五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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6人の林間学校

図書室での勉強会、一番乗りは私みたい。

大方皆んな、林間学校の話し合いで遅れてるんだろう。私のクラスはすぐ終わったし。

ん?待てよ、肝試しの予行演習に丁度いい。三玖達が来たら脅かしてみよう。

 

「フー子、お待たせ」

「三玖」

「ひぃああっ!?」

うわっ、すごい声出たなー。

「フ、フー子!?なに、それ……」

「肝試しの実行委員になったんだ。せっかくだし脅かしてみようと思って」

「そ、そっか……って、私は脅かさなくていいから!もう」

 

言うと、三玖は口を膨らませる。情けない声を出したのがよっぽど恥ずかしいらしい。この子には悪いけど、ちょっと面白かったり。

「一花や四葉にもやるの?」

「勿論」

四葉の歌声が聞こえてきた。ちょうどいい。仮面をつけて、っと。

 

「林間学校、林間学校っ!上杉ちゃん、もうすぐ林間学校ですよー!」

「四葉」

「うわああああああ!!!」

四葉はリアクションが大きくて面白いなあ。

「図書室ではお静かに!」

「すみません」

ふざけ過ぎました。

 

「こんなに仮装道具持ってきて、どうしたんですか?」

「肝試しの実行委員になったんだって」

「そうなんだ!それにしても沢山ありますね、コレ」

「演劇部の知り合いがいてね。その子に貸して貰ったんだよ」

 

ちなみに演劇部の部長は、強引に誘っちゃ駄目!と顧問の先生に叱られたらしい。この間彼女の方から謝られた。

その時にお詫びの品として渡されたのが、この仮装用衣装。別にいらないんだけど、部長が金髪のカツラ持って「これを機に目覚めてくれればいいから!」って言ってた。全然懲りてないし。

 

「演劇部の知り合い?それに、実行委員だなんて。上杉ちゃんが珍しく社交的ですねー」

「やりたくてやってるわけじゃないよ。私が自習してる間に、面倒な役を押し付けられたってだけ」

「お気の毒に…」

「とびっきり怖がらせてこの恨み晴らしてやる。忘れられない夜にしたげるよ」

「ノリノリだね」

こういうのは形から入るのが大切なんだよ。って、演劇部部長が言ってた。

 

「でも、実行委員を一人にやらせるなんて酷いです!」

「まあ、 何だかんだ言ったけど私の自業自得だよ。林間学校自体どうでもいいし」

「むぅ……では、林間学校が楽しみになる話をしましょう」

 

四葉は勿体ぶって話し始めた。

クラスの友達に聞いたんですが、と前置きをして……とある伝説について語る。

「曰く、最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは、生涯を添い遂げる縁で結ばれるというのです!」

うわー。非現実的だ。くだらなっ。

 

「この伝説には続きがあるんですー!なんとその伝説は同性同士も大丈夫みたいで、実際に女の子同士で踊っていたペアは、数年後に海外に渡って同性婚したらしいんです!」

「えっ?」

「へー、くだらないと思ってたけどそれはすごいね。伝説になるわけだよ」

その伝説が本物かどうかはわからないけど、好きな人のためにそこまでできるってのは正直羨ましい。

 

「私も、本気で好きになれる子が見つかったら……」

「え?」

「何でもない。学生カップルなんてほとんどが別れるんだし、時間の無駄遣いだよ」

「そんな事ないですってー!」

「……なんで好きな人と付き合うんだろ」

おおっと。何だか哲学的な質問きた。

 

「その人のことが好きで好きで堪らないからだよ。三玖も心当たりあるんじゃない?」

「ないよ!」

まあ、そうだよね。

でも好きだからこそままならない事ってのもあると思うんだ。

「好きで好きで堪らないからこそ、もし上手く行かなかった時が怖いんだよ」

「……?」

「あ、フー子ちゃん。これ、私のクラスの男子から渡してくれって頼まれたよ」

そう言って、手紙を差し出された。

「おおっと上杉ちゃん、それはもしや噂のラブレターですか?」

「……いや、違うね。肝試しの実行委員の事で話し合いがあるから来てくれって」

「そうなんだ。行ってらっしゃい」

教室に向かうと、オールバックの男の子が待っていた。明らかに不良といった感じで、制服の着こなしにその点が見て取れる。

つーか、こいつ名前なんだっけ。別のクラスの男子なんて分からないよ。自分のクラスでも分からないんだけど……。

 

「えーと……」

「う、上杉さん。来てくれてありがとう。俺の事、知ってるスか」

「…………あー……」

「うぐっ……ま、前田って言います!覚えといてください」

「あ、あー。前田君、ね。オッケー」

覚えられるかなー。

 

「あれ?他の人は?」

「悪い、君に来てもらうために嘘ついた」

え?わざわざ私を呼び出して、何の魂胆なんだよ。

そういえばこんなシチュエーション、前にもあった気が……。そうだ、三玖に呼び出された時とまったく同じだ!

 

まさか、こいつもいきなり陶晴賢とか言い出すんじゃないだろうな。

 

「俺とキャンプファイヤーで一緒に踊ってください!」

 

………えっ。

「何で、私なんかと……」

「それはその……好き、だからです」

ド直球だ。男らしく、ズバッと言い切った。

 

「悪戯……じゃ、ないよね?」

「上杉さんが何回も告られてるのは知ってる。でも、その度に断ってるって。だけどそれは承知の上です!自分の気持ちに嘘はつけねえ……」

本気だ。

私は人を見る目はないけど、罰ゲームで告白してるんじゃないって事くらい分かる。

 

「今、答えが聞きたい!」

(……これじゃ、勉強が忙しいからなんて誤魔化しも通じそうにない)

話すしかないかな。私が恋愛をしない理由。

自慢じゃないけど、私は高校一年生の頃、こういう告白は結構されてた。

だけど、その度に断ってきた。何故かって?理由は簡単、その度胸が無かっただけ。

 

ーー私は、恋愛が、怖い。

 

小学生の頃、私が片想いしていた男の子がいた。だけどその子は、私じゃない女の子と仲が良かった。私が入り込む余地なんて無い、って思った。

そこで私は、勝手に失恋して、自分は必要とされてない人間だと勝手に思いこんだんだ。

その後京都であの子に会って、必要とされる人になろうと決めた。だけどあの日以降、私は恋するのが怖くなったんだ。

 

もしも、私より素敵な人がいたら。

もしも、私に愛想を尽かしてしまったら。

そう考えただけで、怖くなる。

だからこそ、恋愛はやりたくないんだ。

 

「……って訳だから、ごめんね」

前田には、過去に何があったかは伏せて、そういう恋愛はしたくないってスタンスを語った。

前田は私の言い分を最後まで聞いてくれて、少しため息をついてから、

「くそーっ!林間学校までに彼女を作りたかったってのに、結局このまま独り身かー!」

そう言って茶化して、「でも彼氏候補にはいつでも立候補するんで!」と言って帰って行った。……良い奴だなー。

 

何だったら女の子を紹介してあげても良かったかもしれない。五人ほど心当たりがある。

「私なんかより、絶対良い子が見つかるよ」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「俺とキャンプファイヤーで一緒に踊ってください!」

 

フー子の様子が気になって、後から見に来たけど……告白されてた。

可愛いし、こう言う事結構あるのかな……。

普段の行動を見てると忘れがちだけど、美少女なんだよね。

……オーケーするのかな。見た目はあまり好きじゃないけど、結構ちゃんとしてる人みたいだし……。

 

心が痛む。苦しい。

何で?

私とフー子は女の子同士の筈で、お互いに誰か男の子と付き合って、きっと将来結婚とかしたりするんだろう。

この告白もフー子にとっては良い事の筈なのに。なのに……、何でその光景を目の当たりにすると、こんなにも胸が苦しいんだろう。

 

「フー子………」

いくら息を吸っても、空気が入ってこない感覚。正常に呼吸できてないような気分。

だから彼女が前田君の誘いを断った時は、安堵の声を漏らした。だけど……フー子の恋愛観を聞いていく内に、もっとやるせない気持ちが渦巻いた。

 

恋愛を、したくない?

もともと彼女が恋愛には否定的なのは知っていたけど、こうやって改めて聞くと余計に落ち込む。

前田君で駄目なら、私なんかじゃ……。

 

「……って訳だから、ごめんね」

聞いたのはそこまで。

そこから逃げるように駆け出した。行く先なんてない。そこから離れたいだけだ。

だけど……入る間にも余計な事ばかり考えてしまう。ごちゃごちゃした頭を抱えて、気が付けば私の足は家に向かっていた。

 

「どうしたいんだろ、私……」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

「……これは何をどうしたいんだよ」

「地味目なお顔なので、派手な服をチョイスしてみました!」

「多分だけどあんたふざけてるでしょ」

前田を振って数日後。林間学校で着る服を選びに、私達は勉強会を早く切り上げてデパートまでやって来ていた。

つーか、洋服に一万二万とかかけるのか。私の服は千円もいかないってのに。これが貧富の差か!

 

「上杉、これとかどう?」

「あ、二乃本気で選んでる」

「ガチだね」

「あんたたち真面目にやりなさいよ!」

二乃と買い物するのは初めてだ。彼女曰く、ダサい服で近寄られたら迷惑らしい。

「ねえ一花、この色に合う上着ってどれかしら?」

「うーん、こういうのはどうかなー」

「あ、いいわね」

そう言って一花がチョイスしたのは、膝裏まである深緑色のコート。うーん、優しい色合いが良いんじゃないでしょうか。

 

「じゃあこれ買っちゃうわね」

「お金はいいから」

「ほんと?じゃあらいはの分と、あと明日の朝御飯の分も……」

「遠慮しなさいよ遠慮を」

ま、それは冗談として。お金出してくれるのはとても助かる。お金持ちのお嬢様にたかってるみたいで、ちょっと抵抗はあるけど…。

 

「三玖、ありがと」

「………!べ、別に……」

あれっ、何か余所余所しい。最近ずっとこうなんだよなー。何でだろ。

「二乃も、一花も、皆んなもありがとね」

「いえいえ!上杉ちゃんとのせっかくのデートなんですから、これくらいは!」

これデートなのかよ。

 

「じゃあ、私達下着買ってくるから……」

「………!私の服を勝手に選ばれたんだ、あんた達の服も選ばせてもらわないと不公平だよ!」

「わー!来るなー!」

逃げんなってば。着るのが恥ずかしいくらい、とびきり可愛いの選んでやるから。

 

「私のセンスに任せなって!」

「でも、上杉さんのサイズでは、私達の買う下着とはだいぶ大きさが違いますから……来たところであまり意味はないのでは?」

「五月、あんただけ次の宿題五倍ね」

「!?」

皆んな私にデリカシー無いって言うけど、五月もあんまり無いと思うんだ。

 

「じゃ、ここらで解散しようかな」

「上杉ちゃん!しおりは一通り読みましたか?ちゃんとサボらずに来るんですよ!」

四葉、あんたは母親かってーの。

「分かった分かった」

「うん、偉い!上杉ちゃん、最高の思い出を作りましょうね!」

最高の思い出か……。

小学校の修学旅行は色々あったし、今度は、最初から最後まで楽しい物にしたいな。

 

 

 

 

 

 

靴を脱ぐのももどかしい。バタバタと玄関を走って、居間に雪崩れ込むようにして入る。

そこには、布団を敷いて辛そうにしている私の妹がいた。

「らいは!?大丈夫!?」

「ケホッ……お出かけの最中にごめんね、お姉ちゃん」

「あんたは身体が弱いんだから、無理しちゃ駄目だよ」

 

デパートで買い物を済ませた後、お父さんから連絡があって、らいはの事を知った。小学校で倒れた、って。それを聞いて、私はポカリやら薬やらを買うと、飛んで帰ってきた。

この子は生まれつき身体が弱い。病気もしょっちゅうだし、風邪で倒れる事も少なくない。明るく振る舞っていても、すごく辛いはずだ。

 

「お父さんは仕事で明日まで帰れないって」

「……そっか。お姉ちゃんも、明日は林間学校だよね」

「……………」

お父さんが帰ってこない以上、私がこの子の看病をする必要がある。

だけど、この子の隣で明日の事を考えてドキドキする事も、この子が起きた時に出発してるのも、どちらもできそうもない。

 

「もういっこわがまま言っちゃおうかな。帰ったら、楽しいお話いっぱい聞かせてね」

あの子達は、わざわざ私に服まで買ってくれて。四葉は『最高の思い出を作りましょうね!』なんて言ってくれた。

だけど、ごめんね。

私にとっては、最高の思い出なんかより、らいはに元気になって貰う事の方が何倍も大事な事なんだ。

ちょっと、残念だけど……。

 

「私は大丈夫だから」

らいはのこんな顔を見たら、そんな事も言えなくなっちゃうよ。

「分かったから。……早く寝なよ」

 

 

 

 

 

「らいは!生きてるか!?……風子?」

 

ようやく帰ってきたか。もう朝だよ。

 

「お父さん。らいはがまだ寝てんだから、静かにして」

「看病してくれてたのか。……お前、もう林間学校のバス出てんじゃないのか?」

「そうだっけ?どうでもよすぎて忘れてた。でもこれで三日間、思う存分勉強できるよ」

 

さーて、お父さんも帰ってきたし、私は図書館にでも行くかな。リュックの中には、勉強道具も入ってる。そのまま持っていけば大丈夫でしょ。

「風子、忘れ物だぞ」

げっ。修学旅行のしおり出しっ放しだった。うわー、恥ずかしいな。付箋とか読み込んだ跡がびっしりあるんだった。

夜、暇だったからリュックから出してずっと読んでたんだっけ。

他にやる事も、らいはの汗を拭くくらいしかなかったし……。

 

……これじゃ、私が林間学校に行きたいみたいじゃん。

 

「早く帰れなくて悪かったな。一生に一度のイベントだ、今から行っても遅くないんじゃないか?」

お父さんはこう言ってくれている。

「……別に…………」

でも、なんだか変な意地を張っちゃって素直に行きたい、って言えない。我ながら面倒くさい性格だと思うよ、本当に。

 

「あー!お腹空いた!」

 

……………えっ???

今の、らいはの声?どうした急に立ち上がって。全然元気そうじゃん。

 

「あんた熱は……?」

「治った!なんでお姉ちゃんまだいるの?早く行った行った!」

か、返せ!私の気遣いを返せ!こいつめ!

「ありがとう!私はもう大丈夫だから、林間学校行ってきて!」

「だからバスが……」

「バスはもう出発してしまいましたよ」

 

い、五月?

「な、何でここに……」

何しれっと入って来てんだ、こいつ。ピンポン押してないだろ。

「それはこちらの台詞です!すみません、上杉さんをお借りします」

「おう!五月ちゃん、娘を頼んだ!」

 

五月に連れられて、外に出る。家の通りを何回か曲がっていく。一体何があるっての。

「あなたの家を知っているのは私だけですから、私にしかここへ案内できません」

「え?ここ……って……」

 

「フー子」

「おそよー」

「こっちこっち!」

「ったく、何してんのよ」

他の姉妹達が、例のカッコいい車の前で待っていてくれていた。

何となく、察した。これで私を連れて行く気なんだ、この子達。

……なんだよ、もう。

そんなに私を林間学校に連れて行きたいのかよ。

 

「……仕方ない、行くとしますか」

やれやれ、とスカした態度。でも……本当に、心の底から感謝してる。

「………ありがとう」

少し恥ずかしかったから、五月達には顔を見せられなかったけど。

「……別に大丈夫ですから、早く乗ってください!」

「宿題五倍とか言ってゴメンね。あれ冗談だから、本気にしないで」

「分かってますよ、もう!」

冗談を言いつつ、五月は柔らかい顔をして先に車に乗り込んだ。さて、私も……忘れ物はしてないよね?

 

「あ、ほら、上杉。生徒手帳落としてる。見られたくない写真が入ってるなら慎重に扱いなさいよ」

「!ありがと」

「……ふふふ。実はこの間、この写真の子に会ったのよ。あんたと違ってカッコ良くて頼りなって、しかもその上可愛かったわ」

「へ、へー……」

「これ、いつ撮ったの?」

「えっと、五年前……かな……」

「そう。五年前か……うーん、どこかで見たような気も……」

 

 

 

「三玖、結局フー子ちゃんをキャンプファイヤーのダンスに誘ってないみたいだけど、良かったの?」

「……うん。私は、いいや」

「何があったかは知らないけど……そういう事なら、ぼっちのフー子ちゃんの相手は私がしてあげようかなー」

「……別に、大丈夫。私達は五等分だから」

「あらら」

 

(それに、フー子が嫌って言ってるのに、彼女を誘うのも……)

(三玖がこう言ってるんだもん。お姉ちゃんなら応援してあげなきゃね)

 

 

 

(上杉さん、先の試験で指導してくれる人の必要性は感じました。多少、私の理想とする教師像からは離れていますが……。らいはちゃんの為にも、貴方には楽しい思い出を作らせてみせます!)

 

「どうですか上杉ちゃん、乗り心地は!」

「うん!ふわっふわ!」

(私がこの三日間を、上杉ちゃんの思い出の一ページにしてみせます!)

 

それぞれの思いを乗せて、車は動き出す。

「しゅっぱーつ!」

 

 

 

おまけ

 

「37.6℃……おいおい、全然治ってないじゃねえか、らいは」

「うう……昨日よりは下がったもん!」

「フー子に気を遣うのも良いが、まずは自分の身体を治さねーとな」

「そだね……。お父さん、お薬飲ませて」

「おう」

「汗拭いて」

「おう」

「あと学校の宿題やっといて」

「ドサクサに紛れるんじゃありません」

「てへ☆」




らいはちゃん、熱治ったのは演技説。
最近グズマさんがアニメに出てきた事もあり、ポケモン熱が再熱しました。よっしゃ!脱出ボタングソクムシャと影踏み滅びゲンガーでも作るか!と思い立ってサンムーンを開こうとしたら充電切れ。充電器友達に貸してました。
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