シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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詳細はネタバレになるので伏せますが前回ラストでハリーが使った『デルフィーニ』という魔法は呪いの子に登場するキャラクターの名前が元ネタです。


7.シェリー・ポッターと神に愛された少年 Ⅲ

 なんでもない日の、なんてことのない任務での出来事だった。

 ハリーは騎士団に物資支援をしている魔法使い達の家に赴いて、殺すついでに食事をして腹を満たすつもりだった。

 それ自体はすぐ終わった。紅い力を使うまでもなく、魔法使いの夫婦はあっさりと死に絶えて、彼の胃袋に放り込まれた。そこまではよかった。

 声が聞こえる──他に誰かいるのかと家を中を探すと、奥の部屋に、赤ん坊がいるのを見つけた。玩具や洋服を沢山買い与えられて、とても幸せそうに眠っていた。

 

「いいご身分だな……」

 

 満ち足りて、さぞや幸せなんだろう。

 将来は立派に育って、何不自由ない生活を送れることだろう。

 ハリー・ポッターが決して得ることの出来ない暮らしを、こいつは当たり前のように享受できるのだ。

 そんなことを考えても仕方ないが。

 緑の閃光が瞬いて、赤子は物言わぬ骸へと変わる。

──僕はこの赤ん坊より劣る存在なのか?

 食べようとは、思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでもない日の、なんてことのない任務での出来事だった。

 ハリーはマグルの家に任務で赴き、そこの一家を殲滅しろと指令を受けた。確か、そこも騎士団に物資提供している一家だった筈だ。

 そこもまあ簡単に殲滅できたのだが、どこか聞き覚えのある苗字だったので少し調べてみると、そこの息子はかつて犯罪者グループに属していたのだという。死喰い人の潜伏期間にそういった連中を利用したので名前を覚えていたのだろう。

 幼少時に厳しい教育を施され、その反動で半グレ達と絡むようになったらしいが、とうに薬物犯罪に手を染めてマグルの監獄に収監されていた。

 両親は息子に何度も面会をして、過去の厳しすぎた教育への過ちを謝っていたと日記に綴られていた。

 

「いい、ご身分だな……!!」

 

 両親に愛してもらっている。少なくとも関心を向けられている。

 それで何が不満だというのか。

 分かってる。今よりほんの少しだけ幸せになりたかっただけなんだろう。

 なら──君達が当たり前に感じているなんてことない幸せを渇望している僕は何なんだ?考えると惨めに思えてきて、考えたくなくなった。

 どうでもいいことだ。

 憂さ晴らしに家に火を放った。両親と家を失ったと聞かされた時の息子の顔を想像すると、笑いが込み上げてきた。

 奴は僕より惨めな存在になった──!

 

 

 

 

 

 

 

 ……ああ、だが。

 いくら殺しても心が満たされない。

 いくら喰っても渇くばかりで──

 

 ヴォルデモートは自分を愛玩動物、或いは駒の一つとしか思ってない。

 同僚達はそもそもハリーに興味がない。

 

 肉体はジェームズ・ポッターとリリー・ポッター、本物のシェリー・ポッターから得た偽物で、力はヴォルデモートから与えられたもの。いくら虚勢を張ろうと、自らが空っぽだという事実は変わらない。

 そして生まれながらにして闇に生きるものである以上、力でのし上がってやろうと考えたこともあるが、ヴォルデモート以上の存在になるなんて無理だ。あのどこまでも自分本位な男が、わざわざそのような力を与えるだろうか。反逆される可能性を置くだろうか。

 生きながらにして、どん詰まり──

 沢山殺してきたのだ。救ってくれ、なんてことは言わないが──

 

 せめて誰か──僕を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時だった。

 シェリー・ポッターと邂逅したのは。

 僕を憎悪の目で見てくれるひとは。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「──白い薔薇(デルフィーニ)!!」

 

 魔力が躍動する。

 紅でも紫でもなく、“死”だけが残りその他一切が排された白になる。

 純然たる厄災のみが凝縮され、それは人のカタチを為していく──!

 出来上がったのは、身長はハリーの半分にも満たない程度の、魔力で構築された長い髪の女の子の人形だ。そのデルフィーニとやらはふわふわと浮き上がったかと思うと、やがて標的を見定め──

 シェリー達目掛けて突進する!

 ハリーが杖を動かしている様子はない。つまるところアレは、自動で動く魔力人形というわけだ。しかしまあ、ドビーより少し大きい程度の人形なので、どんな大技が来るかと身構えていたシェリー達にとっては肩透かしだったが……。

 

「いや!最高幹部の取って置きの魔法が弱いわけがない!警戒を──」

「──何かする前にたたく!」

 

 言うが早いか、シェリーの早撃ちが炸裂する。

 紅い力の入った、着弾すれば魔力ごと引き剥がす分解弾。デルフィーニは瞬く間に無惨に飛び散って消え失せた。

 ……が、ここで異変が起こる。

 虚空に周辺の魔力が収束したかと思うと再び人形が形成されたのだ。

 マジかよ。自己修復機能を搭載しているというわけか──!

 デルフィーニはそのまま、シェリー達へ近接戦闘を仕掛け始める。拳は鋭く、それでいてしなやか。クィレルとクラウチジュニアが無効化されている今、シェリーが相手取るしかないわけだが……中々強い。やり辛い相手だ。

 

「くっ……この子、分身の割に結構すばしっこくて強いな……!?」

「!!シェリー・ポッター、私の手に捕まってください──」

 

 第六感というべきか、ドビーの咄嗟の判断は結果的に彼女を救った。

 白い魔力を帯びたデルフィーニの色が燻んで、赤紫の痛々しい色に染まると──

──そのまま、自爆した。

 危なかった。姿現しで躱していなければ直撃するところだった。

 人型爆弾の攻撃を避けられたことに安堵していると、再び目を向く光景が飛び込んでくる。再生しているのだ。ひとりでに。

 周囲一帯の魔力を吸って、新しい肉体を構築している──!

 しかもこいつ、この爆発!有毒ガスを含んでいるのでは……!?

 

「何度でも甦る不死身の自律人形……それに毒ガス爆弾を取り付けたって感じか!」

「その通りさ!そいつは魔力に飢えていてね……君達の魔力目掛けて飛んでいく仕組みさ!!デルフィーニそのものの戦闘能力もさることながら、時間が経てば自動的に体内の毒ガス爆弾が起動する!!おっと攻撃には気をつけるといい!下手に刺激するのは危ないぞ、タイミングが悪ければその時点で自爆するからな!!」

(あ、危なかった──!!さっき紅い力込みの分解弾を使ったのは正解だった!爆弾ごと分解したから爆発しなかっただけで、普通のフリペンドなら起爆してたかもしれなかった……!ごめん皆んな!!)

(本当なら、味方に守られながらの使用が望ましい魔法だけど、そう言ってられる状態でもない!ここいらで一気呵成に畳み掛けてやる!!)

 

 そしてハリーも認識を再度改める。

 シェリーが紅い力を込めて放つ分解弾の効力は、やはり目を見張るものがある。ハリーは先程、分解弾を喰らったのだが……身体中の魔力が掻き乱されていくのを感じた。守りに集中しなければ危なかっただろう。だから自動操作の効くデルフィーニを選んだ。

 このデルフィーニの厄介さは、厄介な毒爆弾であると同時に、簡単に抑え込めるような強さではない点にある。毒を使わずともハリーの基礎戦闘能力はかなり高いが、デルフィーニもまたその戦闘能力を受け継いだかのように厄介。

 いや──純粋な魔力の塊である以上、感情に左右されず、既存の物理法則に囚われることのないこちらの方が、白兵戦では強いのかもしれない──!

 

「いや、これほどの分身を操るとなれば本体にもそれなりの負荷がかかる筈……!それにこのデルフィーニとやらは動きのキレがいささか良すぎます!おそらく、持てるだけの魔力をこの子に回したのでしょう!つまり今、本体は魔力の使いすぎで無防備な筈です……!違いますか!?」

「──ああ、そうだね。魔力は残り少ないし、全身疲れ切ってダル重さ。けれどこんなでもホムンクルスだからね、死にかけの人間ひとり抑えておくのは無理ないさ」

 

 ロックハートの指摘を鼻で笑うように、ハリーはクラウチジュニアの首根っこを掴んでは高々と掲げた。弱った本体に手出しできぬよう盾にしているのだ……!

 

「さあ!!撃てるもんなら撃ってみろよシェリー!!間違えてクラウチジュニアに当てちまわないようにね!!見ろよ!僕よりずっと背も高くて筋肉もあるのに、今じゃそれが仇になってる!!随分と綺麗な顔をしているけれど、毒で今や見る影もない!無様だな、おい!クラウチ!!」

「その名で、呼ぶんじゃ、ねえ……ッ」

 

 苦悶の声を上げるクラウチジュニアの顔色は最悪だ。

 血管が浮き出て、気味の悪い腫瘍がびくびくと蠢いている。素人目に見ても、毒の進行が進んでいるのが分かった。あれではクィレルが血を操作して毒を摘出したところで、間に合うかどうか──。

 

「……ッ、ドビーの姿現しで、至近距離まで近付くしか──ドビー!?」

「はい、ただいま……ッ」

「ドビー!?しっかり!酷い汗……!」

「姿現しを連続使用したせいだ!クソ、無意識のうちにドビーの高速姿現しに頼りすぎてました……!!そして彼もシェリーに疲労を悟らせまいとしてた……できるだけ皆さんの安全を確保しようとより長い距離を最高速度で時間跳躍したのですね?その分、私より早く限界が来てしまったのか……」

 

 無理もない。

 屋敷しもべ妖精の魔法は、杖を必要としない代わりに、魔力の減りがおそろしく早いのだ。包丁や火を使わずに調理するようなもの。即効性はあるが連続で使えば必ずガタが来る──!

 

「───!!ロックハートさん!!ひとまずドビーをお願い!!私がデルフィーニを相手するから、その間に二人でクィレルを助けて!まずは彼を水牢から出さないと、バーティの解毒ができない……!!」

「おっと!デルフィーニは基本は自動操縦だが、やろうと思えば単純な指示くらいはできるんだよ……!!」

「ぐッ……!!下手に動けば私達がやられてしまう……!!」

 

 デルフィーニの猫のようにしなやかな動きに翻弄され、擬似的な解毒ができるクィレルの近くに行けない。焦れば高い戦闘能力でやられるし、かといって時間をかけてもいずれ爆発する。

 では本体を倒そうとしても、彼はクラウチジュニアを盾にしているから手が出せないし、姿現しで接近しようにも、ドビーはダウンしているし、ロックハートは魔力が残り少なくなっている。

 まずい──まずい状況。

 

「さあどうするシェリー!?足掻いて見せろよ!!父さんに頼るまでもない!!僕が殺してやる!!今!!ここで!!」

「……お前、父親にコンプレックスでもあんのか」

 

 クラウチジュニアのぼそりと呟いた言葉に、ハリーは殊更に反応した。

 首根っこを掴む力が強くなる。状況的にはハリーが優勢なのに、ボロ雑巾になっているのはクラウチジュニアの方なのに、彼等は何故だか真逆に見えた。

 

「お前もそのクチか。いや、そりゃそうだわな。ホムなんたらが何かは知らないが、要するにお前は誰かの模造品として生まれたんだろう。で、親父はかの帝王サマか。そりゃ拗れるわな」

「黙れ!!お前に何が分かる!!」

「コテコテの台詞吐きやがって」

「僕は僕のことなど気にも留めない奴の目をひん剥いてやるのさ!!僕という存在の認識を書き換えさせてやる!!僕を見ようとしない、連中の目を!!」

 

 ハリーの瞳から覗く強烈な鮮紅を、クラウチジュニアは冷たい眼で返した。

 あろうことか、そこには、憐れみすらも篭っていた。

 思考すれば怒りと嫌悪しか湧かないので考えないようにしていたが、段々と朦朧としていく意識の中で、つい、思考を費やしてしまった。父親──正義と使命感に生きたバーテミウス・クラウチについて。

 彼の、渇いた瞳について。

 

「父親の視界に入ってるのに、視線を感じないような……風景の一部として見られているような……そんな感じか」

「……黙れ、と、言っているのが聞こえないのか……!!」

 

 図星を突かれたハリーは空いた方の手でクラウチジュニアを殴りつけた。衝動的に身体が動いていた。寒風吹き荒ぶ雪原だというのに、怒りの熱は消えやしない。

 歯軋りする。世間話でもするかのような口振りなのに、これまで聞いたどんな言葉よりも怒りを誘う。

 ああ、たった今理解した。

 僕は骨身の髄までこいつのことが気に食わない。受け付けないのだ。

 

「どいつもこいつも……生きていることが当然みたいなツラしやがって。君達の命には何の意味も無いんだよ!無意味に!無価値に!僕に殺され死んでいくんだ!!セドリックだってそうだったろうが!!ローズもブルーも無意味に死んだろうが!!」

「ならなんでお前は生きてんだ」

 

 ハリーは言葉を返せなかった。

 紅い瞳の化物が、迷い惑う子供に見えて仕方がなかった。

 

「本当に無意味ならなんでまだ生きてる。そうじゃねえって思いたいから、生きてるんじゃないのか」

「──」

 

 少し、黙った。そして──

 

「……もういいよ君は。どうせ死ぬ命、僕が直々に引導を渡してやる。だがここで下手に魔力を使えばいざという時に僕の身を守る分が無くなる……そこでだ」

「?」

「これを使ってやるよ──これはお気に入りのナイフでね。吸血鬼の牙を参考にして作ったんだ。傷口から血をチュウチュウ吸ってストックできる仕組みになっている。

滅多に使ったことはないけどね──」

「へえ……そりゃ光栄だ」

「──前回の相手は、そう!セドリックの胸を刺した時に使ったんだ!これを使うのは君で二人目だ……!!」

「────」

 

 それでもクラウチジュニアは表情を変えない。心底くだらないのだ。力を得て、生きてやりたいことがそんなことか。幸せのランクの程度が知れる。

 

「……俺みたいなクズでも、誰かに言葉をかけてもらって、そいつの為に生きていれば、自分がまともな奴に見えてきて心が楽になんだよ。お前にはそういう相手はいなかったみたいだがよ……」

「はぁ……?」

「でもダメなんだ。クソ野郎が何をしようと罪は消えねぇ。罪に対する意識が変わるだけだ。結局俺達クズが地獄に行くのは変わらねぇんだよ……!

──行こうぜ、おい、ハリー──俺達と一緒によぉ!!!」

「……俺“達”?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ!!やっと着いたわ!!」

「パンジー・パーキンソン……!?」

「助けに来たわよ、あんた達!!」

 

 いつの間にかハリー達を取り囲むような形で、不死鳥の騎士団支部の面々が駆けつけてきてくれていた。その数、およそ百名ほどくらいか。パンジー・パーキンソンにエイモス・ディゴリー……戦闘員と呼ぶには頼りない面子だが、しかしそれは彼等とて承知の上だ。元より、紅い力持ちの最高幹部相手に戦力になるとは思っていない。

 故にこそ、彼等は彼等の仕事を遂行せんがため来たのだ──!

 

「班ごとに彼等を支援しろ!!決してハリーとは戦おうとするんじゃないぞ!!」

「エイモスさん……!?」

「来たぞシェリー!支部の隠蔽工作やら本部への連絡やらで遅れてしまったが、私達も参戦するぞ!!」

「ああ、もう!クィレルが捕まってんじゃないのよ!!あんたはまだ戦って貰わないと困るんだからね!?」

「す、すまん」

「おいこの屋敷しもべ消耗が酷いぞ!救護班急げ!」

「シェリー・ポッター、あの気味悪いのはどうすりゃいい!?」

「あ、あれは……魔力を感知したら飛んでくから、とにかく散ってください!それとほっといたら爆発します!」

 

 突然の増援で、シェリー達も取れる選択肢が増える。

 デルフィーニも突然の魔力反応に、どれから対処したものかおろおろしている。

 

「見ろ!バーテミウスがハリーに捕まって身動き取れてない!早く加勢を……」

「逆だ……!!」

「!?」

「俺がこいつを絶対に離さねえから、その間にお前らは大人しくシェリーのサポートなり何なりしてろ……!!雑魚共が何人来ようと無駄だ……!!」

「こ、こいつ……!!僕が盾にするために捕まえていたのに、逆に僕を捕まえるだなんて……!!どういう体力してるんだ!!」

 

 クラウチジュニアは残り少ない魔力で魔力縄を生み出して、ハリーと自分を繋いで離さないでいた。目は血走り、歯は砕ける。底維持と諦めの悪さだけが、彼を奮い立たせていた。

 

「がッ、君のどこにそんな力が……!!」

「罠魔法だよ……!!毒を喰らわないために姿現しを使って高速移動してたから、起動のタイミングが中々なくて途中から使ってなかったが……!!今お前を縛ってる縄の魔力は未使用の罠魔法から魔力を吸い取ったもんだ!!」

「体外に放出した魔力を回収したってことか……!!」

「俺が今までボケっとしながら捕まってるままだと思ったかよ!罠魔法の位置を確認していたんだよクソボケが!!」

(まずい……!!まずいぞ!!僕は今、魔力をデルフィーニにほとんど使っちまってる!クラウチジュニアの縄を引き千切ることはできないっ……!!)

「バーティ!!それ以上は……!!」

 

 シェリーの縋るような声に、一瞬だけクラウチジュニアの決意は揺らいだ。が、肉体は成すべきことを理解しているのか、ハリーを繋ぎ止めんがために魔力の活動を止めない。ハリーをこれ以上動かしてはいけないと。

 その行動は諸刃の刃だ。魔力を使えば使うほどに肉体は損耗し、クラウチジュニアの全身に針を突き刺すが如くの責め苦を与えている。

 今彼は立っているだけでやっとの筈。

 骨を鑢で削られているような地獄の痛みの中であっても、クラウチジュニアはその類稀なる精神力だけでハリーを押し留めているのだ。

 

「元々、我慢は得意な方でね!これだけの量の魔力縛鎖、さしもの最高幹部サマもへばるかァ!?」

「何としても僕をこの先に行かせるつもりはないようだな!!なら逆に、この縄から更に毒を回してやるよ!!」

「────!!」

 

──躊躇する。

 手を離せば、ハリーを逃してしまうけれど。

 手を離せば、まだ、クィレルの擬似解毒が間に合うかもしれない。

 二つを天秤に掛けて、そして、クラウチジュニアは笑うのだ。

 掛けるまでもなかったと──!

 その可能性は、──捨てる!

 

「ガアッ…………」

 

 ああ、死ぬ。

 音もなく、見えもしない死が、すぐそこにあると認識できる。

 そうか──人生とは鬼ごっこのようなものなのだ。物陰に隠れながら、やってくる死から全力で逃げる、生けるモノ全てに課せられたデスゲーム。

 見つかって、しまったのか。

 記憶がフラッシュバックして、走馬灯のように駆け巡る。……ように、ではなく、本物の走馬灯なのかもな。

 記憶の中の親父は、いつも顰めっ面を浮かべている。母さんは目を腫らして泣いて嘆いている。ウインキーのキーキー声がうるさい。

 

 正しいことをしなさいと、教えられた。

 間違ったことをするのは、ダメだから。

 

 その正しいことのために親父は奔走して家族を置き去りにした。死喰い人の動きが活発だから忙しいって?嘘だね。アンタは俺がガキの頃からそうだったろうが。

 お前が見せるのは、いつだって、つまらなさそうな顔だけだ。

 俺を見ようとすらしない。

 あいつの職場に押し掛けて、少し揶揄ってやろうとしたら震えたね。レックス・アレンとかいう、アンタの意思を継いでくれそうな正義大好きマンの方を、息子同然に扱ってたんだもんなァ。

 ふざけんなよなぁ。アレンもアレンで、父親がその時期に死んだか知らんが満更でもない顔をしやがって。こっちの気も知らねえで良い気なもんだよ。

 死喰い人に入ったのも、父親の関心を寄せたかったのがそもそもの切っ掛けだった筈だ。まあ……そこから闇の帝王の思想にのめり込んだのは俺が悪いが。なぁんか違う気がしていたけど、あの親父の所にいるよかマシだった。それから、色々あって、

 

『──ありがとう』

 巡り巡って、君に出会った。

 

 視界の端で、シェリーが顔を歪めているのを見つけた。

 ……マズったな。あの子は、死をひどく恐れている。少し前だって、目の前で何人もの子供や村人が残酷な目に遭って、心に新たな傷を作ったというのに。

 でも、どう足掻こうと、もうすぐ肉体は終わりを迎える。

 妥協させてしまうことになる。

 

 ……ただまァ、可哀想にだとか無意味に死んだだとか、そんなフウな絶望の仕方をしてほしくはないし、させるつもりもねえ。

 

 

 

 

 

(どうしよう、どうしたら、バーティが死んでしまう、死んじゃダメなのに──皆んなが死なない為に、戦ってきたのに──)

「──死なねえよ」

 

 命は風前の灯火の筈なのに、クラウチジュニアのその声は、その場にいる誰よりも力強く、燃え上がっていた。

 

「俺達は死なない。肉体が滅びようと精神が消滅しようと、そんなもんで俺達の命を否定させやしない。シェリー、お前の魂に刻まれている限り──お前が俺達を覚えていてくれる限り、お前の魂に生き続ける」

「バーティ!!でもっ、それは──」

「俺の一生を無意味だなんて言うな。無駄だったなんて切り捨てるな!お前のために死ねたのなら、魂の一部になれたのなら、それが俺の生きた証になるんだ……!!」

 

──ずるい。

 そんな言い方は、ずるい。

 死んでほしくない。生きて、幸せに笑っていてほしいんだよ。

 人は、簡単に、死んでしまうから。

 そんな口先八丁で騙されて、諦め切れてしまえたなら、どれだけ楽だったか。

 “そんなのはダメだ”

 “もうやめて。死なないで”

 そう言おうとして、言う資格がないことに気がついて。ならばと、せめて、彼を力尽くで引き離そうと彼の所へ走って──

 

(この焔を──消せない──)

 

 何があろうと、やめる気はない。

 成すすべもない死を目の当たりにして、無理だと悟ってしまった。

──綺麗だと、思ってしまった。

 死から逃げるのではなく、

 死と真正面から向き合っていたから。

 悲しむよりも、哀しむよりも、凄いと思ってしまった。

 緩やかに、諦めて、妥協した。

 死を──綺麗だと思う日が来るなんて。

 

(ごめん──ごめん、ごめん、ごめん。不安なのは、あなた達の方なのに。私ばかり取り乱して、泣いてばっかりで──そんなんじゃあ──あなたが、報われない──)

 

 忘れるものか。

 この時間を、この軌跡を、この一瞬を──たとえ一秒に満たぬ刹那であろうと、決して忘れるものか。

 

 

 

「だからよぅ──俺のこと、頭の片隅にでも覚えててくれよな……?」

「──永久に」

 

 

 

(へへ……消えねぇ傷が残せたぜ。あいつはこれから死ぬまで俺のことを忘れられないだろうな……これは最早、両想いだ。家族も地位も何もかも失ったが、好きな子に傷は残すことはできた……!)

 

 あの子のためを思うなら、必ずしも正しいことではないのかもしれないけど。

 

(正しいことなんてしてやるか馬鹿。クズはクズらしく好き勝手死んでやる)

 

 

 

 

 

「もう、いいわよ。ブチかましなさい!!」

 

 泣きながら、シェリーは走る。

 もう傷は癒えた。魔力も、十分だ。

 思考を無理矢理に整え、倒すべき相手と状況を再度確認する。

 ドビーはまだ疲労が抜け切れてない。戦えるのは、後ろをついて来ているロックハートと……水の牢獄から解放され、治療を受けていたクィレルの三人。

 ハリーを、何としてでも──

 

「デルフィィィィィニ!!『分裂』!!」

 

 冷えた手で心臓を掴まれたかのような悪寒が走る。

 デルフィーニは、常に周りから魔力を吸い、時間が経てば毒ガスを撒き散らしながら爆発するという性質を持つ。

 それが、分裂して、更に小さくなったとしたら。

 体が小さい分だけ、爆発までの時間が狭まったということでは……!?

 実際のところそうである。とはいえ、殺傷力は落ちるどころか毒ガスも薄まってほとんど効果がないため、ハリーにとっても苦肉の策ではあるが。

 牽制になれば良い。隙ができれば良い。

 そうすれば一人ずつ、ボログリムで殺していけばいい。拘束も、どんどん緩まってきている……!後は怯みさえすれば……

 

──だが、デルフィーニ達は、一瞬動きを止めてしまう。

 近くに魔力反応……それに引かれて、そちらに意識がいってしまったのだ。

 

「さっきの啖呵は痺れました……が……あなたに……シェリー・ポッターへの献身で負ける訳にはいかない……!!」

「屋敷しもべ……!!」

「ドビー……!?」

「命以外の、その他一切合切!もう何も許してやるものか!!ドビーは自由な屋敷しもべ妖精なんだ!!」

 

 姿現しでデルフィーニ達の至近距離に現れることで、残り少ない魔力であっても、意識が行くように。火災報知器の目の前でマッチの火を着けるかのような……!

 小柄な身体は、爆発で舞う。

 彼が愛したちぐはぐな洋服は、全て焼け焦げ燃えてしまう。

 悲痛な声が聞こえる。

 振り返らない。

 振り返っては、ならない。

 

「うぁああああああああああ!!!!」

 

 紅の弾丸が、ハリーの肉体を貫く。

 何発も、何発でも、叩き込む。

 紅い力を全開で、ハリーの魔力をかき乱しては、肉体を削り抉り取る。

 防御すら吹き飛ばして、必死の抵抗をブチのめして!

 更に更なる死力を尽くそう。

 ありったけの憤怒を乗せて──!

 

「シェリィイイイイイイ!!!!」

「ハァリィイイイイイイ!!!!」

 

──ここで、止める。

 ここで、倒す!!

 誰が、どう、なろうとも──!!

 




次回、ハリー戦ラストです。

今回のチーム選出ってちゃんと意味があって、全員ハリーメタになってるんです。
シェリー→毒液分解
ドビー→毒回避
クィレル→毒分解・格闘戦・壁
クラウチジュニア→回避要員
ロックハート→回避要員・作戦立案・一度だけ無敵状態
てな感じで。クラウチジュニアだけ能力的なメタ要素は薄いですが精神を動揺させるのに一役買ってます。
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