試験の前の日のことだ。
いつもすぐに帰って勉強会をする私達を見かねて、クラスメイトが声を掛けてきてくれたことがある。
「中野さん、最近すぐ帰ってるけど勉強の方大丈夫?試験でもあまり良い成績じゃないでしょ。分からない所があったら教えるけど」
凄く親切な人だと思う。
ぶっちゃけ五月は友達が多い方では無いから、こういう申し出があるのは凄く嬉しかったのだと思う。
けれど。
「ありがとうございます!だけど、今は私達だけの力で頑張りたいんです」
「ーー私達にはもう、最高の先生がついてますから!」
ーー3月7日
「五月!どう!?」
「うわあああん二四〇点ですううう!!」
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 47 | 35 | 70 | 32 | 40 | 224 |
「やったあああーーー!!」
「どうしたんだあの二人急に」
五月と抱き合う。
本当に、本当によく頑張った。テスト前の一週間だけでなく、ずっと勉強を頑張っていたんだもの、そりゃ伸びる!
おめでとう五月!
となると、次はーー四葉。最も赤点に近い彼女だけれど、でも最も勉強したのも彼女の筈だ。
四葉を見つけた。
「四葉!試験の結果はどうだった!?」
「上杉ちゃん、すみません。ーー実を言うと姉妹の皆んなに教えてもらった方が、分かりやすい時もありましたーー不出来ですみません。……そして、ありがとうございました」
彼女は深く、深く頭を下げた。
「私……初めて報われた気がします」
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 51 | 33 | 32 | 36 | 32 | 184 |
「四葉ーー頭を下げる必要なんてないよ。誇りなって!凄いよ、四葉!」
「ーーあ、ありがとうございます…!」
「今日は祝賀会だね。私のバイト先でやるから、四葉も行こっ!」
「ーーーは、はい!」
バイト先に行くと、もう既に三玖と五月とが到着していた。
赤点回避した旨を伝えると、二人とも自分ごとのように喜んでくれた。いや、五つ子の姉妹なのだから、自分の分身のようなものか。そりゃあ嬉しいよ。
皆んな頑張った訳だからね。
「私史上一番の得点です!合計一八四点とギリギリでしたけど…」
「私は合計二二四点。少し危ない科目があったのが課題ですね」
「そーだね。数学とか社会とかね」
「は、反省会は後にしましょうよ!三玖はどうでしたか!?」
「私は……二三八点」
「えーすごい!」
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 43 | 48 | 41 | 72 | 34 | 238 |
流石は三玖だ。
この子に関しては特に心配はしてなかったけれど、やはり試験突破すると嬉しいものがある。
となると、今までの結果を鑑みるに、今回も三玖が一番の成績かな。
「あ、一花も来たよ。二乃はまだかな?」
「試験結果が返ってきたらここに集まると伝えてあるはずですが……もしかして」
「三玖!見違えたね。やっぱり三玖が一番の成長株だよ」
「フー子………」
「よかったー、一花も赤点なかったんだ」
「合計何点だったんですか?」
「私………」
「えーっと、二四〇点」
「ーーーー」
えっ?
ってことは、一花が一番?
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 38 | 63 | 52 | 40 | 47 | 240 |
「あ、そうなんだ。ーーやった」
この子ったら、いつの間にそんなに勉強してたんだろう。確かに成績は三番目で成長できる要素はあったけれど、前回に比べると……えーと……七〇点くらい上がっているのか。
とんでもねぇ伸び率。
そういえば前回、特に点数が高い訳でもない理科が急上昇したんだっけ。今回は理科だけでなく全教科が大幅に上がってる。
「すごい勉強したんだね、一花」
「………ッ」
「いや〜頑張りました」
「お仕事もあるのに凄いです!私はてっきり、今回と三玖が一番かと」
「!あ……や……三玖、私………」
「一花、おめでとう。私もまだまだだね」
「…………」
「試験突破おめでとう!」
あ、店長。
「今日はお祝いだ、上杉さんの給料から引いておくので好きなだけ食べなさい」
「もー店長ったらウソばっかり。労働基準法24条で訴えますよー」
「ごめんなさいもうしません。……ああそれと、二つ結びの子が君達より先に来て、これを置いてったけど」
「え?あ!試験結果の紙!」
「それと上杉さん、彼女から君に伝言だ」
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 32 | 33 | 40 | 48 | 56 | 209 |
「おめでとう、あんたは用済みよ」
「……なんかあったの君達?」
「………こっちの話です。紛らわしい伝言残しやがって……」
「やったー!全員赤点回避成功です!」
ともあれ、これで。
本当の本当に、私の役割は終わった。
家庭教師としての仕事もーー。
「皆んな、本当に……本当によく頑張ったね。凄いよ。特に三玖、あんたはいち早く安全圏に入って教える側に立ってくれた。助かったよ。ありがとう」
「……うん!」
「…………」
「よし、祝賀会は全員強制参加!ちょっくら二乃を連れて来るよ」
「上杉さん、もうすぐバイトの時間だ。これ使っていいよ」
「!どーも、店長」
さてさて、二乃。
あんたは今どこにいるのーー?
『最後の試験が二乃の場合』
ありえない。
ありえないわ。
私があいつのことを好きだなんて、絶対に認めない。
思い出しちゃダメ。
思い出させないで。
あいつのことなんて何とも思ってない。
そしてーーあいつは私のことなんて何とも思ってない。
だから、あいつにはもう会わない。
(分かってはいる。それは逃げだとーー)
頭の中では理解している。何とも思ってないのなら、会っても平気なのだろう、と。
それでも私は、何とも思われていない、その事実にーーきっと耐えきれない。
会う度に顔がチラつくのなら、そもそも会わなければ良いだけの話だ。
だから、私は、今、ここにいる。
「帰ってきてくれたんだね二乃君」
「パパ、その君付けやめてって言ってるでしょう」
「悪かったね二乃く、あー……ご、ごほんに、に、二乃っ。げふん。先程赤点回避の連絡をもらったよ。君達は見事六人でやり遂げたわけだ。おめでとう」
「あ、ありがとう」
「どうやら上杉君を認めざるを得ないようだ。だから明日からはこの家に来なさい。試験突破のお祝いの用意もしてあるよ」
「あいつとはもう会わない!それと……もう少し新しい家にいることにしたわ」
「えっ」
暗いから、パパが今どんな顔をしているかはわからない。
まあ、いつもの無表情でしょう。
「試験前に五人で決めたの。一花だけに負担はかけない、私も働くわ」
「ーーーそれはーー」
「正しくない、それは承知の上。自立なんてしたつもりもないわ。でもあの生活が私達を変えてくれそうな気がする。少しだけ前に進めた気がするの」
停滞していた時間は進む。
翼を広げなければならないのだ、私達は。
「……理解できないね。前に進むなんて抽象的な言葉になんの説得力も無い。君達の新しい家とやらも見させてもらった。僕にはむしろ逆戻りに見えるね」
言ってくれるじゃないの。
「五年前までを忘れたわけではあるまい。ーーもう君達に二度と、二度とあんな暮らしをさせてたまるものか。誓ったんだ、あの人に、自分自身に。君達に不憫な暮らしは絶対にさせないと……僕の生ある限り君達を守ると……!だから聞き分けて……」
その瞬間。
眩い程の光が私達を襲った。
白馬の王子様が、現れた。
「うえすぎ……」
白馬じゃなくてバイクだし、王子様じゃなくて女の子だけど。
でも。
私をここから連れ出してくれるひと。
「上杉、なんでここに……」
「えっ!?上杉くん!?」
「ここにいたのね二乃。帰るよ」
「はぁ!?」
王子様は突拍子も無い事を言い出した。
「な、何よ、それ!」
「早く乗って!バイトが始まる前に帰らないといけないから、さ」
「ちょ……」
「二乃。やめて。君が行こうとしてるのは茨の道だ、うまくいくはずない。後悔する日が必ず訪れるだろう。心配だし、外も寒いからこちらに来て中に入ってぽかぽか暖まりなさいな」
……もう。
会わないと決めていたのに。
でも、茨の道だろうが何だろうが、私は前に進むと決めたのだ。
彼女は、手を伸ばしてくれている。
「行って!上杉」
「……え、えーっと、お父さん。
ーーー娘さんを頂いていきます!」
何ともテンプレートな台詞を吐いた。
だけど、何故だろうか。
気持ちが高揚していた。
私の想いに知ってか知らずか、羽ばたいた先でーー貴方に会えたのだから。
▽▽▽▽▽▽
「江端。めでたいことに娘たちが全員試験を突破したらしい。………僕は笑えているだろうか」
「………………勿論でございます」
「………ほんと?」
「……強いて言うなら苦笑いです。これ以上ない困り顔でございます」
「そうだよね……」
「…………」
「…………」
「………どうしよう江端」
▽▽▽▽▽▽
「あんた、びっくりするほどバイク似合わないわね」
「うるさいよ。ああ、知ってるかもしれないけど他の四人も試験合格だよ」
「えっ?なに!?風で聞こえない!………あっ、これのこと?」
「あ!やめて!見ないでってば!」
| 国語 | 数学 | 理科 | 社会 | 英語 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 89 | 97 | 94 | 91 | 88 | 459 |
「………これって………」
「得意の理系科目だけでも、と思ったんだけれど。……一生の不覚、ってやつ?あーマジで恥ずかしい」
「………私達のせい?」
「違うよ。そんなことより、ちょっと飛ばすからーーしっかり、掴まっててよね」
「…………」
「…………」
「寂しくなるね」
「……!………、……」
「ーーっていうか何で私だけノーヘルなのよ!?」
「だってあんたが行けって……」
「危ないじゃないの!バイクの死亡率知らないの!?私も知らないけど!」
「ヘルメット一つしかないもん」
「はぁ!?あんたのをよこしなさい!」
「分かったってば!止めるところ探すから暴れないでって!」
「全く、もう。嫌んなるわ」
「…………」
「あんたはずっとそうだったわね」
「ほんと、最低。最悪」
「……ふふっ」
「………なによ?」
「何だか懐かしいなー、って思って」
「……なに、それ」
ーーーああ、やっぱり。
初めてのこの気持ちは、収まらない。
抑えきれない。
「変なの」
あの時あんたが教えてくれたこと。
あんたが勝手に教えてきたこと。
胸の中で、高鳴ってる。
「あとは…そうね」
吹き抜ける風が、夜の中に溶けていった。
「好きよ」
バイクの上は、二人だけの空間だった。
ああーーようやく、未来へと、明日へと進み出したばかりなのに。
時が止まってほしいだなんて思ってる。
バイクが止まらないでほしいだなんて思ってる。
このまま、いつまでも、この時間が終わらなければいいのにーー。
最新話読みました。
どうもね、おめでとうって気持ちよりも先に私の推し(一花と二乃)が選ばれなかったんだっていう辛さが先に来ましたね。ごめんね四葉。
でも誰が選ばれてもちゃんと祝福しようと決めていたので、辛いけれどもそれ以上に本当に喜ばしく思います。
良かったね四葉!
13巻が今週で終わりだから、あと単行本一巻分(9〜10話くらい?)しかないのかぁ…寂しい……