五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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四つのさよなら

二乃から手痛いしっぺ返しを食らって、どうしたものかと思いつつ、のこのこと家に帰って来てしまった。

五月に八つ当たり気味に勉強を教えていると、携帯の着信音。一花からだ。

マンツーマンのあまりのスパルタに泣きべそをかく五月が憐れになってきたので、仕方なく電話に出る事にする。

 

『フー子ちゃん、話があるんだ』

 

いつになく真剣な声色。

何事かと思えば、四葉の陸上の練習がまた入ったのだという。朝練らしい。

これ以上……土日も練習があるようなら、確実に勉強に支障が出てしまう。それは流石に看過できない。

だから四葉からしたら余計なお世話かもしれないけれど、四葉本人と、そして陸上部の人と話す必要がある、と。

 

「私が行くよ。陸上部の部長さんにも一度ガツンと言ってやりたいところだったし。三玖はそういうの苦手だし、一花じゃ朝起きれないだろうし」

『あははー……って、電話しておいて何だけど、本当にいいの?フー子ちゃん。私達の事情に首突っ込んでもらう事になるんだよ。……君を、頼っちゃうよ?』

「何を今さら。二乃も四葉も五月も、私の可愛い生徒なんだから。寧ろこれぐらいの事をしなきゃ責任取れないよ。……皆んな一人じゃどうもできないくせに、一人で抱え込んじゃうんだからさ」

『む〜、花火大会の時はごめんってば』

「ほんとだよ」

 

まあ正確には、五つ子全員が抱え込んじゃいやすい子達なんだけれど。

一花の花火騒動に始まり、五月は試験で人に頼れなくて空回りしたし、今回は二乃の家出、四葉は陸上部の過度な練習。三玖は一見問題無さそうなのが問題。今までずっと自信が持ててなかった。

……ほんとに、手のかかる子達。

五等分と言いながら、それぞれのボタンのかけ違いで、大きな皺となってしまう。相談できる相手もいないから、余計にその皺は大きくなっていく。

だからこの子達にはまだ頼れる存在が必要なんだ。

ーーそして、その役目は、私じゃない。

「五つ子で五等分もいいけど、それでも抱え切れない事があったら『誰か』に頼るんだよ?」

『?はーい』

 

 

 

 

 

「朝だよ、五月、起きて」

「あと五年だけ……」

「留年したいのかおのれは。だめ、起きなさい。今日は早めに出るよ」

「いいじゃないですか二乃…………あっ」

「……ふふっ。おはよう、五月」

 

寝惚けて二乃の名前を出すなんて、五月ったら、口では色々言ってるけどやっぱり彼女の事が大切みたい。

本当に皆んな、素直じゃない。

足取り軽く、学校のグラウンドまで来てみれば、ジャージ姿で休憩している集団。朝練の最中だろうか。普通はテスト一週間前は部活は休みになるものだと思うけれど。

その中に四葉がいるのを見つけて、その集団の中に空気を読まずに入っていく。

 

「中野さん、走りの天才のあなたを頼りにしてるよ!」

「え、え〜…と…」

「四葉、あんたが天才なんてね」

「!う、上杉ちゃん!?」

「……君は?」

「どうも、部長さん。ちょっと事情があって、その子には勉強してもらわなきゃいけないんだよね。そもそも試験前に大会の練習なん……て……」

「………………」

「………………」

 

似てる!

黒髪+ポニーテールて!

めっちゃキャラ被ってる!

肌が焼けてる以外そっくりだよ!うわぁ!こんな奴いたのかよ!キャラ被り問題発生してるよ!

 

「でも褐色という最大の武器がある分こちらが有利…」

「と、ともかく!試験前に勉強放ったらかして大会の練習なんて、ご立派じゃん?」

「そ、そうだね。うん。大切な大会だから試験なんて気にしてらんないよ」

「……なんですって?試験、なんて?この子達がそれでどれだけ苦労したか、努力したか知りもしないで……」

「何のことか分からないけど。中野さんの才能を知らないわけじゃないでしょ?この子は最高のランナーになれるんだよ」

「………」

「………」

「わ、わー!!大丈夫です!ちゃんとやってますから!」

「……無理してない?四葉」

「問題ありません!」

「………そっか。そこまで言うなら、止めないよ」

彼女が出来るって言うんなら、私はそれを信じるしかない。だからこれは確認だ。

 

「その代わり、私も一緒に走る。それなら邪魔じゃないでしょう」

「へえ……私達は仮にも駅伝に出るのを目標にしてるんだけど?貴方が私達の練習に着いて来られるかなぁ」

「それはやってみなくちゃ分からないよ、部長さん」

 

 

 

 

 

「ゼェーーッ、ゼェーーッ」

「上杉ちゃん!ファイトです!」

「ぶ、部長、あの人本当に放って置いていいんですか?死にそうな顔してますよ」

「ていうかもう周回遅れですし」

「よくあれで大口叩けましたね……」

「あーあーきこえなーい。中野さんを誑かすような人の事なんて知らなーい」

 

こ、このクソ部長め!

部員にどれだけキツい練習メニュー課してやがる!死ぬ!心臓が過労死する!

ていうかなんかもう私を潰したい一心で走ってるような気すらしてきた!このポニーテール女め!あっ、私もそうだった!

三玖との武将しりとりの経験が無かったらとっくに潰れてるよ私はァ!

 

「上杉ちゃん、もうやめた方が……」

「ま、まだいける!次の問題、湿度が低く固い性質を持つ、アセノスフェアの上にある部分は!?」

「リメソスフェア!」

「……三国同盟の国は!?」

「日本とイギリスとイタリア!」

「……元素記号Kとは何!?」

「カルシウム!炎色反応で赤紫になるやつです!」

(中途半端に覚えてる!)

しかも色々とごっちゃになってるし!

まぁあれだけの量を一気にやれば、頭がこんがらがるのも無理ないけど……。本来、私が分からないところを解説することで理解できるようにしたものだからなぁ。

 

(でも予想以上に覚えてはいる……四葉、本気なんだね。本気で両立しようと)

けれどこれ以上は無理だ。四葉は間違ってはいるけど知識は詰め込んでる、あとはそれを無理矢理にでも直していくしかない。

あと二日でそれができるかどうか……

っ!

考え事をしてたら脚が縺れた!

しまった、地面にぶつかるーー

そう思った瞬間、私の胸は四葉に抱き抱えられていた。すぐに反応できたのは、私に気を配っていてくれていたお陰だろう。

 

「よ……っと、危ない。上杉ちゃん、大丈夫ですか?」

「四葉……」

「無理しちゃだめですよ。もう休んでてください。……私は平気です」

「…………」

 

平気なわけがない。

あんたは知らないかもだけど、こっちは花火大会で既に嘘の笑顔を見せられてる。だからそれが作り笑いだってのは分かる。

でも、彼女は虚勢を張ってそれを言ってる訳じゃ無かった。

かなりキツいけど……それでも四葉はやろうとしてる。彼女にはその覚悟がある。

私が口を出していいのだろうか?

 

「あ、あの人こけた」

「でも中野さんに助けてもらったね」

「…………わー!いけなーい!私もこけちゃったー!誰かに支えてほしいなー!ねー四葉さーん!」

「何やってんですか部長」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

今日は二乃は学校にすら来ていない。

直接行って確かめようにも、フー子ちゃんが言うには泊まってるホテルの場所を変えたみたい。

けれど三玖が、二乃を見かけて追いかけてホテルの居場所を突き止めたらしいから、そこは心配していないけれど。彼女の説得も三玖がやると言ってくれた。

……なら、私はお姉ちゃんとしてやるべき事をやるだけ。

さっき練習から戻ってきた四葉は、沈んだ顔を笑顔で上塗りしたような顔で言った。

明日から合宿がある、と。

 

「ごめんね、私だけ……。も、勿論勉強も欠かさないから、絶対に皆んなにも上杉ちゃんにも迷惑はかけないからね。うん、頑張ってくるよ」

「明日も練習……?四葉、大丈夫?」

「へーきへーき!二人の方こそ勉強頑張ってね!……あと、二乃と五月をお願いね」

 

この子はいつからか、自分の気持ちを押し殺すようになった。押し殺したその分で、他人を立てようとしてる。

自分がどんな目に遭ってもお構いなしに。だから、四葉は放っておいたらどうなってしまうのか分からない。

お姉ちゃん、だからね。分かるよ。

四葉のその辛さも、五等分。

 

「もしもし、フー子ちゃん?聞こえる?五月ちゃんもそこにいるんだよね」

『ど、どうも……』

『どうしたの一花?五月なら、あー、その内家に帰せると思うから』

「そうじゃなくて。いや、五月ちゃんも大事だけれど、今は四葉のことを相談したくってね」

五月ちゃんはフー子ちゃんがフォローしてくれてる。

二乃は三玖が説得すると言ってくれた。

なら私は、四葉の。あの子の心の声を引き出すくらいやらないとね。

 

 

 

『上杉さんすみませんでした

私本当は』

 

そこまで打って、ふと指が止まった。

これ以上は駄目だと、自分の気持ちに蓋をして見ないふりをしてる。

姉妹、だね。

悩み事は違うけれど、悩み方は一緒。自分はそんな人間じゃないから我慢しなきゃって思ってた。

でも……四葉は、私にとって、いつまでも、いつまで経ってもーー。

 

「送らないの?」

「わあっ!し、心臓に悪いよ、一花」

「私も歯磨き〜」

「じゃあ、私はうがい……」

「待って。もう、まーた歯ブラシ据えてただけで磨けてないじゃん。ほら貸して?やってあげるから」

「私もう子供じゃ……もごご」

 

嫌がる四葉の口の中に歯ブラシを突っ込んで、丁寧に磨く。前はよくしてあげたんだけど、最近はめっきり。まあそれでも腕が衰えてないのが一花お姉さんなのだ。

「ふふ、身体だけ大きくなっても変わらないね。一人じゃ辛いことは、無理しないで言ってくれたらいいのに」

「私、無理なんて……」

「………どれだけ大きくなっても四葉は妹なんだから」

私達が、この子を助けてあげなきゃ。

 

「お姉ちゃんを頼ってくれないかな」

 

側から見れば、少し俯いただけ。だけどそれで十分だ。四葉の心の壁が崩れていったのは一目瞭然だった。

私と同じ顔。

だけどその顔はーー少なくとも私から見たら、幼く、そして泣きそうな顔だった。

ただの、困った子供に見えた。

この子はーーただの、可愛い妹だ。

 

「ーー部活 辞めちゃダメかな………」

 

か細い声。

その細い細い糸を、逃がさない。

「辞めてもいいんだよ」

「………!や、やっぱだめだよ!皆んなに迷惑がかかっちゃう……私、もう子供じゃないのに」

「こんなパンツ履いてるうちはまだまだお子様だよ」

「わーっ!」

うん。ここまでで大丈夫、かな。

四葉が発したSOSは、携帯越しにも伝わった。

 

「聞こえてた?」

『あの子が出来るって言うんならそれを信じる。けれど、出来ないって言うんなら私達が助ける』

糸は繋がった。

 

『四葉を解放するよ』

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

ヨッ。

 

「お邪魔します」

「……変装して鍵貰うなんて、良い度胸してるじゃない、三玖。何言われようと帰らないからね!」

「お茶淹れるけど飲む?」

「淹れられてしまえ」

 

ホテルを変えてもやって来るなんて、一体どういう手を使ったのかしら。我が妹ながら恐ろしいわ。

 

「あれ?熱っ」

「…………………」

「わっ、なんか出てきた……あれ?」

「もう、貸しなさい!紅茶でいいわね」

「緑茶で」

「顔にぶっかけてやろうか」

 

あー、もう。この子の図々しさは何なのかしら。上杉の影響かしら……。

仕方ないわね。緑茶のパックも開けて……って、やってる事が家と変わらないような気がするわ。

 

「これ飲んだら帰りなさいよ。……ていうか、どうやって新しいホテルを見つけたのよ?」

「前のホテルに一昨日行って、そこで飛び出す二乃を見たんだ。それで尾行した」

「ストーカーじゃない。……あれ、私確かタクシー乗ったと思うんだけど」

「ああ、私もタクシーに乗ったよ。『前の車を追ってください!』って。刑事さんみたいで楽しかった」

「ノリノリじゃないの」

「それであの夜、何だか様子がおかしかったから声をかけそびれたんだけど……、何があったの?……というより、フー子と、何をしていたの」

 

一昨日の事を否応にも思い出す。

かな子ちゃんと上杉が、ダブった。

いっそのこと吐き出すのも、良いか。

 

「聞いて驚きなさい!あいつ、変装して騙してたのよ!!」

「なんだ」

「…………」

「…………」

 

薄ーっ!

そして理解も浅い!まったく一ミクロンも私の気持ちを理解してない!

 

「酷いんだからね!?もっとこう……反応しなさいよ!」

「私達もいつもしているでしょう?」

「それは……まあ……うん」

いや。

いやいやいや。

許せない。許せる筈がないわ。

私の心を奪ったのが、あいつだなんて。

始めて出会った時のかな子ちゃんも、再会した時のかな子ちゃんも、一昨日のかな子ちゃんも。

全部全部、あいつだなんて。

ああ、でも、一番許せないのは、かな子ちゃんの顔をまともに見た時に気付いてしまった事だ。

あの真っ直ぐな眼は、あいつだった。

無茶して、努力家で。女の子らしさなんて何も知らなくって。そんな瞳に私が映っているのを見て、どうしようもない苛立ちと喪失感とでぐちゃぐちゃになった。

今は……今でも、分からない。

あいつに対してどういう想いなのか……。

どう、したいのか。

 

「それだけ?」

「それだけよ!……それだけだわ」

「ほんとに?」

「…………、五人でいてほしいって言われた。試験とか抜きにして」

「フー子が?そんな事を……?」

「……ええ。ほんとに、私達を振り回す、自分勝手な奴なんだから。私がどんな気持ちであんな事言ったと思ってるの。それを聞いた上で一緒にいてほしい、だなんて」

「二乃は帰りたくないの?」

「なんで帰らなきゃいけないのよ」

 

そうだ、帰る意味はない。

帰ったら勉強をしなければならない。そんなもののために帰るのは、なんだか、屈服したような気持ちになる。

……だけど、最近は勉強するのも楽しくないわけじゃない。それに上杉は、勉強云々はどうでもいい、って言ってくれた。

……じゃあ、私が帰らない理由とは、なんだろう。

 

(意固地になっているだけーー。帰り辛いだけ、ええ、そうよねーー皆んなに会わせる顔がないだけだわ)

自分の気持ちには気付いている。

けれど、素直にはなれない。

 

「私達はもう一緒じゃない。好き嫌いも変わって、すれ違いも増えたわ。バラバラの私達が一緒にいる意味なんて……」

「家族だから。……じゃ、だめ?」

「………いいえ」

「ふふ。それに、ね。私から見たら二乃も十分変わってるよ」

「……何がよ」

「たくさんだよ。紅茶飲み始めたり、料理もやり出した。お洒落にも気を使うし、頼り甲斐のあるお姉ちゃんになった」

 

面と向かって言われると何か痒いわね。

 

「私も、変わったよ。……その問題」

「あ、上杉が作ったやつ……」

「問三が違う。正解は長篠の戦い」

「………急に何よ?」

「戦国武将、好きなんだ。日本史の、武将関連なら解けるようになった」

 

これが、私の20点。

そう三玖は言った。私から見たら理解できない部類ではあるけれど、それは確かに私にはないものだった。

三玖は紅茶を飲んだ。

 

「……甘い。でも、この味も二乃がいなければ知らなかった」

「…………」

「昔は五人そっくりで、諍いもなくて平穏だったかもしれない。でもそれじゃあ、皆んな同じ20点のままだよ」

「……………………」

「笑ったり、怒ったり、悲しんだり。一人一人違う経験をして、足りないところを補いあって。私達は一人前になろう」

「三玖」

「だから、違ってていいんだよ」

 

少し、嬉しかった。

変われていると言われたこと。

変わってていいと言われたこと。

私は変わることを恐れたけれど、私に足りなかったのは飛び立つための羽根ではなかったのかもしれない。

自分を好きになること。

自分の20点を肯定すること。

飛ぶための勇気を、今、この子がくれた。

三玖の好きな緑茶を飲む。苦いし、美味しさなんて理解できない。でもこれが三玖の20点なんだ。

 

「……ふん。やっぱり紅茶の方が美味しいわね」

「紅茶だって元は苦い」

「こっちは高貴な苦味なんですー!」

「緑茶は味わい深い苦味」

「……ふふ。じゃあ、調べるわね。どっちが良い茶葉を使ってるのか」

 

『紅茶も緑茶も「カメリアシネンシス」というツバキ科の茶の樹から作られています。乾燥・発酵度合いによってさまざまな種類のお茶になります』

 

「ふふっ」

「……はははは、何よそれ!」

あー、面白いわ。今度皆んなにも、教えてあげないと……

…………、何言ってるのかしら私。

いえ、きっと。

これが正しいのね。

 

「過去は忘れて今を受け入れるべき」

 

今がその時なんだ。

私を縛る鎖は、振り払う。

 

「あんたも覚悟決めなさい」

 

 

 




マガジンも凄い展開になってきましたね…。最近はジャンプの方を買っていましたが、五等分だけでも読みたいですね。よし、マガポケやな!

おまけ

四葉「友達から面白いゲーム教えてもらったんだー!これで皆んな仲良くなるよ!」
三玖「どんなゲームなの?」
四葉「死に方あみだ」
三玖「えっ」
四葉「死に方をあみだくじで占うんだー」
三玖「えぇ……」

一花「玄関を出たら軽トラに跳ねられちゃいました」
二乃「チキンレースで『不運』と『踊』っちまったわ」
三玖「ライブ中に雷に打たれた」
四葉「飛行機乗ってたら墜落しました」
五月「首切られました」
風子「ヒゲが生えたのがショックで心臓が止まりました」
らいは「なんか死んでました」
『…………』

おわり。
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