シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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5.シェリー・ポッターと神に愛された少年 Ⅰ

 

 

 

──シェリーとロックハートは雪の中を歩いていた。

 仲間達は別行動中だ。目標を見つけ次第、合流する手筈になっている。

 結局、彼女達に残された道は戦いしかなかった。

 対峙するのはこれで三度目。

 しかしこれが最後の戦いになることを暗黙のうちに理解していた。

 

「──久しぶりだな、シェリー」

「……ハリー」

 

 呪詛と怨嗟が込められた声。

 上を向くと──いた。崖の上に、案内をしたであろうマンダンガスと立っている。

 ああ、彼は変わらない。くしゃくしゃの黒髪に丸い眼鏡。顔の輪郭はやや大人びて青年らしい顔立ちへと変わってこそすれ、一目で誰か分かってしまう。

 ハリー・ポッター。

 シェリーの生き別れの弟であり、境遇を共にするホムンクルス。

 互いに、この世界に生まれるべきではなかった異物。本来ならばヴォルデモートという巨悪に立ち向かうシェリー・ポッターという構図が、彼等の存在によって崩れ、一人の赤子を殺すことで生まれた二人。

 ハリーの蛇のような眼が、紅い髪の女をつぶさに睨め付ける。

 

「シェリー、お前との長きに渡る因縁もこれで最期だ……!!

 今殺してやる!!そこで待ってろシェリー・ポッタァアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──エクソパルソ!」

「?そんな遠くから当たるわけグッバアアアアアアアアア!!!!???」

 

 ハリーは爆発した。

 より正確に言うなら、ハリーの下の地面が爆発した。

 

「な──な、んで、」

「エクソパルソ!!」

「ぐあああああああ!!!??これは罠魔法か!?何でこんなものがこんなところに仕掛けられてるんだ!!!」

 

 罠魔法。

 あらかじめ壁や地面に魔力を送り込んでおくことで、術者の合図一つで起爆させることのできる呪法だ。

 まるまと罠に嵌ったハリーはごろごろと崖から転がり落ちていく。

 咄嗟に魔力ガードしたため傷は浅いが衝撃までは消せず、荒い息を吐いた。

 

「くそッ、僕が来るのを知ってなきゃ罠なんて仕掛けられない筈だろ!……いや、最初から僕をこの場所まで誘き寄せる作戦だったというわけか!?……

──マンダンガス!!騙したな!?」

「ゲェヒヒヒヒヒッ!人聞きの悪いこと言っちゃなんねぇよ!俺ァあんたをここまで案内しただけ!ただ、騎士団連中からちっとばっかしカネを貰ってよぅ、罠のことは黙ってくれって頼まれただけさぁ!」

(あのクズ……!)

 

 マンダンガスをハリーの目撃情報の近辺へと送り込み、彼に協力するフリをさせてここまで誘き寄せる。シェリーに執着しているハリーなら、きっと手勢も連れずに一人でやって来るだろうと信じて。

 マンダンガスという、死喰い人に対するジョーカー。

 不死鳥の騎士団でありながら、その軽薄な態度からいくらでも死喰い人に寝返ることのできる蝙蝠男をあえて利用したのだ。

──そしてこの作戦を提案したのはロックハートである。

 

「ふふ。どうですかこの私の素晴らしい心理誘導は!普段の道化たる態度も演技!能ある鷹は爪を隠すと言うでしょう?少しは見返しましたかシェリー!ホグワーツ時代の私も実は爪を隠していたのですよ!」

「別にあの頃のロックハートさんは爪とかなかったけど……腕、鈍ってたよね?」

「…………自分の不利を悟らせないのも戦法の一つです!私というホークは巧妙に、弱った爪を隠していたというわけです!」

「別に隠しきれてなかったけど……」

「ンンンン手厳しい!」

「でも、今のロックハートさんはすごく頼もしいよ。ありがとう」

「────」

「さあ、下がっててロックハートさん。貴方は直接戦闘タイプじゃない」

 

(く、そ──シェリーの奴いつの間にこんな魔法を覚えたんだ!?)

 

 罠魔法とはずばり、仕掛けた本人にしか起動させられない魔法なのだ。

 罠を仕掛けた者と別の人間が起動させることなど不可能。

 だから、今呪文を唱えているシェリーが罠を仕掛けた……ということになる。

 

「いや、いくら罠があろうと関係ない!超パワーで全て吹き飛ばしてやるッ!

──紅い力、解放!!」

「ッ」

「君の小手先の罠なんて通用するか!粉微塵になれェ──!!」

「エクソパルソ!!」

 

 ハリーが唱えるよりも早く、罠を発動して雪を吹き飛ばしての目眩し。

 だがそんなものは一瞬の時間稼ぎにしかならない。

 元より味方はいない、被害など気にせず全力を振るって──……

 しかし、ハリーに魔力弾が直撃する。高速の一撃、最速の早撃ち。

 紛れもないシェリーの攻撃がハリーの腹部を叩きつけた。

 

「な……!?馬鹿な!!あいつは罠を起動させることに集中していた筈……

……いや、違う!!そもそもあいつは罠魔法なんて使ってない!杖の動きや発音はブラフだ!誰か他に起動させてる奴がいるな!?ロックハートか……いや!!」

 

「出て来い!!ボログリム!!!」

 

 ハリーは杖を地面に突き刺した。

 放射状に破壊圧が広がっていく。地面には亀裂が走り、天は震える。

 その衝撃で、雪と風と魔法とで隠されていたモノが見つかった。おかしいと思ったのだ。ハリーが近くにいるのにロックハートと二人きりなわけがない。近くに仲間が潜んでいるのは道理!

 

「君達か……クィレル、クウラチジュニア!そして誰かも知らない屋敷しもべ!

 舐められたものだ、僕を倒すにはあまりにも貧弱なメンバーじゃないか!君の人徳もたかがそんな程度!……だが、僕に曲がりなりにもダメージを通したことに敬意を表して、君達全員全力で殺してやる!!」

「よく言うぜ……あれだけ一方的に攻撃を喰らっておいて」

「そうでもないさ。懸念材料はシェリーの成長がどの程度か、それだけだった。けど新しい魔法を使えるわけでも、能力が向上したわけでもない!!そんな奴が取り巻きの雑魚を何匹連れて来ようが負ける要素は無いんだよ!対してこちらの紅い力は前にも増して強壮だ……!!

──ヴェナムメンディ!!毒流よ!!」

 

 頭に血が上りやすいハリーではあるが、その戦闘勘と技術は並外れたものがある。

 天賦の才能と言ってもいい。戦闘時となれば激しい怒りの中に冷酷なまでの慎重さが同居する厄介な状態となる。今の彼はまさにそれ。

 杖から放つは──液状の毒。触れればその時点で戦闘不能は免れない、恐ろしい厄災が形となって現れる。

 毒で全てを呑み込んでしまおうという算段なのだろう。だがそれより速く、ドビーが高速で“姿を現し”、シェリーとロックハートを抱えて消えてしまう。

 

(っ、あいつ──高速で空間跳躍したのか!チッ、紅い力の恩恵を受けた僕ですら追い切れない程の超スピード!どこだ──)

 

 ばちん、ばちん、ばちん──

 姿現しのスピードが速いドビー、心理的な隙間を突くのが上手いロックハート、単純に能力が高いクラウチジュニア。彼等が中心となってハリーを翻弄していく。

 それらを影にして、一人の男がハリー目掛けて跳躍した。

 弾丸のように飛び出すは、尋常じゃない程の身体能力を誇る“吸血鬼”!

 クィレルの突撃──けれどハリーはそれをものともしない。

 瞬間移動ではない、直線的な移動であれば、対応できるという自負があるからだ。身体能力と、彼についた“嗅覚”がそうさせるのだ。

 姿現しは、匂いの筋が断片的になり軌道を追い辛い。だがただの高速移動の場合、匂いの筋は途切れることはない。その軌道上に毒の弾丸を撃ち込めばいい。

 が。

 クィレルは毒の弾丸を躱す素振りさえ見せなかった。

 

(こいつ……吸血鬼だからって僕の毒を舐めてるのか?見たところ君に毒耐性はないだろう!なのに突っ込んでくるとは……)

「喰らえッ!」

「チッ」

 

 流石に毒の弾丸によろめいたとはいえ、すぐさま体勢を整えて重い一撃を喰らわせるクィレル。紅い力で身体能力が高めたハリーはそれを受ける。元来、紅い力による身体能力の向上は高い方ではない。腕に痺れを感じる。

 いや、それよりもクィレルだ。確かに毒は入った筈、即効性の麻痺毒だ。

 だから効いていないとおかしい。如何に吸血鬼とはいえ、毒を無効化するためにはそれなりの練度が必要だ。グリンデルバルド級ならまだしも、クィレルにそれだけの能力があるようには見えない。

 けれど──少し息を荒げるだけで済んでいるのは、何故だ。

 

「確かに効いちゃいるさ……だが血流を操作して対外に排出しているのさ!血管が焼き切れそうになるがよ……!!」

「馬鹿か……!?そんなことをすればいくら吸血鬼とはいえ、肉体の普段が大きい!命に関わるぞ……!!」

「命なら捨てたよ!闇の帝王に魂を売った日にな!!」

 

 強がってはいるが、クィレルの負担な相当なものだ。

 解毒、というわけではない。吸血鬼としての力が中途半端なせいで、体外への排出という手段しか取れなかっただけ。

 意識をしっかりしなければ倒れてしまいかねない程の激痛が襲う。棘付き鉄球を口から吐き出しているような痛み。再生速度よりも毒の巡りが早いのだ。

 それを、気力で保たせているのはクィレルの底意地に他ならない。

 

「そら──私になんかに気を取られて、我らが大将を見落としてるぞ!!」

「────!!!」

 

 瞠目するハリーは、しかし息つく間もなく背後からの強襲に対応しなければならなかった。ばちん、という独特の衝撃音が響いた瞬間に振り返り、ハリーは咄嗟に盾の呪文を唱えていた。不意打ちに長けたロックハートの一撃は、しかし為す術もなく弾かれてしまう。

 だが、強襲はこれで終わりではなかった。

 気を取られた一瞬。反応してしまったコンマ数秒にも満たないロス。

 それこそが、彼女にとって望むべくもない隙となる。

──彼女の“早撃ち”ならば、依然問題はないのだ──!

 クラウチジュニアに抱えられた紅い髪の女への意識が、一瞬遅れる。

 力を目覚めさせる。

 白い世界に咲く一輪の華──

 

「──紅い力、解放」

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らわしてやれ、シェリー」

 

 それは号砲。

 不退転の意志と、決意を込めた開戦の合図をシェリーは放つ。

 少女から、大人の女性へと成長した彼女の一撃は──あまりに、鋭い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フリペンド!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な一撃。

 神速の魔弾がハリーを撃ち抜き、青年は無様に雪原を転がった。

 

「ごッ……がッ……!!シェリー!!」

「貴方は強いよ。私なんか、遥か及ばないほどに……私一人じゃあ、決して貴方には敵わない。けれど──!」

 

 

 

 

 

 

 

「──皆んなの力を合わせる!!

 勝つのは、私達だ!!」

 

 

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