五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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七つのさよなら

ーー12月24日ーー。

寒空の下で客引きをしていると、現れたのは五つ子達だった。

 

「おいお前、あの集団に声かけてみろよ」

「いやあ無理だって。女子の集団の中に入るなんてハードル高すぎだろ」

「だよなぁ。あー、せめて一人ならまだ声かけやすいのによ」

「お前は一人でも声かけらんねーだろ」

「それもそうだな」

「「HAHAHAHAHA!!」」

 

「ねえ、これって合コンの筈だよね。なんで男子二人で他の女子の話題で盛り上がっているのかな」

「キレそう」

 

冬休みに特に予定もなかった私は、当然の如くクリスマスもバイトを入れたわけだけれど……、まさかこんなところにまで五つ子がやってくるなんて。まあこれまでは五つ子の家がバイト先だったから、あまり変わってないのか。

 

「いらっしゃいませーお客様。それ食べたらさっさと家に帰りなさいよー」

「ちょっと、ここの従業員の教育はどうなっているのかしら。タメ口、だなんて」

「…………お家にお帰りくださいませー」

「あーら、やればできるじゃない」

「クリスマス、まさか一人で過ごすつもりだったの?」

「らいはちゃんはいいんですか?」

「あの子は友達の家に行ってるよ。クリスマスは別に……相手もいないし」

「早いこと相手見つけないと、喪女になっちゃうよー」

「うるさいな」

「……すみません、やっぱり家まで運んでくれませんか?」

「えっ。……ウチ、配達は承っていないんだけれど」

「か弱い乙女に持たせるつもり?」

「私もか弱い乙女なんですけど。一応」

 

そもそもそんなの、店長が許すはずがない。ただでさえ若手スタッフやバイト生はクリスマスで出払ってるってのに。

 

「あー、いいよ。もう店も閉める。お友達同士で仲良く過ごすといい。ぶっちゃけ上杉さんのサンタ効果で客は大いに集まったからね。特に男性」

「え?でも……」

「メリークリスマス!」

(………このバイトも辞めよっかな)

 

いらぬ気を使われて、渋々ケーキ片手にこの子達の家まで行く事に。はぁ、出入り禁止されてるのになぁ。

足取りが重い。

ーー私達はもうパートナーではない。ただの友達、そういう関係でしかない。

だけどこんな風に、いつも通りにこの子達と付き合うのは……正直、私が捨てたものを直視させられているようで嫌になる。彼女達のおしゃべりを遠くに感じながら、河原沿いの道を歩く。

あれ?このルート……、この子達、まさかわざと遠回りしようとしてる?

「……あのね。黙って辞めたのは悪かったよ。けど、もう家庭教師には戻れないの」

「そうだよ。まだフー子の口から直接、辞めたいなんて聞いてないもの。……それっぽい別れの言葉をメモに書いて渡して終わりだなんて、それだけの関係だったの?」

「メモ、って……」

 

「安易に答えを得ようとは愚か者め」

「!」

「カンニングする生徒になんて教えてらんないよ」

「これからは自分の手で掴み取りなさい」

「やっと地獄の激務から解放されてせいせいするよ」

「……けど、まあまあ楽しい地獄だった。バイバイ………でしたっけ?」

「……………なんか目の前で自作のポエム読まれてるような気分になってくる」

「似たようなものだよね」

 

……たしかに、私がやってきたことの結末がそれだけで済ますだなんて……不義理が過ぎたかもしれないけれど。

 

「これを見てください。……新しい家庭教師の人です」

「……!………」

 

渡された紙には、その人の詳細が書かれてあった。

決定的な、彼女達との断絶。

ーーたしかに最初は、この人の事が受け入れられないかもしれない。だけどこんな私でも、時間をかけて打ち解けていったように、きっとこの人もそれができる。私なんかよりもきっとーー、そして、そこに私はいなくともーー。

そこに私の意思は必要ない。

ーー忘れてしまえ。

小学生以来のーー、初めての友達。そんなものにうつつを抜かして、私は、また迷惑をかけるつもりか。

 

「そ、そう。意外と早く決まったね。……東京の大学出身で、えっ、元教師なんだこれで……意外……うん、優秀そうな人じゃない。この人なら、赤点回避まで導いてくれると思うよ」

 

中間試験で、一度は辞めるかもしれない危機に陥った時は、ここまでビクビクした人間だったろうか。あの時の私の方がもっと覚悟していたのではないか。

いや、だとしても、見せるまい。

傲岸にはならない。

愚昧は見せない。

声が震えたのは、寒さのせいに違いない。

 

「いいの?このまま他の人に任せて、私たちを見捨てんの?」

「私は………、あんた達の脚を引っ張ったんだよ?二回の試験で結果を残せなかったし、それに……次の試験だって上手くいくとは限らない。じゃあもうプロの人に全部任せるのが正解だよ」

だから、もうこれ以上ーー私の身勝手に付き合わせることはできない。

それに反論したのは、やはり二乃だった。

 

「なによ、それ。身勝手だなんて、何を今更のことを言っているのよ。あんたは最初からずっと身勝手だったわ。好きでもない勉強をさせてーー休みも必死で暗記して、計算して、詰め込んでーーでも、良い点数を取ったら嬉しくなっちゃって。ここまでこれたのは、全部あんたのーー、あんたのせいよ」

 

不器用な優しさを鋭く突きつけた。

重く突き刺さる。純銀のナイフが心臓に当たっているかのような感覚に、私の心は沈んでいく。

ーーもう、戻れないのだ。

 

「身勝手じゃないあんたなんて気持ち悪いわ。ーー最後まで面倒見なさい」

 

「………ありがとう。けど……もう私はあんた達の家に入る事すらできないの。……ごめんね」

「もういいよ。配達ご苦労様」

「うん………うん?まだマンションは遠くだけど」

「ううん、ここであってるよ。ここが私達の新しい家」

「あ、引っ越したの……」

 

…………んんー?

目の前にあるのは、どう見ても……高層マンションとは似ても似つかない、古びたボロアパート。

いくら引っ越したとはいえ、こんな……前との差が激しすぎると思うのだけれど。

 

「借りたの」

「………んんんーー??」

「お父さんが、じゃなくて、私が」

 

何言ってんの?

 

「家を借りる……って、え……でも………どうやって」

「私の貯金を切り崩して借りたんだー。私ってほら、女優じゃん?」

「や……でも……保護者」

「それは流石に他の人に頼りました!」

「……親の許可は」

「事後報告だけどもう言ったから」

「………ええええええ!?」

「びっくりしてるびっくりしてる」

「ドッキリ成功。全部本当だけどね」

「こ、今度は五人揃って家出……!?な、何のために!?」

「分からない?」

 

分からない子に教える家庭教師のような仕草で、言った。

 

「他でもない、あなたにーー勉強を教えてもらうためですよ」

「もう障害は無くなったでしょう?」

「……嘘。たった……それだけのために?馬鹿、今すぐ前の家に戻りなさい!こんなの間違ってるって!このままあの家で新しい教師を雇えば………」

「ーー大切なのは、どこにいるかではなく!五人でいることなんです」

 

灰色の空を照らすような明るさで、彼女達はマンションのカードキーをーー川に投げ捨てた。

ここまでの覚悟で、私をーー。

それに比べて私は……っ!

空に上がるカードキーを見上げていたからか……雪に足を取られてしまった。

転ぶーーと思ったら、背中に浮遊感を感じる。ああ、川の中に落ちているのだ。

 

『さよなら』

『必要とされる人になれてるよ』

『久しぶり、風子ちゃん』

 

あ、走馬灯見えた。

直近すぎるけれど……。

それは巻き戻るようにしてーー私の記憶を手繰り寄せる。

 

ーー皆んな心配して集まってきてくれるのかな

ーー例えば

ーー私がここで溺れたら

 

そこでーー私は深い水の中に沈んだ。

 

夢を見ていた。

君と初めて出会ったあの日の夢を。

 

あの日のことは私の脳裏に焼き付いて、一日も忘れたことはない。

幸せだった。

嬉しかった。

幸福すぎて、ずっとこの夢に浸っていたいとすら思ってしまう。

でも。

私達が教えてあげなきゃいけない馬鹿な子達がいる。夢はおしまい。

意識が覚醒していく。

 

「フー子ちゃん!」

「上杉!」

「フー子!」

「上杉ちゃん!」

「上杉さん!」

 

ーー私の今は、ここにある。

 

飛沫が上がった。

暗い水の中にも光が射すように、彼女達は脇目も振らずに飛び込んだ。

 

「フー子大丈夫!?」

「ぜ、全員で飛び込んでどうするんですか!?」

「あんたも飛び込んでんじゃないの!」

 

まあ、すぐに上がったから意味はないのだけれど……。

でも、この子達が、こんなことを……。

しかも、さも当然のようにしているのを見て、私は身体の内側に熱くなっているものを感じた。

 

「フー子、たった二回で諦めないで。今度こそ私達はできる。フー子とならできるよ、絶対に!ーー成功は失敗の先にある、でしょ?」

「三玖ーーっ」

 

ふと、視界の端に入ったものを見つけた。

ポケットの中に入れておいたお守り。

あれは、零奈からもらったーー、今泳げばまだ間に合うーー!

 

「二乃?二乃、どうしたの?」

「つ、冷たくて……身体が……」

 

ーーー迷ってる時間はなかった。

彼女の体重を肩に感じると、土手に二人の身体を預けた。

濡れた身体を容赦なく吹き荒む寒風が突き刺した。

 

「掴んでな」

 

二乃の握りしめる手の力が強くなった。

無茶苦茶だ。

本当に……。

後先考えて行動しなさいよ。

これだから馬鹿は困る。

なんだか、もう。

配慮するのも馬鹿らしくなってきた。

 

ーー吹っ切れた。

 

「ーー私もやりたいようにやらせてもらうから!私の身勝手に付き合って!ーー今度は、いや、今度こそ!最後まで!」

 

さよなら、零奈。

そしてーー

一花、二乃、三玖、四葉、五月。

出会えた皆んな、よろしくね。

 

「フー子早く!」

「ケーキ食べちゃいますよ?」

「うん!……でも、いいの?私が入ったら、五等分できないよ」

 

ーー弾けたように、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「江端、今日は遅かったね」

「申し訳ございません」

「いいさ。ーーしかし、その格好は…」

「イメチェンです」

「……………。そうか、大胆だな」

「ホホホ」

「……、………。まぁいい。……上杉君、やってくれたね。しかし……」

 

 

 

「ーー君のような相手に娘はやれないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーと、本来なら言うところだが、相手は女子だしなぁ………」

「それならば何ら問題無いのではありませんか?何か間違いを犯すという事もありますまい。何も出入り禁止はやりすぎでは……」

「万が一にも、彼女に会いたくなくてね。彼女は、そのーー嫌い、というかーー苦手なんでね」

「ほう?苦手、とおっしゃいますと?」

「ーーーーそっくりだったんだ」

「?」

 

「あの怒り方が、その、零奈さんに……」

「……………」

「……………」

「………奥様は、あのように怒られる方でしたでしょうか」

「いや、もっと淡々と怒る感じだったが、口調や雰囲気はとても似ていた。零奈さんに怒られているようで、その、ああ、正直物凄いびびった」

「……………」

「正直、病院で顔を見た時も心なしか雰囲気が似ていたような気もするし。もう一回会ったらやばいと思う。今も零奈さんの事を思い出して腹痛が酷いんだ……」

「……………」

「ていうかもうね、零奈さんに会わせる顔がなくて心が痛い」

(ヘタレ……)

「せっかくゆっくりと正月を過ごせると思ったのになぁ……」

「しかし正月は意外と急患の方が多いではないですか。羽目を外して事故、とか」

「そうなんだよね……」

 

ーーそして、新しい年が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「私は五月でも一花でもない……私は貴様を倒す者、ゴジーカだ!!」

 

「三玖と四葉で……ミニ四駆ってとこかな……さらに……こいつが超ミニ四駆!」

 

「じゃじゃーーん!またまたやって来たぜ正義の死神、痛風様だーっ!」

 

「みんなそろって……ゴーシスターズ特戦隊!」

 

「一花から五月まで全員が合体した………人造人間15号だ……」

 

おわり。

この子達は絶対フュージョン完璧に出来るけどあんまり見た目の変化はないよね…。

ちなみに私が一番好きなのは超サイヤ人4のゴジータです。赤髪かっこいい。持ってるフィギュアも雄々しくて好きなんですよね。

超サイヤ人ブルーはベジットとベジータが最高に似合うと思うの。




林間学校ここまで三ヶ月かかってるんですね。たった二巻なのにすごいペースの落ちようだ……。まあ元々書いてたシェリーポッターに加えて別の小説(上杉君が天涯孤独になる話・FE風花雪月小説)も書いてたらそうなるわ!すみません!よかったらそちらもどうぞ!
これからしばらくは感想欄でいただいたリクエストを元に短編書こうと思います。ではまた!
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