五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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六つのさよなら

四葉は土下座を繰り出した!

しかし無視されてしまった!

 

「この度はご迷惑をおかけしまして…」

「朝から大変だったねー」

「まだ眠い」

「全ては私の不徳の致すところ……って、もー。皆んな、ちゃんと聞いて……」

「そんなこといつまで気にしてるの。冷えるから早く入りなって」

「じゃ、四葉が朝食当番」

「…………、うんっ」

「それと、もう一つ」

 

「おかえり、二人とも」

「「……ただいま」」

 

五日にわたって繰り広げられた家出は終わった。

短いような、長いような。でも五人がまた揃うのを見ると、感慨深いものがあるね。

四葉の作ってくれたおにぎりをつまんで、栄養補給を行う。うん、美味しい。

 

「それで、陸上部とはどうなったの?」

「あの後ちゃんとお話しして、大会だけ協力してお別れする事にしたよ」

「大会も断ればよかったのに。ま、これで一件落着、かな」

 

本題に戻ろう。

とりあえず問題集は全員終わらせてるみたいだけど、期末試験はどうなることやら。

この土日に詰め込むしかない、ね。

まあ、秘策はある。

 

「カンニングペーパー!?」

「あ、あなたはそんなことしないと思ってたのに!」

「でもそこまで無意味って訳でもないんだよね。カンペには自分の苦手なところ、覚えていないところを書くでしょう。だから逆にそれを覚えれば効果的ってハナシ」

「へー…」

「でも一番良いのは、こんなものを本当に使っちゃう羽目にならないように努力すること!覚悟しなさい!」

 

ちらりと二乃の様子を伺う。

だ、大丈夫だよね。

 

「……と、いう感じで進めていきますが、いかがでしょう二乃様」

「……ふん。やるわよ、よろしく」

 

満更でも無さそうだった。

しかし、これで、ようやく。五人全員が勉強に参加してくれるようになった。

はじめは、四葉しか協力してくれなかったんだっけ。それも一番点数が悪くって、頭を抱えていたんだっけか。

そして三玖と正面から向き合って、勉強会に加わってくれて。

一花は……花火大会の後だっけ?何かしら気持ちの変化があったのかな。

そして五月も、林間学校を経て私を認めてくれて。

最後は、二乃。一番難しい子だと思っていたけれど、話していくうちに本音を話してくれるようになって。

そして今、全員がここにいる。

長かったーー。

三ヶ月。これからが、スタートだ。

残念なのは……私がそのスタートラインに立っちゃいけないって事だけだ。

試験当日がやってきた。

やれる事は全部やった、はずだ。

 

「五月、携帯貸してくれる?」

「え、私のですか?」

「らいはに伝えなきゃいけない事があるのを思い出してね。私の携帯は充電切れでさ、ね?お願い」

「そうですか……試験までには返してくださいね」

 

この子達にバレずに電話できる場所……、

屋上かな。

 

「あー、どうも。上杉です」

『どうかしたかい?』

「すごい勝手なんですけど、実はお願いがありまして……」

『なんだい?』

「家庭教師を退任させて欲しいんです」

『………』

 

実際に言うとなると、胸のつっかえが取れたような……大切な物を落としたような、そんな気分。

 

「あの子達は本当に頑張ったんです。この土日なんてずっと机の前にいました。だけどまだ赤点は避けられない………と、思います」

『今回はノルマは無かった筈だが?』

「本当なら、あの子達はもっと勉強時間を確保できた筈なんです。それがこんな結果になってしまったのは、私の力不足です。……だから、もし赤点回避できたとしても。私が家庭教師を続けるのはあの子達のためになりません」

『……そうかい。引き止める理由はない、君には苦労をかけたね。今月の給料は後ほど渡そう』

「はい」

『では私はこれで……』

「あの」

『?』

「一度ご自身で教えてみてはいかがでしょう?父親だからできる事もあるはずです」

 

そうだ。

それは私じゃ、出来ない事だ。

 

『……いや、それはちょっと、ハードルが高いというか……それに、他人に家庭の事をどうこう言われたくないな』

「最近家に帰ったりとかは……してないですよね。知ってます?二乃と五月が喧嘩して出て行ったんですよ」

『えっ』

「もう解決しましたけど」

『あ、そ、そうかい。それならいい。教えてくれてありがとう』

「……あの子達にもっと関心を持ってあげて欲しいんです。ご家庭の事情は存じ上げませんし、余所者にどうこう言われたくはないでしょうけど、余所者だから分かることもあります」

『………ごめん……』

「謝る相手が違うでしょう!……ご飯に困らず、家庭教師もついて、あの子達は何一つ不自由のない生活をしています。だけど、それだけじゃ寂しいですよ。導いてあげる人がまだ必要なんです。あの子達の気持ちを考えてあげられる人がそばにいる事が大切だと感じました」

 

そう、私が最後まで気づかなかったこと。

二乃に対してももっと上手いやりようがあったはずだ。

 

「私にはそれが出来なかった」

『………実は僕も出来てなくて……』

「それは、家族にしか……親にしかできない事だと思うんです」

『…………でも……』

「でもじゃない!仮にもあんたが父親なら、それができるはずでしょうが!」

『……………だって…………』

「だってじゃない!……って、すみませんね雇い主に向かって生意気言って!あー、でももう辞めるのか!ーーー少しは父親らしい事しなさいっ!!」

『ちょっ、待っ』

 

何か言っていたが無視して切る。

やばい。給料ちゃんと貰えるかな…。

まっ、もう言っちゃったものは仕方ない。

 

「一花、二乃、三玖、四葉、五月。

あんた達が五人揃ったら、無敵だよ。

ーーー頑張れ」

 

この事、お父さん達にも伝えなきゃね。

答案をスラスラっと埋めて、家に帰る。五月は……もう、いないんだったか。

 

「ごめんね、らいは、お父さん。家庭教師のバイトでドジっちゃって。成績を上げるどころか、一時は家出騒動にまでなっちゃってさ。もうこれ以上足を引っ張らない。だから……家庭教師は、辞める」

 

せっかく、五倍の給料を貰えるところを紹介してもらったのに……、私のわがままでそれをフイにして、本当に、ごめん…。

 

「……そっか!五月さんとは、また違う場所で遊べばいいしね!」

「えっ?」

「何謝ってんだよ、風子。若い頃なんて色んなバイトしてなんぼだ」

「でも、お金ーー」

「そんなもん心配しなくていい。今までの給料はお前が使いたいもんに使え。まだ手をつけずに残ってるからよ。ーーま、結婚する時にでも渡そうかと思ってたがよ」

「ーーーあ、ありがとう」

 

ああーー私の家族は、こんなにも。泣きそうになるくらい優しい。

欲しいもの……実は少し前から、ちょっと憧れてるものがあったんだ。

 

「ーーあのね。私、バイクの免許、欲しいんだ」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

「二乃……その、ちゃんと謝ってなかったから……。ごめん。かな子のこと……。騙すような真似しちゃって、本当にごめん」

「……そんな昔のこと、もう忘れちゃったわよ」

「…………そ、そう?」

「そうよ」

「そ、そっか。じゃあ、私行くからっ」

「ちょっ、もう行くの?………まあ、その方が驚かせ甲斐があるってものよね」

 

五つ子のいない日々ーーというわけにもいかなかった。

五月とは教室で会うし、それ以外の姉妹もトイレで会うし、逃げても体力お化けの四葉が追いかけてくる。

でも、私は『家庭教師は続けられない』の一点張り。あんな事を引き起こしておいて、もう復帰なんてできない。

彼女達もその理屈は分かっているし、そもそも家に出入り禁止になっちゃったから家庭教師を続けることはできない。

だから、とうとう諦めたのか、もう家庭教師に戻るよう催促される事はなくなった。

来たる12月24日。

新しいバイトはケーキ屋。

世間がクリスマスだのなんだの浮かれてる時に、私は寒い中ケーキを売ってた。

我が家はクリスマスを祝うような文化はないけれど、らいはのためにプレゼントでも買って帰ろうかな。

 

「これ、女性用のサンタ服ね。別に男性用のを着てもいいけど、ぶっちゃけこっちの方が集客が見込めるから、着てくれると助かる」

(ゲスな理由だ……)

「あ、でもセクハラとか怖いから訴えるのだけはやめてね。着たくなら着ないで良いんだからね。変な事ツイッターで呟くのほんとやめてね」

(そして小物だ)

 

とまあ、死んだ目のヒゲの店長から渡されたミニスカサンタ服(タイツ有)を着て、看板片手に寒空の下で宣伝だ。

 

「メリークリスマス!ケーキはいかがですかー?」

「やべーめっちゃ可愛い子いるし」

「ほんとだ。サンタ服似合ってんなー」

「へっくち!」

「くしゃみした姿も可愛い。よし、今からあの店行こうぜ」

「ねえ、今私達デート中だよね?ねえ?」

 

お客を呼ぶ声も、周囲の雑踏に紛れて溶けてしまう。やっぱりスカートはやめておいた方がよかったかなと思いつつ、もう少しだけ頑張ろうと白い息を吐いて客引きを続行する。

釣れたのは、よく知る人物だった。

ダサい星型のヘアピン、頭頂部に立ったアホ毛。少し前までよく見ていた顔だ。

 

「一ホールください」

「五月……」

「あ、でも私用と姉妹用で分けるので二ホールください」

「五月……………」




五月って何気に二乃と和解した後も二日間上杉家に滞在してるんですよね。
え、なんで……?
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