五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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五等分の花婿

俺の名前は上杉風太郎だ。

赤点スレスレの問題児達、中野家の五つ子の家庭教師をやっている。

俺の当面の目標は、五人全員を赤点回避させて無事全員を卒業させる事。初めはなんて遠い目標だと思ったが、少しずつではあるが着実にその目標は達成されつつある。

 

初めは、なんて奴等だと思った。

勉強にやる気がある奴が一人だけ。しかもそいつが一番の馬鹿だ。俺の事を嫌って、追い出そうとしている奴等もいたな。

だが……そんなマイナスからのスタートではあったが、少しずつ、本当に少しずつ、五つ子の信頼を勝ち取っていった。

 

戦国武将が好きな三女と話ができるように、ひたすら日本史に詳しくなったり。

 

約束を破ってしまうことに引け目を感じていた長女のために、休みの日だというのに人混みの中を奔走したり。

 

くだらない事で喧嘩しちまった五女と、嘘をつきながらではあるが仲直りしたり。

 

いつも人の為に行動する四女を、いつもありがとうと労ったり。

 

過去に囚われて、前に進めないでいた次女の背中を後押しするために、わざわざ変装までやったり。

 

俺のせいで、せっかくの姉妹の絆を掻き回してしまった五人に、責任を感じて家庭教師を辞めたり。

かと思えば、五人は俺を逃しちゃくれなかったんだ。五人の繋がりは、絆は。いつのまにか俺も繋いでいたんだ。

誰かに必要とされる人間になる。

そう決めたあの日からずっと、勉強ばかりやってきた。だけど、それはたぶん現実逃避だったんだな。俺は人の輪を壊してしまうのが怖かっただけなんだ。

俺がこんなに馬鹿だったなんて、家庭教師をやる前は考えもしなかった。

 

今日も朝がやって来る。

学校に行けばあいつらがいて、放課後は家庭教師をしに家まで行って。くたくたになって帰ったら、らいはのご飯を食べるんだ。

さあ、やってやるぜ。

 

 

 

 

 

俺は上杉風太郎。

ーー中野家の五つ子の、家庭教師だ。

 

「お姉ちゃーん、早く起きないと遅刻するよー?」

 

 

 

 

 

俺は上杉風太郎。

「お姉ちゃんってばー」

 

 

 

 

 

俺は(ry

「こらー!お姉ちゃん!」

 

ぽかんと頭を叩かれた。

痛い。そこでようやく意識が覚醒する。

お姉ちゃん?

なんか変なあだ名で呼ばれた気がするが、きっと気のせいだな。

 

「もー、夜遅くまで勉強してるからだよ。早く起きて支度してっ、風子お姉ちゃん!」

「あれー?」

気のせいじゃなかった。

おいおい、今日はエイプリルフールじゃないんだから。そう言おうとして……喉から、自分のものではない声が出た事に気づく。

 

「……え?」

俺は、(自分で言うのもなんだが)ゲームの世界に閉じ込められた二刀流の剣士とか、どこぞのハーレム漫画の主人公のような声をしている。

それが何だ?

こんなーーこんな、女の子のような声は。

「まさか!?」

身体にも感じる違和感。

五つ子ほどではないが、柔らかな胸。サラサラと長い髪。

思わず、バタバタと走って鏡に写る自分の姿を見た。

 

「………お、女の子だ」

鏡に写っていたのは、ピクピクと口を引きつらせたーー美少女だった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

何故、こんな事に?

何度も何度も確認したが、どう考えても今の自分は女子の身体だ。いくら勉強狂いとはいえ、一応は健全な高校生だ。少しは邪な事も想像したが、自分の身体という事を思い出してしまい複雑な気持ちになってしまう。

しかも何故か、箪笥の中に入っていたのも女子の制服。それどころか私服も全て、女の子用のものだ。

一番辛かったのは、らいはも親父も自分の事を女の子、上杉風子だと言っている事だ。世界がおかしいのか、自分がおかしいのか。風太郎じゃなかったのか俺は。

 

「歩きづらいな、これ……」

ヒラヒラと足に感じる感覚に違和感。いつもならば単語帳片手に、ポケットに手を突っ込んで歩いていたものだが……スカートを上から手で押さえながらの登校となった。

 

おかしいといえば、もう一つ。

カレンダーのめくり間違いかと思ったが、道中コンビニで新聞の日付を確認して戦慄した。ーー時間が、巻き戻っているのだ。

より具体的に言えば、五つ子と出会うくらいの時期だ。正確な日は覚えていないが、確かこの時期に転校して来るはず。

 

「……また、家庭教師やれってんじゃないだろうな?」

色々とモヤモヤとしたものを感じながら、もう習ったところだから退屈だなと思いつつ、いつも通り勉強をして、昼休みに入る。

前は休み時間には五つ子と話したりしていたのだが、今は友人ゼロの状態。少し寂しさを覚えつつ、焼肉定食焼肉抜きを頼んで、いつもの席に座って……

 

「すみません、僕も一緒に食べていいですか?他に席が空いてなくて」

…………………。

星型のアクセサリーをつけた男子。

お前誰?すごい、既視感あるんだけど。

「ああ、別にいいよ」

「ありがとうございます!午前中にこの高校を見て回ったせいで、脚が限界なんです」

ん〜〜?

なんか、どっかで聞いた話だなー。

 

「見てよ、アレ!上杉さんったらイケメンとご飯食べてるわ!」

「やだ、普段一人のくせにこういう時だけ美味しいとこどりきちゃって!」

うるさいな、俺は男だ。

誰が好き好んで男を誘惑するってんだ。

 

「ああ……あまり気にしないでくださいね。別にナンパのつもりで誘ったんじゃないですから」

「ああ、そう」

つーかその方が助かる。

ふと、目の前の男子のご飯を見た。

……海老天やらいか天やらかしわ天やらさつまいも天やらかまトッピングされたうどん。デザートにプリンまで!

このセレブな昼食に、一つの嫌な予感が浮かび上がってしまう。目の前の男子は、スポーツをやっていてエネルギーが必要……という訳でもなさそうだ。

もしかして……。

 

「あ、なんか落ちてますよ」

あ!それ、俺の今日の小テスト!

「上杉風太郎、点数……0点?」

あああああああ!!!やめろ!めっちゃ恥ずかしい!マジで恥ずかしい!ほんっとに恥ずかしい!屈辱!本当に!

「これ、友達のテストか何かですか?」

「………まあ、そんな所」

仕方ないだろ!つい、いつもの癖で名前欄に上杉風太郎って書いてしまって、名前が違うって事で0点取ったなんて!

 

「貴女のテストはどうだったんですか?」

「……とーぜん、100点だよ」

「えっ!す、凄いですね……」

一応、全問正解だったし……。

「悔しいですが、勉強は得意ではないので羨ましいです……。そうだ!せっかく相席になったんですし、勉強教えていただけませんか」

…………!!!

この会話、やった事があるぞ!

記憶があるぞ!もしかして……もしかして、なのか?

 

「ご、ごちそうさま!俺もう行くからっ!」

「え?ちょ、ちょっとーー……?」

逃げるが勝ち。

これ以上現実を直視したくなかったので、逃げる事にする。

 

 

 

『お姉ちゃん、お父さんがいいバイト見つけたんだ!最近引っ越してきたお金持ちのお家なんだけど、息子さんの家庭教師を探してるらしいんだ』

知らなかったのか?家庭教師からは逃げられない……

そこで流石に事情が飲み込めた。

さっきの男は、五月だ。五月が男になった姿だ。

おそらくは他の姉妹も……。

なんだかもう、前回みたいに立ち回れる気がしない。

 

「らいは、悪いがそのバイトは……」

『これでお腹いっぱい食べられるようになるね!』

「…………………」

仕方がない、やってやろうじゃねえか。

むしろ、男同士、前よりも上手くやれるかもしれねえ。それに前回の記憶もある、きっと最善の立ち回りができる筈だ。

 

 

 

「中野一樹(いちじゅ)だよ、みんなよろしくねー」

「中野二斗(にと)、よろしく」

「……中野三久(みつひさ)

「中野四季(しき)です!皆さんよろしくお願いしまーす!」

「中野五夜(いつや)です。どうぞよろしくお願いします」

五人いるんかーい!

まさか、全員が同じクラスとは。そして薄々感じてはいたが、五人とも男なのか……。

まあ、双子とかならともかく、五つ子で性別がバラバラっていうのは無いだろうしな。

 

「イケメン五人組……!」

「五つ子、最高!」

「…………はーーー」

盛大に溜息が漏れる。俺の気苦労が増えているとも知らず、騒ぎやがって……。はぁ。

休み時間になると、それぞれ女子に話しかけられて、話す時間は取れないし……。

 

「いやいや、無理に話さなくてもいいんだ。どうせこれから会うんだし。昼飯でも食べてこれからの事を考えよう……」

昼飯、昼飯……。

ん?そういえば、この昼飯の時に何かあったような気がする。

「うーえすーぎさーん」

……ああ、そうだ、これだ。

「お前は……」

「あはは。やっとこっち見た。そして今のに動揺しないとはやりますねぇ」

前にもあったし。

 

「俺、上杉さんにお届け物に参りました。さあ、あなたが落としたのはどっちのテストですか!?」

あー、あったあった、こんなやつ。

こんな俺にも話しかけて来てくれて……って、こいつ、男になってもその悪目立ちしてるリボンつけてるのか。

でも何だか、四葉……じゃない、四季の持つ雰囲気みたいな物が、そのリボンを違和感の無いものにしている。

 

「上杉さん、五夜から聞きましたよ?話してたら急に逃げられて、何か不快な思いをさせてないか不安だって」

「……………」

「俺の弟が何か失礼働いてたらすみません。でも、できれば理由は何か言ってくれれば幸いです」

「……俺は、じゃない、私は、早くトイレに行きたかっただけだ……だけだよ」

「そうですかー!それなら良かった!」

 

うんうん、と頷く四季を見て、こいつらも基本的な性格は変わらないんだなあ……と分かった。

二斗がやや心配ではあるが、これなら早い段階で全員を勉強会に参加させる事も可能かもしれない。

よーし、希望が見えてきた!

 

以外、ダイジェスト

 

 

 

 

 

「ああ、やめてくれよ、四季。服着てないから照れる」

「一樹!それ普通にセクハラだからー!」

「うるさい!早く出ろ、このズボラ野郎!」

「ちょっ!?フー子ちゃん、意外にすごいグイグイ来るんだけどー!?」

 

 

 

「ほら、クッキー焼いたぜ。上杉も食えよ」

「…………」

「ほらよ、水。飲みな」

(こ、この水を飲むべきか?しかし、五夜に俺の家の事情を知ってもらい、らいはの友人になってもらうためには、これがベスト。前回とあまり違った展開になるのも避けたい……)

「サ、サンキュー……」

「ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよなァー。じゃあなー」

「二斗!それ普通に犯罪だからー!女の子が男の子にやる分にはまだギリギリ許される感あるけど、男の子がやる分には普通にクソ野郎だからー!」

 

 

 

「ウチでご飯食べていきませんかー?」

「あ、ああ!ありがとうございます、らいはちゃん!」

「「ウチの妹(娘)に鼻の下伸ばしてんじゃねえぞ……」」

「!?」

 

 

 

「………まさか風子が男を連れてくる日が来るとはなー……」

「?」

「五夜くん、つったか?表でろや。ちょっとオジサンとお話しようや……」

「親父、違う。絶対違うから」

 

 

 

「さ、真田幸村……も、もうダメだあ……」

「わ、私のスピードと張り合えるなんてやるじゃん」

「俺、クラスで一番足遅かったんだけど…」

「………暑い。脱ぐか」

「………!?!?そ、そこまで脱ぐ!?」

 

 

 

「二斗、危ない!」

「うおっ!?……お、お前!上杉お前!不法侵入だぞ!」

「違う、私は取りに来ただけだから!」

「…………二斗、タオル一枚で女の子と組んず解れつの状態になって、一体何をやっているんですか」

「あっ………」

「やめろォ!」

 

 

 

「私は、こいつらのパートナーだ!返してもらいたい!」

「何をわけのわからないことを!ウチの大切は若手俳優を離しなさい!」

「しゃ、社長!その子は人違いで……」

「この女狐!!」

「えっ」

 

 

 

「どうしてもこの生徒手帳を返して欲しいのか?」

「………う、うん」

「頭が高えんじゃねえのか?」

「………お、お願い、します」

「良い眺めだな、オイ?」

「二斗!それヤバい奴だから!R-18指定されちゃう奴だからー!」

 

 

 

「赤点を取ればクビ、か。良いこと聞いちまったぜ」

「……………」

「……………」

「………あのさ」

「二斗!男の子が堂々と女の子の入浴中に入って来るの犯罪だからー!」

 

 

 

「やば、寝すぎた!せっかく泊まり込みしたのに、勿体ない!」

「………すぴー……」

「…………これって」

「三久!女の子が寝ぼけてベッドに入るのは可愛げがあるけど、男の子だと普通に怖いやつだからー!」

 

 

 

「おはようございまーす」

「何とか、四季の変装する事で通れたねー」

「リボンつけただけだけどね」

「あれ、上杉さんは?」

「おはようございまーす」

(((………か、可愛い……)))

 

 

 

「前田、お前も女になっていたのか……」

「何言ってんのよ、コラァ!」

「返事くらい待ってあげなよ、ね?」

「…………ハッ!やめて!俺のために争わないで!」

(絶対楽しんでるだろコイツ)

「と、とにかく!俺、この子と踊る約束してるから!」

「ま、まじかー……そっかー……ラブラブなのかー……」

「………………」

「そ、そっかー……へー……」

(居た堪れない……)

 

 

 

「五つ子ゲーム!イェーイ!」

「私はだーれだ?」

「………」

(……側から見たら、俺は豪華な車の中で、同年代の男とゲームを楽しんでいる女って訳だよな……)

(……ホストクラブじゃねーか!)

 

 

 

「えっ、混浴?」

「はぁ?こいつと部屋のみならず、風呂も一緒って事か!?」

「言語道断です!そんな破廉恥な!」

「別に私はいいけど……」

「「「!?」」」

 

 

 

「お、お前!写真の……!」

「あー、どうも。親戚の風子がお世話になってます」

「そ、そうか……」

(……こいつ、女の時もそうだったが。男になってもワイルドな奴が好きなんだな)

「……タ、タバコ吸いてぇ〜!法律犯してえ〜っ!」

(アピール下手すぎかよ)

 

 

 

「一樹、二人してこんなところで何してたんですか?」

「…………あー……」

「………えーっと」

「一樹ー!それ王道パターンだけどあかんやつー!」

「ほんと、よく押し倒されますね」

「まったくだよ」

 

 

 

「この絆創膏……お前、もしかして昨日の……」

「え?違いますよ、なんですか」

「嘘だ!だってこの絆創膏、お前にしかやってねえし!って、何で逃げるんだ!おい!」

「あーっ。上杉さん見ーっけ」

(そうそう、ここで四葉に見つかって、かまくらの中に隠れるんだっけ……?)

「ちょっと君達、何やってるの。二人で女の子を追い回して」

「えっ」

「あっ」

(ごめん……)

 

 

 

 

 

 

「あの時もずっと耐えてたんだね。俺も、周りが見えてなかったよ」

「らしくない事言うんじゃねえ。早くいつもの調子に戻れよ」

「俺たち五人がついてるよ」

「俺のパワーで元気になってください!」

「この三日間の修学旅行………」

「………いえ、僕達と出会ってから、あなたは何を感じましたか?」

 

(はぁ……ほんと、女になっても頭が痛い事ばっかり………)

(………でも、ほろ苦い思い出を追体験する内に、懐かしさと幸福を感じるようになっていった。それは……多分皆んながいたから)

(今なら言える)

(あの時、言えなかった一言)

 

 

 

「皆んな」

『?』

「傍にいてくれてありがとう」

 

おわり。




つづかない。

上杉風子シリーズを書くにあたって、初期の段階で考えていたのが、『五つ子も性転換させる』というものでした。
結果、二乃がクソ野郎になるのでやめておいたのですが、良いキャラにはなったと思います。
金持ちの五人の男の子の家に、お金を稼ぐために貧乏な家の女の子が通いに行く。うーん、犯罪の匂い。
お父さんは生きた心地しなかったでしょうね。
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