どうすりゃええねん!!!??
攻略開始
人生初めての告白をして、あれから、ロクに上杉の顔が見れなくなっていた。
バイクの後ろで、早鐘を打つ鼓動に身を悶えていると、いつのまにかケーキ屋に着いていた。
言っちゃった。
言っちゃった!
こいつが好きだなんてどうしちゃったの。
どうかしてるわ、本当に。
初めての告白なのに、なんで突然言っちゃったんだろ。
あー、どうしよう!
………っていうか。
(なんでこんなに反応薄いの!?)
「どうかした、二乃?」
「!ね、ねぇ……さっきの話だけど」
「?」
「上杉さん、間に合ってよかった!今キッチンに一人しかいないから早く入ってくれる?」
「はい、バイクありがとうございました。ごめん二乃、あとでね」
………ふん。
いいわ、後でにしてあげる。
まずはあの子達と赤点回避のお祝いね。
「はい、四葉」
三玖がケーキを差し出した。
どうしたのよ急に。
「えっ何これ?」
「現文の問題、四葉の問題がドンピシャだったから」
ああ、あれは助かったわね。
「じゃあ私も」
「私も」
「私も」
「「「どうぞどうぞ」」」
「なんでですか!いや嬉しいですけど!」
結局、ケーキを少しずつシェアして食べることにした。
今回の試験もきっとそうやって突破できたのだと思う。この子達が、支え合える人達がいなかったら、私なんて、何もできずに終わっていたのかも。
あら。
五月のケーキ凄く美味しいわね。
「私のおすすめです!もう一度食べてみたかったんですよ」
「?前にも来てたの?」
「えっと、その時にもご馳走になってですね…………あの、皆んなに話しておきたい
ことがあるのですが」
「?」
「私、学校の先生になりたいんです」
五月は少し顔を赤らめて言った。
この子が、学校の先生に、ねぇ。
私達の中じゃ一番真面目だし、意外と向いてるのかもね。
「うん、いいと思う!五月の授業わかりやすかったもん!ぴったり!」
「私達も当然応援するよ」
「じゃあ五月は大学かぁ……進級といえばお父さんに連絡しとかないと」
「あー、大丈夫。私が直接話してきといたから」
「やっぱりマンションだったんだ」
「……バレてたのね」
「五つ子ですから」
今はまだあの人に甘えさせてもらっているけれど、いつか、必ずケジメをつけないといけない日が来るはず。
その時までに、せめて、自立のできる人間になっておかないと。
「それにしては帰ってくるの早かった」
「それが聞いてよ。上杉ったらバイクで私を迎えに来たのよ」
「うっそお!?」
「イメージと違いすぎる!」
「ほんと、似合わなかったわ。調子狂う。だから……あんなこと言っちゃったのよ」
「?」
「あ!お、お皿片付けるわね!ついでに店長さんにお礼言ってくるわ!」
「私もお手洗いのついでに手伝うよ」
なんでもない。
なんでも、ない、はず、だ。
▽▽▽▽▽▽
バイトに入って数ヶ月。入りたての頃はそれなりに大きいミスもしたけれど、流石に慣れてきて仕事もできるようになった……と、思う。
ひとまずは、はけた。
暇な時間ができてひと段落する。
「よし、僕は少し休憩入れてくるからあとよろしくね」
「あ、店長。プリン一つ取り置きしてもいいですか?」
「いいけど、好きだったっけ」
「バレンタインのお返しに」
「……友チョコってやつ?」
「妹のですよ」
「そうなんだ。てっきりあの五人のお友達の誰かからだと思ったよ」
そんなわけ……あ、いや、そういえば一月からずっと三玖から貰ってたか。
最近は手作りのチョコレートも作ったみたいだし、あの子、いつの間に好きな男子が出来たんだろ。
隅に置けないやつめ。
「……あ!すみません店長!私、お店の皆さんに義理チョコすらあげてなかった!」
「えっ。ああ、いや、いいけど」
「今度作ってきます!」
「き、気持ちだけで十分だよ」
あれ、まさか料理下手と思われてる?
確かに私はこの間のお菓子作りで失敗したけれど、何度も練習して上手に……あれ、でも味音痴だから味分からないな……。
「はあ、きっと私には嫁の貰い手なんて無いんだろうな」
「えっ?」
「え?あ、二乃」
「ご苦労様。店長さんは?」
うわー、タイミング悪かったね。
ちょうど奥に引っ込んだところだよ。
「あら、そう?じゃあ少し待とうかしら。……待つついでに洗い物したげる」
「えっ、悪いよそんな……」
「ご馳走になったお礼だわ」
む。そう言われると邪魔できないな。
やっぱり家で毎日やっているからか、お皿を洗うのも片付けもとても早い。
それにしてもこの感じ、かな子に変装して二乃に会った時の事を思い出すな。たしかあの時はシュークリームを作っていたんだっけか。
あのシュークリームは、味はよく分からないけど少なくとも相当レベル高いものだったんだなって今なら分かる。お店に似たようなの置いてあって吃驚したもの。
(………怒ってる、かな。騙してたこと)
二乃の性格上、流石にもう気にしてはいないと思うけれど。あれは私達との間に大きな溝というか、裂け目を作ってしまったんじゃないかって今でも思う。
その結果、二乃は振り切れたみたいだから良かったんだけど……私の中の、罪悪感というか、モヤモヤは消えてない。
(だから──私は──あの時────)
と。
考え事をしているうちに、皿洗いがあっという間に終わってしまった。
「ありがと!店長には言っとくから、席で待ってなよ」
「そ、そうね!そうするわ」
「……………」
「……………」
二乃は急に押し黙った。
………考えないようにして、放置していたけれど、やっぱり、来るよね。
「……やっぱり、バイクで言ったこと、忘れてちょうだい」
「!」
「困らせちゃうのも当然だわ。突然すぎたものね。少しアクセル踏みすぎたみたい。何やってんだろ」
「…………」
「…………………、」
その沈黙は長かった。長いこと時間が止まっていたかのようにさえ感じた。
でもその間も、私の頭の中では何度も何度もぐるぐると思考が回っていた。
どう答えよう、どう返そう、どうしたらこの子は傷付かずに済むだろう。
そんな、自分勝手な心配が頭の中を何度も巡り巡って、結局、こんな言葉しか捻り出せなかった。
「二乃、なんのこと?」
「ええっ!?」
「心当たりがないんだけど。というか、バイクに乗ってた時、結構風強かったから、聞き逃してたかもしれない。ごめん」
「な………何よそれー!」
「だから何を……」
「何でもない!」
そう言って二乃は立ち去っていった。
心臓に杭が突き刺さったかのようだったけれど、私が辛くなる道理なんてない。
辛いのはあの子だ。
そして私は、どこまでも自分勝手で、最低で、浅はかで、傲慢な人間なのだ。
バイクの上は風が強かったなんて言って、二乃を騙して──。
(────聞こえてたよ、全部)
二乃が私に告白したのも。
あの子が好きな相手は、今はかな子ではなく上杉風子なのも。
それを聞いて、混乱して、悩んで出した結論がこれだ。
あの子に私は相応しくない。
私は恋愛するべきではない。
二乃にはもっと素敵な人がいる筈だ。
私達が女同士だからだとか、そんな理由じゃない。中野二乃を騙した上に、一時は利用までしようとして、そして姉妹間の中を掻き乱した私に、あの子は相応しくない。
だけど断る度胸もなかった。
だから聞かないフリをして、無かったことにして、素知らぬ顔でまた明日も会う。
(本当に最低だ、私って)
誰かを好きになるのが怖い。
誰かから好きになられるのが怖い。
私がいることで、迷惑をかけてやしないだろうかとか、嫌われてしまうのだろうかだとか、そんなくだらない事ばかり考える。
もしも誰かと愛し愛される日が来れば、それはとても素敵だな、とは思うけれど。
いつもいつも身勝手で醜い私を見られたくないから、突き放す。
こんな自分を見られたくない、そんな凝り固まったつまらないエゴイズムと自尊心が混じり合ったのが、私だ。
(でも、それを差っ引いても、皆んなこれで良かったって言う筈。二乃は私と付き合うべきじゃないもの)
これで良い、良かった、と自分に言い聞かせる。そうでもしなければ、今すぐにこの胸の奥にある鉛のような罪悪感に押し潰されてしまいそうだ。
考えるな。
乾いた唇からは冷たい息が出た。脱力だろうか、安堵からだろうか。
革靴の音がした。
店長、もう休憩終わったのだろうか。
二乃の伝言を伝えておかなければ。
「店長、全部片付けました」
「あんたを好きって言ったのよ」
数時間、時計の針が巻き戻った感覚。
だけどこれは現実で、そんな事がある筈もないのだ。
二度目の告白。
何故、どうして、よりも。
無意識に最初に浮かんだのは、この子からは逃げられないということ。
自責の念に駆られ、一人暗い海の中でぐずっていた私を、二乃が無理矢理引っ張り上げたのだ。
向き合わなければ、ならないのだ。
「返事なんて求めてないわ。ほんとムカツク。対象外なら無理にでも意識させてやるわよ。女だろうが関係ない」
「………っ」
「あんたみたいな女でも好きになってくれる人が一人くらいいるって言ったわよね。……そ、それが私よ。残念だったわね」
「………ぁ」
真っ赤な顔をして、ぐちゃぐちゃになった頭で、それでも出る言葉は鋭い。
意識せざるを得ない。
考えざるを得なかった。
この日、およそ五年ぶりに、私の運命は急激に動きだそうとしていた。
いや、もしかすると、初めて会った時からずっと回っていたのかもしれない。
時計の針も、恋の歯車も。
アクセル全開、ブレーキの効かないノンストップの超特急。
その急発進について行けていないのは、もはや私だけだった。
────いや、もう一人。
「…………嘘…………」
私は知らなかったけれど、一花も、その時その速度に振り回されそうになっていた。
先の展開を考えて、風子は二乃の告白は二回ともバッチリ聞こえてるという事にしました。恋愛嫌いの彼女には荒療治が必要なんです。
もうすぐ年明け、おせち料理楽しみだなぁと思って過ごしていますが、正直あれかなり味濃いから途中で飽きるというか、無性にカレーとか食べたくなりません……?
おせち食べてる途中で唐突にあー米食いてぇー!ってなりません?私だけ……?