五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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今日はお疲れ

「もうこんな生活うんざり!」

 

朝起きて第一声がそれだった。

勉強会が夜遅くまであったのでこの子達の家に泊まらせてもらってた。

けど、一花の周りの私物が邪魔だったり、二乃や五月が寝惚けて抱き付いてきたり、四葉が寝惚けてグーパンしたり、三玖が布団に潜り込んできたりと、散々な目に遭いましたとも。

ええ、もう。

一部屋で寝てたらこうなりますとも。

そしてこれだけの騒ぎの中ぐっすり寝てる一花はすごいなー。絶対見習わないけど。

汚部屋の片鱗見えてるし。

 

「一花、起きて!勉強するよ!」

「あ、フー子ちゃんおっはー」

「服着なさい服!風邪ひくよ!」

「やーん」

 

一花に無理矢理服を着せる。

その間に他の皆んなもさっさと着替えて勉強の準備を終えた。一花ってば…。

んっ?

 

「んんー?三玖、何か変わった?」

「!?フ、フー子が私の違いに気付くなんて……!」

「失礼じゃない?」

「ヘッドホン変えたの。この間、水の中に飛び込んだ時に壊れちゃって」

「………ああー、言われてみたら変わってるような気も……いや……元からそんなんじゃなかったっけ」

「フー子なんてもう知らない」

「ああっ!」

「あはは……まあ、ちがいに勘付いただけ一歩前進ということで……」

 

すったもんだあって、ようやく勉強会を始められる態勢に。炬燵の中に六人揃って、勉強道具の準備もオーケー。

うん。これこれ。これが正しい勉強の姿勢ってもんだよ。

……いや、一花、さっきまで寝てたのにもううとうとし始めてるし!

 

「あはは、安心して。これからは勉強に集中できるように仕事をセーブさせてもらってるから」

「そうなの?」

「うん。次こそ赤点回避して、お父さんをギャフンと言わせたいものね」

「ええ!全員で合格して、お父さんに上杉さんを認めさせましょう!」

 

ふんす!という擬音が五月から出るのが見えた。

私のため、か。

まあ、赤点回避なんて低いハードルにこれほど苦しめられるとは思っていなかったけれど、三学期末こそ今までの雪辱を晴らす正真正銘のラストチャンス!

まずは冬休みの課題を片付けるところから始めよう!

 

「え?」

「え?」

「あー…」

「ふふふ」

「……な、なに?」

「あんた舐めすぎよ。課題なんてとっくに終わってるわ」

「え?あっ……そう……」

 

い、いつになくやる気!

前までは私が沢山宿題出しても全然やろうともしなかったくせに。

成長、なのかな。

私が見ない間にこんなに立派になって…。

 

「あなたは今まで何をやってたのです?」

 

前言撤回。

小生意気なところは変わってない。

課題が終わったのなら、そのマルつけと復習、あとは苦手分野の確認からかな。

おっと。

早速三玖が分からない所があるみたい。

 

「ここ、分からないんだけど」

「どれどれ?確率問題ね……目の和が奇数になる場合か。サイコロは三つ、って事は偶数偶数奇数か、奇数三つの二パターンしかないのね。まずは奇数の目から……」

「…………」

「………何?二乃」

「いやっ、なんでもないわ」

「……というわけで奇数の目が求められるから、次は偶数偶数奇数の場合を……って一花起きなさい!」

「ぐーすかぴー」

「てめえ」

 

何がギャフンと言わせるだよ。

あんたの未来は勉強する一パターンしかないんだよ。

 

「一花、起き……」

「あ、上杉。そっとしてあげて」

「?」

「一花、さっきはあんな風に言ってたけど、本当は仕事増やしてるみたいなの」

「えっ?」

「生活費を払ってくれてますものね」

 

……そりゃあ、そうか。

この生活を維持するだけでも、どれだけ大変だろうか。生活の厳しさを人一倍知っているからこそ、一花の頑張りが分かる。

私はこの間までたまたま高額バイトにありつけていたけれど、まだ駆け出しの女優業がどれだけ不安定なのか。

薄氷の上に立っている。

だからこそ頑張るしかないんだ。この子もお姉ちゃんだから……。

……、見習わなきゃな。

 

「あの、私達も働きませんか?一花の負担を少しでも減らしたくて……」

「……まぁ、その心意気は買うけど。今まで働いた経験ないでしょう?」

「あ、ありません」

「勉強と両立できるの?」

「うっ。も、もちろん……」

「赤点回避で必死なのに?」

「ううっ」

 

痛いところを突かれたらしい。

お腹をぷにぷにしながらダメ出しすると、五月のアホ毛はしょぼくれた。

 

「そ、それなら!私もあなたのように家庭教師をやります!」

「えっ」

「教えながら学ぶ!生徒も私も学力が向上し一石二鳥でしょう!」

「あんたに教えられる生徒が可哀想だよ。せめてあんたと同レベルの人間じゃないと無理だよ……」

それこそ、この五つ子達同士で教え合うのが関の山か。………ん?あれ……?何か思い付きそうな気がするけど……気のせい?

 

「あ、それなら近所のスーパーの店員はどうでしょう?」

「……できるの?」

「多分できません!」

クビじゃねえか。

 

「私メイド喫茶やりたい」

「あ、意外と人気でそう……ご主人様に特製オムライス作ってあげたりとかね」

(……あの料理対決の時のようなオムライスを客に食べさせるというの!?私は別に良いけれど!)

「二乃はやっぱ女王様?」

「なんでよ!」

「似合いそうですし」

「なんでよ!?」

いや、すごい似合うと思うよ。ほんとに。

 

「二乃はお料理関係だよね」

「やるとしたらね」

「だって二乃は自分のお店を出すのが夢だもん」

「!」

「なんだ、二乃はもう進路決めてるんだ。目標が明確なら二乃がやるべき努力の方向性も見えてくるね」

「こ、子供の頃の戯言よ。そんな、進路なんて大層なものでもないわ」

 

まあ、正直言ってそうやってやりたい事があるだけでも羨ましいけどね。

でも、仕事か。

色々なバイトをこなしてきたけれど、どれも生半可な気持ちじゃこなせなかった。

この子達にとって、仕事と勉強の両立がどれだけ難しい事か……。

一花が女優を目指したい気持ちもよく知ってるし応援してあげたいけど、今回ばかりは無理のない範囲で仕事してほしいな。

って。

 

「ほら、一花!服着て服!裸でこたつなんて入ったら確実に風邪ひくよ!」

「一花をこたつから出して!」

「起きてー、一花!」

そこまでやって、気付いた。

「これ家庭教師のやる事じゃねえ!」

この仕事舐めてたよ……。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

家の事情もあって、らいはほどじゃないけれど私はそれなりに料理ができる。

けれどどうしても簡単な物しか作れない。

理由は簡単。味が分からないのだ。

どうやら私は極度の貧乏舌らしく、多少味が狂っていようと美味しいと感じてしまうのだ。質より量。

飲食系のバイトでキッチンができない理由がこれだ。

でもま、何事も挑戦、だよね。

 

「どうですか、私の作ったパイ!店長のにそっくり!ランクアップしてお給料上げてくださいよ!」

「…………、これ味見した?」

「え?はい」

「そっか。これ、余分な空気が入ってるしなんか生っぽいよ。厨房に入れるのはまだまだ先だね」

「………、えぇー」

 

貧乏舌なのが裏目に出た。

今回もダメだったかー。簡単な料理はともかく、お菓子やケーキはどうにもレベルが高いな……。

 

「あ、上杉さん。今日はもう帰っていいよ、お疲れ様」

「え、クビ……!?」

「映画の撮影に店を貨すんだ。主演は今を時めく期待のホープ達。なんとあのりなりなやコンたんも出るらしい。サイン貰えちゃうかもよ」

「んーそっかそっか、一人たりとも知らないので帰ります」

「まぁ僕もよく知らないけどね」

「知らないのかよ」

 

ま、時間ができたなら丁度いい。

あの子達の家に行こう。

昨日の一花の遅れを取り戻さなきゃ……。

 

わー、皆んなキラキラしてる。顔綺麗だし脚細いし、世の女性は凄いなぁ。サイン貰っておこうかな。高く売れるかも。

何か一花似の、おっぱい大きいセーラー服の女の子もいるし。

それにしても本当に一花に似て……、

 

「よろしくお願いしま………す………」

「………………」

「…………………!!……、………」

「…………いち、」

「よろしくお願いしまーす」

 

見なかった事にしやがった。

どうもファンシーな服を着ているけれど、この子はどう見ても一花だ。

あの子達が言ってた通り、女優の仕事を続けてたんだね。それも私生活に影響が出るほどに、か……。

少しだけ、見てくかな。

 

「なんだ、見てくのかい?ふふふふ、この頃は向かいの糞パン屋にお客を取られていてね。これを機に宣伝するんだよ。取り敢えず撮影で使うパイに店名の入ったピックを差し込むんだ」

「すごいハングリー精神」

 

あ、そろそろ撮影が始まる。

流石に雰囲気あるなぁ……。

 

「アクション!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここのケーキ屋さん一度来てみたかったのです〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………えっ。

 

「え〜、なんの話です〜?」

 

「う〜ん、タマコには難しくてよくわからないのです〜」

 

「それよりケーキを食べるのです〜」

 

これは……雰囲気が違うどうこうの話じゃない。絶対配役間違えてる!

ていうかなんだ!このタマコとかいうキャラクターは!さっきからべとんべとん嫌な喋り方をして!

ああ!!

一花じゃなかったら殴りてえ!!!

 

「フー……分かってないね。一花ちゃんは幅広い役を演じられる女優だと私は信じているよ」

「あっどうも社長。菊は元気?」

「お陰様で。あの子は最近とても良い表情をするようになったよ。君の影響かな、良い事だ。私には関係ないけど」

 

……壁を感じる。

そっちから話しかけておいて……。

あ、一シーン撮り終えたみたい。一旦休憩に入って……あれ、一花がこっち来た。

腕掴まれて奥の方に引っ張られて、わ、ちょっと何をする気でしょうかこの子。

人気のない所まで来ると、ドン、と壁に手をついて、私を逃げられなくした。

……これはあれか、二乃が言ってた壁ドンってやつかな。

……壁を感じる。

 

「恥ずかしいから見ないでくれるかな?」

「……そんなに恥ずかしいならオファー受けなきゃいいじゃん」

「貯金が心許無くてね。だからどんな小さな仕事でも引き受けるって決めたの。あの子達のためにも私が頑張らなきゃ」

「………」

 

……この子、偉いなぁ。

京都で出会ったあの子みたいな事言うし。

皆んなのために頑張れる、って、本当に凄い事だと思う。

自分の気持ちを押し殺して何かに励むだなんて、中々出来る事じゃない。

 

「……その努力を否定なんかしないよ。それに家庭教師を続けるチャンスを作ってくれた一花には感謝してる」

「………!」

「でもね、この仕事、まだ拘束の割に収入は少ないんじゃないの?勉強に本腰入れなきゃいけない今だけは、女優業に拘らなくてもいいんじゃない?」

「いいから言うこと聞いて!でないと写真ばら撒くよ」

「……花火大会の時の……」

 

まだ持ってたのかよ。削除しなさいよ。

 

「言っとくけどこれ、私のふとももの上で寝てるところだからね」

「ちょっ……えっ……嘘!?」

「あまりにぐっすりだったから起こすのも悪いと思って」

「もっと悪いことしてるよ!ちょ、か、返せ!返しなさい一花!私の純情を!」

「言うこと聞いてくれるならね」

「……ぐっ」

魚が水を得たと言わんばかりに生き生きとしている。なんだこいつ。人の恥ずかしいところを見てそんなに嬉しいのかこいつ。

 

「ーー皆んなにも内緒。お姉さんとの約束だぞっ」

 

「うーん、美味しいのですー」

 

……即落ち二コマか何かで?

なーにがお姉さんじゃ。あの子達にもこの姿見せてあげたいね。盗撮してやろうか。あっ充電切れだった。

くそぉ。このまま茂みの中で隠れるしかないのかよぉ。

 

「……あれ?あのパイ、ピックが刺さってない?……ああっ!もしかして私が作った失敗作!?片付けるの忘れてたーッ!」

「本番!アクションッ」

「ちょ、待っ……」

 

ああっ、よりによって一花が!

私のパイの犠牲……に……

 

 

 

「うーん、美味しいのです〜」

ーーにこり、と笑った。

 

 

 

…………。

綺麗な笑顔。

夜空に光の華が咲いたような。

弾けんばかりの、満面の笑み。

私のパイを食べておきながら、あんなに素敵な綺麗な笑顔をするなんて。

ーーー素直に、凄いって思った。

 

『良い画が撮れるように試行錯誤する』

『とても良い表情をするようになった』

 

これが、一花達が言ってたこと?

ああやって自分に嘘をついて他者を演じて、それでも尚、その華は綺麗に咲く。

心臓に手を当てる。

高揚、していた。

この気持ちに名前を付けるとするなら。

 

「ーー感動、って言うんだろうな」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「ここのケーキ大丈夫?なんというか個性的というか……三玖の手料理のような味をしていたけれど」

それはごめん。

 

一花が台本を落としていたので探していると、一人で勉強してた。こういうのは陰でやるからかっこいいのだ、なんて言ってたけれど、妹達にそう言うところを見せたくないんだろうな。

ほんと、よくやるよ。

 

「にしてもさっきの嘘は凄かったよ。あんなものを食べて、よく笑顔でいられたね」

「もう!演技って言って」

「はは。ーーでも、驚かされたのはほんとだよ」

「…………」

「本当に、あんな笑顔が表現できるのかよっていうかさ。……素人目だけど、とっても素敵に見えたんだ。うん、何というか、こう……女優さんみたいでさ」

「………」

「寝てるし……」

 

危ない、私としたことが。

疲れが一気に出ちゃったんだろうな…。

思わずいい事言ってしまうところだった。

でも、よくあんな大勢の前で出来るな。

……凄いよ、本当に。

子供みたいな稚拙な感想しか出てこないけれど、たぶん、それだけ心を打たれているんだろうな、きっと。

 

「今の一花、すごくお姉ちゃんみたいで、かっこいいよ。あの子達にも見せてあげたいくらい」

 

この子の影の努力も、仕事に対する情熱も見せてあげたい。

ーー見たら、魅せられる。

 

「よく頑張ったね」

 

だけど、今だけは。

ゆっくり休んでていいんだよ。

 

「今日はお疲れ、一花」

 

 

 

 

 

ちなみにあの映画は大ヒット、というわけにはいかなかったけれど。

霊が出るとか出ないとかでちょっとしたブームになった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「今日はお疲れ、一花」

 

駄目だよ。

なんでそんなに、私をときめかせるの。

なんでそんなに魅力的なの。

どうしてそんなに可愛いの。

可愛いは正義だなんて言うけれど、嘘だ。

人をこんなに苦しませて正義だなんて、ちゃんちゃらおかしいよ。

心臓に打ち込まれた毒のように、私の身体を蝕んで、離さない。

 

(愛に狂うーーってのは、きっとこの事を言うんだね)

 

狂おしいほどに苦しんで。

苦しいほどに愛おしくて。

過剰すぎるほどの情愛が私を貪り喰らう。

長女だとか、女の子同士とか、そんな心の防壁を食い破るほどにーー、彼女は綺麗だったんだ。

人をこんな想いにさせておいて、無邪気な顔をするのが許せない。

私にだけその笑顔を見せて欲しい。

そう心で願っていてもーー彼女はその毒とも呼べる魅力を振り撒く。

それも無自覚のうちに。そして人を誑し込ませるんだ。

ならせめて、バレないようにしなければ。

 

「今の一花、すごくお姉ちゃんみたいで、かっこいいよ」

(私だけを見てほしい。姉としてではなく、ただの中野一花として接してほしい)

 

ああ、何で私ばかり我慢しなきゃいけないのだろう。

どうして私ばかりこんな役回りなのだろう。元を正せば、あの子が毒を振り撒いたというのに。

こんな顔をさせておいて。

 

「あの子達に見せてあげたいくらい」

(こんな顔、見せられない)

 

私をこんなに苦ませて、どうして悪くないって言い切れるのだろう?

 

「よく頑張ったね。今日はお疲れ、一花」

 

ーー甘い毒が、花を蝕んでいく。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

ーーある日の、夜。

 

「やばい江端、どうしよう江端。会うの久しぶりですごい緊張する」

「…………」

「何て声掛ければいいんだろうか。やばい考えてきた筈なのに頭が真っ白に……」

「いいから行けよ」

「ひどい」

 

「ご無沙汰だね五月君」

「………!」

「今日は君たちに通告に来たよ」

 

(こ、この人が……何故ここに……)

(……よっしゃあ噛まずに言えたァ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前は髪型変えたら誰か分からなかったのに、パッと見で髪結んだ一花だと分かるあたり成長してますよね。まぁ女優やってるのは一花だけなんで当然といえば当然ですけど、一花推しには堪らねえぜ!でも一番は二乃だけどな!




最新話でなんか親指みたいな人出てきて笑いましたけど、お人好しの下田さん勇也さんがガチ警戒するような人ってやばくね?
つーか離婚した筈の父親が文化祭にやってくるって怖くね?
そもそも言ってる事もどこまで本当か分かりませんし、もしかしたらこの人は実父のくせに五月達が五つ子だって知らない可能性も微レ存……?
マガジンっぽくなってきたな!(安心)
畜生!2019年マガジン44号の時に、エデンスゼロでニノが出てきた次のページが五等分で二乃が出てきた時の私のくすってなった気持ちを返せよォ!
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