「思えば、兄がふざけた態度を取るのは、ダームストラング家が静かだったからのような気がします」
リラと合流したロックハートが、『ダームストラング家は普段どんな会話をしていたか教えてほしい』『何か弱点が見つかるかも』と質問すると、そのような回答が返ってきた。
初めは互いが互いにあまり干渉せず、それぞれが自分の好きなことをやっているような環境だったのだが、ある時からネロが積極的にコミュニケーションを取るようになって、屋敷の雰囲気が明るくなったのだとか。
他愛ない会話ではあったし、
「兄さんは、きっと父を殺すつもりなんです。兄は気を許した人には優しいけれど、その人達の暮らしを脅かす人には一切の容赦がない。
一度全部奪われてしまったから……もう一度奪われてしまうのが怖い。それで過剰なまでに防衛するし、そうしないと安心できない。その対象に父も入った」
そうして始まるのは父と子の殺し合い……。
あまりに残酷な話だ。
仮にネロとリラがもっとまともな魔法使いの家で育てば違う道もあっただろう。父から然るべき愛情さえ貰っていれば、このような苦しみを抱えなくてよかった。
けれど運命はダンテを選んだ。
ネロとリラが引き寄せられたのはダームストラングという場所だったのだ。
家族としての務めを果たすつもりなのだ、ネロは。
「私達じゃ……お父さんが強さを諦める理由にはなれなかった……」
抱えた後悔の重さに項垂れる。
もっと──ダンテの中の何かを変えてさえいれば、こんな惨劇は起きなかったかもしれないのに。ダンテの中の悪魔は目覚めることもなかったかもしれないのに。
そんな想いだけがグルグル巡っている。
ぽん、と、優しく肩に手が置かれる感触がした。
「私も、ホグワーツに来てから文字通り人生が変わりました。心を通わせることのできる友人……みたいな連中にも出会いましたし、腐っていた私の心も随分と変わりましたとも。
君のお父さんも、そうなんじゃないですかね。人の心を変えるには、十数年というのは、あまりに充分過ぎる年月だと、私は思いますよ」
「ロックハートさん……」
「さ、行きましょう。戦いの気配がします。私がハリーに感じたのと同等の圧が込み上げてきてる……きっと、ダンテと戦っているんだ」
▽▽▽▽▽▽
「グオオオオオオオオオオ!!!」
体内を異物が駆け巡るような気持ち悪さ。
あたりの不快感に、脂汗がぼとりと垂れて止まない。
血走った目が、苦痛の元凶を探した。ネロだ。ネロが何かをしたのだ。そうでなければこんなことが起きる筈もない。
「さっきまでの攻防はあくまでフェイク……
この魔法はあんたの魔力にのみ反応して、ダメージを与える仕組みって訳ダ……!!」
「小賢しい真似しやがって……!!」
普通なら閉じ込めた時点で一発アウト、何もできず死を待つしかなくなる。だから呑み込まれる前に外部から物理攻撃で許容量を突破して壊すしかないのだが、ネロは逆に、呑み込まれることを前提にした戦法を取った。
有り得可らざることだが、
それを──こいつは!
(フラメルの奴……俺との戦いで得た魔力の情報を分析して他の連中に渡してやがった……!!それが回り回ってネロの所に……あの野郎どこまでも俺をッ!!)
(俺はそんなに才能がある方じゃねェ!皆んなが普通にできることを普通にやることしかできねェ……フラメル爺さんの真似は出来ねェッ!
だから……これ以上は任せるゼ……!!)
「────!?」
──ほんの少し時は遡る。
シェリーとコルダは、岩陰に隠れてネロとダンテの戦いを見守っていた。ネロ曰く、まともに三人でかかっても勝ち目はないので、自分がダンテに“仕込み”をするまで待っていて欲しいとのこと。
必ず隙は出来るから、その時に奇襲してほしい、と。
それでも、シェリーにとって目の前で身を挺して戦う仲間を見ていることしかできないというのは、何より耐え難い責め苦だった。
(……ネロが一人で戦っているのに……私は見ているだけしかできない……!いざとなれば私も出て……)
「……シェリー。生きて帰れる保証もないので、今の内に言っておきますけれど」
「え?」
「私、貴方が魔法省の戦い以降帰ってこなかったこと、許してませんからね」
「……コルダ、」
「魔法省の戦いにお兄様が身を投じたのは、貴方を連れ戻すためです。それを貴方は個人的感情でフイにして、勝手に絶望して勝手にいなくなって、私のお兄様や友達に多大な迷惑をかけた。
……腹が立ちますよ。身勝手すぎます。一人で勝手に暴走して、自分だけが不幸そうな顔をして……その挙句全部一人で背負い込もうとするんでしょ?馬鹿ですか」
人狼の秘密をバラされた時のコルダもまた、全てを投げ出そうとした経験があるからこそ、シェリーの気持ちが痛いほど分かるし、同時に腹立たしいのだ。
救ってくれる人はいた。
支えてくれる人はいた。
その人達のためにも、大事なことからは逃げたらいけなかったのに、生きることすら面倒臭くなった。
あまりにも身勝手だ。
自分だけが心配される関係を仲間と呼べるものか。
「他人の優しさに甘えないでください。これ以上、皆さんを失望させないで。
ネロさんが隙ができると言ったのだから必ず隙はできます。貴方の焦燥は、彼への侮辱にも等しい」
「…………、ごめん、コルダ。……君が、そう言ってくれる人でよかった」
「……分かったのなら、目を逸らさないで。倒すべき敵をきちんと見据えなさい」
気丈に振る舞いつつ、コルダの杖先はほんの微かに震えていた。口では強気でも内心は穏やかではない。一歩間違えればネロは死ぬ、相手の力はそれほどまでに隔絶したものだからだ。
それでも。
この一撃だけは、外せない。
ネロとダンテが攻防を繰り広げる。
──まだだ、まだ撃つな。
ネロが
──まだだ、まだ撃つな。
ダンテの魔力が暴走し、苦痛に悶絶した。
──隙ができた。
(これ以上は任せるぜ……!!)
「!?」
「──紅い力、解放!!」
「「フリペンド!!」」
迅撃、二閃。
シェリーとコルダが放った魔力弾が首筋で交差する。
傷口を咄嗟に癒術で塞ぐけれども、意識が飛びそうになるのを堪えなければならない程にダメージは大きい。
視線を動かす。
ゴーレムの中はダンテの結界と化しており、ましてここは心臓部。あの女二人はどうやって魔力探知に引っ掛からずにここまで来れたというのか……!
(ッ、そうか透明マントか……!!シェリーがそれを持ってるって情報はあったのに……クソ、ネロが魔力を狂わせやがるから探知も上手く働かねえしよ……!!)
「出てきやがれ、クソガキがァ!!」
「げぶっ」
輪廻を解除し、異空間へ吸い込まれていたネロを再びこちらの世界へと戻す。
慌てるな、一人ずつ、一人ずつだ。
消滅魔弾を使って一人ずつ手脚をもいでいく。
所詮、数も質も劣る連中だ。単体の戦闘力では負ける筈もない──!
(──な、んで、まだ魔力が練れない……!?)
「へハハァ……!!調子が悪そうだナァ、ダンテ!!」
(これは……シェリーの紅い力か!?魔力を狂わせる必滅の弾丸!!まずい、俺の
「手を止めないで!!ここからが攻め時です!!」
「分かってる!!」
「……!?」
嫌な予感がして、全身を魔力で防御したが、果たしてそれは正解だった。
防御よりワンテンポ遅れて大砲に殴られたかの如き衝撃がダンテを襲う。それが魔法糸を伝っての攻撃だと気付くのに暫くかかった。ネロが先の攻防の際に仕掛けていたのだ。
今やダンテは、シェリーとコルダの攻撃を一方的に喰らうしかない状態。杖を振るうも、動きが緩慢だ。氷魔法がダイレクトに直撃して身体が凍っている──!
「このッ……ガキどもがァアアアア!!!」
ダンテが癇癪のままに、ゴーレム内の岩石を錬金操作して向かわせる。荒くれ立った岩の槍が、縦横無尽、あらゆる角度から迫り来る。
一撃でも喰らえば即死は免れない貫通力。それらが意志持つ蛇のように、獰猛に牙を剥いた。
「オルガン・フリペンド!!」
「エクスペクト・パトローナム!!」
シェリーは手数と威力でもって迎え撃った。
深紅の弾丸が岩の槍を削り殺し、その喉笛を破壊殺で齧り屠る。的が大きい相手ならば、シェリーはただ乱雑に撃つだけでその命を刈り取っていける。
コルダは範囲と物量でもって迎え撃った。
防御に優れた氷の盾を雪で覆うことで耐性を強化、物量攻撃には同等の物量をぶつけるだけ。人狼の彼女は消耗の大きい氷魔法でも構わず撃っていけるほどの魔力とスタミナがあるのだ。
ただでさえ魔力量の多い二人だ。この程度の攻撃など時間稼ぎにしかならないだろう。それはダンテも織り込み済み……時間さえ稼げればそれでいいのだ。
(ここは一旦、退く!)
「!?逃げた……!?」
先程の威勢が嘘のように、ダンテは身を翻し、脇道を使って疾走した。
「罠かもしれない、安易に突っ込まないで!逃げ込んだ先でカウンター狙いかもしれません!壁ごと凍らせます!グレイシアス!!」
宣言通り、コルダは恐るべき氷結範囲で周囲一帯を氷塊へと変えていく。広範囲を凍らせていくのは岩壁を錬金術で操作させないためだ。
通路の先まで凍らせて、カウンターを警戒しつつ通路を覗く。……誰もいない。少し慎重になり過ぎたか。
奴はゴーレム内のどこかへと逃げた。
コルダの判断は間違ってはいなかった。ダンテを相手にして慎重に立ち回るのは何ら問題ではない。が、それ以上にダンテが安全策を取ったというだけだ。
ダンテは抗戦よりも退却を選んだのだ。
「性格的にノってくるかと思ったが……それだけ奴が追い詰められてるってことカ」
「チッ……すみません、判断ミスです」
「や、下手に突っ込んでたら狭い通路で消滅魔弾を喰らう可能性だってあった訳だし。それより、彼を早く追わないと……!」
「俺の守護霊に半端な逃げは通用しねぇ……連携して仕留めるゾ、勝ちは近い!」
一方、ダンテの方はまるで余裕がなかった。
不意打ちでシェリーやコルダに喰らったダメージは大きいが、それ以上に彼女達からダメージを喰らった事実そのものが腹立たしい。
ダンテは自分が有利な状況にいなければ安心できないタチだ、『追い詰められているかも』と思案するだけで頭の冷静さは幾分か失われてしまう。
今彼にあるのは、勝つことに対する深い執念だけ。
本当なら魔法で叩き潰してやりたかったが、それが無理なら『他の手段』を取るしかない。
「ホグワーツの戦いまで取っておきたかったが……事前に用意しておいた戦闘人形を使う!悔しいが、今のコンディションであいつらと真っ向勝負するのは分が悪い……クソッ、落ち着け、ムキになるな……!!まだ負けてない、これは負けじゃない、負けてない……!!」
自分が作った人形があいつらを倒すのだから、これは実質自分の勝ちと言えるだろう、その筈だ。
これは、断じて、負けなどではない。妥協でもない!
ここからだと幾分か遠いが、遠隔操作するのに何ら支障はない!
が──動かない。
遠隔で魔力を注ごうとするも、反応がない。
戦闘人形の故障ではない。他の誰かが一時的とはいえ制御を奪っているのだ。
──誰が?
そもそも、戦闘人形は簡単に分かる場所に置いてあるわけではない。ダンテのを性格を理解して、魔力の癖に敏感な魔法使いでなければ気付くことすらできない。
僅かな情報で、隠し部屋の位置を特定──
そんなことができる魔法使いは、一人しかいない。
アントニン・ドロホフ。
「ダームストラング製の戦闘人形……命令一つでどんな過酷な環境にも飛び込んでいく優秀な兵隊!いいねェ、ホグワーツ戦線の時も痛感したが、こいつらはオジサンにとって理想の兵士どもだ!取り敢えず何体か持って帰るとするかねぇ!」
(……ッ、あのネコババ野郎!!!)
ここに来て、放置していたドロホフが漁夫の利を得ようと動き出した。最悪のタイミング──いや、戦闘の匂いを察知して、ダンテが一番困るタイミングで仕掛けたと考えるのが妥当か。
戦闘人形には事前に魔力を注ぎ込んでいたので、さしものドロホフも制御を奪うのに時間がかかるようだが、問題は、人形の助けがすぐには望めないということ。
魔力を強く注ぎ込めば戦闘人形の制御は容易に取り戻せるだろう……が……魔力消費は想定していたより多大なものとなるだろう。そんな状態で戦闘人形を動かしたところで……。
どうする?どうすれば?
頭の中が混乱する。ごちゃごちゃして最適解が得られない。じりじりと、精神が追い詰められていく。
ドロホフを先に殺すか。
ネロ達を相手するのか。
学校を運営するのも、魔法界でのし上がるのも、慎重に立ち回りさえすればそれなりに上手くやれたのに。
こと戦いについては頭に血が昇って、まるで集中できずに終わってしまう。魔法を使うのは上手いけれど、性格が戦い向きじゃない。上回れたり出し抜かれたりするとすぐムキになる。
相手が自分より上だと認めたくない。
自分が相手より劣ってると思いたくない。
だから、怒りは普通以上に膨れ上がるのだ。
(どの道ドロホフを放置しておいたらゴーレムの核の方まで行くかもしれねえ、まずはドロホフを狙う!)
ダンテがゴーレム内の魔力構造を操作することで、内部の岩壁はせり上がり、槍状へと変化する。その槍がドロホフ目掛けて何十本も飛来する──。
しかしドロホフも身のこなしも見事なものだ、軽快に岩の槍を回避し、受け切れない槍は防御して、攻撃をいなしていく。……しかも、余波で戦闘人形の何体かは壊れてしまった。
(!!クソッタレ……わざと戦闘人形が壊れるような動きをしてやがる!!あいつからしたら何体か壊れたところで損はしねえ、むしろこの後がキツいのは俺か!?)
考えるダンテの頭上を、魔力弾が掠める。守護霊で探知したネロ達がもう追い付いてきたのだ。
「見つけたゾォオオオ……ダンテェ!!!」
「!!ネロッ……!!」
「もう逃げられませんよ!!」
あくまでネロ達はこれ以上被害を出さないためにダンテを倒さなくてはならない。故にダンテに対して常に戦いを仕掛けてくる。それが厄介なことこの上ない。
で、あるならば。
追跡をここで断ち切るしかない──!!
「ドロホフは後回しだ!!お望み通りブチのめしてやるよガキどもが!!」
向かってきているのはネロとコルダの二人だけ。
シェリーは透明マントでも被って、必殺の一撃を喰らわせる腹積りだろう。
良い度胸だ。返り討ちにしてやる!!
魔力のコントロールも大分マシになってきたところ、今なら使える──『消滅魔弾』!
それも最大規模のものを喰らわせてやる!
ダンテは高濃度に圧縮した消滅魔弾を、コルダに向けて敢えて真正面から放つ。当然コルダは横に躱そうとするものの、そうはさせるものか。地面の岩を操って動けなくさせる。
「っ、動けな──」
「──オルガン・フリペンド!!」
(シェリーの位置はそこか……)
コルダの足下をフリペンドで破壊し、陥没させる。あわや消滅魔弾を喰らうところだったコルダは休止に一生を得た。お陰で位置がバレてしまったが、仕方ない。
(?あれ……今のフリペンド……少し違和感が……)
「トニトルス!!」
「
(いや、呆けてる場合じゃない!加勢しなきゃ!!)
シェリーとネロ、肉体活性した二人がダンテ相手に近接戦を仕掛けていく。透明マントは脱ぎ捨てた。
紅い力による早撃ち、雷魔法による神速。二つの最速がダンテに追随していく。
少しでも気を抜いたら死ぬ。
鬼気迫るダンテの迫力、けれど負けてはいられない。
幾筋もの閃光が煌めいては消えていき、弾ける。下手に手を出せば即死は免れない程の疾さの応酬だ。
戦いの余波が、迷宮全体に伝わっていく。
ゴーレム内の誰もが感じている。決着は近いと。
「トニトルス・ルーモス!雷光よ来れ!!」
「目がッ……、」
ばちり。痺れんばかりの青い稲妻が、ダンテの視界を焼き切った。至近距離から繰り出される雷帝の断罪は、免れる筈もなし。
ネロの杖は、好機を逃しはしない──!
「
守護霊達の饗宴曲。
顕現するは、ネロが使用できる守護霊全て。
犬、猫、山羊、鯨──胎生の動物に限り、ネロは守護霊を用途に併せて使い分けることができるが、一斉同時使用はあまりにも負担が大きすぎる。
持って一分。
その間に決着を付ける。
これらは全て、ダンテから与えられた力。今、纏めて貴方に返還する──!
「魂の発露たる守護霊ども……そいつらの寿命と引き換えに爆発的攻撃力を得た形態ってわけか……!!」
「流石に分析が早ぇナ!!」
何十頭にも及ぶ鹿の群れが地を駆け、何十匹にも及ぶ猿が疾走し、何十体にも及ぶ犬の群れが牙を剥く。
ダンテも初めて見る魔法だが、限られたリミットと不安定な形態と引き換えに物理的攻撃力を得たらしい。岩盤が抉られ、魔力が胎動する。
量など問題ではない。
消滅魔弾ならば、数など関係なく範囲内の敵を無双できるのだから。何なら
その考えを否定するように弾丸が飛ぶ。成程、この数ばかりの守護霊の目的は目眩し……!
付き合う道理はない。
身を隠し時を稼げばすぐに時間切れは来る。
「また逃げるつもりカ!?逃げ足と口の大きさだけは一丁前だナァ!!」
「……あァア!?」
安い挑発。
然して戦闘の興奮冷めやらぬダンテはハイ状態にあり、生来の気の短さもあってそれを無視できない。看過するわけにはいかない。
知らしめてやる。暴力の圧倒こそが、類稀な力の至上であるということを。涅槃を全身に纏いながら、術者たるネロを潰す──
──涅槃が、纏えない……
魔力の使い過ぎか……!?
いや、十分。消滅魔弾さえ使えれば、ただの数など恐るるに足らない、その筈だ。
「数の暴力も、圧倒的な個の前には平伏す他ねェ!これは逆境でも何でもねェ、最強は依然この俺だア!!」
ダンテのその様は、まさしく、悪鬼。
因果を断ち切るように。
未練を捨て去るように。
涅槃は守護霊達を次々と消滅させていく。遠くで、ネロが苦しそうな顔をしているのが見える。見たか、お前は所詮その程度なんだ。
くだらない
俺はそうはならない、なってたまるものか。
シェリーもコルダもドロホフもロックハートも殺すけれども、お前とリラだけは生かしてやる。強さを認めさせてやる。俺を肯定させてやるのだ。
「喰らェエエエ──ネロォオオオ!!!」
ネロへととどめの一撃を放たんとしたところで、視界の隅でネロの守護霊達が氷へと変化するのを見た。
守護霊とは、魔力の塊。
魔法糸さえ繋がっていれば如何様にも性質を与えることができる。魔力の触媒となる。瞬くよりも早く、下半身が凍てつき凍る。
くたばりぞこないどもが知恵を絞りやがる。
脚を、封じられた……!
「地を這えグレイシアス!!」
だから、どうしたというのか。
気付くのは遅れたが、反応は間に合った。おかげで凍りつくのは半身だけで済んだのだ。
ひとたび杖を振れば終わり。
何で勘違いしてしまったかは知らないが、自分を倒すという仄かな夢も無惨に潰える他ない運命。
ネロがカウンターを用意して雷を収縮しているようだがそれも間に合うまい。戦いを誰が教えたと思ってる?
シェリーの早撃ちにも対処可能な姿勢。
守護霊どもも粗方潰してやった。
邪魔は、もうない──!!
『──どうしてあんたは、紅い力を使わない?』
いつだったか、ネロにそう訊かれた時……あの時は適当に返事をしたと思う。
紅い力は寿命を削る呪われた力。
一瞬だけ強くなる魔法を覚えたって仕方ない。長年最強の座について力を誇示するのが目的なのだから、命を生贄になんてできない。そもそも、アイツが創った魔法なんかで強くなりたくもなかった。
それに、ヴォルデモート製の紅い力も気に入らない。
あいつの力を分け与えてもらうということは、奴の傘下に降るということだ。それは嫌だ。
俺はグリンデルバルドと違って、目的のためなら魂を悪魔に売ってやるような安い男じゃない。
持って生まれた才能で勝負してやるのだ──。
と、考えて、いたのだが。
どうやら、自分に嘘をついていたらしい。使いたくない一番の理由は他にあったんだと今、気付いた。
死にたくなかったんだ。
生きて、生きて、生き延びたかったんだ。
本当は強さなんかもうどうでもよくなってきていた。
生きれればもう、それでよかった。
何のために?
「──父さん!!」
──お前達と、生きたいと思っちまったからだ。
「リ……ラ…………」
闘争を感じて現れた娘を前に、ダンテは、致命的なまでに気を取られてしまった。
よもや、娘の前で、息子を攻撃しているところを見られるだなんて。違う、殺そうとしていた訳じゃない。気絶させようとしただけだ。
勘違いするな、リラ。
俺は別に──
「──ットニトルス!!!」
心中で言い訳を繰り返すダンテに、断罪の刃が突き刺さる。矛盾を抱えた愚かな男の終幕が来る。
結局、最後まで、甘さを捨て切れなかった。
決着は、ついた。
【守護霊よ産声を上げ給え】
ネロの必殺魔法。自分が行使できる守護霊全てを一度に顕現して操る。
消耗がクソほど早い。