シェリー・ポッターと神に愛された少年【完結】   作:悠魔

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今回長いです。
でもよく考えたらいつも長いです。


13.シェリー・ポッターと愚者の行進 Ⅳ

 ダンテは孤児だった。

 口減らしとして捨てられて親の顔も知らぬまま育ち、盗みと喧嘩に明け暮れる幼少期を過ごした。

 幸い、人より頑丈な体に生まれていたし、何やら不思議な力も持っていたので、生きるのにさほど苦労はしなかった。

 子供ながらにこの世は力が全てだと悟った。

 力を持った俺になら何でもできる、と思った。

 

「何やらおかしな術を使う子供がいるという噂を聞きつけてやって来てみれば、何とまあ魔法使いの原石か」

「……何だ、お前」

「お前の同族だよ。魔法の使い方を教えてあげよう、マグルに目をつけられる前に」

「訳わかんねえこと言ってんじゃねえ!!」

 

 サラザール・スリザリンと名乗る身なりの良い男から剥ぎ取ってやろうとして、ボコボコに返り討ちにされた後、ホグワーツというできたばかりの魔法学校に連れて来られた。

 そこでは、豊富な書物で知識を得、優秀な教え手の指導により才能を開花させられる夢のような場所だった。

 衣食住は簡単に手に入り、社会性を学べた。ダンテという名前もそこで貰った。

──素晴らしい。ここで身につけた力で、いずれこの世界の頂点に立ってやる。力こそ全てだった世界で生きてきたダンテは、やがてそういう歪んだ方向へ答えを見出すようになった。

 

「スリザリン……先生、俺と決闘してくれよ」

 

 奇しくも、ホグワーツの創設者の四人は、ダンテから見ても数世紀に一人の天才達だ。次元が違う。こいつらを倒せば、俺は誰より価値のある人間ということが証明できる──!

 

 

 

「決闘が望みなら、ええ、相手をするけれどもね。お前は戦いそのものよりも、その後の喝采や戦利品に興味があるように思えてならない」

「…………、それは、」

「騎士道精神を忘れてはいけないよ、ダンテ。決闘とは自己に打ち勝ち弱い自分に負けないためのもので、私欲を満たすための儀式ではない」

 

 気に入らない。

 心?心だと。必要なのは力だ。力があれば奪われずに済むし、力があれば飢えて死ぬこともない。これほど単純で絶対の摂理があるか。

 

「けれど、お前は意外と歳下の子達の面倒見が良いね?来年度から生徒達を取り纏める『監督生』という制度を実施するんだが、やってみる気はあるか?」

「────……」

 

 結局、ダンテは監督生の任を受けた。監督生になれば教師達との接点も増えて、戦える機会が生まれるかもと思ったからだ。

 監督生としての職務を全うしていく内に何か──…戦いに勝利した時の快感とは別の満足感を得た。人に感謝される程に、こう……悪くないな、なんて思ってしまう自分がいた。

 そうやって仕事をしていると「最近頑張っていますからね」と、創設者達と戦う機会を得て、普通に返り討ちに遭ったけれど、不思議と屈辱は感じなかった。

 ……何で、こんな気持ちになっているのか。

 

 ホグワーツを卒業すると魔力の真理を探究するという名目で旅に出て、路銀稼ぎに自分で教科書や本を書いて売っている内に、学校を経営してみないか、という話を持ちかけられたので、言われるがままにやってみた。

 学校を創ろうという話は前からあったらしく、学校を引っ張る指導者が欲しいということで、それに乗っかる形ではあったが、ダンテは創設者の座に着いた。

 名をダームストラング。

 疾風怒濤(Stúrm und Dráng)の捩りだ。それなりに格好の良い名前をつけたという自負がある。センス抜群だ。間の抜けたホグワーツとは大違いだ。

 

 そうして歳を取っていき、研究を続け、学問を教え、段々と安らかな気持ちになっていったが……ある日それがとてつもなく無意味なことのように思えた。

 学校運営が機動に乗り、学校同士の交流を深めようとサラザール・スリザリンと再会した時、その満ち満ちた魔力に圧倒された。

 あの頃よりも知見も感覚も優れているからこそ、その歴然な差がありありと伝わってきた。

 結局俺はホグワーツ創設者に勝ててない。

 学校なんてものにかまけて強くあることを怠った。強さを証明するんじゃなかったのか。こいつらに追いつくためには相応の努力と犠牲を払わなければならなかったというのに、俺はそれをしなかった。

 明くる日ダンテは同志とともに築き上げた学び舎を捨てて再び放浪の旅に出た。創設者を越えるために。

 

「できた……完成した、超巨大ゴーレム!周囲一体を吸収しながら進む破壊神だ!これで創設者どもを一網打尽にしてやる……!!」

 

 北方に来ていた創設者達に向かって、ゴーレムは歩を進めた。マグルだろうが魔法族だろうが関係ない。全て踏み潰して進むのみ。

 程なくして、ホグワーツの創設者四人が現れた。

 彼等の顔は一様に暗い。向上心があり、才能があり、立派に成長した筈だった生徒の成れの果てを見て、ある者は静かに涙を流しながら杖を振るった。

 上等で美しい組み分け帽子から紅い剣を取り出し、金色のカップは剣へと変化し、封印を解いた髪飾りは蒼の剣に至り、ロケットは緑の剣を呼び寄越した。

 

 元より圧倒的な才を持つ創設者達であるが、彼等は自らの叡智と魔力を一振りの剣に入力した。剣を握った彼等の魔力たるや、筆舌に尽くし難いほど無双だったと言われている。

 山ほどの大きさを誇り、暴力の化身たるゴーレムを、たった四人の魔法使いが魔剣を振るうと瞬く間に削られ消滅していったという。かくして全てを喰らう北の巨人は、魔剣携し四人の魔法使いによって滅びた。

 これが後に、ホグワーツ魔剣伝説と呼ばれる、ホグワーツ創設者の数ある武勇伝の一つとなる。

 

「こんな……こんな馬鹿なことがあるか……!!俺が当初想定していた戦力、その数倍は力があるものと見積もって……その上で勝てる算段だった筈だったのに……!!」

「負けた理由が分からないほど、お前は落ちぶれたっていうのか?……」

 

 

 

「この……馬鹿者が……」

 

 

 

 そうやって片目から涙を流したスリザリンの心境は、どのようなものだったろう。それを見た時にぴたりと怒りは止み、呆けてしまった。

 どうしてお前が泣くんだ……。

 その後、必死に抵抗したが封印は免れず、実に千年ものあいだ眠りこけてしまった。その間にスリザリンはダンテが行ったことの責任を取り、紆余曲折あってホグワーツを離れたらしいが……もう知る術はない。

 

「ふ、ふふ──忌々しい創設者どもの封印も千年は続かなかったようだな!感謝するぜガキども、お前達のお陰で目覚めることができた」

 

 封印が解け、ネロとリラと出会い、自分の手駒として育てるために偽りの親子となって教育を施した。

 創設者どもは死に、再び最強を目指せる機会を得た。

 今度こそ。今度こそこの強さを証明してやる。

 

「ネーロネロネロ!!行くぞリラァ!!」

「は、はい、兄さん」

「待ちやがれお前らァ!!!!」

 

 ……けれどこの生活でまた甘い考えに囚われた。

 死にたくない。こいつらと一緒に生きたい。

 でも強さを捨てたくない。でなければ何のために生きてきたのか分からない。

 結局、子供達を切り捨てる覚悟もないまま、時だけが無情に流れていき、ネロ達は愛想を尽かしてホグワーツへと逃げた。追手を差し向けることもできたが、やろうとは思わなかった。

 

 

 

 そして、今。

 

 

 

 息子に計画を潰され、娘に気を取られ、父親はここで惨めに地面を舐めている。芋虫のように四肢を動かしながら、もぞもぞと、血を流しながらも這う。

 その様を沈痛な面持ちで見ている傍観者は五人。

 先程まで激戦を繰り広げていたシェリーとコルダとネロ、そして今しがた到着したリラとロックハートだ。

 それぞれが、なんとも言えない感情で、ただ、見ているしかできなかった。

 

(俺が……こいつらを愛していた……そんな、そんな筈はねえ。そんな筈があってたまるか……俺は最強になるために全てを投げ打って──)

 

──本当に?

──本当に全てを投げ打ったなら、どうしてネロとリラを生かそうとした?

 

 死の間際に、ダンテは己が子供達を愛していることをようやく自覚した。結局、捨て切れなかったのだ。疑似的な親子関係を楽しんですらいた。

 ……不甲斐ない。情けない、みっともない。

 強くなることだけを目標にしてきたのに、ここまできて情に絆されて敗北するなんて嫌だ。親子の情?そんなものがあってたまるか。そんなものに負けてたまるか。

 

「ハァ……ハァ……クソ、まだだ、まだ俺は……!!」

「……生きてたカ。流石にしぶといナ……だが虫の息、あと一発ぶち込めば死ぬ。リラ、目ェ瞑ってロ」

「…………兄さん、」

「クソッ、クソッ!俺は全部捨てたんだ、繋がり全てを断ち切って、俺が最強になったんだ……!!」

「……もう黙れお前は……!!」

 

 

 

 

 

「──捨ててなんて、ないでしょう」

 

 

 

 

 

 ぴたり、と、ダンテの手足の動きが止まる。

 図星を突かれたからだ。本能的に、こんな小娘に自身の心情が理解されてしまうのが恐ろしかった。

 

「私が力を欲していたのは、大切な人を守りたかったから。……あなたもそうなんじゃないかな」

「そんな奴は俺にいねぇ……!!」

「いるでしょう、ここに。ダンテさん自身の誇りと、あなたの子供達。……あなたは自分と子供を大切に思える人だって、私は思うよ」

 

 そんなことを言ったところで、今更、どうしようもないことは分かっている。

 分かっているけれど、言わずにいられなかった。

 たとえ嘘でも、親が子供を不要だとか捨てたとか、そう言ってほしくなかった。呪詛を口にしたまま死んでしまうのは、ネロとリラがあまりにも救われない。

 

「いくら弱体化していようが、この人はダンテ・ダームストラングです。普通に戦えば私達程度が相手になる筈がない……。消滅魔弾なんて即死攻撃がありながら使用を避けたのは、つまりは、そういうことなんじゃないですか」

「…………」

 

 コルダの指摘は、その実正しかった。

 ダンテは、シェリーやコルダはともかく、ネロには直接消滅魔弾を撃とうとはしていなかった。ネロも息子たる自分にそれを使おうとしないことを計算の内に入れて戦っていた。

──本当に使わないやつがあるかよ、馬鹿野郎。

 いっそ駒だと割り切ってくれた方がまだマシだ。

 それが答え。ダンテが無意識のうちに取っていた行動なのだ。……とはいえ、それは何の免罪符にもならない行為ではあるが。

 環境は悪かったがやり直す機会は何度も与えられた。

 それをフイにしたのは、ダンテ自身。

 死ぬしか、ないのだ。

 

「兄さん……覚悟は、できてます……」

「『アバダ──…」

 

 緑の魔力を杖先に込め、ネロが引導を渡さんと、死の呪文を唱えんとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その瞬間。

 ネロの身体を、死の呪文が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ネ、ロ……?」

「…………兄さん!!」

 

 ダンテが呆けて、リラが絶望に顔を歪める。

 突然の事態にシェリー達も言葉を失うが、次の瞬間には既に杖を構えていた。

 

「──ッフリペンド!!」

 

 即座に、解いていた筈の戦闘状態へと移行し、閃光が放たれた方へと早撃ちするシェリー。だが、その呪文が魔法使いに当たることはなかった。

 ……否。

 より正確に言えば……『当たってはいるがすり抜けている』のだ。このような特異な魔法を使う相手には、よく覚えがある……!

 

「オスカー・フィッツジェラルド……!!」

「久方ぶりだな、シェリー。やはり生きていたか」

「貴様……!!どうしてここに……!!」

 

 縁の細い眼鏡の奥から輝く、不気味なまでに綺麗な琥珀とブルーのオッドアイ。几帳面に整えられたアッシュグレーの頭髪に、地味なスーツ姿の、いかにもつまらない役人じみた目立たない男。

 しかしその本性たるや、死喰い人の中でも極めて残虐性の強い狂人だ。人を痛ぶり嬲ることのみに快楽を見出す救えない異端者──…。

 そんな彼が、何故こんなところに……!?

 

「我らが帝王の指令でな、お前やダンテの動向を探りに行ってみれば……まさか超巨大ゴーレムが出現するとはな。いや確かに、ゴーレムには素人の私でも一目で分かるほど素晴らしいものを作ると感心したものだが、残念ながら私の紅い力の能力を使えば簡単に侵入することが可能というわけさ」

「──今度は何をしでかす気ですか、クソ野郎」

「言わずもがな、さ。邪魔な騎士団連中やダンテをまとめて一掃しに来たのさ」

 

 まずい。これは非常にまずい状況だ。

 これだけ疲弊した状況で、紅い力幹部相手と戦うなんて無茶にも程がある。こっちはダンテと一戦交えたばかりだというのに……!

 それに何より……ネロは大丈夫なのか……!

 

「──カハッ、ハァ、ハァ──…」

「うん?生きているか……確かに死の呪文で貫いたと思ったんだがな。守護霊を複数操る特殊能力が、お前の命を助けているのか?

 まあ、問題ない。どうせ死ぬ運命なのだからな」

 

 言い終わると同時、空間全体が振動に揺れる。

 ダンテがゴーレムを操作しているのではない、ゴーレムそのものがバランスを失い震えているのだ。

 驚愕するシェリー達を嘲笑うかのように、オスカーは懐から何やら魔力の感じる漆黒の球体を取り出した。

 

「クク……これに見覚えはないか?ダンテ」

「……それは、このゴーレムの核……!!」

「その通りだ。どうやら核の状態も分からなくなるほど消耗していたらしいな。今この核は半壊状態にある……完全に壊れる前に一人二人は苦悶の声を聞こうと思ってなァ……」

「失せろッ、下衆が!!」

 

 コルダの氷結がオスカーに向けて放たれるも、やはり先程同様すり抜けてしまう。三日月状に吊り上がった口元が下卑な笑みを強調していた。あまりの悪意に、とめどない怒りが湧く。

 やはり……どう足掻いても最低すぎる……!!

 

「さて、ネロの苦痛の声はまだまだ聴き足りないが……ダンテの惨めな姿も散々楽しませてもらったことだ、私はここで退散といこう」

(……いやにあっさり引き下がるのは、シェリーが何か新しい能力を得た可能性を考慮してでしょうか。向こうからしてみれば、全てをすり抜ける能力の対抗手段を何か得た危険がある……

 ……追いたいところですが返り討ちに遭うだけか……このまま引き下がってくれるだけならいいが……!)

「お前達も早いうちに逃げておいた方がいい。逃げられるものならな」

(そう簡単には行かないか……!)

 

 言うと、オスカーはばきりと核を破壊し、壁をすり抜けて去って行く。違和感を覚えてしまうほどアッサリと退散する幹部を見て、嫌な予感が迸る。

 あの悪意の塊のような男の心が、これしきのことで満足するわけがない。

 だが今は何より……ネロだ。

 仮にも生命を奪う呪文をその身に受けたのだ。

 ほんの僅かな生命力しか残されていない彼に、今更如何なる治療を施したところで意味がない、という事実が重くのしかかる。

 

「兄さん!!兄さん!!しっかりして!!」

「……ッ、ァア……、クソッ……いくらある程度耐性があるからって、魔力も残り少ないのに幹部の呪いを無効化できるわけがねェ……、死までの時間が多少、伸びただけダ……」

「そん、な……嫌だよ、もう嫌だよ死ぬのは、お願いだから生きててよぅ……!村の皆んなも、父さんも、兄さんまで私を置いて行くの……!?」

 

 かつて、これ程までに取り乱したリラを見たことがなかった。思えば、彼女は大人しい性格で塞ぎがちなところはあったが……それはもう傷つきたくない感情の裏返しだったのだ。

 父親のことは、長い時間をかけてようやく覚悟を決めたというのに、実際のところはそれより早く兄が死のうとしている。耐えられるわけがない。シェリーは、目の前で大切な人が死んでいった時のことを思い出した。

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だよ……こんなことって……こんなのってないよ……何で兄さんが死ななきゃいけないの……何にも悪いことなんてしてないのに、こんな……、

 ……ッ誰か、誰か回復呪文をかけて!誰か兄さんを助けて!兄さんが、兄さんが、死んじゃうよ……」

「……よせ、コルダ」

 

 今にも消え入りそうな声で、ネロは音を絞り出す。

 そうしている内にも生気はみるみる失われていき、肌は土気色へ変色していく。

 

「仲間を困らせるナ……何度も言ってるだロ……一人でも生きていける強さを待てって……」

「兄さん──」

「この世には悪いことなんてしてなくても……身勝手な理由で幸せを奪うような人間がいるなんてことは……お前が一番、よく分かってんだロ……」

 

 ……慰めの言葉もない。ただ普通に生きようとするだけでも、世界はあまりにも強さを求め過ぎる。

 ダンテを倒し、因縁にケリをつけられる筈だった。

 戦いの代償に死ぬのなら、まだ理解できる。

 けれど……こんな風に横から掻っ攫われていくなんてあんまりじゃないか。

 同じく父を失くしたコルダは、リラの気持ちを斟酌しながらも、だからこそ優しく肩を叩いた。

 

「リラさん。……最期です。彼の言葉を……よく、聞いてあげてください」

「……、……そんな……」

「………簡潔に言う。お前がいつか一人で生きるために残してある金があル……金の心配はするナ……本当に困ったことがあればコガネムシを上手く使え……俺にしてやれるのはそのくらいしかなかっタ……

 ダンテ、あんたにも、世話になっタ。あの世があるならまた会おうや……」

「…………!!」

「リラ……俺が死ぬことは気にするナ……最後まで守ってやれなくて……ごめんナ……」

 

 

 

「──そんな結末、認めてなるもんかよ……!!」

 

 

 

 ネロの言葉を遮るようにして、ダンテはそう言った。

 先程までの、何が何でも逃げ果せようという浅ましい必死さとは別種の焦りが、彼を突き動かしていた。

 シェリーとロックハートは静かに杖を構えた。

 

「ダンテ……?」

「お前ら、俺をネロのところまで連れて行け……いや、後生の頼みだ、連れて行ってくれ……!ネロを治す手立てならある……ネロだけならまだ返してやれる……!」

「さっきまで騎士団も死喰い人も潰すなんて発言してた人のことをどうやって信じろと……、」

「頼むから……!頼むから……、」

 

 ダンテはこれ以上ないほどに、頭を下げた。

 

「……お願い、します。何も変なことはしない……息子を助けさせてくれ……」

「……………!」

「〜〜っ、ああもうっ、私ったら父親に弱いんですから……!!変なことしたら即・凍らせますからね!!」

 

 無理矢理引き摺って、ネロの前にダンテを転がす。

 荒い息遣い、手先を動かすだけで苦痛なのだろうダンテだが、ゆっくりと、しかし正確にネロに刻印を施していく。こんなでも単純な魔法の腕だけなら世界最上位に君臨する魔法使いだ、動きに全くの無駄がない。

 出来上がったのは、生命に関わる錬金の魔法陣。

 ダンテが呪文を唱えると、陣が光り始める。

 この輝きは……!

 

「思えば……初めてお前と会った時もこうだったよな……!!あの時もお前は生死の縁を彷徨ってこんな風に死にかけてた……あの時と同じ要領で……!!

──あの時と違うのは、魔力の代わりに俺の生命力を渡すってことだ……!!」

「────ッ」

 

 驚愕に、目を見開く。ダンテはつまり、自身の生命と引き換えにネロを救おうとしている。先程までの負け犬のような様子は微塵もない。

 ただ……息子を助けたいという気持ちだけだ。

 

「父さん……!!」

「アンタ、何で……」

「……認めたくなかったんだ。

 俺がお前達と過ごしていると心が穏やかになって、残虐に敵を倒してた時のことを忘れそうになって……それが俺を弱くするんだって思うと怖かった。

 お前達にはそれ以上のものを貰ってたのに……

 俺の都合で、散々振り回しちまってすまねえ……

 地獄に行く前に、せめてお前だけでも何とかしてやらないとリラが可哀想でならねえ……!!」

 

 血反吐を吐き、残り僅かな灯火がネロへ注がれる。

 やがて……儀式は終わり、ネロは眠りへと落ちた。容態が安定したのだ。ほとんど確定していた死を上書きするなど、高等魔法もいいところだが……この男は、本来それほどの奇跡を起こし得る魔法使いなのだ。

 が、その代償に、ダンテは──…。

 

「……早く、行け……俺の子供達が死んだら……何のために命を懸けたか分からねえ……早く……」

 

「──ッ、行きますよ、皆さん!!」

「ネロは私が背負っていきます!」

「リラ、早く……!」

 

 ゴーレムの揺れは更に大きく、速さを増している。

 もう行かなければ、本当にここで全滅だ。後ろ髪を引かれながら、リラ達は、その場を後にする。

 リラは、大きな声で、ダンテに聞こえるように──思いの丈を吐露した。

 シルエットが遠くなる。

 言いたいことは沢山あったのに、咄嗟に出るのはつまらない単純なことばかり。そんな自分に嫌悪しながら、リラは、叫ぶ。

 

「──とっ、父さん、父さん!!兄さんをありがとう!わっ、私っ、上手くできなくってごめんなさい、出来が悪くってごめんなさい、駄目でごめんなさい、沢山教えてくれたのにっ……、ありがとう、育ててくれてありがとう!あの時、私達を助けてくれて嬉しかったの!

 今まで、本当に──…」

 

 嗚咽しながら、何度も、何度も。

 

「……本当の、本当に──…」

 

 

 

 

 

「──大好きだよ!!」

 

 

 

 

 

「リラ……優しいな……俺なんか口を効いてくれなくても仕方ないってのによ……」

 

「すごいな……ネロ……強えなあ……」

 

「命を懸けるってことが、こんなに怖くて、勇気のいることだって知らなかった……それなのに、死も恐れずにお前は向かってきて……」

 

「そんなに強かったんだな……お前……」

 

 

 

 

 

「──凄い子だなあ……」

 

 

 

(……あんがとよ、親父)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリー達は、今にも崩壊寸前といった様相のゴーレム内部をひた走る。外壁へ、とにかく外へ近い方へ。

 一秒後には崩壊してしまうのでは、そんな恐懼を必死に心の内に抑え込み、一歩でも前へ。

──焦りが脚を突き動かした。

 

「クソッ……オスカーの置き土産か……!!ここら一帯の魔力と位相が狂って、姿現しができない……!!」

 

 走らなければならない理由はそれだった。

 オスカーがゴーレムの核を破壊するついでに、魔法を仕込んでいたんだろう。元々、ゴーレム内はダンテの結界のようなものだったのだが……死にかけだったダンテを見て、結界の制御を一時的に奪ったのだろう。

 おかげで、今や姿現しすら不可能な空間。

 しかもシェリー達を悩ませたのは、元々ここは迷宮のような複雑な造りであるという点。幸い、ネロが予め用意していた脱出ルートに沿って向かってはいるが、この崩落で何度も道が塞がれてしまっている。

 

「もう少し……もう少しなのに……!!」

「こんな所で死ぬわけにはいかないのに……!!」

 

 気持ち悪い汗をかく。

 たった数百メートルの道のりが、今はこんなにも長く感じる。出口は──あとほんの少し──

──が、その通路はもう、落石で塞がれていた。オスカーの仕業なのか、それともツキに見放されたのか、考える暇すらなかった。

 諦めるな……一か八か高威力の魔法弾を……!

 

「ぁ」

 

 バランスが崩れた。

 ゴーレムの身体そのものが崩れて、天地すらひっくり返り、岩盤に押し潰されそうになる。さっきまであしのしたあにあった岩が、今度は頭上にある。

 咄嗟に、気絶しているネロ以外の四人は手を握った。

 逸れてしまわないように……否、死の恐怖を振り払いたかったからだ。

 結局、最期はこんな死に方なのか──こんな──…。

 シェリーはあまりの悔しさに歯噛みする。

 終わるわけにはいかない。

 気持ちだけではどうしようもないことは分かっていても、絶望的な状況を打破するものを、祈り、探した。

 

(何か、私に残されたものはないの……!?何でもいいから……この場を切り抜ける力があるのなら……!!どうか私に力を……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「──紅い力の更なる解放ォオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういうトリックなのか。

 シェリー達は、空の上に投げ出されていた。

 夜の空の遥か高いところ、そこに飛んでいた。ほんの一瞬目を瞑っただけなのに……どうやって?

 

 視界の端で今まさに超巨大ゴーレムが崩壊している。

 

 聞いてはいたけど、あんなに大きかったのか……。あそこにさっきまでいたんだな……。

 

 だらり、精魂を使い果たして空に身を委ねるシェリー達のところへと──…ある筈のないものがやって来る。

 

 

 

(空飛ぶフォート・アングリアが……こっちに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハン……暫く見ねえ内にまた一段と美人になったな」

 

「しっかり掴まってなよ、シェリー。舌噛むからね」

 

「……会えて、よかった」

 

 

 

 

 

「──ベガ!!ロン!!ハーマイオニーッ!!」

 

 




ダンテ・ダームストラング 死亡
死因:ネロに生命力を渡し、衰弱した


賢者の石は不老不死にするアイテムなんだから、紅い力と一緒に使えば無敵では……?と思うかもしれませんが、シェリポタ内において紅い力と賢者の石は一緒に使うことができません。

理由その①紅い力は負、賢者の石は正のエネルギーで食い合わせが悪いから
理由その②紅い力が削る寿命は本人が本来持つものだけなので、賢者の石でいくら寿命を伸ばそうが意味がないから

主にこの二つが理由です。
ダンテは四人もいる創設者との戦いは長期戦になると踏んで紅い力ではなく賢者の石を生み出す方へシフトしました。その時から紅い力自体は(使おうと思えば)使えたらしいですが、結局人生で一度も使うことはなかったです。
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