青年の手を掴むのは誰?   作:寡黙なる詐欺師

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雨と桜と空

 

 

ふと、目が覚めた

 

『マスター、大丈夫ですか?うなされてましたけど…』

服が寝汗で湿っている

 

「大丈夫だ…ちょっと顔を洗ってくる」

洗面台で顔を洗った俺は鏡を見る

 

「ヒデェ面だな」

目の下には隈、頬には涙が伝った跡がある

 

「しかし、寝ながら泣くか…」

存外、俺も器用だな、なんて事を思いながらソウルがいる場所まで行く

 

『雨が降ってますね』

その言葉を聞き、窓を見る

 

「ホントだ、大雨だな」

窓に耳を当て、雨音を聞く

ザーザーという音が心地良い

 

「ソウル―――」

 

『なんですか?』

 

「外に出ようぜ」

 

『今ですか?』

 

「今だからこそなのですよ」

 

『クスッ、では行きましょうか』

コイツは物わかりが良い

感情も他のデバイスと比べて豊かだ

最高のデバイスで、最高の“家族”だよ

 

「それじゃあ、行くか」

俺はソウルを身に着けて傘を持たずに家を出た

 

 

 

道中を歩いていると当然、雨で濡れる

そんな俺を見て驚いた顔をする通行人が少し可笑しくて面白い

 

公園に着いた

なのはと初めて出会った公園

士郎さんが大怪我を負って、高町家の皆がアイツに構ってやれなくて独りで泣いていたアイツに出会った

 

この公園には、一本の桜の木がある

俺達が小さい頃から春に満開の花びらを見せてくれた桜

 

「少し遅かったか」

 

『もう少し早く見に来ればよかったですか?』

桜の花びらは今回の大雨で落ちていく

 

「いや、雨に打たれてく桜っていうのも良いよ」

一つ、濡れた花びらが手のひらに付く

 

「綺麗な桃色だな」

 

桃色…不意にアイツの笑顔が浮かぶ

いつでも笑顔を忘れなかったアイツ

俺がピンチの時、助けてくれたアイツ

友達の為に傷付きながら戦ったアイツ

家族と楽しそうに話しているアイツ

どれも、どれも眩しくて目をつむっている間にアイツはどんどん進んで行って隣に立ちに行く事さえもできなくて悔しかった

 

俺はベンチに腰掛ける

 

まだ、雨はやまない

 

空を見上げる

空に手をかざす

この手は空に届かない

分かっていた事なのに、やってみると虚しい

 

手を引っ込める

 

いや、引っ込めようとした

 

だけど

 

この手は掴まれた

 

 

「――――やっと、見つけた!」

 

「なの、は…?」

 

「バカ!」

 

「えっ…?」

 

「バカバカバカバカ、ゆっくんの馬鹿!」

胸元を叩かれる

 

「どうして……」

 

「それはコッチのセリフだよ!」

なのはが俺の手を引き、立ち上がらせる

 

「どうして、あんな悲しそうな顔で“さようなら”なんて言うの!?」

 

「どうして、ゆっくんは私の隣に居られないの!?」

 

「どうして―――」

やめてくれ

 

「―――私達の前から姿を消そうとするの?」

俺は、お前にそんな顔をしてほしくない

そんな、そんな悲しそうな顔をしてほしくない

 

「…俺はさ、お前達みたいに誰かを救う事の出来る力なんてない」

ポツリ、ポツリと口を開いていく

 

「友達を守ることもできない」

 

「お前らの力にはなれない」

 

「俺が掴める腕は、もうない」

 

「お前達の近くに居れば、きっと迷惑をかける」

 

「足枷になる」

大切な人達の足かせになってしまう

 

だったら

 

「いない方が良い「ダメだよ!!」‥なのは?」

 

「ゆっくんが居てくれなくちゃ、皆が悲しむ!」

 

「ゆっくんがいないと、私達は安心して誰かを救えない!」

俺がいると安心する…?

 

「ゆっくんは私達の支え!」

 

「その支えは私達の力になる!」

俺は誰かの役に立っているのか?

 

「ゆっくんが近くにいないと不安になる!」

 

「ゆっくんは私達の力になっているよ!」

 

「私達はまだ、ゆっくんの手を掴んでいる!」

なのは達が俺の手を掴んでいる?

 

「君が私の隣に来れないなら――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――私が君の隣まで、どんな手を使ってでも行く!」

 

 

「君をもう、一人になんかさせない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が止んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、なんで、俺の為なんかにそんな事をするんだよ!?」

俺が叫ぶと、なのはは微笑みながら言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、ゆっくんの事が大好きだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと俺は、なのはを抱きしめていた

 

「俺もだ」

 

「えっ?」

 

「俺も、なのはの事が大好きだ」

俺には、月並みの事しか言えない

 

だけど

 

言わせてくれ

 

「愛してる」

そう言って、俺達は顔を近づけて……キスをした

 

しばらく見つめあう

 

「えへへ」

なのはは嬉しそうに笑う

結構、恥ずかしいな

そう思い、顔を逸らし桜の方を見る

 

「…おい、なのは」

 

「ん~何~?」

 

今、桜の向こうの空には

 

 

 

 

 

「虹が架かってるぜ?」

 

 

 

 

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