五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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シスターズウォー 二回戦

 私はフー子に食べてもらうパンを作るために、ここ数週間ほどバイト先のパン屋でひたすらパンを焼いて作っていた。

 だけど結果は振るわず、手順通り作っているのに不思議な力で何故か尽く失敗ばかりしてしまう。

 けど、今日ようやく作れた!

 ちょっと焦げてるけどまあ普通に美味しいと言えるパン!

 

「いやぁ、まだお店に出せるレベルじゃないとはいえ、三玖ちゃんがここまで作れるようになれて私も嬉しいよ」

「店長さん、ありがとうございます」

「修学旅行までに美味しいパンを焼きたいんだっけ?」

「はい、一日目のお昼が自由昼食のはず、そこで渡すんです」

 

 侵略すること火の如し。

 そこで私のとっておきをあげる。

 店長には当日の朝から厨房を貸してもらう約束を取り付けてある。合戦の準備は既に万全だ。

 

「うーん、青春してるねえ。実は私も向かいの糞ケーキ屋とは色々あってね……」

「色々?」

「色々。人生の先輩からのアドバイス、人間歳食ったら意地張って言いたいことも言えなくなっちゃうからさ、言いたいことは若いうちに言っとくのが良いよ」

 

 ……夙きこと風の如し?

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「フー子、駅でお菓子買ってきたけど何か食べる?」

「ええと、じゃあポテチでも……」

「あ!でもお昼入らなくなるといけないからやっぱこれは駄目だね」

 

 いや何のために買ったんだよ。

 よこせよ。

 

「てか、その紙袋はなに?」

「あー!見ちゃ駄目!それは絶対見ちゃ駄目なやつ!……今日の昼までは!」

「何で見られちゃまずいもの持ってきた」

 

 うー……ん……最近の三玖の行動は本当に読めない。すぐ取り乱すかと思えば、変なこと言い出すし。

 ……あの日、一花との仲を応援するとか言ってた三玖はもしかして本人?

 いやまさかね。

 

(………でもそれはそれで、一花が私のこと好きみたいじゃん。そんなわけないし、そもそも一花は私が一度変装を見破ってる筈だよね?また変装なんてするか普通?)

「……あれ?三玖?」

「すぴー、すぴー……」

「寝てるし……」

 

 そういえば三玖、ずっとうとうとしてたな。修学旅行が楽しくて夜は眠れなかったのかな?

 ……意外と可愛いとこあるじゃん!

 じゃあ私も寝ようかなー。

 

 

 

 

 

 

 

「着いた着いた。京都かー、もう何年ぶりだろ?」

「四葉ー、早くしなさーい。降りるわよー」

「うん、すぐ行くよー……ここは確か上杉ちゃんと三玖がいた座席のはず……何だろこの荷物は……」

 

「……新幹線の中にパン忘れてるー!?」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

「何か……大切なものを……新幹線の中に置き忘れたような……」

「寝ぼけてたから、私達二人とも慌てて降りちゃったもんね。でも貴重品とかはあるし大丈夫じゃない?」

 

 フー子はそういうけど、うーん、すぐに取りに帰らないといけない気が……。

 ……もしかしてパンを置き忘れた?

 まっさかぁ。

 そんなことある筈ないか。

 

「大きい荷物はこちらでホテルに送っておく。貴重品だけ持っていくように!諸注意は以上だ。では解散」

 

 さあ行動開始だ。

 姉妹の皆んなには悪いけど、彼女達からなるべく離れる必要がある。一花と二乃はフー子を狙っているし、この旅行中に何かしらのアクションを起こす可能性は十分にある。

 五月も様子がおかしいし……。

 うーん、四葉だけでも協力を仰いでおくべきだったかな?

 

(ってダメダメ!これは私が始めた戦いなんだから、私が私の力で突破しなきゃダメなんだ!)

 

 お洒落なお店も分からない。

 ならではの美味しいものも食べさせてあげられないかもしれない。

 けど、ここでゆっくりと過ごしているわけにもいかないんだ。

──私だって、この恋は本気なんだから。

 

「わぁっ!すごい!」

「学問の神様が祀られている神社だって!三玖、祈っときなよ!」

「うん!私の成績は割と洒落になってないからそうする!」

 

──そう、この恋は本気で……。

 

「わあっ!これずっと鳥居なの!?」

「写真撮ろ写真っ!」

「実物は壮観だねーっ」

 

 ってちがーう!!

 このままじゃ普通に修学旅行に来た女子二人組だ!仲良しカップル!って誰が仲良しなの!別にそんなんじゃないから!今はまだ!

 色々歩いたところで、四ツ辻に出た。

 

「道が二つあるね」

「もうお昼だし、あそこのお店で食事休憩取ろっか」

「!待って、お昼は……作ってきたの、だから眺めの良いところで食べよう」

「そう?なら良いけど……」

 

 よし。

 正規ルートらしき右ルートに行って、この頂上に行こう。そしてそこで私のとっておきを食べてもらうんだ。

 

「ぜぇー……はぁー……」

「ほひぃー……はひぃー……」

 

 辿り着くまえに死にそう。

 二人とも体力無しコンビだからね……。

 予想はできたけど無理だよね……。

 ああ、フー子を付き合わせてしまって申し訳ない。いっそのこと道の途中で食べてもらうか……?

 

「いやぁ、それじゃ勿体ないよ」

「え……」

「三玖がせっかく作ってくれたんだもの。どうせなら景色の良い山頂で食べよっ」

 

 へろへろの顔で笑うフー子はとても可愛らしかった。この胸の慟哭は、階段を何段も登ったから──だけではないだろう。

 山頂に着く。……思った通りだ。

 今ここにいるのは、私とフー子だけ。

 絶好の機会。姉妹の皆んなも、クラスのメイトもいない、私とフー子だけの世界。

 心の中でガッツポーズをして、鞄の中を弄って……血の気が引いた。

 この日のために焼いたパンが無い……!

 おそらく、新幹線の車内に……!

 

「あらら……じゃ、仕方ないけど下に降りて食べよっか」

「う、うん……」

「今は神社とか見よう?わー、これとか面白そうだよ」

 

 私に気を遣ってか、明るく振る舞うフー子に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 そして腹が立つ。私自身の不甲斐なさと矮小さに。今日はフー子に喜んでもらえるようにたくさん準備をしてきたのに、全然上手くいかないことだらけ。

 ……やっぱり告白なんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 人間歳食ったら意地張って言いたいことも言えなくなっちゃうからさ、言いたいことは若いうちに言っとくのが良いよ

 

──蹴落としてでも叶えたい

 

──油断していたら足元なんてすぐに掬ってやるんだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フー子、話したいことがあるの」

「?」

「私、フー子のことが……」

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 フー子ちゃんと三玖を追って、私達は右ルートを歩いていた。あの二人なら変に違うルートは選んだりせずに歩きやすいルートを行くだろう、という予想の上だ。

 もしもフー子ちゃんだけだったなら、次どうするか予測はつかなかったろう。だけど姉妹の三玖の存在が、私達に思考を推理する要素を与えてしまっていた。

 

「一花?何故そんなに難しい顔をしてるのですか?」

「!………え、えっと……あ!あそこにトイレあるよ五月ちゃん、今のうちに行ってきたら?」

「あ、じゃあ私もー」

「この先には無いのよねー、私も行っておこうかしら」

 

 ……これはチャンスだ。

 私の提案とはいえ、これは思わぬ成果を生んだ。今のうちに私があの二人に追いつけば、まだ巻き返せる。

 向こうは体力のない二人。私が追いつく可能性は十分にある!

 ……フー子ちゃんに会ってどうしよう。

 三玖もいるし、あの子の様子もどこかおかしかった。たぶんこの修学旅行中にアクションを起こすはず。

 どこかのタイミングで三玖と入れ替わる必要がある。あの時の嘘に矛盾を生じさせないために!

 ………またやるしかない。

 一度ついた嘘はもう取り消せないのなら、三玖を止めるために、私は──。

 

(──私は嘘つきを演じ続ける)

 

 !ここが頂上……!

 あそこにフー子ちゃんと三玖の姿が見える!間に合った、よし、今なら

 

「好きです」

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

「付き合ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 フー子ちゃんが目を見開いた。(みくがなにをいっているのかわからない)

 ただ立ち尽くすしかできなかった。

 呆然と、焦りと不安と恐怖とが、心の中でドロドロと混ざっていくのに耐えるので精一杯だった。

 唾を呑み込む。ドブのような味だった。

 

「み、三玖、私のことが好きって…………ほ、本気で………?」

「………うん………」

「……………わ、私は…………」

「………えっ?何でここに……!?」

「?………!一花………!?」

「ッ」

 

 三玖は何で、という表情をした。フー子ちゃんは混乱の極みに陥ったようだった。

 けれど私はそれどころじゃない。

 三玖の格好をしている姿を見られた。

 言い訳しなきゃ。

 嘘をつかなきゃ。

 ……駄目だ。さっぱり何も出てこない。

 いつもはもっと簡単に嘘がつけるくせに、些細な動揺で揺らいでしまう私の脳味噌を心底呪った。

 

「はぁ……やっと頂上だわ」

「もー、皆んなおそーい」

「?あれ?皆んな何をしてるのです…?」

「………どういう状況かしら、これは。説明して頂戴、一花」

「…………ッ!!」

「い、一花!?」

 

 振り向く度胸もなかった私は、乱暴にウィッグを外して、逃げるようにその場から立ち去った。

 頭の中が真っ白だった。

──惨めだった。

 直球勝負が怖くて策を弄したくせに、それも上手くいかなくって、三玖が告白してしまう瞬間を見てしまって、告白の邪魔もしたくなくって、けれどそれ以上は聞きたくなかった。

 これからどうしよう、という問への答えが頭の中で浮かんでは消えていく。

──逃げてしまった。

 もう、私は。

 

──取り戻すことはできないんだ。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 三玖の格好をした一花が、その場から逃げるように走っていった。

 まっっったく状況が呑み込めないけど、彼女を放ってはおけない。追って、話を聞かなくちゃ。そう判断した私の腕を掴んだのは、三玖だった。

 

「フー子、待って」

 

 この緊急時に何を、と言おうとしたけれど、その必死な顔に私は足を止めざるを得なかった。

 

「一花を追う前に、さっきの返事を聞かせてほしい。大変な事態なのは分かってる、けどこっちも本気だったから……」

「──ごめん、少しだけ考えさせてっ」

 

 逃げた。

 三玖の気持ちに答えてしまうのが、考えてしまうのが嫌だった。

 恋愛に対する思考を放棄した。

 私は一花を追わなきゃいけないのだから今は考える余裕なんてないのだと。そう言い聞かせねば、三玖の顔をロクに見ることすら叶わなかった。

 

「一花、もういないし……」

「上杉ちゃん!一花はバスに乗ってるみたいです!」

「四葉……、ありがとう、じゃあ私達も乗ろうか」

 

 バスの座席に着いて、これからの事を考える。まず第一に一花を追って、真意を聞き出さなきゃいけない。何で逃げたのか、いや、何で変装していたのか、って。

 ……そして……三玖の告白だ。

 告白されて嬉しいという気持ちもないわけではない。けれど、それ以上に、まさか三玖からの告白に動揺と混乱と──恐怖とを感じていた。

 ……何て返せば……。

 

「そういえば上杉ちゃん、三玖と何か話してる途中だったんですか?返事がどうとかって聞こえましたけど」

「それは……その……」

「告白されたんですか?」

「っ!?」

「その反応、やっぱり」

 

 やだこの四葉鋭い!

 ……バレたなら仕方ない。不安を紛らわすように、私はあの時の様子を一部かいつまんで話した。

 三玖は私のことが好き。

 ……まったく知らなかった。あの子が私に好意を抱いてくれていたなんて。……そしてやっぱり、あの三玖はあの子じゃなかった。間違ってなかったんだ。

 

「私、三玖に何の言葉も返すことができなかった。返答を先送りにしてしまった。我が身可愛さに、あの子の覚悟を、想いを、見て見ぬフリをしてしまった」

 

 あの子が嫌いなわけじゃない。

 私が懸念してしまうのは、三玖と付き合ったその先だ。

 たとえば三玖が五つ子との絆を失ってしまったとしたら?

 たとえば三玖が同性愛で心無き中傷に晒されたとしたら?

 上杉風子という存在が、三玖の人生を阻害してしまうかもしれない。その可能性があるだけで、私にとってはその恋は忌避するに値する。

 

「大変なことになっちゃいましたね。

 この旅行、皆んなに楽しんでほしかったのに……」

「……そうだね」

「皆んなが幸せになる方法ってないんでしょうか」

「あるよ。人と比較なんてせず個人ごとに幸せと感じられる。もしそんなことができたら、それは四葉の望む世界だ」

「そ、そうですよね!」

「でも──少なくとも三玖は、それじゃ駄目だったんだよ」

 

 現実的には誰かの幸せによって別の誰かが不幸になるなんて珍しくもない話だ。

 競い合い、奪い合い。

 そうやって勝ち取る幸せってのもある。

 ──だからこそ、私は人を恐れた。

 身近な誰かが不幸になってしまうのは耐え難い嫌悪感がある。もう誰の脚も引っ張りたくないし、迷惑もかけたくない。

 自分が不幸になるのも怖い。私はさしてタフな精神じゃないから、悪口や嘲笑はそれなりに傷つく。

 人間関係の負の側面に過敏に反応していることは分かっているけれど、どうしてもその壁はあまりに茫漠だ。

 

「何かを選ぶ時は、何かを選ばない時。

──だけど私は選びたくなんてない」

「…………上杉ちゃん……」

「………駄目だ………怖いなぁ……」

 

 人との繋がりを全て断ち切ってきたのは人との繋がりが怖かったからだ。

 恋愛を拒絶したのはその先の景色に心底震えてしまうからだ。

 

(このままじゃ駄目なのかな。皆んな一緒で仲良く過ごすのは駄目なのかな。

──友達として、これからもずっと一緒にいたいのに)

 

──私は、選べない。

 

 ややあってホテルに着いたけれど、一花は部屋にいなかった。夕食にも来ていないし、どこ行ったんだろ……。(私はもう食べ終わってます!)

 ……それにしても。

 

「……………」

「……フー子、昼の返事考えてくれた?」

「………ごめん、まだ………」

「まあ色々と混乱するのも分かるから返事はすぐじゃなくても良いけど……できれば修学旅行中に返事を聞きたい」

「…………ごめん…………」

 

 …………気まずい!

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「……………四葉?」

「こんなところにいたんだ、一花」

「どうしてここが……」

「姉妹だからね。一花の行きそうな場所くらい分かるよ」

「……そっか」

「なーんて。たまたま一花を見かけた人に教えてもらっただけなんだけどね」

 

「………一花、大丈夫?」

「……ううん。呆れたよね。長女のくせに皆んなの脚を引っ張るようなことをして。

 私、フー子ちゃんのことが好きで、だけどそれを言う度胸はなくって、三玖を利用しようとしてしまった。……皆んなに合わせる顔がないよ」

「………確かに、三玖に変装したのは良くなかったかもしれないけれど。でも、一花が皆んなに謝りたいのなら、私、なんでもするよ!」

 

 

 

 

 

「………なんでも………?」

 

 

 




ん?今何でもするって言ったよね?

何でこんなに三玖が積極的なの?ってなった方はスクラン編4話を見返してみてください。
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