「久しぶりだね五月ちゃん。数日間とはいえ家出した感想はどうかな?」
「もがががが、いふぁい、いふぁいれす」
一花がニコニコしながら五月の頰を引っ張ってる。うん、まあそうだよね。妹の一人が家出すりゃそりゃあね……。
さて、陸上部の子達が合宿に出発する前に、四葉が勉強できるようあの子達を説得しなきゃいけないんだけど…。
問題は部長より、四葉自身にあるような気がする。あの子は本気で部活を勉強と両立するつもりだった。それに彼女の性格を鑑みても、陸上部を今辞めるという選択肢はあり得ないだろう。
「さて、どうしたものか……」
「え?どうしたの三玖、助けて欲しい?」
三玖?二乃の所に行った筈じゃあ…。
……待てよ。三玖が突き止めた二乃のホテルはここからそう遠くないはず。それに今日彼女は変装用のカツラを入れた鞄を持ち歩いている筈だし……。
よし。
「一花!三玖を連れ戻して変装させよ!」
「おっけー、行ってくるよ」
「い、入れ替わりですか。……私は少し苦手ですが」
「そういえば五月が変装したとこ見た事がない気がする」
「それこそ、よっぽどの事がない限りはそんな事しませんよ。……あ、中間テストの時に四葉に変装した事がありましたね」
「あれは変装と言っていいのだろうか…」
と、そんな事を言ってる場合じゃない。
陸上部が出発しちゃった!
あのままバスに乗ろうものならとうとう間に合わなくなる。でも、一花はたった今出発したばかり……。
「仕方ない、五月」
「えっ」
五月達は、今日は変装用の小道具は持ってきていない。朝だったし、バタバタしていたから…。
だけど、今私のポケットには、中間テストの時に貰った変装用のリボンがある。まさかこんなところで役に立つ日が来るとは。
「これつけて」
「……あ、あはははー」
(………大丈夫かな……不安しかない……)
「嫌です!こんな役目もう辞めたいです!」
「!それそれ!よく分かってるじゃん!」
「いい、五月?自信を持って。今のあんたは見かけは四葉にそっくりだよ。……今から私が四葉を誘き出すから、あんたは四葉のフリをして陸上部に合流!そのまま部活を辞めるよう言ってね」
「引き剥がすって、どうやって…」
「五月、バッグ貸して」
「?はい」
「きゃーー!引ったくりよォーー!」
「えっ。まさか……」
「そこの人止まりなさーい!こらーっ」
(なんという捨て身な作戦……)
よし!四葉は釣れた!
五月、後は頼んだよ!私もここ最近はホテルに足を運んだり陸上部の練習に付き合ったりで、足腰が鍛えられたはず!
そう簡単に捕まる私じゃないよ!
「捕まえましたー!」
「ぎゃーっ!」
脚、早っ!
分かっていた事だけれども!
「あれ…この匂い…う、上杉ちゃん?どうして引ったくりなんて……」
「あんたを誘き寄せるための嘘だよ。今、五月が代わりに退部を申し込んでる」
「え……わ、私、行かなきゃ」
「お人好しもいい加減にしなさい!どっちも大切なのは分かるけど、いつかは選ばなきゃいけない時が来るんだよ!あんたが本当に大切にしたい物は何!?」
そうだーーそうだよ。今回は四葉を助けるけれども、いずれは彼女自身の口から言えるようにならなきゃいけないんだ。
五月、頼んだよ!
あれ様子がおかしいな……。
「わ、私は四葉ですよー。ほら、リボン」
「いや、髪の長さが違うじゃん」
「……………………」
「…………それは言わないお約束……」
「お待たせしましたー!皆さん、ご迷惑おかけしました」
「!四葉……」
いつの間にあんなところに…。
あの子、ほんとの本気で行ってしまう気?
今の陸上部が暴走している事は、四葉自身がよく分かっているはずーー
ーーあれ?
今陸上部達のところに現れたのは、うん、遠目からだけど四葉に見える。
けれど、私の隣にもちゃんと四葉がいる。
「四葉がふたり?」
「ど、ドッペルゲンガーだー!上杉ちゃん私まだ死にたくありません!」
「……あぁ、なんだ。四葉、心配しなくていいよ、あれは変装だから」
「えっ?」
私達の側に現れたのは一花だ。
「ふー、何とか間に合ったみたいだね」
「一花、三玖を連れてきてくれてありがとう!おかげで……」
「あれは私じゃない」
「えっ」
三玖がここにも?
……ほ、本当にドッペルゲンガー?
▽▽▽▽▽▽
分かっていたはずだ。
私はもうとっくにあの頃とは違う。
背だって伸びて、私だけが出来ることが増えて、私だけが出来ないことが増えた。皆んなとは好みが合わなくなってしまった。
もうあの頃と同じではない。
殻は崩れていく。
羽根を広げたあの子達が眩しくて、羨ましかった。
私はーー飛ぶ事が怖かった。
恐れていた。
「なんだ、冗談だったんだね。でも笑えないからやめてよ。ーー中野さんの才能を放っておくなんてできない。私と一緒に高校陸上の頂点をーーー」
「あはは、冗談はやめて、だなんて。部長の方こそ冗談はやめてくださいよ」
「んっ?」
「私が辞めたいのは本当なんですけど」
「………え、えっ?」
でも羽根は既に得ていた。
あとはほんの少しーーほんの少しだけ、飛び立つための勇気が欲しかっただけ。
「な、なんで……」
「私のこといっつも考えてくれないじゃないですか。そもそも前日に合宿を決めるなんてありえません。来週はテストもあるのに、もしこれで赤点取ったらどうしてくれるんですか?ま、先輩には関係ない事かもしれませんけどーー」
私は飛んだ。
戻れない。
戻らない。
ーー戻る必要も、ない。
「ーーーマジあり得ないから」
部長がやっとの思いでひり出した「ごめんなさい」という言葉を背中に受けて、一花達のいる方へと向かう。
五月がオロオロしてついて来た。
「よ、四葉。陸上部にそんなにストレスを抱えて……」
「ーー四葉じゃないわ。私は私」
「??」
「よく見なさいよ、私の顔。こんなうるさい顔、一人しかいないでしょう」
「えっ……わああああ!?」
(鈍感なんだから)
ふふ。
なんだか、懐かしい。
「う、嘘?まさか…」
「ーーええ、そうよ。皆んな久しぶり」
ーー髪を切った。
ーー五つ子の象徴。あの時一緒だった、今も変わらずにあるもの。
大切に、していたもの。
まあ、けれど。
本当に大切なものはこれじゃない。
「そんなにバッサリいくなんて、もしかして失恋ですかー?」
「ま、そんなとこ」
「えっ」
「何よ。言っておくけれど、あんたじゃないからね!上杉」
そう、あんたじゃない。
私はかな子ちゃんに失恋したのであって、こいつに失恋したわけじゃない。
ーーええ、そう、失恋したわけじゃない。
私はこいつに恋したわけでも、失恋したわけでもない……そのはず、だわ。
ーーそうに、決まってるわ。
(さようなら、かな子ちゃん。そして、さようならーー今までの私ーー皆んなーー)
辛い、けれど。
自分が思っていたよりも、ずっとずっと
「四葉。私は言われた通りやったけれど…本音で話し合えば、あの子達もわかってくれるわよ。あんたも変わりなさい。辛いけどいいこともきっとあるわ」
……って、言っても。
私から見たら、四葉はーー羽化しきれていない雛のように見えるのだけれど。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、うん、行ってくる」
「ついてこうか?」
「一人で大丈夫だよ」
ーーさて、あとは、私達だけか。
いざ話すとなるとーー少し、こそばゆい。
「…………」
「二乃!五月はね……」
「ほらフー子ちゃん、こういうことは当事者同士でね」
「で、でも……」
「二人なら大丈夫だよ」
「………、そうだね」
「二乃、先日は……」
「待って、謝らないで」
これは、私から言わないと意味がない。
「あんたは間違ってない。私が悪いわ。あんたに非があるとすればビンタに体重乗せすぎな事くらいよ」
「二乃ぉ……!」
五月の瞳にはたっぷりの涙。
あぁ、もう。妹にこんな顔させるなんて、お姉ちゃん失格ね。
「そ、そうです!お詫びをかねて渡したいものがあったんです。……この前、二乃が見たがってた映画の前売り券です!」
そう言ってーー『恋のサマーバケーション』のチケットを取り出した。
「……思い通りにいかないんだから」
差し出しそうとしたチケットを、そっと隠す。タイトルはーー『生命の起源〜知られざる神秘〜』。
変わっても、やっぱり姉妹ね、私達。
おまけ
五月「五等分の花嫁で最近よく考察されるのは、私達の実父についてですね。何度か存在は言及されていますが、本編で登場した事はないんですよね」
風子「養育費払ってないみたいだし、あまり良い父親じゃないって予想が多いよね。お母さんはすごく良い人なんだけど。……髪の色はぜんぜんちがうけど」
五月「髪は離婚した父の遺伝でしょうか。私達の髪は一応ピンクで共通です(2018年週刊少年マガジン19号表紙より)」
風子「髪がピンクで、クズで、家庭を捨てた人物……」
ディアボロ「えっ?」
おわり。
六海=トリッシュ説。
中野家の実父は情報少ないんで何とも言えないんですけど、なんか屑っぽいオーラ出してるんですよね…。恋愛ものでヒロインの親が屑ってのはたまにあるパターンですけど、五等分ですし、あからさまな悪役を出すかは微妙なところです。
最新話?
二乃推しからしたら最高だったよ!!!!!
萌え殺す気かボケェ!!!!!