五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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お宅訪問

 

『娘から事情は聞いたよ。体の具合は大丈夫かい』

「は、はい!もうすっかり元気です。それでその……娘さん達というのは」

『あぁ、正真正銘一卵性の五つ子だ。君には五人を卒業まで導いてやってほしい。当然給料も五人分払おう』

 

なるほど。相場の五倍ってそういう事か。にしても五月だけでも手を焼きそうなのに他の四人まで?ちょっと自信がない……けど、これも生活のため。

 

「娘さん全員を無事卒業させてみせます!」

『期待しているよ。ところで娘たちはそこにいるのかい?』

「ええ、事情を説明して部屋に集まってもらって……」

ない。

集まってもらってない。

何故誰一人もいないんだ。ボイコット?

『どうかしたかい?』

「ま、全く問題ありません!」

『そうかい?では失礼するよ』

「……あいつら、いったい何処に……」

「みんな自分の部屋に戻りましたよ」

「!そのウサちゃんリボンは……」

うざいぐらいに付きまとわれたから嫌でも覚えてる。

 

「四葉だっけ?0点の……」

「えへへ」

「けど、本当に五つ子なんだね。……四葉は何で逃げてないの?」

「し、心外です!上杉さんの授業を受けるために決まってるじゃないですか!」

「え?」

「怖い先生が来るかもと思っていたんですが、同級生の上杉さんなら楽しそうです!」

「四葉……」

「はい?……ええっ!?」

 

感極まり、目の前の女の子をぎゅっと抱き締める。

「う、上杉さん?何を!?」

「ありがとね、四葉」

「はぅあ……」

ああ、シャンプーの良い香りがする。良いの使ってんのかな。

「さ、さー!他のみんなを呼びにいきましょー!」

あっ、逃げた。

 

「まさか、五人集めるところから始めるとはね……」

「大丈夫ですって!クラスが一緒なら知ってると思いますが、五月は凄く真面目な子なんです!余程のことがない限り協力してくれますよ!」

「嫌です」

「あれー?」

余程のことあったみたいだけど。

 

「そもそもなぜ同級生のあなたなのですか。この町にはまともな家庭教師は一人もいないのでしょうか」

「昨日の事ならごめんってば。全面的に私が悪かったよ。それに、これからパートナーになるんだからさ、ね?」

「断固拒否します!」

そういうと五月は乱暴にドアを閉めた。こいつめ……。

 

「あー……次!行きましょう!三玖は私達の中で一番頭がいいんです。気が合うんじゃないかなー」

「四葉、覚えておいた方がいいよ。頭いい同士って絶対気が合わないから」

「そんな事ないですってー!」

「嫌」

「ほらね」

「つ、次!」

 

「二乃は人付き合いが上手で、たくさんお友達がいるんです!上杉さんもすぐ仲良くなれますよ!」

そっか。じゃあこちらも親しげなオーラで行こうじゃないの。

「部屋にもいないってどういうこと!?」

オーラ出した意味。

「大丈夫です!まだ一花が残ってます!」

 

「一花は……………驚かないでくださいね…」

「何、その間……うわっ」

きったねえ。

モノが散らばって足の踏み場もないじゃん。

「ここに人が住んでるの?」

「ふぁ〜、人の部屋を未開の地扱いしてほしくないなぁ。おはよ」

「もう!この間片付けたばかりなのに」

 

こいつさっきまで寝てたのか。あんな短時間でよくもまぁ寝れるね。

「いいから、取り敢えず居間に戻るよ」

「あー、ダメダメ。服着てないから照れる」

「なんで脱いだ!」

「ほら、私って寝る時、基本裸じゃん?いくら女子とはいえ、会ったばかりだし、ねぇ」

「分かったから、じゃあもう着替えてよ」

「あれー?脱いだ服どこだー?」

「………」

 

長女だからこその余裕?お姉ちゃんってもっとこう、ちゃんとしなきゃってイメージだったけど。人数多いとこんなになるのか。

うーん、うちは二人で助かった。ズボラにはなりたくない。

 

「うわっ、一花……こんなの持ってるの?お、大人……」

黒のネグリジェ。私からすれば下着に金使ってどうするのって感じだけど。絶対高いでしょ、それ。

「なんならフー子ちゃんも着けてみる?案外似合うかもしれないよ」

「別に良いよ、シュミじゃないし。それに私には似合わないって」

「そんな事ないと思うけどなぁ。あ、でもサイズ合わないか」

「…………早く着替える!」

 

なんだっつーの、もう。どーせ私は安物で済ませてるっての。お子様パンツ?良いじゃん物を大切に使っててさ。ふん。

「あれ?三玖?どうしたの」

「フー子、聞きたいことがあるんだけど。私の体操服が無くなったの。赤のジャージ」

「そう、見てないけど」

「ありそうなとこは一通り調べた。残るは……」

「………えっ。一花の部屋、だけ?」

嘘でしょ?この汚部屋の中から探してたら日が暮れちゃうよ。

 

「前の高校のジャージでいいんじゃない?」

「あんな学校の体操服なんてもう捨てた」

「もったいな!転校前の学校になんの恨みがあるの……」

「…………」

「え?」

 

空気が凍った。

触れてはいけないモノに触った感覚。禁忌の話。パンドラの箱。

「……知らない方がいい。少なくともフー子は」

「別に興味ないし」

「おーい、そこで何やってんの?クッキー作りすぎちゃった、食べる?」

「あ、あのジャージ」

お前かよ!

 

「よし、これで四人!五月はいないけど、始めちゃおうか。まずは」

「「「「いただきまーす」」」」

「違う」

「おいし〜、これ何味?」

「違う」

勉強しなきゃいけないのに……。実力を測る小テストを実施した後に間違った箇所を教えるという完璧なプランが……。

これじゃただの女子会だ。

 

「上杉さんご心配なく!私はもう始めてます!」

「うん、名前しか書けてないけどその意気」

「食べたら眠くなってきちゃった」

「さっきまで寝てたでしょ。三玖!体操服も見つかったんだからやってよ」

「勉強するなんて言ってない」

「ね、せっかくだから遊びに行こうよ」

「絶対ダメ!」

何がせっかくだから、だ。

こいつらどうしようもない……

 

「クッキー嫌い?」

「いや、そういうわけじゃ…」

「別に薬なんて盛ってないから。食べてくれたら勉強してもいいよ」

こいつ何を企んでやがる。

いや、さっき私の介抱をしてくれたから別に根は悪い子じゃないんだろうけど。何か企んだ目をしてる……気がする。

いや、ここは私の誠意を見せよう。きっと分かってくれるはず……

 

「うわっモリモリ減ってる!そんなにおいしい?」

「あはは、うん、美味しいな……」

「ホント?嬉しい〜。あ、そだ。パパとどんな約束したの?」

「モゴ……」

「君ってこんなことするキャラじゃないっしょ?ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよねー」

 

こいつらからしたら当然の反応だけど。でもこっちにだって都合がある。五人を卒業させるしか、私には道がないんだから!

「なんてね♫はい、お水」

「う、うん。さんきゅーね」

クッキーの後だと、喉に沁みるなぁ…

 

「あんまり強引な手段は使いたくなかったんだけど、ごめんね?君が嫌いなんじゃなくて君の役割がダメなの」

「え?」

「家庭教師じゃなくて友達だったらなったげるよ。ばいばーい♡」

 

「んあ?」

「お客さん、着きましたよ」

「………えっ」

「ここ。お客さんの家ですよね」

「あ、はい……なんで?」

「お乗りになる前からぐっすり眠られていましたよ」

あの時の水か……そこまでするか?普通。

 

「では、運賃4800円になります」

「!?」

「カードで」

「!?……い、五月!」

同じ高校生でクレジットカード持ってる人いたんだ…。

 

「なんで?」

「あなたを送ったついでに買い物です。住所は生徒手帳を見せていただきましたよ」

「……写真見た?」

「そんなのどうでもいいでしょ……ですが、一泡吹かされましたね。これに懲りたら、私達の家庭教師は諦めることです」

「悪いけど。それはできないよ」

「何故そうまでして……」

「お姉ちゃん!」

「!らいは!」

 

やっば。初めての仕事が失敗したなんて言えない。不安にさせたくないし……。

「帰るよ、らいは!あの人はなんでもない人だから!」

「嘘!あの人が生徒さんでしょ!よかったらウチでご飯食べていきませんか?」

「えっ」

「だってあんたそれはほら……ね?このお姉さん忙しいらしいから!」

 

 

 

「嫌……ですか………?」

 

 

 

食べに来たし。断れよ。でもらいはのお願いを断れない気持ちは分かる。でも帰れよ。

ああ、もう。あの家の後じゃボロ屋敷に見えてくるよ、もう。もう!

「まさか風子が友達を連れてくる日が来るとはな!ガハハハ」

お父さんはデリカシーないし。

「お?この牛乳消費期限が一週間前じゃねーか。危うく飲めなくなるところだったぜ」

「お父さんってば!」

 

顔から火が出てる気がする。五月の方をまともに見れない。五月と同じ髪の色になってるんじゃなかろーか。やめろ。同情の眼で見るのはやめろ。

「いやー、予定より早かったからお夕飯の支度間に合わなかったよ。家庭教師、ちゃんとやってきた?」

「「!」」

「……その件についてですが」

「もちろん!もちろんやって来たよ!」

「何を…」

「いいから!らいはが悲しむ!」

 

「そっかー、安心したよ。これで借金問題も解決だね!」

「えっ……」

「らいは!こら!お客さんの前だよ」

「あっ、ゴメン…はい!上杉家特製カレーと卵焼きでーす!お口にあうといいんだけど」

 

五月の顔が、しんみりとした物に変わった。

昔を思い出しているような、懐かしんでいるような、憐れんでいるような。そんな顔。

別に、そんな顔にしたいわけじゃないのに。ほんと、人付き合いって面倒くさい……

 

「今日はご馳走様でした」

「五月さん!」

「?」

「お姉ちゃんは見た目は良いけど、中身はクズで、自己中な最低の人間だけど……」

「えぇ……」

「良いところもいっぱいあるんだ!だから、その……また食べに来てくれる……?」

 

「もちろん」

五月は今まで見た中で最高の笑顔で答えた。

「頭を使うのお腹が空きますから!またご馳走してください」

 

なんだよ。こんな顔できたんじゃん。心配して損した。いや、心配してないけど。

「勘違いしないでください。事情は知りましたが協力はできません」

「あっそ。私の家なら、別にあんたが気にする事じゃないよ」

「勉強はしますが教えは乞いません。あなたの手を借りずとも……!」

「!!そうか、それだ!」

「え?」

「サンキュー五月!マジで最高ーっ!」

「うひゃあ!?ちょっと、抱きつくのはやめてくださ……聞いているんですか!?あなたは本当に、もう!」

なんだ。全員を合格させればいい、それだけの話だったんだ!

 

五月のおかげで名案を思いついた。昨日の悪虐非道な行いは一旦忘れる事にして、マンションへと赴く。

 

「何しに来たのー?家庭教師はいらないって言わなかったっけ?」

「だったらそれを証明して。はいこれ、昨日できなかったテスト。合格ラインを超えた人には金輪際近づかないと約束するよ」

「!」

「その時は勝手に卒業していって。50点あればそれでいいよ」

 

そう。馬鹿正直に五人全員を相手にせず、赤点候補の子にだけ教えればいいんだ!これなら一人二人は減ってくれるし、0点の四葉がいるから誰も教えられないなんて事もない!

「分かりました。受けましょう。合格すればいいんですから」

 

五人とも、真面目に取り組んでくれている。

「採点終わったよ!凄い100点だ!」

真面目に、そう、当人達はいたって真面目なんだ。

 

「全員合わせてね!!」

 

真面目にやってこれかよ……これって……

 

「逃げろー!」

「えっ。ま、待って!待ちなさい!」

何故、四葉まで逃げる!その場の勢いに流されやがって!

 

「あはは!なんか前の学校思い出すね」

「厳しいとこだったもんねー」

「思い出したくもない」

「おかしい……勉強したはずなのに……」

「あいつ知ってんのかな?私たちが落第しかけて転校してきたって」

「この子ら……」

 

「五人揃って赤点候補なの!?」




『いつき』と入力しても『五月』にならないので『ごがつ』で入力しています。 風子ちゃんはお父さんに対して若干反抗期気味だったり。今後のストーリーですが、原作自体が完結してないのであんまり変えずにいこうと思います。良く言えば臨機応変に、悪く言えばその場のノリ。
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