記憶を取り戻して、でも記憶が戻ったのバレたらバッシングが酷いだろうなあって思ってたら机の上に手紙があるのに気付きましてね。何と!ダンブルドアからこの二人を手伝って欲しいという指名の手紙だったのですよ!それでこの二人に加わったのです!」
「へ、へえ……」
「ドビーめは、シェリー・ポッターが行方不明になった辺りで参加しました。厨房の仕事やってる場合じゃねえ!と思いましたし、新人のクリーチャーも入って来たのでスタッフの問題も無さそうでしたし」
「……ごめんね、私なんかに手間を取らせ……じゃなくて、ええと、ありがとう」
「いえいえ!」
そうか……彼等は贖罪や恩返しのために来てくれたのか。
(死喰い人は全員殺せばいいとばかり思っていたけど……クィレル達みたいに、罪を償って更生してる人もいる……罪が赦されるわけでも帳消しになるわけでもないけどその努力を否定しちゃいけないんだ……しちゃいけなかったんだ……)
「しかし、何故そんなに急ぐんだ?確かにシェリーが敵さんに見つかるのは絶対避けたいが、アジトがあの有様じゃ追跡も難しいだろう」
「スカビオールは仕事はキッチリこなすことで評価されてる奴です。そんな彼の連絡が途絶えれば、真っ先に死喰い人の幹部クラスがやって来ることでしょう。その中には追跡タイプの魔法使いもいるかも」
「む……そうか」
「それに、今はまだシェリー復活を例のあの人側に知られたくない。シェリーが生きてると分かれば、幹部クラスじゃ済まない。それこそ紅い力持ちがやって来る可能性だってあるわけですから」
どうやら、死喰い人側の戦力は変わっていないようだ。
紅い力……人を殺すほど強くなれる特集能力。彼等を攻略しないことには死喰い人打倒の目処は立たないだろうが……
「おっと、着いた。ここが、不死鳥の騎士団の支部ってやつだ」
「!わぁ……ここも何か急にテントとか出てきた!」
いつの間にやら雪原の中に見慣れぬ風景が広がっている。
マリィ達の村と同様、村の景色ごと魔法で隠されているらしい。流石にこちらの方が高等な術式を使っているようだが。
入って早々、懐かしい人物と再会した。
マンダンガスだ。
「おぅ、シェリーじゃねぇかよぅ!久しぶりだなぁ。俺に会いたかっただろう?」
「うん。久しぶりだね。……ってまたお酒呑んでるの?」
「聞いてくれよシェリー、パンジーの奴が俺に酒を出してくれなくなったもんで、仕方なくあいつのいない隙を見計って酒を呑むしかなくなっちまってよぅ……」
「──マンダンガス!あんたその酒瓶は何よ!」
そのお叱りにマンダンガスはびくりと身を強張らせた。
シェリーが横を向くと、そこに立っていたのは黒髪の女性だった。
「あれだけ言ったのにまだ懲りてないみたいね!あんたにはスリザリン流の指導じゃないと分からないのかしら……!」
「ひっ!?じゃあよぅ、俺はこれから用事があるからよぅ!」
「あ、待ちなさい!……行ったわね。あのクズ……その内消毒用アルコールまで飲みかねないわね……」
(ん?何か見覚えのあるような……)
どこかであった気がする女性の記憶を脳内検索する。
背の低い、どことなくパグ犬のような顔をした女性は……、
「あれ!?パンジー!?」
「ん?……え?え!?もしかしてあんた、ポッター!?」
「パンジー・パーキンソンだよね!?また貴方に会えるなんて……!」
「あんた……あんた……!!」
感極まった様子で、パンジーは両手を上げてシェリーへと駆け出す。
シェリーは再会のハグを期待して──
「オラァ!!」
「ぐはぁ!」
──思いっきり殴られた。
「シェリーに何すんだこのアマ!!!」
「うっさいわね!ポッター!私はあんたに会ったら真っ先にビンタしてやるって決めてたんだから!!」
「グーだったけど……」
「ポッター、あんたはアンブリッジのとこで例のあの人と何か喋ったと思ったら、急に魔法省に行くだの何だの言い出して!!その魔法省では戦いが起こるし、あんたはいなくなったっていうし!!あれがあんたとの最後の話かって思ったのよ!?こっちの身にもなってみなさいよ!!」
……そうか。パンジー視点だと、シェリーの最後を見たのが魔法省突入直前ということになる。あの時パンジーはアンブリッジのコルダへの拷問やらホグワーツ戦線やらで憔悴していた筈だ。仲の良い相手ではないにせよ、知らない所でのたれ死んでいるのではと戦々恐々だったのだろう。
「──ごめん。心配、してくれたんだね」
「はあっ!?馬鹿じゃないの!?別にあんたのことなんて心配なんかしてないし!!ドラコやコルダがちょっと元気無くしてたから面倒だなって思っただけよ!!」
「それでも──ありがとう、パンジー」
「なっ……、……何!?何見てんのさっきからあんたら!!」
「いや別に……」
「俺達の時もこんな感じだったなあって」
「本当に何の話よ!?手が空いてるなら仕事の手伝いにでも行って来なさい!!」
「はぁい」
「あんたもだからね、ポッター!!」
「うん!」
──数時間後。
一通りの雑事を終わらせたシェリー達は寝所とは少し離れたテントに来ていた。
スカビオールの尋問、である。
いずれアズカバンに投獄するとはいえ貴重な情報源だ、聞けることは今のうちに聞いておきたい。
「シェリーの手を煩わせた報いだ。存分に拷問してやる」
「ドビー、バーティと一緒に外で待っててくれる?彼が面倒起こさないように見張ってて欲しいんだけど」
「分かりましたシェリー・ポッター!」
「そりゃねえぜシェリー!しかも何でよりにもよってこいつなんだ!?ウインキーならともかく、俺を屋敷しもべ妖精と同列扱いかよ!」
「ドビーは自由な屋敷しもべ妖精!自由なドビーは一番の友達を助けるのです!」
「なんだと一番は俺だ!!」
「バーティ?そういう態度は良くないよ。彼に謝って」
「ごめんなドビー、俺が悪かったよ」
(大型犬を躾けているみたいだ)
物凄い勢いで謝られたのでドビーがちょっと引いてる。
さて始めようというところでテントの中に知らないおじさんが入ってきた。
誰?
「何だオッサン?」
「いやね、連れて来た死喰い人が子供達を嬲る趣味があったという話を聞いてね。私も愛する息子を殺された身だ、親として話をと……うん?シェリー!?」
「んっ……?あれ……?あれ!?」
「私だ私!エイモスだ!エイモス・ディゴリー!あの時よりだいぶ老け込んだから気付かなかっただろ?」
「ああ、やっぱり!久し……」
エイモス、彼はセドリックの父親だ。
確か、優秀な息子をかなり溺愛していた記憶がある。墓場での一件の後はシェリーは錯乱状態に陥ったので全然話せてなかったのだが、愛する息子の死に最も近かったシェリーに対して何かしら複雑な感情を持っていてもおかしくない。
……駄目だ。にこやかに再会のハグをしたら怒らせてしまうかも。かといって無視はよくないし、ましてや、私についてどう思っていますか?なんて聞ける筈もない。
「……お久しぶり……で……す……」
すっごいよそよそしくなった。
「うん?喉の調子でも悪いのかな?まあいい。尋問を始めるとしよう」
「尋問、ねェ。何を言うかと思えば。どうせそこの伊達男の魔法で私の記憶を探って終わりでしょう?もしくは真実薬でも使うんですかね。こんな末端の支部に上等な薬があるとは思えませんけど……」
「──黙れ!」
「がはッ」
クィレルはスカビオールの頭を掴んで机に叩きつけた。
仮にも吸血鬼のパワーだ、痛いだろう。
「聞かれたことにのみ答えろ」
「ッ……はいはい」
スカビオールの指摘は概ね正しい。
ロックハートが得意とするのはあくまで記憶の消去。忘却術師としては優秀だが、人の記憶の全てを覗き見できるわけではないのだ。というか、そんなことができる魔法使いも魔法も存在しない。
この支部に憂いの篩や真実薬が無いのも事実だ。どうあっても、力ずくで情報を聞き出す他ない。
……が、スカビオールは驚くほどあっさりと口を割った。
死喰い人の全容や能力、彼が知っている範囲で詳らかに。とはいえ、人攫いとしての仕事がメインの彼が知っている情報に大したものはなかったが。
「随分とお喋りなんだな。うまく騙くらかして何とか切り抜けようってハラか?この情報が間違ってたら後でどうなるかくらい分かりそうなもんだけどな?あ?」
「痛いのは嫌いなんですよ。どうせこれが終わればアズカバン送りでしょう?ヤケにもなりますって」
「……あれだけのことをしておいて、どうとも思ってないの?少しは良心が痛んだりしないの……?」
「ハッ、そんなものはとうの昔に捨て去りましたよ」
「あ?」
クィレルの凄みにも動じず、スカビオールはよく回る舌を更に回した。
「──私達みたいな人間はね、確かに貴方達からしてみればクズなんでしょうけど、私から言わせてもらえば生まれた時からこれが普通で、これが当たり前の環境で生まれてきたんですよ。
私だってごく普通の感性をしてるけれど、それでも例のあの人の軍門に下った。殺人衝動を捨てられない、その一点だけで奴が死喰い人には大勢いる」
「…………」
「あんたに救えますか?彼等が。あんたらが掲げる正義とやらは役に立ちますか」
「──それでも、人を殺すのも、痛めつけるのも、悪いことだ」
「…………」
「君に足りなかったのは良心ではなく、自分と向き合うことだったんじゃないのか。君の価値観は否定しない。だがそれを人に押し付けるな」
「エイモスさん……」
今度はスカビオールが黙る番だった。
エイモスの気迫に押されたのだ。彼は胸糞悪そうに言い捨てた。
「情報を引き出した後は、スカビオールをアズカバンに引き渡してそれで終わりだ。
……シェリー、私はね、罪を犯した人は裁かれるべきだが、必要以上に罵倒するべきではないと考えている。個人的感情は抜きにしても、罪は償うものだからだ。
だから……これで終わりだ」
これまでシェリーは、悪いものは悪いものとして一纏めに処理していた。
人を殺すのは悪いこと。だから人を殺したクソどもは、同等に無価値な存在の自分が全員殺そう。そういう考え方だった。
だが……どれだけの罪があっても、その人を不当に蔑める理由にはならない。どれだけの大罪人であろうと、人なのだ。相応の罰を受けて、それで赦すか赦さないかは被害者が決めること。赦せないならそれでも良いと思う。
かつて復讐に囚われたままのシェリーであれば、死喰い人を倒した後も怨みや憎しみを捨て去ることは出来なかっただろうし理解しようともしなかったろう。
……気付けて、良かった。
「……セドリックがあんなに誠実で勇敢だった理由が分かりました。あなたがお父さんだったからだ」
「……ふふ。私には過ぎた息子だよ」
「──さて、それじゃあ最後の質問です。死喰い人達の足取りはどうにも不規則で掴みにくいですからね。これだけは聞いておきたかったんです」
「……?」
「例のあの人の居場所……“アジト”はどこにあるんです?」
「…………それは、」
質問に答えようとしたところで、勢いよくテントの入口が開かれる。
息早き切ってきたのはパンジーだ。髪がボサボサだ……よほど急いだのだろう。
「大変よ、あんた達!!」
「パンジー……?」
「近くの集落が襲われたって情報が!!ハリーがやったらしいわよ……!!」
「っ、この近くにハリーが……!?」
「最低でも幹部クラスは覚悟していたが、まさか最高幹部とは……!!」
「ハリーはしらみ潰しにこの周辺をかぎ回っているそうよ。ここもいつバレるか…」
ハリー・ポッター。
かのヴォルデモートの懐刀にして最強の毒使い。
これまで何度か相対してきたが、意外にも互いに持てる力を全力で使って戦ったことは一度もない。だがそれでも、彼が秘めた強さは窺い知れた。
間違いなく強敵。逃げるか、戦うなら相応の犠牲を覚悟しなければなるまい。
「本部に連絡して、戦力を送ってもらえないの?」
「ここまで来るのに数日はかかるわよ!ハリーがここを見つける方が早いわ!」
「この支部にいるのは百人余り……逃げるにしたって痕跡は残る。この大人数ではすぐに追手に気付かれるだろう。加えてハリーの毒は集団戦向きだ、下手に動けば全滅も有り得るぞ」
「かといって、籠城するわけにもいかないだろ!ハリーに見つかった瞬間に毒をばら撒かれるのがオチだ!大した設備や道具も無いし、守りに入ればそれこそ全滅だ!」
「……どうしたら……!」
(余計な犠牲は避けたいですが……どうしたもんですかね……)
──ロックハートは、思考する。
ハリーに有効な、“心理”を、探る。
──マンダンガス・フレッチャーは闇に通じている男である。
ダンブルドアは彼のその独自の情報網が騎士団の役に立つと思って、騎士団へと引き入れることにした。だが……生憎と彼は正義や使命感によって動くようなタイプではない。私利私欲、金さえ積まれれば何だってやる人間なのだ。
だから、こういうこともできてしまう。
「それは本当の話か、マンダンガス?」
「あ、ああ、そうでぃ。いひひっ。俺ァ人様に売る情報に関しては嘘をつかねえことを信条にしてるもんでなぁ」
「へえ……よく教えてくれた」
シェリー達が来訪したその翌日。
マンダンガスは襲われたという集落付近へと向かって、彼と合流した。
彼──すなわち、ハリー・ポッター。
眼鏡の下から覗く蛇のような目が、紅い光と共に愉悦した。
「オーケー、マンダンガス。お前の身の保証はしてやる」
「ああ、ああ!それで、約束のカネの話だがよぅ……」
「分かってる。──前金で二十ガリオン。残りはシェリーを殺した後だ」
「おっほほほう!こりゃありがてえ!」
“契約”を終えた二人は笑う。
片方は金が手に入ったことへの喜悦。
片方は狂おしき姉を殺す機会が来たことへの興奮で。
男達は、雪を踏み締めやって来る。
「さあ……案内してもらうぞ、シェリー達がいるその“支部”とやらに……!!」
ハリーは『わざわざポリジュース薬を飲んでジェームズに変身してから戦場に赴く死喰い人』という風に認識されてます。かなしいね。
双子説とか隠し子説とか色々囁かれましたがルーピンの証言により否定。ハリーは見られる度に「あっポリジュースの人だ!」とか思われてるらしいです。
あと、海外での任務が多かったのでジェームズの顔を知る人が見る機会が少なかったり、そもそもハリー自身がシェリーと比較されたくないからポッターと名乗ってないのも関係してます。まあジェームズ二十年前の人ですし……。