五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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愚者の戦い

「ねえあの人イケメンじゃない?」

「本当だかっこいいー!」

「あれ、でも高校生の女の子と一緒にいるみたいだけど」

「………え?犯罪?」

(……なんかあらぬ誤解を受けてる気がする……)

 

中野丸男、ならびにその娘である中野五月は喫茶店へと足を運んでいた。

冬休みではあるが平日の夜という事もあり、人影はまばらだ。

丸男は少し遠慮がちに口を開いた。

 

「飲まないのかい?喉が渇いてないのかい?それとも嫌いな味だったかな。頼み直そうか?」

「いえ……」

「それとも食べたばかり……」

 

五月の腹が鳴った。そして顔を赤くした。

 

「……ではないようだね。すみません、サンドウィッチを全種ください」

「ああっお気遣いなく!」

「いらないのかい?」

「…………いただきます………」

「いい子だ。いやほんとに。五月君は素直で物分かりが良い。賢さというのはそのような所を指すのだと、僕は思うよ。うん。皆んな賢いよ。ほんとほんと。だから君をここに呼んだんだ」

「………お父さん、私をここに呼んだ理由はなんですか?」

「父親が娘と食事をするのに理由が必要かい?」

「お父さん………」

(決まった……)

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「うっ!ひっひっふー!重っ、頑張れ私頑張れ風子!頑張れ!負けるな!私は長女だから我慢できるはず!今日もこれからも!私が挫けることは決して………うわぁーっダメだぁ!」

「私が持ちますよ」

「………えっ。ち、力持ちだね四葉……」

「荷物持ちの二人早くしなさい」

 

はぁ。もう。なんだよ。もう。

こんな時間に呼び出されたと思ったら、買い出しに付き合わされるなんて。

いや確かに特売日は大切だけどさぁ!

私だってスーパーの特売は見逃さないようにしてるけどさぁ!

でもわざわざショッピングモールまで付き合わせる事はないんじゃない!?

……、私もお弁当にしようかな。

面倒臭いけれど、学食二百円より、そっちの方が安上がりだったりするし。朝夕のご飯のバリエーションも増えるし。すこぶる面倒臭いけど。

……やっぱやめようかな。

 

「あ、そうだ。三玖から頼まれてたんだったわ」

「………チョコ?三玖ったらそんなに食べるの………ってそうか、ふふ。あの子も隅におけないね」

「……ま。流石に渡す相手は予想外でしょうけどね。さっ、会計するわよ」

「あ、えっと、二乃ちょっと……ごめん、持ってて!おトイレ!」

「あっちょっと……重……っ!」

 

二乃が足をふらつかせた。

そんなヒール履いてるから……っ!

あっぶな!

 

「ほら!しっかり掴んでな」

「…………!………」

「ほら、持ってこう?」

「え!そ………そうね………。おかしいわこんなの……」

「うん?あれ、こんなの入れたっけ」

 

籠の中に忍び込んでいたのは、キャラクターもののお菓子。カラフルなパッケージだからすぐに分かった。

二乃によると、これは四葉がこっそり入れたのだろう、と。

……財布の中も怪しいでしょうに。

ていうかこれ、お子様向けでしょう。

 

「あら、あんたも女なら分かるんじゃないの?この年になっても、いつまでも少女の気持ちを忘れないものよ。白馬に乗った王子様、意外と憧れてるんだから」

「……二乃はてっきりドロドロした昼ドラばっか見てるもんかと思ってたよ」

「はっ倒すわよ。むしろそういうのが好きなのは一花よ。ドラマの愛憎劇とか略奪愛とか絶対好きよあの子」

「そっちの方が失礼だよ」

 

会計を済ませて外で待つ。

四葉、遅いなぁ。

迷子になってるんじゃなかろうか。

ん?あれ、四葉……じゃ、ないな。あのアホ毛は、五月?

お洒落なガラス張りの喫茶店の窓際の席で誰かと何か話してるっぽいけど。

 

「………、っていうか、え?向かいの席に座ってるの、私達のパパよ」

「えっ?……………あ、病院の……」

「何話してるのかしら……」

「……覗いてみよっか」

 

あれ、ここは着席前に注文しなきゃいけないのか。じゃあコーヒーの……ショートが二八〇円……!?

たっか!学食よりたっか!

私達から毟り取った金で飯を食うというのかここの従業員は!クソァ!

 

「いやこれが普通よ。さっ、こっちに来なさい。盗み聞きするわよ」

「ハイ………」

「ーー君達のしでかした事には目をつぶろうと思う。だが、もう既に五人での生活も限界に来ているようだね」

「そんな事は……」

「満足いく食事もとれていないようだし」

「…………こ、ここここれは……」

「すぐに帰りなさい。姉妹全員で。他の皆んなにも伝えておいてください」

 

本題はこれか。

まあ、当然の反応だよね。

でもあの子達は今帰る訳にはいかないし、帰らせる訳にもいかない。

それに……。

『帰ってきなさい』じゃなくて、『帰りなさい』、なんだね。

あの人は娘達の中から、徹底して自分という存在を消すつもりなの?

 

「……、他の皆んな、とは、彼女も含まれるのでしょうか?」

「上杉君はあくまで外部の人間だ。それにはっきり言って……僕は…………彼女が、嫌い…………と……いうか……その、敢えて言うなら、うん、苦手だ」

「?」

「あんたパパに何したのよ?」

「い、いや……ちょっとね」

「え、何よその含みのある言い方。何かドロドロしたものを感じるわ」

「………えーと……」

「話しなさいよ」

ええい。

隠しててもいずれバレるか。

 

「……もっとあの子達の事を面倒見なさい、そんでもって少しは父親らしい事しなさいって電話越しに……」

「あんた何やってんのよ!?」

「だ、だって!言った方が良いって思ったんだもの!あの人は良い人かもしれないけど、父親らしくはないもの!」

「……どういうことよ」

 

訝しげな二乃の視線。

少し頭の中で情報を整理して、話す。

 

「あの人は確かに良い人なのかもとは思うけど、あんた達と距離を置いてたのはちょっと駄目な所だったと思うの。仲良し姉妹でも、五人もいれば問題が起こらない筈がないよ。それに、良いことをした時は褒めてあげられて、ダメな時は叱ってあげる存在は絶対に必要だったと思うし」

 

あの人の事をよく知らない私が言っても、説得力は無いかもしれないけれど。

五つ子達に愛情があるのなら、その愛はどこか空回っているのだと思う。

このままずっと空回りし続けるの?

ずっとすれ違ったままでいるの?

そんなの、なんか、モヤモヤする。

 

「仮にも家族なのに、ほとんど会話もしないなんて。そんなの寂しいよ。私にはもうお母さんいないから……お父さんまでほぼいないみたいになるのは、何か……嫌だな………と思って………」

「…………」

「………や、ウチとはまた色々と事情が違うみたいだし、余計なお世話かもしれないけどさ」

「…………、いいわよ、別に」

「ありがと」

 

さて。

そうこうしているうちに、お父さんの方から折衷案が持ち出された。

『上杉風子の立ち入り禁止を解除し、家庭教師を続ける。その代わりプロ家庭教師との二人体制で、上杉風子は彼女のサポートに回る』……、私達にとってもメリットばかりの話だ。

家庭教師として、成績を上げるために手探りで模索するのと違って、プロの方が単純に経験がある。

そして一対五ではカバーできない部分も、無いわけじゃない。

でも、それを呑んだら何で家を出たのか分からなくなってしまう。

私達が、この体制でも出来るって事を証明するために家を出たのに、これで試験を合格しても意味はない。

ーー大丈夫。皆んな揃って赤点回避すればいいだけの話だ。

 

「四葉君は赤点回避できると思うかい?」

「ーーー……」

「二学期の試験の結果を見たが……とてもじゃないが、僕にはできるとは思えない」

「ーーーー!!!」

 

ーー四葉ならできる!

そう叫ぼうとした私を二乃が抑えた。

 

「ダメよ。あんたが行っても状況が悪くなるだけだわ。それにパパの言っていることも強ち間違いじゃない」

「…………」

 

そう、なのかもしれない。

寧ろ彼の方が正しいのかもしれない。

私達の方が間違っているのだろう。

でも。だとしても。これだけは声を大にして言いたい。

 

「あの子ならきっとできる」

「私達と上杉ちゃんならやれます」

 

図らずも、タイミングは同じだった。

四葉がお父さんの前に立っていた。

これ以上ないほどに、真面目な顔で。

 

「六人で成し遂げたいんです。だから信じてください。ーーもう二度と同じ失敗は繰り返しません」

「………四葉……」

「大きくなって……」

「あんたはどういう目線よ」

「では失敗したらどうする?」

 

しかし、中野丸男は冷徹だった。

『冷』たさに『徹』するとはよく言ったもので、彼は氷の仮面を貼り付けたかのような冷気で四葉を迎え撃った。

 

「……東京に僕の知人が理事を務める高校がある。あまり大きな声では言えないが、無条件で三年からの転入ができるよう話をつけてあるんだ。もし次の試験で落ちたらその学校に転校する」

「え………」

「君達がやりたいようにやるのならそれでも構わない。だが、プロの家庭教師と二人体制ならそのリスクは限りなく小さくなる事は保証する。君達ならどちらがより効率的か分かるだろう」

「………」

「…………わかりました」

「!」

 

五月……?

 

「ではこちらで話を進めて……」

「いえ、私達だけでやります。勿論、もしだめなら転校という条件で構いません。ごめんなさい。私、素直で物分かりが良くて、賢い子じゃないんです」

「………………」

「四葉なら、いえ、私達ならやれます」

「………そうかい。次はないよ」

「前の学校の時とは違うから」

「期待しておこう」

 

息の詰まるような会話が終わる。

中野丸男は帰路へと着いた。

うわー……。転校。私の責任重大だなぁ。

 

「行った?」

「うわっ!いた!」

「見てたのですか?」

「家に帰る帰らないの辺りからね。生で見るのは初めて……でもないけど、うん、想像通りの手強そうなお父さんだね」

「そうね。何が手強いって、言ってることは正しいのが厄介なのよ。実際、プロの家庭教師がいてくれた方が嬉しいし」

「私じゃ頼りないっての?」

「ま、そうね。あの正しさのおかげで、私達はここまで成長できたし、当然感謝もしてる。けれど、あの人は正しさしか見てないんだわ」

「…………」

 

ま、そういう諸々の話はどうでもいい。

リスクは元より承知。そもそも私達は失敗できない立場にいるのだし、絶対に合格しなきゃいけないのは当然。

失敗した時の事は、その時考えればいい。

私にとって大事なのはたった一つ。

やりたいようにやる。

この子達を進級させる。

この手で、全員揃って笑顔で卒業。

それだけしか眼中にない!

 

「ーー私は私のやるべき事をやるだけ!」

「ふふっ、頼もしいですね」

「絶対合格するよ!皆んな!」

『おーっ!』

「あ、あのお客様、店内ではお静かに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてーーそれぞれの時は巡りーー

期末試験、当日ーーー




ラッコは陸がなくても生きていけるって知ってた?食事、睡眠、出産、子育て、全部水の中だ。水中でできないのは溺れることだけ。HAHAHAHA!
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