五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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今回ほぼオリジナルです。


風が吹けば金となる

「今日は……と。家庭教師もないし、思う存分自分の勉強ができるぞー」

皆んな林間学校で浮かれてるけど、どーせ私には関係ない行事だ。今日も今日とて、勉強勉強!

 

「ちょっと待って、上杉さん!」

「え?」

初対面の女の子だ。誰?この女子。

「私に何か用?」

「少し付き合ってくれないかな!」

「悪いけどこれから勉強を……」

「私は演劇部の部長なんだけどね、誰か良い女優を探してたところだったの!」

「話聞けよ」

 

この子の話をよくよく聞いていくと、どうやら演劇部の次の公演でお姫様役を探しているらしい。

だけど、いまいちピンと来る人がいないんだとか。それで頭を悩ませていたところ……たまたま私を見かけて、声をかけたらしい。

 

「そのくりくりとした眼に、抜群の美少女フェイス!間違いないよ、上杉さんしか有り得ないって!」

間違いだらけだよ。

「悪いけど。私は演技なんかできないし、そんな暇も無いから。他当たってくれる?」

「じゃあ案内するね。こっちが私達の部室だよー」

「聞けよ」

 

無理矢理連れ込まれた部室で、着せ替え人形にさせられる。これもいいよね、とか、この服も似合うんじゃない?とか。

「うーん、素体がいいから悩むなー」

「さっさと終わってほしいんだけど?」

「上杉さん!私があなたをハリウッドスターにしてあげる!」

「話が飛躍しすぎでしょ」

「いやいや、その美少女フェイスなら間違いないよ!とっても可愛らしくて、凛々しいその顔!間違いない、間違いないよ!」

 

「うーん、今度の劇はファタンジーだし、金髪のカツラでも被せてみますか!黒髪じゃなくなるのは痛いけど……」

痛いのはお前の頭じゃ。

「きゃーっ!最高!でもちょっとヤンキー感出ちゃったねー」

「何だこれ」

金髪、か。昔の髪を思い出す。

もしもあの子に出会わずに育ったら、こんな感じになってたのかな。

 

「部長、先生が呼んでますよー」

「ほんと?今行くね。上杉さん、ごめんね?ちょっと私行ってくるから、寂しくさせちゃうけど」

「はいはい。さっさと行った行った」

はー、いつになったら解放されるのやら。貴重な勉強の時間が……。

「あのー…部長がすみません。今のうちに帰った方がいいですよ」

「……え?」

「部長、可愛い女の子を見ると暴走する性質でして。普段はああじゃないんですけど。部長には私から上手く言っておくので……」

 

……まともな人もいたんだ。

先生って言ったのも、この子が機転を利かして言ってくれた嘘らしい。

「ありがとね。じゃあ、私もう行くよ」

「あっ、ちょっと……」

ふー。親切な人がいてくれて助かった。

 

「あの人、カツラつけたまま帰っちゃった……」

 

 

 

 

 

「ふー。何とか抜け出せた……」

コソコソしながら歩いたお陰で、誰にも気付かれる事なく学校の外へと出られた。

演劇部の部長に見つかりたくなかったのもあるけど、五つ子あたりにこんな格好で会ったら絶対からかわれるし、何より恥ずかしい。

そう、こんな格好で……。

 

「あ!そういえば、カツラと衣装まだ返してないじゃん!」

しまったー。鞄の中には入らないし、手に持って歩き回るのも何か嫌だし……。

「しょうがない、服は今度返すとして、服は着たまま帰ろう」

 

うん。鏡に写っている自分の姿が、何だかちょっと新鮮だ。少し面白い。

金髪に、黒系の服。うーん、ちょっと不良っぽさ入ってるな。

……けど、知り合いには見られたくない。こんな所、らいはが見たら何て言うだろ?

「でもせっかくだし……街の本屋でも行ってみようかな。………や、別に浮かれてるとかじゃないから。勉強出来なかったから参考書買いたいだけだから」

誰に言ってんだ私は……。

 

まじまじと、自分の姿を鏡に写す。

演劇部の衣装なんて埃まみれかと思ったけど、意外と小綺麗にされてあって、服自体もなかなか上等そうだった。

「この服、部費で用意した物なのかな。……あんまり服とか、買う機会なかったな……」

実を言うと、五月に浴衣を選んでもらった時はとても嬉しかったし、興奮した。

いつも着れれば良いの安物で済ませてたから、ああいう上等な服を着てみたいって気持ちはどこかに捨てちゃってたのかも。

 

まあ、あんまりお洒落とか分からないけど。

「さっさと本買って帰ろっと」

この本屋の参考書のエリアは、たしか二階だったはず。エレベーターは無いみたいだし階段で行くか。

私は階段を上がって、そして……。

 

「きゃっ……!?」

「っ!危ない!」

 

髪の長い女の子が、階段から足を滑らせたのを見た。咄嗟に足が動いて、背中を抱える。

その瞬間、ズシリと腕にかかる体重。思わず手を離しそうになるけど、そこは何とか踏みとどまった。

何とか間に合ったみたい。

この子は無事だ。

 

「よかった。間一髪、セーフ……」

「あ、あり、ありがと……」

「全然。怪我とか………」

……髪の長い女の子?

その髪は腰の辺りまで伸びていて、頭にはリボンをつけている。ふわりとした香水の香りが女の子らしい。

そして……ツンとしていて気が強そうな顔は、私が普段目にしているものだ。

 

(二乃………!?)

「も、もう大丈夫だから」

「う、うん」

やばい。バッチリ見られた。

正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。よりにもよってこの子だなんて……。こんな事なら寄り道なんてせずに、真っ直ぐ家に帰れば良かったんだ。

ていうか、二乃にしては何かしおらしいけど、どうしたんだろうか。

「あ……その……」

「……あれ?キミ、写真の……」

「え?」

「キミの名前教えて!」

 

???

上杉風子だけど。

二乃、どうしたんだよ急に。そんな、初対面の人と話すような喋り方……。

……初対面?

「あ、ごめんね!前にキミの写真を見たことがあってかっこいいなーと思ってたんだ」

写真……。

「まさか、あいつの親戚に会うなんて思わなかったわ」

あっ。

 

今、私は金髪のカツラをつけて、服も演劇部の衣装だ。

「なんとなく雰囲気は似てるわね」

あの頃の私を、私と思っていない二乃が、私をあの頃の私だと思ってるって事?

ややこしい……。

「え、えーと、それじゃあ私行くから……」

「あ!待って!」

「え?な、何?」

「この本屋、結構広いじゃない?一花……お姉ちゃんと一緒に来てるんだけど、逸れちゃって。探すの一緒に手伝ってくれない?私と同じ顔だから、すぐ気付くから!」

…………。

 

結局、探す事になっちゃったよ。

私も馬鹿野朗だなー。

「私、中野二乃って言うんだ。名前、何て言うの?」

「……カネコ………キンコ………カナコ、そう、私はかな子だよ」

「へー、かな子ちゃんかー。へーっ」

「…………」

「…………」

何か喋れよ!

 

「……えーと、何の本を買いに来たの」

「えっ?あ、私は付き添いで来ただけ。お姉ちゃんが女優見習いなんだけどね、今度やるオーディションの原作を読んでイメージを膨らませたいんだって」

「へ、へえー。真面目なんだね」

「うん………あれ?女優って言って驚かないんだ?」

「……知り合いにも一人いるからね」

ていうか、それ一花でしょ。

 

「女の子同士の禁断の恋を描いた恋愛小説らしいんだけどね、結構面白いらしいよー」

「私は恋愛とかはあんまり……」

「そうなの?可愛いし、彼氏の一人くらいいそうだけど」

「いないいない、出来た事すらないよ」

告白してくる男子はいたけど。

でも、私はまだまだ未熟な人間で、そんな私が恋愛するってのは……なんかこう、烏滸がましいような気がする。

私には恋愛する資格無いんじゃないか、って思うくらい。

 

すると、二乃が遠くに何かを見つけたかのように顔を向けた。

「あ!あそこにいるの、一花かも!」

え?ほんと?

見つかったのは良かったけど、このまま一花に会っちゃったらば、余計にややこしい事態になるだろうし……。

「じゃ、私はこの辺で……」

「!かな子っ、上っ……!」

その時だった。本が積まれていた段ボールがぐらりと崩れて、私の方へと落ちてきた。床は滑るわ物は落ちるわ、どんだけ危険な本屋なんだよ。

(やばっ……!)

頭に直撃するかと思った。

だけど、そうはならなかった。二乃が後ろから抱くような形で引き止めて、段ボールに当たるのを防ぐ。直後、鈍い音を立てて頭のあった位置に段ボールが落ちてきた。

 

「……助かったよ。ありがとう、二乃」

「………っ!ど、どういたしまして……」

「お客様!お怪我はありませんか!?」

「二乃!?大丈夫!?」

結構人の目も集まってきたし、一花の声も聞こえたし、ここは逃げるに限るな。

「あっ、ちょっと!かな子!?」

 

「行っちゃった……」

「怪我とかしてない?二乃」

「ああ、うん。私は大丈夫。……ふふっ」

「どうしたの?」

「ちょーっと、ね。……かな子ちゃん、か。また、会えるといいな」




せっかくなので令和になる瞬間に予約投稿してみました。
新たな元号という、歴史の節目を実際に体験する事ができて喜ばしく思います。元号は日本独自の文化なのでより特別感がありますね。
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