五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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原作でフータローは、四葉だけノーヒントですぐに見破ったものの他の姉妹は分かりませんでしたし、三玖も時間をかけねば分かりませんでした。
つまり今作でフー子が誰かを見破る、もしくは見破れない時に誰が花嫁か分かっちゃう訳です。
という訳でそういった描写は極力ボカしています。ヒント無しです。誰が花嫁か推理しつつお楽しみください。


スクランブルエッグ 三玉目

──こんにちは。

「こんにちは」

 

──あなたの名前とプロフィールを教えてください。

「自己紹介ですね!中野五月、5月5日生まれ。17歳のA型です。」

 

──好きなことを教えてください。

「好きなこと……ですか……。やはり、美味しいものを食べている時は幸せですね」

 

──スリーサイズを教えてください。

「なっ、そんなこと答えられません!上杉さん!女の子同士とはいえプライバシーというものがありますよ!」

 

くそぉ全然違いが分からない!

改めて五つ子って、これほど似るものなのかなぁ。クローンじゃないの?

中野家のお父さんが好きだった女の人を忘れられずに作った人工生命体だったり?医療関係者だし、可能性あるな……。

 

「こんなところですかね」

「一通り話して見分けられましたか?」

「うん……それより、先に聞いておきたいんだけれど。どうして全員五月の変装なんかしているの?」

「話すと長いのですが……昔から私達はそっくりの五つ子で、自他ともに認める仲良し姉妹だったのです」

「しかしある日、姉妹の一人が皆んなと違う格好をしてみたんです。

「五人同じじゃない私達を見てお爺ちゃんは物凄く心配してしまって。仲が悪くなったんじゃないかと、しまいには倒れてしまったのです」

「それで、か。皆んながそっくりな姿でいる理由は。あんな怖いお爺ちゃんのために皆んな偉いね……」

「いいえ、とっても優しい人ですよ」

「…………そ、そう?」

 

あの人投げ飛ばしてくるんだけど。

でも、この子達なりにあのお爺ちゃんを慮ってのことなんだろう。

しょうもない悩みかもだけど、この子達はいたって真剣。五月が父親の目を逸らしているうちに、一人ずつ話を聞いてあげられたらいいんだけど……。

 

「で、分かったのですか?」

「うん……あ、あれ?んー…と……さ、さっきは分かったのにぃ!」

「はぁ、ガッカリ。やっぱりあんたには駄目みたいね」

「待って!もう一回、今度はちゃんとするから!」

 

って、何をDV夫に言い訳する妻みたいな事を言ってるんだろ私。

すると、襖が叩かれる。

誰だろう。マルオさんか、お爺ちゃんか。

ひとまず炬燵に潜って隠れる。

 

「あ、お爺ちゃん」

「おはよー」

「……………………」

「え?なあに?」

「なんか心配してくれてるみたい」

「安心して!今でも仲良しだから」

 

あっぶな。

あのお爺ちゃんだったかー。

……それにしても、あの人が、言うに事欠いて優しいって?冗談じゃないよ。やべーお爺ちゃんだよ。唐突に投げ飛ばした挙句に、よく分からない事言いだすし。

ああ、この子達の脚がすぐそこに。

……待てよ。

 

「!?」

「ちょ、ちょっと……」

「だ、だめ……」

「何してんのよ!?」

「?」

『あははー!』

 

この中に偽五月がいるとしたら、あるかもしれない。昨夜の怪我の痕が……!

あった!

この子が偽五月だ!

脚になんか痕ついてる!

「じゃあ大広間に行こっか」

ちょっ!待っ!

「今日は海に行こう」

行かないでェ──ッ!

 

まあ、一応、成果はあったかな。

再確認できた。

けど何でだろう、期末試験も無事合格して順調だった筈なのに。

……私なんかじゃあの子達の相手は無理なのかな、なんて、もう思わないよ。この仕事はきっともう私にしかできない。喰らい付いてやるんだから、絶対に。

 

「ちょっといいですか?」

「……えー……と………」

「三玖だよ」

「あ、あー!うんうん、そーだよねーそれ以外あり得ないよね分かってたけどね!」

 

あー、駄目だ。

一目で看破するなんてできないや。よくよく観察しないと誰が誰だかなんて全然分からないよ。

 

「突然お父さんがいて驚いたでしょ。フー子と一緒に応募した懸賞で間違えて前の住所書いちゃった。おかげで全員で旅行に来てるんだけど」

「あらら。それはドジったね」

にしても、外見だけではさっぱり。

愛があれば分かるのかな。

諦めるな私、今私は試されてるんだ。何もしない内から諦めるな。よく観察しろ!

五月が言うには、三玖にも悩みがあるらしいしね……。まあ、心当たりは無きにしも非ずなんだけど。まさかね……。

…………。

駄目だわかんない。

頑張ったから諦めていいよね。

 

「意地悪せずに教えてよぉ……」

「それはルール違反。もう少し頑張ってみてよ。私も、いや、皆んなだって当てて欲しい筈。他の誰でもないフー子に」

「………じゃあせめて脚見せて」

「なんで!?」

だってさー。見分ける要素がそれしかないんだもの、仕方ないじゃんかよー。

 

「………」

「!お爺ちゃん」

「………………」

「え?な、なんですか?」

「………………見たぞ……また孫に手を出そうとしてたな……?………だからそういうプレイは………時と場所を選べと………殺すぞ………」

「何もしてませんってだから」

「三玖よ、何もされとらんか?」

「う、うん」

「…………あれ?」

このお爺ちゃん、顔だけで三玖を判断したっていうの?

やはり只者じゃない、かなりの強キャラお爺ちゃんだ!

お爺ちゃん!

いや!

 

「お師匠──ッ!あなたに弟子入りさせてください!」

「………儂は弟子は取らん主義で…………殺すぞ………」

いや物騒すぎない!?

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

はじまりは、二乃の提案だった。

 

「一花、あとで朝風呂に行かない?」

 

その時からなんだか嫌な予感はしていた。

心臓が早鐘を打っていた。

実の妹なのに、彼女が、とても、恐ろしいものに見えたし、羨ましくもあった。

どうしてそんな風にできるのだろう。

どうして私じゃできないんだろう。

 

「痒いところはありませんか〜?」

「もー、ここまでしてくれなくていいのにさ、二乃」

「あら?脚どうしたの?平気?」

「うん、痛くはないかな」

 

痛いのは心だった。

 

「この温泉も変わらないね」

「昔は五人で入ってたっけ」

「それで、なんで今日は私なんだろう」

 

なんで私じゃなきゃ駄目なんだろう。

他の人でも良かったんじゃないかな。

私達には生まれた順にそれぞれ割り振られた役割がある、と思うことがある。

私は長女として下の子を応援する役割がある筈だった。

なのに。

今となってはそれが疎ましい。

なんで私は二乃や三玖じゃないんだろう。

心が軋んでいく感覚。

 

「一花の花が聞きたくなったのよ。ほら、あんたって沢山されてるらしいじゃない。………告白とか」

 

二乃。

 

「こんなこと他の子には言えないわ」

 

お願い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きな人ができたの」

 

────やめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっ!やめてくださいよぉ」

「ししし」

「あ、一花と二乃と三玖も来たよ」

「お爺ちゃんは?」

「あそこでフー子と釣りしてる」

「いつの間に仲良く……」

「ふーん、あいつも来てるんだ」

 

五月ちゃん達は、もう、先に海に来て遊んでいるようだった。

蒼く光る海は、私のこの鬱屈とした感情を洗い流してくれはしなかった。

二乃を止めるなんて、無理だった。

あの後少し話したけれど、彼女の恋心は燃え盛る一方で。挙句、キスをする宣言まで言い出した。

フー子ちゃんも意識せざるを得ない。

まともに私達を見分けられない彼女も、二乃は、二乃だけは、分かるようになるかもしれない。

そう、その役割は私じゃない。

中野一花じゃ、ない。

 

(駄目だぁ。分かんない。ぜんっぜん分かんない。早く偽五月を見つけなきゃいけないのにぃ!……もう見分けるの諦めようかな。そんでもって脚の傷からの特定に集中しようかな)

「わぁ、沢山釣れてますね!」

「うん。殆どお爺ちゃんが釣ったものだけれどね」

「これは何て魚ですか?」

「えーと……?」

「クロダイ。こっちはアイナメ、それはメバル」

「物知りだねお爺ちゃん」

「…………!」

「めっちゃニッコリするじゃん」

「これは?」

「ああ、それは、キスだよね」

「!」

 

そう聞いた瞬間、二乃はフー子ちゃんの方へと歩き出して……って!

えっ!?二乃!?

うそ、こんなところで!

ちょっとそれは違くない!?

「……今じゃないわね」

だ、だよね!

「五月の姿じゃ効果が見込めないかも」

そこ!?

 

(はぁ、もう、疲れる……っ!)

 

脚が痛む。

昨日つけられた傷が、不意に熱くなった。

思わずよろけた。

バランスを崩す。

そんな私を掴む手があった。

 

「わっ、と。大丈夫?」

「!フー子ちゃん……」

 

よ、よりにもよって。

嬉しい気持ちと、やめてほしい、という気持ちが入り混じる。

落ち着け。

私は、女優だろう。

 

「ご、ごめん。ちょっとよろけちゃって。昨日脚を痛めちゃったからさ」

 

ハッとした。

その瞬間、私の手は引っ張られた。

二人でバスの陰に隠れる。

追い詰められて、逃げられなくなる。

彼女は問い詰めた。

 

「ねえ、顔、もっとよく見せて」

彼女の顔はもうすぐそこだった。

「あれ、おかしいわね……」

不意に声がした。

二乃の声だ。

咄嗟に、「隠れて!」と、フー子ちゃんをバスの陰の奥の方に引っ張った。

ああ、これじゃあ、本当に悪いことしてるみたいじゃん。

花火大会の時は笑って誤魔化せたのに。

 

「な、なにを……!?」

「ごめんっ、静かにしてて」

なんで私はいつも逃げるの?

悪い事だって分かってるのに!

でも、今の二乃とフー子ちゃんを、二人きりにさせたくもない。

……でも、そうか。

フー子ちゃんは、今の私が誰だか分からないんだ。

それなら……。

 

(こんな面倒な事考えなくてもいいか)

もう、一層のこと、キスしちゃうか。

 

「そこに誰かいるの?」

二乃に見せつければ、あの子も、分かってくれるんじゃないだろうか。

私の、この想いも──。

 

…………。

 

「やっぱ無理ぃ!!」

「えっ」

思わず彼女を海へと放り投げた。

ごめん!フー子ちゃん!

 

「何してるのよ?」

「あははは」

な、なんとか誤魔化せた?

 

「ちょ、泳げないんですけどおおお!?」

 

……ごめん!フー子ちゃん!

フー子ちゃんはその後、お爺ちゃんに救出されていた。

「………世話のかかる弟子だ……殺すぞ」

とお爺ちゃんが言っていたような気もしたけど、まさかね。

 

「なんで濡れてるのです?」

「色々あって……くしゅん!ああ、もう。もう少しで腿の傷も確認できたのに」

いやそれはほんとごめん。

 

「やっぱりお爺ちゃんの前だと何かと制限されるわね」

「二乃、別に今じゃなくても」

「旅行も明日まで。二人きりで会えるチャンスがあるとしたら……」

案の定全然聞いてくれないし。

「夜になったらここを抜け出して彼女に会いに行くわ」

 

 

 

夜はあっという間だった。

 

 

 

「一花君、五月君。僕の娘は双子だったのだろうか」

「………いいえ」

「少し目を話した間に五人中三人が抜け出すとは。家出癖がついてしまったんだろうか。行方は聞いていないのかい?」

「四葉はトイレと言ったきり……」

「二乃は着替えてたから旅館の外かも…」

「捜してこよう。君達は大人しくしていなさい」

 

そう言って、お父さんは出て行く。

ピンと張り詰めた空気が弛緩した。

「皆んなどこに行ったんでしょう」

「……さあ、さっぱり、分かんないなぁ」

 

嘘だ。

行方が分からないなんて嘘だ。

少なくとも二乃の場所については見当が付いている。

恐らく、誓いの鐘、だろう。

キスに持ってこいのスポットなんて、あそこしかない。

二乃はフー子ちゃんに会いに行った。

旅行も明日まで。二人きりで会えるよう、色々と動いていたもの。

私の手は借りなかったけれど。

三玖と四葉は何をしているか分からないけれど、もしかしたら、あの子達も。

フー子ちゃんが好きな三玖と、他人を応援する気質の四葉のことだ。

十分にあり得ることだ。

 

「一花、ただ待ってるだけなのもなんなので、温泉入りに行きませんか?」

「……うん。いいよ」

 

階段を降りて行く。

正直、一人になりたい気分ではあったけれど、話すことで気が紛れるかも。

……と思ってたんだけど。

 

「それにしても、上杉さん、大変そうでしたね。……でも、一花達も何もこんなタイミングで彼女を試さなくてもいいじゃないですか………」

 

五月ちゃん、今は彼女の話題はやめて欲しかったなぁ。

やばい。

お姉さん泣きそうだよ。

 

「でも、やっぱり、無理だったんだよ。たった半年の付き合いで私達を見分けようだなんて、無理な話だったんだ」

 

そう、全ては、無意味。

身体に縛り付けられた重荷を払うように、

服を脱いでいく。

なにもかもがどうでもいい。

うざったい。

けど、こんな時に限って、意外な人物が意外な力を発揮するものだ。

 

「どうしたの、五月ちゃん。私の服なんて掴んでさ」

「その脚………」

 

ああ、そうなんだ。

五月ちゃんは知ってるんだ。

偽五月の正体を暴くヒントを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一花だったのですね」

 

腿には、ほんのり赤い傷が残っていた。

 

 

 

 

 

 




本来の三玖の役割が一花に回ってきました。
四葉によるメンタルケアもないのでかなりドン底まで落ちちゃってます。
次回、解説回です。
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