シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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6.シェリー・ポッターと神に愛された少年 Ⅱ

──誰も僕を見なかった。

 

──誰も彼も、認めてはくれなかった。

 

──どれだけ努力しても、ホムンクルスだから当然とか、紅い力のおかげとか、そういう風に言ってきて。

 

──どれだけ僕を主張しようとも、ヴォルデモートの息子、人形、化物、そういう風にしか認識しなかった。

 

──僕を見る時、人は僕を通して闇の帝王やジェームズを見ているのだ。僕個人の存在なんて考えてない。肩書きや出自ばかりを見て僕を見ていない。

 

──分かってる。僕は悪人だ。どうしようもない屑で、取り返しのつかない殺人を何度もしてきたのは事実だし、父に命令されて仕方なく……なんて言い訳が通用しないことも理解している。今更穏やかに死ねるなんて思ってない、

 

──でも。悪人でも、屑でも、塵でも何でもいいから──

 

──誰か、僕をちゃんと理解してくれる人が、欲しいんだ──

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──白い雪が舞う。

 ハリーとの激戦は、意外にもシェリー達が優勢になっていた。

 シェリーをメインの攻撃に据え、妖精式の姿現しを使うドビーと、魔法一つ一つの練度が高いクラウチジュニア、心理的な不意を突くのに長けたロックハートの三人が中心になって姿現しで回し、吸血鬼で毒による即死がないクィレルが前線でハリーと格闘する。理想的な展開だ。

 あとマンダンガスは逃げた。

 このヒットアンドアウェイを繰り返していけばいずれハリーを倒せる……と思っていたのだが……。

 ……腐っても、最高幹部。そう一筋縄にはいかせてくれないようだ。

 

(押してる……押してる筈です。なのに何でしょうねこの違和感は。どれだけ攻撃しても底が見えない……本当に、私達の攻撃は通用しているのでしょうか?……)

「クィレル!お前、ちゃんと攻めてるんだろうな!?」

「そのつもりだ!!だがクソッ、どうにも手応えが……!!」

 

 クィレルの連打に、ハリーは成す術もなくやられている。その筈なのに、一向に倒れる気配は見せない。焦ったクィレルは、渾身の強打を鳩尾へと叩き込む。

 今のは効いた筈……と、思いきや。

 ハリーだと思っていたものはぼろぼろと崩れて、雪へと変わっていく。

 一体、いつから入れ替わっていた?

 ハリーは今、どこにいる?

 彼の姿はすぐに見つかった。ほんの少し離れた場所に立っていた。

──ハリーの脅威はここからだった。

 

「──ふううううう……」

 

 息をする。それだけで、薄ら寒い悪寒が背筋を凍らせた。

──僅かに生えていた草花が、樹が、軒並み枯れていく。

 死という概念が押し寄せたかのように、臭いもなく音もなく、ただただ死ぬ。

 空気が重くなるのを感じる。

 何か仕掛けてくる──そう確信したクィレルは、シェリー達を守るような位置へと移動するが、それは正解だった。

 

「ボログリム!!」

 

 まただ。破壊圧が、今度は錐揉みして地面を抉りながら迫ってくる。

 ハリーの紫は、どうしようもなく禍々しい破壊の様相を帯びていた。触れてしまえば悪辣に肉体を抉るであろう、殺戮そのものよりも、人体を滅茶苦茶にすることを目的にしたかのような魔力が、シェリー達へ向かって解放される。

 だが所詮は攻撃範囲を広げただけの魔力の塊だ──

──いや、違う。シェリーは過去の経験と魔力の流れから、その正体を看破した。

 『魔力鎌』。

 かつて秘密の部屋で相対したリドルが使用した魔法で、つけた傷から時間差で魔力の鎌が飛び出してくる多段攻撃!下手に受けようとしてはならない、瞬間的に回避しなければならない!

 

「ドビー!!バーティ!!飛んで!!それを受けちゃいけない!!」

 

 全幅の信頼を置いたシェリーの指示であればこそ従った二人だが、しかし、クラウチジュニアの方が一瞬遅かった。人間の姿現しであるため、妖精式のそれより瞬発力に欠けるのだ。反応速度は速かったが姿現しの方式で遅れを取った。

 結果として──魔力鎌が頬を掠めてしまう。

 流石に腐っても幹部級、当たった瞬間に上体を捻って致命傷は避けたものの、たちまちの内に脈動する血管から自身の肉体の異常を察知した。というか──ハリーとの戦闘で陥る異常など一つだけ。

 

「──っ、この鎌、毒がありやがるぞ!!絶対に喰らうな!!クィレル!!」

「ああ、分かってる!!すぐに──」

「一息つかす暇なんて、僕が与えると思うかよ……ボログリム!!」

 

 第二波が来る。

 ハリーは再び狂気の紫を発射した。

 せめて魔力を散らすことはできないかとシェリーは魔力弾を放つが、幾重にも枝分かれして広がっていく魔力全てを消滅させることはできなかった。ハリーの攻撃は面ものが多いが、シェリーの攻撃はあくまで線上のものだ。

 咄嗟に姿現しをして回避するも、鎌の大きさはまちまちで、不規則に現れるものだから躱し切るのは難しい。下手に最低限の動きで躱そうとすれば、むしろ危ない。

 そしてシェリーは姿現しを使うことができないので、回避はドビーに頼る他ない!

 ここで欲を出してはいけない。魔力鎌を躱せると過信して、下手な位置に飛ぼうものならハリーの思う壺だが、ドビーはシェリー達を守りながら飛ぶことに全意識を集中しているのでその心配はしなくて済みそうだというのが、心強くはあるが……

 彼の小さな身体が、悲鳴を上げているのは嫌というほど伝わる。

 何もできないのが、歯痒い……!

 

(くっ……私にできることをやるんだ!紅い力による身体強化で、動体視力は向上している筈!突破口を見つけるんだ!!

 ……!ハリーが魔力を溜めてる……溜め時間はまあまあ長い……!!この攻撃は、受ける側からしたら一見厄介な多段攻撃に見えるけれど、連射性に欠けるんだ!攻撃を回避しなきゃいけない時間が長いからそう見えないだけで……!!そして──)

「皆んな!!雪を見て!!白いからハリーの紫の魔力は分かりやすい筈!!」

「!チッ、シェリーの奴……」

(これが建物に囲まれた場所だったら危なかったけれど、ここは雪原だからいくらでも距離を取れる……!!この雪の環境が味方してくれている!!)

 

 シェリーの指示を受けて、姿現し組の飛行速度が上昇した。ある程度軌道が分かれば避けやすくなるというもの……!

 加えて、彼の動きを見るに……姿現しを使う様子は見受けられない。使えない、ということではないのだろう。多数を相手にする高速戦闘のため、下手に動けばそこから崩されるということを良く分かっているのだ。だから、あえて受け身の姿勢に甘んじているだけ。

 ハリーと馬鹿正直な正面から戦っていては消耗するのはこちらだ。使えるものは何でも使わないと割に合わない。

 雪原という特殊なフィールド、ハリーの毒に対してのカウンター要員を何人か編成した上で、ようやく戦闘という段まで持ち込むことができたのだ。

 この機会を逃してはならない。

 逃すわけにはいかない!

 さて、どこかで攻勢に出なければジリ貧になってしまう。

 シェリーは最大限魔力を溜めて、どうにか攻撃の隙間を縫えないか探る。

──いや、隙がないなら作るまで。ロックハートはそう判断し、攻撃魔法で雪を跳ね上げて視界を塞いだ。雪の壁だ。

 

「成程そう来たか……!僕のボログリムは地面に沿って進むので、意外とこういう物理的障壁に弱いんだよね……まあそれなら壁ごとブチ抜けばいいだけの話だけど!」

「うあああ!?壁が壊れた!!」

 

 その程度、何ということもない。

 魔法鎌が壁の直前で巨大化し、防壁を破壊するよう設定し直した。

 雪を跳ね上げるというアイデアは、寧ろ悪手だったかもしれない。

 相手の視界を塞ぐということは、同時にこちらの視界をも塞ぐということ。回避困難な多段攻撃は、一撃でも喰らえば毒が回ってしまうおまけつきだ。

 ……その筈、なのだが。

 

(──何だと?)

「オラァ!!回避するのが難しいなら、魔力で弾けばいいだけの話だろうが!!」

「お、お前吸血鬼でもないくせによくそんな動きができるな……」

「愛の力だ!!」

 

 魔力を凝縮して剣状にすることで、自身の周りだけ切り刻んで凌いでいる。それでも毒は撒き散る筈なのに。

 死を間近に感じながらも、それを全て無視して動いているかのような光景。案の定細かい傷が腕に出来て、少しずつ消耗していっている。無理に対処しようとするからだ。マジか?致命傷は喰らわないまでも毒を受ければ同じこと……

 いや、いや待て。クラウチジュニアはつい先刻毒を受けただろう。

 じわじわと肉体の死が進行している真っ最中の筈だろう!

 

(毒を喰らった筈のクラウチジュニアが普通に戦線復帰している……いや、おかしいだろう!あいつはただの人間の筈だ!ただの人間がどうして僕の毒を喰らって平気でいられる!?……クィレルか?またあいつが何かしたのか!)

(気付いたようだな、ハリーの奴)

 

 クィレルはアズカバンで散々暇してた時に自分の血を操作することを暇潰しにしていた。その応用でクラウチジュニアの血を操作して、無理矢理毒を飛ばしているのである。吸血能力を上手く使いこなしているのだ……!

 烏合の衆かと思ったが、中々どうして。

 

「面白い……!!そうでなくっちゃなあ!いい加減ワンサイドゲームにも飽きてきたところだ、少しは粘ってくれないとこちらも張り合いがない!!」

 

 これまでの相手は毒による即死が殆どだったのだ、ここまで粘られるのはハリーにとっても初めての経験だった。戦闘は突入する──未知の領域へと。

 ふざけるな、とクィレル達は内心で舌打ちする。紅い力による絶対的なバックアップを得ているシェリー・ハリーはともかくとして、彼等と長期戦できるだけの体力も魔力も彼等にはない。

 姿現しの魔力消費も案外馬鹿にならないのだ、ここでせめて消費を抑えたいところではあるが……。そんな展望を塗り潰すかのように、ハリーは杖を上へ向けると、大量の毒流を波のように発射する。

 

「ヴェナムメンディ!」

「何!?毒を、上空に──!?」

 

 本来、毒魔法を使うとあればこのような開けた場所ではなく、閉所の方が圧倒的に向いている。しかし無いものねだりをしても仕方がないので、ハリーは広範囲攻撃という戦法を取った。毒を高所から無差別に撒き散らす──シンプルだが、この上ないほどの凶悪戦法!

 ただ、シェリーは──シェリーだけは。毒液の影が映る位置まで、全速で駆けた。

 疾風が如く、何の迷いも無いと言わんばかりの疾走だった。

 このままでは直撃してしまうという心配すらも振り切って。だがこれは、破れかぶれの特攻ではなく──

「フリペンド!!」

──状況を打破する一撃である!

 シェリーの紅い力は、魔法にレダクトが付与されるというもの。それを高純度まで高めれば、破壊は分解の域まで達する!天を衝く柱のように彼女から放たれた魔力が、今にも彼女に降り注がんとする毒液を、一片も残さず分解し消し飛ばしていく。飛沫すらも、空気中で霧散していく──!

 

「何……ッ、」

「そこです!!余所見しましたね!!」

「!チッ……」

「行くぞロックハート!!俺に続け!!」

「ええ、合わせますとも──あなたの攻撃の癖は大体把握しましたから!」

「ハッ──言ってろ!!」

 

 視線を下に降ろせば、独特の破裂音を伴って二人の戦士が出現した。

 カーテン状に魔力防壁を展開することで咄嗟にガードするも、二人の猛攻は止まる気配を見せない。急拵えだが、息の合った連携といえよう。

──しかしあまりにも、思い切りが良すぎる。シェリーがあの毒液を何とかすると分かっていて突貫したのか?……

 ……分かっている筈がない。ないのだ。

 地上からの魔力鎌に気を取られて、空中からの毒液は不意を突かれた筈なのだ。

 何故、突っ込めた。

 何故、こちらに走って来られた。

──信頼──

 この世で最もくだらないものの名だ。

 どいつもこいつも、ここは死地だというのにキラキラした目で戦いやがって。

 或いは──ここを墓場に決めてるのか?

 こいつらは、ここで死ぬつもりで戦ってるからこんなに命知らずなのか?

 だと、するならば。望み通りすっぱり殺してやるとも──!!

 

「効くかよ……!!ボログリム!!」

「ッ、チィ──!」

「あぁ、もう!私は正面切っての戦闘は得意じゃないんですよ……!!」

 

 二対一といえど、ハリーは一切遅れを取らない。

 毒による搦手の印象が強いが……正面からの撃ち合いであっても、彼の実力は一級品と言っていいだろう。クラウチジュニアの敏捷なりし迅撃を、しかし神に愛されし紅い瞳は狂気を孕んだ嘲りで返す。ロックハートの続く援護射撃を、こともなげに怨嗟の呪詛が呑み込んでいく。

 単純な魔力量や能力では敵わないと知っていても、どこかに付け入る隙があると、鷹を括っていた。だがどうだ、この冴え渡るような戦闘のキレ。

 ここに押し留める、なんて余裕はない。下手をすればやられるのはこっちだ──!

 

「おい!待てお前達!吸血鬼の俺が盾になるから、あまり前に出過ぎるのは──」

「遅いんだよ!!アグアメンディ!!」

「うおっ!?水の、牢ごガボババ!?」

「あれは──ローズを拘束した時に使った──…!!」

「水分が乾燥して、水魔法のキレはイマイチだけどなァ。吸血鬼一匹無力化するのに何の問題も無いんだよ!!」

 

 地面から飛び出した水が、たちまちクィレルを飲み込んで球体となり、息を出来なくさせる。溺れ死ぬということはないだろうがすぐさま助け出さねばなるまい。

 仮にも吸血鬼のクィレルの動体視力を掻い潜って捕まえられたのは何故か。

 それは、地下から水が飛び出したからだ。見えないところからの攻撃は、如何な動体視力であっても防ぎようがない……!!

 瞬間、ロックハートとクラウチジュニアの脳裏には、ある可能性が浮上する。

 地下から攻撃が来るのではないか?

 ここにいるのは危険ではないか?

 その動揺を、紅い瞳は見逃さない。

 

「避けろ!!ロック──」

「ボログリム!!」

 

 至近距離からの破壊圧。

 ロックハートはそれを躱せた。

 クラウチジュニアはそれを受けた。

 躱せる筈のないその一撃を何故実力的に劣るロックハートが回避することができたのか──それは、立ち位置の問題もあるし性格の差もあった。

 が、やはり一番の問題は──クラウチジュニアが彼を庇ったからだろう。

 

(クソッ……俺如きの実力じゃあいくらでも代わりがいる……!!だがロックハートの能力は潰しが効かないんだよ……!!それが分かっちまってるから、咄嗟に庇っちまった……こいつなんかを……!!)

 怒りと失望に打ち震える。

 父親に屋敷に閉じ込められ、アズカバンに収監され、今度はこんな奴を庇ってしまうなんて。爛れた肌が痛みを訴える。毒が効いてきた。早くクィレルに治してもらわなければ直ちに死んでしまう。

 何より、それに、何より。

 シェリーの目の前で死ぬわけにはいかないのに。

 早く、早く──

 

 

 

「ハハ……!!少しずつチームが崩れ始めたな!!ダメ押ししてやるよ!!

──“紅い力の更なる解放”!!」

 

 激痛を訴えていた肉体が総毛立ち、

 ごくりと唾を飲み込んだ。

 ついぞ忘れていた本能的な恐怖が、これでもかと励起する──!

 

 

 

 

 

「──白い薔薇(デルフィーニ)!!」




ハリーが悪役になって敵として戦うってアンチ・ヘイト要素強すぎる気がしてきた…。
大丈夫かなぁ…?
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