五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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変化球勝負、ほか

 

 

 

 

『変化球勝負』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フー子ちゃんまだかな……?

 あっ!来た!

 

「……んんっ。フー子ちゃん、おっはー」

「あれ、一花?おはよ。あんたとは不自然なほど登校時に会うね。他の姉妹は一緒じゃないの?」

 

「えっ!あー……」

 やば!フー子ちゃんと登校するの楽しみすぎて言い訳用意してなかった!

「わ、私はコーヒー買いにね!そだ、これフー子ちゃんに差し入れ!」

「偶然会ったのに用意してくれてたんだ…でもごめん、私、コーヒー飲めないの。苦いし」

 

 び、貧乏舌のくせに……!

 あーあ、やっちゃった。

 貢ぎ物作戦も失敗。

 かといって二乃みたいな直球勝負は絶対無理だし……。けど、このポジションは譲りたくないんだ。

 

「皆んなから聞いたよ?お父さんとまーた一悶着あったんだって?」

「まーね。また家庭教師を辞めるか辞めないかで揉めてるよ」

「しかも相手があの武田くんなんでしょ」

「知ってるの?」

「前に話さなかったっけ?」

「………えーと………」

「フー子ちゃんは興味ない事ほんと記憶力働かないよね」

「む、そっちだって働かないくせに。分かってると思うけど、月末の試験まで勉強漬けだからね?」

「うげぇ」

 

 フー子ちゃんの誕生日、言い出し辛くなっちゃったなぁ。

 

「ま、でも。あんたは学年末試験の頃から働きながら勉強してきたしね。何も心配してないよ」

「……むふふ。フー子ちゃんからそんな事言われる日が来るなんてね」

「あれ、今日は眼鏡なの?」

「今更ぁー!」

 

 前言撤回。

 やっぱ変わってない。

 

「一応これ変装なんだけどね」

「変装?」

「ほら昨日、私の出た映画の完成試写会があって……そこそこテレビで取り上げられたみたいだしさ。覚えてる?あの時の映画なんだけど……」

「……ぷっ。それで声をかけられないよう変装してたっての?これは大女優様だ」

「も、もー!恥ずかしいって!」

「つーかあの時のって、タマコちゃん?ぷっく、ふふ、タマコちゃんかぁ、ふふ」

「やーめーてー!」

 

 楽しかった。

 君と笑い合える時間は、かけがえなくそして尊かった。

 

「あ!皆んなじゃん」

「…………ッ」

 

 けれど。そんな時間は長くは続かない。

 別に、皆んなで過ごす時間が嫌なわけじゃない。けど、フー子ちゃんと過ごす時間も同じくらい特別だ。

 それに何より。

 フー子ちゃんには、私を、見て欲しい。

 私だけを──…。

 

「フー子ちゃん」

「?」

「学校サボっちゃおうよ」

「え?ダメっしょ」

 

 ………にべもなし。

 そういうと思ったけどさぁ!

 

「だから模試があるんだって!」

「一時限目体育だよ!大丈夫だって」

「それなら、ってそんなわけいくかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 喧嘩してたら遅れた。

 遅刻ギリギリだ。やっちゃったな……。

 

「もー、ただでさえあんたは昨日の勉強会サボってるんだからしっかりしてよね!」

(む………)

 

 サボってるって、失礼な。

 私だって昨日は仕事があったんだから!

 それに私抜きで色々話が進んでたのだって気にしてたんだからね!

 ……はぁ。上手くいかないなぁ。

 

「ふぅ、ギリギリセーフ……」

「あ!来たよ!」

「中野さん、朝のニュース見たよー!」

「わっ!?」

 

 ドアを開くと大歓声。

 え、女優バレしてる……??

 どうやら私が試写会に出てたのがクラスで話題になってたみたい。

 

「そんなに大きい映画だったの?」

「ま、まぁね……」

「……どうでもいいけど。オーディション受けて良かったね。もう立派な嘘つきだ」

 

 ……!

 こんな単純で良いのかな。

 君が私を気にかけて覚えていてくれた。

 たった、それだけが。クラスメイトのどんな讃辞より、胸に響いてしまうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 私は一日中引っ張りだこだった。

 どこに行っても私の話ばかりで、抜け出す暇がない。まあ、他の姉妹と間違えられなくなったのは嬉しいけど。

 

「ごめん私そろそろ……」

「えー!もっと話聞きたいなー」

「え、えーと……」

「こっち!」

「わっ」

 

 手を引かれて走る。

 逃げた先でカツラを被せられる。……これは三玖のカツラか。

 

「助けてくれてありがとう、二乃」

「モテるのは羨ましいけど、こうも追い回されると考えものね」

 

 あの子達には悪い事したかな……。

 そんな事を考えていると、二乃は、少し思案したような顔をしていた。

 ……あの事かな。

 

「一つハッキリさせておきましょうか。春の旅行の最終日、私はあんたにパパの足止めを頼んだ筈。それなのに待ち合わせ場所にパパは現れた」

「………」

「何か弁明はあるかしら」

「………無いよ」

「そ。もう一つハッキリさせたい事が…」

「二乃」

 

 遮るように、言った。

 

「フー子ちゃんの事、好き?」

「大好きよ」

「私も」

 

 ……ああ、こういうところだ。

 卑怯者だ。臆病だ。

 ハッキリ好きだって言えない。

 

「何でこんな時だけ一緒なのしからね」

「………本当にね」

「ま、いいわ。私は一人でも風子を攻略するつもりよ。ボヤボヤしてると横から掻っ攫っちゃうから」

「……わ、私だって……!」

 

 二乃の挑発するような視線。だけど、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせる。だって私にはアドバンテージがあるんだもの。

 私は一度、フー子ちゃんに見分けられた実績がある。現時点であの子は私に愛情を感じてくれている。だから、二乃のアピールなんて目じゃないくらいのアドバンテージが私にはあるんだ。

 

「私はキスしたわ」

 

 空回ってるのは二乃の方だ。一緒のバイトに入ったみたいだけど、仕事中じゃあまり会話も生まれないでしょう。それに、私だって毎朝の会話を欠かしてない。

 二乃は恋愛初心者。まだ足踏みしてる状態だ。三玖もまだ行動は起こしてないようだし、リードは今、私にある。

 

 え?

 

「キスしたって言ったのよ。私からすればあんた達はのんびりし過ぎなのよ。ま、今から何しようが、あの子と結ばれるのは私だけどね」

「……………嘘」

 

 そう言って歩く二乃の後ろ姿を、私はただ見送るしかできなかった。

 キス、なんて、そんな、本当に?

 一度失敗したって聞いてたのに……!

 いや、大丈夫。

 大丈夫なはずなんだ。

 私にはアドバンテージがある。私の変装を見破ったあの子には、きっと、愛があるんだ。だから私が好きなんだ。

 ──恋愛感情じゃなかったとしたら?

 ──友愛だったらどうしよう?

 言い知れぬ不安に陥った。

 たとえばお爺ちゃんやお父さんも私達を見分けられるけど、それは何も恋愛感情で見分けているわけじゃない。

 それと同類だとしたら?

 いや、フー子ちゃんがあの時見分けられたのでさえ、偶然だったとしたら?

 

(フー子ちゃんは私をただの同性の友達としか思っていないのかもしれない)

 

 あり得る話だ。

 それなら二乃の方がよっぽどフー子ちゃんを意識させているじゃないか。

 私が今まで積み上げてきたものは全て間違いだったのか?

 私は所詮そこまでなのか?

 もしそうだとしたら、私は──。

 ぐらぐらする頭を押さえて歩いた。

 校舎の中は、私の話で持ちきりだった。

 三玖の格好をしていて助かった。今は誰とも話したくないから──。

 

「あんたまだここにいたの?」

 

 ふと、声をかけられた。

 でも不思議と嫌ではなかった。

 顔を上げて納得する。……フー子ちゃんの声だったからだ。

 

「行くよ、三玖」

 

 でも、現実は残酷だった。

 私だって分からないんだ。

 あれは偶然だったんだ。

 別にフー子ちゃんは悪い事をしたわけじゃない。でも、私が密かに感じていた優越感と虚勢は崩れ去った。

 砂上の楼閣は崩れ、後には、カラカラの大地だけ。

 泣いてしまいたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

──これはチャンスなのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フー子ちゃ……フー子」

 

「?なに?」

 

「教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

「一花、フー子が好きだよ」

 

「──え?」

 

「凄くお似合いだと思う」

 

「何を………」

 

「私、応援するね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘でしょ?」

 

 

 

 

 

 

「嘘じゃないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『五羽鶴の恩返し』

 

 

< 中野家の五つ子(5)
.

今日

      
既読4

22:19

3日後フー子ちゃんの誕生日だよね?

うん 22:19
      

      
既読4

22:19

プレゼント 

何にするか考えてたけど

22:20
      

      
既読4

22:20

そもそも試験勉強してるフー子ちゃんの邪魔にならないかな?

      
既読4

22:20

一度この話白紙に戻そうよ

Aa          

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ……あれは何だったんだろう。

 いやいや、そんな事考えてる暇はない。

 今は勉強しなきゃいけない。

 だけどあれは何だったんだろう。

 ……視界がボヤボヤする。

 

「一旦休憩にしよっか」

「つかれたー」

「五月ちゃんは?」

「用事あるって」

「……私外の空気吸ってくるね」

「は、はい」

 

 もう少し教えたらあの子達を元の点数に戻せるはず。(あの子達の自学にもかかってるけど)

 私も模試に集中したいところだけどそうもいかないか……。

 

(いや、両立させればいいだけの話!あの子達が帰った後一人でやればいいじゃない、あの子達は足枷じゃない!)

 

 とはいえこの疲労感と倦怠感はどうにかならないものか……。

 

「フー子?今大丈夫?」

「三玖……ちょうどよかった、私も話があったんだ」

「「明後日(昨日)の事だけど」」

「………え?なに?」

「フー子こそ……」

 

「──二人して何話してるの?」

 

 !一花……

 昨日の三玖らしき人物によれば、一花は私の事が、好き、だって……。

 いや、そんなわけないか。

 あの一花が私なんかに好意を抱いてくれるわけがない。二乃は……そういえばなんで私の事を好きになってくれたんだろう。

 

「な、何でもないよ」

 

 やっべ。

 考える事多くて頭ショートしそう。

 

 

 

 

 

 

 

 ………はっ。

 今一瞬意識飛んでた。

 ええと……ああそうだ、あの子達が帰った後も勉強してたんだった。

 どこまでやったっけ……。ああ、時間を無駄にしちゃった。

 いや、睡眠学習したと思えば大丈夫!

 

「大丈夫じゃないですよ。ご苦労様です、差し入れです」

「!五月……」

 

 彼女は眠気打開のドリンクをコトリと机に置いてくれた。……有難いけど、ここ、飲食禁止じゃなかったっけ?

 

「……ありがと。もらっとく。でも私は苦労なんてしてないよ」

「そうですか……。

 先日、塾講師をされてる下田さんという方の元へ出向いてまいりました」

「へえ」

「バイト……と言えるのか分かりませんが、下田さんのお手伝いをしながら更なる学力向上を目指します」

「私じゃ力不足だった?」

「そうではありませんよ。夢のため、教育の現場を見ておきたいのです」

 

 ……格好いい事言ってる風だけど、顔赤くなって震えてるし。

 この子達のやる事は本当に予測不可能、回避不可能だ。

 新学年になってから、

 四葉はなんか応援してくるし。

 二乃はすごいことしてくるし。

 一花もなんか変だし……。

 三玖は……

 

(…あの三玖ってやっぱり一花だよね…)

 

 彼女が他の生徒にバレないよう、敢えて三玖呼びしたのが悪かったのかな……。

 でも一花が私を好きなわけないしな…。

 え?

 なにこれ?

 わっかんねー。

 

 

 

「……う、上杉さん?………ふふ。貴方にはいずれ話しますから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!」

 

 やべえ今度こそ寝てた!

 あ、らいはからメール来てる。

 ……そういえば今日が誕生日だっけ。

 

『From らいは

お姉ちゃんいつ帰って

くるの?

お誕生日会の準備して

まってるよ』

 

 ……帰るか。

 ん?

 なんだこれ。……五羽鶴?

 何かの裏紙を使ってるみたいだけど……

 ……なるほどね。

 中野家の五つ子達が、テスト用紙を使って鶴を折ってくれてたんだ。

 ……憎いことするじゃない。

 

「一人じゃないか……」

 

 あの子達も頑張ってる。

 負けらんない、な。

 




ライン画面死ぬかと思ったぜ……
心折れたぜ……
けど作ってる途中で書きかけの分消えたのはもっときつかったぜ……もう二度としねえ!
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